お久し振りです!
今回と次回は、UA10000突破!!記念のリクエスト作品になります。
「私と、付き合って下さい!」
高校一年生。細かな日付は覚えていませんが、確かその日は夕焼けが綺麗だったような記憶が残っています。
昇降口の自分のロッカーに入っていた一通の手紙。差出人不明のそれは、僕を放課後の屋上へと呼び出していました。
放課後の屋上。
・・・告白か、それとも悪戯なのか。こんな経験は生まれてこのかた初めてだった僕は、戸惑いました。
クラス内での僕の存在は、少なくとも疎まれてはいない筈。
かと言って、好まれてもいない筈。
平均。中間。中庸。微妙。
だから、差出人に心当たりはありません。
しかし、だからと言って無視する訳にもいきません。
僕は放課後、屋上へと向かいました。
僕の通う高校には北棟と南棟の二つの屋上があるのですが、南棟の屋上は以前何か問題があったらしく立ち入り禁止。北棟も、五メートル程の高さまで伸びるフェンスに囲まれて、ようやく立ち入りが許可されています。
階段を上り、その最終。屋上へ続くドア。
「・・・・・・」
深呼吸を一つしてから、ドアを開く。
心地良い風が僕の頬を撫でる。綺麗な夕焼けと高いフェンスをバックに、一人の少女が立っていました。
待ち人は、彼女——という事でよろしいのでしょうか。
「・・・あの」
貴女が、僕に手紙を出した人物ですか?
そう問おうとしますが、僕の言葉は止む無く中断させられました。
ドア付近と、フェンス付近。十数メートルは空いていたその距離を、少女が駆けて距離を詰める。その勢いのまま。
「私と、付き合って下さい!」
僕に抱き付き、そう言った。
当然、僕の中で生まれた感情は戸惑いの一つのみ。女子に抱き付かれたやったー嬉しいとは思えません。
何せ、見ず知らず。赤の他人なのですから。
「え、えっと・・・・・・。取り敢えず離れて下さい」
少女の両肩を掴み、身体から離す。少女は「あっ・・・」と何やら残念そうにしながらも離れてくれました。
咳払いを一つ。それから、少女に問い掛ける。
「貴女は誰ですか?」
目の前で頬を赤らめている少女が、僕に手紙を出した人物と見て間違いないでしょう。
問題は、この少女が誰なのか。クラスメイトに、こんな子はいなかった筈。
クラス外で交流した人物の中にも、少女に該当する顔は思い至らない。
「あ、そうだよね。知らないよね・・・」
肩を落として落ち込む少女。罪悪感。
「どこかで会った事があるのでしょうか?」
「入学してすぐ、助けてもらったんだけどなぁ」
「助けた?僕が?」
「うん。図書室で、高い所の本を取ってくれたんだよ」
「と、言われましても。僕としてはそんな事日常茶飯事ですので。一々覚えては——」
「・・・・・・他の子にも、してるの?」
ゾワッ。
何だか寒気が。
「他の子って・・・。困っている人を見かけたら助けるのが普通でしょう」
ましてや、そこが図書室なら尚更の事。学びたくても、本が手に取れなくて学べない。そんなのは可笑しいですから。
僕がそう言うと同時に寒気も消える。一体何だったのか。
「・・・・・・恋愛感情は無し、まだセーフか」
「何か言いましたか?」
「う、ううん!何も言ってないよ。——それで、返事を聞かせてほしいな」
「返事?」
「そう、告白の」
あ。
話が流れてしまい失念していましたが、そう言えば僕は目の前の少女に告白されたのでした。
改めて考えると、照れてしまいますね。
何せ初めての経験なのですから。二月十四日にチョコレートを貰った事はありますが、それを一々告白と捉えていては渡した側にも迷惑というもの。
二月十四日風に言うならば、義理と本命は別。そっちは義理で、今の告白は本命。
僕からの返事を待つ少女の全身を、改めて見直す。
髪を染めていないのも好感が持てます。あと、個人的に髪の長さは短めの方が好みなので、そこもグッときます。
背丈は、百六十くらいでしょうか。
制服も着崩さず、リボンも緩ませずにしっかりと着用。
清楚、という言葉がよく似合う子ですね。
見た目は完璧。
ならば、
本を取ってあげただけで僕に惚れるという思考回路は理解出来ませんが、それはそれ。
まぁ、これから交流を深めていけば分かる事です。今この場で確かめる必要はないでしょう。
「良いですよ。これからよろしくお願いします」
了承。僕が握手の意味で手を差し出すと、少女はその手を潜り抜けてまた僕に抱き付いてきました。
喜びを抱擁で表現する少女に、僕も知らぬ間に顔を綻ばせていました。
折角ですし、告白から現在までの知られざる空白の期間をこの機会にお教え致しましょう。
まずは、告白の翌日。
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「・・・・・・あの、」
