とあるひねくれ者は悲嘆に暮れる。   作:ねむたい人

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ひねくれ者はほだされる。

 

 

 やぁ。■■■■だよ。ちょっと話があってこの世界に―――

 

 

 えっ、ちょっ、その拳をどうする気だい!?暴力はいけない!!暴力は!!いけない!!!!

 

 ……ふぅ。助かった。一体どうしたんだい?拳で語り合うような奴でもないだろうに。

 えっ?六道骸に出会った?僕のいない間に?良く考えたらお前が怪しい??メタ推理はやめっ、ゲフンゲフン。な、ナンノコトカナー……?僕は何も知らなっ……ハイハイ!知ってます知ってます!!君ってそういうアニメや漫画の展開を先読みする、みたいな悪意のある推理は得意だよね!!分かったから拳は仕舞おう!?何だか今日は嫌に短気だね!?

 

 あー、うん。僕が君の世界から君を呼び出すのに、何だか君の世界に綻びが出来た気がするんだ。何か君呼び出しやすくなったし。

 ごめんね、こればっかりは謝るよ。まさか、骸が君の世界に現れるとは……。

 

 あ、謝ったじゃないか!!やめて!!僕に乱暴する気でしょっ……ぐはっ!マジで殴った!!ごめん!!ごめんて!!

 

 うぅ、君って本当にこの世界のファンだったのかい?骸に会うとか、割と僕は羨ましいんだけど……。本当に君はロマンの欠片も無いね。

 えっ、まだ本編と関わらない気なのかい?というか、もう関わったじゃないか。大人しく諦めれば良いのに。君って本当に生き方が面倒だよねぇ。

 ……うん!!君が今イライラしてるのは分かった!!ごめん!!僕も軽率だったよ!!こわっ!!キレる十代だね本当に!!

 

 分かった。もう用件だけ言って帰すから、落ち着こう。落ち着こうか。深呼吸しよう。

 舌打ちされた……。うぅ、そんなに骸が嫌だったのか……、どんな出会いだったの、本当に……。

 

 こほん。ええと、君はまた、キャラ達……否、今は紙面に描かれた者ではない、生きている人間か。言い方を変えれば、そうだね……本編にいる人間達と関わることになるよ。嫌でもね。

 今回ばかりは僕のせいじゃない。運命さ。君の信じないそれこそが、原因だ。どんなことをしても、君は逃れられない運命にある。そういうものだと認めてしまえば良いのに。君は本当に根っからの頑固者だね。

 

 何で預言染みたことが出来るかって?それはね、僕は未来は見えないけど、予測することは出来るんだ。実は占い師なんだよ。

 だからこそ、本編と関わる運命にある君と出会えた訳さ。

 

 さぁ、もう現実にお帰り。未来を歩く者達は、嫌でも現実を見なくては―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……―――貴方は、予測していたというのに、彼女を―――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 △▽△▽

 

 

 

 

 

 

 ……起きてしまった。

 

 

 また嫌な夢を見た。マジであいつもう一回ぶん殴ってやりたい。本当に嫌な目覚めだ。

 むくりと身体を起こせば、嫌悪する現実がそこにあった。

 ……それにしても、頑固者、か。私はただ、現実的なことを言っているだけなのに、何故そんなことを言われなければいけないのか。ロマンなど、希望のある一部の人間の生きる活力くらいにしかならないじゃないか。

 下らない。此処は現実だ。ゲームや漫画のように、ご都合展開なんて存在しないのだ。

 だからこそ、私は落胆しないように、現実を見ている。ただ、現実のみを見ている。それの何が悪いのか。

 

「……下らない思考だな」

 

 そんなことを考えている暇があるなら、ゲームでもしよう。

 今日は土曜日。ようするに、休日だ。最近妙に疲れることが多いし、ゆっくり休もうか。だが、忙しくて消化しきれていない漫画を読むのも良い。

 漫画やゲームは良い文明だ。気付けば悩んでいたことなんて忘れて、違う世界に没頭出来る。ストレス解消にも役立つしな。単純だと自覚はしている。

 

 ―――Piririri……

 

「……ん?」

 

 ケータイのメールが送られてきた着信音に、読んでいた少年漫画に人差し指と中指を差し込みながら、一旦閉じる。因みに、下手に着信音など変えたらフラグが立ちそうなので、初期設定のままである。

 

「…………」

 

 声を上げなかった私を、誰か褒めてほしい。

 

『着信:沢田綱吉』

 

 ヒェッ……。

 ホラー映画のBGMが脳内再生されたが、私は少しの間を置いて、メールを開いた。

 

 

『件名:助けてください!

