Fate/kaleid blade   作:サバニア

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正確には一人だけ魔術使いが居ますがお気になさらずに……


7話 魔術師

 ルヴィアさんから屋敷への招待を受けた俺は、美遊と一緒に敷地内へ足を踏み入れた。

 屋敷へは隣を歩いて向かっていたのが会話の一つも無かった。

 

 

 辿り着いた屋敷の扉を開けると――――中央の天井にはシャンデリア、床には赤い絨毯などなど――――華々しい装飾が施されたエントランスホームが目に飛び込んできた。

 中央に在る階段の前には――――白髪に髭を蓄えて、眼鏡を掛けた老人が居た。老人といっても執事服を着こなしているし、雰囲気がただ者じゃない。

 魔術師の家に仕えている時点で“普通の執事”と考えるのが間違っている。

 

「士郎様。御初に御目にかかります、オーギュストと申します」

 

「衛宮士郎です」

 

 右手を胸に当てて一礼してくるのを見た俺も挨拶を返す

 するとオーギュストさんは爪先から頭の天辺までじっくりと観察するかのように視線を移動させる。

 

「ほぅ……なかなか……」

 

 鋭い眼光が俺を射抜く。

 なんか……こう……「お嬢様に近付く悪い虫は駆除します」って感じがするのは気のせいだろうか……。

 

「ではお嬢様の許に御案内致します」

 

「お願いします」

 

 奥に足を進めるオーギュストさんに付いて行く。

 その時に一緒に屋敷に入ってきた美遊のことを思い出して一瞬視線を向けたけど、いつの間にか彼女はいなかった。

 

 

 

 俺はオーギュストさんに案内されて、ルヴィアさんが待っている部屋のドア前まで足を進めた。

 

「お嬢様、士郎様をお連れ致しました」

 

 ノックをしてからオーギュストさんは声を発し、俺を連れてきたことを告げる。

 ドアが開かれ、その部屋には既にルヴィアさんと遠坂が居た。

 

「オーギュストは下がってよろしいですわ」

 

 右手を胸に当てて一礼し、オーギュストさんは退出した。

 これで部屋に居るのは魔術を扱う俺たちだけだ。

 俺は“挨拶に来た”と言うのが理由だが、もちろんそれは表面上のもの。それは呼び出した側も承知だ。

 

「簡単な自己紹介はこの前にしたから、早速だけど本題に入らせてもらうわ。衛宮君も構わないわよね?」

 

「ああ」

 

 遠坂の提案を首肯する。俺が来る前にルヴィアさんとは話をしていたのか、ルヴィアさんから声は上がらなかった。

 

「今夜0時、新都へ繋がる橋のふもとの公園でカード回収を行うわ。もうイリヤには手紙で伝えてあるけど、一応貴方からも訊いておいてくれる?」

 

「分かった。帰ったら訊いておく」

 

 先ずは今日の方針。次にカードについての話が展開されていく。

 

「――――で、カードは全部で7枚あって、その内の3枚は回収済み。一枚ごとに一騎の英霊が対応していて、カードを回収するためには戦闘は避けられない。それは解っているわよね?」

 

「実際に対峙したからな」

 

「遠坂凛の話から聞いてはいましたが……シェロは英霊と戦っておきながら無傷で生還しましたの……?」

 

「無傷じゃないぞ、多少のかすり傷はある。致命的な攻撃を受けなかったけど正直ギリギリだった。あのまま戦闘が続いていたら死んでたかもな」

 

 ルヴィアさんから驚きの声が漏れた。生身の人間が人以上の英霊と刃を交えるのは自殺行為でしかないのは俺も十二分に理解している。『聖杯戦争』で彼らの戦いを見てきたから尚更だ。

 

「回収済みの3枚に対応している英霊ってのは判明しているのか? 前回、美遊が使っていたのは『ランサー』のカードだったよな。それに対応しているのはケルト神話――――クー・フーリンってのは予想出来るけど合ってるか?」

 

「ええ、シェロの言う通り。日本ではあまり知名度は高くないと思いますが、思いの外詳しいですのね」

 

「読書はそれなりにしてるからな。刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルク)と聞いたら真っ先に思い当たる」

 

 実際は『聖杯戦争』当時にセイバーが真名を看破したのを聞いたのが最初だけど……。

 

「1枚がクー・フーリン……。残りは最初から遠坂たちが持っていた1枚と美遊が倒した1枚か……。その2枚の真名は?」

 

「この前のは『ライダー』のクラスカードですわ。真名の方は判っていません。美遊が限定展開(インクルード)しましたが、サファイアは鎖付きの鉄杭に変化しただけですので真名の特定までは……」

 

「残りの1枚は?」

 

「『アーチャー』のクラスカードよ。こっちも真名は不明。因みに冬木市(ここ)へ来る前に私が限定展開(インクルード)したけど、黒色の弓になっただけ。矢も無ければ真名の特定になるようなヒントもない」

 

 情報まとめるとクラスカードに宿っている英霊は俺が経験した『第五次聖杯戦争』に参戦していた“サーヴァント”の可能性が高くなるのか……?

