とあるひねくれ者は悲嘆に暮れる。   作:ねむたい人

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黒曜編、始動。

読み辛いと指摘されてちょいちょい書き直したけど変わらん気がするぞ、この書き方。所詮は素人の娯楽なので、多目に見てください。


運命に縛り付けられる第二部開始。
斯くして、演者は死地へと赴く。


 

 

 夢から追い出されるように目が覚めて、私は考える。

 

 

 私は分かっていた。夢の男が、まるでお人好しのように振る舞っていたのを。そして、数多の人間のように醜い思考を持っていたことを。

 

 しかしそれは、大したことではないと私は思う。周囲の人間に迷惑を掛けたか?他人を不幸に陥れたか?答えは否。私の見ていない所ではそういったことをしていたかもしれないが、私には関係の無いことだ。

 だが、名前が未だに分からないあいつは、とんでもないことをしてくれた……そこが問題である。

 

「(……何が仕組まれた運命だ―――あの詐欺師め。思春期特有のアレ(中二病)か?)」

 

 恐らくあいつは、まだ何かを隠している。私にそれらを隠した上で本性を晒し、私が本編に関わるように仕組んだのは自分だと告げたのだ。否、そもそもアレが本性だとも限らない。

 ……まぁ、本編に関わり過ぎて何かしら仕組まれているのでは、と考えたことはある。だが、まさか怪しすぎて除外していたあいつだとは思わなかった。というか、占いでどうやって仕組むのだ。オカルトはくっだらねぇと思っていたので良く分からん。

 

「(面倒なことがまた増えたぞ……)」

 

 溜め息一つ。もうあいつのことを考えるのは止めよう。どうせあいつは夢の中の住人だ、現実で夢のストレスを抱えてどうする。その内現実にやって来そうだが。

 

「…………」

 

 二度寝しよう。そして夢のことは忘れよう。そうだ、それが良い。

 

 

 そうして私は、夢の中の男に会うことも無く、平和な日々を過ごすこととなる―――

 

 

 

 

 

 

 

 ▽△▽△

 

 

 

 

 

 

 全然平和じゃねぇよ。ふざけんな。

 

 

 あの夢から少し経った頃。私は並盛中学生襲撃事件について、頭を抱えていた。

 土日を挟んで、数人の被害者が出たらしい。その多くは喧嘩の強い風紀委員。

 あ、これもう確定ですね。見たことも聞いたこともある事件だ。黒曜編開始かよ。

 

 教師に被害者から話を聞いてこいとパシられて、私は並盛中央病院に来ている。普通、そういうことは警察に頼むものでは?無害な生徒にやらせるなよあの無能共。大方、雲雀恭弥や私のような生徒が解決してくれるものだと思っているのだろうが。理由が何であれ腹立つなクソが。

 

「黒曜生、ですか……」

「ああ……、確かにヤツは、黒曜中の制服を着ていた……」

 

 表面上真剣に話を聞いているのは、口を聞ける程度には回復した、襲撃事件に関わった並中生徒。確か、三年の持田という生徒だ。剣道部の主将で、初死ぬ気モードの沢田綱吉に禿げにされていたので良く覚えていた。今はきちんとフッサフサだが、憐れな。因みにその現場は風邪で休んでいたので、私は見ていない。

 襲撃事件の犯人の特徴は歯を抜き取っていくことらしく、持田も話し辛そうに必死に口を動かしている。間抜けな顔だな。

 

「すみません、怪我も治ってないのに」

 

 ありがとうございました、と申し訳なさそうに言って病室から出ていこうとすると、持田が待て、と引き止めた。何だ真剣な顔して、間抜け面が台無しだぞ。

 

「奴等は、何かを探しているようにも見えた……、会長、お前も気を付けろ……」

「!……はい」

 

 え、何そのフラグ。や、やめろよ、私はその黒曜生に関わる気は無いんだよ。おかしなフラグを立てるな、そのボロ雑巾のような身体に追い打ちをかけるぞ。

 忠告を受け入れたように表情を引き締めれば、持田は満足して目を閉じる。とても不快な気分になったが、私は心優しい生徒会長なので、何も言わずに病室を出てやった。あいつ早くボンゴレ狩りの被害受けねぇかな。

 

「!影宮君!!」

 

 ……げ。

 

「沢田綱吉、リボーン君。何故君達が此処に……」

 

 エントランスに着いた途端、沢田綱吉とリボーンを発見。しかも話し掛けられた。うわぁ。

 というか、本当に何で居るんだったか。理由があったような……。

 

「了平がやられて見舞いに来たんだぞ」

「!あの人が……!?」

 

 そうだ、あいつも狙われたんだ。フゥ太の並盛喧嘩ランキングをなぞっていく感じだったよな、確か。

 私は心底驚いたように目を見開き、やがて眉間に皺を寄せて目を細める。事情は知らないけど、知人を傷付けられて怒ってますよアピールだ。

 

「まぁ落ち着け、影宮」

「しかし……!」

「だ、大丈夫だよ!ヒバリさんがもう敵の本拠地に向かったらしいし!!」

 

