とあるひねくれ者は悲嘆に暮れる。   作:ねむたい人

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ムシャクシャして書いた。どうぞ。



ひねくれ者は災厄に恐れる。

 ―――出来るだけの努力はした。

 

 ―――出来るだけの反抗はした。

 

 ―――けれど、その()()()()()がどれほど弱いことか。

 

 ―――傷付けられたくは無い。合理的ではないからだ。

 

 ―――傷付けられたくは無い。……それが、傷つけられることが、私にとっての最大の恐怖だからだ。

 

 ―――だからこそ、私の努力は、反抗は、水の泡となって消えてしまった。

 

 ―――恐れていた。私は、確かに「彼を」恐れていた。

 

 ―――その内来るであろう報復を、復讐を、暴力を、全て、全て恐れていた。

 

 ―――だからこそ、私は拒絶出来なかった。ろくな反抗さえも出来なかった。

 

 

 ―――こんな事態になってしまったのも、そのせいなのだろう。

 

「お願いします!!あの人と対等な貴方しか、頼める人はいないんです!!」

「い、いや、しかし」

「お願いします!是非、是非―――生徒会長に!!」

 

 

 ―――ああ、クソッ!!誰だ!!雲雀恭弥と対等な男なんて訳の分からん噂を流した馬鹿は!!

 

 

 

 

 

 ▽△▽△

 

 

 

 

 どうも、「暴君と名高い群れてる奴絶対かみ殺すマン雲雀恭弥と唯一対等」、などと噂されている一般市民だ。市民、貴方は幸福ですか?私は幸福ではないから死ね。

 

 

 私はこの十年間、雲雀恭弥の初めての友人というレッテルを貼られ、確かに努力はした。僅かに反抗もした。けれど、将来の雲雀恭弥が脳裏にちらついて、拒絶仕切れなかったのだ。

 

 その結果が、これだ。「雲雀恭弥と唯一並び立つ男」。

 

 そう噂されて、入学当初から雲雀恭弥に負けたであろう教師や先輩達が、生徒会長をやれと煩いのだ。誰があんなクソ面倒臭いもんやるか。意見出来ないのは私も同じなんだぞ。

 雲雀恭弥への対処法は、相手の意見に合わせて話す、だ。時折自分の意見も出さないと不機嫌になるぞ。まぁ、私以外がやると群れるなとかみ殺されるが。嬉しくない特別感が何とも言えない苦味を生み出している。

 

「……はぁ」

 

 溜め息を吐けば、「どうしたんですか?」と隣の席の男子生徒が聞いてくる。何で敬語なんだ。

 今の私は、入学してから二ヶ月目の中学一年生だ。決して彼の年上ではない。

 生徒会長がクソ面倒とか正直に言うのは、ここまで優等生として演じてきた私が嫌なので、適当に何か言っておこう。

 

「いや、少し疲れが溜まっていてな。すまない、不愉快だったか」

「ああ……、影宮さんは良い意味で優等生ですもんね。全然不愉快じゃないので、気にしないでください」

「だ、大丈夫ですか?影宮さんが倒れたら、雲雀さんに対抗する人は……」

「今度甘い物でも差し入れしますよ」

 

 だから、何で敬語なんだ。

 何故か此方を慕う目で群がってくる奴等を不気味に思う。正直言うと怖い。

 

「俺、野球部に入ったんですけど、先輩達と顧問の先生が言ってましたよ。影宮さんは雲雀さんの暴君制度から抜け出せる、唯一の希望だって」

「あ、私も先輩達から聞いたよ」

 

 お前らのせいかよ!!後輩まで洗脳するとか、本当に宗教染みてて怖いわ!!どんだけ雲雀恭弥は怖がられているんだ!!

 それと、暴君制度とやらは後から聞いた話だと、群れるとかみ殺すというものであった。そう呼ばれてるだけで制度にはなっていないが、確かに暴君だわ。

 

「あと、雲雀さんへの伝達とか意見は貴方に任せたいそうっすよ。その為に、生徒会長になってほしいって」

 

 う、うわぁ。本格的に私、雲雀恭弥への防波堤にされているじゃないか。何故か、本当に何故か雲雀恭弥の側に居ることを認められている、私向きの仕事なんだろうが。

 

「……考えておこう」

 

 それだけ言って、手洗いだと告げてから教室を出た。

 ……そして、ダッシュで階段を上りきり、ガシャン!と扉を開けて屋上に出る。

 誰かいないかキッチリと上、下、左、右を確認。扉も閉めた。

 そして、叫ぶ。

 

 

「―――何でだああああああああっっ!!!!」

 

 

 それはもう、腹から思いっきり出した声であった。

 

「いやいやいや何でだよどうしてだよ!!何でこの私が雲雀恭弥攻略の為の重要ポジションみたいな位置にいるんだ!?ふざけんな!!訳が分からんわ!!」

 

 ぐしゃぐしゃと髪をかき乱し、その場で地団駄を踏む。その際に掛けていた眼鏡がずれたが気にしない。子供っぽいことをしているとは自覚しているが、多目に見てくれ。もう我慢の限界なんだ。

 

「ああ―――クソッ!!何で私が!!こんなことをしなくてはいけない!!面倒だ!!優等生として過ごすのは将来の職の為に必要なこととはいえ、度が過ぎるだろうが!!生徒会長って何だ!!雲雀恭弥と対等な奴ってなんだ!!もう、もう―――」

 

 

 ―――私に関わるな!雲雀恭弥(災厄)め!!

