ヤンデレの女の子って最高だよね!   作:大塚ガキ男

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どうも、大塚です。
大塚ガキ男からお年玉だよ!って言って格好良く1月1日に投稿しようとしたけど出来なくてめちゃクソダサく投稿します。
デジャヴ。


おとしもの。

「あけましておめでとうございます。それはそうと──お正月よ、空木(うつぎ)君」

「あけましておめでとうございます。それはそうと──まず靴を脱いで下さい」

 

 1月1日。遥か幼少期からお正月と──おせち食べてお年玉貰ってお正月遊びをする日と教わった1月1日に、一つ年上の幼馴染である瀬川さんが僕の家に訪れていた。因みに、幼馴染と言っても家は隣とかそんなベタじゃない。異性の幼馴染の時点でだいぶベタな気がするが、ベタじゃないったらベタじゃないのだ。

 そんな、隣の家に住んでいる訳でもない幼馴染の瀬川さんが窓から現れたのだ。驚かずにツッコミを入れることが出来た自分を褒めてあげたい。

 鍵は閉めていたはずなのにとか、何で二階からとか、色々疑問に思う事は沢山あるけれど、曲がりなりにも客人を前にして一人で考え込んでしまうのは何だか無性に気が引けるので、取り敢えずはもてなす事に。

 瀬川さんは靴を脱ぎ、窓の手前のちょっとしたスペースに揃えてから自分の手で開け放った窓を締め、その長い髪を掻き上げながらこう言った。

 

「お正月よ、空木君」

「はい。お正月ですね」

 

 こちらを見下ろすような仕草は格好良いとは思うが、その前の窓から入ってきた際の一幕、更に言うと、瀬川さんが現在着ているのが着物ではなく浴衣なので(浴衣の上からファーを巻いている)、何だか残念な人に思えてならない。とても美人さんなんだけどね。

 

「お正月と言ったら羽子板。さぁ、庭に出なさい」

「話の進みが早いですって」

 

 瀬川さんは恐らく羽根突きと言いたいのだろうが、知らずに話す様が可愛いので黙っておく。

 

「何を言うの?羽子板が出来るのは、今日この日を入れて数日間しかないのよ。もっと焦りの気持ちを持ちなさい」

「……」

 

 もしかしなくても、この人、お正月遊びをする為だけに押し掛けてきたのではあるまいな。そんな疑いの目で瀬川さんを見てみると、瀬川さんは羽子板をひょいっとこちらに向かって投げてきた。

 

「その目は決意に満ちているようね」

「どちらかというと満ちているのは疑いですけどね」

「さぁ、行くわよ」

 

 僕の言葉なんか聞く耳持たず、窓近くに置いておいた靴を持って階段を下っていく瀬川さん。リビングで僕の父と母にお正月らしい挨拶をしてから、外へ出て行ってしまった。

 

「なんだ、いつの間に瀬川さん家の娘さんが来ていたのか」

「う、うん。まぁね」

 

 ぽかんとした目でつい先程閉まった玄関の戸を見る父に曖昧な返事をし、小走りで後を追う。

 玄関を出てすぐ左。父の車が止まっている車庫の外側をなぞるように敷地内を歩いていけば、芝生が生え揃っている我が家の庭が姿を現わす。その真ん中に、瀬川さんが一人で待っていた。やっぱり寒そうだった。

 

「始めるわよ」

「いや、別に良いんですけど、羽根はどこですか」

 

 先程渡された羽子板をくるくると手で弄びながら、何気無く問う。バドミントンで使うシャトルとはまた違う羽根の形状を記憶の底から探り当ててから瀬川さんの顔を見ると、しまった、という大変分かりやすい顔をしていた。

 

「もしかして、忘れたんですか」

「そのようね」

「他人事だなぁ」

 

