すっかり寒くなり、季節は冬。正月の季節だ。
最近は本編に関わることが無く、私は今、晴れやかな気持ちで一杯である。あの疫病神共にも会ってないしな。正月休みで一日中リラックス出来るし、とても機嫌が良い。
ハッハッハ、あの白髪頭は何やら不吉なことを預言していたが、どうやら外れたようだな!愉快、愉快!!
「ケイちゃーん!お友達から電話来てるわよ~!」
―――その幸せが、たった今ぶち壊れた。
リビングでコーヒーを飲んでゆったりしていたというのに、全く台無しだ。今日は誰だ、一体。また雲雀恭弥か?それともリボーンか??あのコンビは厄介事しか運んでこないので嫌いだ。今日こそは断ってや―――
『よう、影宮。10分以内でツナんちに来なかったら……どうなると思う?』
「ひっ」
完全に油断しきっていたため、低めの声に思わず引き攣った声が出た。
この子供特有の高い声、子供らしくないドスの効いた声色、間違いなくリボーンだ。タイムリミット時にすることを明確に伝えて来ない所が、また怖い。
「り、リボーン君。今日は家でゆっくりしていたいと思うのだが―――」
『ピッ……』
「ストップウォッチの音か、今の!?わ、分かった!要求を飲もう!今から向かうから待っててくれ!!」
またこうなるのかよ!!くたばれマフィア!!
▽△▽△
何だか、慣れたくない慣れをしてしまっている気がする。最近、脅されたら下手に抵抗するより、諦めた方が合理的なのではと思うのだ。
しかし、諦めたら負けな気がする。諦めたら最後、凄い勢いでどんどん深みにハマって、マフィアの関係者どころかマフィアの一員になっていそうというか……。
「ぜぇ、はぁ……明けまして、おめでとう……」
まぁ、こうして脅しに屈し、沢田綱吉宅に来てしまった訳だが。
「あ、明けましておめでとう、影宮君。……な、何でそんなに疲れてるの?」
「あっ!テメェは!!」
「会長さんなのな。あけおめっす」
何で疲れてるのかって?それはね、沢田綱吉。お前の家庭教師が脅しを掛けて来たせいで、全速力でお前の家へ走ってきたせいだよ。
貴様の家庭教師だろう、大人しくお前だけ生け贄になっておけ。憐れだが、助ける気は無い。
……それにしても、毎回噛み付いて来るな、獄寺隼人は。その隣の山本武も、変わらず能天気そうな顔をしている。お前らは良いよな、毎日楽しそうな頭しやがって。
「ん?誰だ!」
「一年、影宮桂馬です、笹川了平さん。貴方の噂は予々聞いています」
「おお!雲雀のライバルとかいう奴か!!ボクシング部に入らないか!?」
このいきなり部活に勧誘してきやがっためんどくさそうな白髪短髪の男は、二年の笹川了平。笹川京子の兄であり、ボクシング部主将だ。口癖は極限。キャラが濃いので覚えてしまった。出来れば関わりたくなかったのだがなぁ……。というか、ライバルって何だ。また変な噂でもあるのか。
「い、いえ、生徒会の雑務で忙しいので」
「むぅ。しかし、あの雲雀恭弥と対立することが出来るそのパワーがあれば……」
「もー!恥ずかしいよ、お兄ちゃん!会長、明けましておめでとう!」
「あっ、影宮さんです!明けましておめでとうございます!」
あまりにグイグイ来るので、演技だけじゃなく、本心も込みで引き気味に断ったというのに、食い下がろうとしない笹川了平。それを嗜めるのは、妹である笹川京子だ。そして、私に気付いて挨拶してきたのは三浦ハル。相変わらず良いポニーテールだな。
どちらとも高そうな着物を着ていて、良く似合っている。そのきらびやかな振り袖は、売れば何円になるのだろうか。
そんなことを考えていたら、何処からか視線を感じた。
「誰だじょー?」
「む」
振り返れば、正体は沢田綱吉に抱きかかえられた、アフロ頭の牛柄の着ぐるみを着た、小さな少年。見るからに阿呆そうなこの子供は―――
「ランボ君、だったか?私は影宮桂馬。沢田綱吉から、メールで話を良く聞いて―――」
「お前、ランボさんのこと知ってんのか!?これからランボさんの手下にしてやるもんねー!ガハハハ!!」
う、うわぁああああ!!前世の親戚の餓鬼を思い出すこの言動、低脳さ加減!!私の地雷のど真ん中だ!!っつか話遮んなこの馬鹿!!
でもこいつ、イタリア語だけじゃなくて、日本語も喋れるバイリンガルなんだよな。……そう考えると頭が良い、のか?でも生理的に無理だ。
「こ、こら!何言ってんだよランボ!……っていうか、皆集まってるけど何かあったっけ?影宮君知ってる?」
「いや、私は―――」
知らない。そう言おうとした時だった。
「今日はボンゴレ式ファミリー対抗正月合戦だぞ。そのために俺が呼んだんだ」
悪 魔 が 現 れ た 。
「リボーン!!お前、やっと起きたと思ったら何て格好してるんだよ!!」
「似合っているな」
「影宮君も冷静に分析しないで!!」
「う、すまない」
まるで時代劇のような、偏見を持った外国人が想像しているような殿様衣装を着ているリボーン。こいつ、コスプレ好きだよな。似合っているので、何とも言えないのが腹立つ。取り合えずイイコな影宮クンは褒めておいた。
沢田綱吉のツッコミを完全に無視し、別の方向を見ているリボーン。何だ?
