【完結】東方袖引記 目指せコミュ障脱却!   作:月見肉団子

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いよいよもって、一区切りでございます。
お待たせ致しました。


終話 夕焼け迎えるその店は

 何とかなるなんて、本当は思ってなかった。けれど、どうにかしたくて、どうにかなれと願っていた。

 

 でも、叶わない事も知っていたんだ。

 

 それでも、手を伸ばしたこと自体は、きっと無駄じゃなかったと思いたいから。

 

 

 スペルカードを放った時、彼女が手を止めたように見えた。

 

 マスタースパークをおとりに使った作戦。いきなり強くなった彼女に、追いつく事がやっとで勝算は正直薄かった。

 けれど、半ば賭けになる事を知っていながらも実行したんだ。このスペルカードで決めるしかないと、心の私が叫んでいたから。

 

 戦いとなった場所には、思い出が詰まっている。

 魔法使いを目指した私の背中を押してくれた事。それを今でも覚えているから。

 その時の星空をイメージしたものだから、誰よりも見て欲しかった。

 

 

 スターダストレヴァリエが綺麗に決まった瞬間、墜落していく小さな身体を追いかけた。

 

「袖ちゃん!!」

 

 慌てて追いついては、草むらに落ちた彼女を抱き起す。

 自慢もいち早くしたかったから。だから、彼女に触った時ゾッとした。

 

「どうだった? 私のスペルカード。ここの思い出が元になってるんだぜ」

「覚えてくれてましたか……懐かしいですね」

「……忘れるわけないぜ」

 

 視線を合わせた先の彼女の身体は既に透けていた。信じられない、信じたくない光景に思わず目を逸らしてしまう。

 そんな仕草を見られたか、優しい声が届いた。

 

「これから……辛いところを見せちゃうかもしれませんね」

 

 袖ちゃんは穏やかに笑って、身体を横たえたままに空を見る。

 そんな彼女に膝を貸して、膝枕の要領で一緒に座り込んだ。

 

「まったく、何言ってるんだか。これから私主役の宴会の準備しないとならないんだぜ?」

 

 軽くて儚い。嫌でもそう感じる。

 透き通った彼女の髪を撫でてみる。確かに感触はあるのに、どこか遠い。

 

「えぇ、きっと賑やかな宴会になります」

「もちろん袖ちゃんも参加するんだぞ」

「そうですね、参加出来たら……楽しかったかもしれません」

 

 全てを受け入れた声がする。やめてくれ。と声が漏れそうになってしまう。

 何か出来るはずと思っていても、思考がパンクして手の平からすり抜ける。

 

「魔理沙さん、星が綺麗ですよ」

「……あぁ、そうだな」

「あの時、みたいですね」

 

 刻々と時間は流れる。時間は誰にだって平等な筈なのに残酷だ。

 それでも私は足掻こうとする。何も持っていないのに、ただ笑って袖ちゃんへと手を伸ばす。

 

「袖ちゃんはさ、困った事とかないか?」

「そうですね、消えるのは……今は、少し怖いです」

 

 震える手が目の前にあるから、私は祈るように手を伸ばす。

 

「実はこの時の為に、凄い魔法を開発したんだぜ?」

「そうなんですか、また嘘だったりしませんよね」

「あぁ、嘘なもんか、約束する」

「凄い魔法使いさんですもんね。期待してます」

 

 目を閉じる袖ちゃんを見て、ぐっ、と奥歯を嚙みしめる。油断してると零れてしまいそうで。

 泣くのは全部終わった後だと決めているのに、破ってしまいそうで。

 

「なんと、手を握ってくれれば、全部がハッピーエンドだ」

「それは……素敵なことですね」

「だからさ、いいだろ? 信じても」

 

 そっと、手を伸ばす。何度も何度も払いのけられた手だけど、それでも諦めなかった。諦めきれなかったから。

 そうですね、と、袖ちゃんはゆっくりと頷く。

 

「魔理沙さん……手を」

 

 儚くて弱弱しいけれど、彼女の意思で伸ばした手が、私の手に触れる。

 

──ずっと掴みたかった手が、ようやく届いた。

 

「全く、決めるのが遅いぜ」

「このままずっと……」

 

 感触はあと僅か、消えるように伸ばされた手をしっかりと掴む。

 儚くて小さな手を無くさないように。

 

