とあるひねくれ者は悲嘆に暮れる。   作:ねむたい人

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進級。


ひねくれ者は進級する。

 

 

 ―――進級の日がやってきた。

 

 桜は春風によって舞い、クラス表が貼られた掲示板に子供達は群がる。

 そして、そして……!!

 

 

 あの鬱陶しい宗教団体(クラスメイト)から解放されるぞー!!やったー!!

 

 

 ―――とか思ってた時期が私にもありました。

 

「あっ、影宮君!今年はクラス同じだね!」

「ああ、今年はクラスメイトとしても宜しくな」

 

 ……新しいクラスメイトがマフィアでしたー、なんて、洒落にもならねぇ……。

 しかも、一年の頃に別のクラスだったマフィア関係者全員と、だなんて。これ、絶対ヤツ(リボーン)が何かしただろう。

 新しい教室で嬉しそうに話し掛けてきた沢田綱吉に、此方も嬉しさを堪えているかのような、控えめな微笑を浮かべておいた。クソが。

 

「ケッ、お前と一緒かよ」

「影宮も一緒か!今年は楽しくなりそうだな!」

「うむ。君達も宜しくな」

 

 そんなこんなで内藤ロンシャンとやらがマフィアがどうこうと騒いだり、リボーンがまたコスプレ衣装で教卓の上に立ったり(何故かぱっと見分からなかった)、クラス委員長を決めることで騒ぎになったりしたが、放課後。

 疲れた……いや、本当に。

 

「……ふぅ」

「だ、大丈夫……?(な、何だか仕事終わりのサラリーマンみたいな顔で疲れてるー!!)」

「あ、ああ。中々大変そうなクラスだと思ってな。早く慣れなければ」

 

 沢田綱吉が小さく溜め息を吐く私を、心配そうに見つめる。こっちみんな。というか、こっちくんな。

 前回のクラスでは、何故か私に迷惑かけまいと努力していたクラスメイト達が多かったからなぁ。纏まるのも早いし楽だったんだが……。何というか、このクラスはキャラが濃すぎるというか……。早い話、面倒臭い奴等が多いのだ。

 まぁ、普通の中学生はそんなもんだよな。まだ子供だし、精神的に幼い奴等が多くても仕方ない。……とでも言うと思ったか馬鹿め!!全員殴り飛ばしたくて仕方ないわ!!

 

「だが、楽しそうだとも思うよ。今までのクラスには無い個性の強さだ」

 

 そう言って苦笑すれば、沢田綱吉はほっとしたように笑った。アフターケアも忘れない私。さっすが、優等生の鑑ですわー。……虚しいからやめよう。

 

「ツナー、一緒に帰ろうぜー」

「んなっ!俺の台詞を取んじゃねぇ野球馬鹿!!」

 

 何だか理不尽なやり取りをしている二人を発見。すっっっっっごく関わりたくないが、もう深く関わってしまっている事実に絶望したくなる。気をしっかり持て、私。まだ希望はある。私はマフィアにはならないし死にもしない。

 

「影宮もどうだ?」

「すまないが、少し用事があってな。まだ一時間程帰れないんだ」

「そっか」

 

 心なしか、少し残念そうな顔をする山本武。何でそんなに好感度高いんだ。確かに、好かれるように意図的に作ったキャラだが。

 

「10代目と帰れないなんて、可哀想な奴だなぁ」

 

 憐れむように私に言う獄寺隼人。とか言いつつ、ニヤケ顔じゃねぇか貴様。余計な奴が減って嬉しいのか。お前って本当に沢田綱吉に懐いてるよな、だからファンに忠犬だの猛犬だの言われるんだよ。

 

「それじゃあ、私はこれで。また明日」

「うん、また明日!」

「またな~」

「…………」

 

 沢田綱吉は満面の笑みで、山本武は能天気そうにふわふわと笑いながら、獄寺隼人はそっぽを向いて片手を上げながら。

 うむ、別れの挨拶だけでも個性が目立つ奴等だ。だが其処の不良、テメーは駄目だ。マナー処か愛想がなってねぇ。

 教室を出ながら、急ぎ足で廊下を歩く。奴等から離れたいという気持ちもあるが、遅くなったら()()に何をされるか分からんからな。恐ろしい。

 

「……ふー……」

 

 無駄な足音を立てずに、呼吸を整えながら、階段を登っていく。竹刀袋から、相棒と成り果てたブツを取り出した。これ何処かに捨てたい。

 そして―――

 

 ガチャン。

 

 

 ―――屋上の扉を、開けた。

 

 

「やぁ。一年間でどれだけ本気を出せるようになったか、見せてもらうよ。今回は全力で咬み殺しに行くから」

「何時も私は本気だ。何度言わせれば気が済む」

「そうだね―――今日の僕に三回、傷を負わせれば、かな」

 

