―――助けてほしい。この世に神が居るのなら、助けてほしい。それと一発殴らせろ。何故、私は此処にいるのか。
どうも、つい最近四歳になったケイ君だ。フルネームは影宮 桂馬という。
そんな私は、ギャハギャハと汚く笑い(偏見)、身体中を泥だらけにする(偏見)連中の本拠地に居る。その名は幼稚園。大人しい餓鬼も居るが、所詮は餓鬼だ。私は子供が嫌いなのだ。数多くのトラウマを築き上げたあいつらを、私は許さない。
外で遊ぶ奴等を放っといて、私は絵本を読むふりして昼寝でもしようかと思う。寝るのは嫌いじゃない。寧ろ、好きな部類なのだ。
「どうしたの?ケイ君」
(気安く呼ばないでくれますか。お前サマは他人ですよね)
そんなことは言えないので、何?と拙い口調でぶっきらぼうに言ってみる。反抗期な子供を演出しているのだ。ようするに―――この薄ら笑いを浮かべた先生とやらが、放っておいてくれるように誘導している。他人と関わるのは面倒だからな。この女、絶対に他の子供と絡むように口煩く言うに決まっている。
「何?じゃなくて……」
「放っておいてよ!」
大声で叫んで、絵本ごと隅っこへ移動する。
ふふふ、これでどうだ。面倒くさい子供だろう?放置しろ、放置。私はこんな面倒臭い奴放置したぞ。
「ケイ君」
な、何!?今度は生温い笑みと共にやって来ただと!?
こ、この女、何を考えている……!反抗期の言語能力の低い子供程、面倒臭い物は無いのだぞ……!?
「皆と一緒に遊びましょう?」
「嫌だ!しつこい!」
「皆が誘ってくれなくて、寂しいのよね」
ちげぇ!!何か妙な誤解されてるんだけど!!この女腹立つな!!
「ちょっ、こっちくんな」
半ば素で返しながら、歩き辛い小さな足でテコテコと逃げ回る。この野郎。
あまりにもしつこいので、「■■組」と書かれた教室から出て、隠れながら移動することにした。「ケイくーん?」という探索者の猫なで声が聞こえるが、知るか。私は逃げる。
「……うん?」
暫くそうしていると、何処からか大きな泣き声が聞こえた。おいおい、何だ。先生とやらはどうした。
声のする方向に目を向ける。其処には、まだ幼い子供に良く見られる、苛めという現場が見えた。
「うぇええん!」
「こいつ泣き出したぞ!」
「やっぱり泣き虫だ!ダメツナだ!!」
自分と同じ位の年頃の子供に囲われている、ツンツン頭の茶髪の少年。何やら泣かされている様子だが、私が行く必要は無いだろう。大人もいるしな。
……というか、ダメツナ。あいつ主人公か。この頃からダメツナと呼ばれていたのか。
母には仲良くするのよー、なんて言われたが、助ける義理は無いのでスルー。人が全くいない空き教室に入る。嗚呼、煩い輩がいないので落ち着くな……。
大人しく絵本を読むふりをして、ブツブツと溜まった鬱憤を吐き散らす。
「この頃から態々群れる必要も有るまい……、何故、奴等は私を名も知らぬ他人と組み合わせたがるのだ」
「その通り」
「私は奴等と同じ空間に居るのであれば、一人で十分なのだ。奴等は分かっていない。一緒に居れば居るほど、ストレスになる輩がいるのだと」
「同じ考えだ。気が合いそうだね」
「そうだな。他の子供よりは、君は面倒ではなさそうだ。……?」
待て。私は、今誰と話している?
