某オサレ漫画のopとedめっちゃ作業用BGMとして最適。
気付いたら作業が止まって動画に集中してるけど。
―――私は、桜が好きだ。
木の下にて、枝にポツポツと咲いた花を眺めるのも良いが、薄桃色の花弁が風流に舞い散る所なんか、もう最高である。
マニアという程でも無いが、確かに私は桜が好きだ。日本人の多くはそんな感じだろう。
「綺麗ねぇ、桜……」
「ああ、そうだな……」
下にレジャーシートを敷き、母さんと私は桜を眺める。やはり、美しい。花見は良い文化だ。
「それにしても―――もう春か」
寒くて凍えそうな雪は溶け、暖かく包み込んでくれるような春がやってきた。
冬は苦手だったので、過ぎ去ったのは良いことだ。気温も調度良いし、過ごしやすい。前世のように花粉症でもないので、一番好きな季節かもしれない。
「んー、恭弥君も一緒に居れば良かったのに。ねぇ?」
その名を口に出すなクソ女ァ!
折角楽しんでいたのに、そいつが居たら台無しである。一緒に居なくて良かった、本当に。
一応母さんが誘ったのだが、あいつは一人で見たいとのことで断った。同じエリアには居るが、私達と離れた場所に居るらしい。面倒な奴だ。
「雲雀恭弥は一人で居る方が楽しみやすいんだ、仕方ない」
「相変わらずなのねぇ。……でも貴方も、大人数とのお花見を好まないでしょう?一見違うように見えて、貴方達は似た者同士なのかもね」
のほほんと笑いながらふざけたことを抜かす我が母親にぶちギレそうになるが、ぐっと堪える。誰と!!誰が!!似た者同士だって!?あんなボッチ野郎と私を一緒にするな!!
桜を見て心を落ち着かせ、私はふと疑問に思ったことを口にした。
「父さんは、今日も来ないのか?」
「ええ。お仕事、忙しいんですって」
「少しは休んだら良いのだがなぁ」
「働きすぎよねぇ」
仕事が忙しいとのことで、今日も父親は私達の行事に参加することはなかった。
うちの父親は、漫画会社の敏腕編集者らしい。父親が担当した漫画が飛ぶように売れ、今じゃ実写映画化だとか。素直に凄いと思うぞ、その漫画家が。私の好きなジャンルではないがな。
「……あら?飲み物を忘れちゃったみたい」
「私が買ってこよう。近くに自販機があった筈だ」
「あらあら。ありがとね、ケイちゃん」
「け、ケイちゃんはやめてくれ」
いい加減その呼び方を直せ、この能天気女。本当に詐欺とかに騙されそうなふわふわした奴だな。
「……ん?」
心の中で母親を罵倒していると、何やら人の近付いてくる音がした。……おかしいな、雲雀恭弥がぼっちで桜を見るために命じた風紀委員が、態々追っ払っている筈なのだが。
(……げっ)
木の影になるように咄嗟に隠れた。
其処に居たのは、倒れた風紀委員と―――
(何でお前らが此処に居るんだよぉおおおお!!)
―――そう、沢田綱吉御一行だった。
いや、本当に何でお前らが居るの!?タイミングバッチリだなおい!!もしかして今回、花見回だったりするのか!?本当に役立たねぇな、この薄れ過ぎて不味いカルピスみたいな原作知識!!
厄介な同学年男子トリオを見て、更に息を潜める。仕方ない、遠回りだが別の道で―――
「何やら騒がしいと思えば、君達か」
……雲雀恭弥が、私の脇からスッと出てきた。
「ヒバリさん!……あ!この人、風紀委員だったんだ!」
沢田綱吉は目を見開いて雲雀恭弥を一瞥した後、倒れた風紀委員の腕章を見る。風紀委員が居るなら、その近くに風紀委員長である雲雀恭弥が居るのは別段おかしなことではないと感じたらしい。というか今更気付いたのかよ。
「君も出てきなよ」
「えっ!?」
ああー、やっぱり巻き込まれたかぁ……、こいつスッと私の脇から出てきたもんなぁ……。全く足音立てずに私の横通って行ったぞ、忍者かよ。
「す、すまない。君達と風紀委員、どちらの味方をすれば良いのか分からなくて、出て行けなかったんだ……」
「おっ、影宮なのな」
「何であのヤローが此処に!?」
「影宮君もー!?つーか何で迷ってるのー!?」
良い奴っぽいことを言って出てくれば、沢田綱吉がオーバーリアクション(山本武と獄寺隼人は平常運転)で迎えてくれた。うるせぇ。
「その……いけないことだとは思うが、場所を貰ってな」
「僕は群れる人間を見ずに、桜を楽しみたいからね。其処に転がってる彼に追っ払って貰っていたんだ。こいつの母親にはたまに美味い飯を御馳走になってるから、その借りを返しただけ。僕の視線の範囲に外れてもらってたけど」
私の居る理由に納得した後、雲雀恭弥の言葉に「またムチャいってる―――……」とドン引きした顔になる沢田綱吉御一行。だよな、その反応が普通だよな。だがお前達、本当に花見の邪魔だから帰れ!次いでに雲雀恭弥もな!!
