とあるひねくれ者は悲嘆に暮れる。   作:ねむたい人

17 / 19
夏祭り回。
執筆用の相棒(スマホ)が壊れたんで更新遅れました。今後のプロットも書き直してたんで死にそうでした。楽しみにしていた方はすみません。



ひねくれ者は……。

 

 

「夏祭り?」

『そうだ』

 

 

 季節は夏。茹だるような暑さの中、今日も今日とて悪魔(リボーン)の声を、携帯越しに聞いていた。

 

 

『今日は夏祭りの日だ。影宮も一緒に行かないか?』

 

 しっかりと覚えてますが何か?書記が花火花火と煩かったからな。というか、このぶっ壊れたテレビ並に使えない原作知識の中に何だか嫌な予感しかしない夏祭りがあったので、行かない気満々である。何故私が、お前らみたいな危険生物達に付き合わなくてはいかんのだ。しかも今日は面倒な用事があるし。

 

「すまない、午後から母親のショッピングに付き合わなくてはいけないんだ」

『花火が見れる時間に間に合えば構わねぇぞ。並盛神社に集合な』

 

 ブツッ。

 

「は?いや、私は……切れてる」

 

 そして切れた携帯を見て私もキレてる。そろそろあいつの横暴にぶちギレても良いんじゃないかな。……駄目だ、抑えろ。私は心の優しい生徒会長だ。

 つか、こんな一方的な約束なんぞ蹴っても……いや、駄目だわ。約束を忘れるような、悪い影宮クンなんていないのだ。しかも約束事はメモする癖があるので、そんなことはあのクソ忌々しい赤ん坊には筒抜けだろうし。詰んだ。

 

「はぁ……、仕方ないか」

 

 

 あいつら何時かボコる。絶対に。

 

 

 

 

 

 

 

 ▽△▽△

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 無言。ひたすら無言で、石畳の階段を上へ上へと進んでいく。今は夕方。そろそろ暗くなる時間帯だ。

 正直、母さんの買い物に付き合っただけでも面倒だというのに、何故私がこんな目に……。

 並盛神社の階段は結構長いが、前世の貧弱な身体ではないので、肉体的には疲れはしない。大体雲雀恭弥のせいである。

 

「…………」

 

 ふと、そろそろ神社の領域へと近付いてきた辺りで、足が止まる。

 ……音がする。それも、幼馴染みのせいで聞き慣れた、物騒な―――人を殴る音。

 

「……っ」

 

 思わず後退りしそうになるが、此処が階段だということを思い出し、踏み止まる。

 これ、絶対本編の奴等(あいつら)関係だよな!?私のあいつらと付き合った一年間の直感がそう言っている!!こわっ!近寄らんとこ!!

 

「誰だ?」

「「「!!」」」

 

 聞き慣れた赤ん坊の声がした途端、複数の人間の視線が此方に向いたのが分かった。ひぇっ……。

 

 ―――このまま逃げても、追い付かれる。というか、リボーン辺りなら逃げたのが誰なのか、気付いてもおかしくはない。しかも荒事が苦手とは言え、赤ん坊が乱闘の場に居るのに放っておくのは、お優しい生徒会長として不自然だ。誰かが一方的に殴られているかもしれない可能性があるのに、尚更である。

 

 く、そぉ!!行かない手は無いじゃねぇか!!

 一気に階段を駆け上がり、念のため背中に提げていた竹刀袋から、木刀を取り出した。

 

「……私だ」

「「!」」

「影宮!!」

 

 パンツ一枚の半裸な沢田綱吉に、何故か呼び捨てで名前を呼ばれた。さんを付けろよデコ助野郎!!

