大塚サンタからプレゼントだよ!って言って格好良くクリスマスに投稿しようとしたけど出来なくてめちゃクソダサく投稿します。
人生とは、往々にして上手くいかないものである。
格好を付けるために小難しげな言葉を使ってみたが、要はアレである。
リストラである。
仕事の出来もまちまちであれば、他会社とのコネクションも皆無に等しいこんなオッサンは、会社からすれば不要らしく。出社して早々に、普段ならばあまり顔を合わせる事もも無い上層部っぽいおっさんが二人して俺を呼び出し、リストラの旨を告げてきた。
つい先週の土曜日の朝の出来事だった。
幸いだったのは、俺の勤める会社は
しかしながら、ムカつくものはムカつく。貯金だって無限では無いのだから、早く次の就職先を見つけないと俺は野垂れ死んでしまう。
だから、ムカつく。
ムカつくから、昼間っから飲んじゃう。行く宛も無くほっつき歩いちゃう。
「クソがよ……」
自宅近くの公園のベンチで、缶ビールを
こんなんじゃ駄目だと、就職は無理でも取り敢えずバイトぐらいはやっておかないとと、忙しなく履歴書を書いて面接を受けてとやってみたが、撃沈。年齢が悪かったのか態度に何か問題があったのか、俺のケータイに採用の旨を伝える電話が掛かってくることはなかった。
「どこかに1000万くらい落ちてねぇかな」
落ちている訳がない。しかし、そんな有り得ないことを呟いてしまうくらいには現実から逃げていた。
見上げる秋の乾いた空は、俺の心の中をよく表している。ビールをまた一口飲んでから、ふと聞こえてくる耳障りなガキの声。
「……穏やかじゃねぇガキですこと」
こんな、土曜の真昼間から、こののどかな公園内ではどうやらイジメが行われているらしい。興味は無いが、目を向ける。
被害者と加害者。
金髪と黒髪。
女児と男児。
一人と三人。
美と醜。
端的に言うならば、そんな感じだった。ガキがクソガキにいじめられているという、髪色以外は別段珍しくもない光景。ガキならば通る道であると言っても過言ではなく、責められることはあれど糾弾されることはないであろう、ガキ同士のソレ。俺が見逃したところで命に別状は無い、喧嘩で済みそうな手緩いいじめ。
「……」
だが、ガキ共。イライラしてる俺の前でピーピー騒ぐな。ぶち殺すぞ。
もしも俺が喫煙者だったならば、咥えた煙草をその傷一つない額に押し付けてそうなくらいの苛付き。しかし、そんな高級品なんぞ俺は持ち合わせていないので、残り数10㎖となった缶ビールを投げ付けるくらいしか出来ないのだった。
距離にして8メートルかそこら。甲子園を毎年観ている俺には訳も無い。
嘘だ。
命中。
まぐれの命中。
缶の中から残りのビールが飛び出して加害者のガキの内の一人にかかる。ガキには未知となるビールの匂いにガキ達は顔をしかめて逃げ出した。その場に取り残された金髪のガキは、何が起こったのか分からずに辺りをキョロキョロと見渡していた。やり方こそ褒められたものではないが、俺の中には不思議と人助け特有の満足感が滲み出ていた。
もうここに居座る意味も無い。万が一誰かに見られていたら事案騒ぎなので、早々に立ち去る。公園を出て、再び帰路を辿る。その途中、止まる足。というか、鈍る足。
振り返ると、先程イジメられていた金髪のガキが俺のスーツを摘んでいた。成る程、その力じゃ完全に俺の足を止めることは出来まい。
「……どうした」
「……」
「……おい」
「……」
無言である。しかし、よく見ればガキの瞳には涙が浮かんでいる。これは
「用が無いなら──」
「……なって」
「は?」
「私の、家庭教師になって」
人生とは、往々にして上手くいかないものである。
つい先程まではリストラに打ちひしがれながらもどこか自由の身を楽しもうとしていた俺だったが、いつの間にやら見知らぬガキの家庭教師をやらされることになってしまったのだから。
*
「って、おい。二週間も経って言うのはどうかと思うが、言わせてもらうぞ」
室内。赤ペンを持ちながら採点作業をしていた俺は、ぶつけるにしては遅過ぎる疑問をガキ──金髪の少女にぶつける。
「どうしたのかしら」
頬杖を付きながら、俺の顔をジッと見詰める金髪の少女。姓を
