【完結】東方袖引記 目指せコミュ障脱却!   作:月見肉団子

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 今回は息抜き回。頭からっぽにして書きました。

時系列等々まったく関係のないお話ですので、頭空っぽにして、お読みください


 活動報告でちょっと触れましたが、例大祭にて合同誌に参加させて頂きました。 
 サークル名は「ヒヨリミ」 た-14bにて出展しております。例大祭ご参加の方は是非是非お立ち寄り下さい。


袖引の寄り道 がーるずとーく

 本筋から外れ、色々お愉しみなお話でございます。時期はきっと、私に関わる事が色々と終わった後の事。

 

 さて、そろそろ火鉢もしまい込み、襦袢の綿も抜いて、春模様。外では暖かい風がそよそよと吹いており、良い天気でございます。里の子供もきゃっきゃと遊び回れば、足跡に華が咲く。

 そんな時こそお出かけしましょう。やることなす事ほっぽって店はお休み中。思い立った時が休日な店模様。呆れたように暖簾がふわりと揺れておりました。

 

 

 そんなわけで本日おでかけ。本筋逸れて、ぷらぷらと歩くのも良きものです。

 

 

 私、韮塚 袖引 お散歩中でございます。

 

 

 風が寒かったり暑かったりときままな春の風に乗せられて、外に足を運んでおります。冬の重々しい服装脱ぎ捨て、軽々と草履でてんてんてん。

 春口の軽い服装に半幅帯を結び、身も軽く。たまにはと肩口くらいの髪をまとめ上げ、耳かき、もといかんざしを頭にぶら下げ、街中を闊歩しております。

 

 ちょっとしたおしゃれを楽しみつつ、てくてく歩いておりますと、見慣れた後ろ姿の御仁が一人。赤い服外套に青い髪飾り。人里に住む妖怪仲間、飛蛮奇こと赤蛮奇さんの姿を見かけました。

 いつもでしたら人里での出会いならば会釈程度で済ませ、すれ違う程で終わるのですが、今回は気分がいいので暗黙の了解抜けてご挨拶。

 

「こんにちは、いい日ですね」

 

 途端にびくりとなる蛮奇さん。ちょっと不自然なくらいに顔が浮かび上がります。焦ったように首をくるりと回し、辺りを伺います。そして、私の腕をひっ掴み、ちょっと来てとぐいぐい暗がりへと連れ込まれました。

 

 さて、人も通らぬ裏通り、建物に遮られ日もほとんど入ってこないそんな路地。そこに私と蛮奇さん。いったい何をされるのか私、どきどきで……

 

「あのさ、人里で話掛けると、目つけられる可能性があるから止めてって前言わなかったっけ?」

「ご、ごめんなさい」

 

 はい、普通にお説教でございました。しかも、危うく正体ばれ一歩手前。赤い外套に似合うように顔を赤くして、結構怒っていらっしゃいました。

 お説教がてら頬をむにーと引っ張られ、お次は両手で挟み込まれる。蛸さん状態になっている私をみて、はーとため息。

 

「で、なんの用かしら?」

「え? ……いいお天気ですよね? ってご挨拶を」

「……」

 

 はぁ、と深いため息をつく蛮奇さん。そこまで呆れる事ですかね? なんてちょっと傷付きつつも蛸さん状態から解放されます。

 ぷふーと息を一息。むにむにされたほっぺを自分で調節。そんな私を見て、蛮奇さんは話しかけて来ます。

 

「なんかおしゃれしてるね」

「えぇ、似合ってます?」

「……いいんじゃない? うん、悪くない」

「えへへ、ありがとうございます」

 

 褒められて、自然に頬が緩む私。季節に合わせて着物は変えていても、おしゃれとなるとあまりやらなかったので正直不安でしたが、褒められて一安心。後ろ髪を結わえた簪をちょこんと触りました。

 そんな私を見て、ちょっと嬉しそうに微笑む蛮奇さん。笑顔の花が道端に二つ。春らしい光景に胸も軽くなりました。

 

 さてさて、会話もひと段落。次の話題へと移ります。

 

「せっかく出会いましたし、何処か行きませんか?」

「うん? まぁ、いいよ」

 