 確か、死ぬ気モードだと部下を呼び捨てにする感じだったような……何で要らん知識は覚えているんだ。本当に役に立たんなこれ。死ね。

 辺りをちらりと見渡せば、乱闘があれば突っ込んでいく暴走列車・雲雀恭弥、沢田綱吉の部下二人、未来の化け物マフィア・獄寺隼人と山本武が、武器を持って不良達を殴り飛ばしていた。うわぁ、野蛮人だ……こいつらと一緒にされたくねぇ……。

 

「その木刀と眼鏡……こ、こいつは確か!」

「知ってんのか!?」

「並盛最凶の風紀委員長の幼馴染み―――並盛の良心とか呼ばれてやがる、並中の生徒会長だ!!」

 

 モブが何やらどよめいている。な、何だその二つ名。またおかしな噂が立てられてやがるのか?

 ……ま、今はどうでも良いことだ。こいつらを地面に這いつくばらせることが重要なのだから。

 

 そして私は―――何時ものお人好しな優等生の影宮クンではなく、眉間に皺を寄せた、心底不快だ、とでも言うような表情を作った。半分本物だがな。

 

「良心ンン??ならこいつは、甘ちゃんってことだよなぁ!?」

「やっちまえ!!」

 

 何やら馬鹿が三人くらい襲い掛かって来たので、振るわれた拳を低い体勢で避け、一気に木刀で薙ぎ倒した。馬鹿なりにもっと頭使って戦えよ。不良の噂になってるくらいだから、実力は分かる筈だろう?……ま、将来何の役にも立たん力だけどなぁ!!

 

「―――遅い」

 

 その後、次々と馬鹿の一つ覚えのように拳を振りかぶって攻撃してくるもんだから、がら空きの腹に踏み抜くように蹴り飛ばし、顔面に空いた拳を振るい、木刀で脇腹を叩く。ヒャッハー!弱いぞ貴様らー!!

 

「ああ―――不快だ」

 

 殴る、蹴る、振るう。低い声を意図的に出す。

 

「……私は、とても怒っている」

 

 そう、優しい影宮クンは怒っているのだ。

 

「どうしてか、分かるか?」

 

 刃物のように、鋭く目を細める。その理由は、

 

 

「君達は―――私の友人達を傷付けたからだ」

 

 

 ……よし!これで雑魚相手に楽しんでいるとは思われないだろう!!全員叩きのめしてやるぜヒャッハー!!

 雑魚相手は良いよなぁ?優越感半端無ぇし、何よりストレス発散が出来る!!オラァ!貴様らに八つ当たりさせろぉ!!

 

「影宮おっかねー……」

「な、何だあいつ」

 

 何故か顔を引き攣らせる山本武と獄寺隼人に、疑問符を浮かべる。お前ら、今の私よりクソ強くなる化け物の癖して何言ってんだ。

 

「……獲物を横取りする奴が増えた……」

「ぐはぁっ!」

「すまん、雲雀恭弥。今は抑えられそうにないん、だ!」

「がっ!?」

 

 不満そうな雲雀恭弥の言葉に謝罪しつつも、周りのただ向かってくる能無しをぶちのめす。私ばかり不条理なことだらけだし、たまにはこんなことも良いよな!どうせ襲ってくるような頭おかしい奴等だし、正当防衛だよ、正当防衛。

 

「珍しいね。君がそんな風になるなんて」

「友人が傷付けられれば、誰だってそうなるだろう」

「へぇ、そんなにこいつらが気に入ったんだ」

 

 何故そうなる。

 

「……そうかもな。何れ、お前にも分かる日が来るさ」

 

 私は全く何故か分からんが、主に未来で。お前、何だかんだでボンゴレで働いたり、沢田綱吉とコソコソ策を考えたりしていたらしいじゃないか。マフィアに進んでなるとか狂人かよお前。

 ま、その頃には私はボンゴレから離れて一般人してるから、関係ないけどな。……そう、だよな?無事にボンゴレから離れられる、よな??不安になってきた。マフィア関係者全員死ねば良いのに。

 

「ふぅん?ま、期待しないで待ってるよ」

 

 内心怨嗟の言葉を延々と吐き出しながら殲滅していると、気付けば、雲雀恭弥と背中合わせになっていた。

 

「背中は守ってあげるよ」

「任せた、ではないのか?」

「別に、守られる背中は無いからね」

「お前らしいな」

 

