ヤンデレの女の子って最高だよね!   作:大塚ガキ男

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どうも、大塚ガキ男です。異例の速さで更新。
どうやら、この話は結構長く続きそうです。


探偵さん、好きです。

 

 

 

 

 「人間というモノはだね、ミケ君」

 「はい」

 「大まかに分けて、二種類に分けられるんだ」

 「はぁ」

 

 事務所での一幕。探偵さんが紅茶が飲みたいと突然言うものだから、近所のスーパーで取り揃えたティータイムセットを探偵さんの隣でカチャカチャと品の欠片も無い仕草で用意しながら、探偵さんの言葉を聞く。

 ちなみに、ミケ君とは私のことだ。本名が京葉寺 美佳(けいようじ みか)。海外っぽく名乗るとMika Keiyouziなので、イニシャルを取ってミケ。探偵さんは構わないけれど、私は本名がバレると事件に巻き込まれる可能性があるから、こう言った渾名めいたものを付けたらしい。色々あって探偵さんの雑用係として雇われている。

 

 「聞いているのかい。ミケ君」

 「はい。聞いています。二種類に分けられるんですよね」

 

 探偵さんは、自分の話を聞き流されるのが大嫌いだ。なので、きちんと聞いていることを伝えてあげると、とても嬉しそうに続きを話してくれる。可愛い。結婚してほしいレベルで好き。結婚して。

 

 「ボクは、気付いたんだ。そう、気付いたんだよ」

 「二回も言うってことは」

 「(すこぶ)る重要だということだ」

 「はぁ」

 「一つは、自分を理性で抑えられる人間」

 「それで、もう一つは」

 「そう焦らないことだ。君は二つ目の人間なのかい?」

 

 遠回しな結論。だと言うのに、何だかその言葉は予めこのタイミングで言うと決めていたような流麗さを秘めていた。探偵さんレベルになると、私の言いそうな言葉なんてお見通しらしい。

 

 「これは犯罪にだって当てはまる。理性で自我を保てないから、犯罪が起こってしまう」

 「はぁ」

 「そんなことはないと疑っているね?」

 「えぇ、まぁ」

 「よく言うだろう。『感情的になって、つい』と」

 「聞いたことはありますね」

 「感情というのは、理性と対を成す存在なんだ」

 「初めて知りました」

 

 嘘ではないが、大袈裟に驚いてみる。こうすると、探偵さんはとても喜ぶのだ。可愛い(二回目)。

 

 「理性的な人間と、感情的な人間。言葉だけ聞いても、二者への印象は全然違うだろう?」

 「確かに、前者は知的そうで、後者は怒りっぽい印象を受けます」

 「そういうことだ。理性はとは(タガ)なのだよ。箍が外れた人間は感情のままに生きる獣と化してしまう。・・・この街には、後者の人間が多過ぎる。多過ぎるのだ」

 

 二回言った。

 それは、怒りっぽい人か、それとも、自分を理性で抑えられない人間のことか。恐らく両方だ。

 探偵さんが言いたいのは、恐らく、最近この街で起きている失踪事件に関するアレソレへの自的見解だろう。

 失踪事件。

 中高生を中心とした、この街で度々起きている事件。大きな大きなこの街で、男女一組が謎の失踪を遂げている。そんな失踪事件が数件。全てが全て、男女一組ずつ失踪してしまっているので、巷では『心中事件』『逃避行』とも言われている。

 探偵さんはこの事件を独自に(または勝手に)捜査している為、こんな話をし出したのだろう。探偵さんがこう言った話をすることは一週間に一回くらいのペースであって、過去から現在までのこの会話で共通して言えるのは、『捜査が手詰まりであること』。

 

 「・・・それで、現在はどの辺りまで分かっているんですか?」

 「ミケ君。君は、本当に結論を知りたがる子だね」

 「お言葉ですが、結論を知らないで良い人なんていないと思います」

 「結論を知らないで良いだなんて言ってない。結論を知りたがるのはむしろ普通のことだよ」

 「だったら」

 「ほら、急いだ」

 

 探偵さんに額を小突かれた。あう、とあざとい声が出てしまった。探偵さんに嫌われはしないか、それだけが不安になってしまった。

 

 「ボクが言いたいのはだね、ミケ君」

 

 探偵さんが、会話の途中で淹れていた紅茶を口に含む。それから、苦々しい顔をしてカップをソーサーに戻した。余談だけど、昔はティーカップの中身をソーサーに移して飲んでたんだって。だから、ティーカップとソーサーの容量は同じらしいよ。

 

 「知りたがっても態度に出すなということだ」

 

 理性、保てているかい?

