ドSなイメージなんだけど、まぁこんな幽香も可愛くない?
って感じです
小間使いは風見邸で目を覚ました。身体には重傷を負ったように包帯が幾重にも巻き付けられていて、手当てしたと思われる幽香に感謝の意を伝えた。すでに吸血鬼へとなっているのだから、そんな配慮は全く必要ないが、幽香なりの気遣いか、それとも恩を売るためか。
結果功を奏し、手当を受けた例として小間使いは幽香の居候として、その手腕を振るうことになった。といっても花の世話に関しては幽香は譲ろうとはせず、いつも通り家事などをやるわけだが。そして読みが外れたのか、プライドの高いと思われていた吸血鬼が、進んで手伝いを買って出る所や、家事が得意なことは幽香としては予想外だったらしく、「そんなことできるか」と反発してきたところを暴力で屈服させ、無理やりやらせようとしていたのだが、当てが外れたようで、常々不満そうな顔をする。
それでも好きな花の世話に費やせる時間が増えたことは喜ばしいことなので、そのまま小間使いを追い出すことはしなかった。
そして自身が吸血鬼になったのを知ったのは、幽香が薔薇の手入れをしていて、棘で指先を切り血を流した時。その前からも日中の身体の怠さや、日に照らされたときの肌を刺すような痛み、どれだか水を飲んでも潤うことのない喉の渇きに悩んでいた時だった。
そっと手を取った小間使いに対し、幽香は手当をするのだろうと放っていたら、その指先を咥え血を吸いだした。
傷口から菌が入ることもあるから、一概にその行為は間違っていないのだが、それをやられた側からしたらたまったものではない。思わず殴ってしまったのは仕方ない。
その一撃で意識を刈り取られた小間使いが目を覚まし、幽香から説明を受けたことでようやく、自身が吸血鬼になったことを理解した。原因まではわからないが、それでも悩みの種が判明したのは喜ばしいことだ。
「それで? 勝手に私の血を呑んだことについてはどう考えているのかしら?」
「血を吸われた原因が貴女が伝え忘れたからということについて、それでも何か謝罪が必要ですか?」
「小生意気ね」
そして数日に一度、血を飲ませることを条件に、小間使いは幽香が居候を続けられた。
幽香は今まで一人で太陽の畑に居たからか、花の妖怪でもあるからか、よく花と会話していた。もちろん本当に花と会話することができるわけではなく、その能力を通して病気の有無や水不足かなどの状態を確認していたのだ。当然それを一日中続けることはなく、ある程度の確認が終わったら、家に帰り花の葉で淹れたお茶を飲むのが日課だった。
それも小間使いが来たことで、少し華が出る。
「今日も綺麗な紫陽花が咲いたわ」
「もう梅雨だからね。湿気が多くなると黒星病にもなるし、葉を剪定しなきゃね」
思いのほか、小間使いは植物の世話においても長けていた。白玉楼では庭の手入れを妖夢に任せてはいたが、それ以前にも少しでも参拝客が増えるように博麗神社に花を活けたり、手入れのほとんどは小間使いが行っていた。三年間の経験は忘れてしまったが、その知識と身体が覚えていたことで、幽香の役に立つことができた。
幽香も花に対して正しい感情を持ち合わせている者には好戦的な態度を取るわけでなく、むしろ同じ趣味を持つ仲間が増えるのは嬉しい。
その性格ゆえに誰かと語り合うことなどなかったので、こうして話し合えることは純粋に楽しかったのだろう。小間使いと話す時は、どこか笑顔が多くなった。
そんな生活が一年続いた。そのころにはあれだけ冷めた性格をしていた幽香が、小間使いに寄り添おうとしていた。幽香にとって小間使いとの生活は思いの外楽しいもので、できれば続けていたいものだが、いつ小間使いが自立するかわからない。
それならいっそモノにしてしまおう、と。
それは恋愛感情には程遠い、独占欲から来たものだ。或いは自分が持っていない物を持っていることに対しての嫉妬と、ならそいつを手に入れればそれも私の物だという曲解によるもの。
だから隣に座る小間使いの腕を取り、肩に頭を預けるのも、きっと。
新しい異変が起きた。幻想郷の各地で、季節に関係なく花が咲いた。ついこの前散ったばかりの桜でさえ咲き、過ぎ去った冬の花が気温に負けず、まだ遠い夏の花が元気に咲き乱れている。
それは六十年に一度、外の世界で死んだ人間の魂が、幻想郷に迷い込み、花に寄り付くことで起きるらしい。だから異変であって異変ではないのだが、四季に関係なく、夥しいともいえるほどの花が咲くのは、荘厳である。
「このさいきょーのあたいが、あんたをたおしてやる!」
