Fate/kaleid blade   作:サバニア

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バレンタインイベントで一言……王よ、何処までクラスを埋めるおつもりですか?
もうあと「キャスター」を残すだけじゃないですかー。
あ、自分はキャス狐ピックアップの時に回します。

遅くなりましたが、SNの三人、モーションリニューアルおめでとう!


4話 魔法少女の夜

 間もなく深夜12時。

 辺りは暗闇に包まれ、空では星々が輝いている。

 言うまでもないが、こんな時間帯を彷徨(うろつ)く学生など居ないだろう。

 

 

 しかし、『私立穂群原学園(しりつほむらばらがくえん)』の高等部のグラウンドに二つ人影が在った。

 黒髪でツインテールが特徴的な少女――――遠坂凛。

 シルバーブロンドなセミロングの髪を持ち、可愛らしさが溢れる小学生――――イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。愛称はイリヤだ。

 

 

 イリヤは遠坂により、こんな時間に呼び出されたのである。

 これが、新たな“出会い”と“世界”に踏み出すとは知らずに――――

 

 

 

 

 ×   ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 

 うぅ……やっぱり恥ずかしいよ……。

 私はリンさんに脅迫(召集)されて、こんな遅い時間に高等部のグラウンドに来てたんだ。

 だって今日の放課後、下駄箱の中には手紙が入って……それはリンさんからだった。

 それだけなら、呼び出されたって言えると思うけど、書かれていた中身は――――

 

『今日の0時、高等部の校庭に来ること。来なかったら■■迎えに行きます』

 

 上から消されていた二文字が私には理解できた……。あれって呼び出しの時に使う言葉じゃないよね……。

 でも行かないと後々怖いので、私は呼ばれた時間より少し早く来た。

 

 

 そこで転身して“カレイドルビー”になったんだけど……やっぱりこれ……恥ずかしいよ……。

 リンさんはこの姿を『自殺モン』って言ってたけど――――うん、私もお兄ちゃんに見られたら、『自殺モン』確定だよ。

 

「では、そろそろ行きましょう!

 イリヤさん、初陣ですよー。良いところをあの『年増ツインテール』に見せ付けて、ギャフンと言わせましょう!! 」

 

「……言うじゃないこのステッキ。新しいマスターを手に入れたからって――――」

 

 ルビーとリンさんの争いが始まりそう。

 これから私たちは、“カード”回収に行くんだよね。

 どうしてこうなっちゃったんだろう……私は昨日の夜のことを思い出していた。

 

 

 

 

 

 アニメ『マジカル☆ブシドームサシ』が観終わった私は、お風呂に入っていた。

 

『お兄ちゃん……急にどうしたんだろう?』

 

 私とリズお姉ちゃんがアニメを観ている間に、お兄ちゃんがまた外に出掛けたのをセラから聞いた。

 鍛練を増やしたみたい。

 

 

 昔からお兄ちゃんは週に何回か夜は家を空けて鍛練をしに行っていたけど、それは前もって伝えられていた。

 でも今日は違う。私に伝えることもなく、出掛けて行ったんだ。

 私がアニメに夢中になっていたところの邪魔になると思ったから、セラに伝言を頼んだってことは解ってるけど……。

 

『お兄ちゃんが居ないとなぁ……』

 

 私は物心が付いた頃には、お兄ちゃんのいつも背中が見えるように付いていた。

 いつも優しくて、一緒に居てくれるお兄ちゃんが好きだった。それは今でもだけど……。

 

『昔みたいにいつも一緒に居るなんてことが出来ないのは解ってる――――』

 

 私ももう小さくないし、お兄ちゃんは高校生だし。

 昔は忙しいセラの代わりに私をお風呂に入れてくれたりしたけど、それも今では望み薄かな。

 でも、髪は昔と同じように結わえてはくれるけどね。私が頼めばだけど。

 

『うーん……ムサシみたいに魔法が使えたら、変わるかなぁ……』

 

 魔法が在ったら昔みたいにお兄ちゃんと――――いやいやいや! それは流石に無いよね!!

