欠けているモノを求めて   作:怠惰の化身

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冬はリアルが忙しく、更新遅くなってしまいます。ごめんなさい。

なんでウェイウェイ勢って、寒くなると固まって行動しだすの?
あいつらの対応に疲労が溜まってます。


一色イロハの動揺

先輩に連れ立って、特別棟の一階にある自動販売機に向かった。

一階も人通りは無く、閑散としている。

先輩はわたしの頼んだミルクティーとMAXコーヒーを買う。あのコーヒー、他の地域では事実上の継続商品として、まろやかミルクのカフェラッテと名を変えて販売されています。ソースはお父さん。

 

「ありがとうございます~」

 

わたしはミルクティーをひょいっと受け取ると、先輩は「じゃ、行くか」と言って歩き出す。すると入れ違いに2人の男子生徒がわたし達の方に歩いてきた。

1人は見覚えがある、同じクラスの男子だ。女子からはガリメガネと呼ばれている。

 

「秦野君、こんばんはー。お友達も、こんばんはー」

「あ、ど、ども……」

「ども……。さ、相模って言います……」

 

2人に笑顔で挨拶すると、秦野君は名前を覚えてもらえてたのが嬉しかったのか、顔を赤くして緊張したように答える。

お友達の相模君は、若干上擦った声で答えた。こちらは、さしずめ美白メガネといった感じかな?

 

「……知り合い?」

 

友達と聞かないあたりが先輩らしいです。

 

「秦野君は、同じクラスの子ですよ。ね、秦野君」

「は、はひ」

 

わたしが声をかけると、秦野君は過呼吸になるんじゃないかと思えるほど狼狽した。

うーん。前からこのタイプの人と会話する時はあったけど、ここまで動揺しなかったんだけどなぁ。

お友達の相模君も、わたしと視線合わせようとしないし……。

 

「大体の関係性はわかった……。悪いなお前ら、だけど勘違いはするんじゃないぞ?これで教室で挨拶でもしようものなら大変なことになるからな……」

 

わたしが2人の態度に首をかしげていると、先輩が遠い目をしてそんなことを言った。

 

「わかってますよ……」

「心得てますから……」

「そうか……」

 

何だろう、この一体感……。

 

「てか、比企谷先輩はどんな関係なんですか?雪ノ下先輩や由比ヶ浜先輩と同じ部活ってだけでも軽く殺意が湧きますが」

「先日のあの噂……。本当だとしたら、リア充の烙印を押しますよ」

 

2人はメガネを光らせて先輩に、わたしとの関係を聞いている。

先輩の知り合いだったのだろうか?と、そんな疑問を乗せた視線で先輩を見ると、先輩は驚いた顔をして、「え……。なんで俺のこと知ってんの?」と言って困惑した。

そんな先輩に2人は愕然とした顔をした後、深く息を吐いて答える。

 

「……遊戯部に来たじゃないですか」

「忘れたんですか……」

 

すると先輩は空を見上げて「遊戯部……遊戯王……カード……インセクター……メガネ……」と呟いた後に、2人に視線を戻す。

 

「ああ、台形メガネと丸メガネか。忘れたとかじゃ、まあ、……色々とアレがソレでな」

「思い出し方に不快感しかないですが、……まあいいです」

「その呼び方に悪意しか感じませんが、……まあいいです」

 

一応敬語だけど、声に先程までの緊張は見られない。

 

「先輩……。会話したことがないわたしですら覚えてましたよ……」

「会話したこと、あるんですけどね……」

 

そう言って、先輩を呆れたように見つめていると、秦野君が消え入りそうな声が聞こえた。ご、こめん……。

微妙な空気が流れ、静まりかえる。

どうしようかと悩んでいると、先輩はけぷこむけぷこむ、と謎の咳払いをして口を開く。

 

「こいつは俺を先輩としか呼ばん、名前を覚えているかも不明だ。まあなに?つまり、そんな関係だ」

 

