女子だけあべこべ幻想郷   作:アシスト

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頭がおかしい人

 

 

 

夕方より少し前、永琳が優曇華院を使った実験を丁度終えた頃、蓬莱の人の形『藤原妹紅』が1人の患者を連れて永遠亭にやってきた。

 

患者は人里に住む小太りの男性、推定50歳前後。何でも畑仕事中にぎっくり腰になり、そのまま気を失って倒れたとの事。妹紅は友人に頼まれ、この男を永遠亭まで運んできたのだった。

 

月の頭脳と呼ばれる永琳にとって、ぎっくり腰を直すことなど赤子を泣かせることより簡単である。ちゃちゃっと薬を調合し、男の腰に塗りたくることで治療は終了した。

 

 

「こんばんわ。御邪魔しているわ八意永琳」

 

「あらこんばんわ。優曇華なら自室で死んだように寝てるわよ」

 

「うどんちゃん!うどんちゃーん!」

 

 

永遠亭にやってきた純狐と軽く挨拶を交わした永琳は、廊下を駆けていく純狐を見送りながら、一息入れるためにお茶を啜る。

 

 

「……大丈夫なのか鈴仙ちゃんは。その内ストレスでホントに死んじゃわない?」

 

 

そんな2人のやり取りを見ていた妹紅。永遠亭に住む姫様とは犬猿の仲の彼女だが、それ以外の住人とは比較的仲がいい。鈴仙とは以前の異変(東方深秘録)で関わったこともあり、少し心配した様子を見せる。

 

 

「平気よ、優曇華は私の弟子よ? そう簡単にくたばるほど軟な育て方はしてないわ」

 

「育て方って……薬付けの間違いだろう。(すこぶ)る健康に悪そうだ」

 

「既に健康に悪そうな顔立ちしてるじゃない」

 

「そりゃ全員だろ」

 

 

紅魔館同様、永遠亭もまたブサイクの巣窟である。しかし、顔面偏差値だけ見れば、永遠亭は紅魔館よりも圧倒的に下であろう。

 

その原因は、永遠亭に住む汚姫様が関係している。

 

 

「それで、貴女はこれからどうするの? うちの姫とじゃれあう気?」

 

「いや、このまま帰るわ。今日は輝夜と戦う覚悟はできてない」

 

 

 

『蓬莱山輝夜』

 

 

幻想郷でこの名前を知らない者はいない。

 

 

『永遠の汚姫様』

 

『ブサイクの権化』

 

『絶対に見てはいけないあの人』

 

『見たら死ぬ顔』

 

 

このように、さまざまな異名を持つ彼女。この異名からわかる通り、彼女は幻想郷に数多く存在する絶望的ブサイクの頂点に立つ存在である。

 

妹紅は幻想郷で初めて輝夜と対面した時、一度死んでいる。死因は窒息死。あまりの気持ち悪さに嘔吐が止まらず、そのままポックリ。妹紅にとってあれほど汚く屈辱的な死に方は今までなかっただろう。

 

生半可な覚悟で輝夜の前に立つことは自殺行為である。輝夜と喧嘩する前日は、一日中精神統一をしてから挑むのが彼女のやりかたであった。

 

 

「じゃあ私は帰る。近いうちに殺しに行くって輝夜に伝えておいて」

 

「はいはい」

 

 

そう言って妹紅は治療室から退出し、永遠亭を後にする。

 

もう夕方だし、今日の仕事はもう終わりかしらね。永琳はそう思った。

 

 

 

「おい!急患だ!診てやってくれ!」

 

「あら良い男。ブサイクが背負うとイケメンが際立つわね」

 

「ぶっ殺されたいか! 早く診ろ!」

 

 

 

夜。額に汗を流した状態で、妹紅が再び永遠亭にやってきた。今度は変わった服装をした若い男を背負って。

 

妹紅曰く、落とし穴の中で倒れていたらしい。呼びかけても返事一つしないため、永遠亭に連れてきたとのこと。

 