 夕暮れに染まる屋上に、相変わらず無茶振りをする男が、一人。

 そう―――雲雀恭弥。並盛最強にして、最凶の風紀委員長。私の幼馴染みだ。ラスボスオーラが半端ない。

 

「三回……努力しよう」

「一年の頃みたいに、簡単に咬み殺されないでよ」

 

 

 トンファーと木刀が、派手にぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

 

 △▽△▽

 

 

 

 

 

 

 ―――読める。

 

 

 動きが、読める。毎度の如くぶつかり合ってきたからで、当然のことだ。

 しかしそれは、読めるようになるまで幾度も戦ってきたことを意味する。こいつマジで死ねば良いのに。

 

「……っ」

 

 横から飛んできたトンファーを避け、脇腹に直撃することは無かった。危なかった……!

 

「ふっ!」

「おっと……!」

 

 ―――ギィンッ!!

 

「少し危なかったね」

「余裕な顔して、何を……!」

 

 それにしても、毎回思っていたんだが、何で木刀とトンファーなのに金属同士が叩き合うような音がするんだ。普通の木刀に比べてリーチが若干短いし重いしで、これ絶対何か入ってるだろう。怖いから聞かないけど。

 雲雀恭弥相手に鍔迫り合い等出来ない。片方のトンファーが武器を受け止め、もう片方のトンファーが相手の身体目掛けて叩き込んで来るからだ。

 

「―――っ」

 

 だからこそ、私は一度振るった木刀を防がれた瞬間、後ろへ大きく跳んで回避する。

 

「読んでたよ」

「なっ、がはっ!」

 

 タイミング良く雲雀恭弥が、此方へ弾丸のように跳んで来て、腹へと思いっきりトンファーを叩き込む。いっっったぁ!!本気でいてぇぞこれ!!

 クソッ、そりゃそうだ!相手も私と散々戦ってきたんだから、読めるに決まってる……!

 吹っ飛ばされた身体を立て直し、衝撃を地に両足を付け、そして左手の指を立てて弱める。爪だと絶対剥がれるからな。指も摩擦で痛いが、その間にも雲雀恭弥は猛スピードでやって来る。次の一撃を喰らわない為にも、その犠牲は必要な物だ。

 

 ―――ガキィンッ!!

 

「ぐっ……!!」

「精々、屋上から落ちないでよね」

 

 低い体勢で両手で木刀を掴んで、飛んできたトンファーの威力を弱めようとするも、ヤツは片手の癖に両手の私と互角だ。何だこいつ、何だこいつ!!

 もう片方も骨を折らんとばかりに物凄い勢いで飛んでくるのは分かっているので、足払いを仕掛ける。読んでいたようで、横に跳んで避けられた。しかし、当たる筈のトンファーが頬を掠めただけで済んだので、良しとしよう。

 

「……うん。やっぱり君は強い」

「強くなってどうする!人を傷付けることしか出来ない力など、私は要らない……!」

「甘いね。自分の身を守れないような草食動物は、何れ狩られて死ぬだけだ」

 

 お前野性動物かよ!!今の日本に限って、そんなん要らないだろう!!

 

「この分からず屋が!」

「此方の台詞だよ」

 

 ―――ガキキキキキキッ!!

 

 仕込みトンファーで得意の回転をして来たので、木刀で弾く、弾く、弾く。

 これは何度かされて来たことなので、弾くコツは分かった。しかし、この攻撃はスタミナをガンガン減らして来るので、相手にしていたらキリが無い。

 

「―――はっ!」

「!」

 

 そして、私は跳躍し―――雲雀恭弥の肩を踏み台にしながら、その背後へと着地した。

 こんな芸当、常人には出来ないだろうとは思う。ある程度の跳躍力も必要だろうし。だが雲雀恭弥に鍛えられたせいで、この常人には出来ないだろうことが出来るようになってしまったのだ。本当に今の社会に要らん物を習得した。死ね。

 今回初披露なので、雲雀恭弥にも読めなかったのだろう。踏み台にした際の衝撃に体勢を崩し、ぐらついている。よし、今の内だ!殺―――

 

 ―――キィンッ!!

 

 ……駄目か、クソッ!

 斜めに振り抜いた木刀は、回転を止めたトンファーで止められている。こいつ後ろに目でも付いてるんじゃねぇの?