なんて言い草でしょう!まるで赤の他人のような言い方じゃないですか!仮にもデートしたし、クリスマスは一緒に過ごしたじゃないですか!(暴論)

まあ、それは冗談として理由は分かります。自分と一緒にいるところを見られると、わたしが困るからとか考えているんでしょう。

先輩は他人にどう思われてもいいと思っているのに、他人がどう思われるのかを気にするところがありますからね。

……でも、名前を覚えてるか不明ってところは本当に思ってそうですが……。

 

「……なるほど」

 

秦野君は自分は名前覚えてくれてたからか少し嬉しそうに頷いている。先輩はそれで良いのかも知れませんが、わたしは納得しませんよ。

だからわたしは、先輩に笑顔を向けて言葉を付け足すことにした。

 

「そうですねー。あなた、おまえ、みたいな関係ですよね~、せーんぱい」

「何言ってんのおまえ!…あ」

 

なんですか~、あ・な・た。

先輩が盛大に自爆したのを確認したわたしは、先輩の服の袖口をクイクイ引っ張る。

 

「わたし生徒会に顔出さないといけないから、お話する時間あまり無いんですよ~。ささ、早く早く!」

「いや、ちょ、おま」

「秦野君と相模君、でわ~」

 

わたしはそのまま、先輩を引きずる様にこの場を去る。そんなわたし達のやり取りを、2人は唖然とした顔で見送っていた。

 

   ×   ×   ×

 

それから先輩は困惑した表情でわたしを見た後、案内でもするように少し前に進んでこの場所に座った。

購買の斜め後ろ、テニスコートが眺める場所だ。

……まさか先輩は、テニスをしてる戸塚先輩をここで眺めているのではないかとの疑惑を感じます。

 

「お前、あんなことしていいのかよ……」

「何がですか?」

 

先輩は手に持っていたミルクティーを横に置いて、そんなことを聞いてきた。

その質問にわたしはミルクティーを受け取ると先輩の横に座り、とぼけるように答える。

 

「俺と関わりがあると思われると、お前のイメージ悪くなるだろ」

 

思った通りの答えにため息が漏れる。

 

「気にしてもらったことは感謝しますけど、それを判断するのはわたしじゃないですか。先輩と関わりがある程度で悪くなるイメージなら必要ありませんよ、そんなの」

「自慢じゃないが、俺のイメージはその程度ではないぞ?」

「本当に自慢じゃないですね……」

 

何故誇らしげに言うんでしょうか、この人は……。

 

「とにかく!前に先輩に何かしてもらおうと思わない、と言ったんですから何もしなくていいですよ」

「いや、だけどな……」

 

先輩はそれでも食い下がるように言ってくる。

過保護ですね~。心配してくれることには嫌な気はしませんが、これは言っといた方がいいですね。

 

「わたし、先輩達との関わりを否定するなら、そんなものいりません。そりゃ怖いですけど、わたしの本物はそこにありませんからね」

 

わたしが力強くそう言うと、先輩はポカーンとした顔になる。

い、いや、わたしも言ってから少し恥ずかしいと思いましたけど、そんな顔されるともっと恥ずかしくなるじゃないてすか。何か言ってくださいよー!

 

「な、なんですか……」

 

沈黙に耐えかねて目を逸らしてしまう。

先輩の沈黙。助けてセガール!

 

「……いや、サンキューな」

 

お礼を言われた。

 

「なぜお礼を言われたのかよくわかりませんが、分かってくれたらそれでいいです……」

 

先日、結衣先輩と雪乃先輩と3人で話した時に言われたことがある。

 

『過ごした時間はあたし達のが長いけど、ヒッキーの考えてること知ったのはあの時が初めて。だから、あたし達もヒッキーが考えてることまだよくわかってないよ』

『そうね。でも、私なんて自分の気持ちすらよくわからないから、似たようなものだけれど』

 

でも2人には、このお礼の意味はわかるのでしょうね……。

 

会話が途切れてしまって、手持ちぶさたになったのでミルクティーを飲むことにした。

先輩を横目で見ると、同じくあの甘ったるいコーヒーを飲んでいた。

 

