―――何故だか、三浦ハルと話していると、
「な、何だ」
「いや、別にー?」
そういう時だけ子供ぶるな!!このアンチエイジング通り越した赤ん坊が!!
―――今私達が居る場所は、並盛中央病院。沢田綱吉が入院しているとのことで、リボーン、笹川京子、三浦ハル、そして、新しく合流した中華服の小さな少女、イーピンと共に、沢田綱吉の病室へと向かっていた。
そして、この
……ああ、またやってしまった。流石に優等生としての私も嫌がるだろうし、内心でも本気で嫌だったので、後日沢田綱吉への見舞いをする主旨を伝えようかと思ったら、リボーンに「女の必死な頼みを断るのか?」と銃口を向けられ、逃げられなかった。何で普通にお見舞いさせてくれないのだろうか、この赤ん坊は。
本気でこの街から逃亡し、リボーンから逃れる術を考えていたら、イーピンに話し掛けられた。何だ小娘。
「~~~~!」
「う、うーむ。すまない、中国語は分からないんだ」
イーピンが何かを伝えようとしているのは分かるのだが、何を言っているのかサッパリ分からない。日本語で話せ、これだから餓鬼は嫌いなんだ。
そんなことを考えていると、リボーンがニヒルに笑った。
―――嫌な予感がする。逃げ出したい。
しかし無情にも、リボーンは口を開いた。
「イーピンは、お前がハルのことを好きなのかと聞いているんだぞ」
「「えっ!」」
―――な、
――――――何を言っているのか、分かっているのか!?この小娘ぇええええええ!!!!
そんな訳無いだろう!!こんな!!阿呆な女が!!私の好みだとでも!?
ああ、ああ!見た目だけは認めるさ!!正直好みだ!!だが、中身は別だ!!こんな馬鹿っぽい、騙されやすそうな奴など論外だ!!除外!!
驚愕の表情で声を揃えた二人を尻目に、何故そんな戯言を言い出したんだと問いただしたい気持ちをぐっっっ!!と抑え、私は完璧に微笑を作り出した。演劇に向いてるんじゃないか、私。
「すまない。君の想像している物とは、違う感情を彼女に対し、私は持っている」
「~~~~!」
「"だけど、貴方はハルさんと話していて楽しそうだった"」
リボーンがイーピンの通訳をして、私に言葉を伝えてきた。……おい。まさかお前も勘違いしてるんじゃ無いだろうな?いくらポニーテールが好きとは言え、私にも好みがあるし、選ぶ権利があるんだよ。確かに見た目だけは好みなので、ちらちらと彼女の顔とポニーテールを見ていたのは認めるが。
いや、本当に論外なんで。ツンデレとかそんなんじゃなくて、本当に無理なんだ。そういう対象として見られない。
「……私は見た目だけじゃなくて、中身も見てから決めるタイプの人間なんだ。そんな簡単に惚れる奴では……」
優等生らしい答えを言おうとしたら、リボーンが言葉を遮った。
「でもお前、ポニーテール大好きだろ?」
「「「!!」」」
あ"ぁあ~~~!!クソッ、一々反応すんな!!そして余計なことを言うなリボーン!!確かに、ポニーテールのことは黙っていろと言っていないが!!
「そ、それは……」
「ごめんなさいっ。私、ツナさんのことが好きなんで、影宮さんの想いには答えられません!」
「ハルちゃん……」
「……っっ!!」
すまなそうに謝罪する三浦ハル。表面上ではショックを受けたように装うが、腹の中は煮えくり返っていた。
いや、何で私がフラれたようになっているんだよ!!看護婦連中も「あらあら、若い子達は進んでるわねぇ」みたいな顔をするな!!殺すぞ!!
「分かっていたさ。だが別に、私は君が好きだった訳では……」
「無理すんな、影宮」
いや、だから何で言葉を遮る!?ええい、憐れむように肩に乗るんじゃない!!リボーン、お前分かってて言ってるだろう!?
