【完結】東方袖引記 目指せコミュ障脱却!   作:月見肉団子

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衝動とやる気と、あと勘の取り戻しの為にかるーいお話を一つ。

本編には全く絡みませんので、頭をからっぽにしてお読みください


袖引の寄り道 ばれんたいん

 深々と積もる雪、積もった想い。果たして、そのお菓子は誰の手に。

 

 これは、私を取り巻く人の一夜のお話。

 

 

 私 韮塚袖引 ちょこれーとを作っております。

 

 

「ばれんたいんでー?」

「そうなんですよ、私のもともといた場所では二月の十四日にチョコレートを渡すんです」

 

 

 睦月から如月に移り、だんだんと春の足音が聞こえてきそうなそんな頃。三寒四温な気温に晒されて風邪でも引いてしまいそうな毎日。

 そんな中、人里で早苗さんに出会い。そのまま一緒にお買い物。何やら彼女はちょこれーとなるものを探しており、私にもその質問をされました。よくよく聞いてみると「しょこらーと」と一緒のものであることが分かり、お店へと連れて行きます。

 

 銀紙に包まれて、「貯古齢糖」の文字が当てられたお菓子を買い込みます。早苗さんに乗っかり、私も少しと手を出します……とは言え、まだまだこの幻想郷において、ちょこれーとは貴重品の一種。まだまだ価格というものは庶民な私にはちとばかし高いと言えましょう。

 からっかぜに吹かれ、懐を少し寒くしつつもちょこれーとを購入。さてさて、これを贈り物にするのかと早苗さんに聞くと、何やら違う様子。事細かに聞きますと、このちょこれーとを一旦溶かし、色々と処理を加えた後に、型にはめると中々に手間が要りそうなそんな工程。

 聞けば聞くほど面白そうだとは思いますが、さてさてどういたしましょう。ちょこれーとが足りるかどうか。そんな事を話しつつ買い物を終えました。

 

「これは大変な事を聞いてしまいましたねぇ……」

 

 そんな帽子を目深にかぶった記者さんの声を聞き逃しながら。

 

 

 さてさて、我が家に戻りお湯を沸かす。ふんふんと鼻歌交じりにとんとん、とちょこを砕いていきます。一枚、二枚と、砕き終わって、取り出したりますは──

 

「誰に渡しましょうかね、これ」

 

 なんて、言いつつも調理は完了したのでした。

 

 

 

 さて、翌朝。配るもの拵えて幻想郷上空。ふらりと飛んでまいりますと、目の前から幻想郷最速なお方がすっ飛んでくる。これはいけない、と慌てて回避するも、どうやら初めから狙いは私の様子。ひゅんとすっ飛んできて、ずばんと巻き込まれる。突然の突風に、墜落しないようにとつむじ風にもまれつつも立て直す。

 

「おや、偶然ですねっ袖引さん!」

「え、えぇ、酷い偶然もあったものです……中々にご機嫌ですね……」

「はい、一仕事終えた後ですから!」

「一仕事?」

 

 やたらと楽しそうにこちらを眺める天狗様。どうしたのかと聞きたい所ではございますが、嫌な予感が先程からびんびんと。

 しかししかし、ここで聞かぬと更に酷い事になりそうなのもまた事実。小さな勇気を振り絞って、私は問いかけました。

 

「ちなみに……そのお仕事というのは?」

「もちろん、新聞配達ですよぉ。今回は号外が出たので、ちょっと楽しんじゃったわ」

「……ちなみに、ですけど内容は?」

「んふふ、袖引さんにだけ特別ですよぉ?」

 

 

 号外 あの妖怪少女の愛は誰に!?

 

 人里にて恐ろしいニュースが発覚した。なんと、現世では恋愛感情の代わりに洋菓子を贈ることが流行になっているとの情報が入った。事の真相を確かめるべく、私は人里に急行した。

 すると、なんと件の流行に乗っかるように最近幻想郷にやってきた山の巫女Kさんと、人里在住のNさんが仲睦まじく買い物をしているではないか(写真壱) 

 事情を伺った所、なにやら恋慕の感情を持つ誰かに配るとも答えた。そんな愛らしい姿と、笑顔とは裏腹に手にもつ洋菓子は二つのみ。

 

 果たして、その少女の甘い愛は、一体誰が受け取るというのだろうか。興味は尽きない。

 

 

 そんな事が一面記事に大きく載っている記事を笑顔のまま見せつける、記者様。

 それを読み、一瞬固まってしまう私。

 

