八幡「面談?」
大淀「はい。所属している艦娘のメンタル状況の把握も、仕事の一つです。というか今週分の執務を加賀さんが終わらせているんですから、これくらいやってください。」
八幡「ほら今日はアレがあるからアレだ。」
大淀「正直内面で不安を感じる方のスケジュールはもう取ってしまったので、無理です。」
仕事早すぎるだろ。というかもう拒否権も無いじゃん。俺の今日のスケジュール考えてくれないか?……なんも無いじゃん。逃げ場もないじゃん。
八幡「面談って言っても何聞けばいいんだよ。そもそも艦娘同士でやった方が効率良くね?」
大淀「彼女達には彼女達のスケジュールがあるんです。後は未だに引きこもっている方達や、まだ話したことがない方達とも少なからず交流は持っておくべきかと。」
八幡「まだ話したことない奴らならまだしも、引きこもってる奴らとまともに話せる気がしないんだが?話す間もなく殺されそうだから無理。」
大淀「流石にそういう方達の場合は、誰かが付くようにいたします。本日から始めますので、こちらのスケジュール表に目を通しておいてください。」
そう言って出ていってしまう大淀。
八幡「はぁ…。話すって何を話せばいいんだ?って1時間も取ってるのかよ。3分もかからんだろ。」
元気ですか?困ってることは?で終わりじゃないの?1時間も2人きりとか、ボッチにはハードル高すぎるんですけど?よく良く考えてみると、女子に囲まれ早数ヶ月過ごしているんだよな。え、俺凄くね?ボッチの風上にも置けない存在になってるじゃん。
八幡「まぁ…なるようになるか。」
コンコン…。
電「失礼しますなのです。」
八幡「おぉ。大淀から何するか聞いてるか?」
電「はいなのです。確か面談と仲良くなっておけと言われたのです。」
おい知らない情報が来たぞ。報連相しっかりしてくれよ。社会人の常識よ?どんな些細なことでも報連相はしないといけないこれ絶対!大淀には後で仕置きが必要だな。
八幡「そうか。お前は俺と仲良くなりたいのか?」
我ながらよく直球質問が出来たと思う。
電「えぇと…。はい、なのです。」
驚いた。最初に目が合った時は化け物を見るような目で見てきたというのに、どういう心境の変化だろうか。
八幡「…そう、なのか。」
困ったように、恥ずかしそうに言う電を見ると、なんとも可愛らしく見える。さながらペットを見ているようだ。それを嬉しく思えている自分にも驚いた。一言だがしっかり自分の思いを伝えてくれたのだ。それに報いないといけないよな…。
八幡「電は何が好きなんだ?」
電「え?」
八幡「俺はお前らの表面的な数値は知っているが、内面は全くと言っていいくらい知らん。仲良くなるならそこを知っていかないとだろ?」
電「確かに、そうなのです。」
八幡「好きな物とか好きな事。なんでもいいから教えてくれ。」
電「電は…暁ちゃんたちが大好きなのです。後は平和な日々が続けば良いなとかなのです。」
八幡「確かにお前ら仲良いよな。」
電「司令は…電達のことはどう思っているのですか?」
八幡「俺は…」
なんて答えようか。好きか嫌いかで言えばきっと好きな部類に入るだろう。でもきっと聞きたいのはそれではなく、もっと具体的なことだろう。口下手な印象だったが、目で強く訴えてくる。
八幡「そうだな…安心してくれとは言わないが、少なからず前任みたく無理難題を押し付けるつもりはないし、暴力もしない。というか出来そうにないのは電もよく知ってるだろ?」
電「ふふっ。その通りなのです。」
八幡「電はこれからどうしていきたいんだ?」
唐突な質問だろうが、これには意味がある。俺がずっと考えてきた推測。いや直感と言うべきだろうか。それが合っているかの確認だ。
電「どうしていきたい…。分からないのです。」
心の底からハズレて欲しいと思っているが、頭では根拠の無い自信がある。
八幡「どう過ごしていきたいんだ?」
電「電は…」
例えば何よりも大切な何かを誰かに壊されたらどうする?怒るか、仕方ないと許すか、それともなんとも思わないか。
じゃあそれが大切な人だったら?俺なら耐え切れない。愛しの小町を傷つけられたら正気でいられる自信はない。
電「どうすればいいのですか?」
優しい奴は嫌いだ。誰にでも分け隔てなく接して、自分が嫌だと思っても、心に嘘をついて行動する。そしてされた奴は勘違いするのだ。「コイツは俺にだけ優しいのでは?」と。
優しさとは毒だ。相手も自分も知らず知らずに蝕む猛毒。度を超えた優しさはいづれ取り返しのつかない所までいく。
それが電だ。
電「司令は…優しいのです。分からないのです。電はダメな子なのです。みんな我慢してるのに電だけ…。」
誰もが俺の目を腐っているだとか死んだ魚の目だとか言うが、本当に死んだ目をしたやつはそんな生易しいものでは無いということが今わかった。
不思議と恐怖心は無かった。
