最深部へと到達した荒士と奈々。そこにいたのは捕らえられた幽紀と涼子だった。速やかに2人を救出し、一際目立つ大きな培養カプセルを除いた。すると突如アラームと共に培養カプセルから巨大な塊が出てきた。
するとその塊は突如姿を変え、荒士たちを襲う。
かなりの苦戦を強いられ、荒士は気を失ってしまう。
それでも全員の力を合わせ、なんと倒すことに成功した。
だが、本当の絶望はこれからだったのだ…。
形を変え始めた黒い塊。それは徐々に、腕、脚を形成し、その腕の先に長いブレード、その脚の先に鋭い棘が作られていく。その形はまるで蟹のようだった。
「嘘…」
奈々はその光景を見て絶望した。いくらここの3人が強くとも全員ある程度傷を負い、さらに肝心の男である荒士は気を失っていた。
涼子はナイフを構えて、前に出る。
「奈々、荒士君を連れて遠くへ行って」
それに続くように幽紀も前へと出る。
「荒士のこと、頼むわ…」
「⁉︎お姉ちゃん?幽紀さん?」
奈々は戸惑う。幽紀は歩き、大剣を持つ。
「っ!重たい…。」
それでも幽紀は必死に持ち、荒士の大剣の鞘に収めた。
「奈々、あなただからこそ頼めるの。私はどうしても荒士を死なせたくない。私にとって、唯一の血の繋がった家族なの…」
「幽紀さん…」
奈々は幽紀を見る。幽紀の目には涙が浮かんでいた。その目は恐怖の感情があることがわかった。
「荒士には伝えてて、今までありがとうって…」
そういい幽紀は前へと進んだ。涼子も奈々の方を向く。
「奈々、奈々はもう、1人じゃないから。強く生きなさいよ。」
「待ってよ…2人とも待ってよ!私も、私も戦う!戦える!だから…」
涼子は奈々の肩に手を置く。そして、首を横に振った。その後に答えた。
「どのみち今の私たちに勝ち目はないわ…幽紀も私も、そんなに余裕はないの…。だからせめてでも2人は生き延びて幸せになって…。ここで全員死ぬわけにはいかないから…。」
そういい涼子も前へと進んだ。
「お姉ちゃん…」
奈々は涙を流しつつも、荒士の肩を支え、その場を離れた。
蟹型のゲテモノはその辺でジタバタと暴れている。
「ちょっと!」
その声に蟹は振り向いた。
「あんたの相手は!」
「私たちよ!」
そういい2人はそれぞれ武器を構える。
「涼子、奈々にあんなこと言って何のつもり?」
「奈々には死んでほしくないの、それだけ。そういう幽紀だってそうじゃん?」
「あなたと似たようなものよ。」
「奇遇だね、あたしたちが意見合うなんて。」
「むしろ、初めてかしら?」
そういい涼子と幽紀は蟹へと立ち向かった。
蟹は上へと飛び跳ねて、接近し、腕についたブレードを振り下ろす。しかし、そんなものが当たるはずも無く、2人に華麗にかわされる。
「幽紀!そっち側に回って!」
「言われなくてもするわよ!」
そういい2人は二手に分かれる。蟹が狙いを定めたのは…
「ひゃっ!」
幽紀だった。か弱い声をあげた割にはスタイリッシュな身のこなしで回避する。
すると蟹はその場でびょんびょんと跳ね出した。
2人の想像以上に蟹の動きは素早い。
「っ!」
なんとかかわすがあの爪に当たれば間違いなく真っ二つだろう。もちろん踏み潰されてもひとたまりもない。
「荒士…」
(こんな時、あなたがいてくれれば…)
幽紀はそんなことを思いながら後ろへと下がる。
「荒士さん!荒士さん!」
少し離れた場所で奈々は荒士の体を揺さぶる。しかし、荒士の意識は一方に覚めない。
「荒士さん!幽紀さんが、幽紀さんが大変なんです!お願い、目を覚ましてください!」
奈々は普段こんなに声を出すことはない。無駄に声を出す必要なんかない。そう考えていた。しかし、彼と出会って何かが変わった。人とのコミュニケーションの楽しさ、それを理解したのだ。
それを教えてくれた荒士のことが好き、大好き。だからこそ荒士を助けたかった。
「何か、何か手段は…」
すると奈々はあることを思い出した。
『感情性心身暴走症』。荒士がかかってる病の名前だ。
「荒士さん…」
奈々さ一つの可能性にかけることにした。
顔を近づける。いつ見ても整った顔立ちだ。奈々の顔が徐々に赤くなっていく。
「め、目を…覚まして…」
そのまま奈々は荒士の唇に、自分の唇を重ねる。
「ん…ちゅっ…」
そのまま自分の舌を荒士の舌に絡めた。
「荒士…ちゅっ…さん…れろ…」
なんだろう…この感覚は…
どこか暖かいような感覚…
あれ?…俺は何をしてたんだろう…
ここはどこで、何をしてたんだろう。
あたりを見ても闇しかない…
俺は…誰だ…?
何もかもが失われていくのか…
「思い出しなさい….荒士…」
誰だ?…この声は…?
「大丈夫よ、何も恐ることはないわ。
さあ、今こそ全てを思い出し、目をさましなさい。」
…そうか…その声は…
っ⁉︎なんだ…体が…熱い…
ドクン…ドクンドクン…
体全身で鼓動を感じる…
そうか、俺は「東雲荒士」。ここはとある研究所….そして、俺の使命は…
「荒士さん…荒士さん…」
「この声は…」
ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン….