 呆れたように小さく溜め息を吐く。

 互いに軽口を叩き合い、雲雀恭弥は肩を僅かに震わせた。どうやら笑ったようだ。何だお前。私は全く楽しくないのだが。あと守ってあげるって、恩着せがましい言い方だなこの野郎。やっぱりこいつ嫌い。

 

「花火までには、間に合うと良いが―――!」

 

 

 そう吐き捨てて、私は木刀を振るった。

 

 

 

 

 

 

 ▽△▽△

 

 

 

 

 

「はー……今日は疲れたな」

「そうだね……」

「おう……」

「…………」

 

 私の言葉に、ボロボロのマフィア共が答える。獄寺隼人はガン無視しやがったので死刑。

 あの後、きちんとチンピラ共に勝利したのだが、屋台の売上を盗まれたからこいつらは戦っていたらしく、雲雀恭弥から売上を守る為にボロボロになって終わった。

 

「そう言えば、影宮君はどうして此処に?」

「ああ、リボーン君に呼ばれてな」

「リボーン!!」

「今回は巻き込む為に呼んだ訳じゃねぇぞ」

 

 怒ったように声を荒げる沢田綱吉に、リボーンがそう言った途端、浴衣姿の笹川京子と三浦ハルがやって来た。後からイーピンとランボも寄ってくる。

 何やら沢田綱吉がリボーンを見て感動していたが、「勘違いするなよ、此処は花火の隠れスポットなんだ」とリボーンが正面を向いて言う。これ、ツンデレじゃなくて本当にそうだからだろうなぁ。

 

「それにしても、二人は浴衣が良く似合っているな」

 

 面倒だが、一応褒めておこう。私は女心が分かる奴なのだ。多分。

 ……まぁ、色も柄も良く二人に合っていて、その辺の奴等なら普通に一目惚れも有り得るのではないだろうか。

 

「ありがとう!」

「はひっ!ありがとうございますー!ツナさんたら何にも言ってくれなくてー!」

「う、煩いな!」

「女の扱いは影宮の方が上だな」

 

 そんなやり取りをしていたら、花火が打ち上がった。

 色とりどりの花が夜空に咲き誇り、私は「全部で幾らになるのだろうか」と考えながら、花火を見つめる。

 

「…………」

 

 それにしても、花火はこんなにも美しく見える物だったか。

 何故か、どんな時に見た花火よりも輝いて見える。本当に何故だ。

 

「……こういうのもいいっすね」

「だな!」

「お前には言ってねぇよ野球馬鹿!!」

「お、落ち着いて獄寺君」

 

 賑やかな並盛男子トリオ。相変わらず騒がしい奴等である。私はそれらを苦笑しながら横目に見て、花火を眺める。まるで子供のように、食い入るように。

 

「花火とは、こんなにも綺麗な物だったか?」

「フッ」

 

 ポツリと疑問を口にすれば、隣のリボーンは不敵に笑った。何だ貴様、何がおかしい。

 

「そりゃあ、皆で見てるからだろ?」

 

 山本武がニッカリと笑いながら言う。いや、大人数で見る花火が割と綺麗に見えるのは知ってるんだよ。お前らと見て何ですげー綺麗なのか知りたいんだよ私は。

 首を傾げれば、獄寺隼人は馬鹿にしたように笑った。クッソ腹立つな!殴りてぇ!!

 

「馬鹿だな、堅物野郎」

「か、堅物……?」

「10代目も分かりますよね?」

「う、うん。何となくだけど」

 

 な、何なんだよ貴様ら!!調子に乗りやがって!!