 『ランサー』の真名は宝具からも、『ライダー』は実際に俺が見ている点からも確定だ。

 そして――――『アーチャー』……黒い弓を使う英霊なんて“あいつ”以外に居ないだろう。あ、トリスタン卿も黒い弓を扱っていたんだっけ。まぁ、『ランサー』と『ライダー』の流れからみても“あいつ”の可能性が高くなるけど。今度、それとなく弓を確認して確信を得るか――――

 

「そもそもだけど、クラスカードなんて物を作ったのは誰なんだ? 話を聞く限り協会が出所じゃないのは判るけどさ」

 

「それが……いつ、誰が、何のために作ったのか分からないのよ。協会が所持している文献にも載っていなかったし、解析もままならなかったの。分かったのは“英雄の力”を引き出せるってことだけ」

 

「力を引き出すにしても“大師父”が作ったカレイドステッキが無ければ出来ませんし……正直謎だらけですわ」

 

 カード回収のことより前に出た俺の疑問は、遠坂もルヴィアさんも感じているようだ。

 怪訝な表情を浮かべているし、さっきと比べて口の動きが僅かにだが悪くなった。

 まぁ、今はクラスカードの正体を暴くより回収が優先だよな……。全部集めれば新しい発見があるかもしれないし。

 

「……取り敢えず、今はカードの回収が最優先って流れは変わらないんだよな?」

 

「ええ」

 

「はい」

 

「なら戦闘での役割分担だけど――――俺が先頭に立って敵の注意を引くって言うのは決まりでいいか?」

 

「シェロ……カレイドステッキ無しでは自殺行為に等しいですわよ。それの自覚はお有りでしょう?」

 

「ああ。でも、イリヤたちは注意を引き付けるなんて役目は出来ないだろ? 俺が注意を引き付ければ、皆の負担は軽減できるし、攻撃を入れられるチャンスを増やせる。

 それに、ルヴィアさんたちのサポートが有る状況で守りに徹するなら耐えられると思う」

 

「衛宮君……あまり頭が痛くなるようなこと言わないでくれるかしら……。守りに徹すればって発言自体がどれだけデタラメか理解してる?」

 

「む……」

 

 俺からしてみれば『ライダー』のように弱体化している英霊は抑えられる。セイバーからしごかれた成果や経験値が有ってのことだけど。

 それに『聖杯戦争』に参戦していた“サーヴァント”たちと比べれば全然可愛いもんだ。

 まぁ、そんなことを知らない遠坂たちから見れば、俺は異常なんだろう。

 

「はぁ……まあでも、衛宮君が英霊の攻撃を捌いていたのは見ていたし、適任者も貴方しかいないから任せるわ。

 攻撃面はカレイドステッキを持ったイリヤと美遊が担当で――――」

 

「わたくしと遠坂凛は指示とサポートを受け持ちますわ」

 

「……やっぱり攻撃は二人が担当しないとダメなんだよな?」

 

 本音を言えば、幼い二人には前に出て欲しくない。いくら俺がターゲットになるように立ち回っても、危険性が羽上がるし、戦い慣れしていない子供を前に押し出すことには素直に頷くことなんて出来ない。

 

「シェロが美遊たちを心配する気持ちは解りますわ。しかし、わたくしの魔術では決定打に欠けますの……。

 そこの庶民のは言わずもがな」

 

「さらっと人のことを言ってるんじゃないわよ!

