女子だけあべこべ幻想郷   作:アシスト

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咲夜さんがヒロインでいいんじゃないの?と思い始めてきた今日この頃。

真面目に書いたのでコメディ要素少なめです。


純愛

 

 

 

「ここが真一様のお部屋となります。ご自由にお使いください」

 

真一が案内されたのは、先ほど寝かされていた客室よりも一回り大きい客室だった。

 

紅魔館の館内は咲夜が空間を操っていることもあり、外見以上の広さを誇る。広ければ当然、客室もかなりの数存在することになるし、客室ごとにグレードも違ってくる。

 

咲夜が案内した客室はその最上級に当たる場所。1人では絶対に持て余してしまうであろう程の広さがある。

 

そんな客室を見た真一は目を丸くして“すげぇ”と一言。彼の住んでいたアパートの一室の数倍の広さを誇るのだから、小学生並みの感想しか出てこなかった。

 

最初に彼の目を引いたのは、枕が2つ用意してあるベッドだった。

 

 

「……なんでダブルベッド?」

 

「真一様は大切なお客様です。より快適にご就寝頂くために、大きめの物をご用意させていただきました」

 

「(俺、布団派なんだけどなぁ……)」

 

 

そう思った真一だったが、わざわざ用意してもらって文句を言うのは筋違いだと考えを改め、口には出さず心に留めた。

 

真っ赤な内装とダブルベッドの存在感が相まり、真一にはこの客室が大人のホテルの一室に見え始めてきた。それもそのはずであり、この客室は“そういった行為”を想定して紅魔館の主が自らセッティングした部屋である。

 

妖怪の寿命は長い。何百年も生きていればいつかきっと、自分にも伴侶ができる。そう信じてこの部屋を作ったのが何百年も昔の話。長い時が流れた今、宝の持ち腐れ状態になっていたこの部屋を、咲夜は客室として利用しているのだ。理由はともあれ、快適には違いない。

 

 

「……あ、あの。もし、よろしければ……少しお話しを聞かせてもらえませんか……?」

 

 

部屋の中に入り、タンスの中などをいろいろ物色する真一に、咲夜は口を開く。

 

 

「おはなし?」

 

「えーっと……そ、そうです! 私、真一様がとても大切にしてらっしゃる“げえむ”について少し気になっていまして……」

 

「ゲームを知らないのか? まぁ、忘れ去られたゲームってそうないか……」

 

「守矢の巫女から“ろくよん”というげえむのお話を聞いたことがあるのですが、詳しい事は知らないもので……」

 

「64幻想入りしてるのか!? めっちゃやりたい!」

 

 

世代的に言えば、64は彼が小学生低学年のころよく遊んでいたゲーム機。蘇る記憶と共に真一のテンションは上がる。

 

 

 

そこから彼は、自分の持つ全てのゲーム知識を咲夜にぶつけた。

 

大学生とは思えない、まるで子供のような無邪気な顔で真一は語る。それだけで、咲夜は彼がどれだけゲームが好きなのかが理解できた。思い付きでゲームの話を振った彼女であったが、それが見事に功を奏した。瀟洒は伊達ではないのだ。

 

本来、咲夜は真一と話している時間などない。彼女は紅魔館のメイド長。サボり癖のある妖精メイドの事も考えると、彼女の一日の仕事量は計り知れないものだった。

 

しかし、今日は少し事情が違う。妖精メイドたちの間で“紅魔館に男、しかもイケメンが来た”という噂が広がったのだ。そんなイケメンに少しでも良いところを見せようと、彼女たちは今懸命に仕事をしている。その結果、少しではあるものの、咲夜は真一と話す時間を取ることができたのだ。

 

 

咲夜は真一と話しているとき、鼓動が激しくなる。しかし、それは決して痛く苦しいものではない。それはとても心地の良い感覚であり、ずっと彼と話していたいと思えるほどのものだった。

 

 

早い話、咲夜は真一に恋心を抱いているのだ。

 

 