 探偵さんは、ニヤリと笑いながら私を見た。格好いい。探偵さんの雑用係になれて本当に良かったと心の底から安心する。多幸感。

 

 「怒っているわけじゃないんですよね?」

 「ボクが怒るわけがないだろう」

 

 言われてみると、確かに。納得した。探偵さんは、私と出会ってから今まで、一度も怒ったことがない。私のマナーや現場でのルールに関して注意をしたことはあったけれど、怒ったことは一度も無いのだ。

 

 「それも理性だよ、ミケ君」

 

 私の考えていることを見透かしたように、探偵さんは言った。

 

 「探偵とは、どんな状況下に置かれても冷静でなくてはならない。理性的でなくてはならないのだよ」

 「成る程。その心得を、私に分からせようとしていたんですね。流石です」

 「はっはっは、褒めるな褒めるな」

 

 額に手を当てて、面白くもなんともない筈なのに笑う素振りを見せる探偵さん。時刻はいつの間にか十八時を指していた。

 

 「明日(あす)に回そう」

 

 独自に捜査をしているため、期限も、時効という形以外には存在しない。なので、日中は毎日こうしてのんびりとやっているのだ。しかし、探偵さんの目元に浮かんだ隈を見ると、毎晩頑張っているんだなと感心させられる。探偵さんはやっぱり格好良いのだ。

 

 

 *

 

 

 「分かった。分かったんだよ。ミケ君」

 

 朝。

 十時。

 探偵事務所にて。

 探偵さんは、私の肩を掴みながら嬉しそうに、二回言った。

 

 「分かったということは、遂に事件の真相に辿り着いたというわけですか?」

 「真相という言葉はこの場合適切ではない。何せボクは、まだ真相への道しるべを発見しただけだからね」

 「それでも、凄いことですよ」

 「そうだろう?そうだろう!」

 

 はっはっは。今度は、本当に嬉しそうに私の賛辞を受け取った探偵さん。可愛い。幸せにするので結婚してください。是非に。

 

 「というわけで、客人だ。入ってきたまえ」

 

 客人って、そんないきなり。何も準備してないのに。そう言う前に、ドアから一人の男子学生が入ってきた。

 

 「やあ、平川君。よく来てくれたね」

 「はい。お邪魔します。先に言って置きますが、今度からはあんな真似やめて下さい」

 「あんな真似、とは?」

 

 もしかして、探偵さんが平川さんに何か失礼な真似を働いたのではないかと危惧した私は、つい問い掛けてしまった。

 平川さんは、あなたは知らないんでしたね。と苦笑いしてから、

 

 「公衆の面前で、土下座してきたんですよ。この人」

 「えぇ・・・」

 「事務所に来てくれって大きな声で連呼するものだから、僕がアイドルになるみたいな、なんだか可笑しな噂まで流れてしまったんですよ」

 「いやいや、申し訳無いと思っているよ」

 

 絶対に思っていない顔で笑い飛ばす探偵さんをジト目で睨むと、探偵さんは話を変えた。すり替えた。

 

 「それで、早速だけど話してもらえるかな」

 「は、はい。分かりました。・・・あれは、数ヶ月前の話です」

 

 ポツリポツリ、と。

 ゆっくりと話し始める平川さん。聞いていた途中から、ようやく事件に関することだと気が付くくらいには、場は和やかな雰囲気だった。

 『新聞部部長、謎の失踪』

 名付けるなら、こうだ。

 とある日を境に、新聞部の部員である平川さんの前に姿を見せなくなった、新聞部部長。事情も分からなければ行方も分からず、しかもそれは平川さんに限った話では無いのだと言う。

 誰も、知らない。

 だから、失踪。

 学校側も事件として警察に届け出を出したのだが、それでも見つからない。解決方法も分からないので、取り敢えず休学扱いになっているのだとか。

 

 「・・・成る程ねぇ。消えた女生徒。これは中々の謎だよ、ミケ君」

 「え、えぇ。はい。そうですね。しかし」

 「男女一組ではない。そう言いたいんだろう?」

 「・・・その通りです」

 「そんなのはボクだって百も承知さ。けれども、この街で起きた事件だということは事実なんだ。人数は違えども、学生ということに違いは無い。ボクは、彼の話から何か重要なモノを得れると確信しているんだ」

 

 真摯な目で、そう語る探偵さん。格好良すぎて、瞳を逸らしてしまった。

 

 「それで、平川君。部長がいなくなった経緯は知れたが、それ以外に何か、同じ時期に起こったこととか無いかな?」

 「そう言われましても、特に・・・あっ」

 「どうしたんだい!」

 「そんなに詰め寄らないで下さい。大したことじゃないんです」

 「事件の真相とは、総じて些細なことから露呈するのだ。話してくれないか」

 「彼女が出来ました」

 「は?」

 

 突然の惚気に思わず殺意が湧いてしまいそうになる。慌てて笑顔で取り繕っていると、探偵さんは、

 

 「ほうほう、彼女が」

 

