【完結】東方袖引記 目指せコミュ障脱却!   作:月見肉団子

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お待たせしましたー



Stage1 不死鳥が鳴いた夕染め空 ボス

 茜差す空を見て、ため息を一つ投げ込む。

 私だって……なんて言葉はきっと似合わない。けど、こうも言いたくもなるわよこんなの。

 

 もう一度、空を見上げる。迷いを帯びた茜の空がこちらを見返していた。

 

 もうすぐ彼女はここにやって来る。それは私の勘が告げている。それは彼女に終わりを渡すことに他ならない。

 燃えるような赤い空。雲の流れもいつもとは違う。その変化の有り様が何かが決定的に変化する。そんな事を告げている様な気がして、焦りのようなものが胸を焦がす。

 

 それを見て、もう一つため息。 

 

 

 あーあ、もう、本当に面倒ねぇ妖怪ってのは。

 

 私、博麗 霊夢。決心中よ。

 

 

 彼女を始めて見たのは……覚えてないわね。いつだったか忘れたけど、その頃には当たり前に人里に居て、当たり前のように人間に接していた。

 まぁ、人里に潜り込む妖怪なんてそこそこいて、そこは問題はない。けど居を構えているのは本当に珍しい。そこには驚きもしたし、疑問も抱いた。

 結局、考えるのが面倒になって紫に聞いたんだっけ。

 

 それに対してあの隙間はこう答えたの。

 

「あれは私達の問題だから良いのよ。しばらくの間は放っておいて頂戴な」

 

 私達という言葉に引っかかりは覚えたけど、ふーんそんなものかと、当時は流していた。

 まぁ、問題を起こしたら退治すればいいか。とそんな考えの元に放置していた。

 けど、そんな退治の機会は訪れなかった。問題を起こせば、なんてこともなく。むしろ人助けをしたりして暮らしている。その態度に問題は無かった。無さすぎた。

 彼女は時折思い出したかのように人にいたずらをするだけで、他はのほほんと暮らしているだけ。私的にはそれでいいんだけど。彼女的に、なにより幻想郷にとってそれは良いことではなかった。

 幻想郷の均衡は妖怪が人間を脅かし、恐怖を煽り、それを糧とする妖怪。脅かされつつもそこで暮らす人間たち。そこに均衡が生まれ、その均衡を崩すものが現れたときに私、博麗の巫女の出番がやってくる。

 それ故に、脅かしてもいなければ、均衡は崩していない。だからこそ彼女は面倒な存在だ。妖怪は人間とあまり馴染みすぎてはならない。

 居るだけで問題児な彼女。退治も出来なければ、かといって干渉も難しい。確実に頭痛の種の一つになるだろうそんな予感を感じていた。

 

 そんな頭痛に悩んでいると、意外なところから繋がりが出てきた。なんと、魔理沙が昔を知ってるそう。

 そんなわけで彼女の話を聞いた。昔世話になったそう。色々と手助けしてくれたり、遊んでくれたり。そして……といったところで彼女は口をつぐむ。

 

「まぁ、そんなところだよ袖引は。昔から何にも変わってないからな」

 

 話さなかったことも気になるけど、何よりも魔理沙が大事に思っていそうなのが意外だった。何もかも捨てて魔法の森に住んでいても切れないものもあるのね。とそんな風にすら思えてしまうほどに。

 

 春がきて、夏がくる。四季が巡って、幻想郷にもいくつかの異変が起きた。その度に袖引は首をつっこんだと噂が耳に入る。

 紅い霧が幻想郷を包んだときは、妖怪から人里を守った。そのあと吸血鬼の家庭事情に関わっていった、とレミリアから聞いた。

 あの幽霊が起こした春が来ない異変。その時は私の所に来たんだっけ。苛立ってたからぼこぼこにしたけど、あれも元はといえば人間の為。

 じゃあ、その後の萃香の異変は? やっぱり人のために萃香に立ち向かったと聞いた。面白いやつだよ、アイツ。とかなんとか言ってたわね。

 

