前回の投稿からまた遅れてしまいました!申し訳ないです!!
今回も、UA10000突破!!記念のリクエスト作品になります。
「最近、俺の身の周りで不思議な事が起こるんだが」
「・・・・・・何なんですか、藪から棒に」
視線は画面に向けたまま、後輩が返す。今の季節が夏なのと、加えて長期休暇中なのも相まって、その返事はとてもダラけていた。
まるで、暑さで溶けてしまっているようだ。
まぁ、そんな後輩のとろける言い分はとても正しい。ごもっともだ。
部屋で対戦ゲームをしている最中に、俺が突然そんな事を言い出したのだから。
「何て言うか。・・・・・・不思議なんだよ」
「先輩は『具体的』って言葉をご存知無いんですか?」
「やめろ。俺は一応お前の先輩だぞ。ナチュラルに毒を吐くんじゃない」
「あれ、ゲームで一回も私に勝てないからって苛立っているんですかぁ?」
「まさか。俺は町内一の温厚者と噂される男だぞ」
「じゃあ、そんな町内一の温厚者な先輩は、後輩から毒を吐かれた程度じゃ怒りませんよね?」
「当たり前だろ?——それで、話を戻すが」
「・・・チョロい」
後輩が何か呟いていたような気もするが、聞こえなかったので別に良いだろう。
「まず、不思議な事とやらの具体例を教えて下さいよ。どうせUFOを見たとかその程度でしょう?」
後輩はゲームのコントローラーを床に置き(いつの間にか負けていた)、俺にそう促してくる。俺もコントローラーを置き、話し始めた。
「UFOって・・・。例えば、部屋が綺麗になっていたり、衣類が真新しいのに取り替えられていたり。あとは、その花。いつの間にか部屋に置かれていて、それからは毎日違う花が生けられている」
俺が指差した窓側の自分の机には、瓶に入れられた一輪の花が気持ち良さそうに日光を浴びている。
花の名前なんて勉強した事が無いので、何の花かは分からない。
だが、今瓶から生えている薄紫色のそれは、昨日とは色も形も違った。
日を追う毎に。
朝起きる度に。
夜が明ければ明ける程。
花は変えられている。
俺の話を聞いた後輩は、顎に指を当てて何かを考えている。
それから、一言。
「・・・不思議ですねぇ」
「だろ?迷惑でも何でもないし、寧ろ喜ばしいくらいだから、今までは放っておいたんだが。・・・・・・このまま放置するのもどうなのかと思ったんだよな」
最初は俺の為になる事をして、俺を油断させて警戒心を薄めてから金目の物を盗んでいく。そういう可能性だって充分に考えられるのだ。俺の部屋——引いては、我が家に自由に出這入りされてしまっている訳だし。いつでも目的を金品に移す事は可能。
「先輩は、この件をどう解決したいんですか?犯人を取っ捕まえて警察に突き出したいんですか?」
「・・・まずは、犯人が誰なのかを確かめたい。かな」
「成る程、分かりました」
そう言って、立ち上がる後輩。突如として目の前に、眩い太ももが現れたので思わず目を逸らす。
後輩は自らの行動に気が付いていないようだ。良かった。気付いていたら「今どこを見てたんですか?」とかしつこく問うてくるに違いない。
「い、いきなりどうした」
「どうしたって。準備をするんです。犯人を捕まえるんですよね?」
「・・・もしかして手伝ってくれるのか?」
「手伝わせたかったんじゃないんですか?」
「いや、俺は話のネタ感覚で発言したに過ぎないんだが」
犯人の処罰云々だって、後輩に聞かれたから答えたまで。聞かれなかったら、自分で犯人を捕まえようだなんて思いもしなかっただろう。
しかし、聞かれたのなら真面目に考えなければなるまい。
これからの事を。
俺の身の周りで起きている不思議な事を引き起こしている
両親や妹からの被害報告は聞いていないので、今の所、犯人が手を出しているのは俺だけだ。
これから犯人がどんな行動に出るか分からない以上、やはり早期解決——犯人の特定(あわよくば捕縛)は必要なのだろう。
後輩は、犯人探しを手伝ってくれるようで。被害者(と言っても、害を被っている訳ではないのでこの呼び名は適切ではない)であり当事者である俺よりもやる気になっている。
ゲームの電源を切り、後輩に問う。
「で、どうやって犯人を捕まえるつもりなんだ?」
「犯行が行われているのは、先輩の部屋。なので、ここに隠しカメラを設置しましょう」
後輩の口から飛び出した、日常ではまず使わない単語に戸惑う。
