とあるひねくれ者は悲嘆に暮れる。   作:ねむたい人

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道化編。
お待たせしました。セーフ!セーフ!!期限内に間に合った!!


優等生は仮面の裏を見せない。

 

 

 世界は、何時だって残酷だ―――使い古された悲劇の悪役のような言葉だが、六道骸はそう思っている。

 

 

 物心ついた頃には、彼は其処に居た。真っ黒でドロドロな、穢らわしい世界に。

 子供達の悲鳴、おぞましい機械の音、汚い人間達の笑い声。そして、数多の亡骸達。

 自分も周囲の被害者と同じように叫び出したかった。狂いたかった。けれど、自分の心が、憎悪という感情が、それを許さない。復讐しろと、ずっと呪詛の言葉を投げかけてくるのだ。

 そして―――反撃の時は、来る。

 

(……そう。それから、僕達の復讐劇は始まった)

 

 特殊な瞳を埋め込まれ、その力によって、自分をこんな身体にしたファミリーを、マフィアを手始めに殲滅した。そして、その際に二人の共犯者を手に入れる。

 あちこちのファミリーを転々とした。どんなに優しくされようと、甘やかされようと、最後には壊す。この憎悪の炎は、マフィアの偽善などで鎮火することはない。

 壊すのだ。世界を。全てを。こんな穢れた世界は、いっそのこと消えた方が良い。それが、六道骸の復讐なのだ。

 

 

 そして数年後。精神世界を渡っている中で、骸は彼と出会うこととなる。

 

 

 彼は悲しいほどに自分に厳しい人間だ。こんなにも精神が荒れるまで本当の自分を鎖で縛り付け、本性を隠している。少しも醜いソレを見せたくはないと、言わんばかりに。

 きっと現実の彼は、清廉潔白な優等生だ。偽善だらけの言動を繰り返すだけの、骸が最も嫌う人種。こんなにも自分を抑え込んでいるのだから、汚い部分など一切漏れていないのだろう。

 恵まれた環境で、こんな人間が生まれるものなのか。初めて彼の世界を見た時は、顔には出さないが愕然とした。他の人間に受け入れて貰いたいからと、異端な思考を持つ自分を縛り付けていると、孤独は寒いと掠れた声で言う彼を見て、興味が湧いた。自分達と良く似た、彼に。拒絶されたが、会いたいという気持ちに偽りは無い。

 

 二度目に出会った時は、拘束が大分外れた姿だった。信じたいと思える人間が出来たのだろう。

 

 それでも、彼は頑なに信じることを否定する。まるで涙を流すかのように精神世界では雨が降っていて、悲しくて仕方ないというのが、丸分かりだと言うのに。

 問えば問う程、彼の本音はボロボロと零れた。

 本性を表したいと思う程の、その本性さえも受け入れて欲しいと思う程の信じたい仲間が出来た。しかし本性を表せば、彼等は離れていってしまうかもしれないと、完全に信じきることが出来ない。こんな自分の傍に居てくれるというのに。それが悲しくて仕方ない。彼の心は、そう訴えかけている。

 彼の本音は分かりやす過ぎた。違う、違うと震えた声で否定する彼を、憐れむ。

 そんな彼を―――一般人だというのに、異端な思考を持つ彼を、救いたいと思った。自分達の道は、確実に地獄だろう。しかし、彼はそのままの状態でも地獄だ。同じ地獄なら、此方側の方が良いだろう。

 自分達と真逆の環境に居る癖に、自分達とそっくりな彼。自分達と何処か重なる心情。

 

 

 そんな彼/同類に、手を差し伸べる。

 

 

(しかし―――あの声の持ち主に、邪魔をされた)

 

 手を伸ばそうとした彼を連れ去ったアレは、相当厄介な術士だろう。骸でさえ手出し出来なかった。……夢の中では、だが。現実ではどうなるか分からない。そもそも、確実にアレは不意打ちだった。

 

(……影宮桂馬。貴方は、一体何を抱えているのだろうか)

 

 あの精神世界。謎の術士。彼の興味は尽きない。

 そして―――ターゲットの近くに存在する彼の姿を見て、更に興味深くなった。

 

(まぁ、彼はあの少年を、マフィアだとは思わなかったようだが。……いや、それさえも仮面だとしたら?)