昼休み。以前までとは明らかに違う状態。違和感。
言うならば、人数。
僕は一人から二人に増えた原因。もう一人に問う。
「?」
「僕と貴女は違うクラスでしたよね?」
「そうだけど、それがどうかしたの?」
どうかしたの?とは。彼女は違和感を感じていないのでしょうか。
「何故、わざわざ僕の教室で昼食を摂りに来ているのですか?」
問うと、彼女はさも当然のようにこう返す。
「折角付き合ったんだから、お昼くらいは一緒に居たいでしょ?ほら、お弁当作ってきたよ!」
一緒に居たい。
僕には初めての経験なのでその感覚は理解出来ませんが、言われてみればそうなのかも知れませんね。確かに、本で読んだ交際関係の男女は毎日のように一緒に過ごしていたような気がします。
「それは、はい。そうですね。一緒に食べましょう。——ですが、お弁当は僕も持参済みでしt」
そう。
彼女がお弁当を作ってきてくれるという行為を僕に事前に伝えなかったが故の結果。サプライズが仇となった結果。
僕は一人暮らしなので、自炊が出来る。コンビニで昼食を買うよりも自分で作った方が安く済む事を知っている訳でして。
早い話、自分で作ってきてしまったのです。
これに関しては、僕は何も悪くない筈。何せ、知らなかったのですから。
「・・・・・・え?」
前言撤回。
また寒気。
僕は言い終わりそうになった一言を途中で切り上げ、
「いえ、何でもありません。お弁当、有り難くいただきます」
「うん!これから毎日作ってくるから!」
僕が弁当を受け取った瞬間に見せた、弾けるような笑顔。そんな笑顔を見せられては、自然とマイナスな感情も消えてくるというもの。
・・・・・・鞄の中のお弁当は、夕飯に回すとしましょうか。
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健気にお弁当を作ってきてくれる、優しい彼女ですね。
では、次。
これから一週間程経過した頃の夜。
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「・・・・・・あの、」
帰宅して、リビングに向かってすぐに感じた違和感。
僕はあまりの衝撃に頬がヒクつくのを堪えながら問いました。
「何?」
「ここで何をしているのですか?」
有り得ますか?帰宅した
まだ付き合って一週間と少し。合鍵を渡すにしては早過ぎますし、そもそも普通の交際関係なら合鍵を渡したりはしません。
同棲、というならまだしも。
「何って、夜ご飯を作ってるんだよ?お腹減ったでしょ。もうそろそろ出来るからね」
下校時間ギリギリまで図書室に篭っていた僕。空腹を感じていた(脳を働かせていたので尚更です)僕には嬉しい、カレーの良い匂い。
ではなくてですね。夜ご飯云々よりも、もっと気にするべき事があるでしょう。
「いやいや、流石にこれは看過出来ませんよ!何せ立派な犯罪——刑法百三十条、住居侵入罪ですからね!」
一体どのような手段を使って僕の家に侵入したのでしょうか。キョロキョロと部屋の中を見渡していると、そんな僕を温かい目で見るように、彼女が言いました。
「酷いなぁ。
「・・・・・・はい?」
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どうやら僕が忘れていただけで、いつの間にか僕は自宅の鍵を彼女に渡していたらしいです。
この歳でそんな重大な事を忘れているとは、お恥ずかしい・・・。
では、次。
クラス変えを終えた二年生初めてのHR。彼女が僕の家に入り浸っているのがもう気にならなくなってきた頃。
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「同じクラスだね!やったぁ!」
「はい。これから一年間、よろしくお願いします」
最初のHR直後。十分休みの時間に、彼女が僕の机まで挨拶に来て下さいました。まさか、同じクラスになれるとは。
「うん、末長く!」
そう言って、僕に抱き着いてくる彼女。クラス中に視線が僕達二人に注がれます。
「こ、公共の場での抱擁は
「そんなの知らなーい」
それらしい理由で彼女に抱擁をやめてもらえないか試してみますが、通用せず。
嗚呼、周囲からの視線が痛い。ここまで堂々とイチャついていたなら、さぞかし目立っている事でしょう。
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クラスも同じになり、喜ぶ彼女。その様子はとても愛らしく感じました。
では、次。それから半年程経過した夏。彼女の様子が可笑しいと感じるようになった頃。