「どうしたの?」
顔を上げれば、目の前には、ほんの少し目付きの悪い、しかし可愛らしい黒髪の少年。首を傾げた私が気になったのか、少年も首を傾げている。
「……。いや、君は何時から其処に……」
「初めからだよ。僕、沢山の人と一緒だと、気分が悪くなっちゃうんだ。だから、此処に隠れてたの」
そ、そうなのか。こんなに小さい内から苦労しているな。
「そしたら君が来て、何だかブツブツ文句言ってたから、気になって寄ってみた」
「そうか」
まぁ、良いだろう。話していて嫌な子供じゃ無さそうだ。これでギャーギャー喚くクソガキだったら、ぶん殴っていた所だ。暴力はいけない?馬鹿め、こんな小さい拳で大怪我するものか。今の私は非力だぞ。
「君の名前は?」
「私か。私は、影宮桂馬だ。君は?」
「僕の名前は―――」
その瞬間。私は、此処から逃げ出したくなる衝動に刈られた。
「雲雀恭弥。呼び方はどうでもいいよ」
―――いやいやいや待て待て待て!!
え、マジで?こいつが雲雀恭弥?嘘だろ??見るからに理知的で温厚そうな感じの奴だぞ!?
しかも、お前幼稚園に通ってたのかよ!!本編見る限り、絶対通わないと思ってたわ!!
……あ、そうか。小さい頃から凶悪な奴とは限らない。考えてみれば分かることだ。人は変わるものだからな。
だけどこいつ、大きくなればちょっと群れただけで半殺しにしてくる奴に変貌するんだろ?嫌だ、そんな奴と付き合いたくねぇ。しかし、こいつは何故か私を気に入ったようで、隣にナチュナルに座ってきやがった。何故だ。群れたくないみたいなこと言ったからか。数分前の私を助走つけて蹴り飛ばしたい。
「君とは長い付き合いになりそうだ」
「ソウダナ」
―――……拝啓。元の世界の風紀委員長推しの友人へ。未来の群れてる奴絶対かみ殺すマンと仲間になりました。出来れば私とポジションを変わって下さい。
▽△▽△
フラグ回避出来たのに……!!あんの未来のマフィアのボスの友人フラグは回避出来たのに……!!
なぁんで未来の雲の守護者とオトモダチになってんだ、私ぃいいい!!
「あら、お友達出来たの?ケイ君」
「……う、うん」
「初めまして」
隣で挨拶をする雲雀恭弥と母さんを、疲れたように見やる。雲雀恭弥を拒絶することも考えたが、将来が怖いので我慢した。偉いぞ私。というか、ちっこいのに案外しっかりしてるな、雲雀恭弥。
やっと帰りの時刻となったので、私は母さんに、雲雀恭弥はお手伝いさんに迎えに来てもらったのだ。お手伝いさんて何だよ。そういやお前、すげぇ家に住んでたな。
「それにしても、嬉しいわぁ。ケイ君たら、中々お友達作らないんだもの」
「そうなの?」
「ええ。貴方はケイ君の、初めてのお友達ね」
「!ぼ、僕も。僕も、ケイ君が初めての友人だ……」
「あらあら、御揃いね」
この女ァ……!要らん情報を……!!
目を輝かせる雲雀恭弥に、さっさと飽きてもらおう作戦は暫く通用しないことが分かった。ちくしょう。
「じゃ、また明日……!」
嬉しそうに手を振って去っていく雲雀恭弥に、此方も形だけ手を振って返してやった。あいつは将来がとてつもなく凶悪な野郎なので、復讐を恐れて無下に扱えないのだ。クソが。
「ふふっ、可愛らしい子だったわね」
せやな。
母さんの言葉に適当に相槌を打ちつつ、手を繋いで帰路につく。園児だからな。我慢しよう。
私ってほんとバカ……。何で周りを良く確認しないで、素であんなことを呟いて……。だから雲雀恭弥なんてヤバイ奴の友達扱いになるんだ。私は認めてないがな!!
「今日のご飯は何にする?」
「ハンバーグが良いな」
自棄食いだ……今日は自棄食いしてやる……!!
そんなちっぽけなことを考えていた私は、気付かない。
将来―――私は、ボンゴレファミリーと付き合う運命にあると。そんなもん、気付かない方が幸せだけどな!!
次からすっ飛ばして、中学生入学編を開始したいと思ってます。モチベが上がったら書く。