やはり俺の異世界転生は命がけだ   作:ピーターパンシンドローム

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第9話

side八幡

 

第5層へと潜る前日、再び会議室に集まっていた。

 

「迷宮では番獣との戦闘が1番大変なのは分かってくれると思う。だが、番獣との戦い中に他の魔獣が乱入してくると余計戦いづらくなる。だからこれからは迷宮では2つのグループに分けて行動してもらう。番獣討伐隊と、それ以外の魔獣殲滅隊だ。」

 

葉山はホワイトボードに二つの部隊の名を書き、説明を続ける。

 

「番獣討伐隊はできるだけ体力と魔力を温存する為に他の魔獣との戦闘は避けてくれ。それの為に、魔獣殲滅隊にはできるだけ多くの魔獣を倒してほしい。」

 

それから葉山は一人一人の意見を聞きホワイトボードに書き込んでいった。

 

魔獣討伐隊は俺、葉山、雪ノ下、由比ヶ浜、一色、川崎、戸塚、戸部、三浦、海老名さん、相模の11人だ。正直相模が名乗りを挙げるのは意外だったが、葉山もあまり気にした様子ではなかったので俺も何も言わず会議は進んで行った。

 

ーーーー

 

 

side葉山

 

心地よい静寂を破るのは足が水を掻き分ける音のみ。

 

この第5層に降りた時、俺たちは言葉を失った。あたり一面には浅い水が張っており、樹々が道を作るように生い茂っている。天井は岩でできており、かなり大きい洞窟のようだ。天井から漏れる光が水面を照らし幻想的な光景が広がっていた。本来なら地中である迷宮に光が入り込むことなどありえないのだが。

 

それにしても歩きづらい。地面を踏みしめるたびに、足が泥に沈む。まだ一度も魔獣と遭遇していないのだが、みんなの顔には疲れが現れていた。この光景にテンションが上がっていた女性陣も既に口を開くものはいなくなっていた。地図とにらめっこして先頭を歩いていた俺は一度後ろを向き、みんなの顔を見ると励ますように声をかける。

 

「みんな、あと少しで番獣がいる広間に着く。その前まで行ったら一度休憩するから頑張って歩こう。」

 

そう言って前を向こうとすると、結衣が声を上げた。

 

「わぁ、凄く綺麗……」

 

前を向くと、段差のように2メートルほど下がっておりそこには紫色に発光する美しい花が咲き乱れていた。

 

結衣が走って近寄ろうとするが比企谷が結衣の腕を掴んだ。

 

「まて、そこへ行くのはやめておこう。なぜあそこだけあの花が咲いているのか分からない。怪しいものには近づかないほうがいいだろ。」

 

結衣は少し不満そうに頬を膨らませる。

 

「えー、でもこの先が番獣の部屋なんでしょ?」

 

「ああ、でも他の道を通ってもいける。少し遠回りになるがそっちを行こう。」

 

俺も比企谷の意見に賛成だったので、踵を引き返し別の道を歩いて行った。

 

ーーーー

 

side八幡

 

番獣の広間の前で葉山は足を止める。

 

「みんな、今から休憩時間とする。30分後にまたここに集まってくれ。」

 

俺たちは服が濡れるのも気にせず倒れこむ。

 

「僕もうしばらく歩けないよ……」

 

「ああ、泥がここまで歩きづらいとはな…」

 

「ありゃ、ぜぇ、ひきぎゃや君。ぜぇいぜぇい、この程度で、ぜぇ、へこたれるなんて、ぜぇ、だらしないわね。」

 

「もういいから休めよお前。」

 

俺は腰につけていた水筒を取り出し一気に飲む。

 

「はぁ、はぁ、はぁ。」

 

俺は呼吸を落ち着かせるとなんとなく周りを見渡す。すると移動中ずっと無言であった相模が1人で俺たちから離れていく。

 

1人でどこに行くんだ?

