ラフムに転生したと思ったら、いつの間にかカルデアのサーヴァントとして人理定礎を復元することになった件 作:クロム・ウェルハーツ
ギロリとラフムを睨むクーちゃんことクー・フーリン。むっちゃ怖い。
「あの……Mr.キャスター?」
「ああ、悪ィ……。コイツの鳴き声で、ちっとばかし苦手な奴のことを思い出しちまってな」
マシュの声でクー・フーリン──今はキャスターのサーヴァントだ──は怒りを収めた。険しい顔を一転させたキャスターは笑みを浮かべる。
「オレはキャスターのサーヴァント。この冬木の聖杯戦争で呼ばれたサーヴァントだ」
名乗られたならば、返さなくてはならない。ラフムが話すことのできる数少ない単語を口にする。
「LAHMU……」
「ラフム? あり得ないだろ、それ」
ラフムの名を聞いたキャスターの顔がまた険しくなった。今度は嘘を吐いているんじゃないかとラフムを疑う顔だ。
じっとラフムを見つめるキャスターにマスターが尋ねる。
「あり得ないって、どういうことですか?」
「あ? 坊主、自分のサーヴァントについても知らねえのかよ」
「先輩はカルデアに来て、すぐに冬木にレイシフトしています。ですので、世界各地、古今東西の英雄についての知識は学ぶ時間もありませんでした」
「ま、そうなら仕方ねえか」
ラフムからマスターへと目線を移したキャスターはゆっくりと言葉を紡ぐ。
「ラフムっていやあ、バビロニア神話に出てくるモンだ」
「Mr.キャスターの言う通り、ラフムという存在はバビロニア神話の冒頭、父神アプスーと母神ティアマトから初めに産まれた神だと伝わっています」
「それが……どうしたの?」
マスターが首を傾げる。
「あり得ないことなんだよ。事実が伝承と違っていたとしてもだ。そこんとこはオレよりもアンタの方が詳しいだろ?」
キャスターがオルガマリーへと目を向ける。オルガマリーがキャスターの言葉を引き取るように口を開いた。
「神話で伝わっているラフムはこんな形じゃない。いえ、キャスターの言うように事実を伝承という形で曲げていたとしても神は召喚できない。それはカルデアの召喚システムでも、冬木のサーヴァント召喚でも共通することよ。まあ、例外はあるけど」
「例外?」
「神をダウンスケールさせて、サーヴァントとしての運用すること」
「ハッ……神がそんなことを受け入れる輩とは思えねえけどな」
「でも、そうとしか考えられません。ラフムが人語を扱えないことも、そのことが原因だと推測できますし」
そもそも、神というのは気まぐれで自分の力に絶対の自信を持つ存在だ。上下姉様のように始めから力を持っていないというのならともかく、ラフムの名前が来ているバビロニア神話の“ラフム”は原初の神の一柱。神を産み出すこともできる神だ。相当、位が高い神が“ラフム”だ。そんな神が自分の力を削って人間に使役されるなんてことは、まずあり得ないこと。
まあ、ラフムの場合はバビロニア神話の“ラフム”とは違う存在なんですけどね。どちらかと言えば、エルキドゥに近い存在だ。エルキドゥがガンダムだとするとラフムはザク……いや、なんか違うけど大体のニュアンスで言えば、そんな感じ。
『とにかく』と頭を振ったオルガマリーは厳しい顔付きで今後の方針を固める。
「今すべきことはラフムの正体よりも、大聖杯を手に入れること。バーサーカーは近寄らなければ大丈夫なのよね?」
「ああ。奴の通り道に出ない限りは大丈夫だ」
「なら、急ぎましょう。時間を掛ければ掛けるほど、こちらの体力は削られていく状況。この子もきつそうですし」
「フォーウ……」
お、どこに居たのやら、フォウくんがオルガマリーに抱えあげられていた。ぐでんとしたフォウくんは力なく鳴く。燃えている都市はふわもこの体は辛いのだろう。そんなフォウくん、そうオルガマリーに抱えあげられたフォウくんを見つめながらラフムは思う。
……どうせなら、ラフムよりもフォウくんに転生してマシュやぐだ子の胸元に潜り込みたかった。現実は隣にぐだ男しかいないけど。現実です……! これが現実……!」
畜生が、喰うぞ。HPとATKの底上げをしちゃうぞ。
気持ちを切り替えて、息を大きく吐く。
気を取り直して情報を整理するとしよう。
