あの忌まわしき授業から1週間と数日経った。潜水艦のヤツらも何事もなく出撃してるし、ユーも問題なさそうだ。
八幡「よし、俺の1週間のスケジュールはこんなもんだな。」
俺は朝から何をしているかと言うと、流石に休みが無いのはやばいので1週間分のスケジュールを組んで、俺が仕事をしなくても良さげな日は思う存分休むことにしたのだ。
八幡「とりあえず週初めは書類整理から始めて、そんで1週間分のスケジュールを毎回組み立てていくと…。出撃とローテ組んでるから問題無し。完璧すぎる。」
正直書類関連の仕事は慣れれば慣れるほど、処理能力が高まる。即ち休みが増える。なら俺は全力で書類を片付けよう。
大淀「提督。お忙しいところすいません。お客様が来ましたよ。」
八幡「アポ無しで来るやつに構う必要ないだろ。」
せめて1週間前に連絡してもらわないと。俺のスケジュールが意味が無くなる。
葉風「ごめんよ。アポ無しで来て。」
八幡「え、なんで葉風さん?」
葉風「そんな身構えなくてもいいよ。」
爽やかに笑ってるけど俺の心情悟って?なんかやらかしたかと思ったじゃん。
葉風「流石に急にあの子を任せてたからね。様子を見に来たんだ。」
八幡「なるほど…。まぁ好きに見てください。不正とか何もしてないんで。」
葉風「ははっ、そこは心配してないよ。君はリスクリターンを考えられるタイプの人だからね。」
怪しい…。この人が悪巧みをするとは思えないが、ただ様子を見に来るだけで忙しい身を動かすか?俺だったらしない。それをするほどの理由が何かあるのか…。ダメだな。判断材料が少なすぎる。
葉風「良かったら案内をしてくれないかい?館内の事は詳しくなくてね。」
八幡「分かりましたよ。加賀にお願いしておいてくれ。今日の夕食は…ピザ食べ放題で手を打つ。追加は3つまで、それで多分食いついてくるだろ。」
大淀「かしこまりました。そう伝えておきます。」
八幡「ここが食堂ですね。窓から見えるのが演習してるヤツらです。」
葉風「ふむ。やはり規模の大きい鎮守府にする予定だったから広いね。」
八幡「今でも充分多いと思いますけどね。」
葉風「いや、これから大きくしていってくれ。」
まだ何人か会えていない艦娘もいるが…。それでもかなり席には余裕がある。半分も埋まってないほどだ。
葉風「じゃあ次の所へ…」
八幡「今日は何しに来たんですか?」
埒が明かない。そう言いたげな目で告げる。
葉風「様子見…って伝えたと思うんだけど?」
あたかも何を言ってるんだ?と自然に振る舞う。いや違う。様子見だけならアポ無しで来るなんて事はしない。お互いやる事が山ほどあるんだ。それを分かってるのにアポも無しで来るということは急ぎの用があったということ。でも、この感じは簡単には教えないと見える。
八幡「俺の鎮守府には関係ない事ならいいです。ただもしある場合、今説明しないのなら俺は首を縦には振りませんよ。」
この鎮守府に関わる事で無いのならここに来る必要は無い。故にあると考えたのだ。
八幡「別にアポ無しで来ることは責めはしません。ただ無礼を承知の上で、あろう事か頼み事まですると言うなら話は別ですよ。」
葉風「やっぱり連絡は入れるべきだったかな…。流石…よく見て考えているね。君の鎮守府はプライバシーがそこまで守られていない印象があったからこういう形を取らせてもらったんだ。」
嫌な記憶を思い出しちまった…。確かに一理ある。電話や文通をした場合、人によっては勝手に見る可能性がある。故にこの手段か…。
葉風「アポ無しだったのはシンプルな話、時間がそこまで無かった。ここに来た理由は視察に近い。」
八幡「視察…ユーのですか?」
1番真っ先に思い浮かんだのはユーだった。最近来たばかりで気になるのは仕方ない話だ。ただ時間が無いとはどういうことだ?