 行動一つ一つを考えてもため息が出そうになる。

 本当に、本当に……おせっかいだ。おせっかいで、それは人の為を思っての行動。なのに……それは間違っている。どうしようもなく間違っている。幻想郷にとって彼女は異物でしかない。「妖怪」としての彼女は、幻想郷が理想とする妖怪像とはかけ離れていた。

 

 そんな時にもう一度、紫に聞いた。あの妖怪は何なのかと。

 

「あら、私を呼び出したと思ったらそんな事?」

 

 そう答えた紫は、少し微笑んでから彼女の生い立ちを語ってくれた。元々人間あったこと、神でもあって。そのどちらでも彼女は離別を経験していた。

 どちらも人間側の勝手な理由のせい。それでも彼女は人を恨まずに、記憶を封印してまで人に寄り添うことを選んだ事。

 

 彼女は優しかった。きっと、誰よりも人間に優しくて、人間の事を思っていたのかもしれない。

 けれど、そんな彼女に対して世界はそれほどに優しくなかった。

 それだけの話よ。と紫は語った。

 

「いずれ、退治する必要は……ある?」

 

 情けない声を出していたのかもしれない。別に私は情に厚い方じゃない。けど、けれど……この妖怪をいずれ退治せねばなるまいと思うと、気が重たくなる。故に心が少しだけぶれる。

 そんなぶれを見逃す程、紫は甘くない。

 

「えぇ。その時が来たらね」

 

 その時の紫はとても冷たくて、けど、とても正しかった。

 動揺を見透かされて、ぐっ、と言葉に詰まる。けど、何か答えなければいけない気がして声を絞り出す。

 

「そう……そうよね」

 

 言葉を口にすると、何かが胸を縛り付ける。彼女、袖引は妖怪で。私は博麗の巫女。いままで通り普通に過ごしていれば問題はない。

 宴会のときは騒いで、普通に訪ねてきたときは普通に応対し、そして……その時が来たら始末すればいいだけの事。

 

 その後は紫も何も言わなかった。だから、その時の会話はそこで打ち切られた。

 

 

 そしてまた時が流れる。きっと決定的に変化があったのはこの時の異変の後。

 

 月の異変が起きて、私が解決に乗り出して、そして解決をする。そんないつもの流れ。

 そんな異変解決途中に違和感が一つ。誰かが私の札を使って神の力を引き出している。そんな感覚が異変中に一度だけ起きた。

 神の力を行使するということは、神に通じるか、あるいは神そのものでなければならない。

 私以外でそんな力を使える奴。そして、この異変に参加していそうな奴。……すぐに思い当たってしまうのが一人いた。

 かつて神であった彼女なら、その力を行使するのは不可能なことではない。けど、そんなことをしてしまえば、彼女の存在が揺らぐことにつながる。

 

 流石にそんな馬鹿なことはしない。……と言い切りたかったし、寿命が縮まるようなことはして欲しくなかった。

 

 異変が終わったあとも、レミリアの企みに巻き込まれて月へ行ったりと、なかなか事の真偽を確かめられずに時は過ぎた。

 すっかり頭から抜け落ちてしまっていた頃。突然、彼女は現れた。

 

 目に入ってきたのは、私にとても馴染みのある神の力と、妖怪の力をぐちゃぐちゃに混ぜ合わせた様な危険な状態。

 そんな状態で博麗神社にふらふらとやってきていて、思わず私は呼び止めてしまう。

 

「ねぇ」

「はい?」

 

 呼び止めた先を考えいなくて、少し間が出来る。そんな間を塞ぐように少し早口で捲し立てた。

 

「袖引、あんたこの前、宴会で騒いでたわね? 罰として裏手にある墓掃除をしなさいな」

「えぇ……わ、分かりましたよ! 睨まないでください!」

 

 ぱっと、墓掃除が浮かんだのは、私が何をしたらいいか分からなくなってしまっていたからだ。

 

 この子、しかもこんな状態に対して何をしたらいいかなんてわかる訳がない。どうしてこうなったのかも分からないのにこれ以上手なんて出せないわよ。

 