 

 あの、いきなりメールしてスミマセン。うちの家庭教師が、今日はカゲミヤさんにベンキョーを見てもらえって言っていたので、見てもらえませんか?ヘンなことを言ってるのは分かってるんですが、よろしくおねがいします』

 

 

 知能指数が低そうな文章だ……。影宮くらい漢字で送れよ……。

 少しイラッとしたが、まぁ、沢田綱吉だし仕方ないと自分を納得させる。

 というか、勉強だと?私が?しかも何で家庭教師が教えないんだ、おかしいだろう。

 そんな感じの文章を、何倍も柔らかくして送ってやった。

 すると、時間を掛けて、またメールが送られてきた。

 

 

『件名:スミマセン

 

 りょうしょー?してもらわないと、また爆発されるんです!お願いします!お礼はしますから!!』

 

 

 マジか。

 

 どんだけハードな勉強をしているんだと、私は沢田綱吉に同情した。可哀想な奴だな、お前。

 本編の出来事はあまり覚えていないが、誰かに家庭教師を頼む、なんてイベントは無かったような気がするんだが……まぁ、仕方ない。新しく買ったばかりの熱い少年漫画で、心も浄化された気がするし、何より優等生を演じている身だ。少しだけ付き合ってやろう。勿論、礼は貰うがな!

 

 

 何時もより機嫌が良かった私は、沢田家への地図を送ってもらい、筆記用具とノートを鞄に詰めて、家庭教師とその教え子の居る場所へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ▽△▽△

 

 

 

 

 

 

 

 少し後悔した。こいつ、本当に頭が悪いんだな。

 

 

「ふむ。一から説明した方が早いか」

 

 沢田綱吉のテストの結果を見ながら、私は呟いた。

 今私が居るのは、沢田家の一室。ようするに、沢田綱吉の部屋だ。肝心の家庭教師は寝ていて、鼻提灯という古典的な物を出しながら、目を開けて寝ている。どうなってるんだ、それ。

 

「す、すみません、本当に」

 

 申し訳なさそうに身体を縮こませる沢田綱吉に、私は軽く微笑み、安心させてやる。こういうタイプって、緊張すると余計に空回りするからな。私に面倒事が増えるのは嫌だ。

 

「別に、私も暇だったから良いさ。今から問題を作るから、解ける所だけ教えてくれ」

「は、ハイッ!(ま、まともだー!本当にまともで優しそうな人だよ、この人!!やっと常識的な知り合いが出来たー!!)」

 

 何故か嬉しそうな沢田綱吉。察しは付くので、突っ込まないでいてやる。

 

「それと、私は君と同じ同学年だ。敬語は無理にしなくても良いぞ」

「えっ!?ど、同級生!?」

「気付いてなかったのか?」

「や、やたら落ち着いてたから、先輩かと……」

 

 良く言われる。素直だな、沢田綱吉。

 

「じゃあ、影宮君、だね」

「ああ、それで良い」

「俺も、好きに読んで良いよ」

 

 若干ぎこちないが、まぁそういうものだろう。

 ……そう言えば、何気に敬語を使って来ない同級生と話すのは、久しぶりだ。大体会話するのは、あの敬語を使って来る宗教団体みたいなクラスメイトや、暴君風紀委員長だからな。時々、クラスメイト以外にも敬語を使って来る奴がいるが。

 

「これは解けるか?」

「いや、あんまり……」

 

 実は、私は誰かに何かを教えるのは、嫌いではない。一から積み上げていくように、丁寧に教えるのは好きだ。その問題が解けたなら、少しずつ上へ。そうやって、私は前世で誰かと仲良くなった気がする。記憶は薄れているが。

 

「そうすると、どうだ?」

「あっ、答えは3だ!」

「正解」

 

 

 それに、出来ない奴を見ると私が上だと優越感に浸れるからな!!クズ野郎?知ってる!!

