博麗霊夢の小間使い   作:喜怒哀LUCK

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もう少し、頑張りたいけど、眠いので切り上げてZZZ


異変へ赴く理由

 意識が覚醒するのが先か、はたまた夢の中でもしっかりと嗅覚が動いていたのかは定かではないが、霊夢は床から出た。眠そうに眼を擦りながら洗面所へ行き、顔を洗う。まだ眠気は取れていないのか、半目で卓へ向かうと、すでに温かい朝食が待っていた。

 いただきます、と口に出しご飯を頬張る。時折大口を開けて欠伸をするあたり、完全に起きたとは言い難い。

 そんな霊夢に、眠気覚ましに濃いめの熱いお茶を差し出した男がいた。その男は、茶を卓に置いてから霊夢の背後へと回り、手に持っていた櫛で髪を梳かし始めた。丁寧に、優しく、それでいて食事している霊夢の邪魔になることなく、いつもの霊夢へと整えていく。

 男が梳き終えると同時に、霊夢もお茶を飲み終えた。

 

「おはよう、霊夢。今朝の加減はどうだい?」

「おはよう。いつも通りよ」

 

 そう、ならよかった、と微笑む男は食器を片付けに台所へ、霊夢はいつもの脇が顕わになっている巫女服へ着替えに自室へ向かう。そしてお互い、自分に課せられた仕事へ取り組んだ。

 男は運悪く雨だった昨日に溜まった衣服を洗濯に、霊夢は博麗の巫女として、魔除けや結界、撃退御札をかいていく。未だ博麗の巫女の信頼は回復しきってはいないが、その実力は認められてはいるため、その御札は人里では重宝されている。

 以前は書くのが面倒という理由により出回っていなかったが、数こそそこまで多くないものの、現在は最低限の責務を果たしていると言えよう。

 これも、小間使いができたおかげか。

 

 

 ときに小間使いだが、何やら色々と指示を出され、世話しなく動き回っていると想像されるが、そうでもない。主に炊事と洗濯、風呂の用意や寝巻の用意ぐらいやってしまえば、さほど忙しいものではない。たまに人里へ買い物に行くのが大変だが、今は備蓄があるから問題ない。

 仕事がなくなると、それこそ暇になるのだが、男は縁側に座り、淹れたてのお茶を優雅に飲み始めた。

 

 ときに巫女だが、境内の掃除や、参拝客が通る鳥居周辺の落ち葉を箒で掃いたり、御札を作ったり、精神統一したり、大変そうだと想像されるが、そうでもない。御札なんて日に何十枚も書くわけでもない。博麗神社には神は祀られていないため、そもそも境内がない(人里の人間は知らない)。昨日の雨に流されたのか、掃くほど落ち葉もない。そもそも霊夢は鍛錬や精神統一などしない。

 仕事がなくなると、それこそ暇になるのだが、霊夢は縁側に座り、淹れてもらったお茶をのんびり飲み始めた。

 

「今日はいい天気だね」

「そうね。眠くなるわ」

「膝を貸そうか?」

「いいわよ別に」

 

 同時にお茶を啜り、ふぅと息を吐く。何を見るわけでもない、ただ茫然と空を眺めながら、二人は寛いでいた。

 

「「あぁ……お茶が美味しい」」

「年寄りかお前らは」

 

 ふと、空から声をかけられたと思えば、箒に乗り、黒と白を基調とした服を着た少女がいた。名前を霧雨魔理沙といい、自称普通の魔法使いである。

 魔理沙はゆっくりと下降し、二人へと寄ってきた。

 

「よっ霊夢、遊びに来てやったぜ」

「別に来なくてもよかったのに。アンタここ最近よく来るわね、暇なの?」

「その言葉、そっくりそのまま返すぜ」

「はい魔理沙、お茶」

「おうサンキュー!」

 

 受け取ったお茶をググッっと飲み干し、ぷはぁと豪快に息を吐いた。すぐに新しくお茶を注ぐ。

 

 「いやー、お前は良い奴だな。お前がいないときに来たことあるけど、何も出さずに賽銭要求した霊夢とは大違いだ」

「結局賽銭は入れなかったでしょ」

「お茶に茶菓子が出てたら入れてたぜ?」

「あっ、そういえば団子があるけど、食べるかい?」

「うむ、くるしゅうない」

 

 なんでこいつ偉そうなのよ、とぼやく霊夢。包みにくるまれた団子を皿に移して持ってくると、さっと魔理沙は食べ始めた。美味い! と言う魔理沙を邪魔そうに見ながら霊夢も一口。

 

「これ、いつもの和菓子屋の団子?」

「うん」

「あそこ餡子はくどいのにねぇ、これは美味しいわ」

「そう。なら私の分も食べてもいいよ」

 

 団子と共にお茶も進んでいくので、お湯を汲んでくる、と立ち去る男。必然的に霊夢と魔理沙の二人きりになるのだが、魔理沙はにやけながら「お前も愛されてるなぁ」と霊夢を肘で突いた。それを鬱陶しいといった顔で霊夢は答えた。

 

「何がよ」

「いやだってな、さりげなーくお前の湯呑にお茶がなくなったら、何も言わなくても淹れるし。団子だってあいつ一口も食ってないのに霊夢にあげるしさ」

「小間使いだし、そんなもんじゃない」

「そんなもんか?」

 

 腑に落ちないようだが、表情の変わらない霊夢を見て、まぁいいかと諦めた。

 