「う、あ、その……友人関係からは、良いだろうか?」
「ハイ!それなら大歓迎です!!」
気まずくなるのが面倒なのでそう言えば、曇った顔から一変、明るく返事をする三浦ハル。死にたい。リボーン、貴様覚えてろよ。
一騒動あったが、沢田綱吉の病室へと辿り着いた。貴様らのせいで時間が長く感じたぞ、おい。
ひょいとリボーンは飛び下り、一足先にイーピンと病室へと入っていく。
ふむ。何だか今回は、危険なことは無さそうだな。とは言え、安心は出来ないが。
暫くすると、リボーンと沢田綱吉の会話が聞こえてきた。サプライズのつもりなのか、三浦ハルと笹川京子は扉の前で固まっているが。
「最近のツナ、怪我が多いからな。ぜってー何か取り憑いてるぞ」
「縁起でもないこと言うなって!!気分悪いなーーっ」
あっ、言ってしまった。私もそう思っていたぞ、沢田綱吉。
三浦ハルはふらりとショックを受けながらも、病室へと入っていく。馬鹿め。
「気分を害してスミマセン―――怪我の時こそ、笑いが一番。「ププ」って笑ってもらえると思ったんです」
「ハル!!」
「皆も巻き込んじゃって、ごめんなさい」
許さんぞ、この阿呆娘が。……いや、本当に阿呆だよな。一周回って尊敬しそうになったぞ、この私が。
……そろそろ、分かった人達もいるだろう。
そう、私達は―――
「元気出して、ハルちゃん!私、凄く楽しいし」
「京子ちゃんも―――!!?」
―――陰陽師のコスプレを、している。
「影宮も早く入ってこい」
「えっ!?」
リボーンの言葉に、過剰に反応する沢田綱吉。何だ貴様。優等生の影宮桂馬が、知人の見舞いに行かない人間だとでも?私は行きたくなかったがな!!
「……こんにちは、沢田綱吉」
「んなーっ!?影宮君もコスプレしてるー!?」
だから、何で過剰に……ああ、そうだよな。優等生の影宮桂馬はコスプレなんぞしないからな。お前の反応は正しい。オーバーリアクション過ぎてウザイが。
「わ、私は断ろうとはしたんだ。だが、リボーン君に銃口を突き付けられて……、玩具だとは分かってたんだが、何故か恐ろしく感じてな……」
「り、リボーン!お前何してんだよ!!(それ、実は玩具じゃないんだよ影宮君!!)」
とりあえず、本物だとは思ってなかったんだよという一般人アピールをしておく。恐怖を思い出したように少々ぶるりと身体を震わせるのがポイントです。下手に興味を持たれたら困るからな。……もう遅い気もするが。並盛から逃げたい。
私の言葉に、沢田綱吉はリボーンを叱るが、「うるせぇ、此処は病院だぞ」と頭を殴られていた。一応怪我人だぞ、そいつ。どうでもいいが。
「さあ、皆帰るぞ。シャレの分からない冷酷ツナは御立腹だ。此処に居ると殴られるぞ」
「なっ」
いや、このヘタレたお人好しの馬鹿は、無抵抗の人間を殴れるような奴じゃないだろう。私だったら、こんな奴等殴るがな。一切の容赦なく殴る。
「いやいやいやそんなことあるわけないだろ!凄く嬉しかったし!!(しかも殴ったのお前だろうが!!)」
う、嬉しかったのか。この陰陽師衣装で来たのが、嬉しかったのか。私には理解できん感性だ。
「気を使ってくれて嬉しーです、ツナさん!」
「ツナ君、早く元気になってね!」
「また今度、改めて見舞いに行こう」
三浦ハルは感動で涙目になりながら、私と笹川京子は微笑みながら、病室から出ていった。さぁ、撤収だ撤収。私は早く家に帰ってゴロゴロしたいんだ。
「影宮桂馬さん、ですよね?」
「はい?」
名前を呼ばれ、反射的に振り返る。誰だ、私の休息を邪魔する馬鹿は。
其処に居たのは、看護婦の一人だった。本当に平凡な雰囲気の漂う、平和な世界で生きている人間。あ、一般人だ。安心する。
「■■■号室の雲雀さんがお呼びです」
「!雲雀恭弥が?」
えっ、あいつ入院してるの?というか、あいつ大人しく入院するような奴なの?嫌な予感しかしないんだが。
「はひ?誰ですか、その人」
「会長の幼馴染みだよ。うちの学校の風紀委員長なんだ」
「ほぇー。やっぱり、幼馴染み同士で上に立つような人間なんですねー。何というか、天才と天才は惹かれ合う!みたいな」
「ふふっ、何それ」
私が危機的状況に陥っているのに、何でお前らは平和な会話をしてやがる。殺すぞ。
それと私は、天才にはなれんが平均よりは上な、中途半端な奴だ。自分でも自覚している。だからこそ、周りからの過剰な持ち上げに怯えていたりもするのだ。クラスメイトなんか躊躇だ、一般的な感性を持ち合わせている私にとっては、めちゃくちゃ怖いぞ。何故か同年代の奴等が熱狂的な信者と化してるんだからな。何かやったかな、私……。
雲雀恭弥の病室へ行くのを躊躇っていると、リボーンが何を思ったのか、気を使い出した。
「女達は俺が送ってくから、お前は安心して雲雀んとこに行ってこい」
「~~~~!」
「イーピンも自分に任せろと言ってるぞ」
お前らは何でこういう時に限って気を使うんだよ!!それとそいつらのことはどうでもいいわ!!