八幡「俺はお前のしたいようにすればいいと思う。それが良いか悪いか別としてな。」
電「そんな…。でも…」
八幡「もしそれが本当に悪いことだったら雷達が死ぬ気で止めてくれるだろ。」
人は本当に追い詰められた時に醜い一面が出る。だがコイツらはどうだ?率先して守ろうとはしなかったが、絶対に売ることはしなかっただろう。人には真似出来ない部分だ。俺はそれを形は違えど幾度となく見てきた。
電「もし、司令を殺したいと思っていたと言ったら、嫌いになりますか?」
八幡「そうか。アイツらもそうだったろ。だから関係ないんじゃねーの?」
大淀の次に見た艦娘は電だった。目が合った瞬間に逃げられたから確信は出来なかったが、他の奴らとは見る目が違ったのだ。電以外は恐怖心、嫌悪、憎悪の目で見てきた。だがあの時電は、怯えはありつつも嫌悪も憎悪も無く、ただ無機質だった。
電「もし、電があの人を殺してしまったと言ったら…司令はどうするのですか?」
その言葉を聞いて、驚きも何も無く、ただただ納得感が心を染めている。
八幡「そうか。」
電「もし、それに対してなんの罪悪感も無いと言ったらどうするのですか?」
そりゃそうだ。あんな目をしていて実は罪悪感で潰れそうと言われても逆に困る。
八幡「どうして欲しいんだ?」
電「普通なら解体されるのです。」
八幡「されたいのか?」
電「…もう何をどうしたら良いか分からないのです。あの人頭を叩き割って、バラバラにして、埋めて…。もし司令があの人みたいに酷い人だったら良かったのです。そうすれば電の存在する価値があって、まだ生きてて良いって思えたのです。でも鎮守府は平和になりました。まだ溝はあれど、いずれ無くなる。その時に汚れた電を受け入れてくれるわけが無いのです。なら、その幸せな場所を知る前に居なくなりたいのです。」
ダムが決壊したかのように、自らの思いをポツポツと話出した。
八幡「そうだな。きっとお前がやった事は誰かに認めてもらえるような事じゃない。最悪の選択肢を選んでしまったんだ。」
人殺しは駄目。誰もが持っている共通認識。それを歪ませてしまうほどの何かがあるか、生まれながら狂ってるか、どちらかが無い限り実行しようだなんて思うはずがない。じゃなきゃ人畜無害という言葉が1番似合う電がこうなるはずがない。
電「だったら…。」
八幡「お前を解体したら、アイツらに何を言われるか分かったもんじゃない。だからしない。」
電「でも…。電は…。」
八幡「俺は人を殺した事がないから、お前が感じている思いは分からない。でも多分…お前がやらなかったら、遅かれ早かれ誰かがやってただろうよ。」
誰でも実行出来るレベルの思いを持っていた。だから誰も責めることなく、褒めることもなく、ただ黙認したのだ。もしくは分かっていたかのどちらかだろう。
八幡「もし、俺がその事を知っていたって言ったらどうする?」
電「…え?」
八幡「知っていた…と言うよりもお前なんじゃないかって思っていただけだが。」
電「でも、そんな素振り…」
八幡「だから俺達は共犯だ。俺は知っていて黙っていたし、お前も黙っていた。だからバレた時は…その時考えようぜ。それに…アイツらがその程度でお前の事嫌いになる訳が無いだろ。」
これも憶測だが、響や雷も知っているはずだ。身近にいるヤツの変化を見逃すわけが無い。
八幡「だから大丈夫だろ。」
電にとってはなんの根拠もない言葉。だがもしかしたらバレたとしても皆なら受け入れてくれるのでは?という考えもあった。だからこそ八幡のなんてことない言葉だからこそ響いてしまった。
電「そうなのです。雷ちゃんや響ちゃん、あかつきちゃんがこんな事で嫌いになるわけが無いのです!なんで信じれなかったのでしょう。」
おや?
電「司令!!ありがとうございますなのです!やっと吹っ切れました!!」
これは…。
電「殺した事は悪いとは少しだけ思っていますが、でもそう!仕方ないのです!」
まずってしまったかもしれない。
電「司令!!電を受け入れてくれてありがとうなのです!!」
でも今から方向転換は…無理だよなぁ。
電「共犯だから、ずーっと一緒なのです。」
八幡は悪いことしたのは事実だが、そこまで自分を責めなくても良いんだぜ的な事を伝えたかったのだ。だが電には、悪い事したとしてもずっとお前らと一緒にいてやる的な形で捉えられてしまった。
電「なので、末永くよろしくお願いしますなのです!」
大淀…。お前が電を面談に連れてきた理由が何となく理解出来た。とりあえず後で絶対とっちめてやるからな!!
八幡「お、おう。」
その時の笑顔はきっと今まで見た中で1番の笑顔だっただろう。目は濁り散らかしてるけど(ここ重要!!)
たまたまメンヘラ系の漫画を読んでいて、こっちにシフトしちゃいました…。
文句は言わないでください。やりすぎたと思ってます。
この後誰とのお話するかは…内緒です