―――取り合えず、私の噂を広めやがった奴は磔にされて火に炙られ悶え苦しみながら死ねば良い。
やぁ、生徒会長になった影宮桂馬だ。結局生徒会長かよって?死ね、望んでないわこんな役職。
私が生徒会長になったのは、雲雀恭弥の下に付くか、教師の元で雑用をやるか、どちらが良いかきちんと考えた結果だ。奴の下で働くとか、絶対に面倒事が多い気がしてな。それなら生徒会長の方がましだと吹っ切れたのだ。
元生徒会長は、それはもう嬉しそうに生徒会長の座を譲った。風紀委員会に書類を届けたり、風紀の不良達に睨まれたりするのは胃がねじ切れるくらいに嫌らしい。そういう決まりは無いのだが―――何故か、本当に何故か、伝統で風紀と生徒会は同等の立場であり、対立する関係にあるのだとか。本編にそんなこと書いてなかったよな?……私以外の転生者が居たりするのか?それも多数の。
まあ、そんなことはどうでもいいのだ。私の話を聞け。
―――この生徒会、生徒会長以外居ねぇ!!
何でだよ!!と内心叫んだのだが、冷静になったらそりゃそうだわ、と納得した。あの風紀と対立するんだぞ?そりゃ嫌だ。雲雀恭弥の前の風紀のことは知らんが、あの猛獣よりも凶暴な雲雀恭弥と愉快すぎる頭したリーゼント集団と対立するとか、死ねと言っているようなものだ。
……正直、胃がとても痛い。良く考えて下した決断とは言え、私には荷が重すぎるし、何より面倒事の予感しかしない。ハッキリどちらもやらんと言っておけば良かったと後悔している。
「はー……」
ギシリ、と回転式の椅子に全体重を掛けて溜め息を吐きながら、生徒会室で一人、ぐったりと書類を眺める。
それは、生徒会役員を集めろという教師からの願いだった。何でも、生徒会長だけだと可哀想だ、ということで、誰でも良いから仲の良い友人を引き込め、とのこと。
いや、それが出来たら苦労はしないぞ。何故かクラスメイトは敬語で話し掛けて来るし、風紀の圧力に耐えられるような奴は知らんし。
「詰んだ」
ゲンドウポーズで机に肘を乗せる。
無理だ。私には、やはり生徒会長など向いていない。
いないのか。気立てが良くて、頭も運動神経も良い。そんな都合の良い奴は。
しかし所詮、生徒会など教師の雑用に過ぎない。他の委員会も同様だ。そんな面倒事に進んで手伝う奴はいないだろう。知人は居ても、友人はいない私に付いてきてくれる奴もいない。何だか悲しくなってきたぞ。……しかし、風紀委員会は変に権力を持ってしまっている。先人達は何をやらかしたのやら。
「失礼するよ」
……唐突に生徒会室の扉が開いた。
扉をノックもせずに開けた犯人は、やはり雲雀恭弥だった。相変わらず良い声をしていて腹立たしい。
「雲雀恭弥。ノックくらい……」
「それより、やっぱり生徒会長になったんだね」
「……やっぱりって何だ。こうなることは予想済みだったのか?」
「まぁね」
思わず舌打ちしたくなるが、ぐっと堪える。雲雀恭弥の掌に踊らされてる感じがして死にたくなってきた。
「これから君と僕は、対立する関係になった」
「先人達が残した厄介な伝統だろう。私達が無理に実行することでは―――」
「それじゃあつまらない」
薄く笑う雲雀恭弥に寒気がした。何をする気だ。こいつ、時々何か突拍子もないことするんだよな。これだから雲雀恭弥は嫌なんだ。出来れば何かこう、もっと大人しめのキャラと友人関係にありたかった。私は友人だと認めてないがな!断じて認めてないがな!!
「君は実力はあるくせに、それを使おうとしないからね。……こんなチャンスは滅多に来ない。逃がさないよ」
ヒェッ……、わ、悪い笑顔ですね、雲雀さん……。
というか、実力……だと?私は常に全力なのだが。何かまた変な誤解でもされているのか?
「誤解だ。私にはお前が思うような実力は無い」
「隠さなくても良いのに。僕とたまに遊ぶ時も、涼しい顔で避けてるくせに、負けたふりをするじゃない。僕が気付いていないとでも思ったの?」
お 前 の 目 は 節 穴 か ! !