 

「……今の動きは良かったよ」

「くっ……!」

 

 嬉しそうに、しかしニヤリと悪どく笑う雲雀恭弥に、悔しげに歯噛みする。いやこれ本当にどうすれば良いんだよ。倒せる気がしないんだけど。

 そう思考している間に、雲雀恭弥は振り返りながら勢い良く後ろへ跳び、距離を取っていた。行動早すぎ。

 

「まさか、僕の背後を取るなんて。予想外だったよ」

「……私も、アレを避けられるなんて思わなかった」

 

 ジャキ。

 

 互いを称賛しながら、武器を構える。

 あー、クソッ。正直、罵倒したい気分だ。さっさと終わらせて帰りたいというのに。

 

「―――私は、人を傷付けることが嫌いだ。やめてくれ」

 

 正直好きでも嫌いでも無いが、無駄なことだからしなくても良いことだ。

 キリリと真剣な顔で、一応説得の言葉を口にすると、雲雀恭弥も言葉を返してきた。

 

「―――僕は、そうは思わない。だから、やめない」

 

 ……うむ。本当に優等生な私と対局に位置する奴だ。面倒な。

 楽しくなってきたとばかりに笑い、雲雀恭弥はぐっ、と足をバネのようにして体勢を低くする。あ、突っ込んでくるな、こりゃ。……こえぇ、鳩尾にぶっ込む奴だアレ。絶対痛い。回避せねば。

 此方も真似するように、木刀を両手で掴みながら体勢を低くし、そして―――

 

 

 ―――同時に相手の方へと、ただ真っ直ぐに、突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 △▽△▽

 

 

 

 

 

 

「はぁっ……、ぜぇ……」

「……っは、此処までかい?」

「も、無理だ……、おうちかえりたい……」

 

 当初の予定を越えて、一時間半経過。ぶっ通しで動きっぱなしだったので、疲労感がとてつもない。初めてだぞ、こんなに動いたの……!!

 つ、疲れた。結局攻撃を当てられたのは二回だし、もう無理だ……。これ以上は死ぬ。確実に死ぬ……!!

 

「口調変わってるよ。……そうだね、此処までにしよう。すっかり暗いし」

 

 やったー!!帰れるー!!

 雲雀恭弥のその言葉を聞いた途端、両膝から崩れ落ちて冷たい地面へダイブ。火照った身体に調度良い。ついでに青痣だらけの身体にも気持ちいい。

 

「はー……はー……」

「……ふぅ」

 

 倒れ伏した私の隣に、雲雀恭弥が座る。その顔には珍しく疲労感と汗が滲んでいて、私の努力は無駄でないことが分かった。何時か殴り飛ばせる日が来るんじゃないかと期待する。

 

「やっぱり、君の戦い方は面白いね。攻略出来たかと思いきや、次の瞬間には別の動きが待ってる。見ていて飽きない。時々本当に面倒だけど」

「……褒めて、いるのか、それは……?」

「当たり前じゃない」

 

 私にとっては侮辱以外の何物でもないわクソが。お前を喜ばせる為に行動してる訳じゃないんだボケェ。

 私は倒れ伏したままズルズルと身体を引き摺って、鞄からスポーツドリンクを取り出す。ついでにもう一本取り出して、雲雀恭弥へと転がした。

 影宮クンはイイコで真面目な優等生クンだからね、恨みが天元突破していても相手のことを気遣える良い奴なんだ。誰か私を褒め讃えろ。

 

「……何も、持ってきてはいないの、だろう……?」

「礼を言うよ」

 

 ありがとうございます影宮桂馬様だろうが!!

 ちくしょう!今日も本編の奴等(こいつら)のせいで疲れた!!何で毎回こんなに疲れなければいけないんだ!!

 

「……ふー」

 

 暫くすると回復したため、その場に座る。星空を眺めながらスポドリを一気飲み。生き返るわぁ。

 

「……あ、君との出会いから十年だね」

「そう言えば、そうだな。あの頃から十年だ」

 

 あの憎い事件から十年か―――あの頃の私を蹴り殺したくなるくらいに、私と雲雀恭弥の付き合いは長い。早く縁を切ってくれと思い続けて来たのになぁ、何故こうなった。

 

「祝いに君のうちで夕飯を頂くよ」

「それ、お前が母さんの料理を食いたいだけだろう!」

「そうだよ」

 

 認めやがった!!何なんだこの横暴な男は!!

 

「全く―――材料費は、お前持ちなんだよな?」

「うん、当然」

 

 仕方なく母さんに連絡し、途中でスーパーに寄って材料を買い、帰路に付いた。

 

 

 疲れた。飯食って風呂入って寝る。

 

 

 

 

 

 

 

 △▽△▽

 

 

 

 

 

 

「うーん?」

「どうした、ツナ」

「いや、ちょっと今日の影宮君の様子おかしかったなって」

「新しいクラスで疲れてるんじゃなくて、か?」

「うん。何だか……もやもやするって言うか」

「具体的に言え」

 

 

「わ、分かったよ!銃こっち向けんな!―――影宮君の言葉に少しだけ違和感があっただけだよ!!だから銃下ろせって!!」

 

 

 

 

 

 

 

 




雲雀さんマジ作中で強すぎるので、戦闘シーンで主人公が雲雀さんを圧倒するイメージが思い浮かばなくて困った。

それはそうとサーヴァント達のチョコ集めが楽しすぎて止まらない。

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