 私はお湯から出ている頭を左右に振って、想像しようとした光景を払い落とす。

 

 

 その時に窓の外が光ってるのがチラッと見えた。

 何だろう? 不思議に思った私は浴槽から、立ち上がって、電気を消してから、窓を開けて外を見た。

 それは星と星がぶつかり合っているように見えた。

 私はそれが見えなくなるまで見続けた。

 外から吹いた風がお風呂場に入って来て、私を吹き抜けたところで、寒さを感じた私は窓を閉じようとしたけど――――

 

『あれ? 何かこっちに来てる……?』

 

 次第に大きくなる光に釘付けになって、じっと見ていた。

 しかも、音も聞こえてくるような……。

 

『えっと……これって逃げなきゃ――――』

 

 そう思った時には、もう手遅れでした。

 おでこに強い衝撃が走って、私は意識を朦朧とさせながら、浴槽に尻餅をついたんだ。

 そして聞こえたんだ。この先、一緒になる”あの声“が。

 

『ろりッこゲット!

 これであんな年増ツインテールとはお去らばですよー! ヒャッハー!!』

 

 それを聞いた私は、テンションの上限値を越えながらも、割烹着が似合う少女の姿を連想していた。

 そんな人を私は知らない筈なんだけど……。

 

 

 

 で、意識を取り戻した私は家の庭に居た。

 お風呂に入っていたから、裸だったのに、気が付いたら服を着ていた。

 でもそれは――――ピンク色を基調にして、フリルとリボンが包まれた衣装だった。

 普段なら絶対に着ないような――――そう、魔法少女のコスプレみたいな。

 

『あ、お目覚めですか、マスター。

 既に転身しておきましたよ!

 いやー、ラヴパゥワーに劣らず、この着こなしッ! 痺れますねー。

 さあ! これから私にとっての悪を倒しましょう!』

 

『な、な、な、なにこれーーーーー!?』

 

 もう何が何だか解らなかった。

 意識を取り戻したら、外に居て“魔法少女”になってたんだよ!? こんなの絶対に夢だよ、現実離れし過ぎだよ!?

 

『やっと見つけたわ……』

 

 私がパニックに陥ってる最中に、怨念が籠っていそうな声が聞こえた。

 私は声が聞こえてきた方へ振り向いた。

 居たのは赤い服装で、黒髪ツインテールの女の人。額には青筋が立っていた。

 

『あら、もう見つかってしまいましたか』

 

『……ええ、ルビー。さっきぶりね』

 

 ここからは一悶着有った。

 現れた女の人は近付いて来て、ステッキを握り潰す勢いで鷲掴みにした。

 ステッキの方も負けじと体をうねらせて、手の中から逃れる。

 女の人とステッキの攻防は暫く続いた。動きを先に止めたのは女の人だった。

 

『えっと……貴女はこのバカステッキに騙された感じよね?』

 

『“騙された”と言うか……気絶させられて、気が付いたらこんな感じでして……』

 

「――――ルビー、今すぐにマスター認証を戻しなさい」

 

『いやですよー。

 凛さんより、魔法少女が似合ってますし、私にもマスターを選ぶ権利が有ります!』

 

『……そう。

 不本意だけど、こうなったら仕方ないか……』

 

 女の人はため息を吐いてこめかみを押さえながら、目を閉じた。

 少し間を置いてからまた目を開いて、私に言ってきた。

 

『命じるわ――――

 貴女、私の奴隷(サーヴァント)になりなさい』

 

『はい?』

 

 突然の言葉に私は、戸惑った。

 でも、これだけは解った。私はこれから普段と違うことに関わりを持つことになると。

 

『貴女は私に代わって『クラスカード』を集めるの。

 拒否権は無いわ。恨むなら、ルビーを恨みなさい』

 

 その後に女の人は『遠坂凛』と、私が握っていたステッキも『マジカルルビー』と自己紹介をして、私は二人から話を聞いた。

 この町を滅ぼす程の危険物が在ることを。

 私にはそれの回収を手伝って欲しいと。

 