 さらっと、承諾してくれる蛮奇さん。切り替えが早いというか、諦めが早いといいますかどちらにせよ素敵な事です。

 さてさて、何処にいきましょうかね。せっかくですし甘いものでも……そうだ。

 

「甘灯茶屋知ってます?」

「前言ってた所?」

「そうです、そうです! 白玉がほんとに美味しいんです」

「ふーん? じゃあそこにする?」

 

 甘灯茶屋。そこは表通りからは少し離れ細道をちょろちょろと歩けば、ひっそりとした茶屋が見つかります。達筆の看板を掲げるその場所には、なんと妖怪専用の地下空間がございます。河童さんたちの手で改装もとい改造を施されたその場所はまさしく快適。

 なんてお話を以前、蛮奇さんにしており、その話を蛮奇さんも覚えていて下さったようでした。嬉しいですね。

 

 さてさてさて、街中を歩けばちらりと視線を感じたり感じなかったり。人里に住む妖怪達はこっそりとしたもので、あんまり一緒にいることもありません。付喪神やら紛れる妖怪やらが視線を送っているのでしょうが……どうも視線が多く感じます。

 ちょっと居心地悪く、身じろぎ一つ。往来の中にいるのにどうも人間さんからも視線を感じてしまい……駄目ですね自意識過剰も甚だしいかと。

 

 そんなこんなで、視線を感じつつそそくさと裏通りへ。ちょっと落ち着かなったのでふぅ、とため息一つ。

 やっと気になる感覚から解放されるかと思いきや、蛮奇さんから視線を感じます。

 

「やっぱり注目されてるし……」

 

 恨みがましそうなそんな声に、むーと膨れる私。ただ、たしかに一緒に行きましょうと誘ったのは私ですし、何も言い返せません。

 ぐぬぬと黙っている内に裏通りをするすると抜け、やってきました甘灯茶屋。相変わらずのかっこいい字に見とれてしまいそうです。

 さて、見とれている内に、入るわよと、暖簾をくぐる蛮奇さん。慌てて後をついていくと出迎えてくださるいつものおじいさん。

 

「おや、袖ちゃんかい? 今日はめかしこんでるねぇ」

「えぇ、ちょっとおしゃれを」

「そいつはいい事だ。そっちの赤いお嬢さんは友達かい?」

「そうですそうです。先程出会いまして」

「じゃあ今日は……」

「地下のほうで」

「はいよ、入んなさい」

 

 地下の方で、と言った時にちらりと蛮奇さんの方に視線がいきましたが、特に追及はせずに入れて下さるおじいさん。慣れた対応に追及しないのも、皆さんから好かれる理由の一つですね。

 梯子を下ると、落ち着いた雰囲気の明かりが灯る素敵な場所。蛮奇さんもおぉ、と小さく口を開けて驚いてます。やっぱり、どの方もこんな感じですよね。驚いてくださるとなんだか私も嬉しくなってしまいます。

 

 さて、コトリと席についてお品書きに目を通します。やっぱりいつもの白玉あんみつでしょうか、ついちょっと浮いている足をばたばたさせてしまいます。

 蛮奇さんは蛮奇さんで、すっと目を通すとこれ、と指を指します。指を差した先にはあんころ餅。なかなかいい所をつくといいますか、思わず浮気をしてしまいそうな位くらっと心が揺れてしまいます。しかししかし、非常に惜しいのですが、私は白玉に身も心も捧げた身。いまさら浮気なんて、浮気なんて……あう。

 

 っく、いまさら迷ってどうするのです。もう私は白玉にすると決めた筈。えぇ、そうです。もう迷ってはならぬのです。迷う時間はとうに──

 そんなところにお茶を運んできて下さるおじいさん。いつもはその心遣いがありがたいのですが、本日はもう少し待って欲しい所。蛮奇さんはついでとばかりに注文し、こちらに視線を送ります。

 

 さぁ、決断の時。もう、迷ってはいられぬのでしょうね……

 

 私は、断腸の思いでその商品名を口にしました。

 

「……白玉あんみつで」

 

 やはり、やはり離れられぬのです。私はあの白くてつやつやな食べ物からは逃れられないのです。白玉ならば溺れても良いと考えているくらいです。あ、余談ですが砂糖醬油かけて頂くもの大好きです。