 なんとか声を絞り出しつつ、目の前の記者様に問いかけました。

 

「あの……」

「はいっ、何でしょう? 今回は綺麗に写真も撮れておりますし、増版間違いないと踏んでます!」

 

 きらきらな笑顔を見せられて、たじろぐ私。けれども、これだけは言わねばなりません。我慢出来ぬのです。

 

「なっんですか、この記事はぁぁぁぁぁぁ!?!?」

 

 綺麗な青空に響き渡る私の声。そんな声をもろともせずに笑顔で記事を差し出す天狗様。

 

「よく書けているでしょう?」

「ど、どこで撮ったんですかこれ!」

「書いてあるじゃないですか、人里ですよ」

 

 盗撮、なんて言葉も浮かびましたが、そもそもこの幻想郷に人の顔を勝手に写真に写してはいけません。なんて法はございません。

 ぐっ、と言葉に詰まりつつ、次の言葉を探す私。

 

「で、でも受け答えなんてしてませんよねっ?」

「えぇ、ここは私の想像で補完致しました。自信作です!」

 

 それを聞いてしまい、一気に湧き上がる疲労感。

 なんかもう、無駄な気もしてきました。既に起こったことは起こった事。私が新聞の一面を飾ったところで徒労に終わるでしょう。

 はぁ、とため息一つ。無駄なことは諦めるといたしました。そして。普段からお世話にはなっている射命丸様にと、腰に結わえている巾着を漁ります。

 すると、明らかに顔色を変える天狗様。

 

「……はぇっ!? わ、私に何かあるんですか!? え、嘘、ほんと?」

「えぇ、普段からお世話になっておりますし」

 

 何故か赤面し始め、ぶつぶつと何事か呟く射命丸様。そんな彼女を他所に、巾着をごそごそとやり、さて渡すぞと物を出す私。

 するとすると、なんと物が出て来る前にもう一人の声が割って入る。

 

「あーーーーーっ! ようやく見つけたと思ったら!」

 

 またしてもびゅん、と飛んできた謎の声。聞き覚えのある声に振り向くと、そこには紅魔館の妹様ことフラン様が血相を変えてこちらを指さしている。

 

「あっ、フラン様。こんにちは」

 

 何事かとは思いましたがまずは挨拶。しかし、何か別の事に夢中になっているようで、無視される私。ぐすん。

 

 挨拶を華麗に無視するや否や、焦った様なフラン様は天狗様に突撃をかましました。

 突然の光景に目を丸くする私と、まるで予想していたかのようにひらりと躱す天狗様。その仕草が更に癪にさわったのか、イライラした顔でフラン様は射命丸様に牙を剥く。

 

「私の袖ちゃんに何してるのかなぁ? お菓子を貰うのは私なんだけどなぁ?」

「おやおや? 随分と自信過剰ね? 今のを見てなかったの? 文ちゃん大勝利の歴史的瞬間ですよぉ?」

 

 食い掛かる吸血鬼さんに、煽る天狗さん。お二人の間でばちばちと火花が散った様にすら感じます。私が口を挟む間も無く会話は進む。ついでとばかりに口火の勢いも大きくなる。

 

「うるさいなぁ、天狗に渡すくらいなら私が奪って食べるわ」

「引きこもりが私に追いつくとでも? 速さも、袖引さんとの距離も百年早いわね」

 

 凄い剣幕に私はたじたじ。途中から何を言っているのかさえ聞き取る余裕はございませんでした。そんな物凄い力を持つもの同士の対決に、私は吹き飛ばされん限り。すんでのところで踏みとどまってはおりますが、今や今やと爆発が起きてしまいそう。固唾を飲んで見守ることしか出来ない私はじりじりと後ずさりをはじめました。

 そしてついに──

 

「小娘はひっこんでなさいな。年季が違いますから」

「ふーん、その年季って偉い人にぺこぺこしてた年季?」

「……ふっ、ふふふふふ、いいでしょう。そこまで言うのなら実力をお見せするまで」

「いいよ、軽く捻ってから今晩のお夕飯にでもしてあげる」

 

 口火から火蓋へ。燃える勢い凄く、私なんぞが声をかける暇もなく始まりますは弾幕ごっこ。実力者同士のとんでもない光景に巻き込まれぬように、早々にこそこそ撤退致しました。

 

 後ろでどっかんどっかんと楽しく遊んでおられますので、後に回すといたしましょう。

 さてさて、何処に行きましょうかね。

 

