平和な世の中を突如として襲った暗黒の力。
光も届かぬ暗い海の底より現れたのは暗黒の権化、その名を『深王』と言う。
深王はその圧倒的なまでの暗黒の力を使い、平和な世を混沌と恐怖が支配する深き闇の世界に変えるべく、配下の深海棲艦と呼ばれる者達を産み落とした。
彼女たちは王の命を忠実に遂行し、世界に暗い影を落とし続けた。
当然、抗う者達も現れたが、彼女たちの持つ圧倒的な力を前に、一人また一人と抗う者達は傷つき倒れていく。
もはやこの世に希望はなく、世界が深き闇に覆われるのを眺めているしかないのか。
人々の間に絶望が芽生え、それが日を追うごとに巨大なものへと変化していく中。それは、その希望の光は、突如として現れるのであった。
「お、俺、さ、参上ッ!! ……あ、あの、明石さん。こんな感じでいいんですか?」
「ていと……、ん、んんっ! 勇者ユウヤ。もっと恥ずかしがらずに思いっきり叫ぶように言ってください」
「で、でも。こう言う台詞って自分の性格には合っていないと言うか……」
「駄目です!! 勇者は目立ってなんぼ! ほら、もう一度! ついでにポーズも付けて注目度アップです!」
「え、えぇ……」
おさげ風のピンクの髪の女神様の細かな指南を嫌々受けつつも、勇者ユウヤはこの闇が迫る大地へと舞い降りたのである。
時に、大地に根付いた王国の姫君が深王にさらわれ、預言者が深王を滅ぼす勇者が現れると予言した日から半年後の事であった。
始まりの森に舞い降り、女神から伝授された主役のポーズもマスターした勇者ユウヤは、とりあえず現状を整理し始める。
この世界に女神の半ば拉致に近いような形で連れて来られた勇者ユウヤは、前の世界では何処にでもいる平凡な提督の一人であった。
それが、何時の間にやら女神を名乗る女性に森でオカリナでも吹いていそうな勇者の服を着させられ、今では立派な勇者にされてしまったのだ。
「さぁ、後は伝説の剣を手にするだけです!」
「その伝説の剣って何処にあるんですか?」
「今から案内します、ついて来てください」
とは言え、文句を言ったところで元の世界に帰れる訳でもないので、気持ちを切り替え、勇者ユウヤは自身に課せられた使命を果たすべく女神の後に付いて行くのであった。
「ここはかつて森と呼ばれていましたが、それはいまでも変わりません。今でもここは、ただの森です」
「は、はぁ」
「ですが、この森の奥には、太古の昔より存在する遺跡の跡があるのです!」
「はぁ」
「そこに! 伝説の剣は封印されているんです!」
二人の間に圧倒的な温度差を存在させつつ、二人は女神の先導により森の奥へ奥へと歩みを進めていく。
やがて、どれ程歩みを進めただろうか。二人の眼前に、人の手が入らなくなってから幾年もの月日が流れて久しい、人工物の無残な残骸が姿を現す。
「さぁ、お目当ての剣はこの奥です!」
玄関先は無残な姿であったが、本体の方は大部分原型を残しており。そこは、森の遺跡と表現するに相応しい様相を見せていた。
「さぁ、行きましょう!」
元の世界では見られない、木々の間から降り注ぐ光に照らされ光り輝くその神々しい姿に見とれていた勇者ユウヤであったが、女神にせかされ少し名残惜しみつつも遺跡内へと足を踏み入れる。
「はい、これを」
「松明ですね」
「はい、遺跡の奥は暗いので」
石造りの遺跡内は奥へ進むにつれて光も届かぬ闇の世界へとその姿を変貌させていく。
しかし、松明や篝火のお陰で何とか視界は確保できていた。
「ここです、この扉の奥に伝説の剣は封印されているのです!」
「この奥に……」
「さぁ、勇者ユウヤ! 扉を開け、中へ!」
巨大で重厚そうな石の扉を前に勇者ユウヤは一旦立ち尽くすも、意を決して扉に手を当てると力一杯手に力を込める。
すると、その容姿に違わぬ重厚な音を奏でながら、巨大な石の扉はゆっくりと左右に開いていく。
「はぁ、はぁ……」
やがて、人が通れるほどに開いたところで、勇者ユウヤは扉の向こう側へと足を踏み入れる。