 

 まぁ、そんな感じのことが昨日に有ったわけで……。

 

 

 

 

 昨日のことを思い出して間に奇妙な感覚に襲われた。

 地面と空がひっくり返えるようで、同じ風景がいくつも在るように感じた。

 

「座標系安定。

 空間転位完了します」

 

「着いたわ。

 ここが『鏡面界』よ」

 

 ルビーの報告に、リンさんが説明を付け加えた。

 場所は同じグラウンドだけど、学校の敷地だけが切り取られたように、周辺の道から隔離されていた。

 “この世界”に存在するのは学校だけ。それ以外は存在しなかった。

 

 

 私が辺りを見回して自分なりに状況を整理しようしていたけど、リンさんが口を開いた。

 リンさんの声は緊張感が溢れていた。これから、危険なことが起こると警告するように。

 

「構えて!

 状況が理解出来ていないのは解っているけど、説明している時間はないわ!」

 

「え? 『構えて!』って、一体何が――――」

 

 ドクンと、何が脈動する様な音が聞こえた。

 私は反射的にステッキを構えて、何が起こっているのか把握しようと意識を向ける。

 

 

 そして、“それ”は顕れた。

 みるみる暗い霧が集まって、人形(ひとがた)の“それ”は獣が近づくように4つ足で這い出してきた。

 

「イリヤさん、戦闘開始ですよ!」

 

「そうは言っても……リンさん、あれは――――」

 

 リンさんに声を掛けながら視線を向けるけど、そこには先まで居た筈のリンさんは居なかった。

 え? もしかして、丸投げ?

 

「あ、凛さんならもう校舎の影に行きましたよ。

 それはもう素晴らしい走りで」

 

「リンさんっっ!!」

 

 私が声を上げている中、向かうはこっちの事情なんて知ったことじゃない、と言った勢いで飛び掛かって来た。

 私は咄嗟のことに何とか反応が間に合って、横に飛び退いて回避した。

 先までいた地面は、抉られて土煙が昇っている。

 

「る、ルビー、あれは何!?」

 

「『クラスカード』から発生した敵ですね」

 

「カードって……見つけて拾うだけじゃないの!?」

 

「いえいえ。それだけならば、私のような『カレイドステッキ』は必要ありません。

 兎に角、あれを倒しましょう! そうすれば問題ありません!」

 

「そ、そんなことを言われても――――」

 

 今度は腰を下げて前傾姿勢になってから、突進して来た。

 その加速を乗せた拳が私に降り下ろされる。

 それを見ていた私はステップを切って回避する。

 

Anfang(セット)! 爆炎弾――三連!」

 

 敵の注意が私に向いている隙に、リンさんからの援護が入る。

 投げ付けられたのは宝石だった。キラキラと赤く輝きながら、全部が命中した。

 爆炎と爆音が視覚と聴覚を通じて、私にも激しさを伝える。

 でも、敵は平然と立っていた。

 

「やっぱり効かないか……じゃ、後はよろしく!!」

 

 やるだけやって、即座にまた校舎の影へ隠れるリンさん。

 

「ルビー……どうすればいいのかな……」

 

「イリヤさん、私を振ってください!

 凛さんが行ったみたいに魔術は効かなくても、純粋な魔力の塊なら通用します!

 ここに来る前に練習したやつです!」

 

「……ええいっ! もうこうなったら――――っっ!」

 

 半ばヤケになりながらも、私はルビーを横から振り抜いた。

 野球選手が力強くバットを振り抜くイメージを浮かべながら。

 すると、ステッキの頭の星形の部位に鮮やかな光が集まってから、三日月型の斬撃が繰り出された。

 それは真っ直ぐに、敵に向かっていった。

 次の攻撃の準備体勢中に入っていたみたいで、カウンターが入る形になった。

 

「■■■■■■■■■■■!?」

 

 言葉になっていない呻き声があげながら、斬撃を受けた敵は後ろに飛ばされて、少しよろけた。

 

「そうよ、その調子!!

