Fate/kaleid blade   作:サバニア

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次回から3話ぐらい連続で戦闘がメインになりそう……。
今回はキャスターリベンジへの特訓回です。



9話 再戦準備

 

 

 昨晩の戦いは私たちの撤退で幕を下ろしました……。

 だって……訪れた先は魔女の庭園(テリトリー)のど真ん中で、おもてなしに出されたのはビームの嵐。

 今でもあの光景を思い出すと体が震えるよ……。

 あんなの……リズがやってたゲームに引き込まれたのかと思うぐらい派手な光の雨だったよ……。

 

 

 

「この辺りでいいかな?」

 

 昨晩の敵との再戦を深夜12時に控えた私は、ルビーと一緒に『穂群原学園』の裏側に広がっている雑木林に来ていた。

 目的は今晩の再戦に備えて特訓をするため。

 

「はい! では早速転身といきましょう!

 コンパクトフルオープン! 鏡面回路最大展開!」

 

 ルビーから溢れ出る光が繭のように私を包み込んだ。

 服装が変わっていく。

 普段着から魔法少女の姿へ――――

 

「転身には慣れてきましたねー。まぁ、魔法少女力1万のイリヤさんですから凛さんと比べるまでもないので当然ですかねー」

 

「うーん。慣れることが嬉しいことなのか、悲しいことなのか、微妙なんだけどね……」

 

 なんかこう……アニメやゲームの中でストーリーが進むと、いつの間にかイロモノキャラになってる――――みたいな道を私自身が進んでるんじゃあ……。

 と、頭の中を過るんだよね……。

 

 

 気持ちを切り替えて、空を昇っていくイメージを思い浮かべる。

 思い浮かべたイメージに沿うように、体は見えない上り坂を登る感じで空へ流れていく。

 

「あ、そうだ。リンさんから預かったこのカード、試しに使ってもいいかな?」

 

「クラスカードですか? いいですよ♪」

 

「アーチャーって言うぐらいだから、弓だよね? 一体どんな必殺の武器が――――」

 

 空へ昇っていく途中、一旦止まって左太腿に付けられたカードホルスターから一枚のカード取り出した。

 そのままルビーから了承を貰って、手にしたカードをステッキの頭に置く。

 

「よーし、限定展開(インクルード)っ!」

 

 カードと接触したルビーは発光し始めた。転身の時と比べたら小さい光だけど、夜だったら辺りを照らすには十分なくらい。

 光が収まるとステッキだったルビーは立派な黒い弓に変化していた。

 

「ホントに出た! これがあれば勝てるんじゃない?」

 

 お兄ちゃんが左手で弓を持つのを真似て、私も左手で弓を持つ。

 それにしても大きいなぁ……。私の背丈ぐらいはありそうかな?

 

「これって洋弓なのかな? 和弓とは違うし、洋弓としてはちょっと大き過ぎる感じだね」

 

「イリヤさんは弓にお詳しいんですか?」

 

 意外そうな反応をするルビー。

 そうだよね。私の部屋には弓はないし、弓道に関係する道具もないから不思議に思うよね。

 

「お兄ちゃんが昔から弓道をやってて、今は弓道部員なんだ。大会にも出てて記録を残したりもしてるんだよ」

 

「あーそう言うことですか。だからお兄さんは矢の扱いに慣れているんですかね」

 

「え?」

 

 お兄ちゃんのことを自慢するように説明したけど、ルビーは驚いたって言うより納得したって感じだった。

 

「ルビー、お兄ちゃんが弓を持ってるところを見たことないよね?」

 

「ないですよ。弓を持ったところは見ていませんが、昨晩あの魔女っ子を襲ったのは“矢”でした。なので逆から考えて弓を扱っているのだろうと。

 詳しくは判りませんが、あれがお兄さんの魔術なんでしょうね」

 

 リンさんの“魔術”は宝石魔術だって初めて会った夜に言っていたけど。

 お兄ちゃんの“魔術”は弓に関係するものなんだ。

 お兄ちゃんらしいな、と自然と口元が緩んだ。

 

 

 大会で弓を引き絞るお兄ちゃんの姿を思い浮かべて、見様見真似で弓を構える。

 右手に握った矢を弓に掛けて――――あれ?

 

「ねえ、ルビー……矢は?」

 

「ありませんよ」

 

「……はい?」

 

「だから、ありません。在るのは弓だけです」

 

 当たり前のことを教える口調でルビーは私に言ってきた。

 いや、弓と矢がセットになってないのってどういうこと?