「ありがとう……ございます。魔理沙さん」

 

 笑う彼女を優しく撫でる。

 

「ほんとは、ずっとこうしたかったです。ずっと……みんなと一緒ににいたかったから」

「まったく、わがままなんだぜ」

「えぇ、本当に私はわがままで……でも、幸せでした」

 

 

 ──大好きですよ、魔理沙さん。

 

 

 その言葉を最後に、ふっ、と感覚が軽くなる。掴んでいた手がするりと抜けて落ちた。

 

「まったく……遅すぎるん、だよぉ……」

 

 言葉を出す度に、ぼろぼろと、大粒の涙が膝に零れていく。ぬぐってもぬぐっても止まる気がしなくて。点々とついていく涙の痕。

 何処を探しても、彼女はもういない。さっきまでそこにあった暖かさだけが、袖ちゃんが此処にいた事を伝えていた。

 

「いやだ……いやだよぉ……」

 

 落ちる涙は止まらず。涙の筋を月明かりが照らす。

 

「もっと一緒にいたかった……もっと遊んでいたかったっ!! もっと……もっと……」

 

 狭い部屋で騒いだこと、無茶をして怒られたこと。一緒に狭い布団で寝た事。色んな思い出が蘇る。たくさん遊んだ、たくさん笑った。色んな事を二人でやった。

 

「帰って……きてよぉ……」

 

 嗚咽を漏らしながら声を絞り出す。その声は本人には届かず、星空だけが悲しそうに聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 一連の異変が終わって幻想郷に桜が満開になる頃。博麗神社で宴会が開かれた。

 

「魔理沙、来ないわね……」

「あんなことがあったあとではねぇ」

 

 既に主役はいないのに始めてる奴らが多い、と霊夢がため息を吐いて、手伝う咲夜がそれに応じる。

 幻想郷は既に桜一色。宴会も盛り上がろうというものだ。

 やんややんやと辺りには喝采が上がり、飲み転げている。神社は宴で染まり、厨房は大忙しだ。

 

「しっかし、主役も不在。異変を起こしたのは……」

「彼女、ね」

 

 さぁ、と風が流れていく。二人共に沈黙が訪れた。

 咲夜が口火を切った。 

 

「ねぇ、あの時の異変は、彼女にとって……」

「この結末になったことは、別にどうとも思っていないわよ。ただ、そうなると寂しいと感じてたやつもいたってだけ」

「あなたもその一人でしょうに」

「……まぁね」

「早く来ないかしらね、彼女」

 

 風が吹いて木々が揺れる。止めていた手を再び動かす二人。

 

「咲夜さん、お醤油が……あれ、霊夢さんも」

 

 そこに緑の巫女も会話に混じる。

 

「彼女の話ですか、そういえば魔理沙さん遅いですものね」

 

 んー、と唇に人差し指を持っていく早苗。

 

「諏訪子様も神奈子様も初めから決まっていた、とおっしゃっていらしてましたよ。けれど、あの姿は見てられなかったのも、また……」

「久しぶりに見たのは確かね、あんな姿」

「皆待っているんですけどねぇ」

「きっと、あそこに寄ってるのよ。それより早く終わらせちゃいましょ」

 

 咲夜の鶴の一声でまた作業へと戻っていく三人。宴会は料理に酒にと大忙し。せっせと支度に追われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 宴会の端で妖怪たちが話し合う。 

 

「結局のところさ、私達って暴れただけじゃない?」

「それでも彼女の為になったと思うけどね」

「後悔は無かったんじゃないかな」

「わちきは……満足してるよ。これで良かったって」

 

 酒もつまみもどんどんと積み上がってるござの一角で、影狼、赤蛮奇、わかさぎ姫、小傘は管を巻いていた。

 各々が好き勝手喋りあいながら、酒をどんどん消費していく。

 空へと舞った花びらと共に、足音が聞こえてきた。

 

「おまえさんらこんな所で飲んでたのか」

 

 加えてやってきたのはもんぺ姿の不死人。どかっと座りこんでは会話に混ざる。

 

「……少なくとも寂しくなくなったなら。私のいた意味はあったと思いたいね」

「寂しい……かぁ」

 

 小傘が空を見上げる。頭上には満開の桜が溢れていた。

 

 

 

 

 

 真っ赤なカーペット。洋風の装いの中に彼女たちはいる。木陰の中で優雅に話し合っていた。

 

