とあるひねくれ者は悲嘆に暮れる。   作:ねむたい人

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ひねくれ者は戦う。

 

 

 ……私は、痛いのが嫌いだ。

 

 

 もう一度言う。私は、本当に、本気で、人生の中で一番、痛いのが嫌いだ。

 

 

「……すまない、痛かったか」

 

 一応、本当にすまなそうに謝っておく。こんないきなり絡んでくるような屑共に謝罪など必要ないが、誰が見ているのか分からないからな。

 

「う、ぐ……!聞いて、ねぇぞ……!!並盛の生徒会長が―――こんなにも強いなんてよ!!」

「誰だよ!こいつを人質にして、風紀のヤローを呼び出すとか言った奴!!」

 

 ハイハイ、説明乙。というか、私を人質にしたくらいであいつは止まらんぞ。あいつの性格を少し考えれば分かることだろうに。

 

 

 ―――周囲には、傷だらけの不良が、あちこちに転がっていた。

 

 

 ヒュンッ。

 

 私は右手に持った木刀を、残りの社会不適合者共へ向ける。

 

「ヒィッ……!」

「これ以上やるなら―――私は、本気で君達を 半殺しに(処罰) するしかない。逃げてくれ」

 

 悲しげに、辛そうにそう言えば、彼等は怯えたように今居る路地裏から、ボロボロの仲間を引き連れて逃げていった。フハハハ、弱い奴は群れる群れる。

 私、本当に痛いのが嫌いだからな!今回ばかりはやられる前にやってやる精神でボロ雑巾にしてやったぞ!!雲雀恭弥にいっっつもボコボコにされてるからな!!これ以上傷を作ってたまるかよ!!

 ……それにしても。

 

「私……強くなってないか?」

 

 表面上は不思議そうに言ってみる。強者の余裕だよ!そっちの方がそれっぽいからな!!

 いやぁマジで強いな私!?私TUEEEEEEEE!!っかー!堪らんなぁこの感覚!!気持ちいい!!スカッとする!!見たか、あの不良共の顔!?

 雲雀恭弥と比べたら、あんなゴミクズなんて動きが止まって見えるぞ!!ハーハッハッハ!!

 

 ……はぁ。

 

 いや、良く考えたらあいつと毎回バトってるせいでこんな社会に必要ない実力が出来上がったんだよな?あ、何か虚しくなってきた。おうちかえりたい。

 あー、もう撤収だ、撤収。

 私は、大きな溜め息を吐きながら、薄暗い路地裏から出ていった。

 

 

「まぁまぁつえーが……甘さが目立つな、あいつ」

 

 

 ―――私を見ている影に気付かずに。

 

 

 

 

 

 

 

 ▽△▽△

 

 

 

 

 

 

「書記……君、何だかボロボロじゃないか?手当てはされているようだが」

「これですか?実は、三人の不良に絡まれて……何とか勝ちました!」

 

 え、何それ怖い。お前そんなに強かったの。

 

 今居る所は、生徒会室。どうやら体育祭が始まるようで、生徒会の書類が山のようにとは言わんが、それなりに多くなっている。嫌だなぁ、準備で大忙しになるんだろうなぁ。面倒だ。

 

「まぁ、少し左腕と右頬骨に罅が入ったくらいですから!平気です!」

「いやいやいや、それ全然平気じゃないだろう。……体育祭には出られそうか?」

「はい!幸い、怪我した所は利き腕じゃないですし!」

「そうか、良かった」

 

 ほっとしたように微かに笑えば、書記は「大袈裟ですって!」と包帯の巻かれていない右手で後ろ首を触りながら、照れたように笑った。

 こいつクラスメイトだし、出られない種目が出たら代わりを捜すのに面倒だったからな。あと敬語やめろ。

 どうにかしてゾワゾワして仕方ない敬語をやめさせようと考えていると、無遠慮に生徒会室の扉が開いた。

 ああ、うん。もう何も見なくても分かる。

 

「雲雀恭弥。何度も言っているが、ノックをしてくれ」

 

 ガリガリとシャーペンで書類を片付ける作業をしたまま、私は雲雀恭弥にそう言った。忙しいアピールである。

 

「そんなことより、君。無傷で群れるしか脳のない奴等を退けたんだってね」

「え!?会長も不良に絡まれてたんですか!?」

「…………」

「ヒッ!すみません、黙ってます!!」

 

 書記がデカイ声でリアクションをすれば、雲雀恭弥はギロリと書記を睨んだ。うむ、私もさっきのは煩いと思っていたから、良くやった。お前と同じ思考とか吐き気がするがな。

 

「あいつらか……、どうしてそれを?」

「あの赤ん坊に聞いた」

「!リボーン君のことか」

 

 リボーン!!あいつ見てやがったのか!!