 

「弓だけって……全然意味ないじゃん、これ!」

 

「残念ながらその通りなんですよねー」

 

 あははーって笑ってるけど、これって致命的な欠陥を抱えてるよね!?

 

「以前、凛さんもイリヤさんと全く同じ反応をしていましたよ。

 まぁ、あの時は黒鍵っていう投擲用の剣を矢の代わりにしていました。

 あ、ピアノの鍵盤とは全く関係ないですよ」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 黒鍵って聞いたらピアノの鍵盤が一般的だと思うけど……。

 

「お兄ちゃんから矢を借りてくればよかったかな?」

 

「あー、訊くだけ訊けばよかったですね。

 おっと、そろそろ――――」

 

 話している最中、黒い弓が光始めた。

 光が収まると黒い弓は元のステッキに戻っていた。

 

「あ、戻った」

 

「あとこんな感じに制限時間が有るんですよ。

 魔力指向反射平面の影響を受けない、という点ではイリヤさんのアイディアはいい線行ってると思いますが、初心者なイリヤさんにはどうなるものではないですね……」

 

「だよね……」

 

 がっくしと肩を落とす。

 アイディアでよくても実行が出来ないなら意味ないよね……。

 

「それにしてもさ……あの弓の持ち主ってどんな英雄なんだろうね?

 弓だけ持ってて、矢を持たない人っていないと思うけど」

 

「いえ、いますよ」

 

「えっ! ほんと!?」

 

「アーサー王伝説に登場するトリスタン卿の弓は実体のある矢ではなく、“音の矢”を飛ばすとも伝えられています」

 

「なら、あの弓は……そのトリスタン卿の弓なんじゃないの?」

 

「それは違うと思います。仮にトリスタン卿の弓ならば、音を鳴らす構造をしている筈です。

 しかし、あの弓は明らかに矢を射るものですから」

 

 疑問で頭の中がモヤモヤする……。

 英霊は過去に功績を立てて、人々から信仰された人が成るってルビーたちは説明してくれたけど、この黒い弓はあまり古い物には見えないだよね……。

 

 

 そんな悩んでいる私を見て、ルビーはここに来た本来の目的を声に出す。

 

「取り敢えず、今は飛行をマスターすることに専念しましょう。極力少ない魔力で飛びつつ、自在に攻撃を繰り出せるようにするのが目標です」

 

「そうだね」

 

 次の戦いでは空を飛べる私たちが中心になる。

 敵の攻撃を避ける為にも、注意を引き付ける為にも、飛行をマスターしないとね。

 

「頑張りましょう。美遊も今頃、特訓している筈ですよ」

 

「ミユさんか……どんな特訓してるんだろうね?」

 

「さあー。教えるのがルヴィアさんですから……」

 

 ルビーは何処か遠くを見詰めるように、しりすぼまった声を漏らした。

 ルヴィアさんか……リンさんとの争いを思い出すと――――ミユさん、大丈夫かな……。

 

 

 まさかこの嫌な予感が的中することになるとは――――――

 

 

 

 

 

 ルビーと飛行の特訓をしてそろそろ一時間かな?

 だいぶ自然と飛べるようになってきた。

 『ムサシ』が飛んでいる光景はずっと観てきて、人が飛ぶっていうイメージは私の頭に焼き付いていたから、あまり苦労した感じはしなかったかな。

 

 

 次は攻撃も含めて――――あれ、何か薄暗くなった?

 今日は晴れって天気予報は言っていたんだけど……。

 視線を上に上げて空の様子を見てみると――――

 

「何か……降って――――来たぁぁぁあーーーー!!」

 

 反射的に横へ飛ぶ。

 私が寸前まで居た場所を通り過ぎた“何か”は、鉄の塊がビルの屋上から地表まで落下したような轟音を響かせた。

 視線を下に向けると雑木林の平地にはクレーターが出来上がっていた。

 

「い、一体何……?」

 

 落ちて来た“何か”の正体を捉えようと、飛行高度を下げて地表へ向かって行く。

 その時、聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「全魔力を物理保護に転換しました。

 お怪我はありませんか、美遊様?」

 

「な、何とか……」

 

 ステッキを地面に立てて、自分を支えるようにゆっくりと立ったのはミユさんだった。

 

「ミ、ミユさん……なんで空から……?」

 

「……あ……飛んでる……」

 

「はい、ごく自然に飛んでいらっしゃいます。

 美遊様、やはりお願いしてみるしかないのでは?」

 

「…………」

 

 ミユさんは立ち上がって、じっと私を見上げてくる。

 私はこのままだと話をし難いと思って、ミユさんの近くに舞い降りた。

 

「あの……」

 