「ねぇ、お姉さま。運命って面白いよね」

「えぇ、そうね。少なからず彼女の数奇な運命は、見ていて飽きるものではなかったわね」

「糸のように絡まって、けれど、一本の線がつながっている。ね」

「今回、自身で動してみてどうだったかしら?」

 

 フランとレミリア。紅い姉妹は優雅に、そして楽しそうに語り合う。

 

「悪くなかったわ。少なくとも、悲しかったこと含めて」

「そうね、それなら良かった。……彼女がそろそろついた頃かしらね」

 

 姉が人里の方角を見る。そこには何が映っているのか。

 そんな仕草を見遣りながら、妹の方はのんびりと飲み物に手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 木立が流れていく。博麗神社へと続く道を木漏れ日が楽しそうに彩っていた。

 

「急げ、急げって! もう、駄々をこねるから余計に!」

「いやいや、そっちだって昨日まで渋っていたじゃないですかっ!」

 

 その間を駆け抜ける影が二つ。春の陽気を切り裂いていく。

 

「異変を起こして大々的に消えます、っていうのが詐欺になったからって、そこまで引きこもるかぁ?」

「そっちだって、随分と泣き顔見られて、だいぶ恥ずかしがってたらしいじゃないですか!」

 

 二人は喧嘩しあいながら、同じ道を疾駆する。ぐんぐんと周りの景色が置いていかれている。

 

「しょうがないだろっ!! あんないきなり帰ってくるとか聞いて無いぜ」

「私だって予定外だったんですから!」

 

 喚き合う二人。けれど、それはとても楽しそうな響きを伴なっていた。

 

「そろそろつくぜ? 準備はいいか?」

「ちょっと心臓が跳ねてますが」

「手でも繋ぐ?」

「……ふふ、いいでしょう、繋いでもらいましょうか」

 

 そうして、一斉に階段を飛びぬけて、鳥居をくぐる。

 その姿を見るや、待ってましたの大歓声。

 

 待ちに待った主役の登場と、もみくちゃにされて出迎えられる二人の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 さてさて、そんなことがございまして、宴会はつつがなく続いていきました。

 そんな楽しげな時を巻き戻しまして、消えた直後の時間へと戻ります。

 え、なんで私がいるかですって? それは聞いてからのお楽しみ。 

 

 私、韮塚 袖引 語っております。

 

 魔理沙さんに見送られて消滅した直後、道ならぬ道を歩いておりました。

 見知らぬ暗い道に吹き抜ける風。ひょうと吹き抜ける()()()()が寂しさを纏ってました。

 

 後ろを振り返る。誰もいない。

 小さく息をついて、また歩き始めました。分かっていましたが、肩は落ちるものです。

 暗くて何もない途。死後の世界というのは虚しくも悲しい。

 

「悪いこと、しちゃいましたよね」

 

 目の前で消えるのはきっと、傷を残してしまった事でしょう。悲しいかな、戻りたくとも、もう戻れない。

 未練がましく後ろを振りかえってしまうのは、きっと彼女のお蔭なのでしょうね。

 

 さて、名残惜しくもとにかく先に進むしかありません。ここは冥界か、三途への旅路か、腹を括って真っ暗な途を一歩踏み出していきました。

 

 ひとしきり後悔も出し切って、閻魔様になんと言いましょうか、と考え始めた頃。

 途の途中にて、見知った顔に声を掛けられました。顔を上げてみれば生前お世話になったお二柱。

 

「やぁ、袖引。待っていたよ」

「神のお導きってやつだねぇ?」

 

 蛙の帽子のお方と、特徴的なしめ縄を背負ったお方。待っていたのは洩矢の二柱でした。

 随分と待ったよ、なんてお声を掛けて下さるものですから。どうして、なんて声が漏れる。

 早苗が道を開けてくれたのさ、と諏訪子様がなんとも無さげにいうものですから更に腰が抜ける。

 びっくりとでも言わんばかりに、口をぽかんと開けた私。そこに神奈子様がお声を掛けて来る。

 

「さて、袖引。以前こう願ったろう? 帰りたいと」

「確かに、生前そう願いましたが……けれど」

 