「わぁ、いいの? ありがとう!」

「いつものお礼です。友ちょこ、とかいうらしいですよ?」

 

 方々を回り、現在小傘ちゃんの番。傘がべろんと舌を出しておりますが、実は傘で食べたりとかそんな事するんでしょうか? なんて考えつつ差し出す贈り物。嬉しそうな顔が浮かび私も満足満足、嬉しい限り。

 ふらふらと歩き回り妹紅さんや、影狼さんを回っていきました。妹紅さんは、いいのか? 何にもこっちは用意してないぞ? なんて言いつつも遠慮していたので多少押し付け気味に。

 影狼さんは、ふーん面白い企画ね。私も作ろうかしら? なんていいつつも尻尾をぶんぶん振って受け取って下さいました。

 

 さて、魔法の森にも訪れてみましたが、生憎目当ての方は留守のよう。まぁ、便りがないのがいい便りなんて言葉もございますし。まぁまぁ、郵便受けに入れておけばいいですし。悪くはないはずです。悪くは、ないはずです。

 魔法の森に久しぶりにきましたので、少しですがアリスさんにもお裾分け。

 

「あら? ありがとう」

「いえいえ、こんなものでよろしければ」

「それより何かあった?」

「何かとは?」

「何処か落ち込んでいるように見えたから」

 

 蒼い瞳に見抜かれてしまったかのようにぴたりと動きが止まる私。

 

「ん?」

 

 なんて覗き込んで追撃をかけてくるものだから、慌てて言葉を出しました。

 

「お、落ち込んでなんていません! いませんから!」

「……あぁ、魔理沙なら今朝出掛けて行くのを見たわよ?」

「何故それをっ!?」

「あぁ、やっぱり」

 

 クスクス笑うアリスさん。引っ掛かった事に気づき赤面する私。

 

「アリスさん……引っかけるなんてズルいです」

「会話もブレインよ。……なんてね。あぁ、ほら拗ねない拗ねない。面白いチョコのお礼に紅茶をご馳走するわ」

「別に拗ねてませんし。別に怒ってません」

「じゃあ、紅茶と甘いお菓子はいらないのかしら?」

 

 ……アリスさん。私をだれだと思っているのでしょうか。流石に乗せられて、少し、ほんの少しではございますが腹を立てている私がそうやすやすと懐柔策に乗るとでも? さすがに馬鹿にされ過ぎてカチンと来てしまいそうです。あえて、言いましょう。舐めないで頂きたいと。

 断固たる決意と、断固たる意識を持って口を開きます。 

 

「アリスさん──」

「あ、そうそう、袖ちゃんが前に食べたいといっていたジャムもあるわ」

「食べますっ! ……あっ」

「はいはい、いらっしゃい」

 

 ぐ、ぬぬぬ、とはらわたが煮えくり返りそうではございますが、背に腹は代えられぬ。腹が減ってはなんとやら。というもの。結局、食欲には逆らえませんねと誘わるがままにアリスさんと楽しい時間を過ごしました。

 

 さてさて、回って、渡して、人の縁。戻ってまいりますは、先程の上空。

 お二人様子は、といいますと。まぁ、戻ってきたときに遠目でわかってはおりましたが……まだやっておいででした。

 

「「私が、強い!!」」

 

 当初の目的がなんなのかは知りませんが、おそらくまったく違っているのは、予想を外れていないと思います。

 お互いに当たり散らしながら、火花散らし弾幕撒き散らすお二人。言い争いが加速しておりますが、手元は狂わない。なんの為かは分かりませんがお互いの欲望のために頑張っておりました。

 と、思いきや、お二人が声を張り上げこう叫ぶ。

 

「「袖ちゃんのお菓子は、私のものだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

 ……あぁ、なるほど。二人が欲していたのはこちらの巾着の中身でございましたか。それならそうと早く言って頂けたらよかったのに。配るようにと、たくさん作ったのでまだまだあるんですが。

 しかししかし、嵐のような弾幕ごっこの中をくぐり抜けて渡すのは中々に難しい。狂気的な弾幕密度といいますか、思わず腰を抜かしてしまいそうなそんな激しさ。そんなに甘味って欲しいものですかね……いえ、アリスさんのジャムに一本釣りされた私が言うことではありませんね。

 

 いつまでも見守るわけにもいきませんので、とりあえず声を上げてみましょうか。

 

「えーごほん。お二人ともー」

 

 まったく反応せず。聞こえているのかいないのか。それすらもわかりません。

 

「えーごほんごほん。もしもーし!」

 

 ちょっと声を大きめに。……まったく聞こえていない様子。ここまでくると意地でも反応させてみたくなるもの。すぅと息を吸い込み、身体の底からありったけの声を張り上げます。

 

「もっしもーーーし!!」

「「うるさいっ!」」

「ひゅい!?」

 

 聞こえてはいるようです、聞こえては。……あまりに二人が怖くて泣いたりとかしてません。してませんよ?