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「ねぇ、この提出物って今日までだっけ?」
「・・・・・・」
とある休み時間。談笑していた僕と彼女の間に、クラスメイトの女子が入ってきました。どうやら、提出物の期限の確認をしたいようです。
問われた本人である彼女に視線を移しますと、・・・・・・おや?反応がありません。僕と話していた先程までの機嫌の良さはどこへ言ったのやら。
「あれ、聞こえてない?」
女子の方を見もしない彼女。不審に思った僕は「返事をしてあげてはどうですか?」と彼女の顔を覗き込みます。すると、彼女はようやく口を開きました。
「知らない。私が会話するのは一人だけで充分だし」
「えぇ・・・。それは人としてどうなのですか?」
「・・・・・・」
またしても彼女は黙り込んでしまいました。
どうやら本気のようですね。
「申し訳ありません。彼女、喉が痛くて会話が困難のようです。その提出物は、一応明日までです。ですが、今日提出しても問題はありませんよ」
クラスメイトと話そうとしない彼女の代わりに、僕がフォロー。
適当に嘘の理由を語ると、クラスメイトも信じて下さったようで。
クラスメイトの心情が不満から心配へと変わりました。
「あ、喉痛かったんだ。ごめんね、喋らせようとして。・・・それと、ありがとう」
「いえ」
彼女とクラスメイトの会話を仲介した僕に、クラスメイトがお礼。
クラスメイトが僕と彼女から離れたのを確認してから、彼女が底冷えするような声で。
「・・・・・・ねぇ」
「な、何でしょうか?」
「・・・・・・他の子とのお喋りは楽しい?」
「(・Д・)」
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何故他のクラスメイトと話さなくなったのかは見当もつきません。
彼女なりの理由があるのでしょう。
僕には知る由も無い事です。
クラスメイトへ仲介をしていたら嫉妬されてしまったのは、流石に驚きましたが。
まぁ、別に気にするような事でもないでしょう。
嫉妬する彼女も可愛いです。
では、次。幼馴染と久し振りに会話をした頃。
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「あ、久し振りじゃーん!」
下校途中。夜ご飯は何でしょうかと、彼女が作ってくれているであろう夜ご飯のメニューを予想しながら歩いていると、一人のギャルに
真っ茶色の髪。ヘアアイロンでも当てたのか、ウェーブがかかっています。
細かな商品名は知りませんが、メイクも施しているようで。どこをどう変えたのかはよく分かりませんが、「あぁ、化粧したのですね」と直感で理解出来る顔。
平均よりも長い爪はカラフルに彩られ、お米はどう研いでいるのかと疑問を抱かせます。そもそも自炊はしていないのかも知れません。
短いスカート。
着崩した制服。
学園一の優等生と名高い僕に喧嘩を売っているとしか思えない、チャラけた容貌。
ギャル。
「僕に話し掛けるなら、まずその
頬が引き攣るのを笑顔で我慢し、ギャルにそう言います。
ギャルは笑いながらこう返してきました。
「えー?巫山戯てなくない?てか、幼馴染なんだからちょっとくらい見逃してくれても良くない?」
何だその『〜くない?』って。僕を憤死させたいのですか。
まぁ、その巫山戯た見た目よりも重要なのが、ギャルが言った『幼馴染』という単語。
そう。僕とギャルは、
幼馴染なのです。
・・・・・・残念な事に。
僕の人生の唯一の汚点。周囲に知られたくない事実。
家は隣で、ギャルの御両親は、両親がいない為に祖父母に育てられていた僕に、我が子のように愛情を注いで下さいました。その点については、いくら感謝しようともし切れない程です。
しかし、ギャル。貴女は駄目です。
・・・まぁ、こんな感じで。幼い頃からギャルの御両親とは面識があったので、自然と僕とギャルが接する機会も多くなります。
その結果がこれですよ。高校も同じ所に行くとか言い出して、僕のレベルに合わせて猛勉強の末に合格。
何故そこまでするのか分からない。ギャルの行動は、僕には理解出来ない。
高校も同じという現実。僕とギャルの関係は未だに薄くならないようでして。
今日のように、時たま話し掛けられるのです。
「・・・それで、何なのですか?」
これ以上服装に関する会話を続けても意味が無いと思った僕は、要件を聞き出す事にしました。
ギャルは「あぁ、そうそう」と思い出したように、
「最近アンタの家に行ってないから、久し振りに行きたいな〜って思ったんだけど」
「無理です。さようなら」
「えぇ〜!良いじゃん良いじゃん!別に断る理由無くない?」