イーピンの拳を胸にやる動作にイラッとしつつ、私は顎に手を添えて考える。赤ん坊やチビッ子に任せて良いのか、という葛藤をしている真面目ちゃんなポーズだ。
うーん、しかし私は優等生クンだしなぁ……。雲雀恭弥のことも心配しているだろうし、此処で断ったら、違和感があるよなぁ……。……とてつもなく嫌だが、仕方ない。
「……うむ。君達には何故か、妙に安心感があるな。彼女達を頼むぞ」
「任せろ」
「~~~!!」
ああ、クソッ!今日は厄日だ!!
▽△▽△
そんな訳で、私は雲雀恭弥の病室へと向かった、のだが……。
「お前、元気そうじゃないか」
「暇だから呼んだのさ。君がこの病院に来ていると聞いてね」
迷惑な……。
何故か、風邪の癖に入院している雲雀恭弥に、私はほっとしたように溜め息を吐く仕草をした。別の意味でも溜め息を吐きたいがな。
「お前が入院するくらいだから、どんな重症かと思ったら……」
「僕が病気や大怪我を負うと思う?」
「いや、想像できないな」
正直、黒曜編でボロッボロだったことを覚えているので、一応想像くらいは出来る。こいつ早く黒曜編でボコボコにされないかな。私は痛いのが嫌だし、直ぐに死にそうな一般人なので留守番しているが。
「それにしても。また咬み殺したのか、お前」
周囲に転がる屍を見ながら、私は呆れたように言った。こいつマジ野蛮だよな。マフィア以外の就職とか、どうなっていたのだろうか。職場の雰囲気とか。……こいつの恐怖政治以外、思い浮かばない。
「こんな一般人にまで……手当てをしなくては」
「ゲームをしていたからね。敗者は僕に咬み殺されるんだ。其処の屍は、院長が勝手に持っていくから良いよ」
何だ、持っていってくれるのか。放っておこう。
というか、院長まで扱き使うのかよ……、並盛はこいつの支配下か何かなのか?
「それより、何その愉快な格好。陰陽師?」
「うっ!その、友人に頼まれて……」
「ふぅん。相変わらず甘いね」
とか言いつつ、面白そうに見ないでくれますかね?金取るぞ、金。私のコスプレにそんな価値は無いがな。特別料金で大幅に値上げしました。
「まぁ良いや。君、新しい患者が運ばれて来るまで、遊び相手になってよ。武器はあるし」
「は?いや、今日は木刀なんて持ってきては……」
「はい、これ」
何でお前持ってるんだよ!!暇になったら何処に居ても呼ぶつもりだったのかそうなのか!?相変わらず暴君だな!!何時か痴情のもつれとかで死んでしまえ!!
「っ、こんな狭い病室で、……このっ!」
「頭を使って戦えば簡単だろう?僕は周囲なんて気にしないけど」
結局この身体を張った、雲雀恭弥曰く
△▽△▽
やぁ。久しぶりだね―――って痛ぁ!?
何でいきなりキレてるの!?えっ、影の後継者……?茄子頭野郎……??まさか君、スペードに会ったの!?
……醜悪、ね……。そっか……、僕は、そんな風に……。
……うん!君が悪口を言われて腹立ってるのは分かった!!落ち着こうか。拳を置こう。争いは何も生まない。
あー、うん。そうだねぇ……、本当に申し訳ないとは思ってるよ。まっさか、精神状態が最悪な時に六道骸やスペードに出会うなんて……。君の世界への綻びは直したんだけどねぇ、スペードだから……。
えっ、話を逸らすな?影の後継者ってなんだ?い、いやぁ、これは後で知ることだからさ!今の君が知ったところで意味が無いよ!本当だって!!
ほ、ほらっ!そろそろ目が覚めるよ!現実にお帰り!!
えっ、今は諦めてやるが、何時か絶対吐かせてやる?こわっ!君、何だか雲雀さんみたいになってるよ!?―――いったぁ!!本気で殴った!!うわっ、めちゃくちゃ怒ってる!?
バイバイ!!それと君、骸とめっちゃ関わることになるから!!
―――……憎い。
―――……親友である貴方が、とても憎い……―――
私自身はハル大好きです。友人に居たら楽しそうですよね。それと、良いポニーテールを持っている。