欠けているモノを求めて   作:怠惰の化身

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俺ガイル12巻の発売と、その延期を最近知りました。
延期は悲しいですが、小説作りの苦労を多少知った今では応援したい気持ちが圧倒的に大きいです。



ほうしぶちほー

「一色のデートは利用するって意味なんだよ。世間一般のデートと同じ意味じゃない」

 

あれから八幡は藤沢から質問責めを受けていた。

他に何処に行ったのとか手を繋いだのとか聞かれたりしたが、うまくはぐらかしていた。

 

八幡も逆襲とばかり二人の関係を聞いたのだが、藤沢が友達と切って捨て、そんなことよりと好奇な顔で聞いてくる。

友達と断言された本牧のテンションはだださがりだ。

 

「そんなことないですよ。いろはちゃん比企谷先輩といる時、凄く楽しそうですし」

 

グッと拳を握りしめ、そう断言する藤沢。

 

「利用してんだ。そりゃ楽しいだろうよ」

 

しれっと答える八幡に藤沢は頬をぷくっと膨らませる。

 

「いろはちゃん、戸部先輩と一緒の時はあんな顔しないよ。比企谷先輩の時と全然違うもん!」

「想像してみろ。藤沢が戸部といたとして楽しくいられるか?」

「そ、それは……」

 

世の理だった。

言い返すことができず悔しそうにする藤沢を横目に完全論破した八幡はどや顔だ。

腹の探り合いで、純真無垢な一直線な攻めしかできない藤沢では八幡に勝てるレベルではなかった。

 

「会長は比企谷を利用してない。それは断言できる」

 

そんな八幡のネガティブ思考に攻めあぐねる藤沢を援護する本牧。

切り捨てられて凹んでるのに気丈に、何事も無かったかのように言葉を繋ぐ。

 

「会長は比企谷といるのが楽しいんだよ。少なくとも便利だとか利用してるとか、そんな打算的な考えで接してない」

「ほう。根拠はあるんだろうな本牧」

 

根拠の無い主張は妄言と同じだ。

しかし、本牧は自身の主張が妄言ではないと確信しているのだろう。

八幡の問に力強く頷き、「もちろんだ!」といい放つと、

 

「俺と比企谷では会長の対応が違う!」

 

一色に便利に使われている被害者の言葉、説得力は申し分ないものだった。

 

しかし、根拠としては弱い。

一色の計算で対応を変えてる可能性もあるし、受け取り側の感覚の違いでそう思ってるだけかも知れない。

だか八幡はそう言い返すことができなかった。

凹んでいるのに藤沢の力になりたいと気丈に振る舞い傷つく姿は尊い。

魔王がよろよろと立ち上がる勇者に追い討ちしない心境だ。

 

「そうですよ!私、副会長と一緒にいると想像したら楽しいですよ!」

「え!?」

 

言い返せない八幡に、ここぞとばかりに追い討ちをかける藤沢だっか、その言葉に反応したのは本牧だった。

 

藤沢は本牧に上擦った声で返されて自身の言葉を思い返して、そういった意味にしか捉えられない言葉に顔を赤くして「あ、あ、ち違うの!」と慌てている。

 

「そ、そう。ふ、ふ~ん」

 

完全に素で返した言葉に違うもクソもない。

本牧は先程の凹んだ気分は、きれいさっぱり霧散していた。

 

八幡が、そんなもじもじそわそわと落ち着かない2人を眺めていると生徒会室のドアが勢いよく開かれる。

 

「やっはろー!」

 

現れたのは由比ヶ浜だった。

 

「いや、お前。ノックぐらいしろよ……」

 

八幡のもっともな指摘に「えへへごめーん」と反省の色を見せない由比ヶ浜だが、室内を見渡して首を傾げる。

 

「あれ?お邪魔だっかな?」

「そ、そんなことないよ」

「はい。大丈夫です」

 

微妙な空気を読み取った由比ヶ浜に全力で否定する本牧と藤沢。

命短し恋せよ乙女が座右の銘の由比ヶ浜は、その反応に何かを感じて好奇な目を2人に向ける。

 

「もういいのか?」

「はぇ?あ、うん。おっけーだよ」

 

本来の目的を見失いそうな由比ヶ浜に声をかける八幡。

そんな八幡の声に由比ヶ浜はハッと我に帰る。

 

「じゃ、俺戻るわ」

 

そう言って八幡はバックを担いで席を立つと、由比ヶ浜も「じゃあね」本牧と藤沢に小さく手を振る。

 

「比企谷」

 

八幡が、生徒会室のドアを閉めようと手をかけたところで本牧が爽やかな笑顔で声をかけてくる。

 