 

 

 

 

 

 △▽△▽

 

 

 

 

 

 絶対普段では言えないことを言い切って、何だかスッキリした。

 

 

 我ながら単純な男だが、こういうストレス発散方法もあるのかと学習した。しかし、危険度が高いので、もう二度と屋上ではやらないだろう。何処に人の目があるのか分からん。

 教室に帰って来たら、タイミング良く四時間目を知らせるチャイムが鳴り響いた。間に合ったか。

 その後は、何事も無かったかのように時間が過ぎていく。今は丁度、昼休みになった時間だ。未だに敬語を使ってくるクラスメイトと共に、飯を食う。平和だ。

 しかし、その平和は直ぐに壊れ去る。

 

「……か、影宮さん。アレ」

「ん?」

 

 トントン、と隣で飯食ってたクラスメイトに肩を叩かれ、触んな雑菌が移ると思いながらも、指差す方向へ頭を動かす。

 ……何か、学ラン肩に引っ提げた風紀委員長様が、ズカズカと教室に入ってきた所だった。雲雀恭弥である。うっ、脳内で専用BGMが勝手に!

 

「影宮桂馬。君、委員会の所属先が決まってないみたいだね」

「第一声がそれか」

 

 い、嫌な予感がするぞ。こういう時だけその直感は当たるんだ。

 それにしても、じろじろと無遠慮に見てくる奴等が多く、何だか不快だ。雲雀恭弥に提案してみるか。

 

「……此処ではアレだし、場所を移動しよう。視線が多すぎる」

「気にしなくても良いのに。全員かみ殺せば―――」

「私が気にするんだ」

「神経質だね」

 

 それなら仕方ない、と雲雀恭弥は私の手首を引っ掴んで、共に教室から出ていく。私が神経質なんじゃなくて、お前が気にしなさすぎなんだ。お前、本当に私が大好きだな。私はお前が嫌いだが。

 

 到着したのは、かの有名な応接室。此処って風紀委員会の巣窟だったよな、確か。

 

「コーヒー」

「仕方ないな」

 

 フカフカなソファに座って、偉そうに指示してくる雲雀恭弥。普通逆じゃないか?

 ぶっちゃけ物凄く拒否したい。が、こんな所で暴れられても困るからな。仕方なく、本当に仕方なくコーヒーを作ってやる。何故かコーヒーメーカーが設置されてるので、置いてあった珈琲豆を突っ込んだ。

 

「……それで。本題は?」

 

 コーヒーの入ったマグカップを置いて、きちんと正面のソファに座ってから、聞いてみる。ついでに自分用に作ったカフェオレを飲んだ。うむうむ、やはりこの甘さが良い。

 

「風紀委員会に入らないかい?」

「ふぐっ!」

 

 危ねぇ!!危うく吹き出す所だった……!!

 

「……は?」

「風紀委員会に入らないか、と聞いたんだ」

 

 ズ、とコーヒーを飲む雲雀恭弥。くそ、そんな仕草だけでも様になるな。腹立つ。

 

「授業をサボる権利もあげるよ。どう?」

「いや、駄目だろう。学生である内は、私は真面目に過ごしたいんだ。その申し出は嬉しいが……」

「流石、相変わらず優等生だね」

 

 何が楽しいのか、小さく笑う雲雀恭弥。馬鹿にしてんのかこの野郎。

 

「やはり、君は生徒会長になるのかい?君と対立するのも面白そうだ」

「……いや、それはまだ決めていない」

「!」

 

 何か物騒なことを言い出した雲雀恭弥にそう返せば、雲雀恭弥は僅かに目を見開いた。

 

「珍しいね、君が迷うなんて」

「お前は私を何だと思っているんだ」

「少なくとも、物事はキッチリ決める奴だと思ってたよ」

 

 マジかよ。どんだけ美化されてるんだ、私。いや、私がそうあるように演じていたんだがな?何というか、そういう風に思われてるとは……。

 まぁ、生徒会長になる気はまっっったく無いけどな!!勧誘を避けてりゃその内飽きるだろう。

 

「どうして迷っているんだい?」

「……私には、誰かを率いることは向いていないと思ってな」

「僕はそうは思わないけど」

 

 本当、何でこんなに高評価なんだ?皆おかしいよ、何であっさり私の演技に騙されてるんだよ。前世では普通の優等生程度で、こんなに美化されるなんて無かったぞ。

 

「少なくとも、今の生徒会長よりよっぽど向いていると思うけどね」

「…………」

 

 何だか、今の生徒会長とやらが可哀想になってきた。周りは生徒会長を私にしろと騒ぎ立て、風紀委員長は、コレだ。私なら自主的に辞めてる。

 

「ま、考えておいてよ。風紀委員に入るか、生徒会長になるか」

「……ああ」

 

 あっ、二択なんですか。そうなんですか。ちくしょう、滅べ雲雀恭弥。

 表の顔は真剣に、裏の顔は般若の形相を浮かべながら、私は応接室から出ていった。

 中学生になっても、私の人生は中々思い通りに行かないものだ。

 

 

 ―――というか、普通に生徒会に勧誘ではなく、何で生徒会長にさせようと言うのか。疑問である。

 

 

 

 

 

 ▽△▽△

 

 

 

 

 ―――一つの影が、ざわりと蠢く。

 

 

『おや、僕に似た誰かが、この世界に存在しているなんて』

一世(プリーモ)に僕は仕えた。けれど―――君はどうかな?楽しみだね』

 

 ―――影は、ひっそりと笑った。

 

 

 




実は影宮は眼鏡キャラだったのだ……!
こいつにとっての娯楽がゲームと読書だからね、仕方ないね。尚、それは雲雀さんにはバレないようにしてる様子。

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