 さぁ、じゃんじゃんやりなさい!!」

 

「リンさん……遠くない……?」

 

「そこら辺の野次馬より距離がありそうですねー」

 

 遠くから見ていたリンさんから、力強い応援に似た声が聞こえた。

 

「よし。この調子でやってみよう!」

 

「そうです。その意気ですよ、イリヤさん!」

 

 繰り返し追撃を仕掛ける私。

 でも、敵は素早い動きでグラウンドを駆けて、回避をする。

 それを見てもステッキを振り続けて、攻撃を飛ばす。

 敵は見切っているかのようで、一撃も当たらない。

 

「警戒が強くなってしまった様ですね。

 イリヤさん、パターンを変えましょう。散弾をイメージ出来ますか?」

 

「散弾……?

 ポップコーンの種が弾けて、飛び出すような感じなら――――」

 

「それで構いません!

 さあ! 奴さんにお見舞いしてやりましょう!」

 

 イメージするのはポップコーンが出来る時に起こる種が弾ける光景。

 お兄ちゃんがおやつに作ってくれた時に、鍋の中で弾ける種の様子を思い浮かべる。

 

「散弾! 当たれーっ!」

 

 無数の魔力弾が散弾になって、敵を中心に降り注ぐ。

 今度は命中した。地面にも着弾して、土煙が舞う。

 さらに追い討ちを掛けるために私は同じイメージを描きながら、ステッキを振る。

 手応えなかなか。激しく舞う土煙もそれを表しているのが解る。

 

「広くなり過ぎて威力が低いわ!」

 

 リンさんから叱咤が飛ぶ。

 なら、もっと力を込めて――――

 

「イリヤさん! 余り隙が出来るような動作は――――」

 

 ルビーの警告を聞こえた時には、私は先よりステッキを大振りに振り抜こうとしていた。

 そのタイミングに合わせたように、土煙の中から鎖と繋がった鉄杭が飛び出して来た。

 それは、私の胸の中心に吸い込まれる軌道だった。

 

「あっ」

 

 私でも解った。

 いくらルビーのサポートが有るとは言っても、直撃を受けたらタダじゃ済まないって。

 回避は間に合わないのを確信して、私は目を閉じて痛みを受けると覚悟を決めたけど――――

 ギィィンと、鉄が鉄を打ち鳴らす音が聞こえた。

 痛みを感じることが無くて、不思議に思った私は目を開いた。

 そこで映ったのは――――赤銅色の髪の毛に、私たちが通ってる学園の高等部の制服を着ていた――――お兄ちゃんだった。

 

「お、お兄ちゃん!?」

 

「ああ。無事かイリヤ」

 

 えっ? 何でお兄ちゃんが?

 それに両手に握られている白と黒の短めな剣は何だろう?

 私の頭は混乱の渦に引き込まれたけど、お兄ちゃんの声で引き戻された。

 

「話は後だな。

 下がってろ……後は俺がやる」

 

 私を背に、お兄ちゃんはゆっくりと敵に歩いて行く。

 その姿はいつもの『お兄ちゃん』じゃなくて、歴戦の戦士のように見えた。

 

 

 

 

 ×   ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 現在、深夜12時過ぎ。

 再度、“違和感”の調査のために、俺は高等部のグラウンドを訪れた。

 

(何だ!? “違和感”が強くなってるし、空間が揺れている……?)

 

 自分の感覚でも、視界にしても、空間が揺れているのが解った。

 それも、とても揺り幅が広い。これなら、欠陥の『宝石剣』で抉じ開けられるか?