「でも君は役に立たないね。後は良いよ、自分でやるから」
「い……委員長」
風紀委員の前に立って、少々不機嫌そうな顔をする雲雀恭弥。おい、お前まさか……。
「弱虫は―――土に還れよ」
「ガハッ!」
あー、やりおった。やりやがったぞ、こいつ。
トンファーでぶん殴られた、名も知らぬ風紀委員に同情する。うわぁ、血が出てるし。助けられる状況でも助けなかった自信があるが。どんまい。
仲間を攻撃した雲雀恭弥に驚愕の表情で固まる三人組へと、雲雀恭弥は追い打ちをかけるのように口を開いた。
「見ての通り、僕は人の上に立つのが苦手なようでね」
仲間の血に塗れたトンファーを手に、悪魔のような性格の男は言葉を紡ぐ。
「―――屍の上に立ってる方が、落ち着くよ」
……ぞぉっとする余りにもアレな言葉に、一同は鳥肌が立つ程の寒気に見舞われた。こわ……こんな奴だから、私はこいつが嫌いなんだ……。
「いやー、絶景!絶景!花見ってのはいいねー」
その時―――空気を塗り替えるような、音符でも語尾に付けていそうな軽快な声が、周囲に響き渡った。
「っか~、やだねー男ばっかっ!」
「Dr.シャマル!」
声のする方向を向けば、泥酔した白衣の中年男性が居た。
あいつ……沢田綱吉がシャマルとか言ってたよな?確か、女しか診ないと書記が愚痴っていた、うちの学校の保険医だ。
あの女好き、本編キャラだったよな?何故此処に。
「まだ居やがったのか!!このやぶ医者!ヘンタイ!スケコマシ!」
そして、獄寺隼人は何故こいつをこんなにも毛嫌いしているのか。お前の敬愛している10代目が、困ったように笑顔を作って宥めているぞ。少しは落ち着け不良。
「俺が呼んだんだ」
「リボーンも!」
「おめーら、かわいこちゃん連れてこい!」
……やはりお前が元凶か。
シャマルの上の太い枝に、リボーンが座っていた。今回もコスプレ衣装である。シンプルな和装だ。
酔っ払いの台詞はスルーし、雲雀恭弥はリボーンを見て機嫌が良くなった。お前どんだけこの殺し屋が好きなんだよ。私はお前らが嫌いだがな。
「赤ん坊、会えて嬉しいよ」
「俺達も花見がしてーんだ。どーだ、ヒバリ。花見の場所をかけてツナが勝負すると言ってるぞ」
「なっ、何で俺の名前出してんだよー!!」
お前も大変だな、沢田綱吉。憐れんだ視線で可哀想な草食動物を見ていると、意外にも雲雀恭弥はそれに乗った。多分、お気に入りのヒットマンが居るからなんだろうが。
雲雀恭弥は即興でルールを作った。
沢田綱吉、獄寺隼人、山本武の三人が、サシで勝負をし、互いに膝を付いたら負け。分かりやすく、単純なルールだな。
沢田綱吉は及び腰だが、その他の二人はやる気のようで、参加することが決まったようだ。馬鹿だな、並盛最強と戦うなんて。……毎回追っかけ回され、死にかけている私と是非とも代わって欲しい。
「……あれ?影宮君は入ってないの?」
「馬鹿だな、ダメツナ」
「んなっ!何でだよ!」
「あいつはもう、ヒバリに場所を貰ってるんだ。このゲームに参加する理由なんて無ェ」
「ええー!?」
ふははは、残念だったなぁ。精々お前らも私と同じ気持ちを味わえ。……それと、何お前私を盾に使おうとしてんだゴラァ。
「すまんな、本来なら争いは止めるべきなのだろうが……」
「いくらお前でも、ヒバリは止められねぇな」
「うむ……」
「そんなぁー!!」
私をあてにする気満々だったな、こいつ。しかし、私は痛いのが嫌いだし、争いが苦手な設定だ。ハッハッハ、足掻け足掻け。
「心配すんな、その為に医者も呼んである」
「あの人女しか診ないんだろ!!」
そんなやり取りをしていたら、その医者が雲雀恭弥に絡んで潰れていた。駄目じゃねぇか。
その後は、何やら強くなった沢田綱吉の部下二人が善戦しそうかと思いきや、雲雀恭弥には傷一つ付けられずに終わった。あいつマジ化け物だわ……。
「次はお前だぞ」
何かごちゃごちゃ話していたが、容赦なくリボーンは沢田綱吉へと銃口を向けた。何時も思ってたんだが、アレって痛くないのか?
