ブラックワンサマー   作:のんびり日和

34 / 40
27話

 千冬そして箒が学園を去ってしばらく経ち、IS学園では千冬がいなくなって悲しむ生徒や教師の人数が日に日に減っていった。

 その訳が第2回モンドグロッソ後に売国者の汚名を着せられ自殺した秘書の遺族が、ネット上にモンドグロッソで起きた誘拐事件とそしてそれを隠そうとした政府の対応を赤裸々に公表したのだ。勿論、自殺した女性秘書が千冬に弟が誘拐された真実を伝えたのにそれを嘘だと言って追い出したことも書かれていたのだ。

政府は躍起になって消そうとしたが一度広まった情報は消すことはできず、次第に翻訳されて世界中の国でこの情報が広まったそうだ。

 そしてこれを見た生徒や教師の多くが自分たちが信頼していた教師が家族より名誉を優先したと知り、手のひらを返すように信頼から軽蔑へと変わっていったのだ。それでも千冬がそんな事をするわけがないと信じている生徒や教師は僅かにいたが何時手のひらを返されても可笑しくはなかった。

 

そんなある日、一夏は屋上でスマホを取り出して何処かに電話を掛けていた。数秒ほどコール音がしたのち電話に誰かが出る。

 

「もしもし、久しぶりエダ姉。元気にしてた?」

 

『そりゃ元気にしてたに決まってるだろ~、それで一夏今日はどうしたんだ? もしかしてエダお姉ちゃんの声が聴きたくて電話してきたのかい?』

 

一夏が掛けた相手は暴力教会のシスターでCIAアジア担当のエダこと、イディス・ブラックウォーターだった。

 

「ははは。ごめん、実はちょっとお願いがあって今日は電話したんだ。」

 

一夏は若干に苦笑い気味で対応する。

 

『お願い? まぁあたいが叶えられる範囲だったら何でもいいぜ。あ、エダ姉欲しいって言うんだったら今すぐにでも会いに行ってやるよ。』

 

エダが冗談交じりでそう言うと一夏は苦笑いになる。

 

「それはいいかな。で、お願いって言うのがさエダ姉の本業の方で頼みたいことなんだ。」

 

一夏がそう言うとさっきまでのチャラチャラした感じでは無く、冷徹な感じで返事が返ってくる。

 

『本業ね。で、そのお願いって言うのはアメリカの利益になるのかい?』

 

一夏はその質問が来るのを予期していたと言わんばかりに口角をあげる。

 

「もちろん。うまくいけばアメリカの先駆けでこの世界は大きく変わるよ。」

 

『ほぉ~う。それじゃあ言ってみな。そのお願いっていう奴を。』

 

「うん、お願いって言うのはね―――」

 

一夏はそこで一度言葉を区切り一呼吸入れる。

 

「アメリカに置かれている女性権利団体の本部を潰してほしいんだ。」

 

一夏の頼みにエダは若干驚きつつもその理由を聞く。

 

『そりゃまた無茶なお願いだね。で、そんなお願いをする理由を聞いてもいいかい?』

 

そう言われ一夏はムネアキとマドカから聞いた話をエダに伝える。千冬が実の両親を殺そうとし、自分を誘拐したこと。それに女性権利団体の創設者が関与していること。それらを聞いたエダは怒りが沸き起こったのか声に若干怒りが籠っていた。

 

『なるほどね。そう言う事だったらウチのボスに伝えてやるよ。それで潰すにはそれなりの情報がいる。そのネタはあるのかい?』

 

そう言われ一夏は空間ディスプレイを起動し、あるデータを暗号メールで送信する。

 

「エダ姉、今パソコンに送ったメール見てくれる?」

 

するとカチャカチャと聞こえパソコンを弄っている音が聞こえる。

 

『こいつは?』

 

エダは一夏に言われた通りにメールを開いたのか中に入っていたデータについて聞く。

 

「女性権利団体が今まで行った不正や違法研究とかを集めた奴だよ。因みに集めたのは束さんと俺の父親。」

 