 やはり、迂闊に本性は出せないな。溜め息を吐きながら、私は手を止めて雲雀恭弥に向き合ってやる。一応、人としてのマナーだからな。

 

「確かに、私はあいつらを退けたが……それがどうした?」

「赤ん坊の話だと、脅して追っ払ったって話じゃない。相変わらず甘いね」

「別に、私は合理的に考えて行動しただけだ。人を無駄に傷付けるのは、性に合わん」

 

 正直、私TUEEEEEEEE!!するの楽しかったがな、うん。

 

「ふぅん?……けどね、影宮桂馬。僕は赤ん坊から、頼まれてることがあるんだ」

「……書記。私は用事を思い出した。少し抜け―――」

「逃がさないよ」

 

 嫌な予感がしたので逃げようとするが、ガッシリと手首を掴まれた。振りほどこうとするが、相手の力が強すぎて失敗に終わる。えっ、何こいつ握力ヤバイ。

 

「離せ、私はお前に付き合っている暇は無い!」

「君の都合なんて知らない。僕、赤ん坊に君の甘さを少しで良いから抜いてこいって頼まれたんだよね。何か繊細すぎて壊れそうだから寧ろ一回壊してこいみたいなこと言われてさ。借りを作るのも悪くないなって」

「何でこういうのに限って、お前はやる気を出すんだ!」

 

 お前本当に暴君だよな!!此方の都合も少しは考えてくれ頼むから!!

 というか、そういう勘違いをさせたのは私だが、甘さって良い物じゃないのか!?ほらっ、誰しも優しさの一つや二つ必要だろう!?なっ、なっ!?

 

「君、少しこいつ借りてくよ」

「は、はい!どうぞ!」

 

 

 どうぞじゃねぇえええええ!!お前覚えてろよ書記ぃいいいいい!!!!

 

 

 私の抵抗も虚しく、雲雀恭弥に校内を引きずり回された。

 そして、到着したのはグラウンドのド真ん中。

 

「……ん?雲雀恭弥、運動部はどうした?」

「風紀の権力で退却させたよ」

 

 権力の乱用だ……!此処に暴君が居る……!!

 もう突っ込むことも疲れた。せめてもの抵抗で、呆れたように溜め息を吐いてやる。

 

「用意周到だな。だが、人の本質はそう簡単に変えられない物だ。どうやって……」

「今日の君、何だか饒舌だね。否、雰囲気が珍しくピリピリしてるって言った方が良いかな?」

「……!!」

 

 えっ、マジで?

 確かに、体育祭前なので教師共に扱き使われ、内心イライラしてるが、表に出しているとは……。気が緩んでいるのか?用心しなければな。

 

「長年付き合ってきた僕でないと、分からないレベルだけどね。どうしたんだい?」

「別に、お前が気にすることでは……」

「僕が気になっているから聞いてるんだ。答えて」

 

 ウゼェ……。こいつ、人の話聞かない奴だからなぁ……。

 まぁ、優等生らしい台詞でも適当に言っておけば良いか。雲雀恭弥やリボーン曰く、私は甘いらしいし。

 

「……書記が、不良に襲われたと聞いてな。不安なんだよ」

「不安?」

「私なら良いんだ。……だが、並盛の生徒が襲われるとなると、な」

 

 そう言って苦笑すれば、雲雀恭弥はムスッ、と機嫌が悪そうに眉を上げた。何でだ。

 

「確かに、赤ん坊の言う通りだ。甘過ぎる」

「甘さの何が悪いんだ?時には優しさも必要だろう」

「君のは度を越してるんだ。確かに、少しは無くした方が良いのかもしれない」

 

 な、何でやる気出し始めてるんですかね?目付きが怖いですよ、ヒバリサン。

 

「ルールを決めよう」

「ルール……?」

 

 嫌な予感しかしない。ルール、だと?こいつが?いつもルールなんてぶち壊す精神のこいつが??何を考えているんだ、一体。

 

 

「―――優等生としての鎖を、少し外してもらおうか」

 

 

 雲雀恭弥は、女子が見惚れそうな顔で、不敵に笑った。……私には悪魔の笑みにしか見えなかったがな!