 初めてお二柱がいらっしゃる神社にお邪魔したとき確かに願った言葉です。

 ですが、ともごもごと口ごもる私。彼女らの言葉に首を振ります。

 私には既にその資格はありません。袖引小僧としての私は既に消滅してしまったのですから。

 そんな不安を払拭するように、神奈子様は笑う。

 

「神は自ら助くるものを助く。そうだろう?」

「おまえさんが、自ら手を伸ばしたんだ。ね、袖引?」

 

 続けて諏訪子様もまた笑い掛ける。

 助かりたいと思えば、既に助けられる状況にあったという。ただ神は直接手を出さない。本人、周りが願わないかぎりは。そう話す諏訪子様。

 

「もともとは土着神だろう? いくらでも私がなんとか出来る範囲さ」

 

 私を元に戻すには元々、神様の姿で戻す予定だったと諏訪子様は語ります。

 けれど、それは出来ないとのこと。妖怪の姿があまりにも認知され過ぎている。とおっしゃっておりました。幻想郷でひっそり暮らしていたのにも関わらず、あまりにも多くの存在から妖怪と知られ過ぎている。

 これは、お前さんの功績であり、あの新聞をばら撒いていた天狗のお蔭だよ、と神奈子はお告げなさいました。活躍を描いたあの新聞を各所にばら撒いていたから、こうして認知されている。これは大事なことなんだ。そう述べる神様。

 

 結局、袖引小僧でも道祖神でもない新たな曖昧な存在として、幻想郷に返すとの事となりました。

 人間でも、妖怪でも、神でもない存在。言うなればゆーまみたいなもんさ、とお二柱は笑っておられました。

 

 大勢に忘れられると、一気に存在が不安定になるから気をつけて、と言うお二人。

 

「まぁ、でも心配ないでしょ」

「気になるなら、うちにおいで。歓迎するよ」

 

 笑って見送ろうとする二人に、私は二の足を踏む。

 本当に……帰ってもいいのでしょうか、そんな気分にもなる。

 

「ほら、帰るならあっちだよ」

 

 諏訪子様が指さす方向に向くと光が見えました。

 

「帰りたいと願うのなら、叶えてやりましょう」

 

 神奈子様が目を閉じて、私に選択を促す。

 躊躇いながらも、そちらの方へ向く。

 すると、色んなものが視界に飛び込んできました。

 

 やりきった筈なのに元気の無い異変を起こした仲間たち。肩を震わせる方すらも、そこには居ました。

 悩むような素振りをする霊夢さん。一心不乱に祈り続ける早苗さん。そして……

 

 ──帰って……きてよぉ……

 

 その声に、その姿に、足が勝手に動き、駆け出していました。脇目も振らず一心に。

 

「この度は、ありがとうございました! また、いずれお礼に参ろうと思います!」

「あぁ、待ってるよ」

「お賽銭も忘れずにね」

 

 そうして、声に導かれ、光に吸い込まれるように別の世界へと飛んでいきました。

 

 

 そして、目を開くと──

 懐かしくも、愛おしい幻想郷。

 

 

 眩しくて、思わず目元を拭う。

 

 

「えへへ……引き返して、来ちゃいました」

 

 

 そう呟いて、私は皆の元へと駆けていったのでした。

 

 

 なんだかんだと、初七日は過ぎるかどうかの時間がたっていた事もあって、関係して下さった方たちに挨拶周りを行っては怒られて、おかえりと言われる。そんな繰り返しでした。

 こうして宴会でももみくちゃにされているのも、また仕方ない事でしょう。

 余談ですが、魔理沙さんの所にいった時はそれはもう大騒ぎ。どったんばったんと二転三転して、ひとしきりお互いに泣いて、笑って、またね、と別れてきました。

 久しぶりに、ころころ変わる表情を見れたような気がします。

 

 

 

 皆さんに帰ってきたと報告するのには、いささか気恥ずかしさもございました。しかし、帰ってくれば迎えてくれる人がいて、怒ってくれる人がいる。それは嬉しいもの。

 

 散々人を拒絶して、自ら遠ざけていた私ではございましたが、こうして最後には伸ばされた手をちゃんと掴めました。一歩前進といったところでしょうか。

 けれど、やはり厄介な性分。染みついたものは即座には抜けぬものでございまして、なかなか難儀な悪癖は抜けてはくれません。また失敗して、落ち込んでその繰り返しでございます。

