とあるひねくれ者は悲嘆に暮れる。   作:ねむたい人

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何かこいつ夢ばっか見てんな。


ひねくれ者は邂逅する。

 

 

 ―――ああ、まただ。

 

 

 夢を見ていると自覚し、気怠い身体を見つめる。

 宙に浮いていた身体は地に落ちて膝を付き、相変わらず周囲から伸びている鎖が絡み付いているが、拘束具は完全に消えていた。そのお陰で、少しだけ動けるようになっている。

 ほう。ストレスが最大値でないと、こういうことがあるのか。少し明るくなった灰色の空からは、ポツポツと雨が降っている。地面は相変わらず荒れているがな。

 そして、俯いていた頭を前へと向ける。

 

「……また、会えましたね」

「……君は……!」

 

 喉の調子は戻っており、普段通りに喋ることが出来るようだ。

 そして、目の前に―――手の届く距離に居るのは、やはり六道骸。鎖に縛られて、手を届かせたくても動かせるような状態ではないがな。

 いや、これ本当にどうしよう。とりあえず、また拒絶でもしておこうか。前回のは何故かグイグイ来たので、優等生スタイルで。

 

「っ、私に近付かないでくれ!前回ので分かっただろう!?私は汚い人間だ!!」

「―――悲しんでいるのですね」

 

 は?

 

「汚くない人間なんていませんよ。……ああ、全く。諦めていた筈の貴方に、再び出会うとは。しかも、あの時のように心を閉ざしきってはいない」

 

 悲しげに、しかし嬉しそうに私に話し掛ける六道骸。何だこいつキモイ。

 しかもまた何か勘違いしてやがるぞ、この南国果実。何でこいつ、自分で周囲を確認するだけで自己完結するんだ。……しかし、訂正するのも相当面倒そうな内容だなぁ。

 

「―――一度会った時とは違い、貴方は人を信じたがっている。違いますか?」

 

 両膝を付いている私の視点に合わせて、片膝を付く六道骸。

 人を信じたがっている?いや、私は別に人を信じなくても生きていける人間なんで。常に疑っている状態なんで。だが、特別にお前のオーダーに合わせてやるよ。少しでも好感度を上げて、生存率を上げたいからな。

 

 

 そう、題名は―――『人を信じたいが、その気持ちを認めたくない男』だ。

 

 

「……っ、違う……!!」

「違わない。違うならばどうして、貴方は手が届く距離に足を付け、貴方自身を縛り付けていた枷を外したんですか」

 

 いや、知らんがな。勝手に外れてたんだよ。

 私は苦しげな表情でゆるゆると首を振る動作をし、ついでに何処まで動けるか確かめていた。うーむ、やはり上手く動けんな。この鎖、本当に邪魔だわ。

 

「わ、私を受け入れられる人間などいない!!受け入れられるものか!!こんな、こんな醜い本性など……!!」

「それでも、希望を持ってしまった」

「違うっ!!」

 

 叫びながら、身体を前へと動かそうとする。しかし、鎖に囚われた身体は動けない。

 いや、マジで動けん。本当に頑丈だ、この鎖。この世界は私の心境状態を映しているらしいが、やはりこの鎖は、常に本性を現さないように心掛けている、優等生の仮面を付けた私そのものなのだろうか。

 

「どうせ私の本性を知ったら、あいつらは離れていく!!なら、それならば―――人を信じないままの方が良いじゃないか!!」

 

 捲し立てるように、震えた声で、私は叫んだ。

 離れないでほしい、信じてほしいと、言葉の裏に本心を潜ませながら。―――全部演技だけどな!!

 

「……貴方は、本当に悲しそうですね」

「悲しい、だと?」

「ええ」

 

 訝しげに眉を顰める。いきなり何を言い出すんだ貴様、と言いたげに。いや、これは演技じゃなくて本心からだわ。本当に何言ってんだこいつ。

 

「仲間を信じられない。信じて欲しいけれど、信じられないから、本性を現すことが出来ない」

「……っ、ちが……!」

「それが悲しくて仕方ない。自分の側に居てくれるのに―――だからこそ、その鎖は残ったままで、空からは雨が降っている」

「ちが、う……!!」

 

 とうとう私は、反論出来なくなり、ぐったりと身体の力を抜く。

 こいつ、色んな奴の世界に渡れるらしいからなぁ、だからこんな自信満々に言えるんだろう。私は自分で言うのも何だが、面倒な精神構造をしているからな。見抜ける奴は同類くらいしかいないだろう。

 

「貴方は、そう思える仲間が出来たんですね」

「……違、う。仲間なんかじゃ……、認めるものか、認めて、たまるものか……」

 

 苦しげに、ゆっくりと首を振り、振り絞るように声を出す。

 それでも尚抵抗する私に、六道骸は言う。

 

「―――僕なら、貴方の全てを受け入れられますよ。貴方のような子供達を知っている。……前回、言いましたよね?」

「!」

 

 

 そして、私へと手を差し伸べた―――

 

 

 ……え、いや、これは……流石に予想外なんだが。

 いや、本当に予想外だぞ!?何でこんなにこいつ、私に同情してるんだ!?確かにそうなるべく演技していたが、仲間に引き入れる程じゃないだろう!?というか、そういうキャラじゃないだろうお前!?

