女子だけあべこべ幻想郷   作:アシスト

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第4章 神聖なる宗教戦争
2度目の人里


 

 

※※

 

 

『人間はその身体の構造上、自力では空を飛ぶことのできない生物なんだ。確かに、肉体を文字通り改造すれば、空を飛ぶことは理論上可能だよ。でも、それは人体実験という禁忌にほかならない』

 

『だから昔の人々は、別の方向で空を飛ぶ方法を模索し、技術を開拓したんだ。その成果が、現代の飛行機やパラグライダー等の機具になる』

 

『翼をもたない人間が、モノを頼らず空を自由に飛ぶ方法は、超能力や気と言った力が科学的に解明されない限り存在しないのさ。まぁ、そんな力が本当に実在するかすら、定かではないんだけどね』

 

『……でも、小さい女の子が空を舞ったら、天使や妖精の如く妖艶で美しいんだろうなぁ。何時の日か解明してみたいよ』

 

 

 

※※

 

 

 

 

「飛べる人間? いるわよ。巫女とかメイドとか女子高生とか」

 

「そのラインナップはおかしい」

 

 

 

バイクはあるのに車や電車が存在しない幻想郷。道がなければ飛べばいいじゃないと言わんばかりに、彼女たちは当たり前のように空を飛ぶ。寅丸さんと女苑さんも例外ではなかった。

 

彼女たちが空を飛べることは別に良い。問題はオレが飛べないことだ。

 

 

「え、幻想郷には飛べる人間がいるの?」と言った矢先に冒頭の台詞よ。幻想郷の女の子はみんな魔法使いなの?幻想郷では曲がり角じゃなくて空中で食パン咥えた女子高生とぶつかるのが王道なの?

 

 

「ごめんな寅丸さん。重くないかオレ?」

 

「いっいいいえ!とても軽いですよ!」

 

 

そんなわけで、寅丸さんにおぶってもらってます。人里までの道のりはそれなりに距離があるらしく、歩きでも行けないことはないが時間がかかるようだ。

 

……まぁ、しかし。最初は抵抗を感じたものの、女の人におんぶしてもらうのは恥ずかしくも少し安心する。母性というやつだろうか。

 

 

「美醜概念が逆転してる以外、本当にノーマルの人間なのねーアンタ。今時空を飛べないやつなんてそういないわよ。亀だって飛べるわ」

 

「亀て。幻想郷の生態系どうなってるんだ……オレも飛べるようにならないかな?何か方法ない?」

 

「手っ取り早いのは死ぬことね。霊体ならどこへでも飛んで行けるわ」

 

「……別の方法を求む」

 

「じゃあ妖怪化ね。あ、でも巫女にバレたら真っ二つに引き裂かれるんだったっけ」

 

 

……人間、そう簡単には空を飛べないらしい。

 

 

 

 

*―――*

 

 

 

 

真一の目の前に広がるのは、数日ぶりに見る和服の人たちで賑わう光景。茶屋、八百屋、寺子屋など、昔ながらの木造平屋が立ち並んでいる。

 

「何時来ても貧相ねー。お姉ちゃんにぴったりの場所だわー」

 

「はぁ……はぁ……ふぅ……」

 

「寅丸さん。やっぱオレ、重かった?息切れすごいけど……」

 

「こ、これは疲れたからとかじゃなくて!すごく緊張していたと言うか、その……うう……何で真一は何ともないんですかぁ……」

 

 

顔を赤らめながら呟く星に、思わずドキッとした真一だった。

 

3人がいるのは人里の入り口付近。ここから3人は別行動を取ることになる。

 

星は毘沙門天として、そして命蓮寺の一員としての信仰集め。真一は居候の身として信仰集めの手伝い。女苑は姉である貧乏神との待合せ。

 

 

「私の待合せ場所ここだから。アンタたちは早くどっか行っちゃいなさいな」

 

「女苑さん、なんか冷たい」

 

「いやいや、疫病神()貧乏神(お姉ちゃん)が一緒にいたら信仰なんて集まらないでしょ」

 

「確かにそうかもしれないけど……」

 

 

そう言った真一を余所に、女苑はニヤニヤしながら星に小声で囁く。

 

 

「星も早く二人きりになりたいでしょ?ん?ん??」

 

「ちょ、何を言ってるんですか女苑さん!?」

 

「いや、アンタがそう言ってたじゃない」

 

「聴こえてたんですかあれ!?は、恥ずかしい……!」

 

「ほら!お姉ちゃんが来るとどんな不幸が待ってるかわからないわよ!真一、盗られちゃうかもよー」

 

「ううう……!」

 

 

星は気づき始めていた。自身の、真一への想いに。

 

彼の傍に居るときの安心感。彼と密着しているときの緊張感。彼と話しているときの安心感。

 

少し前まで男嫌いだった自分が、急に男に好意を持つとは思えない。星は最初そう考えた。

 

では、この気持ちの正体は何か?その答えが見つかることはない。何故なら、その気持ちは好意以外の何物でもなかったからである。

 

彼女は漸く、それに気づいた。だからこそ、女苑の言葉は星に強く響いた。

 

星は、真一と一緒に居たいのだ。二人だけの時間を、他の誰かに奪われたくないのだ。

 

そして彼女は決心し、勇気を振り絞り、真一の手を握る。

 

 

「……女苑さん、ありがとうございます! 真一! 行きましょう!」

 

「え、ちょ、寅丸さん」

 

 

ペコリと女苑に一礼し、星は真一を引っ張る。

 

いきなり引っ張られた真一は困惑しながらも、躓かないように星に着いていく。

 

 

その瞬間である。

 

 

「……っ?!」

 

 

星に手を引っ張られる真一の脳裏に、ある言葉が浮かんだ。

 

それは、彼が幻想郷に来て以来、幾度となく経験したが故の直感。突然の展開の予感であった。

 

 

 

―――上から来るぞ!気を付けろぉ!

 

 

 

「寅丸さん危ない!」

 

 

 

真一は引っ張られた手を逆に思いっきり引っ張る。

 

彼の思いがけない行動に流されるように、星は引っ張られる。勢い余って真一に抱き付くような体勢になってしまったが、恥ずかしがってる暇はなかった。

 

 

ドスゥーーーン!

 

 

 

突然の轟音。その正体は、空から巨大な要石が墜落してきた音。その落下地点は、真一が引き止めなければ星が進もうとした位置であった。

 

 

「ふっふっふ。どーよこの豪快奔放な到着! 下界の者には出来ない芸当でしょ!」

 

「すごい……! ほんとに着いたわ、私も一緒にいるのに!」

 

「天人にできないことなんてないのよ!」

 

 

要石の上に乗る2つの蒼色の影。

 

非想非非想天の天人と、最凶最悪の貧乏神の姿が、そこにあった。

 

 


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