―――ズガン!!
「
そして、沢田綱吉は半裸で雲雀恭弥と互角で戦う。武器が何故かはたきだけどな!!無意識に傷付けたくない気持ちとかが働いているのだろうか。自分が傷付けられるというのに、甘い奴だ。そして馬鹿だ。
しかし、無情にも時間は過ぎる。死ぬ気モードの活動限界、5分が経ったのだ。このまま相打ちでもすれば良かったのに。
―――ビュッ!!
雲雀恭弥が止めを刺そうとした、その時。
どさっ。
何かが倒れたような音がした。
……しかし、立っているのは沢田綱吉。
―――そう、雲雀恭弥が!あの!雲雀恭弥が!!両膝を付いていたのだ。
「おお」
「やった!」
「……!」
沢田綱吉の部下達が喜んでいる中、私は目を見開いていた。うわっ、あいつがケンカで負けた所初めて見た。……確かこれ、黒曜編の伏線だよな。ハハッ、雲雀恭弥ザマァ。
一応「大丈夫か?」と声を掛けて近寄るが。優等生アピールだ。
「えー!?嘘っ!?俺がやったの~!?」
情けない声を上げて困惑する沢田綱吉だが、リボーンは否定した。
「違うぞ。奴の仕業だぞ」
「!?」
ヤツが指を差した先には、木に寄り掛かるシャマルが。
リボーンの説明だと、トンファーで殴られた時、咄嗟にトライデント・モスキートとかいう、病原体を相手に移す蚊で雲雀恭弥をあんな状態にしたらしい。知らないというか、忘れていた私にも丁寧に教えてくれた。殺しの武器を教えられても……ありがたくねぇ……。
「わりーけど、超えてきた死線の数が違うのよ。因みに、こいつにかけた病気は桜に囲まれると立っていられない「桜クラ病」つってな」
「(またヘンテコな病気だ―――!)」
ああ、覚えてる覚えてる。数少ない
暫く放心状態だったが、身体をふらつかせながらも立ち上がる雲雀恭弥。こいつ、本当に負けず嫌いだよな。
「約束は約束だ。精々桜を楽しむが良いさ」
「お、おい……」
「心配しなくてもいい、影宮桂馬。君はそこの草食動物達と存分に群れれば良いよ」
そう言って、雲雀恭弥はふらふらと立ち去って行った。折角の私の心配を……!まぁ、演技だが。
「これで花見できんな」
「10代目の手柄っすよ!ぜってーシャマルじゃねぇ!」
二人がはしゃぎながら沢田綱吉の周りへと集う。
それにしても、どうしようか。
「影宮も一緒に花見、するよな?」
「え」
「あ"ぁ?こいつ何もしてねーじゃねぇか!」
「ま、まーまー。影宮君は初めから此処に居たんだし……」
「ぐっ……!10代目がそう仰るなら……」
気付けば、共に花見をするムードになっていた。くっ、断りたいが、断れる空気じゃない……!!私は静かに桜を眺めていたかったのに……!!
