やはり俺の異世界転生は命がけだ   作:ピーターパンシンドローム

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第10話

side葉山

 

俺たちは番獣の広間の前に集まっていた。

 

比企谷と相模さんを除いて。

 

おかしい。比企谷は1人を好むが時間はしっかり守るやつだ。だが今こうして姿を現していないという事は何か面倒ごとに巻き込まれているのだろうか。

 

「ヒッキーとさがみんどこに行ったのかな?」

 

「さっき八幡が相模さんを追いかけて向こう行ったの見たよ」

 

背中に嫌な汗が流れるのを感じる。

 

比企谷は強い。それも、その辺の魔獣には負けないくらい。それは一緒に訓練した俺ならよくわかる。だが俺は底知れぬ不安を感じているのだ。

 

「よし、2人の行った方へ向おう。」

 

 

 

 

しばらく戸塚が指をさした方へ歩いていると、大きな水の音が聞こえてきた。何か大きな物を水面に落としたような音だ。足速にその音をたどって歩いていくと俺は面を食らった。

 

一つめの大きな巨人が比企谷の足を持ち、棍棒で殴り付けようとしていた。

 

何人かの少女が悲鳴を上げたようだが、その間にも俺の身体は自然と動いていた。

 

俺は呪文を詠唱し光の弓と矢を取り出すと弦を思いっきりひく。

 

間に合え‼︎

 

放たれた矢は直線を高速で進んでいく。

 

ブスッ‼︎

 

矢が巨人のこめかみを貫通すると、巨人は比企谷を離し後ろに倒れた。

 

「結衣!比企谷を頼む‼︎優美子と姫菜は結衣のサポートを‼︎」

 

「隼人くん、俺たちは?」

 

「それ以外の人は残りの3体の巨人を倒すぞ‼︎」

 

結衣たちが比企谷の元へ走っていくと、一体の巨人が結衣に棍棒を振り下ろそうとする。

 

刹那、巨人を囲うように無数の氷柱が宙に出現する。

 

「あなたたち、私の大切な人を傷つけ、さらに大切な友達までにも手を出そうとした事を後悔しながら死んでいきなさい。」

 

雪乃ちゃんが突き出している右手を握ると氷柱が巨人の身体を貫く。

 

巨人は立ったまま絶命した。

 

雪乃ちゃんが倒すのとほぼ同時に、俺の視界の隅に大きな火柱が上がった。

 

ギャァァァァァァ‼︎

 

巨人は水辺にのたうちまわって何とか火を消すと、俺たちから逃げるように走る。

 

「逃がすわけないでしょ?」

 

戸部が右手を突き出して詠唱をする。

 

ーー巨人の眼から火柱が飛び出した。

 

巨人が膝をついて顔を覆うが、すぐにまた大きな火柱が巨人を包みついに動かなくなった。

 

戸塚といろはを見ると、巨人と戦っていたがすぐに決着がついた。

 

2人が放ったカマイタチが巨人の首にあたり鮮血が噴き出したのだ。

 

巨人は倒れ、しばらく身体を痙攣させているがやがて死ぬだろう。

 

比企谷の元へ向かうと、比企谷は結衣に抱かれながら荒い呼吸をしていた。

 

「比企谷‼︎」

 

結衣がしばらく治療魔法を唱え続けると比企谷は弱々しく眼を開けた。

 

「ヒッキー‼︎」

 

結衣が抱きつこうとするが、比企谷はそれを手で止める。

 

「葉山…相模が1人で番獣の広間へと向かった…」

 

何だと…

 

俺は全身から血の気が引くのを感じながら走り出した。

 

俺の頭に最悪の未来がよぎる。

 

生きててくれ‼︎

 

 

ーーーー

 

side相模

 

うちはわけも分からず走ると、大きな広間に出た。相変わらず地面には水が張っており、周りには植物が生い茂っている。だが、今までと違うのはうちよりも大きな岩がそこらじゅうにおいてある。

 

ここにはあの巨人もいないから安全だろうし、ここにずっといよう。

 

うちは、もともと番獣なんかとまともに戦う気なんてなかった。参加すれば葉山くんの好感度が上がると思ったから参加しただけなのだ。だから後方支援とかいって安全なところから少しだけ魔法を撃とうと考えていたのに、あんなめに会うなんて。

 

岩に寄りかかるように座ったその瞬間、

 

ザブンッ‼︎

 

ん?何だこの音。

 

面倒くさいけど、身体を起こし岩から顔を出し後ろをのぞこうとする。

 

ドゴンッ‼︎

 

大きな硬いもので殴られたような強い衝撃と共に前に吹っ飛ばされた。

 

水面に音を立て転がる。

 

わけも分からず後ろを振り向くと、そこにはまるで蟹を彷彿とさせる魔獣がいた。

 

4本の尖った足の上に人型の胴体、2本のハサミに牙むき出しの口。全身は刺々しい甲殻でおおわれている。

 

足元に転がる砕けた岩を見て理解した。

 

こいつ、岩ごとうちを殴った⁉︎

 

どんな力してんの!?

 

うちは本能的にこの魔獣には勝てないと思い走り出す。

 

が、魔獣は8本の足を駆使して凄まじい速さで動き、ハサミの先でうちの襟を掴むと反対側に投げる。

 

瞬間、全身に衝撃が走り呼吸が止まる。

 

岩に叩きつけられたのだ。

 

うちが目を開けると、魔獣は腕を振り上げている。

 

剣を抜きすぐに魔獣に立てるが、全然魔獣の甲殻を破ることができない。

 

次の瞬間、鈍い音が頭を反響する。

 

え、ハサミで殴られた?

 

それも加減している。先ほど岩を砕くほどの力を目の当たりにしているのでそのくらいわかる。

 

呆然としたまま顔を上げると、魔獣と目があった。魔獣は口元を歪めていた。

 

 

 

ーー笑っていたのだ。

 

 

うちはまた魔獣に顔を殴られる。

 

人生で初めて顔を殴られたことに対するショックか、自然と涙が出てくる。

だが魔獣はうちの反応を見てさらに殴る速度を速めた。

 

あたりに血が飛び、魔獣のハサミも朱色に染まっているが魔獣は殴り続ける。

 

「いだぃよぉ、だれが、だずげでぇ」

 

 

泣きながら懇願したが、また殴られた。

 

 

 

 

 

何度も何度も何度も何度も何度も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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