ブラックワンサマー   作:のんびり日和

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26話

学園祭襲撃事件から翌日、一夏と鈴、クロエは自分たちのクラスに入るとクラスの雰囲気は暗く多くの生徒はショックを受けている状況だった。そんな3人にティナは必死に笑顔を作って挨拶をしてくる。

 

「あ、3人ともおはよう・・・。」

 

「あぁ、おはよう。」

 

一夏はティナの顔色が悪いことは瞬時に見抜く。

 

「大丈夫ティナ? 気分が悪いんだったら保健室行った方がいいわよ?」

 

鈴は心配そうにティナに聞くとティナは首を横に振って元気そうに振舞う。

 

「大丈夫、大丈夫。ちょっと昨日の疲れが残ってるだけだから。暫くしたらまたいつもの元気になるから。」

 

そう言ってティナは席に戻って行く。一夏達はそんな姿が痛々しくて見ていられなかった。

 

「絶対に大丈夫じゃないよな?」

 

「うん。ただ普通に学校に通っているはずなのにこんな事件に巻き込まれれば暗くなるわよね。」

 

「はい。ティナさんは必死に元気に振舞っていますが結構無理されていると思われます。」

 

そう喋っているとチャイムが鳴り、席を離れていた生徒たちは席へと戻り一夏達も席に着く。そして教室の前の扉が開きシルヴィアと束が入って来て挨拶を交わす。

 

「皆さんおはようございます。・・・元気そうとは言えなさそうですね。」

 

「そりゃああんな事件があったらみんなショック受けちゃうのは仕方ないよ。」

 

生徒が暗い事にシルヴィアは少し落ち込みながらも気持ちを引き締めSHRを始める。

 

「えっと、実は今日から特別入学で入ってきた生徒をこのクラスで受け持つことになったからみんな仲良くしてあげてね。では入ってきてください。」

 

そう言ってシルヴィアは廊下に向かって呼ぶと扉が開き1人の少女が入ってくる。一夏と鈴、クロエは知っていたから驚くことはなかったが生徒の多くは珍しいなと思いその生徒に注目していると、生徒が教壇のところまで行き体を生徒たちの方へと向け自己紹介をする。

 

「マドカ・タチバナと言います。本来であれば私は中学生なのですが特別入学ということでこちらでお世話になります。どうか皆さんよろしくお願いします。」

 

そう言ってマドカはお辞儀をする。クラスの生徒は拍手をして出迎える。

 

「あ、それと天ノ川一夏と私は兄妹です。」

 

ついでと言わんばかりにマドカがそう言うとクラスはその一言に驚愕した。

 

「え!天ノ川君に妹がいたの?!」

 

「うそ!なんで今まで教えてくれなかったの?」

 

一夏は多くの生徒からの質問攻めに遭いながらも訳を言う。

 

「いや、俺も妹がいるって知ったのはつい最近なんだ。だから俺も知った時は驚いたんだ。」

 

そう言うとクラスメイト達は納得していく。

 

「それじゃあタチバナさんの席は、ティナさんの隣が空いているからそこに座って。」

 

「分かりました。」

 

そして席に着いたマドカを確認したシルヴィアは今後の学園の方針を説明し始める。

 

「昨日の事件を踏まえて学園は来月行われるキャノンボール・ファストは中止されることになったわ。それ以降の行事は目下検討中よ。」

 

「「「えぇ~。」」」

 

シルヴィアが説明するとみんな残念がる声をあげる。キャノンボール・ファストとはISを使用して都市に設置されたレース場で行われる妨害ありのレースのことである。多くの生徒たちもこれの参加は待ち遠しかったのだ。

 

「みんなが残念がることは分かってたわ。けど、あんな事件が起きたからには下手に大きな行事は出来ないのよ。警備の隙を突かれてまた事件が起きたら今度こそ死傷者が出るかもしれないからなの。そこのところを分かってほしい。」

 

そう言われ生徒たちは仕方ないと言った雰囲気で頷く。そして今日の授業は午前授業のみとされ午後からは自由時間とされた。

 

~昼休み~

一夏、鈴、マドカ、クロエが食堂でご飯を食べているとマドカが一夏にチラチラと見てきたため一夏が訳を聞く。

 

「何か用かマドカ?言いたいことがあるならちゃんと言えよ。」

 

マドカは最初どう頼もうか悩んでいたが自分の兄だから甘えてもいいと考え、お願いを言う。

 

「う、うん。それじゃあさお兄ちゃん。今日一緒に買い物について来てくれない?」

 

「買い物にか?別にそれだったらいいぞ。けど学園から出てもいいのか?」

 

一夏がそう疑問に思い口にするとマドカは今学園は特別警戒態勢に入っていることを思い出し、買い物は無理だと諦めかけたが鈴が妙案を考え出す。

 

「それだったら束お姉ちゃんに頼めばいいじゃない。」

 

「束さんに?なんでまた?」

 

「教員が一人ついて外出するなら問題ないんじゃないの?」

 

鈴がそう言うと一夏とクロエはなるほどと納得し、マドカはその手があったかと思い急いでご飯を食べ束の元へと向かった。そしてマドカが食堂を出て行ってから暫くして束と共に戻ってきた為、一夏達は許可が下りたんだろうなと思った。

 

「いっくん、マドカちゃんがいっくんと買い物に行きたいから私と同行してほしいって言われたんだけど良い?」

 