「隠しカメラって。部屋の中を映され続ける俺の身にもなってくれよ。俺のプライバシーはどうなるんだ」
「別に問題無いでしょう。それとも何か?見られたら困る事でもしているんですか?」
「していないとは言い切れない」
「うわぁ・・・」
ドン引かれた。
いやだって、なぁ?健全な男子諸君ならこの気持ちは分かるだろう?自分だけの空間で夜中に行う【自主規制】が人に見られたらどうなるのかを。
ましてや、相手は後輩——女子だぞ?犯人が見付かるまで禁欲生活待った無しじゃないか。
一刻も早く犯人が分かってほしいと、心の底から願うのであった。
「隠しカメラはこちらで用意しますので、先輩はカメラを置けそうな所を数箇所探しておいて下さい」
「・・・応」
そして、翌日の午前十時。
「先輩、私はもうOKです」
「は、はぁ?」
早くも後輩は隠しカメラを持って我が家を訪れていた。その準備の早さに俺は驚きを隠せない。
「いくら何でも早過ぎじゃないか?昨日の今日だぜ?犯人探しを発起してから二十四時間も経ってないんだぞ?」
「ここは、私の人徳に感謝する事ですね。なんと無料でカメラを貸してくれました」
「人から隠しカメラを借りる事が出来る人徳って果たして必要なのか?」
まぁ良いか。準備が早ければ、それだけ犯人が早く見付かる。
俺の禁欲生活も早く終わる。
今日も朝起きたら花が変わっていたので、犯人が毎日犯行に及んでいる事はもう確定している。
それにしても、毎日部屋に這入られているのに全く気配に気付かないのは俺が悪いのか。それとも犯人の隠密スキルが高いだけなのか。
兎にも角にも、今日隠しカメラを設置し終えれば明日には犯人が分かるのだ。
後輩を家に上げ、自室に連れ込む。
・・・言葉だけ抜粋したら俺が犯罪者みたいだ。
「取り敢えず俺が目を付けたのは、本棚に並ぶ本の隙間と、窓のカーテンレールと、天井の隅の三つ。どこも人がじっくり見ない所を選んだつもりなんだが」
「・・・・・・まぁ、及第点ですね」
「何様なんだお前は」
上から目線だった。
「じゃあ隠しカメラを設置するので、一旦部屋から出てって下さい」
「俺が部屋から出る必要あるか?」
「私が設置する所を見たら、一人でいる時とか気にしちゃいますよね?『あー、そう言えばあそこにカメラあるんだよなぁ』って。だからです。
あっ、先輩が出した案とは微妙に設置する場所を変えておきますから、先輩自身もどこに設置されたか気付かないと思いますのでご安心を」
「・・・分かった」
そういう事らしいので、俺は素直に部屋から退出する。
それにしても、後輩は人の目につかない場所に隠しカメラを設置する術をどこで習ったのだろうか。
後輩にカメラを貸し出した奴から教えられたのか?
・・・まぁ良いか。
待つ。
自室のドアのすぐ横の壁に寄りかかって、作業が終わるのをボーッとしながら待っていると、向かいの部屋のドアが開いた。
「よう」
挨拶。
「おはよう、お兄ちゃん。今日も後輩さんと遊んでるの?」
「あぁ。今はちょっとアレだけどな」
「?」
寝惚け眼を擦りながら挨拶を返す妹。
後輩が持ってきた隠しカメラのセッティングが終わるまで少しばかり暇なので、妹に話を振ってみる。
「そういやさ、お前の部屋から何か無くなったりしてないか?」
「え?特に無いけど」
「部屋が勝手に綺麗になってたりは?」
「ないけど。どうしたの?怖い話?」
「いや、なんでもない。俺の友人の友人がそんな目に遭っていてな。もしかしたら他にも被害者がいるんじゃないかと思ったんだ」
「物騒だね。・・・まぁ、私はお兄ちゃんがいるから平気だけどね」
「?」
「だって、変な人が家に這入ってきちゃっても、お兄ちゃんは私を守ってくれるでしょ?」
「・・・なんて言うか。あー、お前、可愛いな」
「ありがとっ」
妹の頭を撫でる。
もういっそ、妹にも隠しカメラ云々の事を話してしまおうかという考えが
ので、はぐらかす。妹は頭上に疑問符を浮かべながらも階段を下りていった。その際に「あんまりゲームをやり過ぎちゃダメだよ?」という有難いお言葉も頂戴した。
そうこうしている内に、後輩が部屋から出てきた。
「終わったのか?」
「えぇ、もう終わりました。見てみます?」
部屋に這入る。三百六十度部屋を見渡してから、一言。
「・・・・・・何か変わったか?」
部屋の主である俺にも、変化が分からなかった。いや、後輩はそう努めて作業したんだろうよ?