「了承する理由も無いではないですか!えぇい!鞄を引っ張らないで下さい!」
ギャルから逃げようと走り出した僕が持っていた鞄をホールドし、それを阻止するギャル。
幾ら鞄を上下左右に引っ張って引き剥がそうとしても、ギャルは離してくれません。それどころか、余裕の笑顔でこう言いました。
「別に良いんだよ?家は隣なんだし。アンタが断っても入れるし」
「うぐっ・・・・・・」
家が隣の幼馴染。物語では腐る程にありふれた関係性ですが、事実で現実。
しかも、僕の身にもしもの事態があった時に隣から駆け付けられるように、合鍵をギャルの御両親に渡しています。
家に入れるのは嫌だ。しかしギャルは合鍵を使う事が出来るので、断っても効果は無し。
僕にとって不利でしかない今の状況。
諦め。
僕は見せ付けるように大きな溜め息を吐いて、「勝手にして下さい」と一言。ギャルは喜び、僕の後ろをテクテクと付いてきます。
鍵を開け、自宅の玄関。僕は数秒そこで立ち止まりました。
「・・・・・・」
「何してんの?早く入ってよ」
ギャルとの疲れる会話で忘れていましたが、そう言えば僕の家には彼女が居るのです。
と言うのも、家には最近めっきりクラスメイトと話さなくなった——僕以外とのコミュニケーションを取らなくなってきた彼女がいるのですから。
そんな彼女と、ギャルを会わせてしまって良いのだろうか。と、今更ながら不安になってきます。
そんな僕にはお構い無しに、ギャルは「おっ先〜」と僕を追い越してリビングに入って行ってしまいました。
バタンと閉じられたリビングのドア。それから間も無く。
『あ、お帰り——誰だお前ッ!!』
『ちょっ、危な!人に包丁投げるとかマジあり得なくない!?』
怒声と悲鳴。その二つがごちゃ混ぜになったような二人の声が聞こえてきました。
「・・・・・・」
首を人差し指で掻く。まぁ、僕が止めないといけませんよね。
ドアを開け、睨み合っている二人の間に割って入ります。
「たっくん退いて!我が家に這入り込む害虫は駆除しなきゃ!」
「はぁ!?何言ってんの!?アンタこそ人の家で何やってるわけ!?」
鬼のような形相の二人。女性が発しているものとは思えないその迫力に逃げ出したくなる衝動を抑えながら、僕は二人を落ち着かせます。
まるで自分の家のような感覚で相手を非難する二人。
ここは僕の家なんですが・・・。
「まあまあ、二人とも落ち着いて下さい。そんなに大きな声を出されては近所迷惑ですから」
諌める。彼女も落ち着いてきたのか、ソファに深々と刺さっていた包丁を取りに行き、水で洗ってから戻ってきました。
ギャルも、ぶつくさ文句を言いながらも口を閉じてくれました。
「幼馴染と、彼女です」
互いに互いを紹介する。その際に「幼馴染!?」「彼女!?」と互いを指差して驚いていましたが、まあ良いでしょう。
台所に夜ご飯のメニューを確認しに行こうとすると、彼女に制服のベルトを掴まれました。歩行を強制終了させられる僕。片腕で男子高校生の動きを止められる彼女の膂力とは一体。
振り返って彼女の顔色を確認すると、嗚呼。怒っているみたいですね。
「・・・・・・ねぇ。幼馴染がいるなんて私聞いてないよ?」
「でしょうね。言ってませんでしたから」
「何で言わないの!?私に隠し事なんてしないでよ!」
「隠しているつもりはなかったのですが・・・まぁ、そう感じさせてしまったのなら謝ります。申し訳ありませんでした」
素直に謝り、怒りを収めてもらう。無駄に反抗するよりも、こちらの方が
仲直りの抱擁。と言うよりかは、彼女からの一方的な抱擁を受けて仲直り。
「・・・・・・彼の交友関係をもう一度、一ミリの漏れ無く調べ上げないと。これじゃあ危なっかしくて仕方無いもん」
僕の耳元で何かを呟いていたような気がしましたが、よく聞こえませんでした。多分気の所為でしょう。
「という訳で、帰ってくれる?幼馴染さん」
僕と彼女の様子を見て何やら呆然としていたギャルに、そう言い放ったのは彼女。
ギャルは歯噛みしながらも、「・・・・・・
リビングに残った僕と彼女。彼女は何事も無かったかのように「夜ご飯にしよっか!」と笑顔で言ったのでした。
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彼女と居ると時折感じる謎の寒気の原因も分からないまま続いた、彼氏彼女という間柄の交際関係。気付けばそれは二年間にも及び、彼女は僕の生活に溶け込み、僕にとってもなくてはならない存在になっていました。
そして現在。休日の自室。学校は自由登校期間に入り、卒業まであと僅かとなった頃。
僕が机に向かって本を読んでいると、視線を感じます。何やら湿度を帯びているようなその視線。振り向くと、ベッドの上の彼女が女の子座りで僕の事を見ていました。僕と目が合っても、視線は逸らさず。「えぇ、見てますとも」と言わんばかりです。