咲夜はふと、パチュリーから借りた恋愛小説の内容を思い出す。放課後の教室、とある男子生徒が片思いの女子生徒と話をしており、男子生徒が『このまま時間が止まってしまえばいいのに……』と思う場面だ。

 

好きな人とずっと一緒にいたいと思う気持ちは、今の咲夜には痛いほどわかる。だが、実際に時間を止められる彼女は『時を止めたい』とは思わなかった。

 

 

「(時を止めたら彼とお話をすることはできない。彼と心を通わることができない。そこにいるだけじゃ、意味がないの)」

 

 

『時間を操る程度の能力』を持っているからこそ、彼女は時間の大切さを誰よりもよく知っている。

 

彼女は死ぬ人間だ。だからこそ少しでも長く、好きな人と同じ時間を過ごしていたいのだ。

 

咲夜は今ある幸せを噛みしめながら、真一の話に耳を傾けるのであった。

 

 

 

・   ・    ・

 

 

 

時間は有限である。咲夜にとって幸せなひと時も終わりを迎えようとしていた。

 

今日以上に、彼女は仕事を投げ出したいと思った日はないだろう。しかし、メイド長としてそれは許されないのだ。

 

名残惜しいが、楽しげのゲームのついて話す真一に彼女は口を開く。

 

 

「お話、ありがとうございます。とても有意義な時間を過ごすことができました」

 

「え、もういいのか? あと3日は余裕で語れるけど」

 

「是非ともお聞きしたいのですが……メイド長としての仕事があるので」

 

「あー……そっか。そりゃ仕方ないな」

 

 

 

*―――――――――――――――*

 

 

 

ついつい熱弁してしまった。こういう話を真剣に聞いてくれる人ってあんまりいないから、つい嬉しくて話し過ぎてしまった。

 

しかし、仕事があるのなら仕方ない。もっと話したいのは山々だが、咲夜さんに迷惑をかけるわけにもいかん。メイド長ってやっぱ忙しいんだな。

 

 

「本当に申し訳ございません……」

 

「そんなに謝らなくていいって。俺も久しぶりにゲーム以外でも楽しめたし。ありがとう咲夜さん」

 

「メイド長として、当然のことをしたまでです(うわあああああああまたお礼言われちゃったああああああ)」

 

 

咲夜さんってスゲークールビューティーだよな。キリッとしてる。流石はメイド長だ。見た目はギリギリ高校生ぐらいだけど、中身は俺以上に大人びてるんじゃないか?

 

しかしあれだ。咲夜さんがいなくなると、ヒマになるな。部屋にかかってる時計が正しいなら、今は午後3時、おやつの時間だ。

 

ここの主である吸血鬼さんは、日光に弱いという弱点ゆえ昼夜逆転の生活を送っているらしいから、挨拶にはまだいけないし……かといって咲夜さんの仕事の邪魔をするわけにもいかんし……。

 

 

「咲夜さん。紅魔館にヒマをつぶせるような場所ってないかな?」

 

 

ダメもとで聞いてみることにする。これだけ大きい屋敷ならゲーム場の一つや二つ……あ、ゲームはないって言ってたっけ。とにかく、この館、結構広そうだし何か面白そうな場所があってもおかしくないハズだ。

 

 

「それでしたら、大図書館なんてどうでしょう? 真一様に合う御本があるかもしれません。よろしければご案内させてください。それぐらいの時間ならありますので」

 

 

咲夜さんの口から出てきたのは、予想だにしていなかった図書館というワード。図書館があるって……いや広そうとは言ったけど図書館って。どれだけ広いんだこの館。

 

普段本なんて読まない俺にあう本なんて攻略本ぐらいしかないと思うが、ここは幻想郷。俺の住む世界じゃない。どんな本が置いてあるのか普通に気になる。

 

 

「それじゃあ、お願いしてもいいかな?」

 

「もちろんです。こちらへどうぞ」

 

 

そうして俺は再び咲夜さんに案内され、大図書館へ向かうために地下へと潜っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

「(よかった……真一様ともっと一緒にいられて………)」

 

「(やっぱキリッとしてるよなー咲夜さん。ポーカーフェイスってやつか。かっけぇ)」

 


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