 

 

 

 

 

 

 ▽△▽△

 

 

 

 

 

「や、やめろ!」

「どうしてだい?今朝、君に襲い掛かった奴じゃないか」

 

 ―――ヤバイ。

 

「それでも!まだ話して分かる人種だ!!更正の余地はある!!」

「甘いね。君の言う、大事な大事な並盛の生徒が傷つけられたら大変じゃない」

 

 ―――ヤバイ。

 

「私、は……!!」

「さぁ、どちらを選ぶんだい?まぁ、君が選ばなければ、コレはもっと酷い怪我をすることになるんだけど」

 

 

 ―――――――マジでヤバイぞ、これは!!

 

 

 目の前に居るのは、今朝私を襲った不良の一人。縄で縛り付けられて、雲雀恭弥に命令された風紀委員の一人に殴られている。

 いや、別にこの社会のゴミなんざ知ったことでは無いが、優等生としての分厚い仮面のせいで身動きが取れずにいるんだよ。物理的にもだけどな!!雲雀恭弥が私を羽交い締めにしてやがるんだクソがっ!!

 

「くっ、離せ!」

「君が選べば、ちゃんと離してあげるよ」

 

 雲雀恭弥が設けたルールは一つだけ。

 

 

 それは私が、並盛中の生徒か、私を襲った不良か。どちらかを選ぶことだ。

 

 

 普通は生徒会長として、並盛の生徒を選ぶのだろう。けれど、優等生の影宮桂馬は目の前で傷付けられている人間を放っておけない面倒な奴だ。

 だから、こうして捕らえられてきた不良がボコ殴りにされていたら、助けようとしてしまう。例え自分を襲った相手でも、だ。イイコちゃんらしい欠点だな。それは偽善ではなく、本気で助けたがっているのだから救えない奴だ。いや、全部演技だから何を言っているんだという話になるが。

 

「君は偽善者にもなれない、馬鹿みたいなお人好しだ。少し非情になった方が良いよ。その生き方は、何れ息が出来なくなる」

 

 また生き方を駄目出しされたんだが。優等生の何が悪いんだ。

 

「わ、私は……っ」

 

 いや、本当にどうしたら良いんだよこれは……!

 頭を掻き回したくなる衝動に刈られた時、未だに殴られ続けている不良が私を睨み付け、口を開いた。

 

「ぐっ、がはっ!あ、アンタのせいだっ!アンタのっ、アンタのっ!!」

 

 ゴミが何か言っているぞ。そもそも私に襲い掛かったお前が悪いだろ、何言ってるんだ。

 ……ん?いや、これは―――使えるかもしれない。

 

「私、の?」

「あ、アンタに関わったせいでっ!ぃぎっ!?散々っ、だっ!!」

 

 まるでショックを受けたように、身体を強張らせる。雲雀恭弥が、怪訝そうに此方の顔を覗き込んだが、気にしない。

 

「ふ、風紀の奴等が来た途端っ、仲間に見捨てられたのもっ!」

 

 えっ、見捨てられたのか。私もそうするがな。

 

「俺がっ、クラスで認められないのもっ!」

 

 いや、お前の態度と金髪頭が原因だろ、それ。

 

「全部、アンタのせいだぁああっ!!」

 

 ……頃合いだな。よし、やるぞ。

 

 

「そうか。―――並盛中の生徒を選ぼう、雲雀恭弥」

 

 

「「!?」」

「約束だ、離せ」

 

 私の選択と、今まで出したこともないドス声に目を見開き、一瞬硬直した雲雀恭弥。思惑通り……!

 その隙にするりと抜け出し、不良の前までズカズカと足早に歩く。驚愕の表情で固まる草壁?とやらに、「どけ」と声を掛ければ、飛び退くようにその場から遠ざかった。お、おう、そんなに怖がらなくても……。

 

「ヒィイッ……!!」

「……ああ、こういう時―――何と言えば良いのだろうか……」

 

 不良が悲鳴を上げているが、知るか。

 

「不快だ。そう……不快なんだ。私は、君の言葉をとても不快に思っている」

 

 くしゃり。

 

 抑えきれないとでも言いたげに、前髪を掴み、俯く。そう、そうだ。狂ったように振る舞え、まるで狂人のように――――

 

 

「君、何だか凄く……―――邪魔だ」

 

 

 ハァ……、怒りで熱くなった吐息を漏らす。

 

「どうしてかは分からない。分からないが、君が不快だ。生きている筈なのに。やり直せる筈の人間なのに」

 

 けれど―――

 

「なぁ。私の個人的な八つ当たりに、付き合ってくれないか?端的に言えば……君が嫌いで嫌いで仕方ないんだ」

 

 

 そして、憎悪に満ちた瞳で―――嘲笑(わら)った。

 

 

「ははっ……!」

 

 ―――しかし、フィナーレの笑い声を上げようとした瞬間、後頭部に衝撃が走る。

 

 えっ?