 別に、平行世界に渡る訳じゃない。この揺れを抉じ開けることぐらいなら――――

 投影した『宝石剣』を“揺れ”に突き立てて、捻るように力を入れる。

 

 

 刹那のタイミングを逃さず、“揺れ”の中に飛び込む。

 入って真っ先に映ったのは――――

 黒く染まった『ライダー』と、ピンク色の魔法少女の格好をした……イリヤだった。

 俺に鉄で叩き付けられたような衝撃が走る。何故、イリヤがこんな所に居て、『ライダー』と戦っているのか。

 

 

 いや、考えるのは後だ。俺は即座に思考を戦闘体勢へと移行する。

 干将・莫耶を投影して、イリヤの所まで疾走する。

 そんな時に、『ライダー』の鉄杭がイリヤに向かって飛び出していた。

 

 

 “あの光景”がフラッシュバックしそうになったが、俺はそれを押し倒して、イリヤを貫こうとしていた鉄杭を寸前のところで打ち払った。

 

「お、お兄ちゃん!?」

 

「ああ。無事かイリヤ」

 

 わたわたと俺の登場に驚いているイリヤ。

 俺も色々と驚きが有るが、今は他に優先するべきことが存在する。

 まずは、目の前の『ライダー』の対処。

 一目であれは俺が知っている『ライダー』ではないと察した。

 まず、雰囲気が違う。黒く染まっているからか、禍々しさが付き纏っている。

 バイザーが赤い球体を据えたモノアイだ。

 それ以外にも爪が鋭くなっていたりと、“理性を失った獣”を感じさせる。

 

「話は後だな。

 下がってろ……後は俺がやる」

 

 俺はイリヤを背に、ゆっくりと『ライダー』に近付いて行く。

 これは相手の動きを“観察”すると言う意味を込めてだ。

 

 

 無策で突っ込むのは“サーヴァント”相手には、自殺もいいところだ。まぁ、それは以前にセイバーたちから言われたことでもあるが……。

 

 

 近付いて行く俺の姿を、『ライダー』は見つめている。向こうも様子見だろう。相手から考えれば、俺は突然の乱入者だ。警戒心が引き上げられるのは当たり前だ。

 

 

 そして、動きがあった。

 『ライダー』は勢いよく突進して来た。

 だけど、俺が完全に捉えられる程に速かった(・・・・)

 鉄杭と俺の双剣が交差して、火花を散らす。

 振動が全身に伝わる。それも、耐えられない程の威力ではなかった。

 

 

 別に弱いって訳じゃない。俺に『ライダー』を仕留めることが出来るのかと訊ねられれば、確信をもって答えることは出来ないだろう。

 

 

 それに、こうして反応が出来つつ、手応えを得られているのは、俺の経験値による恩恵が有ってこそだ。

 肉体は高校二年生にまで戻ろうが、研ぎ澄まされた感覚と、得た経験値は消えた訳じゃない。

 仮にそれらが無かったら、先の交差で俺は死んでいただろう。

 

 

 俺の双剣は翼が舞うような軌道を描き――――

 『ライダー』の鉄杭が振るわれる毎に、鎖を蛇のようにうねらせた挙動を取る――――

 白と黒の軌跡が鈍い銀の閃光とぶつかり続ける。

 

 

 現状、俺は守り重視のスタイルで打ち合っている。

 弱体化していようが相手は“サーヴァント”だ。

 そうそうに一撃を入れることなんて出来ないし、下手な“攻め”は悪手でしかない。

 

 

 加えて、本来の俺のスタイルは守り重視でカウンターを狙うことだ。それも有ってこのような形になるのは自然だ。

 

 

 何十とも繰り返される攻防。それは羽ばたく鳥と、絡み付いて毒牙を食い込ませようとする蛇の闘いにも似た剣戟だった。

 

 

 更に長い時間続くのかと思っていたが、徐々に終わりが近づいてきた。

 『ライダー』は鎖を鞭のようにして横に薙ぎ払って、俺に回避を強要させる。

 俺は後ろにジャンプして回避をするが……その隙に『ライダー』はバックステップで距離を取る。

 そして、バイザーのモノアイが妖しく光る。

 

(――――宝具ッ! まずい!)