「・・・何か?」
「ううん、何でもないよ」
僕の事を見ていた理由を問うても、返ってくるのはそんな返事ばかり。
何でもないのに何故見てくるのでしょうか。
「・・・ねぇ」
呼ばれる。
「はい。何でしょうか」
「私達って恋人だよね」
「えぇ、そうでしょうね。どこからどう見ても——周囲からは完全に恋仲だと思われているかと」
「そっか・・・うん、そうだよね」
「それがどうかしましたか?」
「ううん。聞いてみただけ」
どこか、弱気に見える彼女。
「・・・・・・もしや、卒業後の事を案じているのですか?」
「え、何で分かったの!?」
驚く彼女。
「この時期ですからね。進路はもう決まってますし」
「本当は同じ大学に進みたかったんだけどなぁ。理数系苦手なんだよね・・・」
落ち込む彼女。
付き合って半年くらいから、「一緒の大学に進む!」と意気込んでいた彼女ですが、僕との頭脳の差に敗北。渋々自分に合った進路を選んでいました。
まぁ、それが一番なのでしょうけれど。無理に相手の進路に合わせると、自分が不幸になりますし。
何より、大学だけが二人が一緒に居れる場所という訳ではありませんから。
「僕達の愛は、大学が違うくらいの事で揺らぐモノなのですか?」
煽るように、彼女に問う。返事はすぐに返ってきました。
「違うよ!私達の関係は揺らぐ事無く崩れる事無く、未来永劫死んでも生まれ変わっても続くんだから!」
それ程までに僕の事を想って下さっているとは。彼氏冥利に尽きるとはこの事でしょうね。
顔を合わせて、微笑み合う。
僕と彼女の関係は、卒業しても続きます。続かせてみせます。
明らかに自身の呼吸音とは大きさもペースも違うそれに気付き、目が覚めました。寝惚け眼を擦って状況を確認。
「・・・・・・帰ったのではなかったのですか?」
仰向けでベッドで寝ていた僕。
その横に、彼女が立っていました。光源は月明かりしか頼りが無い室内で瞬時に彼女だと認識出来たのは、やはり僕が彼女を愛しているからでしょう。
とは言え、彼女との再会は完全に予想外の出来事だったので驚きます。
が、僕は平静を努めてそう返しました。
「・・・うん。でも、やっぱり駄目だった」
駄目だった?何が?
言葉の意味を聞こうとした時、僕は気付きました。
彼女が泣いている事に。
「な、何故泣いているのですか?どこか具合の悪い所でも?」
「違うよ。そうじゃないの・・・・・・」
首を横に振り、否定。その際に涙が散り、僕の頬に一粒落ちてきます。
取り敢えず、泣いている彼女を放ってはおけません。僕は上体を起こし、彼女を抱き締めました。親しみ深い彼女の香りを楽しんでいる暇はありません。
ドクッドクッドクッ。
彼女の、平常時よりも早い鼓動を感じます。背中を優しく叩き、彼女の心が落ち着くのを待つ事に。
数分後。いつもの調子——とまではいかないものの、先程より幾らかは落ち着いた彼女がようやく、訳を語り始めました。
「帰る時に、会っちゃったんだ」
「会った?誰にですか?も、もしや不審者——」
「違うの。会ったのは、あの幼馴染の子」
つまり、彼女を泣かせたのはギャル。
忌々しい。
僕にちょっかいをかけてくるだけに飽き足らず、彼女を泣かせるとは。
「それで、言われちゃったんだ。『アンタは無理だけど、アタシはアイツと同じ大学に入るから』って。私、不安になっちゃって・・・!大学だけが私達が一緒に居れる場所じゃないのは分かってる。けど、大学に進んだら、たっくんと会う機会が段々少なくなっちゃうんじゃないかって」
歯が欠けそうな程に、力強く噛み締めます。そうしていないと、ギャルに対する怒りの余り叫び出してしまいそうでしたから。
僕は彼女の頭を撫で、「心配はいりません。所詮は屑の
「ありがとう。・・・・・・でも、やっぱり私は不安になっちゃうんだ」
ガチャリ。彼女の頭を撫でていた方の手の首。左手首に、何かが填められました。その音の正体を知る為に、一度彼女から離れると。
「な、何を?」
「やっぱり、大学は行っちゃ駄目だよ。将来の為にはなっても、私達の為にはならないよ」
「だから、手錠をかけるのですか?」
そう。僕の手首に填められたのは手錠。片方だけ填められ、もう片方はブラリと垂れ下がっています。こんなもの、どこから用意したのでしょうか。
「大学に行かないで——それから、外にも出ないようにしよう!うん、そうだね!たっくんは魅力的だから、外なんか出歩いたら盛りのついた雌に襲われちゃうよ!外は危険だから、家に居た方が安全だよ!ねっ?私が買い物炊事洗濯その他雑用夜のアレソレまで全部ぜーんぶやってあげるから!」
だから、ずっと一緒に居よう?
