とあるひねくれ者は悲嘆に暮れる。   作:ねむたい人

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ランク入りヤッター!


ひねくれ者は行事に参加する。

 ―――周囲から溢れる熱気、迸る勝利への活力、やる気に満ち溢れた眼光……。

 そう。今日は、今日こそは。多くの者が待ち望み、渇望した―――

 

 

「体育祭だぁああああっっ!!」

「絶対優勝するぞゴラァ!!」

「生徒会長の手を煩わせるなよぉ、お前ら!!」

「会長のカッコイイ姿、期待してます!!」

 

 

 ―――あ、その暑苦しい集団(多くの者)の中に私は入れないでくれ。

 

 

 

 

 

 

 △▽△▽

 

 

 

 

 

 

 学校の行事ってとても怠いよな、周りも暑苦しくなるし。

 

 

 どうも、体育祭が始まって若干どころかめちゃくちゃ冷めてる影宮桂馬だ。

 何故かウチのクラスが私の熱狂的な信者となっているので、勝利を捧げるだの何だの煩い。というか怖い。優等生モードの私が態々、「お前達が傷付く所は見たくない。全力を出すのは良いが、怪我をしないようにしてくれ」と綺麗事を吐いてやったのに、何だか全力で傷だらけで帰ってきそうな雰囲気だ。何で更に盛り上がってるんだよ。阿呆か。

 

「皆、頑張ろうな」

 

「「「応っっ!!!!」」」

 

 しかし、優等生の私は仕方ないので空気を読んでおく。心は吹雪のように冷めきっているが、全員やる気が入っているし、空気が読めない奴のように思われたくないからな。そう言えば、前世の頃から学校の行事は面倒で好まなかったなぁ。そういう性分なので仕方ないが。

 

「あっ、影宮君!」

 

 次のプログラムまでベンチに座って待っていると、声変わりをしていない少年の声が、何処からか聞こえた。……この声は。

 

「沢田綱吉。久しぶりだな」

「うんっ、クラスも全然違うしね」

 

 振り返れば、特徴的なツンツン頭の少年、沢田綱吉が、A組のゼッケンを付けて此方に駆け寄ってきていた。此処の体育祭は縦割りなのである。因みに私はC組。クラスは離れているし、最近は合同授業が無かったので、沢田綱吉とは久しぶりの会話だ。

 ああ、疫病神が来やがった……。まぁ、雲雀恭弥とは違い大人しい所だけは、認めてやっても良い。仕方ないから構ってやろう。

 

「元気だったか?……いや、若干顔色が悪いな。今日の体育祭、大丈夫なのか?」

「エッ、うん、まぁ……(何で久しぶりに会った影宮君が気付くんだよ!!)」

 

 何故か微妙な返事が返ってきた。いや、心配してやったのにその反応は何なんだ。

 

「……まぁ、あまり無理はするなよ。最近の君の勇姿は此方まで伝わって来るが、少し心配だ」

「……っ!!」

「!?何故泣く!?」

「か、かげみやぐんやさじい……!!」

 

 いきなり泣き出した沢田綱吉にギョッとする。情緒不安定かよお前!!

 生徒会長が一般生徒を泣かしてるー、みたいに言われるのは嫌なので、ベンチに座らせて慰めるように背中を優しく叩く。これなら、"泣いている生徒を慰めている生徒会長"になるだろう。

 

「グスッ、最近、期待が重すぎて、ほんと、影宮君みたいな身近な人、貴重で……!!」

「あ、ああ。そう言えば、棒倒しの総大将をやるんだってな」

 

 ボクシング部の主将が騒いでいて煩かったので、良く覚えている。

 それにしても、平凡でヘタレな奴が、いきなり総大将か……それは潰れるな。精神的にも、肉体的にも。

 因みに、私も棒倒しの総大将に祭り上げられそうになった身なので、他人事ではない。本当に何だよ私のクラスメイト。過激な宗教かよ。

 

「ううう、期待が重いよ、俺には出来ないよ……!」

「……実はな、沢田綱吉。私も、他人からの期待に押し潰されそうになることがある」

「えっ?」

 

 私の言葉に、きょとりと目を瞬かせる沢田綱吉。

 面倒なので、手っ取り早く立ち直らせよう。

 

「生徒会長で優等生な、影宮君が?」

「ああ。正しいことをしているだけなのに膨れ上がる好意と期待が、私には重たすぎるんだ。何かを出来ないと判断することもある。……けれど、信頼できる仲間がいるから、私は此処まで来ることが出来た」

「信頼できる、仲間……」

 

 嘘は言ってないぞ!!やたら崇拝してくるクラスメイトが重すぎて怖いくらいだからな!!信頼はしてないが。

 

「君にも、そういう人達がいるのだろう?」

 

 そう言えば、沢田綱吉はいつの間にか涙が止まっていた目を輝かせた。

 ……ふぅ、やれやれだぜ。

 

「うん、うん!凄く強くて、頼りになる仲間がいるよ!」

「そうか。行ってこい、仲間が待っているのだろう?」

「ありがとう、影宮君!」

 

 嬉しそうに駆け出した沢田綱吉を、私は笑顔で送り出してやった。

 

 ―――本当に単純だなあいつ!!大爆笑したいレベルだわ!!