 

 さて、そんな思いを知ってか知らずか、蛮奇さんの目の前にはあんころ餅。私の目の前には白玉がやってきました。隣の芝は青いなんてよく聞きますが、本当にあんこが、あんこが……

 

 視線うんぬんの話を先程しておりましたが、今回はその視線を送っていたのは私の様で、蛮奇さん身じろぎ一つ。

 そして、こっちを見てこう言いました。

 

「食べる?」

「頂きますっ! ……はっ」

 

 聞かれた瞬間に反応する身体。もう本能には抗えぬといいますか、願望が口をついて出てしまいました。あまりの素早さに蛮奇さんも少し引いております。

 引きつつも、箸であんころ餅をとって下さる蛮奇さん。そんな優しさに感謝しつつ、しっかりと味わおうと口を開きます。

 

「じゃあ……はい」

「あーん」

「え?」

「え? あっ……」

 

 二度目の驚いた顔。そして対岸には恥ずかしいあまりに真っ赤な私。これが対岸の火事……では、ありませんね。

 ともかく、ともかく。……や、やってしまいました。たまに紅魔館とかにお食事に行くとフランさんがやってくださるのでつい癖で……いや、そんな事を言っている場合では無くて! どうにかして挽回せねばなりません。ど、どうしましょう……?

 

 あわわわと、口を手で塞いでいると、蛮奇さんがこう一言。

 

「やらないの?」

「へっ?」

 

 そんな返しをすると、蛮奇さんがふっとそっぽを向きました。その顔は赤く、耳まで真っ赤。お互いにやらかしたと気づき、ちょっと沈黙。そして、私は今一度口を開きました。

 

「あ、あーん」

 

 は、恥ずかしい。これ凄く恥ずかしいですっ。早く終わってと思ってしまう程に恥ずかしい限り。向こうも向こうで恥ずかしいと感じているのか、ぷるぷると震え、顔をそむけて差し出しているのでなかなか進みません。

 悶絶するような時間が静かな空間を支配します。傍から見たら意味不明ですし、私たちも何でこうなったのか意味がわかりません。ただコチコチと時計が進むばかり。……うぅ、変な汗が出て来ました。

 長い時間をかけて、ついに蛮奇さんの箸が私へと到達。……よく考えるとこれ、間接……うん、考え過ぎはよくありません。えぇ、よくありません。ともかく、あんころ餅あんころ餅。

 そんな感じに呪文の様にあんころ餅が頭の中でぐるぐると。しかしながら、中々に味がはっきりしません。本当にあんころ餅ですかね、これ?

 と、そんな事を感じていると対岸の赤のというよりも真っ赤な妖怪さんが、ぽつりと呟くように聞いてきました。

 

「お、美味しい?」

「ひゃ、ひゃい!!」

 

 咄嗟に返事をしようにも、いろんな事が頭でぐるぐる。言葉が出てきません。何っを話そうものかと考えはするのですが、あぶくのように消えるのみ。もごもごとまごついていると、向こうも何も言わずにもそもそ続きを食べておりました。

 

 ちょっとした気まずい時間が流れます。……どうにかしたいとは思いますが、さて、どうしたものでしょう。

 

 向こうも向こうで、ちらちらとこちらを伺っている様子。うむむ、そうだ! 

 

 ぱっと閃いた私。以前より気になっていた事を聞いてみることに。

 

「蛮奇さんの食べたものって何処に行くんです?」

「……それ、今言う事?」

「へ?」

 

 またしてもはぁ、とため息をつく蛮奇さん。

 うぅぅ、また、やってしまいました。どうもこういう状況に弱いと言いますか、何を言っていいのか分からなくなってしまうと言いますか……蛮奇さんも呆れている様子。

 どうにかして突破口を見つけたと思ったのですが、抜けた先は袋小路。また沈黙が重くのしかかってきました。

 

 そんな沈黙をといたのは、

 

「……そんなものあれよ。気分」

「え?」

「さっきの話!」

「さっきの話って食べたものは何処にいくかっていう……」

「そうよ」

 

 ぷいっと、そっぽを向く蛮奇さん。顔はまたしても真っ赤。先程の質問で怒らせてしまったようです。

 

「あ、あの、ごめんなさい……」

「なんで謝るのよ」

 

 今日は蛮奇さんに迷惑を掛けてばかり……流石にここまでやってしまうと、私もどうしようもないといいますかもう取返しもつかないといいますか。怒って帰られてもしかたないのでは無いでしょうか?