彼女に勉強を教えるという仕事内容は、意外というか、何と表現したら良いのか分からないが──簡単だった。俺は教材片手に説明すれば彼女は理解するのだから、楽な仕事と言っても間違いではないだろう。唯一の苦の部分と言えば、日中は彼女の部屋にずっといるので、他人の顔を見る機会が減ったことだろか。言ってしまうと、俺は何だか前職の頃には考えられないほど人間らしくない生活を送っていた。
しかし、高給料。破格と言っても過言では無い。高待遇。働かない理由が無い。
しかし、だ。
「何で俺を雇ったんだよ」
そう、これである。俺よりも出来る人間なんぞ腐る程存在すると言うのに。
俺の、素朴で核心を突いた問い。彼女改め白金は、決まってるじゃんと俺の問いを鼻で笑いながらこう言った。
「おじさんの事が、好きだから」
「抜かせ。25越えてからやり直せっての」
「えー、じゃあ25歳になるまでまっててよ」
「待ってる間に、俺はもうじいさんになっちまってるよ。それに、俺はそろそろ気立ての良い美人な嫁さん貰う予定だから無理」
「それって予定じゃなくて、もーそーじゃないの?」
痛い所を突きやがる。小学生とは思えん。無言で中指を立てると、意味をよく理解していないのか親指を立てて返してきた。クソポジティブな奴みたいになった。
念の為記しておくと、白金は引きこもりだ。
小学校低学年の頃にクラスメイトにいじめられ、それ以来学校には行っていないらしい。以前の公園でのアレは、コンビニでのちょっとした買い物の帰りに絡まれたらしい。奴等とは数年間顔を合わせていなかったらしいのだが、奴等からしたら白金の髪色はよく目立つ。覚えられていても、何ら不思議ではない。
そんな所に、俺が現れた。……いや、俺としては現れたつもりなんて毛頭無いのだが。たまたま立ち寄った公園でムカつく奴等に缶ビールを投げ付けたヤバい奴なだけなのだが。
「ただの好意だけで家庭教師を雇ってるんだったらやめた方が良いぞ。勉強なんかとてもじゃないが身に──」
ずいっ、と。眼前に差し出されるは俺採点による満点回答の疑似テスト用紙。そうだった。コイツは頭の出来が良いのだった。
盛大に出鼻を挫かれた手前、これ以上説得を続けることも出来ないので頬をヒクつかせていると、ふふーんと白金の得意げな声が聞こえてきた。
「勉強なんかとてもじゃないが……で、なーに?」
「……その調子で頑張れと言ったんだ」
*
私は、おじさんに助けられた。
おじさんは『助けたつもりなんかない』ってけんそんするけど、何度だって主張する。
私は、おじさんに助けられた。
小学校一年生だったか、二年生だったか。昔のことすぎて覚えてないけど、私はいじめられっ子だった。この金髪が悪いのか、それとも私の態度が気に食わなかったのか。理由の分からないイジメに耐えられなかった私は、学校に行かなくなってしまった。1日だけ休んで、明日からまた頑張れば良い。そんな気持ちを抱いてしまったが最後。ずるずると『あと1日だけ』を繰り返し、気が付けば5年間も経っていた。この前ではいけないとインターネットで教材を注文して勉強だけはするという後ろ向きの努力を重ねて、いじめっ子よりも知能が劣るというくつじょくだけは何とか避けた。
そんな折、新発売のコンビニスイーツ。町一番の(自称)抹茶好きだった私は、居ても立ってもいられなくなって5年ぶりに我が家の敷地の外に足を踏み出した。スマホの地図を頼りにコンビニに到着し、想定していたよりも余程在庫があった、(運が良かったみたい)目当ての抹茶おにぎりを購入。早く食べたいとはやる気持ちを抑えながら家へと戻る途中に──出会した。遭遇してしまった。
何故、こんな時間に。アイツ等は今頃学校の筈。そんな事を愕然とした思いで考えながら、今日が土曜日だったことに気が付く。5年間も家にこもり続けた私は、曜日感覚が狂っていたのだ。こんなことなら毎週金曜日はカレーを食べれば良かったと見当違いの後悔を、いじめっ子達に暴力を振るわれながらしてみる。痛みは紛れず、手入れしているが為に綺麗だと自負する自分の金髪を汚されるのを見て、悲しかった。
そんな時に現れた、私のヒーロー。
もしくは、救世主。
