コンコン…。
八幡「入っていいぞ。」
今回入渠した潜水艦、ユーを加えた計4名が入室してきた。
八幡「1人づつって話、伝わってなかったのか?」
イク「別にわざわざそんな時間を割く必要は無いの。」
まあ確かに1度に聞いた方が効率的か…。
八幡「もう2人は初めて話すな。」
伊58「ゴーヤでち。」
伊168「イムヤでいいわ。」
八幡「あぁ、よろしくな。」
さてさて何処から話したものか。
八幡「まずは悪かったな。そいつの事情を把握してたってのに出撃させて。」
その言葉に少しばかり動揺が走る。
ゴーヤ「提督ってちゃんと謝れるんでちね。」
八幡「流石に本心から悪いと思ったら素直に謝るぞ?」
イムヤ「気にしなくていいわよ。一応全員無事に帰って来れたんだし。」
そうは言っても、大破に近いレベルの損傷を負ってしまったのだ。指揮官として少なからず悪いとは思う。
八幡「そう言ってもらえると助かる。とりあえず暫くは出撃は無いと思ってくれ。各々それまで好きに過ごしていい。」
ユー「あの、出撃はいつさせてくれるのでしょうか。」
空気が凍る。
イク「ユー、いい加減にして欲しいの。」
イムヤ「アンタのせいでコッチは死にかけてるのよ?それ分かってる?」
ユー「アドミラル。いつになりますか?」
ゴーヤはあたふたして、イクとイムヤはそれなりに言いたい事があるようだ。
イムヤ「アンタね!」
八幡「おい、」
「「っ、」」
腐りかけた目に拍車がかかり、最早殺人鬼なのでは?と言いたくなるほどの目付き。
八幡「いい加減にしろよ?お前の我が儘を聞くにも限度がある。」
ユー「で、ですが…。」
八幡「さっき言ったはずだ。ちゃんと分かったら出撃させてやるって。もう忘れたのか?」
思わず押し黙る。あまりの威圧感に言い返せなかった。
八幡「このままでいるなら二度と出撃出来ると思うな。何か質問は?」
ユー「だったら…私は何をすればいいんですか?出撃以外何も知らない。分からないんです。」
ようやく絞り出た言葉。出撃しか知らないから、それしか出来ない。
ユー「出撃しなかったら、痛いのが待ってました。痛いのも暗いのも、嫌なんです。それ以外知らないんです。」
ユーに何があったのか…。別にココと変わらない、ブラック鎮守府でよくあるような事だ。だが、
八幡「んなもの知らん。」
ユー「えっ…。」
八幡「お前に何があったとか、前の鎮守府でどうだったとか、そんなものは知らないし、微塵も興味ない。」
傍から聞いたら酷い話だろう。だが見るべきはそこでは無いのだ。
八幡「だがお前は無理な突撃をし、部隊を巻き込んだ。今重要なのはそこだ。前がどうだとか、そんなもの言い訳に過ぎない。」
だが、と区切りをつけ
八幡「勘違いしないで欲しいが、変われと言ってるわけじゃない。お前にはお前なりの考え方があるんだろうからな。」
ユー「なら…。」
八幡「だからといって周りを巻き込んでいいわけじゃない。沈みたければ1人で沈め。コイツらにはまだ未来がある。」
ようやくこの鎮守府に前を向く兆しが見えてきたんだ。それを邪魔される訳にはいかない。
八幡「命令はそのままだ。お前は無期限の出撃停止。頭を冷やして、答えが出たならまた来い。そん時また聞いてやる。」
これ以上話すことは無いぞと言わんばかりに書類に目線を移す。
ユー「分かりました。失礼します。」
その意図を汲み取り執務室を後にするユー。
八幡「どした?お前らも部屋に戻っていいんだぞ?」
イムヤ「今戻ったらアイツがいるでしょ。」
イク「イムヤ、そろそろ許してもいいじゃないの〜。」
イムヤ「嫌よ。私はアイツを絶対に許さない。」
潜水艦の旗艦を務めるイムヤ。
ゴーヤ「提督。ゴーヤも嫌でち。」
八幡「分かってる。お前らが嫌とかは別として、今のアイツを出すわけには行かない。」
加賀「提督?」
八幡「嫌ってるわけじゃねーよ。客観的に見ての判断だ。」
加賀「対策は考えてるのかしら?」
八幡「対策ってほどでもないが一応な。アイツが出撃せず、ここの鎮守府に馴染みながら、尚且つコミュニケーションを方法。」
イムヤ「へぇ、言ってみなさいよ。」
八幡「秘書艦にする。」
今日この場で何度驚いただろうか…。
ゴーヤ「え、それだけでちか?」
八幡「あぁ、それだけだ。」
イク「えぇ…。」
2人は微妙そうだが、加賀とイムヤは成程と頷く。
加賀「確かにそれなら条件を満たしてるわね…。」
イムヤ「でも、いいの?アイツだってそれなりに提督っていう存在に恐怖してると思うんだけど。」
そう。秘書艦になるということは出撃は無いのは勿論、報告等で嫌でも艦娘達とコミュニケーションを取る事になる。
八幡「だろうな。本当はこういう無理矢理な手段は取りたくなかったんだが…。」
この手段はユーの意思を、心を無視することになる。
八幡「仕方ないだろ。これ以上酷くなったら怪我人がお前らだけで済まなくなる。」
このまま野放しにすればどうなるか…。簡単だ。身内で軋轢が生まれる。仲間意識が高いこいつらだからこそ厄介なのだ。昔ほどではないが、ここの艦娘は命を軽んじている傾向にある。自分達は替えがきくから、だから殺しても問題ないだろと…。
八幡「ま、そういうわけだ。一緒の部屋が嫌なら言ってくれ。」
イムヤ「分かったわ。」
イムヤの声に合わせ敬礼をし部屋を出る。
八幡「潜水艦が割とまともな方でよかったわ。話がトントン拍子で進んだ。」
八幡は知らなかった。ここの鎮守府で駆逐艦の次に扱いが酷かったのは潜水艦だと言うことを。
加賀「良かったわね。」
八幡は知らなかった。以前の彼女らは言葉すら発しないレベルで心を閉ざしていた事に。今日提督が変わり、それなりに良い人と分かっていても、執務室に来るだけでどれほどの覚悟をして来たのか…。
彼は自分が思っている以上に、認められているのだ。
涼しくなってきて快適な日々を過ごしています(白目)