 

 

「このメンバーで……仲間と見るから、楽しいんだよ。影宮君」

 

 

「―――」

 

 ドォン。

 

 花火が再び打ち上がる。

 私は息を呑んだ。何故、こんなにもこの花火が美しいのか、分かったのだ。

 沢田綱吉の言うように、仲間と見るから、等という綺麗な理由ではない。

 そう、これは……。

 

「また、来年もこうして見よう」

 

 気付けば、そう言っていた。

 私は今、きちんと笑えているだろうか。皆、表情に変わりは無いから、笑えているのだろう。

 

「うん!」

「おう!」

「……10代目が仰るなら」

 

 沢田綱吉と山本武は楽しげに、獄寺隼人は満更でも無さそうに、返事をした。男のツンデレとか一部の女にしかウケねぇよ。

 

「…………」

 

 そう、花火がこんなにも―――()()と、思うのは。

 

 

 ―――こいつらの日常が、そろそろ終わりを告げるからだ。

 

 

 

 

 

 ▽△▽△

 

 

 

 

 

「あ、影宮君!」

「ん、どうした」

 

 マフィア関係者達と歩く帰り道、沢田綱吉は私に話し掛けてきた。何だ貴様。こっちくんな。

 

「何だか最近、無理してない?」

 

 …………。

 

「無理、とは?」

「あ、いや、最近何だか―――空気が、尖っている、というか」

 

 …………。

 

「うーむ、最近雲雀恭弥に絡まれることが多いからかもしれんな」

「!そっか、影宮君って生徒会長だし、ビバリさんの幼馴染みだもんね」

 

 ……。そろそろか。

 

「何だか最近無理してるように見えたからさ、何かあったら言ってね。俺じゃ頼りないかもだけど……」

「……いいや、ありがたいよ」

 

 何とかそう言って、苦笑する。

 ……本当に、そろそろなんだな。沢田綱吉のボンゴレの血が目覚め、マフィア間の命のやり取りが、始まるのは。私の演技を僅かでも気付き始めたのが、その証だ。

 そして―――

 

 

 私の日常がカッ消えるのも、そろそろだってことだよなぁ!?

 

 

 うわぁあああ!!クソォ!自覚してるに決まってんだろ!?もう此処まで来たら完全に避けるとか無理だってのはよぉ!!

 どうすんだよこれ!!六道骸来たら本当にどうすんの!?夢の中で結構アレなこと言ったよな、私!?ア"ァン?自分が蒔いた種だろって?知ってるわ、んなこと!!死ね!!

 

 ぶっちゃけ、あいつらの日常なんざどうでも良いんだよ!!私の日常が脅かされることが駄目なんだよ!!花火が綺麗に良く見えた?当たり前だよ!!私の命が危ないんだから、平和な日常が尊過ぎて綺麗に見えるよ!!思わず、「私が」!生き残れるように約束までしちゃったよ!!

 あ"あー!!もう、何かもう!!

 

 

 ―――マフィアなんざ全部潰れちまえ!!

 

 

 

 

 

 

 ▽△▽△

 

 

 

 

 

 ハハ

 

 ハハハ

 

 アハハハハハハ!

 

 おめでとう。おめでとう影宮桂馬。漸く此処まで来た。君はもう戻れない。

 

 ■■■■……僕のようにね。

 

 君は運命を信じるかい?

 そう、これはもう決まっていたことなんだ。僕がそうなるように仕組んだ。どうやってかって?僕は占い師だと言っただろう。

 

 君も自覚したようだな。マフィアからは逃げられない。僕もそうだった。そうなるべくして、そうなった。

 嬉しいなぁ、僕と同類が出来たなんて!

 

 ―――……何?

 

 

「お前の演技を見抜いていたと、そう言ったんだ。馬鹿め」

 

 

「何ッ……!?」

 

 お前の独壇場にはさせない。お前を調子に乗らせるなんて、させてやらない。

 お前が私をマフィアにすべく仕組んでいたのは知らなかったが、演技だけは見抜いていた。だからこそ、私はお前が嫌いなんだ。まるでお人好しのように振る舞って、気持ち悪い笑顔を作って―――吐き気がする。

 

「認めたくは無いが、お前は私と同類だ。同類だからこそ、お前の演技が二流だと気付いたんだよ。この下手くそが」

「……!」

 

 

 ―――お前の思い通りになぞ、させてやるものか。この偽善者め。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、黒曜編。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。