「そーいや霊夢、知ってるか? 紅い館の話?」

「館?」

「そう! 一日中霧で満たされている湖の近くに、全部が紅になってる館があるんだよ。遠目に窓を覗いてみたけど、壁も床も天井も、ぜーんぶ紅いんだぜ!」

「ふーん」

「気になるだろ? ああいう場所にはお宝が眠ってるに決まってる。私の勘がそういってるぜ」

 

 熱く語る魔理沙を尻目に、冷めた態度で相槌を打つ。霊夢は知っている、こいつはただこんな話をするためにわざわざここまで来たんじゃない。どうせ面倒なことを持ってきたに違いない。

 ずばり、一緒に探検しないか、ということだろう。

 

「探検しに行こうぜ!」

「嫌よ、面倒くさい。一人でいけばいいじゃない」

 

 そういうと、わかってないなぁと舌を鳴らしながら指を振る。

 

「こーいうのはお宝までにトラップやボスがいるのはお約束だろう? トラップにやられた霊夢は敵に捕まえられる。それを助けようと私は立ちはだかる敵をなぎ倒し、捕らえられた霊夢を救い出す、そんなハッピーエンドがあるんじゃないか」

「なんで私がやられる前提なのよ」

 

 それならなおのことお断りである。自己満足のために自身の大切な寛ぎを邪魔されたくない。

 頑なに首を振らない霊夢を見て諦めたのか、魔理沙は仕方ない、と箒に跨り空を飛ぶ。

 

「おや魔理沙、お茶を淹れてきたけど、何か用事が?」

「せっかくだけど、今度な。また美味い茶菓子期待してるぜ」

 

 戻ってきた男にそう伝えると、サッと飛んで行ってしまった。かなりのスピードなのか、もう豆粒程度にしか視認できない。

 やっと厄介者がいなくなった、とため息をつく霊夢は何かに気付いたように、魔理沙の飛んで行った方向を睨んだ。

 

「アイツ、結局賽銭入れていってないじゃない……!」

 

 

 昼食を食べ終え、さてこれからどうやって時間を潰そうか、と考えている霊夢。夕方には魔理沙が、お宝を手に入れたかどうか自慢もかねた報告をしてくるだろうし、それまでひと眠りしようか、と思っていたのだが、何やら外の様子がおかしい。

 ほんのり、紅くなってないか。

 博麗神社は山の上にある。ここまで上る階段の下の方で火事でもあったかな、と思い覗いてみると、辺りは一面、紅い霧に覆われていた。明らかに何か起きている。

 様子に気付いた男も外に出てきて、事態を把握したようだ。

 

「霊夢」

「何?」

「人里までいってくる。アレがどんな影響があるか、慧音先生に聞いてくる。必要なら御札も渡してこよう。何枚残ってる?」

「50はあるわ」

「そうか」

 

 足早に人里へと降りていく男を見つめる。今考えられるのは、人に影響があるのかどうか。それはどんなものか。ただの異常気象の類か、それとも誰かが故意にやったものか。

 前者なら巫女としてできることはないが、後者だったら巫女としてそいつを退治しなければならない。それが分かるまでは、気にしても仕方ない。

 とりあえず報告に戻るだろう男を、霊夢は待つしかなかった。

 

 ほどなくして、階段を駆けあがってくる音が聞こえた。男が戻ってきたかと思えば、きたのは慧音だった。人里から走ってきたのだろう慧音は息を切らしながら、霊夢へと報告する。

 

「とりあえず、人里の皆は避難できた。発見が早かったおかげか、あまり影響はない。あの霧を吸ったものが、少々咳き込むくらいだ」

「アンタは大丈夫なの?」

「あぁ。半妖だからか身体はそこそこ強いし、この程度なら大丈夫さ。それと、御札をありがとう。札に反応して近寄ってこなくなったよ。」

「そう」

 

 そう。霊夢の御札に反応する、ということは、妖気や霊気、魔力といったものに反応する、ということ。つまりこれは、誰かがやったことだと裏付けが取れた。

 紅い霧。そういえば魔理沙が紅い館の話をしていたが、何か関係があるかも。

 一人考える霊夢に「あいつが血を吐いて、倒れた」と、言────

 

 

「どういうこと?」

 

 

 底冷えするような鋭い目つき。今にも射殺さんとばかりの殺気が、霊夢から醸し出された。

 

「っ! ……自分の分の御札まで人に渡して、自分はもろに吸ったんだろう」

「どうしてそんなことになってるわけ」

「手分けした方が早いと思い、二手に別れて……すまない」

「──悪かったわ。血昇ってた」

 

 今は自分の家に寝かせているが、と申し訳なさそうに言う慧音に、筋違いな怒りを抑える。悪いのは慧音ではない、わかっているのに、ついやってしまった。

 慧音は悪くない。悪いのは、この異変を起こした奴だ。

 

「心当たりがあるわ。今からそこにいってみる」

「そうか。気を付けてくれ」

 

 宙に浮いた霊夢はそう伝えると、飛ぶ。

 目指すは紅い館。通称、紅魔館。

 今の霊夢にあるのは、博麗の巫女としての使命

 

「あのアホ! 自分の身くらい自分で守りなさいよ! 終わったらそこんとこ、説教してやらなきゃ!」

 

 それと

 

「待ってなさい、すぐに終わらせるから」

 

 いつも一緒に居る小間使いへの、想い


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