なんなんこれ   作:ダルマ

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南港鎮守府の愉快な人たち

 艦娘、それは人類の、世の奥様方の献立の友であるお魚を守る頼れる海の女神達である。

 軍艦を召艦し、大海原でお仕事に励む漁師さん達に牙をむく深海棲艦と戦う。まさに海のワルキューレ達だ。

 

 しかし、そんな艦娘達も、元はただの女の子。

 お喋りし、恋バナに花咲かせ、ショッピングを楽しむ。そんな歳相応な一面を見せる、ただの女の子達だ。

 

 そして、そんな女の子達を多数有する日本最大の民間軍事会社、クラシック・ネイビー。

 国内外に数ある鎮守府(事業所)の一つ、南港鎮守府。

 

 今日もまたこの鎮守府では、数多くの艦娘達が、仕事にプライベートに、忙しい日々を過ごしている。

 

 

 今日も今日とて漁船を狙う深海棲艦の小規模艦隊を見事に撃退し、無事に南港鎮守府へと戻ってきた出撃組一行。

 その中には、奈々の姿も含まれていた。

 

「加賀さん、助けていただいてありがとうございます」

 

「いいのよ。後輩のフォローをするのは先輩として当然の事だから」

 

 どうやら戦闘の際に奈々は夕紀恵に助けてもらっていたようで、何度も感謝の意を表している。

 一般の商社とは異なり、少しのミスでも命取りになりかねない、そんな職場環境だからか。奈々はしつこい位に感謝の意を表した。

 

 その後自身の感謝が伝わったと納得した奈々は、自身のデスクへと腰を下ろし、報告書の作成に取り掛かる。

 しかしながら、文章の作成にはやはり各々の性格が出てしまう。そして奈々の場合、彼女自身の性格もあって、かなり細かい内容になってしまう。

 

 要約できるであろう箇所も、丁寧に書かれ。

 気づけば、出撃した中で彼女が一番最後に報告書を書き終えていた。

 

「提督、こちらが報告書です!」

 

「ご苦労様」

 

 書き終えた報告書を持って提督室を訪れた奈々は、デスクに腰を下ろしている上司の佑弥に出来上がった報告書を手渡した。

 もはや四隅以外余白がないのではと思えるほどびっしりと書き込まれた報告書。

 

 出撃した面々の中でも突出して書き込まれている報告書を横目に見た秘書のエリカは、奈々にもう少し読み易くまとめる様にとアドバイスを送る。

 

「ブッキー。Reportはもっと簡単でもNo Problemネー! 出た、見つけた、Victory! でもALL Okay!」

 

「御崎さん、それだと、出来ればもう少し細かく書いてほしいんですけど……」

 

 二人のやり取りを見ていた奈々は小さく笑うと、今度からはもう少し要約して書くことを約束する。

 その後、報告書を提出し終え退室すると、奈々は自身のデスクへと再び腰を下ろした。

 

「お疲れ様なのです」

 

「わ、ありがとう。電さん」

 

 すると、その手に二つのカップを持った董が奈々のデスクへと近づいてくる。

 そしてゆっくりと片方のカップを奈々に手渡すと、空いているデスクに腰を下ろした。

 

「あの、温度とか、大丈夫ですか?」

 

「うん、丁度良いよ。ありがとう」

 

「よかったのです」

 

 コーヒーブレイクを堪能する二人。

 それから暫くは他愛のない話を続けていたが、不意に奈々の口から勤務についての話が飛び出す。

 

「そういえば、電さんは今日から夜勤でしたよね?」

 

「はい。でも大丈夫なのです、睡眠はバッチリとってきたのです!」

 

 朝も夜も関係なく襲い来る深海棲艦。それに対応する為には、必然的にシフトを組んで望まなければならない。

 夜更かしはお肌の天敵とは言うものの、勤務として定められている以上、文句など言えない。

 

「それに、夜勤に強い頼れる先輩も一緒なので安心です!」

 

「頼れる先輩?」

 

「あ、丁度来たのです!」

 

 そんな夜勤の話の中で、董が頼れると言った人物が誰なのか。心当たりのない奈々が首をかしげていると、どうやらその人物が董の視界に入ってきたようだ。

 手を振り呼び寄せる董を他所に、奈々はこちらに近づいてくる人物を確かめるべく、視線を動かした。

 

 そこには、鮮やかな赤紅色の髪を靡かせ、合間に見える耳が少しばかり尖がっている、お腹が冷えないのかと思えるほど制服を着崩した女性の姿があった。

 