もしくは、王子様。
兎にも角にも、私を颯爽と助けてくれた
*
「おじさん、私の家で住み込みで働かない?」
「嫌だね」
「なんで?」
「何で、って」
そりゃ、
とは言えないので、言葉が詰まる。傷付けずに濁してしまおうと言葉を探してしまう。宙に視線を彷徨わせてから、苦し紛れに発言。
「……何でだろうな」
ともすれば、見る人が見れば加齢と老いを感じさせるソレ。俺本人ですら、なんでこんな返答になっていない言葉を発してしまったのか理解していないので、本当にヤバいのかも知れない。と、自身の身体機能の衰えに震えてみる。
「もー、ごまかさないでよ」
「ごまかしてなんかないっての。──お、そうこうしている内に今日の授業は終わりだな。じゃあ、俺は帰る。明日までに少しくらいは予習とかしちゃっても良いんだぞ。その分俺のやる事が減って助かりますってな」
頬を膨らませてこちらを見詰める白金から逃げるように、その場から退散。膨れながらもキチンと見送りはしてくれる白金(偉い)に手を振って、玄関の扉を開けて外へ。数時間振りに吸う外の空気に深呼吸を一つしてから、自宅へと向かう。外はもう真っ暗で、街頭が照らす道以外は何も見えやしないような時間帯。前職の際には更に遅い時間に帰宅する、もしくは帰宅出来ない──なんてことも珍しくなかった為、暗闇に対する恐れも無ければ、この時間帯に帰宅する事への疲れも無かった。帰ったら風呂入って飯食って、何をするかとボーッとしながら考えていると、数本先の街頭が見覚えのある背中を照らしていた。
「松中先輩」
言ってから後悔。確信も無いのに、そう声を掛けてしまった。背中はゆっくりと振り向き、俺の顔を見て少し驚いた表情を見せた。かく言う俺も、同様に驚いていた。当たり前だ。本人確認もせずに声を掛けた人物が、本当に本人だったのだから。
「これは驚いた。
「そら近所なんですから、確率的にはゼロじゃないっすよ」
「あいも変わらず可愛く無い事を言うね。つまり、君は本物の柳生君に違いない」
「可愛げの無さで本人確認をしないでください……」
「君だって背中で本人確認をしただろう?」「いや、アレは確認もしてないです」
「……」
「なんすか」
「……いや、何。たまたま私本人だったから良かったものの、気をつけ給えよ。こんな夜道に君みたいなのに声を掛けられたら、声を掛けられた側としては、うっかりポケットからスマホを出して110番を押してしまってもおかしくないからね」
「ひっでぇ」
彼女は、松中先輩。俺の中学時代の先輩に当たる人だ。家が近所だったので、高校で一緒になった際には何かとお世話になった。就職活動の時なんかは色々と親身に相談に乗ってもらったものだから、今こうしてリストラされた身をどう説明するものか、仕事の話になったらどう切り抜けようかと内心爆焦りしている。
「どうしたんだ?つい先日リストラされてじった人のような顔をして」
「気持ち悪いほど的確な例え!」
自己申告する間も無くバレてしまった。
「……まさか、本当にリストラされていたとはね」
「絶対に分かってたっすよね」
「そんなまさか」
ジト目で睨んでみると、松中先輩は俺の意見をケラケラと笑い飛ばしてみせた。松中先輩なら本当に分かっていそうだから判断に困る。
「それで……
「は?」
その子。
松中先輩が指差した方向に視線を向ける。即ち背後。首を捻るだけでは届かないので、身体ごと半回転。してから、更に視線を下へとズラす。
「って、白金じゃねぇか。何でこんな所に」
背後には、『見つかった!』という言葉を表情でよく表している白金が居た。白金と言えば室内という印象がこの2週間で俺の中に植え付けられていたので、意外性も混じって驚いてしまう。
「お、おじさんが暴漢に襲われたら大変だから、後ろからけいごしてたの」
「警護って、あのな。明らかにお前の方が危ないだろうが。いいか?仮に、無事に俺が帰宅出来たとして、お前はその後来た道を戻らなくちゃならないんだぞ?そしたら白金は一人になるじゃないか」
「でもでも」
「でもじゃない。何かあってから──何かに遭ってから注意したって遅いんだからな。こんなおっsげふんげふん。お兄さんの身を案じてくれたのはありがたいが、頼むから気を付けてくれよ」