 ドジっ子瀬川さんの傍らには墨汁と筆が。全く、そういうのはキチンと持ってくるくせに、肝心の羽根を忘れてしまうとは。らしいと言うか、ある意味予定調和と言うか。

 兎も角、無い物は仕方が無いので、玄関にあったバドミントンのシャトルで代用。こうなったらもう普通にバドミントンで良いんじゃないかと思うが、瀬川さんは恐らく折れてくれないので、シャトルを瀬川さんに渡して、羽子板を構える。片や部屋着の高校生、片や浴衣の美少女。季節感も無ければ浪漫も華やかさも無い、謎の光景だった。

 

「勝負は1セット12点。サーブは下からでも上からでも構わないわ。デュースの場合は先に2点先取した方の勝ちよ」

「羽根突きってそんなにカタカナ使いましたっけ」

「じゃあ、行くわよ──」

 

 テニスプレーヤーのように、慣れた仕草で羽根を手から飛ばし、身体の捻りを活かしたサーブで羽根を打つ瀬川さん。ように、というか、瀬川さんはテニス部なので、ラケット──羽子板の形状さえ覚えてしまえば、その仕草は慣れたものだった。

 あっという間に僕の顔の横を通り抜けていく羽根。風を切る音さえ聞こえるそのサーブは、僕なんかの実力ではとてもじゃないが相手取れる物ではなかった。

 やがて、12対0。1点返すどころか羽子板に当てる事さえ出来なかった完封試合。両手を上げて完敗の意を示すと、瀬川さんはニコニコと、筆に墨汁を付けながらこちらに歩み寄ってきた。

 

「敗者への罰よ」

「薄々分かってましたけど、本当にやるんですか。僕、顔を汚すような歳じゃないんですけど」

「年齢で罰が免れるとでも?」

「……はい。どうぞお好きな落書きをお楽しみ下さい」

「念の為言っておくけど、私、マルとかバツとか、そんなありきたりな落書きしないから」

「じゃあ、どんな感じにするんですか」

「額に文章を書きます」

 

 よく見たら、瀬川さんが持ってる筆は細筆だった。

 どうやら、細かい文字でびっちりと書くつもりらしい。

 

 

 

 *

 

 

 

「お正月と言ったら、かるた。さぁ、今すぐやるわよ」

「えぇぇぇぇぇ」

「嫌そうね」

「嫌ですよ。一刻も早く落書きまみれの顔を洗いたいのに」

「許しません」

 

 許してくれません。

 トホホと肩を落としながら、拭いたくても拭えない額の落書きを意識してムズムズと身を(よじ)らせる。そんな僕を見ることはもう想定済みなのか、それともそれこそが本当の目的だったのか、瀬川さんは僕の顔にスマホのカメラを向けてパシャパシャとシャッターを切る。それから、笑ってかるたの準備をし始めた。

 

「気が付いたんですけど」

「何かしら」

「これ、どうやって勝負するんですか」

 

 この場に居るのは僕と瀬川さんの二人。一人が詠み手をやらなければならないので、先程の羽根突きのような一対一の勝負をするのは難しくなってしまう。

 

「空木君が詠みなさい」

「良いですよ。良いですけど」

 

 以下略。瀬川さんもこの欠陥遊戯に気付いているのか、それとも今気付いたのか、「私も、考え無しに発言している訳じゃないわ」と人差し指を立てた。いやいや、結構考え無しだと思います。

 

「空木君が詠み札を詠み終える前に私がフィールドから札を取れたら私のポイント。空木君が詠み終わっても私が札を取れなかった。もしくはお手付きをしてしまったら空木君のポイントよ」

「成る程、そういう感じでやるんですね」

 

 あと、札が散らばってる場所の事をフィールドって言うんですね。

 

「じゃあ、早速始めましょう」

 

 そう言えば、これって瀬川さんが事前に札の内容を暗記してたら、瀬川さんが圧倒的に有利なのでは?