 や、やり過ぎた!ヤベェ、リセットしたい!!

 

「貴方の名前は?」

「わ、たしは……影宮。影宮、桂馬……」

「僕の名は―――」

 

 これ、手を取らなくてはいかんパターンか?いや、鎖に縛られていて手は使えない状態だが!ボンゴレに裏切り者扱いされるんじゃないか……!?

 表面上は六道骸の言葉に戸惑い、内心では物凄く焦っていたら―――

 

 

『それ以上は駄目だ』

 

 

 物凄く聞き覚えのある声が、この空間中に反響するように、響き渡った。

 

 ―――ゴォオオッ!

 

 そして、一気に炎が私と六道骸の間で燃え盛る。

 

「え―――」

 

『その子をお前の領域へと連れていくことは、許さない』

 

 ―――ジャラララッッ

 

 地面から伸びた大量の鎖が、私を飲み込んで―――

 

 

 

 

「―――くっ、何者だ……!僕を、夢から弾くなんて……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ▽△▽△

 

 

 

 

 

 

「……ふーっ、ギリギリセーフ!!君、何やってんの!?」

「あ、危なかった……今回ばかりは本当に……、彼処まで好感度が上がるとは……」

「君、自分の演技力分かってる!?リボーンを欺くくらいだよ!?あのままじゃ、六道骸の仲間認定だったよ!?」

 

 鎖から解放されれば、何時もの白髪頭の空間だった。やはりお前か。

 どっと溜め息を吐いて、思わず四つん這いで膝を付いていると、白髪頭がめちゃくちゃ怒っていた。何故だ。

 

「しかもあの世界は、あの世界自体が発する感情に引っ張られそうになるくらいの空間だよ!?君って自分の異常性に気付いてるの!?」

「異常性……?異常なのは、お前や本編の奴等だろう?何を言ってるんだ?」

「あ"ぁあ~~!!やっぱり気付いてないよこの子!!でも反論出来ない!!」

 

 何で発狂してんだ、こいつ。わしゃわしゃと自分の髪を掻き乱す白髪頭に、若干イラッとする。

 というか、異常ってなんだ。私は其処らに居そうな、普通の猫被り野郎だろうに。どうせそういう奴等も、私のような世界の一つや二つ持っているに違いない。

 

「とにかく!言動には気を付けてよ!?お願いだから!!」

「何故そんなことを貴様に言われなければいかんのだ。言われる前に学習したわ馬鹿め」

「くっ、本当に嫌な奴だな、君は!」

 

 早口で罵倒すれば、白髪頭は悔しそうに歯軋りしながら言った。何を今更。

 ……そう言えば、聞いていないことがあったな。

 

「なぁ。私が六道骸にめっちゃ関わることになるとか言ってたよな、貴様」

「え、偉そうだな……。うん、そうだけど?」

「それって何時までなんだ?」

「……、聞きたいの?」

「構わん、言え」

 

 イライラと腕を組みながらそう言えば、白髪頭は遠慮がちに口を開いた。

 

 

「―――君が死ぬまで、だよ」

 

 

 瞬間、私のストレスは最大値に達した。

 

 

 

 

 

 

 

 ▽△▽△

 

 

 

 

 

 

 ―――六道骸は、目を覚ます。

 

 

 そして、自ら手を差し伸べた少年が居たことを、思い出した。

 

「……アレは、厄介な術士だな」

 

 少年―――影宮桂馬が心を解く直前の瞬間に現れた、青年の声。

 

(彼処までリアリティのある物を、夢とは言え、作り出すなんて……アレはやはり、相当な術士だ)

 

 そして、影宮は鎖の波に飲み込まれて―――自分は、彼の世界から追い出された。

 

「やはり、影宮桂馬……彼は異常だ」

 

 あの感情を訴えかけてくるような空間を作り出すまでの精神構造、そして、彼を拐った幻術使い。一体どういう関係なのだろうか。

 

「クフフ……ますます、興味が湧いてきましたよ」

 

 そして、骸は数ヵ月後……知ることとなる。

 

 

 ―――自分の狙う標的の側に、自分が会いたいと願った少年が居ることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――……外堀は埋める準備は整った。後は―――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 




当の本人は自分が普通だと思ってたりする。

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