葉風「あの子だけじゃない。全員だよ。ちゃんと海に出しても問題ないかの視察だ。」
八幡「それって…。」
葉風「約1ヶ月後、大規模作戦が行わられる。そこに君の鎮守府を参加させるかさせないか…その判断を任されたんだ。」
八幡「大規模、作戦?」
思考が止まり気づいたら外にいる事に気がついた。俺のベストプレイス…波も穏やかで日差しも心地よい。
葉風「意外と冷静なんだね。大抵は驚いたり焦ったりするものだけど。」
驚いているさ、急な話すぎる。だが不思議と腑に落ちた。
八幡「それで…参加するかしないか、ですよね。」
葉風「あぁ、あの子達の練度は前線でも充分通用するレベルだ。今までは精神面で問題があったから発揮できていなかったけどね…。どうだい?」
八幡「拒否権はあるんですか。意外です。」
葉風「はは、すまないが殆どない。上はほぼ参加決定で話が進んでる。ただ問題があったら困るから君が客観的に見てどうなのか聞きたくてね。」
やっぱりブラックじゃねーか。驚いて損したわ。
八幡「練度と経験が比例していないのが今の状態です。後方支援なら問題ないかもしれませんが、前線では練度ほどの実績を残すのは難しいかもしれませんよ?」
素直な意見を言わせてもらった。あいつらは無理な突撃でもどうにか生き残ってきたヤツらだ。作戦のセオリーなんてものも知らない。要は他の艦娘と連携を取れるか怪しいのだ。そんな状態で前線に出すのは危険だろう。
葉風「そうだね。前線は厳しいとは考えていたよ。だから勿論後方支援に回ってもらう。」
八幡「心配事は沢山ありますが…。」
葉風「てっきり断られる思っていたよ。」
八幡「仕事ですから、仕方ないですよ。正直嫌ですよ?」
アイツらなら上手くやれる。どうにかなるはずだ。
葉風「はははっ、素直な意見はありがたいよ。詳しい日程は2週間前には必ず知らせる。それまでに戦力は整えておくように。」
八幡「分かりました。」
去り際も爽やかイケメンとかどういうこと?なんかムカつくから、やっぱり拒否しようかな…。
大淀「もうお帰りになられたんですか?」
八幡「あぁ、割とすぐ帰った。」
加賀「提督。明後日の分まで終わらせたので追加は5品でお願いします。」
八幡「マジか…早いな。間宮さんに伝えてこい。理由…」
加賀「行ってきます。」
少しは話を聞けよ。どんだけ食い意地張ってんだ。
大淀「それで、どんなお話をしていたのですか?」
八幡「あー、それなんだがな…。夕食の時でいいか?かなり重要な話になるから、話す内容整理してからでいいか?」
大淀「分かりました。」
どんな反応をされるのかが不安なのではない。ここの平穏が崩れるのが嫌なのだ。寧ろ拒否してもらってもいいくらいだ。全員が全員無理だと言えば上も文句は言えないだろう。穏健派だからこそ無視出来ないだろうからな。
八幡「揃ってるか?」
大淀「はい。皆さんちゃんと揃っていますよ。」
珍しく赤城も待ってるな。凛々しい表情だけどヨダレやばいぞ…。
八幡「あー、そうだな。単刀直入に言う。約1ヶ月後、大規模作戦があるそうだ。」
食堂にいる全員がざわめきだす。
八幡「ただ、ここは元ブラック鎮守府。お前らの精神面を心配して、視察という形で今日葉風さんが来たって感じだな。」
そこでスっと手を挙げる人物が、
長門「我々が置かれる位置はどこだ?」
八幡「そこは後方にしてもらった。基本的に駆逐艦は周囲の偵察、空母は前線の火力支援、重巡から戦艦は超遠距離支援、って形になった。」
天龍「って事は前の連中がヘマしなきゃこっちに危険はねーって事か。」
八幡「そういう手筈だ。ま、ヘマした時点で撤退だろうから、そうなった時は撤退支援に回ってもらうだろうな。」
イク「イクたちはどうするの?」
八幡「駆逐艦と同じ偵察が主だ。」
イムヤ「で、アンタは私達の指揮をするって事ね。」
そこで気づいた。俺がまともに指揮をする事が初めてだということに。そして何より、俺が指揮するかどうかも定かではない。
八幡「それは分からん。なんせまともに指揮をした事無いもんでな。」
響「本当に指揮官が何故ここに来れたのか疑問だね…。」
八幡「うるせえ。ま、お前らなら俺以外でもそこまで問題ないだろ。」
…なぜ静かになるんだ?なんか変なこと言ったか?あ、もしかしてお腹すきました?
加賀「確かにお腹はすきました。ただ、私は少なくとも貴方以外に指揮されるのは嫌よ。」
八幡「いや心読むなよ。そう言われてもな…」
そうだ。こいつらの根っこは別に変わって無いのだ。前よりはマシになった。でもだからと言って提督という存在自体嫌悪している。
如月「私はアンタ以外だったら降りるわ。クソどもにあれこれ言われるのは死んでも無理。」
時雨「口は悪いけど僕も同意見かな。司令官以外の声を耳元で聞かされるのを想像するだけで悪寒がする。」
続々と否定的な意見が飛んでくる。これは腹を括るしかないのか…。
八幡「分かった分かった。とりあえず俺が指揮するのが確定しない限り、作戦には参加出来ないって主張をしてるって伝えとく。」
大淀「大変ですね。非番の日は作れそうですか?」
八幡「嫌味か…?」
恐らくここに来て1番大きいため息が出た。
大淀「それではいただきます!」
「「いただきまーす!!」」
だが不思議と嫌な気分ではなかった。
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