この話の進みよう。ラフムがアーチャーと戦っている内に、キャスターが冬木の聖杯戦争について説明していたんだろう。大聖杯やバーサーカーについてまで話が進んでいる。ちなみに、0章クリア後、すぐにバーサーカーに凸って返り討ちにされたのは、この私ですwww
復刻ネロ祭のバーサーカー以上の絶望を感じたね、あれは。あの時は邪ンヌもいなかったし。
バーサーカーについての説明、そして、大聖杯についての説明があった。
ということは既にマシュはクー・フーリンにセクハラされ済みか。
しまった。会った瞬間、マシュにセクハラをしておけばよかった。一番始めにマシュをマシュマシュしたかった。けど、ラフムには所長がいる。所長は冬木でお別れだし、ここでしかセクハラができない。つまり、所長の優先度が高い。一番槍は
光の御子め、令呪を以って命じる自害せよ。令呪ないけど。
がっくりと肩を落としたその時、ラフムの頭に天啓が舞い降りた。
逆だ、逆に考えよう。
クー・フーリンにセクハラをすればいいのではないか?
突如、舞い降りた名案。そうと決まれば、即、実行だ。アニメで上を脱いでくれたから、取り敢えず、下を脱がしてクーちゃんのクーちゃんをボロンさせよう。
そう思って、キャスターの後ろに立つ。と、肩口からこちらを睨みつけるようにキャスターの赤い目が輝いた。
「ほお……オレを試したいってことか?」
犬歯を剥き出して笑うキャスター。
「乗ってやるよ。ただし、後悔すんなよ!」
狂犬じゃん。怖い。
何か話が食い違っている……というか、完全に勘違いされているけど、弁解のための言葉はラフムは話せない訳で。
「ちょっと待った! 仲間同士で争うのはダメだ!」
「先輩の言う通りです。今は……」
「うるせえ!」
マスターかマシュに助けを求める前にマスターが助け舟を出してくれた。けど、キャスターの言葉の一撃であっという間に助け船が沈む。ラフムの体みたいに泥で出来た船だったのかもしれない。
「コイツの気持ちが分からねえなら、黙っとけ」
ラフムの気持ちは二人と一緒なのに。戦いはダメ。痛いのは嫌い。
「それに、気づいているか? コイツがオレと戦おうとしたのも、坊主。お前さんのためだ」
「オレ……の?」
「ああ。お前さんを護るに足る実力がオレにあるかどうかテストしたいんだろうさ。全く……見た目とは違って、いい奴じゃねえか」
すみません。
実はパンツ降ろそうとしていただけで、本当にすみません。
むっちゃ褒められて居心地が悪い中、キャスターが杖を構える。槍の構えっぽいけど、ラフムは優しいから特に何も言わないでおく。流石はケルト式。
「坊主に嬢ちゃん。そこに突っ立ったままでいいのか?」
「え?」
「オレは全力でコイツを殺すぞ」
「!?」
「失いたくねえなら、しっかり守ってやんな」
「ッ! マシュ! 頼む!」
「了解しました!」
マシュがラフムの前に出た瞬間、キャスターの声が響いた。
「アンサズ!」
マシュの盾に何度も火の玉が当たる。が、マシュの盾はそれを通さない。
タイミングを計って、ラフムはマシュの盾の後ろから走り出す。狙いはキャスター。取り敢えず、ラリアットをして意識を奪おうとジグザグに走り出す。
大きく左右に走って魔術による攻撃を避けたからか、キャスターは攻撃を一旦、止めて杖を持つ手に力を入れているのが見えた。真っ向勝負をしようという腹積もりだろう。
「ラフム! 止まれ!」
全ての腕を地面に刺して体を無理矢理止める。マスターの指示には従うのがサーヴァントだ。令呪を使ってないから強制力はないから自分で自分を止めるしかない。
しかし、なぜ、マスターはラフムを止めたのだろう。
と、地面が薄く光っているのに気が付いた。なるほどね、地面にルーンを刻んで地雷のようにした訳か。マシュが
「ラフム! 上から攻めろ!」
マスターの言う通り、跳び上がってキャスターへと迫る。
Accel Zero OrderのCMで出てきた切嗣のようにキャスターへと上から襲い掛かるが、キャスターの杖でラフムの四本の腕による渾身の一撃は軽く受け止められた。
蟹ばさみにしとけば良かった。三條な●み監督の絵コンテならば、間違いなく蟹ばさみをしただろう。アライグマくん的に。
「アーチャーとの戦いがなけりゃ、もちっといい勝負ができたかもな」
キャスターの冷たい顔とは裏腹に杖が熱を持ち始める。
「これで倒れて!」
ナイス、マシュ!