 

 

 そして、今。

 

 

 友人というポジション、優等生の中の優等生だという、ターゲットの心を揺さぶるに相応しい彼に、再び手を差し伸べる。

 

(利用しようとしているのは認めよう。しかし―――彼の心を救いたいと思ったのは、嘘ではない)

 

 ランキングの星と更新出来るという少年、フゥ太を浚い、影宮桂馬の載っているランキングを、そのランキングが記された分厚い本で調べた。

 人嫌い、心の内に秘めた物を持つ者、本心を見せない者、次から次へと、噂とは正反対のランキングの上位に食い込んでいる。やはり、彼はその本心を押し殺して生きていたのだ。

 

「……時間をくれ。私は……その手を取るべきか。じっくり考えたい」

 

(―――嗚呼、その答えは予想していましたよ)

 

 仲間を信じたいと願った男が、簡単に頷く訳が無い。しかし、その眉間の皺が、隠しきれていない小さく震えた声が、相当苦悩していることを知らせていた。

 

「クフフ……今はそれで良いですよ」

 

 だが。

 

(彼は、何れ此方側へと堕ちてくるだろう。本性をさらけ出せば、人間なんて直ぐに見捨てる奴等ばかりだ。それが―――醜悪であれば、あるほど)

 

 そうして、友人である影宮と彼の本性に動揺する沢田綱吉を戦わせ、消耗させる。聞いたところ、ボンゴレファミリーの十代目ボスは相当な甘い人間だ。簡単に揺さぶることが出来るだろう。

 もしくは、影宮を人質にして沢田綱吉を操るのもありかもしれない。彼の熱狂的な信者もいるようだし、そいつらをけしかけるのもありだ。なんて利用しがいのある人間(人形)なのだろうか。

 

 くすくすと笑えば、びくりと怯えたように彼は僅かに後退した。いけない、今の彼は繊細だ。怖がらせてしまったのだろう。

 

「大丈夫ですよ、君を傷付ける気はありませんから」

 

 

 ―――さぁ。僕と共に、彼等の様子を観察しましょうか。影宮桂馬?

 

 

 

 

 

 

 

 ▽△▽△

 

 

 

 

 

 

(ひぇ……、あいつ何故か此方見て笑ってるんだが……!顔色悪いし雰囲気胡散臭ぇしこえーんだよテメェ!!軽くホラーだよ!!)

 

 

 私はとうとう黒曜編にまで巻き込まれて胃痛がしてきた影宮桂馬である。そろそろ胃薬が欲しくなってきたぞぉ!!

 

 

 というか、絶対あいつ私を利用する気満々だよ。沢田綱吉の友人(仮)だし、何か崇拝してくる奴等もいるし。あのカルト染みた奴等、何かで利用出来そうだよな。いっそのこと、私もあいつらのことを利用してやろうか。

 ……いや、そんなことを考えている暇は無い。早く、早くこの状況を打破する手段を考えなければ。

 どちらにつくか悩んでいるフリをして、ぐしゃりと両手で髪ごと頭を掴み、俯く。

 考えろ、考えろ!私だけでも、いや、私だけが生き残る方法を……!!

 

「……桂兄?」

「!」

 

 カタン。

 

 物音がしたかと思ったら、フゥ太が入口に立っていた。

 

「……っ、ふ、フゥ、太……?」

 

 光の無い虚ろな瞳、目下の隈、ふらついた身体。

 あ、完璧洗脳されてやがるぞこれ。いや、本編の奴等はマインドコントロール、と称していたか。六道骸って結構多才だよな。

 様子のおかしいフゥ太に動揺した素振りを見せながら、頭から手を離して急いで駆け寄る。ランキングの為に誘拐されたんだったんだよ、な?くそっ、一々本編の内容などハッキリ覚えていられるか!!何年読んでないと思ってるんだ!!

 

「ど、どうした?目の下が黒い、ちゃんと眠れているのか?どうして此処に……」

「桂兄も、骸さんについていくの……?」

 

 質問に答えろクソガキ!