だが、俺は驚いた。
高校一年生にしてその手腕は、まさに天晴れ。そう言わざるを得ない。
これから先、普通の人生を送っていたならば、まず使い道が無いスキルなのだが。
「ふふん。凄いでしょう凄いでしょう?私以外はどこにカメラがあるのか絶対分からないんですよ!?」
「何だそのテンション。暑さで頭でもやられたか?」
「年中頭がイカれてる先輩には言われたくないです」
「おい、今のは流石に町内一の温厚者である俺も聞き捨てられないぞ。もう一回言ってみろ」
「先輩格好良い☆素敵♪」
「やめてやれよ。照れちゃうだろ」
まぁ、茶番はこれくらいにして。
「設置も終わったし、暇だな」
スマホで時間を確認すると、現在時刻は午前十時十五分程。業者さんも驚きの作業スピードだった。
「暇ですね」
「あぁ」
「・・・・・・」
「・・・・・・ゲームするか?」
「しましょうか」
翌日の朝。後輩に隠しカメラを回収され、そのまま家に帰った後輩を見送り、一人でグダグダと暇を持て余したまま迎えた夜。
一本の電話。
後輩からだ。
「もしもし、俺だ。どうした」
『あ、先輩?今カメラの録画映像を観てたんですけど、トンデモないものが映ってたので取り敢えず連絡を、と』
「トンデモないもの?——まさか、犯人の姿が映っていたのか!?」
『え、えぇ。そうなんですけど・・・・・・』
電話の向こうの後輩は肯定するが、どうも歯切れが悪い。どういう事だろうか。
「何だって言うんだ」
『・・・見た方が早いと思います。動画送りますね』
プツリ。
その言葉を最後に、通話は終わった。
俺の周りで起こっている不思議な事。
犯人は、誰なのだろうか。
犯人は、何故あんな事をするのだろうか。
分からない。
分からないので、後輩から送られてくる動画を待つしかない。
「——来た」
スマホを操作し、すぐに動画を再生。
そこには。
「な、何なんだよコレ・・・!?」
音声は無く、スマホという小さな画面の中には、俺の部屋が映されている。
その中で動く人影。
俺が寝ているすぐ隣で、暗闇の中、室内を動き回る人影。
「妹・・・、お前だったのか?」
声を震わせながら呟く。
恐怖。
憤怒。
嫌悪。
侮蔑。
悲嘆。
・・・いや、違うな。俺の中で今一番暴れ回っている感情は、失望だ。
腹立たしいし、悲しい。しかし俺は、信じていた家族が犯した過ちに、何よりも、失望しているのだ。
偶然にも、俺は昼間に犯人である妹とピンポイントな内容の会話をしていたのだ。しかし妹は、俺からの問いを聞いて白状する所か、シラを切ってみせたのだ。
何故だ。
何故俺に黙って、俺を騙してまで、こんな事をするんだ。
身内とは言え、犯罪は犯罪。世間が、親が、誰が何と言おうと、俺は妹を許す気にはなれなかった。
確かに、毎日花を変えている犯人がどうやって家の中に這入ってきているのか疑問だったのだ。何故誰にも気付かれず、何の痕跡も残さずに犯行に及ぶ事が出来るのかが。
しかし違った。
犯人は夜な夜な、自室と俺の部屋のドアを出入りするだけで良かったのだ。
部屋から十数と歩を進めるだけで、犯行は可能だったのだ。
再生終了。
部屋を飛び出し、目の前の妹の部屋のドアを乱暴に押し開く。
突然の来訪に、ベッドの上に寝転がりながら本を読んでいた妹は、驚きの余り飛び上がった。
「お、お兄ちゃん!?」
自分の行いがまだバレてないとでも思っているのか、「どうしたの?こんな夜中に」と呑気に俺に問い掛けてくる。
俺は一言、吐き捨てた。
「お前には失望した」
退出。自分の部屋に戻ってドアを閉める。
『お兄ちゃん!何があったの!?』
ドアの向こう。妹がノックと一緒に応答を求めている。会話をする気にはなれなかったので、「俺の部屋に勝手に入っただろ」とだけ言ってベッドに這入った。顔まで布団を被る。
眠る準備は万全だ。
『確かに、勝手に部屋に入っちゃったのはいけない事だけど——兎に角話を聞いてよ!私はお兄ちゃんに喜んでもらおうと思ってやっただけなの!』
嗚呼、何も聞こえない。聞こえたくない。両耳を塞ぎ、眠気が訪れるのをひたすらに待つ。