「それで、先輩が話したいことってなんなんですかー?」

 

お互い少ししんみりした雰囲気になってしまったので、話題を逸らす。

わたしと先輩の間に、こんな空気は似合わないと思う。

先輩も同じなのか「ああ」と普段の声に戻して答える。

 

「先ずは推奨の件、ありがとな」

「あー……、あれですか。気にしないでいいですよほんと、消去法で最後に残っただけですから」

「意外だな。お前のことだから、恩着せがましく何かを請求してくるもんだと思ってたが」

「先輩、ガチでわたしのことなんだと思ってるんですかね……」

 

こんな可愛い後輩に対して酷くないですかね……。

わたしが盛大にため息を吐いて応じていても、先輩は気にもせず続ける。

 

「サッカー部の先輩とか色々いただろう?……葉山とか」

「葉山先輩の成績だと推奨貰えるから必要ないですし、他の人は成績が微妙過ぎてアレです。戸部先輩とかがいい例」

「なるほど……。するってーと、由比ヶ浜もダメだな」

「ええ、無理でした。だからー、嫌々ながら先輩にしたんです」

「なんで嫌々なの?一色、マジで俺のことなんだと思ってるんですかね……」

 

今度は先輩が盛大なため息を吐くが、わたしは気にもせず続ける。

それにはちゃんとした理由があるんですよ?

 

「だって先輩、余裕ができたら学校休んで家でゴロゴロするだけじゃないですかー」

 

そしたら会える日が少なくなるじゃないですかー。

 

わたしの指摘は当たりだったらしく、先輩は言葉に詰まり顔をしかめる。

 

「ほらやっぱり」

「い、いや、ゴロゴロはしないぞ?先見の明を広げるために知識を蓄えたり、だな……」

「マンガ読んだり、アニメ見たりしながら自堕落な生活をする、と」

「くっ、由比ヶ浜なら誤魔化せたが……。……一色やるな」

「結衣先輩……」

 

きっと、「せん、けんのめい?よくわかんないけど、ヒッキーなんかすごい……」なんて目をキラキラしながら言ってる姿が容易に想像できてしまう……。

 

「で、聞きたいんだか、文化祭の俺の仕事とか調べたりしたんだよな。それってどの程度記録されてたりするんだ?」

 

わたしが結衣先輩の生き方に思いをはせていると、先輩が探るような視線で聞いてきた。

その妙な質問に、わたしは顎に指を立てて答える。

 

「結構明細に記録されてるものですよ?数値の変動でどのような変化があったりとか、そういった想像しやすいくらいには記録されてます。意外と見てて楽しいですよ」

「なるほどな。お前、数学得意そうだもんな」

「なんか悪意を感じるんですけど……」

 

わたしが疑いの目を向けると先輩は鼻で笑った。

コイツ……。うまいこと言った、みたいな顔が腹立ちますね。

 

「でだ。それって、俺も見ることが可能なものなのか知りたい」

「……次回の文化祭運営で参考にするための記録なので、特に規制はありませんけど」

「持ち出しも可能か?」

「パソコンに保存してあるんで、プリントアウトすれば問題ないと思いますが……。何でですか?」

 

わたしの返答に安堵したように息を吐く先輩が気になって聞いてみると、先輩は少し考えてから口を開いた。

 

「2年前の文化祭がどうだったかの確認。過去の記録もあるんだろ?」

「ええ。よくご存知で」

「こないだ手伝ったからな」

 

ああ、副会長の手伝いしてくれた時かー。確か入学式の資料もありましたね。

しかし、2年前の文化祭の記録ですか……。

 

「はるさん先輩が委員長した時ですよね。わたしも見ました」

「ほう……、またどうゆう風の吹き回しだ?」

「失礼な!……今年の文化祭はわたしが委員長になるじゃないですかー。だからどうせなら一番盛り上がる文化祭にしようと思いまして」

 