 ミユさん何かを言おうと口を開きかけたけど、とても言い出し難そうに再び口を閉じた。

 でも、何を言いたいのかは判っていた。

 ここは私から話し掛けよう。

 

「あの、よかったら一緒に練習しない? 空を飛べなくちゃ戦えないもんね。だから、一緒に。ね」

 

 私の提案を聞くと、ミユさんは戸惑いながらサファイアへ視線を向けた。

 

「美遊様」

 

 そこで一度会話が途切れた。

 ミユさんはまだ迷っているみたいだけど、一歩前に踏み出すように声を出す。

 

「教えて……欲しい。その……飛び方を……」

 

「うん!」

 

 ミユさんと話が出来たのが嬉しかった。

 公園の話の後から互いに何を話したらいいのか判らなかったけど、今やることは決まっている。

 

「じゃあ、まずは……えいって感じで!」

 

「え、えい?」

 

 早速空へ飛び上がって、並木の天辺辺りの高さで空中を漂う。

 ミユさんは私を真似して、飛び上がる動作を繰り返すけど、そのまますぐに着地しちゃってる。

 ……これだとただのジャンプだよね……。

 

「ルビー、どう教えたらいいのかな?」

 

「そうですね……。取り敢えず、今みたいな『えいっ!』や『とうっ!』などでは伝わり難いですかね」

 

「うぅ……」

 

 私、人に物事を教えるのって上手くないんだよね……。

 お兄ちゃんは同じ弓道部の人たちに解り安い例えで教えていたけど……。

 うーん。どうしよう……。

 

 

 頭を唸らせながらもう一度、ミユさんの近くまで舞い降りる。

 そうだ、ここに来る前はどんな風に練習してたのかな?

 

「そう言えばミユさん、さっき空から落ちてきたけど……。あれは飛ぶ練習に失敗したからだよね?」

 

「先程、落下してきたのはルヴィア様がヘリから美遊様を突き落としたからです。『獅子は千尋の谷に我が子を突き落とす』とか仰っていました」

 

「………………」

 

 間を開けないで答えたのはサファイア。

 声色はいつもと変わらないで冷静な雰囲気だったけど、言葉には呆れが混じってるように感じた。

 

「ところで――――昨晩、イリヤ様は『魔法少女は飛ぶもの』と仰いましたが、そう思ったイメージの元があるのでは?」

 

「イメージの元?」

 

「はい。それを美遊様にも伝えることが出来れば、飛べるようになるのではないかと」

 

 イメージの元かぁ……。

 サファイアの言う通り、教えるならちゃんとした見本を見せた方がいいよね。

 ちょっと恥ずかしいけど――――

 

「そうだね。じゃあ、私の家へ行こう」

 

 このまま飛ぶ練習よりあれを見せた方がいいかもしれないと思った私は、ミユさんを連れて家へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 で、イメージの元を見せる為にミユさんを連れて家に帰って来た。

 リビングにまで案内して、私のイメージの元を観せてるんだけど……ミユさんは呆然とテレビを見詰めている。

 

「イリヤスフィール……これは?」

 

「魔法少女マジカル☆ブシドームサシの第伍話。

 昔のテレビアニメで……私の魔法少女イメージの大本――――の、一つかな。

 あ、他にも色々あるよ」

 

 テレビとミユさんの間に在るテーブルには『ムサシ』以外にも魔法少女関連のDVDが多数置いて在る。

 色々なのを見て、少しでもヒントに役立つといいなって思って用意した。

 今ミユさんは私がその中から選んだ『ムサシ』を観ているけど、有り得ないモノを見て怯えているようだった。

 

「これは……航空力学はおろか、重力も慣性も作用反作用も無視した出鱈目な動き……」

 

「いやー。そこはアニメなんで堅く考えずに観て欲しいんだけど……」

 

「なるほど……。このアニメを全部観れば美遊様も飛べるようになるのでしょうか?」

 

「ううん、多分無理」

 

 テレビから視線を外して俯くミユさん。

 

「……これを観ても飛んでる原理が解らない。具体的なイメージに繋がらない。

 気球のような浮力を利用しているようには見えないから飛行機と同じ揚力を中心とした飛行法則下にあると考えるしか――――――」

 

 長い呪文を唱えるようにひたすら口を動かし続けるミユさん。

 加えて徐々に声が小さくてなっていってるし……壊れかけのラジオをみたいだよ!?

 それに、私の耳に難しい単語が雪崩のように頭に流れ込んで来る。

 わ、私も私でおかしくなりそうなその時、

 

 

「ルビーデコピン!」

 

 突然ルビーが飛び出して、ミユさんのおでこを自分の羽でバチーンと打った!