 と真面目にメモを取っている。

 

 「何故その時期に?」

 「それが、分からないんです。相手は校内指折りの美少女で、所謂(いわゆる)高嶺の花という存在なのに、何故か向こうから好意を伝えてくれて」

 「ふむふむ」

 「で、自分としても嫌な訳がないしで二つ返事で了承して、今まで続いています」

 「・・・そうか、分かった。思春期の君にはとても勇気の要る報告だったろうに。感謝する。ありがとう」

 

 これも、意味的には同じだから重要なことなんだろうかと上の空で考えながら、視界に入っている平川君が、今までパッとしない草食系ぐらいの印象しか受けなかったのに、今に来てとんでもないリア充野郎だということが分かってガタガタと震える。

 そうこうしている内に、平川君は探偵さんから協力に対する謝礼を受け取って帰っていった。部屋に残るはいつもの二人。紅茶を淹れ直そうかと探偵さんのティーカップを持ち上げると、お代わりはいいやと断った。

 

 「彼の話、どう思った?」

 「えーっと」

 

 考える。

 発言。

 

 「青春してるなぁって思いました。そりゃ、部長が居なくなったのは悲しいというか一刻も早く解決されるべき問題だとは思いますけど」

 

 倫理観的な補足。あの話を聞いて、感想がリア充この野郎だけなのは流石に人として最低だから。

 

 「そうだね。そう思うよね」

 「その口振りですと、探偵さんは違うんですか?」

 「うん。一つだけ言っておくと、近い内に被害者は増えると思う。いや、増えるね」

 「被害者。・・・ってことは」

 「うん。失踪する人数が一人増えて、男女一組という法則に当て嵌まるようになる」

 「流石です。もうそんなことまで分かってしまっているなんて」

 「はっはっは。凄いだろう」

 「って、何やってるんですか。分かっているなら、平川さんを追い掛けないと。このままだと彼、危ないんじゃないんですか」

 「うん。そこまで分かっていて、そんなに冷静でいられるってことは、君も探偵の助手として大成し始めているということだ」

 

 理性的なのは良いことだよ。

 探偵さんは、笑顔で私の頭を撫でた。

 

 「あ、ありがとうございます。でも、何故平川さんを助けないんですか?」

 「そうだ。こんなに失踪事件を追っているボクが、何故平川君を助けないのか。知りたいだろう」

 「はい。こればっかりは結論を急がせていただきたいです」

 「許そう。ただし、条件がある」

 「条件」

 

 探偵さんは指を一つ立ててから、こう言った。

 

 「感情的にならないこと。守れるかい?」

 「守れます。いや、守ります」

 「よろしい。これを見たまえ」

 

 探偵さんがゴム手袋をはめ、懐から一枚の紙を取り出す。

 

 「触らぬ神に祟り無し(触らぬ紙に祟り無し)だね」

 

 そこには。

 

 『こんにちは、探偵さん。もう少しで私が不利益を被りそうな事態になりそうなので、この手紙を書かせていただきました。端的に言うと、平川さんにアレコレ理由を付けて付き纏うのをやめて下さい。迷惑です。これ以上やられてしまいますと、平川さんを独り占めしたくなってしまいます。この意味、あなたならお分かりですよね?やめて下さい。ただちにやめて下さい。彼は何も知りませんので、もう捜査は打ち切りです。そうして下さい。

 そうして下さいね』

 

 「これは・・・中々に拙くないですか」

 「そうだね。もうボクが捜査していることも、事務所の場所もバレてしまっている訳だし」

 「どうするんですか」

 「だから、触らぬ神に祟り無しだよ」

 「まさか」

 「うん。平川君のこの先の人生には、不干渉でいることにする」

 「良いんですか、探偵さん」

 「良いんだよ。少なくとも、巷の失踪事件とは形が違うことは分かったんだから。犯人は同一犯じゃないし、多分平川君も不幸にはならない」

 「不幸にならない訳がないんじゃないですか?」

 「彼は幸せに一生を遂げると思うよ。だって、彼を攫おうとしてるの、彼の彼女だし。ついでに言うと、この手紙の主だし」

 「えぇっ!」

 「だから、彼女なら彼を幸せにしてくれるだろう。これに関しては事件じゃない。ちょこっと感情的なラブストーリーだ」

 「・・・それで良いなら良いですけど」

 

 探偵としては落第レベルの結論なのに、私は何故だかそれでも良い気がした。

 願わくば、平川さんに幸多からんことを。

 願わくば、平川さんの彼女が理性的であることを。

 

 

 

 

 




こういう、探偵さんみたいなキャラ書くの好きなんですよ。
死の美の続きかと思っていた方々は申し訳ありません。

次のお話。

  • TS
  • 近眼
  • タイムマシン
  • 既にあるお話の続編

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