 

 

 暫くして、予想より早く次のステップに入れるような問題を、沢田綱吉が解いた。思っていたよりも私の手を煩わせることは無さそうだな。あくまで、思っていたよりも、だが。

 

「よく解けたな。少しレベルアップしても、これなら大丈夫そうだ」

「うん!(リボーンが呼べとか言ったから、実はヤバイ人なんじゃとか思ってたら、凄く良い人じゃんかー!教え方も上手いし、身構えて損したよー!!)」

 

 ……こいつ、本当に顔に出やすい奴だな。読心術は表情や仕草、顔色などで判断するらしいのだが、こいつの場合は表情だけで十分だ。将来そんなんでマフィアやっていけるのか?

 

「流石、周囲からの信頼が厚い生徒会長だな。影宮桂馬」

「ゲッ!」

「!起きたのか、えっと……」

「リボーンだ。よろしくな」

「よろしく。この前も会ったな」

 

 ニッ、と相変わらずクールに笑うリボーンに、此方も嘘臭くならないように、自然な笑みを浮かべた。

 

「それと、「ゲッ」てなんだ、ツナ」

「うぇえっ!?そ、それは、その……」

「それより、勉強をした方が良いのでは?流石にこれは不味いぞ、沢田綱吉」

「ウッ……!(純粋な言葉が凄く心に刺さるー!!)」

 

 困ったように言えば、ショックを受けたように項垂れる沢田綱吉。フォローしてやったんだぞ、寧ろ感謝しろ。

 

「言われてんな、ダメツナ」

「だ、ダメツナって言うなよ!傷付くんだぞ、それ!」

「なら、言われないように努力しろ、ダメツナ」

「うぐぐ……!!」

 

 見ている分には微笑ましいな、このやり取り。何だか身構えて損した。

 危険な出来事には関わりたくないが、平和に過ごせるなら、別にこいつらと居ても―――って、駄目だろ!駄目だろ私!!何ほだされてるんだよ!!こいつらに関われば関わる程、危険度は上がっていくんだぞ!!馬鹿か!!

 崩れかけた心の壁を補強していると、沢田綱吉が口を開いた。

 

「あ、そうだ。影宮君、さっきも言ったけど、俺のことは呼びやすいように呼んでも良いよ」

「そう言えば、お前は周囲の奴等をフルネームで呼んでいるな」

「ああ、その……、小さい頃からの癖、なんだ。特撮のキャラクターの真似をしていたら、そうなっていて」

 

 それっぽい理由を言っておいて、恥ずかしげに頬を掻いておく。こいつらとの絆レベルが上がったら面倒なので、安易に名前呼び出来ない設定にしていたのだ。

 

「へぇ、影宮君にもそういう所あるんだ!」

「意外だな」

「良く言われるが、私も小さい頃はそういうものに憧れたよ」

 

 前世は優等生を演じる為に素人ながらも心理学を齧っていたため、何とか嘘はバレず和やかに話は進んだ。……うん、バレてはいない、はず。

 私が沢田綱吉に勉強を教えている最中にリボーンが沢田綱吉へちょっかいを出すという一悶着もあったが、特に何事も無く緩やかに時間が過ぎ去った。

 そして、帰る時間となり、

 

「今日は本当にありがとう!助かったよ!」

「ファミリーへの適正を調べていたんだが、合格だ。お前はファミリーの指導者に向いてるな」

「こ、こら!リボーン!ごめんね、ごっこ遊びの設定で……」

 

 何で呼び出したんだと思ったら、そんなことか。……いやいや、そんなことじゃないだろう!!クソッ、こいつらを見ていると気が抜ける!!マフィアに関わったら死ぬんだぞ、私!!

 

「また来ると良いぞ」

「俺の台詞だぞ、それ!」

「此方も楽しかった。また行こう」

 

 そんな言葉のやり取りに笑いながら、私は手を振ってその場から去った。

 

 そして、今日分かったことがある。

 

 

 ―――雲雀恭弥やクラスメイトのせいで、普通の会話に飢えてやがる、私……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ほのぼのが欲しかったので自給自足。

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