 そう発言しようとした時にはもう瀬川さんは札を配置し始めていたので、僕は言う機会を逃してしまい、結局為すがままにかるた遊びが始まってしまった。

 

「じゃ、じゃあ行きますよ?」

「いつでも良いわよ」

「……〝あ〟いしてる、世界の誰より、何よりも」

「ッ……!」

「そりゃ、僕みたいなのが言ったら寒気するかも知れませんが、かるたなので。あと、詠み終わりました」

「……中々やるわね」

 

 何故だか息を切らせている瀬川さんの事は放っておいて、詠みに徹する。

 

「〝こ〟んやは君と、愛を育みたい」

「ッ……!!」

「詠み終わりました。また僕のポイントですね」

「……中々……やるわね」

「〝け〟っこんしよう。君と同じ未来を見たいんだ」

「ッ〜〜〜!!」

「──って、何ですかこのかるた!歯の浮くような甘ったるい詠み札しか無いじゃないですか!」

 

 瀬川さんが札を取り出した箱をよく見ると、『プロポーズかるた』と書かれていた。チョイスが謎過ぎる。瀬川さんも原因不明の痙攣に襲われているし、このかるたは確実に危険だと判断。札を全て箱に戻し、蓋をして輪ゴムで厳重に縛っておいた。

 

 

 

 *

 

 

 

「結局、何だったんですか。僕の顔に墨が塗りたくられて終わっちゃいましたけど」

「一勝一敗、ね。出来ればもう一つ、何か別の種目で勝負したかったのだけれど、お生憎様何も無いわ」

「それは良かったです」

「……」

 

 素直に思った事を発言してみると、瀬川さんは微妙な顔をしてしまった。

 

「あの、流石にもう顔の落書きを落としても良いですか?」

「駄目よ。今日、お風呂に入るまで落としちゃ駄目」

「じゃあ、今から入ってきます」

「私が帰って一時間以上経ってからにして頂戴」

「何でですか」

「何でもよ」

「……瀬川さん、何だか新年を迎えてから面倒臭い性格になってませんか」

「今年は亥年だもの。猪突猛進、一竜一猪の思いでいかせてもらうわ」

「誰が一猪ですか」

「冗談よ。じゃあ、私はそろそろ帰らせていただくわ」

「え、あぁ、はい。分かりました」

 

 赤を基調にした浴衣を見事に着こなす瀬川さん。その後ろ姿を玄関まで見送る。ドアを開ければ、外はいつの間にか夕日掛かっていた。新年早々いい天気である。

 

「じゃあ、またね、空木君。今年もよろしくお願いします」

「あ、はい。また。今年もよろしくお願いします。瀬川さん」

 

 敷地の外に出て、別れの挨拶。曲がり角の向こうに消えてゆく瀬川さんに手を振り、見えなくなったのを確認してから家の中に入る。僕は、何故だかお風呂に入れるのは一時間後らしいので、それまで大人しく自室で待つ事にしよう。

 部屋のドアを開く。

 

「……はぁ」

 

 それから、溜め息。

 

「……瀬川さん、かるた忘れて帰っちゃったよ」

 

 手に取ったかるたの箱が、先程手にした時よりも幾分か重みを感じるのは、瀬川さんが帰ってしまったという寂しさからくる故だろうか。何だかんだ瀬川さんは僕みたいな面白味の無い人間に付き合ってくれる良い人なので、僕も心のどこかで悲しんでいるのかもしれない。

 どうか、今年も良い年に。瀬川さんと、楽しく過ごせる一年になりますように。

 そんな事を考えながら、次来た時に渡せるようにと、祈るように、空いている棚の一角にかるたの箱を置いた。

 

 

 

 

 

 

 




ぶっちゃけ、今回ばかりは「ヤンデレちゃうやんけ!」と怒っていただいても結構です。それぐらい分かりにくいです。

次のお話。

  • TS
  • 近眼
  • タイムマシン
  • 既にあるお話の続編

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