「お前の手伝いは生徒会へのもので、俺個人は関係ない。だから、俺に手伝えることがあれば言ってくれよ」

 

副会長の立場と本牧個人の感謝は別だと言いたいのだろう。彼は心底真面目だった。

 

八幡は軽く頷いて笑顔の本牧と、すがるような藤沢の顔をチラッと見てドアを閉めた。

 

「リア充爆発しろ」

 

八幡はボソッとそう言って生徒会室を後にしたのだった。

 

 

★☆  ★☆

 

 

生徒会室を後にした八幡の向かう場所は奉仕部である。

八幡は授業が終わり奉仕部に向かおうとしたところ由比ヶ浜に止められた。

それは、奉仕部に居るであろう雪ノ下への配慮である。

 

雪ノ下は奉仕部のこと、自分の転校のことを言えなかったことに責任を感じているだろう、と。

あの悪魔のような姉が八幡と由比ヶ浜に伝えたことを雪ノ下に言わないわけがない。

そんな状態の雪ノ下に2人で向かうのは酷だろうから、由比ヶ浜が先に行って話をすることになった。

 

八幡は由比ヶ浜の配慮に感謝した。

由比ヶ浜の配慮は雪ノ下だけでなく八幡にも配慮された結果だったのだから。

 

八幡は雪ノ下と対等でいたいのだ。

あのまま雪ノ下と対面していた場合、八幡は弱々しく謝罪する雪ノ下を見ることになっていただろう。

そんな由比ヶ浜の優しさに感謝しつつ、肩を並べて歩くのだった。

 

寒さも落ち着き始め春の訪れを感じ始める季節。

放課後の特別棟は他の生徒の気配も無く、2人の足音だけが響く。

 

「雪ノ下はどんな感じだ?」

「多分、大丈夫じゃないかな。ヒッキーはいつものように接してあげて」

 

由比ヶ浜は簡単に言ってのけるが、八幡に同じことはできない。思い付きもしなかったのだから。

八幡に由比ヶ浜のような配慮はできなのは物事を見る視点が違うからだろう。

誰も信じることができず、今までずっと自分の中で問題を整理して自分の判断のみで問題を解決してきた。

損得勘定で実行される八幡の”やり方”は心が無く、そのせいで奉仕部が崩壊しそうになったのだから。

あの時、八幡の手を握ってくれたからこそ今がある。

そんな由比ヶ浜だから信用できるのだろう。

 

「あいつ出会った頃、俺に言ったことがあるんだよ」

「ゆきのんが?」

 

少し歩いたところで八幡は立ち止まって話し出し、由比ヶ浜も振り返る。

 

「ああ。世界を変えたい、ってな」

「世界……」

 

由比ヶ浜は驚きと困惑が入り交じった顔だ。

無理もない。

話の流れから雪ノ下の問題と世界の変革がリンクしてます、と言ってるようなものだ。

無論、雪ノ下は異世界チート系の訳ありヒロインではない。

 

「雪ノ下は子供の頃から優秀な姉、絶対の母の意見に逆らえず、常に自分の意見は通らなかった。姉や母の言われた通りに行動してるうちに自分がわからなくなったんだろう」

「う、うん……」

 

困惑しながら、そう返す由比ヶ浜。

由比ヶ浜が頭の中でどんな想像をしてるのか窺い知れないが、八幡はチート能力に目覚めたわけでもビーターでもない。

 

「つまり、雪ノ下の世界は雪ノ下家の中で完結してるんだ。……だから、雪ノ下は雪ノ下家を変えたいんだよ」

「あー!なるほど!……てこと、は」

 

八幡は頷いて由比ヶ浜の想像を肯定する。

絶対の母が全ての元凶であり、変えるための扉。それを開く鍵は、

 

「わからん」

 

答えはわからない。

もしかしたら世界変革より難しいのかも知れないと八幡は思ったりする。

 

「でもヒッキーと出会ってからゆきのん変わった。色々あったけど、きっと今のゆきのんなら変えられると思う」

「だろうな、雪ノ下はやられっぱなしを許すとは思えん」

 

確かにそうかも、と笑いながら由比ヶ浜は歩き出し、釣られるように八幡も続く。

 

「俺も変わった、お前のおかげでな」

 

小さくつぶやいて由比ヶ浜に小走りで追い付き奉仕部に向かうのだった。

 

☆★  ☆★

 

「おまたせ、ゆきのん」

「うっす」

 

奉仕部のドアを開けてるといつものように雪ノ下は読んでいた本を閉じ二人に視線を向ける。

 

「特に誰も来なかったから問題ないわ。……生徒会は大丈夫?」

 