 残念だけど、私とルヴィアの魔術だと効き目は薄い。だから、心苦しくても二人に頼るしかないの」

 

 セイバーたちのことから、通常の魔術は効き目が無い――――または薄いと言うのは知っていたけどこっちでもか……。

 俺が一人で両方を買って出るのが一番だけど、残念ながらそれは出来ないのが今の俺の状態だ。絶頂期なら出来た可能性があるけど、無いものをねだって仕方がない。

 

「それらを踏まえるとフォーメーションは――――俺が注意を引き付けて敵の隙を作る。イリヤと美遊はその隙に攻撃を入れて敵を撃破。遠坂とルヴィアさんは全体的なサポートと指示。

 ……こんな感じになるのか?」

 

「そうね……それが現実的ね」

 

「ですが……本当にそれでシェロは構いませんの? サポートが有っても一番に攻撃に晒されますわよ」

 

「いや、俺の負担が大きくなるのは構わない。

 それに、適任者は俺しか居ないって遠坂も言っただろ」

 

 考え込む二人。手持ちの戦力では他に手を打てないのは理解してる筈だ。

 遠坂とルヴィアさんは宝石魔術の使い手で、本来なら最前線には向かないタイプだ。格闘戦が出来るとは言え、それは対人戦闘での範囲。正面切って人を超えている英霊に挑めるものではない。

 対して俺なら可能だ。魔術で攻撃する手段なんて元から持っていないから敵に無力化される心配は無いし、投影した宝具を用いれば対抗出来るからな。

 

「衛宮君……囮役を頼むわ」

 

「シェロ……わたくしからもお願い致します」

 

「おう、任せろ」

 

 気乗りしていないのは、声色でも、雰囲気でも解った。内心では否定しているけど、他に手段はないと半ば受け入れているのだろう。

 けれど、俺が自分から名乗り出たのだから、二人は負い目を感じる必要ない。

 でも、二人はそうはいかないようだ。

 

「じゃ、方針は決まったし、俺はこれで。

 二人も準備が有るだろう?」

 

「お帰りになられるのでしたから使いを呼びますわよ」

 

「いや、道は判ってるし、大丈夫だ。帰りまで手を煩わせないよ」

 

 俺が帰ることを知ったルヴィアさんは見送りの使いを呼ぶと提案されたけど、断ってドアを開けて部屋から退出する。

 廊下へ出たところで小さなメイドさんと出会った。

 

「美遊? その格好はどうしたんだ?」

 

「し、士郎さん!? こ、これは……その……」

 

 見られて恥ずかしいのか、頬を赤く染めて、手をワタワタとさせる美遊。

 と言うか、何故にメイド服? 小学生にメイド服って誰の趣味だよ……。

 

「美遊、丁度いいですわ。シェロをお見送りして差し上げなさい」

 

「は、はい」

 

 ルヴィアに一礼する美遊。

 そっか、美遊はルヴィアの所でメイドをやっているのかぁ……。

 何やら事情が有るのは明白だけど、訊かないでおこう……家の事情なんて色々あるし。

 

 

 

 

 話し合いが終わった俺は部屋を後にした。

 そのまま美遊に連れられて廊下を歩いてる中、声を掛ける。

 

「今日、イリヤと何かあったのかな?」

 

「えっ」

 

「門の前でさ、二人とも気まずそうにしていたし、よそよそしい感じだったから」

 

 突然の声掛けに戸惑いを見せる。

 でもイリヤのことを口にすると、表情は戸惑いから平常な面持ちに変わった。

 

「いえ、何も」

 

「ならいいけど……もしイリヤが美遊の気に障ることを言ったんなら許してやってくれ。イリヤに悪気は無いんだ」

 

 俺の話を聞いた美遊は足を止めて、俺の目に視線合わせてくる。

 美遊の瞳は真っ直ぐとしていて、俺の真意を問うようだった。

 

「士郎さんはどうしてカード回収を?」

 

「カードを放っておいて誰かが犠牲になることを止めたいから。

 いや、それも有るけどもっと単純かな」

 

「…………」

 

 美遊は黙って続きを待っている。

 何故だか判らないけど、一心に聞こうとしてならば、しっかりと答えるのが筋だ。

 

「妹を――――イリヤを守りたいから」

 

「……やっぱり……士郎さんもそうなんですね……」

 

「俺もっと言うか『兄』なら『妹』を守りたいと思うのは当然だと思うぞ」

 

「――――――――」

 

 美遊は悲しそうに……嬉しそうに唇を噛む。

 前もそうだった……この表情は俺が初めて彼女を見た表情と同じだ。

 

「ごめん、悲しませることを言ったかな……」

 

「……いえ、私の兄のことを思い出しただけです……」

 

 美遊の兄か……。彼女の反応からすると、既に――――

 

「美遊、今夜カード回収には俺も参加する。

 君のお兄さんのように役に立てるかは判らないけど、頼ってくれ」

 

「……ありがとうございます……士郎さん……」

 

 会話を終えた俺たちは再び足を進め始めた。

 エントランスボールに辿り着つまでの間は再び会話をすることは無かった。

 