「お、対戦相手も来たな」
「!?」
其処に居たのは―――金髪のイケメンと、その後ろに控える大勢の黒スーツの男達。
思わず鳥肌が立ちそうなくらいのマフィア加減に、顔が引き攣りそうになったが、意識して堪える。……マジかよ。本物だよ。
そのイケメンを見て、沢田綱吉は叫んだ。
「ディーノさん!!……とその部下の皆さん!!」
―――跳ね馬ディーノ。まさしく、前世の私が一番好きだったキャラクター。今はこうして生きているが。
……うっ、黒歴史が頭の中に!こいつが好きで、あらゆる二次創作に手を出していた自分を思い出す。何故、現実では黒髪の真面目そうな男が好きだったのに、金髪のマフィアなんかを好きになっていたのか。
―――まぁ、今ではすっかり二次元でも現実でも、ポニーテールが好きな男になった訳だが。性別が変わると、好みも違ってくるようだな。
初対面なので軽くディーノと挨拶を交わした後、リボーンが対戦の説明に入る。
まとめると、こうだ。ボンゴレ式ファミリー対抗正月合戦とやらは、ボンゴレとその同盟ファミリーがその年の意気込みを表明する行事らしい。勝てば豪華商品、負ければ一億円の罰金だとか。何だその馬鹿らしい行事。
というか、私はボンゴレ側の人間扱いなんだな。抗議したい。凄く抗議したい。が、水を差したら、築き上げて来た空気の読める優等生の顔が潰れる。……では、こうしよう。
「ファミリー?ボンゴレ?何の話だ……?」
「あっ!(そ、そう言えば、影宮君にボンゴレのこと詳しく話したこと無かったー!!)」
こうなったら、もう全力ですっとぼけてやる!そして関係ないフリして帰らせてもらうぞ!!沢田綱吉が何やら「忘れてた!」みたいな顔をしているが、無視だ無視!!
「何も知らなくても大丈夫だぞ、ただのお遊びだからな」
「だが……」
「大丈夫だって!」
リボーンの言葉に反論しようかと思ったら、山本武が後ろから肩を組んできた。何故今更馴れ馴れしくしてくる!!触んな!!雑菌が移るわ!!
今の衝撃でずれた眼鏡を直していると、ニカリとむかつく笑顔で山本武は言った。
「ただのマフィアごっこだろ?それに三浦から聞いたんだけど、お前って同年代だったんだってな!仲良くしようぜ!」
何だかあんまり関わって来なくて良いなと思ったら、年上だと思って遠慮してたのかよ!!クソッ、裏切られた気分だ!!慰謝料を要求したいレベルだぞ!!あと何だそのコミュ力!!
「ケッ、アホ同士で仲良くしてろ」
獄寺隼人が何やら恐ろしいことを言っている。くっ、未来のマフィアと仲良くしろと……!?ふざけるな!!
そんなやり取りをしていたら、いつの間にか川辺に移動することが決まっていた。な、流されている。流されているぞ、しっかりしろ!私!!
次こそは逃げ延びてやると決意し、道中「今回は
「……何だか嫌な予感がするな」
「俺もだよ、影宮君……」
ああ、沢田綱吉の同意が不安に拍車を掛けている……。黒曜編から急激に成長するであろう超直感持ちは、もう黙れ……。
▽△▽△
……此方の負け越しだ。
籤引き、羽根突き、百人一首、福笑い……等々、正月にちなんだ対戦をしたのだが、各々に問題があるようで、全ての勝負に負けている。まるで個性のぶつかり合いだな、これは。社会的に問題が有りそうな奴等ばかりだ。未来のマフィアという時点で、問題は有りまくりだが。
「次は影宮の番だぞ」
「……?これは……」
「射的だ」
射的。的となる物を、一定の距離から次々と撃ち落としていくゲームだ。勿論、本物の銃弾ではなく、コルクの弾だが。
終わったな、此方の負けだ。射撃のプロみたいな奴等に勝てる訳が無い。まぁ、ボンゴレファミリーのボスになったら、一億円なんぞ簡単に払えるだろう。沢田綱吉、全部お前に任せたぞ。その頃には、とっくにお前らと縁を切っているだろうが。
―――パシュッ!