 裁判の沙汰を待つが如くしずしずとしておりましたが、意外や意外。蛮奇さんはプッと吹き出しました。突然の変転に私は目を丸くするばかり。

変転に私は目を丸くするばかり。

 くくくく、と笑う蛮奇さんにあの、と声を掛けてみれば、愉快そうにこう返ってきました。

 

「なんかしょぼんとした袖ちゃんって……ツボに入る」

「なんでですかっ!?」

「いや、だって。ふふっ」

 

 腑に落ちませんが、どうにも知らず知らずのうちに蛮奇さんの笑いのツボに入り込んでいた様子。状況は打開できてなによりなのですが……うぅ、何と言いますか、ちょっと恥ずかしい。

 しばらく上機嫌で蛮奇さんは静かに笑うと、笑い過ぎで出た涙をぬぐいます。

 

「あー笑った」

「それは良かったですねぇ!」

「ありゃ、すねちゃった? ごめんね。悪気はないんだよ?」

「分かってます。分かってますけど!」

 

 もう場所が場所なら机をばんばん叩いて抗議をしたいくらいなのですが、流石にそんなことは憚られる場所。でも、ぶーぶーと文句を垂れるくらいなら許されるはず。というか、言ってやります。言わなければならないのです。

 

 そんなわけで、今度はこちらが怒る番……と思っていたのですが、ご機嫌な蛮奇さんを見てだんだんとどうでも良くなっていきます。

 我慢することだけが大人ではないにしろ、もうなんかどうでも良くなってしまえば、どちらでもいいですよね。うん。

 

 結局、いつもの調子に戻る私たち、ここが居酒屋でなかろうと、春でなかろうと基本的に女子二人よれば会話の花咲く。結局、会話を満開にして、長々と茶屋さんの一角をお借りしておりました。

 

 

「あー、楽しかった」

 

 なんて言葉は蛮奇さんの言葉。夕焼けに染まる赤い外套が非常によく似合っております。私も私で大満足。非常に楽しかったと言えるでしょう。

 暖かみのある夕焼けに手をかざし、今日の事を振り返る。どれもこれも九割九分下らないお話、けれどそんな積み重ねもまた大事な事なのでしょうね。ふとした瞬間に思い出して、ちょっと微笑む。そんな暖かい記憶を大事に大事に心の中に。

 

「いっぱい話しましたねー」

「そうねー」

「この後は予定あるの?」

 

 そんな事を聞いてくる蛮奇さん。当然あるはずが無く、ありませんよーと軽く答えます。すると、にやりと首なしの方、右手で小さい器を持つように丸め、くいくいと傾ける仕草。

 そんな仕草に私もにやけます。

 

 楽しい時間はまだまだ終わりそうにありません。

 

 

 さて、そんなこんなで良き春の日に、花咲かせたお話でございました。

 

 その後、そのままの勢いで人里の居酒屋に入ろうとすると、流石に……という答えが返って来る。二人して顔を見合わせると出て来る言葉が一つ。

 

「「あ」」

 

 この後、またしても蛮奇さんは笑い、私が拗ねる様になったのは別のお話。

 

 

 さてさて、そんなこんなで今回はここまで。ゆったりとした春の日に良き友達。嬉しい限りです。そんな積み重ねもまた日々を彩る綺麗な欠片。

 綺麗な欠片だけでなく不格好な欠片だってあります。それすらもきっと重ねて、輝き合って、また重なる。きっといつしか万華鏡のように、くるくると綺麗に綺麗になった欠片を見返すときがくるのでしょう。

 その万華鏡を覗いて、見返した時に笑えるように、恥ずかしくなれるように、毎日を素敵な事でいっぱいにしたいですね。

 

 いつしか覗く時を、楽しみに……

 

 ふふふ、ちょっと恥ずかしい台詞。ですかね?


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