 ……いやいやいや、幾ら何でも沸点が低すぎだろ私、余裕を持て。ああ、くそっ!上手く頭が回らない!!

 

「そ、それ、は」

「彼は迷っているんですよ。君なら知っているでしょう?彼が、人を簡単に信じられない男だということを」

「うん……他人を信用しないマフィアランキング、112位だった」

「ふ……、マフィア、ですか」

 

 誰がマフィアだ殺すぞクソガキ。あと笑うんじゃねぇその髪毟るぞ六道骸ォ!!

 ……い、や。冷静になれ。六道骸は、マフィアに対して嘲笑したんだ。私ではない。でも普通にむかつくわこいつ。

 

「薄々勘付いていた筈だ。彼の本当の顔は、こんなに綺麗じゃないことを」

「…………」

 

 六道骸の言葉に、こくりと悲しそうな顔で頷くフゥ太。うるせぇ人の性格にケチ付けんな!

 というか今更かよ。私もフゥ太なら気付いてるだろうとは思ってたわ。

 

「フゥ太……」

「分かってたんだ。子供嫌いランキング上位の桂兄が、僕達へそんな心配そうな……優しい顔をする訳無いって。……演技だって、分かってた。でも、信じたくなかったんだ」

 

 泣きそうな顔で私を見上げるフゥ太。そんなフゥ太を見て、六道骸は嘲笑う。

 

「ほら、これで分かったでしょう?貴方が信じたい者達は、仮面を被った貴方を望んでいる。本当の貴方なんて、受け入れてもらえないんですよ」

「…………」

 

 ……ヤベェ。

 

 

 …………このまま悪役ルートに進む道しか、見えない。

 

 

 いっそのこと、「夢の中の私も演技だフハハハ」というネタバラシを……いや、駄目だ。六道骸のプライドをへし折った結果ボコボコにされて殺されるのがオチだ。そもそも、この「憐れな私」を演じたのは六道骸に殺されないためであって……ああ、駄目だ。これで、詰みなのか……?

 

 ……いや。

 

「……フゥ太」

「な、に?」

「君は……いや、"貴様"は」

 

 怯えた表情を見せるフゥ太の肩をしっかりと掴み、しゃがんで視線を合わせる。

 

「―――貴様は悪くない。何も、悪くないんだ。ずっと善良なフリして騙していた私が悪いし、ランキングを悪用されたのも六道骸のせいだ。だから……」

 

 

 "皆、お前の味方だ。安心して日溜まりの中へ帰っても良いんだぞ"。

 

 

「……!!」

 

 瞬間、苦痛の表情を浮かべ、頭を押さえるフゥ太。

 

 ―――マインドコントロールを解く方法は、本人の一番望むことを口にすること。

 

 それは、見せ場の一つであったフゥ太のマインドコントロールを解くシーンで良く学んでいた。それに、この状況の子供が望む言葉なんて分かりやす過ぎるんだ。こうやって簡単に解けた。

 

「桂、兄……」

 

 倒れ込んで来るフゥ太を受け止め、私は六道骸をしゃがんだ体勢のまま見上げる。

 

「ほう、本人の一番望む言葉を口にして、マインドコントロールを解きましたか。それで、どうするんです?」

「……フゥ太は、私のプランの邪魔になるだけだ。その辺に転がしておけば良いだろう」

「貴方は?」

 

 常の丁寧な聞きやすい声色を止め、素の低く荒い声色に変えた私へ、楽しそうに六道骸は問い掛ける。

 

「私は……」

 

 ぐっ、と迷うように瞳を固く閉じ……振り払うように勢い良く見開いた。

 

「私は、貴様らと共に行こう。所詮は甘い連中だ、容易に片が付く」

 

 

 そう言って―――今まで誰にも見せていなかった、ドス黒い嘲笑を浮かべれば、六道骸は満足そうに笑った。

 

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………全部、演技だけどな!!此処まで来たらもう全部、騙しきってやるよ!!くそがっ!!

 

 

 

 

 

 




……正直に言います。GWの投稿、ゲームやってて遅れました。ペルソナ5、楽しかったです。

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