そこに広がっていた光景は、巨大な円形の空間とその中心部に設けられた台座。そして、その台座に突き刺さっている一本の剣の姿であった。
「あ、あれが……」
「そう。あれが伝説の剣、その名を『エクスカリバー』」
「エクスカリバー……」
「さぁ、勇者ユウヤ。台座から剣を引き抜き伝説の力をその手に!!」
女神の言葉に押され中心部の台座へと近づく勇者ユウヤ。
やがて、台座の前で歩みを止めると、両手でしっかりとグリップ部分を掴むと全身に力を込め、一息間を置き。
そして、一気に引き抜く。
「問おう、貴様が私の新たなマスターか?」
一体この台座に突き刺さってから幾年の月日を過ごしたのかは分からぬが、台座から引きぬかれた剣はその瞬間神々しい光を剣身から放つと。
突如として、勇者ユウヤの心にまるで直接問いかけるかのごとく、何処からともなく男性の声が聞こえてくる。
「であれば! 先ずは挨拶からだな。私がエクスカリバーである!」
「え、えっ!?」
「私のマスターになるにあたって守ってもらいたい二千の項目がある。レポート用紙にまとめて代金引換で送っておいたので、後で受け取ってしっかり目を通しておくように」
「代引き!?」
「特に九九九番目の私の七時間三十分に及ぶ朗読会には必ず参加願いたい!」
「いやあの、そんなの……」
「ヴァカめ! 貴様に拒否権などある訳ないだろ! ……では先ず手始めに、私の伝説の一端をこの場で語り更なる親睦を深めるとしよう。……私の伝説は遡る事八百年前から始まった。あれは日差しの強い真夏日だったか? いや、爽やかな春だったか……。当時は私も相当の『悪(ワル)』でね。あ、そう言えば紅葉豊かな秋だったかもしれない。殺人・強盗・恐喝・横領・密輸に薬物等々、以外の悪いことを相当やってたすんごい『悪(ワル)』って巷でも有名な『悪(ワル)』だった。悪そうな奴はみんな友達だったよ。そして、そんな悪の美学にほれ込んだ美女達が毎夜毎夜私の取り合いを繰り広げたよ。……いや、あれはやっぱり夏だった、すんごく暑い夏だった。思い起こせばそんな気がする。さて、私はその頃今と違って研ぎ澄まされた銃剣のような男だったよ。しかし何故か気品を感じさせていた。周囲の皆はそう言ってたし、今でも言われる。だが思い返せば徐々に言われ始めて最初のころは言われていなかったのかも知れない、しかし私の奥底にある隠しきれない優しさ気品を感じさせ、結果として言われていたのは変わりない。つまり何が言いたいのかと言うと私はすんごかった! 今でもすんごいが、ただやはり当時は『悪(ワル)』だったんだ。それもこれも桜舞い散るあの春の日──。……さぁそれでは、ここからは私の自慢の歌を交えながら私の伝説を語っていこうか! エクス……」
刹那、勇者ユウヤは躊躇う事無く引き抜いた剣を再び台座に突き刺しなおすと、足早に出入り口に戻っていく。
「チェンジで!」
そして、今までにない剣幕で女神にそう告げるのであった。
「あれ? お気にめしま」
「めすわけないでしょ! あんなウザイの使えるわけないでしょ!!」
食い気味に声を荒らげ訴える勇者ユウヤの姿を見た女神は、ため息を一つ漏らすと、仕方がないと言わんばかりの仕草を行う。
「ではその場で少し待っててください」
そして、そう言い残すと、女神は何処かへと姿を消してしまった。
勇者ユウヤは女神に言われたとおりその場で彼女が帰ってくるのを待つ。当然、その間に高ぶった気持ちを落ち着かせながら。
やがて程なくして、その手に何かを持った女神が再び姿を現した。
「まぁ、薄々こうなるんじゃないかと思ってましたが。エクスカリバーを使えない以上、勇者ユウヤにはこちらを使っていただきます」
そして勇者ユウヤの目の前に差し出されたのは、ベルトのようなものであった。
ただ、通常のベルトと明らかにバックル部分の造りが異なっている為、ただのベルトでない事は一目瞭然だ。
「こ、これは?」
「他の非凡な神々をも超越したこの私の神(シン)なる神(カミ)の才能が作り上げた新たなる伝説の具現。デラックス探照灯ベルト『オメガ』よ! さぁ、神(カミ)を超越せし女神の恵みをありがたく受け取りなさいっ!!!!」