 あぁ、もう。こんな事を私が考えること自体が異常だ。

 同情したいわけじゃない、けど、

単純に退治するべきなのか迷う側面がたくさんあって。魔理沙の恩人でもあって。私一人で行く末を決めてしまうには、彼女にはしがらみや繋がりが多すぎる。

 

 そこで、ご先代何か助言めいたものをくれるかも。なんて、半ば神頼みめいた考えで墓に放りだしたのだ。

 

 放置していくばくか。そっと様子を覗いてみると、そこにはきちんと掃除がなされ、更には手を合わせている袖引の姿。

 なんというか、本当に……

 

「終わった?」

 

 言葉にしづらい困惑じみた気持ちを持ちつつも声を掛けた。

 静かに振り向き、えぇ、と短く返す彼女。

 

「物好きよね、あんた」

 

 心のうちにいた言葉をそのまま投げつけてみる。すると、彼女は不満と疑惑が混じった目でこちらを見返す。

 

「あの……」

「何?」

「これは霊夢さんが掃除しろと……」

 

 ごもっともな返答だ。ごもっとも過ぎて特に何も返す気も起きなかったので、そうね。と返してみる。

 

 ちらり、と再び視線を戻す。……姿形はかわっていない。なのに、中身が違う……違うというか、もともと持っていたものが溢れ始めている。

 

「ね、袖引」

「はい?」

 

 声を掛けると掛けるときょとんとした顔が返って来る。この表情のままで終わって欲しいと思いながら、決心を一つ。かまを掛けてみる。

 

「何処まで覚えているの?」

 

 過去の事、今の事、そして、袖引自身の事。そのことをどれくらい認知しているのか、それによって私の動きも変わってくる。

 この質問で何かが変わる。そんな予感が頭をよぎる。私がそう思ったということは、間違いなくそうなる。そうなってしまう。

 内から来る確信に心が動く。そんな動揺を悟られないように、そっけなく端的に。

 そんな心をしってか知らずか、彼女は特に躊躇うこともなく口を開いた。

 

「ちょっとだけですよ」

 

 この瞬間に喉に詰まっていたものが、すとん、と胸に落ちてきた。──そう……もう、知っている。知ってるんだ。

 

『ちょっとだけ』つまり知らない事を知っているという事。

 彼女が何も知らない妖怪から、複雑な事情がある妖怪もどきになったという事。

 何故人を襲う必要があまりなかったのか、おおっぴらに人里に住んでいて咎められなかったのか。その事に気づいてしまった。という事。

 

 それは、私にとって、手を打たざるを得ない段階に進んでいるということもあって、すぐに受け入れるには心の準備が足りていなかった。

 

 これから先、袖引がどう動くかがこれで完全に読めなくなった。妖怪として生きるのか、神として生きるのか。それとも他の選択肢を取るのか。それは彼女次第。

 だけど、それは彼女の問題でもあって、幻想郷及び人里の問題でもある。

 

 彼女は、妖怪だ。そうであるのなら袖引は人里から立ち去らねばならない。妖怪には恐怖が絶対に必要。だけど、袖引はそれを積極的に集めようとはしていない。素性も隠さずにそれでは困るのよ。だって、それは全体の均衡の崩壊に繋がるから。

 人が妖怪に対する恐怖を和らげてしまえば、感情を糧にする妖怪は消滅の憂き目にあう。人が妖怪に対して油断し始めれば、人肉を糧とする妖怪の恰好の餌食になる。それは博麗の巫女として容認出来ない存在になってしまう。

 そうなった以上、退治しなければならないのだ。彼女の存在は綻びに繋がってしまうから。

 今度は冬の異変のような『ごっこ』ではなくて……本気で。

 

 この瞬間から、彼女は袖引でも周りが呼んでいるような袖ちゃんでもなくて、ただの『妖怪』となった。

 

「あっそ」

 