永琳が医者である以上、患者が来たのなら診なければならない。しかも患者は若い男。50歳のおじさんではなく、ピチピチの若い男。診察しないなんてもったいない事は絶対にしないのだ。

 

 

「ふむ、至って健康ね」

 

「本当か!?」

 

「嘘をついてどうするのよ」

 

 

しかし、彼の容体は至って健康だった。荒ぶる理性を抑えながら、身体の隅々まで診察した永琳であったが、彼の身体からはどこにも異常が見られなかった。

 

 

「うう………私は一体何を……」

 

 

彼の診察が終わると同時に、ぎっくり腰患者が目を覚ました。それに気づいた永琳は男に聞く。

 

 

 

「おはよう。いえ、こんばんはかしら。腰の調子はどう?」

 

「え?ってぎゃあああああああああああ!? 化け物ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 

「問題なさそうね」

 

 

白目をむき、泡を吹きながら再びベッドに倒れこむ患者を見て、永琳は問題なしとカルテに書き込む。何故なら、これがいつも通りだからだ。

 

汚姫様の影に隠れがちであるが、八意永琳の容姿の酷さもまた、幻想郷ではトップクラス。今の患者の反応は至って正常な反応であり、彼女も飽きるほど見てきた反応であった。

 

逆に悲鳴を上げず、平気な顔をして「はい。大丈夫です」なんて答える者がいたとしたら、それこそ病気だと永琳は思っている。

 

 

「…………ぅん…………何だ今の声……?」

 

 

そうこうしている内に、彼も目を覚ました。

 

 

「貴方も起きたのね。身体の具合はどうかしら?」

 

「え? あ、はい。特に悪いところはないかと……どこだここ。病院か?」

 

「頭がおかしいようね。お薬出しておくわ」

 

「オイ」

 

 

 

 

 

 

*―――――――――――――――――――――――――*

 

 

 

 

オレのヤバい友達、略してヤバ友に阪村という奴がいる。

 

彼は今まで紹介してきたヤバ友と違って、頭脳明晰、品行方正、容姿端麗の3拍子そろったイケメンである。天は二物を与えずなんて言葉は彼と出会ってから信じなくなったよオレは。

 

当然、阪村くんはモテモテである。バレンタインデーにトラック単位でチョコが彼の家に運ばれるほどにだ。

 

しかし、彼は何百人と言う女の子に告白されても、OKを出すことはなかった。その理由は一つ。阪村くんには好きな人がいたからだ。

 

 

ある日、阪村くんはオレにお願いをしてきた。

 

 

『真一。今からボク、好きな人に告白しようと思うんだ。でも、一人じゃ心細いからさ……近くまで一緒に来てくれないかな?』

 

 

オレはその願いを了承した。この時のオレは阪村くんがヤバい奴であることを知らなかったし、友人の告白となれば力を貸さずにはいられなかった。

 

そして阪村くんは告白した。

 

 

『ずっと前から好きでした!僕と付き合ってください!』

 

 

何のひねりもないシンプルな告白。しかし、この言葉を好きな人相手に言える男が世界に何人いるのだろうか。

 

阪村くんほどのイケメンから告白されて断らない女の子はいない。しかし、相手の女の子はこう言った。

 

 

『つきあうってなあに?おにいちゃん』

 

 

告白相手を見た瞬間、オレはケータイを取り出し、1を二回と0を一回押した。

 

阪村くんが好きな女の子とは、15歳以上も年の離れた阪村くん自身の妹だったのだ。

 

 

 

長々と語ってきたが、何が言いたいのかと言うのだ。

 

 

「頭のおかしい人って言うのは、阪村くんみたいに幼稚園児の妹に欲情するようなシスロリコン野郎のことを言うのであって、オレの頭は正常です」 

 

「お薬、2人分出しておくわね」

 

 

オレの分はいらない。


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