「んん…」
「っ!」
奈々は慌てて口を離した。2人の口の間に透明な橋がかかる。
「荒士さん….。」
「…いてて…」
荒士はその場で立ち上がった。そして、あたりを見渡す。すると蟹のような怪物と幽紀と涼子が戦っていた。
「奈々…君が助けてくれたのか…?」
「え?」
「目がさめる前に君の声が聞こえたんだ。」
そういい荒士は奈々にキスをした。
「ありがとう奈々、行こうか…幽紀達を助けなきゃ!」
「…はい!」
「ああっ!」
ブレードの峰の部分で涼子が殴られる。
「涼子!」
そのまま後方へと飛ばされる。すると蟹はまたしても幽紀へと狙いを変えた。
「っ!」
幽紀は上へと飛び上がり、ショットガンで上の部分のコアらしきものを狙う。
「きっとそこが弱点ね…」
そういい急降下して、銃剣を突き刺そうとする。が、しかし、蟹の上の部分にある指のようなものが幽紀を挟んだ。
バシンッ!
「ガハッ!」
そして、そのまま奥へと飛ばされる。
「げほっ…げほっ…。」
倒れこみ、吐血する。少し先にはショットガン、手を伸ばす。
「まだ…戦える…。」
だが、蟹は跳ねてこっちへ徐々に接近する。
「っ…もう少し…。」
そしてショットガンを手に取り、構えようとしたところだった。
「っ⁉︎」
蟹はブレードを上に挙げ、今振り下ろそうとしていた。幽紀は恐怖で足がすくむ。
「っ!」
幽紀が覚悟を決めたそのときだった。
カーン!
襲いかかろうとしたブレードが弾かれる。幽紀は恐る恐る目を開けた。するとそこにいたのは…
「荒士…?」
「間に合ってよかった…。それに、さっきの二の舞にもならなかったよ。」
幽紀の目には映っていた。今の荒士は違う、今まで病の補助を受けて戦ってきた。今もその症状を応用して戦闘能力を上げてる。しかし、今の荒士からはオーラが出ていた。いつもよりも、より強く、逞しく。荒士の背中がそのように見えた。
「俺が終わらせる!これ以上、誰も傷つけさせない!」
そして、荒士の目の色が黒から金色へと変化する。そして、物凄い速度で蟹のアームについたブレードを砕いた。
「速いっ!」
遠くにいた涼子もようやく立ち上がる。
「荒士君…?」
その速さに涼子も驚愕した。自分なんかよりも遥かに速い。身体能力には自信があるが、どんなに調子が良くともあれには敵うはずがない。そう確信した。
「はあぁぁぁ!」
荒士の猛攻は止まない。ブレードを砕いた後に、右足のツメを割り、そのまま関節を裁断した。すると蟹はその場でバランスを崩した。
反対側のアームについたブレードを突き刺そうとする。しかし、簡単にかわされ、アームごと切断される。そして、反対側の足に大剣を投げつけた。すると見事に突き刺さり、蟹の四肢を奪った。
「奈々ちゃん!」
荒士が叫ぶ。
「はい!」
すると奈々が荒士の元へと駆け寄る。その奈々の速度も普段のものとは思えなかった。そしてその奈々にも同じオーラが見られる。
そう、まるで2人は心の底からリンクしているようだった。
「あの2人…。」
幽紀も涼子もその場で驚愕していた。
奈々は上へと飛び上がる。荒士もそれに合わせて飛び上がり、天井に足を向ける。そして自分の足に奈々の足を乗せて、蹴った。すると奈々は高く跳ぶ。
「これで、終わりです!」
そしてアサルトライフルを構え、全弾をコアに叩き込み、トドメにグレネードを放った。
すると爆発とともに蟹は黒い塊と化し、姿をくらました。
そして荒士も高く跳び、奈々を受け止めて、そのまま下へと落ちた。
「ふぎゃっ!」
少し痛かったらしい。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ、問題ない。」
そういい2人で起き上がる。2人の側に涼子と幽紀が寄ってきた。
「荒士、あなた、なんだか逞しくなったわね。」
「そうか?でも、いつもよりも力が湧いたんだ。大切な人を守りたい、そう思うとより一層…」
荒士は自分の手を握り、その感覚を噛み締めた。
「それはきっと、あなたの感情に病が答えたのかしら?」
「かもしれない。この体でよかったと思うよ。」
一方天崎姉妹は、
「凄いよ奈々!どうしたのあの身体能力!」
「え?ええと…あ、荒士さんから授かったというか…その…」
すると涼子は何かを察した。
「そうか…あたしたちが死にかけてる中奈々はせめて種を残そうと全力を…」
すると奈々は顔を真っ赤にして否定する。
「ち、ちが、違うってばあ!」
「じょーだんじょーだん!」
すると涼子は奈々の耳元で囁やく。
「キスはした?」
「それは……///うん……///」
奈々は俯向き、顔を赤らめた。
「ん?」
荒士は床に穴が空いてることに気がつく。
「やつはそこから逃げたのか…。」
そういい荒士は下を覗く。すると、下にも何かフロアがあった。
「みんな!このしたに何かある!」
そういい全員集合する。そして、全員で顔を合わせる。
「行ってみようか。」
荒士が出したその言葉に全員異議はなさそうだ。
「よし、行こう。」
そういい荒士を筆頭に全員下へと飛び降りた。
今回も読んでいただきありがとうございます。光陽です。
今回は蟹さんとの戦いです。蟹さん強かったです。個人的にはマッチョさんの方が苦戦を強いられました。
前回の投稿後、白い変なのの名前を教えてくださった方がいました。ありがとうございます。
とはいえ「ヒト」さんというのも呼びにくいので、今後はマッチョさんで呼んで行くとおもいます。
それでは今回はこの辺で失礼させていただきます!
次回もお楽しみに〜!