FGOは……マイルームで鯖に追加衣装を下さい。
新宿をクリアした方なら分かる筈だ……。取り敢えず、青王、黒王、ジャンヌ、邪ンヌを筆頭にドレスや私服を追加で。
アルトリア・オルタさん。モーションリニューアルおめでとう! 正直、HFの映画に合わせてくるかと。
SN勢は残す3騎か……。小次郎は何時かな?
日は昇り、一時的にだが“日常”は戻って来た。
各々が学校へ登校したり、今後についての方針を検討している頃に、『私立穂群原学園の初等部』――――5年1組でイリヤは自分へ割り振られた机に額を押し付けて唸っていた。
× × × × × ×
どうしよう……あの時は色々と有ったから気付かなかったし、朝は疲れて頭がはっきりしてなかったから何も思わなかったけど――――私、お兄ちゃんに『自殺モン』の魔法少女姿を見られたんだ……。
ど、どうしよう!? お兄ちゃんは特に感想を言わなかったけど絶対に内心じゃ一歩も二歩も
私の頭の中は渦巻く恥ずかしさや自己嫌悪に占められた。
唸りながら机に額を押し付けていたけど、右斜め後ろの席に居るクラスメートによって現実に引き戻された。
「イリヤちゃん、ホームルームが始まるよ」
「ふぇ?」
そのクラスメートは私の親友の一人の女の子――――
私は美々に肩を揺さぶられて、額を机から離した。
それから視線を前方に在る教卓に向ける。
そこには私たちの担任である藤村大河先生が居て、その隣にあのもう一人の魔法少女が――――ってなんで!?
「はーい、みんなー。今日から一緒に勉強する転校生さんを紹介しますー」
「美遊・エーデルフェルトです」
陽気な藤村先生の声の後に、凛とした声が教室に渡った。
あれ……これって魔法少女ものが持つお決まりのパターンだ。
私の内心を知る筈がない藤村先生は話を進めていく。
「美遊ちゃんはフィンランドからの帰国子女さんです。
判らないことが色々とあると思うから、みんなもよろしくねー」
「「「「「はーい」」」」」
クラス全員が一斉に返事をする。この一体感は好きだけど、今の私はそれどころじゃないよ……。
「あ、美遊ちゃんの席は窓側の一番奥――――シルバーブロンドが目印のイリヤちゃんの後ろね」
「はい」
ミユさんは短く返してゆっくりと私の隣を通過して、席に着いた。
その様子を見届けた藤村先生は授業始めるために声を響かせる。
「それじゃあ授業を始めるわよ。みんな、教科書を開いてね」
こうして一時間目の授業は始まっていくのでした。
ただ……私はその間にジーッと視線が背中に浴びせ続けられた……。
後ろに振り向きたかったけど、それは出来ないから次の休み時間まで耐えるしかなかった……。
二時間目を前にした休み時間になった。
桂美々、
転校生を迎えたクラス特有の光景とワクワクに満ちた雰囲気が教室を満たす。
そんな中、イリヤは教室を抜け出して人が居ない屋上へ。
「あれじゃお話なんて出来ないよね……」
「ですねー。内容が内容ですから人前では無理ですね」
「あの子……一体何者なんだろう?」
思い出すのは『クラスカード』が具現化して顕れたという敵を倒したあの子の姿。
それを浮かべた時に、新しい声が聞こえてきた。
「では美遊様に代わってわたしがお話をお伺いします」
「え? っていつの間に!?」
「あらあら、サファイアちゃん!」
「昨晩ぶりですね、姉さん」
常に冷静でいそうな人格を感じさせる声がした方向へふと視線を向ける。
目に映ったのは六芒星を円状の枠に納めた浮遊物。細かい部分が違ったりしてるけど、ルビーによく似てる。
これってルビーと同じでステッキの頭のやつだよね。
まぁ……私も訊きたいことは色々あったし、ルビーも話したいことがあったみたいだったので話を始める。
「サファイアちゃんにはまだきちんと紹介していませんでしたねー。
こちら、わたしの新しいマスターのイリヤさんです」
「マジカルサファイアと申します。姉さんがお世話になっております」
「あ、ご丁寧にどうも……」
左右についているリボンの端のような部分を倒して挨拶をしてくれたサファイア。
私はその動作を見て反射的にお辞儀をして返した。
「ステッキって二本あったんだね」
「はい♪ 私とサファイアちゃんは同時に造られた姉妹なんですよー」
「私と姉さんは魔力の供給を始めとして、マスターのサポートをこなすカレイドステッキです。
先日まではわたしがルヴィア様にお仕えしていました」
「あれ? じゃ、二人揃ってマスター代えたってこと?」
私は疑問を声に出した。
ルビーの前のマスターはリンさんだった聞いてはいたけど……。
なんで二人揃ってマスターを代えることになったんだろ?