 

 

 その後、沢田綱吉が自分以外の棒倒しの総大将を潰したとの報告があった。私の綺麗事無駄だったじゃねぇか。

 

 

 

 

 

 ▽△▽△

 

 

 

 

 

 ―――昼休憩。

 

 

「さ、たんと食べてね。ケイちゃん」

「い、いい加減、その呼び方は恥ずかしいのだが……」

「えー?可愛いじゃない」

 

 母さんが花柄のレジャーシートを引いて待っていたので近寄ってみれば、大きめの重箱四つに美味そうなオカズが入った弁当が置いてあった。いや、これ二人で食べきれるのか?あとケイちゃんやめろ。前世の年齢的にもキツい。

 

「母さん、量が多いと思うのだが」

「あらあら、少し張り切りすぎちゃったかしら?」

 

 困ったように笑う母さんに若干イラつく。ま、まぁ、ほわほわと花を散らせているような雰囲気の、何時も能天気な女だからなこいつ。落ち着け私、昔から付き合ってきている母親じゃないか。

 

「要らないなら僕が貰うよ」

「!……いや、要らないとは言っていないだろう」

 

 

 何で背後から出てくるんだよビビるだろう―――雲雀恭弥!!

 

 

 何時もの学ランを羽織りながら、我等が風紀委員長は楽しそうに花を飛ばした母さんから割り箸を貰っている。そして何でナチュナルに靴脱いで隣に座ってくるんだ貴様。母さんも何故当然のように受け入れている。

 

「……うん、相変わらず美味いね。ウチの家政婦に欲しいくらいだ」

「あらあら、口がお上手ねぇ」

 

 実は小さい頃から、母さんが雲雀恭弥が遊びに来た時に手料理を馳走することは、良くあった。気に入ったようで、母さんの料理が食える機会があると寄ってくることが多い。

 まぁ、母さんの料理は認める。其処らの料亭にも負けない味だし、私の好みにも合うからな。

 和風ミニハンバーグを頬張る雲雀恭弥に負けじと、私もオカズを頬張る。やはり、冷めていても美味い。心から全く人を褒めない私でも、これは認めざるを得ない味だ。

 

「言っておくが、母さんの料理は世辞などで語れない美味さだからな。謙遜しないでくれ」

「自慢かい、影宮桂馬」

「あら、照れちゃう」

 

 少し赤くなった頬に手を当てる母さん。あざとい、年を考えろBBA。五点。

 ……それにしても、やはり結構な数の視線が刺さるな。十中八九雲雀恭弥のせいだ。

 

【お待たせしました。棒倒しの審議の結果が出ました】

 

 珍しく雲雀恭弥が居るのにも関わらず静かで、ゆったりとした時間を過ごしていると、アナウンスが入った。ああ、そう言えばB組とC組の総大将がいないんだったな。どうするんだこれ。

 

【各代表の話し合いにより、今年の棒倒しは―――A組対B・C合同チームとします!】

 

 ふぁ!?

 

 思わず飲んでいた緑茶を吹きこぼしそうになる。

 えっ、沢田綱吉マジで大丈夫なのか?主人公なのに死んだりしない?あいつ死んだら結構な被害が出るんだろ?

 そんなことを考えていたら、隣で寝転んでいた雲雀恭弥が、ニヤリと悪どく笑った。

 

 

 ―――沢田綱吉、お前の勇姿は多分忘れない……!!

 

 

 

 

 

 

 

 △▽△▽

 

 

 

 

 

 

 ……結論から言えば。

 

 

 B・C組が勝った。うん、釈然としない勝ち方だが、まぁ勝った。

 初めは死ぬ気モードとなった沢田綱吉率いるA組がリードしていたのだが、チームでの小競り合いで自滅。

 敗軍の大将が無傷で帰れる訳がなく、乱闘となった。何で皆そんなに殺意が高いんだ。

 

「オラァ!!」

「会長!お怪我はありませんか!?」

 

 そして、これである。

 何だこれ。何でお前ら私を守るんだ、おかしいだろう。

 

「あ、ああ!だが、お前らは自分の身を案じてくれ!私は一人で対処できる!!」

「そうはいきません!貴方がいなくなったら、誰が並盛中を支えるんです!!」

 

 いや、別に私がいなくても大丈夫だろう、並盛中。

 

 

 結局最後まで私の言葉を聞き入れてもらえず、体育祭は終わった。すげぇ疲れた。今日は早く寝よう。

 

 

 

 

 

 

 

 ▽△▽△

 

 

 

 

 

 

 ―――あ、今日も死んでる。

 

 

 おーい、大丈夫かい?また泣き出したりしないだろうね?あっ、殴るのも禁止ね。君のグーパン本気で痛いから。

 

 体育祭、そんなに疲れた?えっ、疲れたから早く寝たのに、お前が居るせいで更に疲れる?ひ、酷い!少しでも打ち解けたいから呼んでるのに……!!

 あー、うん。君が嫌がってるのは分かってる。分かってるけどさぁ……良いじゃないか、少し夢の中で話すくらい。

 

 えっ、無視?存在自体無かったことにされてる?おーい?

 

 ……ぐすっ、分かったよ、今日は大人しく帰すよ。バイバイ。今日は預言無いから。

 

 

 ―――うわーん!君、会う度に僕への対応が雑すぎるよ~!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




女の子出せなかった。無念。

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