そう言われエダはその内容をよく見る。内容は女性権利団体が今まで犯罪行為を行ってきた内容とかそれを握りつぶしたこと。違法研究所を女尊男卑に染まった国に建て、児童を使った非人道的な研究などを行っていることが書かれていた。さらに各国の女性権利団体に所属している政府の役人の名簿なども入っていた。

 

『こいつはすごいな。よくこれだけの情報が集まったな。束がやったと言うのはわかるがお前の父親もかなり凄いな。』

 

そう言われ一夏は誇らしげな顔で自分の父親の正体を伝える。

 

「実は俺の父親、MI6の長官なんだよ。あ、これは誰にも言わないでよ。」

 

『はぁ?! MI6の長官が一夏の父親!? どんだけすごい血筋なんだ。』

 

エダは一夏の父親がMI6の長官だということに驚き、一夏は超人を生み出す家系の子なんだと改めて思い知らされた。

 

『まぁ、そのことはまた今度話そう。で、これだけの情報を渡すんだ、見返りは何だい。』

 

「ある組織を潰したいからそれの手伝い。」

 

エダは一夏が言ったある組織という単語にどの組織かすぐに分かった。

 

『そのある組織って亡国機業って言う奴じゃないのか?』

 

そう聞かれ一夏は組織の名を言ってないのになぜエダが知っているのか驚く。学園内で知っているのは自分とオータムを尋問したシルヴィア、束、楯無。そしてその報告を聞いた学園長。そして潜入調査をしていたマドカとそれを指示した父、ムネアキのみだからだ。

 

「どうして知ってるの?」

 

一夏の問いにエダはやっぱりかと呟く。

 

『IS学園で襲撃事件が起きたって張の奴が学園長から聞いたらしくてな。そしたら今度はどこの組織がやったのかをバラライカが調べて持ってきたらしい。それでホテルモスクワ、さらに三合会が緊急招集を行って亡国機業にどうやって報復するか今会議が行われているんだよ。しかも此処ロアナプラでな。』

 

それを聞いた一夏は口が引きつり今ロアナプラはかなりやばい状態だと確信した。

 

「ち、因みに俺が襲われたって張兄さん達は知ってるの?」

 

『・・・あぁ。お前が襲われたことを聞いた張にバラライカ、それとレヴィの奴がブチ切れて今すぐ一夏を襲った奴を八つ裂きにしてやるって日本に行きそうだったぞ。』

 

そう言われ一夏は冷汗が止まらなかった。もしあの3人が日本に来たら人目を憚らず襲撃してきたオータムを確実に血祭りにあげると思ったからだ。

 

「え、えっとそれで力は貸してもらえるのかな?」

 

『ソイツは問題ないだろ。これだけのネタを出すんだ。大統領だってそれくらい力は貸すだろ。まぁ後はこのエダお姉ちゃんに任しときな。じゃあな。』

 

そう言って電話を切られ一夏は空を見上げる。するとベアトリクスが話しかけてきた。

 

[ところでマスター、もうすぐ修学旅行よね?]

 

「うん? そう言えばシルヴィア先生がそんな事言ってたな。けどやって大丈夫なのか?」

 

一夏が疑問に持つのは当たり前だ。テロみたいなことが起き、今後また同じようなことが起きたら生徒たちの安全の為に学園内にいた方が教師たちも守りやすいからだ。

 

[確かに学園にいた方が安全ですが、学園内に閉じ込められて溜まりに溜まった息を吐かせないと今後テロなんかが起きた時に対処しにくくなるからでしょう。]

 

アイリスディーナがそう説明し一夏も確かにそうだがと思うがそれでもやはり心配だなと思わずにはいられなかった。未だどこに修学旅行に行くかは決まっていないが、一夏的には何も起こらず無事に修学旅行が済むことを祈るしかできなかった。




次回予告
一夏から送られてきたデータを持ってエダは一度アメリカへと戻る。そして自分のボスと会いデータを渡し、一夏の要求を伝える。そして遂にこの世界に蔓延る風潮の根源が潰されるときが来た。

次回権力の崩壊・後編~漸く世界が動き始めたね、いっくん。~

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。