「あんな小競り合いを繰り返すお二人には付き合っていられませんからねー。
私たちも嫌気が指しますよー」
「姉さんと同感です」
「そ、そうなんだ……」
ルビーは兎も角、こんなに大人しそうなサファイアまでマスターを代える程の小競り合いってなんなんだろう……。
それを少しだけ想像したところで、何となく分かっちゃったかな。
きっと……あの格闘試合に似たことがステッキを巻き込んで繰り広げられたんだと。
だから私は違うことを訊いた。
「で、新しいマスターがあの子なんだね?」
「はい」
「それにしてもスゴい子ですねえ。宝具を初手から使いこなすとは……」
「あのさルビー。リンさんも言ってたけど、宝具って何?」
「……姉さん、カードについて説明してないんですか?」
「おっとそう言えばカードの説明はまだでしたねえ。
サファイアちゃんも居ることですし、いい機会ですから説明しましょうか」
で、テンション高めな陽気な声でルビーはこの一件についての説明をしてくれた。
大まか説明はリンさんと同じで、この町に『クラスカード』が突如この町に出現したこと。
リンさん、ルヴィアさん、ルビー、サファイアはその回収のためにここに来たこと。
今聞いたことはそれらに加えて『クラスカード』の詳細だった。
『クラスカード』――――英霊の力を宿したカード。
英霊って言うのはお伽噺や物語に出てくる人物である英雄たちが人の信仰を集めて、その存在を歴史に刻んだ人たちのことらしい。
後は『英霊の座』って言う高次の領域へ精霊化して招かれた存在とも言ってたけどよく解らなかった。
つまり……ゲームに出てくる程の有名な人物ってことかな? 私がイメージ出来るのはそれぐらい。
次にミユさんが使った武器――――『宝具』について。
宝具は英霊が持つ力の象徴で、とても強力な兵器みたいなものらしい。
ルビーとサファイアは『クラスカード』を通して一時的にその英霊が持つ宝具の具現化が出来るらしい。
昨夜、美遊さんが使った物は――――アイルランドの神話に出てくる“クー・フーリン”って英雄の槍だってルビーが付け加えて説明してくれた。
それに、『クラスカード』は全部で7枚が存在していて内の3枚――――アーチャー、ランサーの2枚は既に回収済み。そして昨夜のライダーで3枚目になったってことも教えてくれた。
ルビーとサファイアによるカード周りの説明が終わったところで話が一段落する。
「歴史や物語の英雄……」
「どうやら、一枚のカードに一体の英霊が対応しているようです」
「ミユさんが使った武器のことはなんとなくだけど解ったよ。
じゃ、あの敵は何?」
「あれもまた『クラスカード』によって引き出された英霊の力の一端――――いえ、英霊そのものと言って差し支えないでしょう」
「ですが、見た目から判るようにかなり変質しているようです。明らかに理性なんて吹っ飛んでみたいですし」
私の疑問にまたルビーとサファイアが一緒に答えてくれた。この光景を見ていると姉妹なんだなって感じさせてくれる。
そんな姉妹は攻守交代をするように私へ質問をしてきた。
「イリヤさん、貴女のお兄さんは何者ですか?」
「そう言われても……お兄ちゃんはお兄ちゃんとしか――――」
私だってお兄ちゃんが剣を握って戦う光景には驚いたよ。
確かに竹刀は振るっていたけど、それは試合のルールに則っての範囲でのことだし。
「守りを固めたスタイルとは言え、カレイドステッキのサポート無しで英霊と刃を交える……これは並大抵の人には真似出来ないことですよ」
「姉さん、イリヤ様の兄様――――士郎様はそんなことを?」
「はい。それはもう双剣を翼のように振るい、敵と剣戟を繰り広げていました。
凛さんも言っていましたが、あれで半人前とか過小評価が過ぎると思いますよ」
「驚きです……協会の魔術師でもない方にそんなことが出来るとは……」
ルビーは羽を腕組みをするように組んで、唸ってる。