「……ごめんなさい」
ぺこりと頭を下げる白金。下げた頭に合わせて、綺麗な金髪が重力に従って流れた。
それから、でも、と白金が松中先輩を指差した。
「こういう危ない人もいるんだから、おじさんも気を付けなきゃ」
「……え、もしかして松中先輩のことを言ってるのか?」
「う、うん」
「はは、なぁに言ってんだよ。確かに松中先輩は得体の知れない所はあるけれど、れっきとした俺の先輩に当たる人だ。この人には何度も助けてもらってるし、危ないどころか安全、毒どころか良薬に当たる人だぞ」
「違うの!危ないって言うのは」
何を伝えたいのかがイマイチ理解出来ないが、白金は松中先輩を危険人物だと(何故だか)断定しているらしい。
地団駄を踏んで主張を続ける白金に、松中先輩が近付いて膝を折った。視線を合わせてから、白金の頭を撫でる。
「君はいい子だね。柳生君の為を思って、こんな夜道を一人勇気を振り絞って、ここまで歩いて来たんだろう。だから、帰りも何事もなく一人で帰れるよね?」
「な、何」
「来た道戻れって言ってんだよクソガキ。久方振りの柳生君との会話の邪魔すんなボケ」
頭を撫でながら、松中先輩が白金に何か言葉を発した。残念ながらこちらからは何を言ったのかは確認出来なかった。そもそも何か発言したのかも定かではない。しかし、それによって白金の纏う雰囲気も変わったので、もしかしたら何かしらの遣り取りが行われたのかも知れない。
「……おじさん。やっぱりこの人危険だよ」
「どうやら誤解は解けないらしい。白金ちゃん、だったかな?ならば、君も一緒に帰ろう。私と柳生君が無事帰宅したのを確認してから、独りで帰るといい」
「流石に独りで帰らすのは気が引けるから何かしらの手段は取らせてもらうけど──白金も一緒に帰るってのは賛成っす。白金もそれで良いか?」
「…………うん」
そんなこんなで、3人で辿るそれぞれの帰路。男として俺が車道側を歩き、その次に社会人の松中先輩。車道から一番離れていて安全な最奥側を、白金が歩くという、人通りが少ないからこそ出来る三列歩行で歩く。道中、よく会話の弾む松中先輩とは対照的に、白金はどこか静かに感じた。
*
「……俺、何かしたか?」
「……」
松中先輩と会った翌日。つい最近までは俺もお仲間だった社畜さん方が出勤する時間帯とは大幅に遅れた、クソガキ共も授業を受けているような時間帯に、俺は白金の家に
「……なぁ」
「……」
「おい」
無視。何をそんなに黙り込んでいるのか。頭を小突いてみるが、白金は返答せずにぷいっと
「何があったんだよ。おばけでも見たか」
「……」
「体調でも悪いのか」
「……」
「おねしょか」
「違う!」
「何だ、元気じゃないか」
叩かれた。
「なぁ、勉強」
「……」
参った。こっちは家庭教師として雇われているのに、白金が勉強をしないのならば職務怠慢となってしまいかねない。しかし、家庭教師という仕事は歩合制ではない。じゃあ楽じゃん。OK。勉強しないで良いや。
「分かった。じゃあ、夜までこうしてるか?」
「……えへ」
冗談交じりのソレ。しかし、白金からしたら満更でもないようで(何故だ)、乙女がしてはいけないような笑いが漏れた。上記の『えへ』だって、ちょっと可愛らしく補正がかかっているが、無補正ならば「ぐへ」である。
「気味悪い笑い方すんな」
「えへへ」
「……はぁ。親御さんには何とか誤魔化しておくから、今日は休め」
じゃあ、俺はこれで。そう言って立ち上がろうとしたら、「え?」と白金が俺の腕を引き下ろした。どうでも良いが、俺はここに来るまでの間に近隣住民から変な目で見られたら困るので、毎日スーツを着て出歩いている。白金はそんなことお構い無しにベタベタと引っ付いてくるので、本音を言わせてもらえば『スーツに皺が付くから離せよガキ』と言った感じである。
「危ないから離せよ白金」
「危なくないもん」
「何だそのおぞましい語尾」
「年相応でしょ?」
「客観的にアウトセーフの判断が出来る小学生なら、間違い無く年相応じゃないだろうな──って」