 

「がっ……!!」

 

 えっ?いや、えっ?

 私は無様な声を上げながら、先程の衝撃で引き摺るように地面に転がった。いった!!すげぇ痛かったぞ、今の!!

 

「やり過ぎだぞ、ヒバリ」

 

 スタッ。

 華麗に地面に着地し、登場したのは、黒スーツの赤ん坊。リボーンだ。

 え、さっきのって、まさかリボーンがやったのか?

……ふざけるな!!私の華麗なる演技のラストを!!

 

「う、ぐっ……」

 

 後頭部を抑えながら、そのまま地面に踞る。いだだだ、マジ痛い。

 

 

 ―――あ、ハイ。ネタばらしします。あまりの感情の負荷に暴走した、みたいな感じで行こうかと思ってました。最後の最後でリボーンに止められたがな!!

 

 

 確かに誰かが止めてくれるだろうとは思っていたが、まさかの瞬間に……!いや、これタンコブ出来てるだろう!!痛いしな!!

 

「大人しい奴が怒ると怖いって、本当だったんだな」

「いや、それは少し違うと思うんだけど赤ん坊」

 

 リボーンが茶化したように言い、雲雀恭弥がまさかのツッコミ役になっている。何だそのホラー空間。こわっ。

 

「生きてるか、影宮」

「……っ、な、何とか……しかし、正気に戻してくれたのは礼を言うが、加減という物をだな……!!」

「体育祭の準備で忙しそうだったもんな、お前」

 

 踞ったままの私の肩を、私の言葉をスルーして労うようにぽんと叩くリボーンに殺意が湧きそうになるが、必死に堪える。抑えろ私……!本職は殺気に敏感だぞ……!!

 

「何、あんなになるくらい忙しかったの」

「今の生徒会は数が少ないしな。教師の雑用で必死こいて動いてたぞ」

「へぇ。追い詰められるとあんな反応が返ってくるんだ。良いことを知ったよ」

 

 何だその不穏な会話。もうやらないぞ、アレ。というかもうやりたくない。感情込めすぎて疲れたし。

 

「い、委員長。こいつはどうしますか?」

「もう要らない。適当に放っておいて」

「はいっ!」

 

 ひ、ひでぇ……、私でも流石に同情するぞ、社会のゴミよ……。

 雲雀恭弥に命じられた部下は、勝手に誘拐され、勝手にリリースされるであろう不良を俵のように持ち上げて、何処かへと去っていった。これは酷い。

 

「まぁ、今回ので多少の甘さは無くなっただろう。貸し一つだな、ヒバリ」

「うん。僕も幼馴染みの意外な一面が見れて満足だよ」

「…………」

 

 

 ―――貴様ら、ストレスをかけまくった私に謝罪は無いのか!!

 

 

 

 

 

 

 △▽△▽

 

 

 

 

 

 

 えー、と。また僕の世界に呼んだ、よ?

 

 

 い、生きてる?

 

 あ、駄目だ。此方をチラッと見ただけで倒れた。限界みたいだこれ。

 いや、本当に大丈夫かい?三徹明けの社畜みたいな顔してるけど。

 

 何?ストレスマッハ?優等生疲れる?いやいや、それって君が望んで演じてることじゃないか。何を今更。

 

 な、泣くなよ。雲雀恭弥の幼馴染みも、生徒会長も、今まで嫌々ながらやってきたじゃないか。

 どうしてそんなにメンタル弱ってるのさ?ほら、僕で良ければ話を聞くよ?

 

 何?甘さを取り除く試練みたいなのをさせられた?非情の塊みたいな君に対して?

 う、うわぁ、それは御愁傷様……。良くそんなの思い付いたね、君みたいな立場だったら僕は逃げ出してたよ。

 

 それにしても、そろそろ本編の体育祭が始まるね。潰れないように適度に頑張りなよ……って、また泣いた!?よ、よしよし―――うわっ、手ぇ弾かれた!触れ合うの嫌いなタイプか、君!!

 

 

 ああ、もう!君らしくも無い!泣かないでくれよ―――!

 

 

 

 ……―――貴方は、泣き出す子供が苦手でしたね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――……だからと言って、私に寄越すのは許せませんでしたが……―――

 




何だか男ばっかでむさ苦しいので、女の子をそろそろ出したい。

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