 悩む必要がなくなった。そう考えれば気が楽になったのかもしれない。

 けど、けれど。散々悩んで、散々躊躇して、何度かごっこ遊びもしていて、宴会に来ていて、たまに人里でも話しかける。そんな存在を今日からはい、そうですかと放り投げられる程に私は大人じゃない。

 だから……今日だけは、今日だけはこの子は袖引だ。誰かがやっているように無遠慮に神社に遊びに来ている妖怪の一人で、それをこき使うのが博麗霊夢の役割だ。

 そんな訳でお茶を入れさせたり、雑談したりして時間を潰す。そして、忠告を一つだけ言ってあげる事にする。

 

「ただ、私が動いたら()()として倒すからね」

 

 その言葉は選別な様なもので、訣別のようなもので、いままでの私に対する決意なようなものでもあった。

 

 

 

 時が過ぎて。私は夕暮れを眺めている。

 

 いつまでたっても変化のない夕焼け空は、まるで終わって欲しくないと泣きじゃくる子供のようで、ちくりと心のどこかに針が刺さった。

 

 魔理沙になんて言おうかしら。とか、ふと考える。そういえば最近魔理沙の様子がぎこちなかった。

 しかも、その事について口が重い。話したがらないところを見ると、彼女絡みで何かあったのかもしれない。もし喧嘩別れとかしていたら、それが今生の別れにもなりかねない。それは少し酷だ。

 

 まぁ、彼女も運が良ければ、肉体的には死ぬことはないはず。けど、神様交じりの彼女の神性を否定するということは、彼女にとって半分死ぬのとなんら変わりのない事。

 彼女は決定的に変化が起きる。それは間違いではないはず。

 

 それは魔理沙にとってどうなるんだろう。彼女にとってはどうなるんだろう。分からない。分からないけど、きっといい事ではないはず。

 

 でも、これはもう決めた事。決心したことに関してアイツ(八雲紫)は何にも言ってこない。つまり、少なくとも間違いじゃないって事。それだけは確信出来る。

 

 もう時間はそんなに残されていないはず。元々不安定ながら崩れる心配がなかったものが、崩れてもおかしくない状態になった。あれはそういう不安定さだ。迷っていたらこの異変は時間切れになる。

 それは解決にはなるけど、いい結末は持ってこない。急がないといけないの。

 

 だから、せめてとばかりに泣きじゃくる空を睨み返してやった。もう、迷うことはしない。迷う時間も、ないのだから。

 

 宙に陰陽玉を浮かせ、大幣を手に取る。あとはやるだけ。

 心のどこかにある迷いを振り切るように、一度だけ大幣で空を切る。泣きじゃくる空を殴りつけるように。

 

 

 しばらく経つと、そんな夕焼け空にいくつかの影が差す。その影達はだんだんと近づいていって、友人の様な気安さで目の間に降り立った。

 ため息の一つでもくれてやりたい気分だけど、そんな気分とため息を飲み込みつつ、かわりに軽口を投げてみる。

 

「やっぱりあんたたちか、とりあえずまずはお賽銭。素敵な賽銭箱はあちらよ」

 

 人数……多いわね。なんか見たことのあるのばっかりだし。彼女の周りにいたやつらばっかり。まぁ、いいわ。一人ずつ倒していきましょ。

 

 その集団のメンツと何度かやりとりがあった後に、今回の首謀者に目を向ける。

 不安そうで、けどどこか覚悟を決めた目がこちらを見返す。

 

「霊夢さん、私は……」

「何、観光でもしに来た? けどね、私は言った通りアンタを妖怪として倒すって決めてるの」

「やはり、そうなりますか……なりますよね」

「そうね、面倒だけど私は博麗の巫女だもの」

 

 そう、前の時と同じ。いくら脅してもこの子は引かなかった。本当に頑固者で、私にとってどこまでも面倒なそんな考えの持ち主。そんな性格は決して嫌いじゃなかった。そう、嫌いじゃなかったわ。

 

 ──でも、私は博麗の巫女だもの。やるべきことはやらなくちゃ。

 

 