対してサファイアはその場にただ漂ってるだけだけど、考え事でいっぱいなのが解る雰囲気を醸し出している。
でも、二人が質問を続けることはなかった。
何故なら、屋上のドアは開いて、そこからミユさんが現れたから。
「サファイア、あまり外には出ないで」
「申し訳ありません、
「それをダメとは言わないけど、学校では鞄の中に居て」
「かしこまりました」
相変わらず凛とした声のミユさん。
サファイアも大人しい女性のように答えた。
私とルビーとは違う関係みたい。
サファイアがミユさんの所まで辿り着くと、彼女は私に視線を向けてきた。
「――――――――」
でも、それだけだった。声を掛けられることはなくて、目と目が合っただけ。
美遊さんがそのまま身を翻して教室へ戻ろうとしたところを、私は呼び止めた。
「あ……あの……」
「――――何か、用?」
「ううん、別に」
「そう」
私の声に再び視線を交差させたけど、用は無いと告げた途端に再び身を翻して階段を降りて行った。
美遊さんの瞳は揺れていなかった。ただ真っ直ぐとしていた。
それを見た私は言葉が出なかった。お話したいことは山程あったのに……。
「なんか声を掛け辛い雰囲気かな……」
「ですねー」
少ししょんぼりした私だったけど、そろそろ次の授業が始まる時間だと思い出した途端に、教室へ向けて走りだした。
教室に戻って引き続き授業を受ける。
まずは二時間目の算数。
「はーい。じゃこの問題を――――早速だけど美遊ちゃんのお手並み拝見っていこうかな。美遊ちゃん、GO!!」
「はい」
藤村先生に指名されたミユさんは、席を立って黒板の前に立つ。
そこまでは普通だった……。でもそこからの光景にみんなは唖然とした。
流れるように問題を解いていくんだけど……その式が明らかに小学生のレベルじゃないんだもん……。
これあれだよね……お兄ちゃんがやってた“積分”って言うのと“方程式”って言うやつだよね。
私はそれを解くことは出来ないけど、使ってる式の形には見覚えがあった。
「……美遊ちゃん」
「よって答えは――――になります」
「この計算に積分も方程式も要らないのよ……ってそれは高校生の内容よ!」
「?」
「そんな不思議そうな顔をされてもお姉ちゃんが困る!」
未だに不思議そうな表情を崩さない美遊。
驚きに声を上げる藤村先生。
龍子はいびきをかいて寝ているからざわめかないけど、クラスのみんなは騒然となった。
―――――三時間目。
次は図工だったけど…………ここでもクラスは騒然となった。
今度はミユさんだけのせいじゃない。
雀花によって、独特で一部の人たちから称賛の嵐が巻き起こりそうな絵画が創作されたから。
「……ねえ、雀花ちゃん? これは何?」
「自由に描けとのことでしたので、性別の壁を解体して――――――」
藤村先生の柔らかい声を纏った質問に、雀花は熱く、真面目に答えた。
隣の男の子はチラッと覗いたら大きく身を引いたよ……。
「描くのはダメとは言わないけど、せめて学校外でしましょうね。それは小学生らしくないから」
どう捉えていいのか判らない声で藤村先生は呟いた。
藤村先生の普段のテンションの高さを考えると、明らかに低いのが判る。
きっと……自分の理解が追い付く領域を越えた絵画にどう反応をすればいいのか戸惑ったんだと思う。
続いて藤村先生はこちらに向かって来て、ミユさんの絵を視界に捉えると立ち止まった。
「…………美遊ちゃん、これは――――」
「自由に描けとのことでしたので、形態を解体して単一焦点による遠近法を放棄しました」
「それってキュビズムじゃないの! これは図工じゃなくて美術よ! これも小学校の範囲外だから、少なくとも中学生からだからね!」
「?」
「美遊ちゃんがスゴいのは解ったけど……その表情をされると私が困る!」
藤村先生……大丈夫かな……。
お兄ちゃん曰く「藤ねぇは常識人だけど、刺激を与えすぎると崩壊するからな。その兆候があったら気を付けろ」とのこと。