マシュがキャスターの隙をついて、盾を振るう。キャスターはそれを軽々躱すが、同時にラフムからも距離を置いた。
地面に降りたラフムは、すかさず、マシュの腰に腕を回して全速力でその場から離れる。と、大きな火柱が背後から上がった。キャスターが仕込んでいたルーンから火が上がったのだろう。
アスファルト(アストルフォではない)を削りながら、戦闘が始まった時と同じ場所に戻る。けど、それはダメな選択だった。
「我が魔術は炎の檻、茨の如き緑の巨人。因果応報、人事の厄を清める社──倒壊するはウィッカーマン! オラ、善悪問わず土に還りな!」
「あ……」
マシュが呆然と呟く。
先程のラフムにとって全力の攻防はキャスターにとって、ただの
目の前に顕現したのは木の枠組みで作られた巨大な人型。ちなみに、この人型をウィッカーマンと呼び、それはケルトのドルイド──大雑把にいうと魔術師──が行う儀式に使われる。このウィッカーマンの中に人間を閉じ込めて火を点けるという儀式だ。ジャンヌも真っ青な儀式をやるとは、流石はケルト。
ちなみに、この
「MATTHEW……6,t@e」
「ラフムさん……了解しました!」
こんな時は、私のかわいいナスビちゃんに頼るに限る。
「あああああ!」
マシュが叫びながら盾を地面に打ち付けた瞬間、盾の前に巨大な魔法陣が浮き上がった。
絶対的な防御を誇るマシュの宝具だ。そうは言っても、FGO内では無敵や回避を味方全員に与えはしない。味方全体の防御力を3ターン上昇&ダメージカット状態を3ターン付与という今一パッとしない性能。進化しても自身以外の味方の攻撃力を上昇が追加されるぐらいなもの。
まあ、獅子王の無敵貫通相手にはマシュの宝具が他の防御系スキルに比べれば使えるものの、ラフムは高貴な家だったので、バーサーカー+石コンテでぶっ飛ばすことができた。『バーサーカーは最強なんだから』が金平糖を齧ればできるし、ロ……FGOは最高だぜ。
「あああああ!」
マシュが叫びながら
それにしても、スキップされないな。256回ぐらいタッチしたらスキップされるかもしれないと思いついてマシュの頭を撫でる。
「ラフムさん……」
安心したような顔をするマシュ。無垢な瞳だ。
これからタッチされる場所が変えられるということを想像もしていないマシュに世間の厳しさを教えてあげようとした瞬間、目の前の炎が掻き消えた。
「宝具が使えねえって言ってた割には、やれば出来るじゃねえか、嬢ちゃん。それに、坊主もオレの魔術をよく見抜いた。……で、どうよ? オレの力は?」
自信有り気にラフムを見るキャスターだ。
FGOをしていた時からキャスターの力は十二分に知っている。言うことがないほどに強いレアリティ詐欺だということを知っている。強いて言えば、ストーリー召喚からしか排出されないのを直してくれたら最高。
そんな意思を籠めてニッコリと笑いかける。
「お、おう……。なあ、坊主?」
が、キャスターは引き攣った顔でマスターを呼んだ。
「はい」
「コイツの今の表情って笑顔でいいんだよな」
「当たり前じゃないですか」
「コイツの表情を読み取れるのは当たり前じゃねえよ!」
ラフムの表情は醜い(誤字)ことを思い知らされた夏の冬木でした。