この異変も、そのうち死神が三途の川へと渡し、閻魔に裁かれるまで続くのだが、その間の幽香は機嫌がいい。勘違いをした氷の妖精が、幽香を異変の黒幕だと決めつけ殴り込みに来たのも、普段なら有無を言わさず消し炭にするところを、むしろ厚く歓迎した。
「あら、いらっしゃい。今からお茶会をするのだけど、一緒にどう?」
「え? いや、あの……それより、あ、あたいとしょーぶを」
「お菓子もあるわよ」
「お菓子!?」
妖精が単純なのもあるだろうが、瞬時に幽香からにじみ出るその力量の差を読み取り怯える妖精を、優しく迎える。友達もいたようで、妖精四人と幽香、小間使いでテーブルを囲み、会話を弾ませる。茶会が終わったら、ドライフラワーで作った髪飾りをプレゼントするなど、普段の幽香を知る者からしたら何か裏があるんじゃないかと、怪しく思えて仕方がない。
そのとき盗撮していた烏天狗も、太陽の畑に居る妖怪は凶暴だという噂と、今回の異変の黒幕にアテをつけてきたものの、楽しそうな雰囲気に拍子抜けしたようだ。
「まぁ噂は当てになりませんからねぇ。でも、いいネタが手に入りました」
次の文々。新聞の一面の見出しは『熱愛発覚!?太陽の畑の大妖怪、恋人は人間の男か!』に決まりだ、撮影した一枚の写真を手に、意気揚々に飛び去って行く。それにはカップに新しく紅茶を注ぐため、近寄った小間使いと幽香のツーショットが写されていた
文々。新聞が発行されたのはそれから数日後、それは射命丸文の想像を超える大ヒットになった。普段通りの出鱈目ばかりの新聞ならいざ知らず、その二人が美形で、なおかつ男の方は人里の皆が知っている顔なのだから驚きである。人の色恋の盛り上がりにしても知り合いならなおさらだ。
それが小間使いに伝わったのは、それからさらに数日後、幽香が人里への買い物から帰ってきた時だ。
小間使いはあらゆる家事をしてきたが、買い物にだけはいかなかった。その理由として妖夢に会うことを避けるということがあるのだが、当然幽香は最初小間使いに行かせようとした。しかし小間使いがどうしても折れなかったため、いつも渋々幽香が買い物に行くのだが、この異変の期間中は嫌な顔はしなかった。それが今日帰ってきた時には、何やら微妙な顔をしながら、新聞を投げ寄越した。
「『熱愛発覚!?』ねぇ。いつの間に撮られてたんだろう」
「あの烏、今度会ったら羽根を捥いでやる」
その見出しには二人が仲良く寄り添う姿が収められていて、おそらくはこの記事の内容に怒ってはいるのだろうが、最近の自分の行動が行動だけに、否定し辛いものがある。小間使いから寄って来ることはなくとも、拒みもしないし、内心どう思われているのか分からない。別に周りがどれだけ冷かそうとも無視したらいいのだが、それはそれで『小間使いをモノにする』という目標とは離れていく気がする。
「あんまり噂になると困るんだけどな」
「……ふぅん。それってどういう意味なのかしらね」
「こっちの話」
私とそういう関係になるのは嫌だ、と遠まわしに言われている様な気がしてムカつく。それなりに容姿には自信があるし、一年も私の下から逃げ出そうとしなかったのだから、少なくとも悪く思われてないハズだろう。
「それより幽香さん」
「何かしら」
「血を、吸いたいんだけど……」
数日に一度の吸血の日。その日が小間使いはあまり好きではない。一年前までは、指先か腕辺りに嚙みついて血を吸っていたのだが、ここ最近身体を密着させてくることが多くなって来てから、幽香はブラウスのボタンを中ほどまで外し、衣服が脱げ落ちないように腕を組み支えながら、肩を露出させてくる。
その姿は悩殺もので、正直目の毒。できれば違う個所から吸いたいのだが、それを幽香は良しとしない。血を吸わせてもらっている身としては、逆らうことができず、言われた通りに首筋に顔を寄せるのだが。
さらに、吸血鬼は血を吸う時に、唾液から媚薬のような成分を出す。痛みや緊張感は血の味を落としてしまうので、その分泌する成分が重要なのだが、それ故に、幽香が声をくぐもった声を漏らすのが、理性的に辛い。
その日も幽香は肩を露出させた。小間使いがそれを嫌がっていることは知っているが、それは自分を女として見ているからで、掲げた目標に近づく手段としては、まさに王道な色仕掛けであった。
小間使いは嘆息しつつも、その肩を抱き、口を寄せていく。
「「
「あぁ、やっぱりね」
霊夢と妖夢が、怒ったような恥ずかしいような、赤い顔をして立っていた。
あと一話か二話ほどで、「博麗霊夢の小間使い」は完結します。
次回作については、考え中です
東方を続けるか、違う作品にするか、そこらへんはアンケートも視野に入れてますので、そうなったらご協力ください