 打たれたミユさんは弾かれたボールみたいに跳ねてしりもちをつく。

 

「いっ、一体何を……?」

 

「全くもうー。美遊さんは基本性能こそ素晴らしいですが、そんなコチコチの頭では魔法少女は務まりませんよー?」

 

 ルビーはミユさんの方を向いたまま、羽だけを私に差し向ける。

 

「イリヤさんを見て下さい! 理屈や工程をすっ飛ばして結果だけをイメージする!

 それぐらい能天気な頭の方が魔法少女には向いているんです!」

 

「なんだが酷い言われようなんだけど!?」

 

「ですので……美遊さんにはこの言葉を贈りましょう」

 

 一間を開けてからルビーは大切なことを言う。

 そこにはいつもの陽気はなくて、とても真面目そうにしていた。

 

「『人が空想出来ることは全て起こり得る魔法事象』

 ――――わたしたちの創造主たる魔法使いの言葉です」

 

「……物理事象じゃなくて?」

 

「同じことです!」

 

「?」

 

 小さく首を傾けるミユさん。

 私はなんとなくルビーの言いたいことは解るんだけど、ミユさんはアニメとかをあまり観てないんだと思う。

 だから、空を飛ぶイメージを浮かべにくいし、アニメを深く考え過ぎてるんだ。

 ルビーの言葉をミユさんの解り安い言葉に変えるなら――――――

 

「まあ……つまり、あれだよ。

 Don't think!(考えるな!) Imagine!(空想しろ!)

 

「……………………」

 

 と、私なりに解り安くまとめてみた。

 でもミユさんの反応は『ものすごく納得いかない』って表情で眉を震わせていた。

 

「あまり参考にはならなかったけど、少しは糸口が見えた気がする。

 イリヤスフィール、手間を取らせてごめんなさい」

 

 ミユさんは床から腰を上げて立ち上がる。

 リビングを後にしようとドアまで移動すると、ふと何かを思い出したのか、振り向いてリビングを見渡す。

 

「どうしたの? あ、忘れ物?」

 

「忘れ物は無いけど……今は貴女一人なのかなって」

 

「あーお手伝いさんが二人居るけど、この時間だと買い物に行ってるんだ。

 お兄ちゃんは武家屋敷の方だと思う」

 

「……武家屋敷?」

 

 どんな建物か想像してるのかな。少し表情を強ばらせている。

 武家屋敷って珍しいよね。私も初めて見た時はこの家が小屋に思えるぐらい大きくてビックリしたよ。

 

「うん。お兄ちゃん、竹刀の練習とか向こうでやってるんだ。立派な道場もあるし、練習相手にはもってこいの人が近所に居るから」

 

「……そうなんだ」

 

 訊きたいことが済んだのか、手をドアノブに掛ける。

 

「また……今夜」

 

 ミユさんはリビングを出る前に小さく呟いた。

 今度は振り返ることなく、そのままドアを開けてリビングを出て行った。

 

 

 ドアが閉じるとリビングに残ってるのは私とルビーだけ。

 

「また夜……か」

 

「イリヤさん、なんだか嬉しそうですね」

 

「うん……。だって、『貴女は戦うな』って言われた昨日よりはだいぶ前進したかなって」

 

「そうですねー。あとはお二人の連携が取れれば文句無しですかねぇ……」

 

「そうだね……。まあ、それは今夜頑張れるといいかなって」

 

 今夜の戦いの中心は私とミユさん。

 私たちがしっかりしないと勝てるものも勝てない。

 

「リンさんたちは大丈夫なのかな?」

 

「凛さんとルヴィアさんは性格はあれですが、魔術師としては非常に優秀ですから。一応、時計塔の主席候補ですし」

 

「そうだ……二人って凄い優秀なんだっけ」

 

「はい。性格を除けば。

 お兄さんの方は未知数な点が多いですが、現状戦闘技術において不安な点はありません。

 ですが、勝利のカギはカレイド魔法少女であるイリヤさんたちにかかっています」

 

 リンさんとルヴィアさん――――お兄ちゃんならきっと大丈夫。

 ミユさんもミユさんで自分なりの考えを出して、戦えるようにしてくると思う。

 だから、私も自分のことに集中しよう。

 

 




イリヤが弓について詳しい過ぎでは? と思う方も居るかと思いますので少し捕捉説明を。
アニメ版ではアーチャーのクラスカードをインクルードした際、弓について語りがあまりありませんでしたが、小説版の方では細かく語っています。和弓と洋弓の違いを理解していたりですね。
その流れを汲んでクラスカードについて話を作りました。

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