「……は、はい」
内心寸前の台詞で女神に対する下降気味の印象が下り坂どころか崖を飛び降りる勢いで下降してはいるが、先ほどの剣に比べればまだ使いやすそうなので、勇者ユウヤは心の声を口にすることなく素直に女神からベルトを受け取る。
「これを腰に巻けば良いんですよね?」
「そうよ。でもそれだけじゃ駄目! 神(カミ)であるこの私が、そんな単純なギミックで満足すると思って!?」
「……」
「この『メモリバッテリー』をベルトに挿入して初めて貴方は更なる高みへと昇華するのよ!!」
先ほどの剣とは別の次元で勇者ユウヤは胃にダメージを受けながらも、女神から複数のメモリバッテリーを受け取ると、早速その内の一つをバックル部分の溝へと差し込む。
「あぁ、因みにそのメモリバッテリー、一つだけでは駄目なんです」
一つでは駄目と言われ、勇者ユウヤは更にもう一つのメモリバッテリーを選ぶと先ほど差し込んだ横に空いている溝へともう一つを差し込む。
「さぁ! 準備は整いました! 変身と叫んで更なる高みへ昇華をっ!!」
「……、変身!!」
大声と共に思いつく限りのポーズを繰り広げ、勇者ユウヤはバックル部分のボタンを押し込む。
「シューティング! アドベンチャー! ベストクロスマッチ!!」
刹那、ベルトから謎の声が聞こえてくるが勇者ユウヤは特に気にする素振りを見せない。
「Play! Are you ready?」
刹那、今度は待機音と思しきクラシカルな音楽が流れ始める。
「ガガンガンッ! ガンガガーンッ!! oh yeah! ガンガンシューティング!! クロスアップ! エレクトインフェルテレキネウィンター! ホーエンセキュターサイソニダディ!」
刹那、複数の光の輪が勇者ユウヤを包み込むと、眩いばかりの光が放たれる。
いよいよ、変身プロセスの大詰めを迎えたようだ。
「水底のスティールウォーリア! ダディデルタ!! yeah!!」
光が収まりその場に立っていたのは、緑の勇者ではなかった。
潜水服を思わせる防護服にその身を包み、左腕にはプラスミドと呼ばれる様々な不思議能力を有し、右腕には何故か全てを貫きそうなドリルを装備している。身長二メートルを誇る巨人。
勇者ユウヤ・プロトデルタプレイスタイルの誕生である。
「お、おぉ……」
「どうです! 素晴らしいでしょう!! あぁ、流石は私、この惚れ惚れするようなこのフォーム! あぁ、やはり私は神(シン)なる天才だ!!!」
「あの、所で」
「ん? 何ですか?」
「この右腕のドリルは一体……?」
「私の『趣味』よ! イイでしょ!!!」
満面の笑みと共にドリルの存在理由を語る女神。
しかし、その一方で勇者ユウヤの内に沸々と負の感情が沸きあがっていたのはここだけの話である。
兎にも角にも、こうして自身に課せられた使命を果たすための力を手に入れた勇者ユウヤは、女神と共に森の神殿を跡に一路王国へと向けて歩みを進めるのであった。
果たして、この先勇者ユウヤにはどのような試練が待ち構えているのか。そして、無事に深王の魔の手からさらわれた姫を救い出すことが出来るのか。
右腕のドリルで立ちはだかる魔を貫きつつ、勇者ユウヤはその歩みを止めることはない。
つづく。
「わぁ、叢雲さん。それって漫画ですか?」
「えぇ、そうよ。年末のに向けて余裕を持って入稿するのが私のポリシーだから」
「そう言えばこの主人公さんって、提督に似てますね?」
「えぇ、だって主人公のモデルは提督だから」
「そうなんですか。……あ、なら他の方も?」
「えぇ、モデルにして出す予定よ」
「じゃ、じゃぁ、私も出してくれたりなんて考えてます?」
「そうね、カブトムシタワーのオーナーなんて設定で出してみようかしら」
「……、はぁーーん、ははぁーーん」
「……冗談よ」
果たしてプレクサスクラウド先生は期限までに余裕を持って完成させる事ができるのか。
そして、ブッキーはブッキーなキャラクターとしてブッキーしてしまうのか。
つづ、く?