 え、もう向かったの?早すぎだろあいつ。

 

「雲雀恭弥が……、そう、か」

 

 雲雀恭弥が動いたのなら、もう大丈夫だろうと言わんばかりにほっと胸を撫で下ろす。いや、実際はあの南国果実にボッコボコにされているのだろうが。ざまぁ。

 ……それにしても、何も知らない演技は結構面倒だな。しかも黒曜編はテコ入れの始まり回だったので、えらく鮮明に覚えている。初めて読んだ時は困惑したなぁ、いきなりギャグ漫画がバトル漫画へと移行し始めたのだから。

 

「信頼してるんだな」

「あいつが同世代との喧嘩で負けた姿など、見たことが無いからな」

 

 ふっ、と不敵に微笑んでおく。花見回はどうしたって?あれは特殊な状況下だったからなぁ。

 因みに信頼じゃないです、言葉の通りです。そもそも六道骸にボロボロにされるなんて、黒曜編が始まった今でも信じられんくらいだからな。あの化け物の上に更に化け物が居るとは、原作漫画を読んでいなかったら思わなかったことだろう。

 

「幼馴染みでも見たこと無いんだ……」

「強いからな、あいつは。流石に毒や病に勝てるかと言われれば難しいが、ただの喧嘩では負け無しだと言える。……私はそろそろ学校に戻るとするよ。被害者から話も聞けたし」

 

 沢田綱吉の言葉に頷いて、別れを切り出す。何時までもこいつらと居ると、黒曜編に引き摺り込まれそうだからな。

 

「だから病院に来てたのか」

「ああ。君達も、此処に世話になるような怪我をしないように気を付けてな」

 

 ぽん、と軽く沢田綱吉の肩を叩いて、二人に背を向ける。

 

「影宮」

 

 ……のだが、リボーンに話し掛けられた。

 な、何だ。まだ何かあるのか?絶対貴様らの喧嘩には付き合わんぞ。

 

「……どうした?」

「お前も油断するんじゃねぇぞ」

「ふ、分かっているさ」

 

 何だ、そんなことか。良かった、殴り込みに誘われる訳じゃないんだな。

 

「またな」

 

 薄く笑い、急ぎ足で病院から出ようと真っ直ぐ出口へ向かう。あー、やだやだ。これだからマフィアは嫌なんだ。話す時でさえ気を抜けない。ま、今回は特に関わりそうに無いし、安全地帯でゆっくり休もう。緊張で凝り固まった筋肉をぐっ、と伸ばし、若干気を抜いた。

 そして、自動ドアが開く―――

 

 

「みーつけたァ!」

 

 

 最後に見たのは、上から降ってくる黒曜中の制服だった。

 

 

 

 

 

 

 △▽△▽

 

 

 

 

 

 

 沢田綱吉は、焦っていた。

 

 

 それもお人好しの彼なら当然だ。襲撃事件が自身への挑発だと家庭教師に告げられ、しかも友人達にさえも危害が加えられようとしているのなら。

 ランキング順に襲われているのならば、次は()()の獄寺隼人だろうと綱吉は病院から飛び出し、いるであろう自分の学校へと急ぐ。家庭教師であるリボーンは調べ事があるということで、別行動だ。

 途中、また善意で訳の分からないことをしてきた三浦ハルが居たが、それは置いておこう。

 

「ええっ、早退したー!?」

「ちょっ、コラ沢田!!来て早々帰るなー!」

 

 学校に到着し、教師に話を聞けば、獄寺は帰ったという。教師に怒鳴られたが、綱吉は部下の為に街を駆け回った。

 しかし―――

 

 

 結局、綱吉は足手纏いになってしまった。

 

 

 倒したと思われるボロボロの敵が立ち上がり、綱吉に武器を放って獄寺が庇ったのだ。

 無数の針が獄寺の胸元に刺さり、血が滲んでいく。どんなに声を掛けても、獄寺は起きない。いや、起きられないのだ。針の毒に侵され、死んだように気絶をしている。

 そして、敵の黒曜生が武器を放った。

 

 やられる―――そう思った瞬間。

 

「滑り込みセーフってとこだな」

「山本ぉ!」

 

 何時ものようにニッカリと笑う援軍が来た。山本武である。

 だが、血に濡れた獄寺を見て、その雰囲気は一変する。滅多に怒らない山本が、険しい表情になったのだ。

 敵の武器をバットを振るうことで刀に変え、弾いた。

 

「そうか……、お前は並盛中学2ーA、出席番号15番。山本武……」

「(は!そーいや山本、並中ケンカの強さランク3位だった……)」

「だったらなんだ」

 

 敵の黒曜生―――柿本千種の言葉に、何時にもなく低い声で返す山本。

 

「お前は犬の獲物……揉めるのめんどい……」

 

 が、柿本は警察が此方に寄ってくるのを聞いて、あっさりとその場を立ち去った。

 

「はっ、獄寺君大丈夫!?」

「しっかりしろ!獄寺!?」

 

 そして酷い怪我を負った獄寺は、リボーンの「病院は危険だ」の一言に、シャマルが居るであろう保健室で入院することとなった。

 