 

俺はなんとなく胸騒ぎがし、戸塚に一言言って相模の後ろをつけていった。

 

ーーーー

 

side相模

 

うちはあの綺麗な花畑の中にいた。地面は今まで以上にぬかるんでいて、動きづらいのだが私はそんなことを気にもせずに花を手にとって眺めていた。

 

なんて美しいのだろう。

 

なぜだか分からないが、この花々に心が吸い寄せられるのを感じる。

 

ふと、この花畑の中央に背丈の高い一輪の花が目に入る。この花だけは青色に発光しており、その存在は他の花と一線を画した。うちはその花へと歩いていき、そっと指で花弁に触れる。

 

その時、あたりに金切声が鳴り響く。

キィィィィィ‼︎

 

なに!?なんなの!?

 

うちはパニックになりながらどこから音が鳴っているかを探す。すると、それはすぐそばにあった。

 

ーーこの青い花だ。

 

この花は左右に激しく震えながら、なおも音を発生させている。

 

「ーーッ‼︎うるさい‼︎」

 

腰の剣を抜きその花を切り落とすと音は止まった。しかし、周り光景に目を疑った。

 

何もないのだ。

 

さっきまであたりに咲いていた紫の花も、目の前で切り落とした青い花も無くなっていた。うちは落ち着きを取り戻すのと同時に足に力が入らなくなりその場に座り込んだ。

 

葉山君のところに戻らなきゃ。

 

そう思い顔を上げると目があった。

 

ーー1つ目の巨人がうちを見ている。

 

すぐさま元いた方へ戻ろうとするが、そこにも巨人がいた。

 

囲まれている。それも5体の巨人に。

 

前方の巨人が棍棒を振り上げるのをみてゆっくりと目を瞑った。

 

 

ーーーー

 

 

 

 

来るべき時を待っても一向にそれはやって来ない。恐る恐る目を開けようとすると、大きな水しぶきが上がりそれを追うように地響きが起こった。

 

 

 

 

 

side八幡

 

俺は影からの黒い手を操り、巨人の首を捻りそのまま後方に倒す。俺は巨人の股を走り抜けて、相模の元までいき相模の肩を揺する。

 

「相模!立てるか!?」

 

相模は俺を見ると、目に涙を浮かべながら叫ぶ。

 

「比企谷‼︎ お願い、うちを助けてよ!」

 

俺は一体の巨人の足を影の手で引っ張り転ばせる。

 

「俺がお前の逃げる時間を稼ぐ。だからお前は葉山達を呼んできてくれ!」

 

相模は顔を上げ、巨人が倒れているのを見ると俺の話を最後まで聞かずに走り出した。

 

ーー番獣がいる方へと。

 

違うそっちじゃない!

相模を止めるために声を出そうとするが、巨人の声にかき消される。

 

「ギャァァァス!」

 

巨人は自分の獲物を取られたことの怒りか地面を揺らすほどの雄叫びをあげた。

 

くそ‼︎このままだと相模が殺される‼︎

今俺の目の前に巨人が2体、左右に一体ずついる。正面一体が大きく足を蹴り出すが、俺は全力で横に飛ぶ。それに続き、正面のもう一体が棍棒で薙ぎ払うのを何本もの影の手でなんとか受け止める。今度は右の巨人が棍棒を振り下ろすのをバックステップ間一髪かわす。

 

ただでさえ5メートル以上ある巨人の攻撃に加え、かなりぬかるんでいる地面。それに先ほどから影の手を出し続けており、体力魔力ともに限界が近づいていた。

 

左の巨人が棍棒で薙ぎはらってくる。俺は走って避けようとするが、

 

ズブッ‼︎

 

一部だけやけに深い泥に足を取られる。

 

まずい‼︎

 

迫ってくる棍棒に対して目を閉じた。

 

「ーーッ‼︎」

 

体に熱を感じた瞬間、凄まじい速度で樹木に叩きつけられ、その瞬間呼吸が止まる。

 

俺は力なく地面に倒れこむ。目の前の水が赤に変わっていくのを見て、かなりの傷を負ったことがわかった。もう痛みも何も感じない。

 

すると、 俺の体が宙にぶら下がる。力なく視線を上に動かすと世界が反転していた。どうやら巨人が俺の足を掴み持ち上げたみたいだ。巨人は心なしか口元を歪めているように見える。

 

 

巨人が棍棒を振り上げた次の瞬間、全身に衝撃が走り俺は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 


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