・・・・・・・・・、
・・・・・・、
・・・。
朝だ。
布団を退かし、ベッドから降りる。
「・・・・・・まさかな」
念の為、衣類の数と机の上の花を確認する。
安堵。新古の変化も、種類の変化もなかった。
ふぅ、と溜め息を吐いた。
着替えて部屋を出る。
廊下には妹が転がっていた。どうやら、疲れて眠ってしまうまで部屋の前で
その横を何も言わず静かに通り抜けて、階段を下りて外に出る。
昨日の今日で後輩を部屋に呼べるような心境ではない俺は、久し振りに後輩の家を訪ねてみる事にした。
「はいはい、今出ますよ〜——って、おや?先輩じゃないですか」
「悪いな、アポも無しに」
「私は別に大丈夫ですけど」
「今日はちょっと、俺の部屋に呼ぶ事が出来なくてな」
「何故、って聞くのは野暮ですよね。どうぞ、上がって下さい」
後輩の部屋。クッションを出してもらい、対面に座る。
数秒沈黙してから、切り出す。
「妹は、白状しなかったんだ」
「・・・はい」
「シラを切ったんだ」
「・・・はい」
「否定しなかったんだ」
「・・・はい」
「自分の行いを、恥じなかったんだ」
「・・・はい」
「正当化しようとしてきたんだ」
「・・・はい」
独り言のように呟く俺を、後輩は真摯な目で優しく見詰めながら相槌を打つ。
それだけで。
たったそれだけで。
俺の心の中に居座っていた
不意に、瞳から涙が溢れた。
「わ、悪い。こんなつもりじゃなかったんだが」
服の袖で涙を拭いながらそう弁解すると、後輩が俺の頭をギュっと抱き締めた。
「良いんですよ、泣いても。私の胸なら幾らでも貸しますから」
「う、うぅぅぅぅ・・・!」
声が出そうになるのを必死に嚙み殺そうとするも、代わりに涙はボロボロと流れ続ける。上から降り注ぐ後輩の声で、後輩の胸から聞こえる鼓動で、俺の頭を優しく撫でるその手で、安心する。
それから結構な時間を要して、ようやく落ち着く事が出来た。
成り行きとは言え異性と密着し続けてしまったので、何度も謝罪。
「気にしないで下さいって。私もやりたくてやったんですから」
「いや、でも」
「それよりも、先輩は先にやらなくてはならない事があるんじゃないんですか?」
「?」
「妹さんとの、今後の事です」
「・・・そうだった」
犯罪に手を染めてしまった妹と、これから俺はどうすれば良いのか。威勢良く妹に吐き捨てたは良いが、俺は何も考えていなかったのだ。
「その様子だと、何も考えずに行動したようですね」
「うぐっ」
「大丈夫です。私はちゃんと考えてますから」
「お前が考えてるのかよ」
ツッコミを入れると、間髪入れずに後輩が衝撃的な事を言い出した。
「引っ越しましょう」
「な、何言ってんだよ。引っ越し一つするのに一体どれだけの費用が掛かると思って——」
「引っ越しの準備は私が手伝います」
「は?」
「引っ越し先の家賃やら何やらは、割り勘で払いましょう。何なら私と先輩で6:4でも良いです」
「おぉ、それは助かる——じゃなくて!どういう事だ?それって俗に言う同棲じゃ?」
「はい、同棲です」
「そんなにサラッと言うなよ。俺とお前だぞ?」
男と女が一つ屋根の下って大分アレだと思うんだが。それとも何だ?俺の世代と後輩の世代で、そこら辺の価値観が変わりでもしたのだろうか?そんな訳が無い。
そんな訳が無いのは百も承知なのだが、有り得ない想像を有り得る事実だと考えなければならない程の、後輩の異様な台詞。
それに戸惑っている俺に追い打ちをかけるように、後輩が。
「私と先輩だからですよ。私、先輩なら別に良いかなって。寧ろ、先輩と一緒に住みたいなって思ってるんで」
「ちょ、ちょっと待て。頭が混乱する。一旦落ち着こう」
深呼吸。後輩から言われた台詞を一つ一つ確認してから、問う。
「・・・・・え、何。お前、俺の事好きなのか?」
「はい」
それから先は、トントン拍子で話が進んだ。
両親を説得し、すぐさま引っ越しに。引っ越し先は後輩が探してくれて、もう後は荷物を運び入れればいつでも住めるという状態にまで進めてくれていた。