「…………」

 

 周りが騒がしい中、綱吉は静かに自分を庇った部下を眺める。

 呼吸器を付けて眠る獄寺に、罪悪感が湧いた。

 

「(オレのせいで、獄寺君が……)」

 

 沈痛な面持ちで廊下に出た先で、綱吉はリボーンに知らされることとなる。

 

 

 9代目の命令で、どう足掻いても元凶を倒さねばならない。そして、何故か友人の影宮桂馬が浚われた、と―――

 

 

 

 

 

 

 △▽△▽

 

 

 

 

 

「クフフ……良く連れて来てくれました、犬」

「すげー隙だらけでしたよ?使えるんれすか、そいつ」

「大方、1位が此方に来たので気を抜いていたのでしょう」

 

 

 ―――此処、は……。

 

 

「おや、目が覚めましたか」

「……ぅ……」

 

 後頭部を殴られたのか、すげぇ痛い。剣道部主将とリボーンの言葉はフラグだったか。死ねば良いのに。

 聞き覚えのある声にのろのろと重たい瞼を開ければ、()()()()()()()()()()()()が目に映った。

 ……は?

 

「久しぶりです。またお会いしましたね」

「……夢、なのか……?」

「いえ、現実ですよ。……此方では初めまして、でしたね。影宮桂馬」

 

 クソォ、夢と言って欲しかった……!!

 とりあえず、現実を受け止める努力をしながら、木製の床からふらりと立ち上がる。

 目の前に居るのは―――六道骸。並中襲撃事件の犯人だ。余裕な笑みを浮かべてソファに座っている。

 城島犬もこの場に居たのだが、興味を無くしたのか、直ぐにこの部屋から出ていった。おい、こいつと二人きりにするんじゃねぇ。

 

「クフフ。この町に来てから、貴方の噂を沢山耳にしましたよ。最凶の風紀委員長の幼馴染み、並中の生徒会長、そして―――並盛の良心」

 

 コツリ。

 

 靴を鳴らしながら、六道骸も立ち上がった。ひぇ。

 

「皆が皆、貴方を善人だと信じている。……貴方のオトモダチ、沢田綱吉でさえも」

「……沢田綱吉?どうして、その名前が……」

「おや、知らないのですか?いや、知らされていないのか。彼はマフィアですよ。ボンゴレファミリーの次期ボスだ。僕は彼を目的に、この地にやって来たんです」

 

 一歩近付いてきた六道骸に、此方は一歩後退する。近寄るんじゃねぇ!!このクソ中二設定詰め込みまくった南国果実野郎が!!

 表情は六道骸の告げた言葉に驚いて、僅かに目を見開いている。だって何も知らない生徒会長様ですし。

 

「い、いや、そんな筈は……!あいつは争いが苦手な優しい男だぞ……!?」

 

 お人好しとも言う。あいつあんなんでマフィアのボスになれるのか?同情するわ。一切代わりたいとは思わないが。

 

「しかし、真実だ。それにしても、驚きましたよ。まさか、標的の側に貴方がいるだなんて」

「っ違う!何かの間違いだ、沢田綱吉はマフィアなどでは―――」

「お人好しの演技はやめたらどうです?君の本性がどんなに醜かろうと、並中の生徒を襲った敵である僕には、関係の無いことだ」

 

 どうにか自分の話題を逸らそうとするが、六道骸には通用しない。寧ろ、本性を暴こうと誘ってくる。頭が良い奴はこれだから嫌いなんだ。無能も嫌いだが。

 

 ……どうする。彼方は完全に、夢の中の私のことを勘違いしていた。仲間を信じたいけど信じられなくて、本性を曝け出せない臆病な奴、それが私だと。後は、生まれた時からヤベェ思考を持った異端だったから、縛り付けるように本性を隠した奴、だったか?誰だよその悲劇のキャラクター。私か。

 

「…………」

 

 気付けば、手を伸ばせば届く距離に、六道骸は居た。

 こいつムカつくくらい美形だな。ちょっとぶん殴っても良いだろうか。

 

「影宮桂馬。貴方はどうしますか?敵に回るか、それとも―――この手を取るか」

「なっ……!」

「人の汚い本性など、僕は見飽きています。君を受け入れると、約束しますよ」

 

 ……そういや、前回はあの白髪頭(と書いてしらがあたまと読む。嫌がらせである)が乱入してきたから助かったんだよな。今回はどうするか。此処で手を取ったら、あの包帯ぐるぐる巻きの看守共に鎖で繋がれる可能性がある。それだけは絶対に嫌だ。

 

 すっ、と手を差し出す六道骸。しかし、私の答えは決まっている。

 

 

「……時間をくれ。私は……その手を取るべきか。それをじっくり考えたい」

 

 

 苦し気に目を逸らしながらそう言って、私はこうして予防線を張った。

 

 ……此処は現実だ。沢田綱吉が負けないとも限らない。しかし私は、私だけは、必ず生き延びてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




久々に更新。最近忙しかったので、余裕ある時にちまちま書いてました。

六道骸がヤツを勧誘した理由は次回に。

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