うーん。これってもしかするのかな……。
私は藤村先生が出場していた剣道の大会にお兄ちゃんと応援に行ったことがあるから学校外での様子を少しなら知っている。
『冬木の虎』……その降臨が起こったら誰にも止められないことも。
なんとかそれは起こらず、授業を終えるベルが鳴り響いた。
でもそれは……今日一番の藤村先生を呼び覚ますことを告げる鐘になりました。
――――四時間目。
私たちは教室から調理自習室へ移動した。
給食の時間はここで作ったハンバーグを自習班のみんなで食べようということも兼ねている。
私と美々はお話をしながら一緒にハンバーグのタネを捏ねたり、好きな形を作ったりして調理をしていた。
そんな時に向こう側から感嘆な声が上がった。
視線を向けると――――そこにはハンバーグを中心とした立派な昼食が台の上に並んでいた。
―――――ハンバーグ。
―――――プチトマト、アスパラガス、キャベツなどの色鮮やかな野菜のサラダ。
―――――ミネストローネ。
―――――デザートにチョコレートケーキ。
あれらはミユさんが作った料理だと思うけど……。
料理すら小学生のレベルじゃないよぉ!! しかもこれは明らかにプロ仕込みだよ! 家のセラかお兄ちゃんが『少し本気を出した』の一歩手前のレベルだよ!!
一体だれ? 小学5年生の女の子にこの教えを施したのは……。
それにまだ調理時間は全然余ってるよね……私たちはそろそろフライパンでハンバーグを焼く工程に入るところだよ…………。
どうやったらこんなに早く、美味しそう料理が小学生の手で出来るのか。
「――――美遊ちゃん」
「はい? もしかして何か間違えてましたか?」
「ううん……満点よ花丸満点」
あ、藤村先生の目が輝いてる。キラキラとお星さまを映してるよ。
そうだ……お兄ちゃんの料理を食べてる藤村先生は料理には目が無いんだった……。
でも先生、私もこればかりは解るよ。だって、見た目からして美味しそうだもんね。
「ってどうやって作ったのよ! フライパン1つで! 士郎じゃあるまいし!!」
「――――――」
あれ? 今、ミユさんが少し揺れた?
一歩下がるような動作の兆しが見えたような気がしたけど、気のせいだったのかな。ミユさんはその場に立ったままだし。
ただ、その隣でミユさんが作った料理に手を伸ばす者が居た。
「こら那奈亀ちゃん! 何食べてるの!?」
「おかわりー」
「『おかわりー』じゃない! 先に食べるなら安全確認も含めた私でしょ。ほら、食中毒とか怖いからネ」
先生……それは心配要らないですよね。
きちんと台拭きも、消毒も先生が一番熱心にやってましたよね……。
私には藤村先生がただ料理を食べただけなのだと解った。
そして今ここに、“食の魔神”は降臨をした。
早速と言った具合に箸を手にとってハンバーグを頬張る。
その直後、顔を綻ばせた。
「ウンメェ~。これはプロだわ、私の専属料理人にしたい!!」
「先生、五月蝿いです」
美味しさを声と表情で語る藤村先生。
でも食べ終えた後に、こめかみに右人差し指を当てて唸った。
「うーん……でもこの味、何処かで……?」
藤村は疑問符を頭の上に浮かべた。
まあ、そんな先生は置いておいて……はっきりしたのはミユさんは『完璧超人』だってこと。
こうして午前中の授業は終わりを迎えました。
「は~あぁ……」
「いつまでいじけているんですか? 家で皆さんが待っていますよ」
五時間目の体育も終えて放課後を迎えた私は、通学路の途中にある公園のベンチに座って、今日の学校での出来事を思い出していました……。
「まさか……50メートル走で負けるなんて……」
私の一番得意なことも、ミユさんは上を行った。
雀花たちと体育のために着替えをしていた時に「このまま転校生に負けっぱなしというのは、さすがに悔しい。せめて体育だけは勝ってくれ!」と、言われたけど無理でした。
それにしても6秒9はありえないってーッ!?