 で、そんな決心をしていたのに「お賽銭と、ご参拝だけでもしたいです」の一言で見事にぶち壊し、賽銭を投げ込む彼女見て、さっき呑み込んだため息が漏れる。まぁ、賽銭中は攻撃しないけどさぁ……まぁ、いいか。

 

 さて、とてとてと空気を読めない、読まない彼女が戻って来たところで仕切り直し。

 

「で、もういいかしら?」

 

 全員倒すつもりで武器を構えると、ごちゃごちゃ集団の中から、灰色髪が目立つ妹紅が前に出て来る。そのあと仲のよさそうなやり取りをして、そのままに妹紅を除いた連中は空へと消えて行った。

 やっと終わったのね、なんて思いつつ見送る灰色頭に声を掛ける。

 

「騒がしいわね、ほんと。静かに参拝も出来ないの」

 

 これはこれで好都合だ。一人一人倒すのは楽だし、何より魔理沙への言葉を考える時間が出来る。……まぁ、多少は嫌われるかもね。

 

 そんな事を考えながらも口火を切る。何かを考えながらなんて、本当に久々だ。駄目ね、集中しないと。今回は時間との闘いでもあるんだから。

 

 そうしている間に向こうは完全に暖まっている様子。流石は火の鳥ね、暖気は完璧だわ。そんなことを考えているうちに向こうが仕掛けてきた。

 

 

 地面を焦がす勢いの炎がこちらに肉薄する。けど、私は静観。

 こんなの当たらない。うねりを上げて炎が側を通り過ぎていくのを眺めて一言。

 

「神社荒れるから嫌なんだけど……まぁ、あとで掃除させればいいか」

 

 元々展開していた陰陽玉に力を込めて、弾幕を打ち出していく。後を考えるなんてらしくない。……相手が人間だって、妖怪だって神だって退治してきている私らしくない。

 

 空を飛ぶ能力を少し強める。こんなのじゃ戦えないから。こんなのじゃ異変解決の巫女になれないから、私は心ごと宙に浮かす。

 そして弾幕ごっこへと身を投げ込んでいった。

 

 炎と札が吹き荒れる中。妹紅が話しかけてくる。

 

「なぁ、霊夢」

「何よ」

「袖ちゃんはさ、どうなるんだろうな」

「こっちが知りたいわよそんなの」

 

 本当にこっちが知りたいくらいの話題を持ち出してくる相手。こっちの気持ちを知ってか知らずか、構わずに話を続けてくる。

 

「霊夢、彼女を倒すつもりなんだろ?」

「そうね、異変の首謀者ですもの」

「……何かいい解決策はあったりする?」

 

 はっ、と向こうの目をまじまじと見てしまう。妹紅の目はどこかすがるような、探るような目をこちらに向けていた。

 攻撃の手を緩めてこっちも聞き返す。

 

「そんなの聞いてどうするのよ?」

「あるなら聞き出して私が解決する。無いならこのまま倒す」

「……無いわよそんなの。あったらとっくにやってるわ」

 

 そうねぇ、こんな奴にもなんだかんだ言って好かれてるのよね彼女。今回の異変は意外と大きくなるかもしれない。

 そんな事を考えてしまう。いや違うか。そんな事じゃない。

 

 問題なのは、向こうも解決策を持っていなさそうなところ。

 ありえるかもなんて思っていただけに、落胆する気持ちがどこか遠くで主張していた。

 それは向こうも同じだったようで、落胆の色が瞳を陰らせている。

 

「そうか……残念だ」

「お互いにね」

 

 もうお互いに聞き出すことはない、そんなことを確信し再び弾幕を交えさせる。炎を潜り抜けて、羽のように広がる弾幕を回避し、札を叩きつける。

 

 とっとと終わらせて次ね。急がないと。

 

 

 気づけば茜に染まった空が少し濃さを増していた。薄かった箇所に絵の具を足していくように、暖炉に薪を追加するように、空は燃え上がる。

 何処かの誰かの存在を燃料にしながら、終わらない火が、終わりに向かっていた。




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