「あらあら。遅いと思ったら、お友達に会ってたのね」
不意に、能天気そうな声が聞こえて振り返れば、母さんが居た。
あ、忘れてた。飲み物を買いに自販機へと向かっていたのだったな。
「すまない、少し面倒事が起きてな―――母さん」
「お、お母さん!?」
何故か目を見開いて反応する沢田綱吉。残りの二人も驚いたように硬直している。
あ、そうか。うちの母親は、割と若作りだ。初見では三十路過ぎの女だとは思わない。まさか、母親だとは思わなかったのだろう。
「あら?もしかして、沢田綱吉君?」
「えっ?」
「私、奈々ちゃんとお友達なの。小さい頃の貴方にも会ったことがあるのよ」
「世間狭っ!!」
……ちっ。幼少期のお前は回避出来たんだがな。
というか、母さん沢田綱吉と会ったことあったのか。知らなかったぞ。
少し話している内に、沢田綱吉ファミリー(父親抜き)がやってきた。三浦ハルや、笹川京子も一緒だ。
―――ああ、騒がしい花見になるぞ、これは。
面倒事の予感に、私は内心溜め息を吐いた。
▽△▽△
「あっ、並盛で困ってる人を助ける人ランキング9位の桂兄だよね?初めまして!」
騒がしく周りがはしゃぐ中、黙々と弁当の中身をつついて桜を眺めていると、柔らかい顔立ちをした、小動物染みた雰囲気のマフラーの少年が寄ってきた。……こいつ、何でもランキング出来るとかいう……。
「えっと……何のことだか分からないが、私は影宮桂馬だ。君の言う桂兄とは、私のことで合っているだろうか?」
「合ってるよ!僕はフゥ太って言うんだ。実は、聞きたいことがあって……」
「こら、フゥ太!影宮君が困ってるだろ」
「いや、良いさ。厄介なことをする子じゃなさそうだし」
クソガキは嫌いだが、このガキは比較的大人しい方だ。突拍子も無いことをする奴よりはましだろう。
沢田綱吉が軽く叱るように言うが、私は冗談だろうハッハッハ、みたいな一般人を装って、微かに笑みを作った。
……正直、こいつの厄介な所は性格じゃない。能力だ。寄ってくるなとは思うが、基本良い奴な影宮クンが追い払うような真似をする訳にはいかない。詰んだ。
「それで、何が聞きたいんだ?」
「桂兄って、何者なの?」
「何者?それはどういう……」
「人嫌いランキング2万5千人中351位。それに対して、毎日善行をする人ランキング8万6千2百人中51位。だから、桂兄の考えてることが良く分からないんだ」
―――ああー、ランキングの面倒な点……言われると思ったよ……。
「えっ―――むがっ」
「……すまないが、あまり大きな声を出さないでくれ」
「……!!」
沢田綱吉の口を押さえて困ったような顔で言えば、沢田綱吉はコクコクと頭を上下に振った。
「他は……皆、話に夢中で聞いてないな」
「ど、どういうことなの?」
「僕も気になる」
声を潜め、密談をするように頭を低くして言えば、沢田綱吉とフゥ太も小声になる。よし、空気の読める奴は嫌いじゃないぞ。嫌いじゃないってだけで、好きでもないが。寧ろ厄介事を運んでくるお前は嫌いだ、沢田綱吉。
……仕方ない。予想していた通り、フゥ太に言われてしまったんだ。頭の中で組み立てていたキャラを演じよう。優等生は楽じゃないな、おい。
「―――それよりも。何故君は、私のことが分かったんだ?」
「僕はね、何でもランキング付け出来る体質なんだ。ね、ツナ兄」
「う、うん」
「……っ、そう、か」
知られたら不味いことを知られた顔で。ショックを受けたように、辛そうに、眉を寄せた。
……いや、本当に知られたら不味いことを知られたんだが、それは置いておこう。
「ああ、その通りだ。私は昔から他人が嫌いだった。完全に信頼することも出来なかった。……理由も無く、ただ純粋に。懐に入れた人間は好きなんだがな」
「そ、そうなんだ」
何ほっとしてやがる沢田綱吉。お前なんか懐に入れた処か信頼したこともないわ。
「善行を積極的にするのも、人を好きになるためなんだ。確かに、心からの善意もあるがな」
「へぇ!何だか、影宮君らしい優しい理由だね」
「うん。桂兄のことが良く分かったよ、話してくれてありがとう」
「……本当に優しい人間なら、人を嫌うことなんて無いと思うのだがなぁ。……さて!難しい話はもう終わりにしよう。沢田綱吉、フゥ太、団子でも食おうか」
わざと明るく言えば、沢田綱吉は笑みを浮かべながら頷き、フゥ太も納得したように笑った。もう、私のランキングについてのことを聞くことは無いだろう。
―――計画通り!
「(……お前が頑なに心を読ませないのは、そんな理由が……。……自分が思っていることを相手が知ったら、傷付くと分かってるからか。相変わらず甘い奴だな)」
何処ぞの赤ん坊が深読みしまくってるのも知らずに、私は心の中で高笑いをしていた。
ふははは!!こいつらちょろいわー!!私、本気で演劇向いてるんじゃねぇの!?
△▽△▽
「ツナ、今日の影宮の話を聞いてどう思った?」
「えっ!お前、まさか盗み聞きしてたの!?」
「そうだ」
「んなっ!?そんな堂々と言うことじゃねーよ!!……うーん……。まぁ、意外な一面があったけど、相変わらず優しいなぁって思った」
「そうか」
「あっ、でも」
「?」
「雰囲気が―――何時もより、少しだけピリピリしてた気がする」
勘違いされてるけど、強ち間違ってない勘違い。
・人を完全に信じることが出来ない
・醜い本性を見せたくない
・人嫌い←New!