荷物の運び出しの時に妹が何か言いたそうにこちらを見ていたが、俺は気付いていないフリをした。
元々、俺と後輩は『男女間の友情』とやらが成立していた珍しい関係だったので、引っ越し先でも仲良くやれた。
あの時の(ムードもへったくれも無い、酷くああっさりとした)後輩からの告白。それで後輩は色々と吹っ切れたらしく、家の内外問わず俺にくっ付いてくるようになった。それを近所の人や知り合いにも見られ、事実婚のような状態になっている。
・・・まぁ、そんな周囲からの噂や視線をあまり嫌だと思っていない俺がいるのだが。
妹の件で参っていた俺を立ち直らせてくれて後輩は、俺の中ではもうとても大きな存在になっている。
仮に、後輩から別れを切り出されたなら死にたくなってしまうくらいに。
後輩に甘えてしまう俺と、
俺が甘える事を嬉々として受け入れている後輩。
不思議だ。
だが、これで良いんだ。俺にとって必要不可欠、唯一無二の存在である後輩が、俺の側に居てくれるなら。
「なあ」
「何ですか?」
「これからも、ずっと一緒にいてくれるか?突然離れてしまったりはしないか?」
「勿論っ。私は先輩の側から離れませんし、離しませんよ」
「・・・・・・ふぅ」
暗い部屋。
唯一の光源であるパソコンの画面を見詰めながら、彼女は一人溜め息を吐いた。
パソコンから伸びるコードは、一つの隠しカメラに繋がっている。
パソコンの画面には、先日彼の家に仕掛けていた隠しカメラの映像が流れていた。
『よいしょ、よいしょ』
『ふぅ』
『このお花、喜んでくれるかなぁ』
『全く、お兄ちゃんったら部屋に色が全然無いんだもん。黒と白しか無いなんてつまんないよ』
『部屋も汚いし・・・。私が掃除してなきゃ今頃ゴミ屋敷だよ?』
嗤う。
「妹さんには悪い事をしちゃいましたね」
彼女は、彼を騙していた。
彼の周囲で起きていた不思議な事が、全て彼の妹の所為だと思わせて。
彼を騙すのはとても簡単だった。
隠しカメラで撮った、彼の妹が部屋に入って花を取り替えるシーン。
それの音声を消してから彼に送るだけで、あたかも全ての原因が彼の妹の仕業のように思わせられるのだから。
彼の妹がやったのは、毎日夜中にこっそり起きて、部屋を掃除して彼の部屋の花を取り替えていた事。
それだけ。
ならば。
彼の衣類を盗み、新品と取り替えていたのは、果たして誰の仕業なのだろうか。
「あは、あはは、あははははははっ」
「先輩の部屋に合法的に這入れるのは、何も家族だけじゃないんですよ?」
嗤う。
全ては、彼の味方になる為。
全ては、彼を依存させる為。
全ては、彼を手に入れる為。
全ては、彼に好かれる為。
全ては、彼と結ばれる為。
彼女は彼を騙していた。
最初に、リクエストを頂いた打ち止めさんに感謝を。ありがとうございました!
リクエスト内容は、『主人公を思いっ切り依存させる系なヤンデレが見たい』でした。
リクエストを確認した瞬間にラストは今回の形にしようと決まっていたので、どうやってあのラストに話を持って行くかに頭を使いました。妹ちゃんには悪い事をしてしまった。
書き終わってから、「あれ、思いっ切り・・・・・・思いっ切り?」とか思ったりもしましたが、自分的には結構お気に入りです。
次回からはオリジナルに戻ります!
追記。
感想欄にて御指摘をいただいた所を修正しました。
ちなみに、主人公に話し掛けられた時の妹ちゃんの心境としては
(部屋から何か無くなる?特に無いなぁ)
(部屋が勝手に綺麗になってる?私じゃあるまいし、誰も私の部屋を掃除する人はいないよね)
(友達の友達が?私みたいなケースだったら良いけど)
みたいな感じです。自分がお兄ちゃんにやっているのと似てる話だけど、多分私に聞いてるんじゃないよね。
自分では善意故の思いでやっている兄の部屋の掃除なので、自分から言うのは恥ずかしい。だから、気付かれていないのなら何も言うまい。と、妹ちゃんは、主人公からの問いに関する返答以外の事は何も言わなかったのです。
これから、話がこじれていく・・・。
次のお話。
-
TS
-
近眼
-
タイムマシン
-
既にあるお話の続編