彼女は笑いながらそう言いました。
狂変。
今の彼女を二文字で表すなら、こうでしょう。
彼女は狂ってしまった。恐らくは、あのギャルの所為で。
でも・・・。そんな貴女も、愛しています。
貴女だけが狂う必要はないのです。
一人だけが狂っていれば、それは異常ですが。
二人で狂えば、何も可笑しくはなくなるのですよ?
今までひた隠しにしてきた、知られざる僕の想い。彼女に知らせるには重過ぎるその想い。
貴女が狂うなら、僕も狂って見せましょう。
彼女が片方の手錠を掴み、それをベッドの柵へとかけようとしたその瞬間。
僕は手を引いて拒み、片方の手錠を彼女の右手首にかけました。
「奇遇ですね。
目を見開き、こちらを見る彼女。
その表情も、大変可愛らしいです。
「外は危険——それは、貴女にも言える事でしょう」
「え、たっくん?」
「そのような可愛らしい姿をしておいて、世の男性が黙っているとでも?馬鹿を言ってはいけません。男性は皆、例外無く狼。貴女も本来なら外に出てはいけないのですよ」
そうです。学生という身分故に——彼女に知られてはいけないと思い、今までは我慢していました。
が、
本心を言わせてもらうなら、彼女を他の男性の視線に当てさせる事すら辛抱ならなかったのです。彼女の表情一つ一つを僕以外の誰かが見る事自体、堪えられなかったのです。
彼女は僕のモノ。
僕だけのモノですのに。
あのようなケダモノ共と同じ空間に、彼女が居たと思うだけで狂いそうになります。
ですから・・・。
ねぇ?
「貴女が家から出るなと言うのならば、僕はそれに従いましょう。しかし、貴女も外に出る必要はありませんよね?買い物は通販で済ませれば良いですし。・・・あぁ、金銭的な面も何も心配はありませんよ?両親の遺産が、僕の手元にはたっぷりと残っているのですから」
「た、たっくん・・・?」
僕と彼女に繋がれた手錠。それと僕の瞳を交互に見ながら、彼女が声を震わせながらそう言いました。
心と身体。
両方の意味で繋がれた僕と彼女。
夢にまで見た、ずっと一緒に居る事の出来る最高の選択肢。
卒業出来ないのは少し残念ですが、まぁ、卒業というのも単なる経歴の一つに過ぎませんし。
彼女にもう一度抱き着き、耳元で。
「愛しています。
僕はもう、貴女無しでは生きられないのです。
だから、ずっと一緒にいて下さい」
最初で最期のプロポーズを囁くのでした。
まず始めに、リクエストを頂いたtanken様に感謝を。ありがとうございました!
リクエスト内容は、『主人公(ヤンデレ)がヒロイン(ヤンデレ)を圧倒する話が読みたい』でした。
リクエストを自分なりに考えて物語にしていきましたが、考えていたのと違っていたなら申し訳ないです。
ヤンデレの心情を地の文で語るのは初めてでしたので、新鮮です。
頭良さげに地の文考えるのって凄い大変なんですよね。絶対馬鹿がバレてる・・・!
次のお話。
-
TS
-
近眼
-
タイムマシン
-
既にあるお話の続編