「勿論いいですよ。この状況じゃなければ本当はみんなと行きたいんだけどな。」

 

そう一夏が残念そうに言うと鈴が苦笑いで返す。

 

「仕方ないわよ。どっかのテロリストが一夏を襲ってきたんだから。それより早くご飯食べてマドカちゃんと束お姉ちゃんと買い物に行って来たら?」

 

そう言われ一夏は仕方ないと思いながら残りのご飯をかき込む。

 

~学園前のモノレール駅~

一夏は制服だと犯罪に巻き込まれる可能性があると思い私服で駅で待っていると束とマドカが手を振りながらこちらに駆け寄ってくることに気づき手を振り返す。

 

「ごめんねお兄ちゃん。束さんが着替えるのに手間取ってちゃってさ。」

 

「いや~、久しぶりにアリス服以外を着るからさ、どれ着ようか迷っちゃた。」

 

「前にも同じような事ありましたよね?」

 

一夏は笑いながら束たちと買い物に出発する。

 

一方、寮にある学年主任用の部屋から大きめボストンバックを担いで出てきた千冬は部屋にカギをし、寮から出て行く。その途中で箒と鉢合う。箒は千冬が大きめなボストンバックを担いでいることに驚きその訳を聞く。

 

「ど、どうしたんですか千冬さんその荷物?」

 

「・・・なに、色々してきた代償が来ただけだ。」

 

千冬は悲観にそう言い、箒と共にモノレール駅へと歩き出す。モノレール駅に着くと初老の男性と女性が立っていることに気づいた箒はその人物が何者か気づく。

 

「お、お父さん?それにお母さんまで、どうして此処に?」

 

「なに、学園からお宅の娘さんを退学とするから迎えに来てほしいと言われてな。それで母さんと共に迎えに来たんだ。」

 

龍韻はそう言いながら箒が持っている荷物を受け取り一緒に帰ろうとする。

 

「申し訳ありません、龍韻さん。お宅の娘さんだけでも学園に残せるように努力はしたんですが。」

 

そう言って千冬は頭を下げる。それを見た龍韻は慌てて顔をあげるように肩に手を置く。

 

「いや、君はよくやってくれたよ。この子が退学になった理由は私の子育ての仕方が間違っていたんだ。これは親の責任だ。」

 

そう言われ千冬は申し訳なさ一杯の顔をして篠ノ之家と一緒にモノレールへと乗る。モノレールが出発してから数十分後、終着駅のデパート前に着きモノレールから降り駅の改札を出たところで前方から3人組の男女がやって来た。

 

「束さん、あれ。」

 

「うん? うげぇ会いたくない奴らと会っちゃったよ。」

 

その男女は一夏達で、一夏達も箒たちに気づいたのか一瞬嫌な顔してからその横を無視して通り過ぎようとすると、千冬が一夏達に向かって土下座をした。龍韻たちが驚いている中一夏達はただ黙ってその行動を見ていた。

 

「済まなかった! お前の事を蔑ろにしてしまい本当に済まなかった! だ、だから許してくれないか?」

 

千冬は土下座をしながら謝罪をし、許してもらおうとしたが一夏は呆れた目線を千冬に向けながら話し出す。

 

「許してくれ? お前は何を言っているんだ?」

 

「え?」

 

一夏の言葉に千冬は理解できずに思わず顔をあげ一夏の顔を見ると、その顔は軽蔑と憎しみの篭った顔だった。

 

「お前は俺を両親から取り上げて自分だけの人形にしようとした上に、実の両親まで殺そうとした。そんな奴を許せって? ・・・ふざけるな!」

 

「ひっ!?」

 

一夏に急に怒鳴られたことに千冬は小さく悲鳴を上げ、そしてどうして自分が両親を殺そうとしたことを知っているのか驚いた。

 

「どうして知っているっていう顔だな。そんなの隣にいる俺の妹、そして父さんから昨日すべて教えてもらったからだ。」

 

そう言われ千冬は隣にいた人物が自分の妹だと知り驚く。そんなマドカも千冬に対して軽蔑を込めた目線で見下す。

 

「全部お兄ちゃんに話してやったよ。お前がお父さんやお母さんにしたツケを払わせるためにね。」

 

千冬は一夏に全て知られたと分かりその場で動けずにいると一夏が見下しながら言う。

 

「本当だったらお前を殺してやりたいところだが、俺は無闇に人は殺さない主義だ。だからお前は俺からじゃなく世間から社会的に殺されればいい。」

 

 

そう言って一夏はマドカと束に帰ろうと促し、学園へと通じるモノレールへと向かう。

 千冬は腕を伸ばして一夏を掴みたいと思ったがその腕を避けるかのように一夏はどんどん遠くへと行き遂には見えなくなった。

 千冬はもう後戻りは出来ないことは承知だった。だが一夏がいればそれだけでも良かった。だがそんな一夏はもう自分の所には戻ってこない。そう改めて実感させられその場で大声をあげながら涙した。




次回予告
キャノンボール・ファストが無くなり通常授業が行われている中、一夏はエダに電話をする。内容はアメリカで蔓延っている女性権利団体というガンを駆除する情報を渡すからこちらの要求を聞いてもらえるように頼めないかというものだった。
次回権力の崩壊・前編~な~に、このエダお姉ちゃんに任せときな。~

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