自分が自慢に思っていることを越えられて、私は落ち込んでいた。
そんな時に声を掛けられた。
「何をしてるの?」
「……ミユ、さん……」
顔を上げて視線を声が聞こえてきた方へ向ける。
私はミユさんを視界に入れた途端にバネのように飛び上がった。
「こ、これはこれはミユさん、どうもお恥ずかしいところをお見せ致しまして……。今お帰りで?」
「何で敬語?」
う、なんか反射的に……。思っていた以上に私は動揺していたみたい。
ミユさんも一体どうしたのか、と困惑な視線を向けて来るよ。
「もーう。イリヤさん、何で卑屈になってるんですか! 貴女たちは同じ魔法少女の仲間じゃないですか!」
「……仲間」
「――――仲間……。あ、そ、そうだよね。仲間だよね!」
そうだよ。同じ魔法少女だもの。
『ムサシ』たちのように仲間だよね! そう思うと心が軽くなる。
これから一緒にカード回収をするんだ。だから、先ずはお話をしようと微笑みを浮かべようと思ったけど――――ミユさんの目は一際落ち着いていた。
「……ねぇ」
「な、なあに?」
「貴女は……どうしてカード回収を?」
「う、うん。気が付いたら魔法少女にされていたと言うか……成り行き上仕方なくと言うか……」
「そう……」
重い空気が漂う。
公園は広いのに何故か狭い所にいるような感覚になる。
少し間が過ぎるとミユさんは私に再び声を掛けてきた。
「それじゃあ、どうして貴女は戦うの? 戦う理由を持っていないのに」
「戦う……理由……?」
ミユさんは静かに頷いて自分の質問を肯定した。
でも私にはそれと言って理由は無い。
黙っている私を見たミユさんは言葉を続ける。
「ただ巻き込まれただけなんでしょう? 貴女には、戦う理由も責任も無い」
「で、でも、リンさんとルビーにやれって――――」
「本気で断れば彼女もステッキも諦めるはず」
ミユさんの言う通りだ。
私には理由なんて無いし、断るならお兄ちゃんも話し合いに入れれば出来ると思う。お兄ちゃんは真っ先に私をカード回収から外そうとしたし。
でも、私は「やだ」って言わなかった。
そう……心の隅っこで『魔法少女』に憧れがあったんだ。
「ホントのことを言うとね……魔法少女に憧れてたんだ」
「……憧れ?」
「うん。これってアニメやゲームみたいな状態じゃない?」
「……ゲーム?」
「だって魔法とか、謎の敵とか、アニメやゲームの中に入ったみたいでワクワクしない?」
「…………」
あれ……ミユさんの瞳から光が消えて細くなっていった。
元々表情をあまり変えない子だったけど、今はとても冷たい。
「こんな体験は滅多にないだろうし、お兄ちゃんも居るから安心してカード回収ゲームを楽しもうかなーって――――」
「……もういいよ。聞きたくない」
ミユさんは静かにだけど、怒りに満ちた声を漏らした。
それは学校での今日一日を見ていたら想像が出来ない程の気迫を備えていた。
「え……? み、ミユさん……?」
「そんな気持ちで貴女は戦うの?
お――――貴女のお兄さんの士郎さんを巻き込んで」
「『巻き込んで』って……お兄ちゃんは自分から参加するってリンさんたちに言ったんだよ」
「……それは妹の貴女を守るためでしょう?