 でも、でもなんです。そんな時は一歩引いてみる。

 そうすると見守って下さる方、一緒に騒いでくれる方、そして手を差し伸べてくれる方。そういった存在が、必ず何処かにいる事に、私は気づけました。

 私なんか、はもう辞めようと思います。せっかく素晴らしい方たちが周りにいるのですから。

 

 これからも沢山のことがあると思います。それでも私は歩いていきます。この厄介な性格と共に。

 

 

 引き続き、頑張っていきましょう。

 

 

 

 今日もまた、幻想郷に風が吹く。朝が来て、昼が回って、夕方に。 

 幻想郷に夕の帳が降りた頃に、目を引く店が一つ。

 

 人里を少し外れた所に、その店は建っている。

「韮袖呉服屋」と書かれた看板を掲げるその店は、寂れており、少なくとも商売をしている様には感じられない。

 その店は、少女一人が営んでいる。話を伺うと、明らかに人の子では無いそうな。

 

「さてさて、今日はどんな風に接客致しましょうかね。たまには口調を変えてもいいかもしれません」

 

 手を変え、品を変え。彼女は、また失敗を繰り返しては泣いて、笑う毎日を送ったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宴会の途中。某所でのお話。

 スキマを縫うように、文脈の間を埋めるように。胡散臭い二人が話し合う。

 

「今回はお手柄だったわね、新聞記者さん?」

「いえいえ、私は何も……」

 

 そんなにお気に入りだった? と聞く紫と、のらりくらりと躱そうとする文。

 木立が妖しく揺れて、二人を隠す。ひそひそと木々が噂話を話し始めた。

 

 彼女、袖引さんはいいですねぇ、と新聞記者は言う。

 特ダネがいっつも舞い込んで来るもので。書くものに困らない。そんな事をいう彼女に紫は口元を隠す。

 

「やっぱり彼女にぞっこんねぇ。新聞記者さん?」

「えぇ、一ファンなもので」

 

 にこやかな表情を張り付けて、彼女らは互いを探り合う。腹もさぞかしドロドロとしたものが溜まっていることだろう。犬も猫もきっと手をつけないくらいのものが。

 非常に和やかな会話の中、ふと、真剣な表情へと顔を崩す文。

 

「あやや、しかし彼女は今後、台風の目になりかねない。……いえ、なりますよ」

 

 人里に妖怪が住まう意味。そしてより曖昧になった彼女の歪さ。それらは暗に危険だと、警鐘を鳴らす。

 こちら側としても、注目せざるを得ない立場ですしね、とぼそり呟く新聞記者に、紫は微笑む。

 

「あら、そちらの方が面白いじゃない?」

 

 神でも人でも、ましてや妖怪でもない微妙な存在。それなのに人里に住んでいて、生活を送っている。

 どの勢力も、あの立ち位置とのつながりは欲しい筈。

 そんな境界線上の存在がいたっていいじゃない。とスキマ妖怪は微笑む。

 

「まさか……知っていて。いえ、本当にどこまで見えているのか」

 

 恐れ入りますよ、本当に。とかぶりを振る文。いささか呆れすら見えている。

 

「今後、似たような存在が出るとして、そんな存在まで受け入れていくつもりですか?」

「あら? 知らないの?」

 

 紫は嬉しそうに微笑む。意地悪も多少は含んでいそうだが。それはもう、とても嬉しそうに。

 

 

 

「幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さてさて、そういった訳で、私のお話はここで一旦の幕引きとさせて頂きます。

 

 長々と語ってはございましたが、これもあれも皆々様のお蔭にございます。平に感謝を申し上げますと共に皆様のお付き合いの良さには感服するばかり。

 そんなわけで、一言申させて頂きたくてこの場をお借りした次第にございます。

 ではでは、一言頂きまして。

 

 ここまでのお付き合い、本当にありがとうございました。

 

 引き続き、当店をご贔屓にして下さると大変嬉しく思います。

 

        少しばかり大人になった店主より。

 




一話から長々と続けさせて頂きましたが、一旦ここで一区切りでございます。
途中投稿ペースが大幅に乱れたり、期間が空いてしまった中で最後までお付き合い頂いた読者様には頭が上がらない限り。本当に最後までありがとうございました。

ささやかながら続きも予定はしておりますので、気を長くしてお待ち下さい。

ご評価ご感想頂ければ嬉しいです。

本当にお付き合いありがとうございました。

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