反応よりも会話を優先したので遅れてしまったが、いつの間にやら白金が口を開いていた。じゃあもう腕に引っ付かなくても良いだろうと腕を絡めている白金の両腕からすり抜こうとするが、どうやらまだ離してはくれないらしい。
「なあ、教えてくれよ。何で今日のお前はそんなに面倒──甘えん坊なんだ」
「めんどうくさいって言おうとした?」
「いや、全然。それよりも」
「……言いたくない」
続きを促すと、返ってきたのは拒否。強要すると俺が悪者になってしまうので、じゃあ良いやと会話を終わらせる。
静寂。
無言。
壁に掛けられた時計の秒針が一周回り終わろうとした頃、白金が口を開いた。
「きのうの女の人とは、仲良しなの?」
「仲良しっつうか……まぁ、長い付き合いではあるわな」
「どのくらい?」
「家はビックリするぐらい近所だったんだが、友好的な関係になったのは中学に入ってからだな。それまでは、たまに道端で顔を見かける程度だったし」
「その人、好き?」
「い、いきなり何言ってんだ!?」
「どうようしてる」
「してねぇ!……いいか、松中先輩は俺の恩人だ。好意はあっても恋したいとは、行為をしたいとは──いや、何でもない。最低なダジャレだったわ」
「結婚したいとは思わないってこと?」
「……平たく言うとそうなります。はい」
白金が俺のダジャレを掘り下げてくれなくて良かったと思う反面、咄嗟にしては良い出来だったダジャレが世に放たれず死んでいってしまっていいのかとも考えてしまい、言葉を返すのが少し遅れた。しかもこんなガキ相手に敬語で返してしまった。
「なら、よし!」
「何が?」
「ううん、なんでもない。勉強しよっ」
「はぁ?」
俺と結婚する可能性がある女性がいない事がそんなに嬉しいのか、白金は目に見えて元気になっている。ムカつくが、そのムカつきを今すぐ発散する方法は無いので、頬をヒクつかせて呑み込んだ。
「じゃあ、帰るわ。明日は日曜日だから、また明後日」
「はーい」
「お前の予習した範囲の分だけ、俺が楽出来るかが懸かっているんだからな」
「はーい」
「……分かってんのかなぁ。どうなんだろうなぁ」
スーツに鞄と、私以外の人が見たら間違いなく仕事帰りだと思う格好で、私の家の敷地の外へと出て行ってしまうおじさん。今日も格好良かったな、なんて今日一日のおじさんとの思い出を振り返りながら、その背中を見送る。
ニヤニヤが止まらない。
完璧ではないとはいえ、粗方私の思い通りに事が進んでいるのだから。
「それでいいよ、おじさん。あんなおばさんに惑わされちゃ駄目。おじさんは、私と幸せになるの。私と過ごしていくうちにどんどんと好感度が上がっていって、私が16歳になった瞬間にゴールインするの。あんなおばさんを眼中に入れちゃ駄目なの。……分かってるのかなぁ。どうなんだろうなぁ」
おじさんの真似をしてみる。
おじさんに、私が好きだとか、あのおばさんが好きだとか言う自覚は無い。それはつまりチャンスなのだ。自覚が無い内に私の方へと引き込まないと、あっちこっちへフラフラと飛んで行ってしまう。事を急ぐ必要は無いが、要点は抑えなければならない。年齢の差なんてどうでも良くなっちゃうくらい、私を好きになってもらわなくちゃいけない。
おじさんが敷地の外へと消えてからぴったり1分。さて、今日もおじさんを家まで
まず始めに、リクエストを下さった『飽きっぽいニート志望』さんに感謝を。ありがとうございました!
リクエストは、『アラサーの中卒家庭教師と金髪碧眼引きこもり美少女(12歳)のヤンデレ』でした。もう、飽きっぽいニート志望さんと大塚が交われば、ロリヤンデレになるというのは宿命のようですね。その確固たる意志に敬意を。
ではまた、次もリクエスト作品で。また、もしかしたら何かしらの息抜き的な何かになるかは現時点では分かりませんが、願わくば近い内にまたお会い出来ることを願って。
明日、12月29日は大塚の誕生日です。何かとは言いませんが。
次のお話。
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TS
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近眼
-
タイムマシン
-
既にあるお話の続編