なのに、貴女はそんな軽い気持ちで英霊と戦おうって言うの?」
「――――――」
お兄ちゃんは私を守るって約束してくれた。
真っ直ぐに私の眼を見て。
だから私は安心してカード回収が出来ると思ってもいた。
「貴女は戦わなくていい。カード回収は私が全部やる」
「え? でも――――」
「貴女は邪魔。二度とあの空間に足を踏み入れないで」
ミユさんは視線を私から外して、公園は後にしようとした。
でもその前にもう一度だけ私を見て言った。
「――――士郎さんにとって貴女は何なのか、ちゃんと考えて」
それだけを言うとミユさんは振り返ることもなく、足を速めて夕焼けが照らす道へ向かって行った。
私は立ち尽くしてその背中を見ているだけしか出来なかった。
公園の敷地内から出て、帰り道を進む。
空は一層に
「何であんなに怒ってたんだろう……?」
「分かりませんが……なーんか地雷を踏んじゃったっぽいですねー」
「大体、巻き込まれたのはあの子も同じじゃない。何であんなこと言われなきゃ――――」
私はルビーと先のことを話ながら道を歩いていた。
あのミユさんの表情が頭の中に焼き付いていたから。
そんなことをしていたら、家が後少しの距離までになっていた。
ルビーはそそくさと私の後ろ髪の影へと隠れる。
家の前には手紙を右手に握りながらも、左手を頬に添えて呆然と立ち尽くすセラが居た。
「だだいまー、セラ」
「お帰りなさい、イリヤさん」
「どうしたの?」
「ええっとですね……あれを――――」
セラが指差した家の向かい側にはお城のようなお屋敷が。
一言で表すなら――――豪邸。
「大きい! 何これ!? 家の前に建ってたっけ!?」
「今朝突然工事が始まったと思ったら、あっという間にお屋敷が出来上がっていて……」
私は驚嘆な声を――――セラが戸惑いの声を上げる最中、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「……ただいま。えっと……何があったんだ……これ?」
「あ、お兄ちゃん。おかえり」
「お帰りなさい、士郎。
そうでした……郵便受けに貴方宛の手紙が在りましたよ」
「俺に?」
お兄ちゃんはセラから手渡された手紙の封を、制服の裏ポケットから取り出した定規で綺麗に切って、中身を取り出した。
ささっと目を通していく。
読み終えたお兄ちゃんは少し顔色を悪くした。
まさか……私と同じでリンさんからの
「あー、この屋敷……俺の知り合いの住まいみたいだ。
早速挨拶をしたいから、手紙を持って入って来いって書いてある」
「このお屋敷……士郎のお知り合いの方の住まいでしたか」
「みたいだな。正式な挨拶は落ち着いてからするって。
取り敢えず、先に俺と話をしたいらしい」
お兄ちゃんにこんな豪華なお屋敷を持ってる友達が居たんだ。
お寺の人は知ってるけど、お屋敷は知らなかった。
「あっ」
「あれ? 美遊?」
私たちが未だにお屋敷を眺めていると、数分ほど前に公園で別れたばかりのミユさんが現れた。
先の話の直後だったからだと思うけど、気まずそうな顔付きだ。それは私もだけど……。
ミユさんは私から目を逸らしてからお兄ちゃんを一瞥する。だけど、話し掛けるもなく、お屋敷の門に手を伸ばした。
「この屋敷は美遊の家なのか?」
「えっ――――まぁ……そんな感じです」
「俺さ、ルヴィアさんから呼ばれているんだけど、一緒に入ってもいいかな?」
「…………どうぞ」
「じゃあ。セラ、イリヤ、ちょっと行ってくる」
ミユさんの了解を貰ったお兄ちゃんは私たちに一言を言ってからミユさんに続く形でお屋敷に入っていった。
『エーデルフェルト』……『ルヴィアさん』……。あ、これって昨夜にお兄ちゃんとお話をしてた金髪の女の人の名字と名前だ。
つまり……ミユさんはその人の妹さんなのかな?
本人たちから聞いた訳ではないので、本当かは私には判らなかった。
それにしても……転校生して来て、新しい住まいが家のお向かいさんってどういうことだろう。
これも『お約束』って言うやつなのかな……。
私の頭の中を様々な情報が巡っている中、セラに声を掛けられたので、家へ入るために足を進めた。
よし、お兄ちゃんが帰ってくるまでには落ち着いていられるように自室へ行こう。
あ、そう言えばお兄ちゃんと普通に会話が出来た。まぁ、目の前の光景に驚いていたせいで恥ずかしさが上書きされたからだけど……。
あれ? 私が落ち着いた後にお兄ちゃんが帰って来ても大丈夫かな……。
一抹の不安を感じながらも、私は自室へ行くのでした。
藤ねえってアーチャーを見た瞬間に正体を看破出来るとか……。
実際、タイコロだとねぇ……(苦笑い)
何気にセラの料理の腕前も向上してる件。やっぱり物事の向上には良きライバルか……。
美遊の台詞は小説版の方をベースにしています。
アニメ版より、そっちの方が当作品ではいいかと思ったので。