わたしの理由に先輩は「なるほど」と納得して小さく頷く。

前回の文化祭は色々問題があったせいで、わたしなら勝てる、と確信した。

その勢いではるさん先輩も越えちゃう?と思ったのですが……です、が…。

 

そんなことを思い出しながらチラッと先輩を見ると、目で見た感想を聞いてくるのでわたしは肩を落として答える。

 

「……あんなの無理です。だって生徒が、プロの写真家とか販売士の資格持った人とかのレクチャー受けてたりしてるんですよ?チートですよチート」

 

しかも明細な時間管理もされて、起こり得る事態の対処マニュアルなんかも用意されている。

そんなプロ仕様の文化祭相手に、しがない喫茶店の娘の知識じゃ太刀打ちできない。

 

「だろうな。大方、俺の予想通りだ」

 

先輩はコーヒーを飲み、ふーっと一息ついてそう答える。

そもそもなんで文化祭の委員長なんかしたんでしょうかね?

それに全力ですし。

わたしみたいにどうせなら精神でしょうか、いい迷惑ですよ。

 

「お話はそのことだったんですか。なら、副会長に用意させときますよ?」

「お前……。本牧が可哀想だから今から行く」

 

先輩は副会長の境遇を思い、哀愁のこもった表情で答える。

誤解ですよ!あの人は書記ちゃんと仲良くしたいがために、管理を率先して請け負ってるんです!

そう説明しても先輩は「……ああ、ああ」と言ってわたしの意見を聞き流す。

 

理不尽です!副会長が書記ちゃんから資料を受け取る時に、指先が触れた時のあの表情……。

しかし、わたしと副会長では人徳の差が歴然としてるので、何を言っても先輩の評価は変わらないでしょう。

悔しいです。

 

「まあいいです……。でも、奉仕部に行かなくていいんですか?」

「由比ヶ浜に伝えとく」

 

そう言うと先輩はスマホをポチポチといじり、結衣先輩へのメールを作っている。

わたしはその姿をツマミにミルクティーを飲む。

死んだ目で淡々と打つ先輩の姿が少し面白いです。

 

「ふふっ。なんか、公園のベンチにいるサラリーマンみたいですねー」

 

先輩はそのわたしの言葉にピクッと反応して、真剣な顔で見つめてきた。

 

「おいおい、そりゃ失礼ってもんだろ。あの人達は社会の歯車として日々社畜として働いているんだ。子供の頃に、ああはなりたくないと思っていた姿になってしまった自分と、家庭のために歯車から抜け出せない今の自分に向き合いながら暮らす日々なんだぞ。テレビをつければ、同年代の芸能人が華やかな舞台でアイドルとお喋りしている。それを眺めながら『ああなりたかっな……』なんて、生意気な自分のガキを横目にビールを飲んで呟いているんだよ。そんな辛い人生を歩んでいる人と、俺を一緒にするのは失礼だ。ああ、働きたくない」

 

……。

 

「まるで見てきたように話しますね……」

「俺の親父を見てきたかからな」

 

たまに先輩は反応に困ることを言います……。

 

「そ、それじゃ、行くか」

 

わたしの微妙な反応に先輩は焦ったように立ち上がりながら言ってくる。

結衣先輩ならなんとかしそうですもんね。ごめんね、わたしで……。

 

「そうですね……」

 

その声にわたしも立ち上がり、残ったミルクティーを飲み干した。

 

「ん」

 

すると先輩は、わたしの飲み干したミルクティーの缶を見ながら手を伸ばしてくる。

 

「あ、ありがとうございますー」

 

お互いどこかぎこちない所作は集中力を欠いていて、缶を先輩に渡そうとした際にお互いの指先が触れる。

 

「……あ」

「す、すまん……」

 

わたしは動揺して缶を手放し、視線をさ迷わせる。

先輩も動揺してか、焦ったようにカランカランと音を立て転がる缶を追いかけた。

 

副会長、なんかごめんなさい……。

 




次回は奉仕部です。
シリアスな展開になると思います。

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