「ン? どうしたのさでンちゃん?」

 

「今、江風さんのお話をしていたのです!」

 

「ン、あたしの話?」

 

「そうなのです、江風さんは夜勤で頼れるというお話です」

 

 んに少々独特のイントネーションを置く彼女は、どうやら江風と呼ばれているようだ。

 奈々は見かけた程度で声をかけたことがなかったが、江風の方はどうやら既に奈々の事をある程度は知り得ていたようだ。

 

「あ、あんたブッキーでしょ。あたし、江風。ま、本名はあるけど、紛らわしいから江風ってよンで!」

 

「は、はい! こちらこそ、よろしくお願いします。江風さん」

 

 なので淡白な自己紹介を終えると、再び自身の事についての話題に戻る。

 

「ン、よろしく。……で、二人してあたしの偉大な夜勤英雄伝を話してたの?」

 

「なのです! やっぱり夜勤に関してはこの鎮守府内では江風さんが一番なのです!」

 

「当然だろ! なンたってあの夜戦バカ一代こと川内大先生の一番弟子なンだからな! 夜勤と言えば夜戦! 夜戦といえばこのあたし!!」

 

 腰に手を当てながら胸を張る江風。

 どうやら、他の者なら嫌がりそうな夜の活動が、彼女は大好きなようだ。

 

「ンじゃ、あたしは準備があるから、また後でな」

 

「はい、また後で、なのです」

 

 こうして気分がよくなった所で、江風は準備があると言い残して二人のもとから去って行った。

 

 そして、残された二人は再び夜勤の話を再開するのであった。

 

「江風さんは凄いのです、猫さんのように夜目が使えるので、不意の奇襲も心配が少ないんです」

 

「へぇ~、それは凄いね」

 

 董から聞かされる江風の凄さを聞くたびに、奈々は感心するのであった。

 

「勿論、江風さんだけじゃないのです。一緒に夜勤を過ごす先輩方は、皆さん頼れる方々ばかりなのです!」

 

 入社して一年目と日は浅くとも、自身の周りには頼れる先輩たちがいる。そう語る董の顔は、そんな先輩たちが一緒なら夜勤など辛くないと言わんばかりだ。

 

「勿論! 吹雪さんも頼れる先輩のお一人なのです!」

 

「うん。ありがとう」

 

 こうして話が一区切りつく頃には、飲んでいたコーヒーもなくなり。それを合図にするように董も準備の為に奈々のもとを離れる。

 そして再び一人になった奈々は、不意に伸びをすると、残りの勤務時間を確認し急ぎではない事務作業を片付け始めるのであった。

 

 

 

 おまけ、南港鎮守府の頼もしい仲間たち。

 

 その一。日曜日になると溢れ出る十四歳病を抑えきれない嵐さん。

 

「太平洋キターーーッ!! さぁ、ここからは命燃やす私達のステージのショータイム(幕開け)よ! 最後まで瞬きせず、付き合えよ!!」

 

 因みに、何故いい歳して十四歳病を患っているのかと言えば、趣味だから仕方がない。

 

 

 その二。同じく日曜日になると十四歳病を発症してしまう明石さん。

 

「敵艦隊だーっ! 砲・雷・爆・航! 大・大・大海せーんっ! 開戦っ!! ……って感じのアイテム作っていいですか!?」

 

 因みに、エンジニア系なので十四歳系アイテムを勝手に自作しちゃったりしている。なお、歌のように聞える効果音については気にしてはならない。

 

 

 その三。日頃からあまり面白くもない親父ギャグを連発している鬼怒さん。

 

「ほんと、夜に漁に出て深海棲艦に出くわすって漁(ギョ)っとするよね! マジパナイ!!」

 

 因みに、何故ウケもしない親父ギャグを連発するのかと言えば、性分だから仕方がない。

 

 

 その四。倹約家を自負してはいるが、どう考えてもただのドケチな秋月さん。

 

「美容室ですか? ……、そういえば、最後に行ったのは三年、いや五年ぐらい前、でしたね。だって自分で切ったほうが経済的ですし」

 

 因みに、コーヒーのフィルターは乾かし使う、外食は絶対に行かない、どうしても行くとしてもクーポンの使えない店には行かない。その他、雨水を溜めたり浴槽にペットボトルを入れて量をかさ増しする等。

 何処からどう見てもドケチとしか言い様がないが、本人は倹約家と一貫しているのでそう言う事にしておこう。

 

 

 

 まとめ。個性だから仕方がない。


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