「……くっ、やはり駄目だったか……!」
「だが筋は良いぜ、坊主。練習したら直ぐに上手くなるさ」
「影宮の意外な才能を見つけたな」
うむ、負けた。やはりな。表面上は悔しがってやるが。
だが才能ってなんだ。社会には何の役にも立たん才能なぞ要らん。死ね。
「あ―――どーしよー!このままじゃ一億円借金だ~~!!一生借金地獄だ~~!!」
「す、すまない……」
嘆く沢田綱吉に、一応申し訳なさそうな顔をしておく。私は本っっ当にどうでもいいのだが、やはりどうしても優等生の顔があるからな。面倒だが。
「考えてみたら、ちょっとシビア過ぎるな」
そこで、ディーノが甘い言葉を投げ掛ける。
「大人対子供だ。少しハンデをやっていいぜ」
お、おう、良い奴だな。流石、前世の私が惚れた男。金髪が眩しいので、バリカンで全剃りしてやりたいが。あとそのイケメン面腹立つから殴らせろ。今では嫉妬しか浮かんでこないので、ディーノは嫌いだ。他人は大体嫌いだがな。
「それもそーだな。じゃあ、今までのはチャラってことで」
「おい!」
「うそーー!!!」
リボーンの言葉に驚く、ディーノと沢田綱吉。……え、まだ続けるのか、これ?ふざけるな!!さっさと帰らせろ!!私は家に籠って読書をしたいんだ!!
とか思っていたら、リボーンは「かったりーから次で勝った方が優勝な」と言い放った。よし!!さっさと勝つなり負けるなりして帰るぞ!!
その代わり、負けたら十倍の額を払うことになるらしいのだが、私の知ったことではない。ボンゴレで支払え。
最後の勝負は、ファミリー全員参加の餅つきらしい。美味い餡ころ餅を作った方が勝ちだとか。面倒だ。作り方を良く知らないとか適当に理由を付けて、周りに任せよう。
「10代目!ここらで一発逆転と行きましょう!!」
何やら忠犬が張り切っているので、餅つきはこいつに任せておけば大丈夫だろう。
餡は女連中が作るらしく、腕捲りをしている。
ハハハ、働け貴様ら。私は暇潰しに応援のフリをしているぞ。お前らと違って、私はマフィアではないからな。
「ボス……。何スか、このハンマーは」
「さーな、餅を食ったことはあんだけど……」
ディーノ率いるキャバッローネファミリーは、イタリア人なので日本の文化は良く分かっていないようだ。臼と杵を見て、疑問符を浮かべている。
沢田綱吉は「これなら勝てるかも……!」と希望が見えたような目をしているが、そうはいかないのだろうな。この面子で何も起きない訳が無い。……うん、何かが起こる前に、逃げられたら良いのだがなぁ……。
―――ピーーッ
「終了だぞ。そんじゃあ食い比べるから、持ってこい」
ホイッスルの音が響き、ジャッジであるリボーンがキャバッローネから持ってこいと指示する。
うわ。正直、不味そうだ。餅は米のままだし、餡も中に詰め込まれている。そして何よりボロボロだ。私なら絶対に食べたくはない。良くこんなもん作れたな。
「パサパサして不味いな」
リボーンのその言葉を聞いて、目を輝かせながら餡ころ餅の入った、蓋付きの重箱を持っていく沢田綱吉。何気にその蓋にアサリのマークが付いている。細かいな。
……何だか嫌な予感がする。持ち上げて落とす展開が待っていそうな、そんな予感が。
ぱかり。
沢田綱吉が重箱の蓋を外し、驚愕の表情で叫ぶ。其処に入っていたのは―――
「なっ!―――ポイズンクッキングー!!?」
紫色の煙を撒き散らす、食ったらヤバイと分かる餡ころ餅だった。
……いやいやいや、何だこれは!れ、れれ冷静になれ!!た、確か、手料理が全て毒だとかいう、相変わらずふざけた規格外の殺し屋が本編に出ていたような―――
「私も途中から参加させてもらったわ」
「ビアンキ!!!」
着物を着た、長髪の美女が現れた。
沢田綱吉が名前を叫んだので気付いたが、そうだ!ビアンキだ!!記憶が間違っていなかったら、リボーンの愛人だったとかいう!!
結局勝負は、ジャッジのリボーンが全力で寝たフリをした後、毒の餡ころ餅を食わされそうになった両ボスが逃亡したため、決着がつかなかった。はい、解散!撤収撤収!!
▽△▽△
……凄く疲れた。とんでもなく疲れた。精神的に。
帰宅し、自室のベッドに思いきりダイブする。ああ、疲れた身体を、お前は何時も包み込んでくれるな……いっそのこと結婚したい……。……何を考えているのだろう。相当疲れているな、私。
「……眠い」
それにしても、何故私は、あんな連中に付き合わなくてはいけないのだろう。思えば元凶は、私を転生させやがったあの悪魔だよな。雲雀恭弥に押し付けられた木刀でぶん殴りたい。
「……とても、眠い」
……だが。
「…………」
……認めたくはないが。
「……すぅ……」
あいつらに付き合うのは、何だか―――
……その日、私は夢を見る。
―――彼等と居るのに慣れてしまった十年後の未来という、恐ろしい夢を。
――――――……君は、どうしようもない臆病者だよねぇ。
趣味で始めたことで、こんなにお気に入り登録が増えるとは思いませんでした。ありがとうございます。
これからも楽しく書けたら良いなと思います(小並感)。