というかあの殺し合い、遊びのつもりだったのか!?無様にやられるのだけはプライドが許さないから、必死に表情だけは押し殺していたが……。くっ、変にポーカーフェイスを気取っていたのが仇となったか!
「いや、負けたふりなど……!」
「君は甘いからね。僕だけじゃなく、周りにも。人を傷付けるのが怖いんだろう?」
いえ、私はやる時はやる男です。その必要が無いから大人しくしてるんだよ、お前と違ってな!!
「これから僕は、本気で君を咬み殺す。君も本気で掛かってこれるように、ね」
「……っ」
「今日は疲れているだろうから、身を引いてあげる。本気になった君と戦うのを、楽しみにしているよ」
じゃあね、と去っていく雲雀恭弥。……このがら空きの背中にドロップキックかましたら、どういう反応をするのだろうか。
不意に、雲雀恭弥が顔だけ此方に向けた。驚いた。此方の思考がバレたのかと。
「そうそう。手加減なんかしたら、殺すから」
「!?!?」
「じゃ」
ば、爆弾落として帰りやがったあいつ!!何なんだよ本当に!!私に何の恨みがあるんだ!!あいつ本当にやりそうで怖いんだよ!!というか、あいつなら確実にやる!!
「あ、嵐が過ぎ去った……」
ぐったりと背凭れに腰掛ける。
……それにしても、雲雀恭弥が私に執着している理由が分からん。あいつが一方的に友人関係だと思ってやがるだけで、執着する意味なんて無いと思うのだが。
「……雲雀恭弥、か」
何だかんだであいつとは此処まで付き合ってきた。しかし、本当に早く決別をしたい。
中学一年生。私と同級生である沢田綱吉が、運命に出会う年。
早く。最強のヒットマン、リボーンが、この街にやって来るよりも早く。そう、早く―――
―――……逃げなければ。
△▽△▽
……君は、何を恐れているんだい?
ああ、ようこそ。僕の世界へ。君が眠ったから、こうして出会うことが出来たよ。
……ん?僕が何者かって?ははっ、そりゃそうだね。初対面の人物には、普通は警戒するものだ。
初めまして、同郷さん。僕は■■■■。かつて、ボンゴレファミリーの一世……ジョットに仕えていた者さ。今は魂だけの存在にされているけどね。ゴーストでもオバケでも、好きなように捉えれば良いさ。
そうか。確かに、驚く必要はないね。自分が漫画の世界に落とされているのだから、別の人も落とされている可能性を考えるのは普通のことだ。自分は特別だと勘違いする人も多いけれど、君は違うようだね。寧ろ、……そうだな、現実を見過ぎている。それ故に、現実を甘く見られない。息が苦しくなるような生き方をしているね。僕には出来ないことだ。
僕の世界では、自分の心に嘘は吐けないよ。心ががら空きになり、思考こそ分からないけれど、根底の部分は良く見えるんだ。
……ああ、何故諦めたような溜め息を吐くんだい?何?現実的ではないけれど、それを覆す根拠が存在しない?漫画の世界だからと諦める?おいおい、頑張れよリアリスト。確かに、本編のキャラ達も似たようなことをしていたけどさ。
あ―――そうだ。話したいことがあるから、僕は君の夢に現れたんだった。
良いかい?これだけは絶対に覚えておいてくれ。君は、選択を迫られるよ。それは、とても大事な、本当に大事な選択だ。僕達ボンゴレに関わる、とっても大切な選択なんだ。
君は、運命に選ばれてしまったんだ。仕方のないことだと諦めてくれ。
……震えているね。確かに、恐ろしい。この世界の本編に関わることは、恐ろしいことだ。
―――……最後に、謝らせてくれ。……君の嫌う世界に巻き込んで、すまない――――――……
そう言って彼は、悲しそうに笑った。
実は結構転生した奴いるんだよ、って話。でも、キャラに会えるような境遇でも近い街でも無い奴が多いので、並盛の転生者はほんの一握りだったりする。
主人公が悪魔と呼んだ奴に落とされた人々は大体無神論者とか真面目に生きていたのにひねくれたことを奴の前で言ってしまったりした奴ばかり。
間違っても世界を壊すようなキ○ガイなことばかりする奴は、あいつはこの紙面だった筈の世界に入れたりはしない。一応、原作が大好きだからね。