 

 俺は入ってきた扉を目の前にして、美遊にお礼を言ってから外に出た。

 外は若干の茜色を残していたが、間もなく夜空に移り変わる。

 俺も準備を整えるため、屋敷の敷地内を後にした。

 

 

 

 

 ×   ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 

 時刻は深夜12時前。

 今回はリンさんからの召集を受けて、私とお兄ちゃんは新都へ繋がっている橋のふもとに在る公園に来ていた。既にリンさん、ルヴィアさん、ミユさんも居る。

 前回のは召集じゃなくて脅迫だったけど、今回のはまだきちんとした内容だったかな……ぱっと見て脅迫状じみていたのは変わらないけど……。

 

「大丈夫か、イリヤ?」

 

「う、うん! 大丈夫だよ!」

 

 私の右側にはリンさんが居るけど、左側にはお兄ちゃんが居た。

 服装は普段着だけど、両腰には革で作られた鞘に納められた剣が掛けられていた。

 その剣はこの前の戦いの時にお兄ちゃんが使っていたモノ。黒と白で短めな剣で、鏡合わせになっているように形がそっくりだ。

 私の方は既に転身しているんだけど……ピンク色の生地にフリルとリボンに装飾された衣装を見たお兄ちゃんの反応は落ち着いていた。

 

『似合ってるぞ。イリヤが憧れていた魔法少女に似てるな』

 

 うぅ……甲斐性なしと言うのか……なんと言うのか……。

 引かれなかったのは嬉しいけど、もう少しドキドキとした反応をしてくれてもいいんじゃないかなぁ……。

 と、僅かな不満を胸に抱きながらお兄ちゃんをチラッと見る。

 横顔が見えたけど、普段に増して格好よく目に映った。弓を構えているお兄ちゃんも格好いいけど、こっちのお兄ちゃんも格好いいなぁー。

 

「イリヤ、俺の顔に何か付いてるのか?」

 

「な、何にも付いてないよ!」

 

 視線に気付いたのか、お兄ちゃんもふと視線を私の方に向けてきた。

 私の返答を聞くと視線を元に戻して声を発する。

 

「遠坂、ルヴィアさん。そろそろ時間じゃないのか?」

 

「そうね……イリヤもいい? 敵はもちろんだけど、ルヴィアがどんな悪知恵を働かせてくるか分からないわ。どちらにも警戒するのよ」

 

「あー……えっと――――」

 

 リンさんのオーダーに困ってお兄ちゃんに助けを求める。

 でもお兄ちゃんも困った表情を浮かべていた。

 

「……遠坂…………」

 

 呟きはもう諦めに満ちていた。お兄ちゃんはリンさんと中等部で同学年だったって言ってたし……きっと、どうしようもないと分かってるんだ……。

 

「美遊、打ち合わせ通りシェロが敵を引き付けている隙に一撃で仕留めなさい。

 あと可能ならその際に遠坂凛をそれとなく巻き込んで、一緒に葬って差し上げなさい」

 

「……後半以外は了解です」

 

「殺人の指示はご遠慮下さい」

 

 向こうも向こうみたいだ……。

 大丈夫かなって心配した私は向かい側に居るミユさんへ視線を投げたけど、ミユさんはそっと眼を逸らした。

 それを見たら私はこれ以上視線を向けることなんて出来なかった。

 公園の話以後……どう接すればいいのか私にも分からなくて、掛ける言葉も浮かんで来なかった。

 

「さ、いくわよ。3、2、1……」

 

 腕時計を覗き込んで時間を確認していたリンさんからカウントダウンが伝えられた。

 緊張した私はルビーを握り直して、固唾を飲む。

 

「「限定次元反射路形成! 鏡界回廊一部反転!」」

 

 ルビーとサファイアから発せられる声はぴったり重なっていた。

 魔法陣が展開されて力強い光を放つ。

 

「「接界(ジャンプ)!!」」

 

 今度は私とミユさんが全く同じタイミングで声を響かせた。

 地面が逆さまに回転するような感覚と風景がいくつにも重なっているようなのを見ている。

 それが落ち着くと世界が切り替わった。

 

 ――――そこは……魔女の庭園(テリトリー)でした…………。

 

 

 

 

 

 




飛び込んだ先が敵地のど真ん中って怖いですよね……。
次回はそんなところからスタート。

なお、最近自分はFGOが怖い。
バレンタイン→プロトセイバー→本能寺復刻って誰が予想できたよ(涙)

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