 

「まずい! イリヤ……あとそこの! 早く距離を取りなさい!」

 

 大声を上げる誰か。どうやら、宝具の存在を知っているらしい。

 それに、その声に聞き覚えがあるような……って、そんなことを気にしてる場合じゃない!

 

 

 こうなってしまったら、宝具の真名解放が行われる前に決着を付ければならない。

 俺は自身の持つ設計図を見渡して、最適な手段を模索する。

 偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)を先に射って先手を打つか――――いや、近すぎるし、イリヤたちにも被害が及ぶ。

 

 

 それ以外に一撃で勝負を付けるとなると――――準備に時間が掛かる。現状でそんな余裕は無い。

 なら、“守る”。俺の持つ守りで防ぐしかない。

 

「イリヤ、あと声を荒げた誰か!

 俺の背中に隠れるようにしてくれ!」

 

「えっ? お、お兄ちゃん――――」

 

「早く!!」

 

 未だに戸惑っているイリヤを怒鳴る感じになってしまったが仕方がない。

 それ程に宝具の真名解放は危険なんだ。

 

 

 人の気配が俺の後ろに集まったのを感じたところで手を正面に捉えた『ライダー』に翳して、守りを展開しようと設計図を引き出す。

 

騎英の(ベルレ)――――」

 

熾天覆う七つの(ロー・アイア)――――」

 

『ライダー』の宝具が解き放たれるのと、俺の守り――――熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)が造り出される寸前に、誰かが俺の横を通って『ライダー』へ疾走した。

 

「――――クラスカード・ランサー。限定展開(インクルード)

 

 冷静に満ちた澄んだ声が響いた。

 俺の視界に映ったのは――――蝶のようなリボンで黒髪を頭の後ろで結わいて、紫色を基調にしたコスチュームを纏った少女。

 

 

 そして、彼女の手に握られた朱色の長槍に釘付けにされた。あれは――――

 

刺し穿つ(ゲイ)――――死棘の槍(ボルク)!」

 

「■■■■■■■■■■■■■!?」

 

 飛び込んできた少女は、朱色の流星のような一撃で『ライダー』の心臓を刺し貫いた。

 一瞬の出来事だった。刺し貫かれた『ライダー』は断末魔を晒して霧散して消滅した。

 そして、そこには一枚のカードが残されていた。

 

「『ランサー』、接続解除(アンインクルード)

 対象を撃破。クラスカード……『ライダー』、回収完了」

 

 淡々と感情の薄い声で事態の確認に集中している少女。

 だけど、俺には気になることが多々あった。

 

 一つ目は……刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルク)――――ケルト神話のクー・フーリンが持つ朱色の魔槍だ。放てば必ず相手の心臓を穿つと言う逸話を遺している。

 俺が経験した『聖杯戦争』で『ランサー』の“サーヴァント”として参戦した奴が持っていた宝具だ。

 それを少女が使い、その後にカードの形になったこと。

 

 二つ目は先まで戦っていた『ライダー』についてだ。

 そもそも、ここには『聖杯戦争』が無い。

 つまり、“サーヴァント”が存在する理由は無い。

 にも関わらず、何故“サーヴァント”が居た?

 

 俺は思考を動かし始めるその前に、突如として現れた少女に視線を向けた。彼女が持っている二枚のカードが気になったからだ。

 その際に俺と少女の視線が交差した。

 

「――――――」

 

 聞き取れない程の小さな呟きが少女の口から漏れていた。

 そしてこちらに走り出そうしていたけど、急ブレーキをするかのように自身へ制動を掛けた。

 その表情は嬉しさと悲しさが混ざっているように見えた。

 唇を噛んで、何かを堪えているのが解った。

 あの口を動きはこう言っていた。

 

『お兄ちゃん』と…………。

 俺は彼女から視線を外せなかった。

 だって……少女の表情は――――二度と会えないと思っていた人物と再会をして、泣いているように見えたから。

 




次回、凛との再会、ルヴィアとの初対面、美遊の転校回などになります。
藤ねえも登場するぜ!

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