由比ヶ浜に微妙にズレてる返事をした後、八幡に少し声のトーンを落として聞いてくる。

気丈に振る舞っているのだろうが、普段なら嫌味の一つでも言うところだ。

やはり内心は不安なのだろう。それは、いつもの瞳の強さが無いことから一目瞭然だった。

 

「まあ、なんとかな。副会長の手伝いつっても実質は一色の仕事だ、バカでもできる」

「そう……」

 

簡単に返事を済ませた雪ノ下は置いた本に手を伸ばして取ろうとするが、やっぱり止めて膝の上に戻してにぎにぎと動かしている。明らかに挙動不審だ。

 

重症だ。

平常心を保とうとして緊張して平常心を失い、そのことを自覚して緊張して平常心を失うといった無限ループに陥っているのだろう。

 

そんな状態を由比ヶ浜も察知して雪ノ下に声をかける。

 

「ゆきのん、そこは。あら、由比ヶ浜さんには無理そうね、って言うとこだよー……。酷いよゆきのん!」

「え!?わ、私は何も……」

 

雪ノ下は謂われ無い非難に動揺する。

 

「いや、雪ノ下が正しい。そこは、はっきりさせないと一色が登校拒否になってしまうだろう」

 

八幡は由比ヶ浜に何か作戦があるのだろうと思い、話に乗ってみた。

 

「そこまで!?」

 

しかし、八幡の言葉に振り返った由比ヶ浜の顔は本気でショックを受けてるようだった。

 

「じゃあ質問だ。生徒会の元になった組織の名称はなんだ?」

「え!?」

 

だが八幡は止まれない、性格的に。

由比ヶ浜は「いろはちゃん知ってるの?」と疑って聞いてくるので、八幡は頷いて返した。

 

「…………なかよしクラブ……とか、みたいな……」

 

由比ヶ浜はそう答えて八幡の様子をチラチラとうかがう。

とか、みたいな、みたいな曖昧な言葉を付け加えることで、多少の違いを範囲に入れようとする由比ヶ浜だが、

 

「正解は生徒自治会だ。一色は即答だったぞ」

 

八幡の答えにかすりもしないのであった。

 

由比ヶ浜は年下の似たようなキャラに負けたのがショックだったのか、ふえぇんと机に突っ伏す。

そして、八幡は「現実とは残酷なものだ……」と勝ち誇る。

 

「比企谷君」

 

いつの間にか由比ヶ浜をからかうことに満足していた八幡に雪ノ下から冷たい声が発せられる。

 

「不正解、発祥は校友会よ。戦時中は学校報国会と呼ばれ、戦後にGHQによって解体された後に生徒自治会が作られたのよ」

 

雪ノ下は先ほどまでの弱さは消え去り、友を魔の手から救うためにユキペディアを発動させた。

 

「ゆきのーん」

 

由比ヶ浜はその頼もしい胸に飛び付くき、雪ノ下は一瞬躊躇った後頭を撫でて慰めてあげるのだった。

 

「大丈夫、一般的な知識じゃないわ。きっと一色さんは生徒会の資料に書いてあったのを見付けたのよ」

 

雪ノ下は慈愛に満ちた目で撫でながら、

 

「彼も同じ資料を見付けて、深く考えずに浅い知識をひけらかしたのよ」

 

「まるで道化ね」と付け足して八幡に顔を向け、鼻で笑う雪ノ下。

 

「ぐっ……」

 

図星だった。

八幡は羞恥に顔を反らし、お茶を注ぐために席を立つ。

そしてトボトボと歩く八幡に、「私達のもお願いね、道化谷君」と言ってきた。

雪ノ下は調子を取り戻したようだ。

 

ポットから急須にお湯を注ぎながら外を見ると夕暮れの景色が広がっていた。

あの時と同じ景色を眺めていると、無様に涙声で伝えた言葉を思い出す。

一生忘れないだろう思い出、文字通り人生を変えた日。

急須から三人分のカップにお茶を注ぎながら室内を見ると、雪ノ下と由比ヶ浜が百合百合している。

 

もうじき、この景色は見れなくなるのだろう。

桜の花が咲く頃、奉仕部はなくなり、雪ノ下は転校する。

 

しかし、その未来は八幡が何もできなかった場合だ。

依存から抜け出すのに必要なのは確固たる実績。

雪ノ下にしか解決できない問題を解決できれば雪ノ下は変われる。

 

その問題を八幡が見つけることが出来れば未来は変わる。

八幡は、一生忘れない思い出を幸せなものにしたいと切に願う。

そのために世界を変える、欠けているモノを求めて

 




最終回じゃないぞよ
もうちっとだけ続くんじゃ


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