 

「そんなにいらないなら、いいですよ。二人にはあげません」

 

 先程よりも、格段に小さい声で、というより普通の声でぼそりと呟く。すると、何かに弾かれたかのようにぐりんと二人が反応しました。

 

「それは駄目、いけない。とおりません」

「お、お菓子がないなんて嘘だよね、ねぇ!?」

 

 なんと態度が一変し、こちらへと詰め寄るように飛んでくる。それはそれで恐怖を感じる絵面でございましたので、後ずさりしつつ待ち構える。

 取り乱したかのようにすっ飛んでくる二人は、私を見てはっと我に返ります。

 

「あれ? 袖ちゃん?」

「あ、あははは、見苦しいところをお見せいたしました……」

  

 フラン様に射命丸様は、気まずそうにお互いの目線を行ったり来たり。そして時々視線が腰のあたりをさ迷っているので、その注目されている巾着を持ち上げます。

 

「無視されたの傷つきました」

 

 本日二回目なちょっとご立腹。けっして怖さの裏返りとかそんなのではありません。

 私の言葉を聞いて各々顔色を変え、一人は素直にごめんなさい。一人はさっと言い訳を始める。そんな二人を見て苦笑い。そして巾着から小さな包みを取り出し、二人に差し出しました。

 

「はい。いつもお世話になっているお礼です」

「わぁ、ありがとう袖ちゃん!」

「これは……白玉? あれ? 洋菓子は?」

 

 そう、私が渡して回っていたのは白玉でございました。しかし、ただの白玉ではございません。

 

「少し大きめになっているでしょう? 中にちょこやあんこを詰めてみました」

 

 二つきりしか買えなかったので、私はどうにかして皆に渡そうと考えた結果。常に家に三袋は常備してある白玉に目をつけました。これを使えばいいのでは? と。

 結局、ちょこを包むだけでは足りませんでしたので、似たような甘味の小豆を早朝に炊き出したり、黒蜜を用意したりと色々と工夫を凝らしつつ数をそろえたのでした。

 

 どうです? 寒い中頑張って早起きした甲斐があったとは思う出来なはず。

 

 紙面通りの結果にならなかったのが悔しいのか、ちょっと渋い顔を見せる射命丸様と、跳ねるばかりに喜ぶフラン様。二者二様でございますが、とにかく渡せてよかったなんて思ってしまいます。

 とりあえず渋い顔を浮かべる射命丸様に声を掛けます。

 

「射命丸様は白玉はお嫌いですか?……でしたら」

「あぁ、いえ!! そうでないんです! ちょっと意外だったなぁ、というか空回りだったかなぁといいますかね?」

「うっ……地味ですいません」

「あぁ、もうだから違うの! ありがとう袖引さん!」

 

 なんでかは知りませんが怒ったり、落ち込んだりと忙しい射命丸様。なんて返そうかななんて思っているとフラン様が私に飛びつき抱きつきこう告げます。

 

「こういうときはね、袖ちゃん」

「はいはい」

「こう言うの」

 

 ごにょごにょと耳元に伝わる甘い囁き。ではないですが、少しいたずら心がまじったようなその言葉を、私は射命丸様に向けて、反芻します。

 

「射命丸様」

「? はい?」

「はっぴーばれんたいん!」

「……ぷっ、あははははははは」

「な、なんで笑うんですかっ!?」

 

 ひょっとして騙されたのか、とフラン様をばっと見れば、フラン様も笑っていらっしゃる。

 そんな様子に全くもう……なんて思いつつも何故か笑顔が浮かんでしまう。

 

 結局、三人で笑って話して、ちょこっと甘い時間を過ごしました。……なんちゃって。

 

 

 

 さてさて、そんな一日でございました。普段の感謝の気持ちを込めて。あるいは違う気持ちも込めたりなんかした贈り物もまた素敵なこと。ちょこにせよ花にせよ、感謝というのはいいものです。

 

 なんてお話でございました。

 

 

 ではでは、皆さま。

 

 

 ──はっぴーばれんたいん!!

 

 

 

 

 


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