やはり俺の異世界転生は命がけだ 作:ピーターパンシンドローム
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「…ん!…まん!はちまん!」
心地よい声に目を覚ます。すると、窓越しに雲が見え、顔を正面に向けると戸塚が頬を膨らめせて俺のことを揺すっている。なにこれかわいい。ああ、なるほど、ここは天国か。雲の上だし、トツカエルモいるしね!
「先輩、顔緩みきっていてキモいです」
…訂正。俺の左隣に小悪魔がいる。ここ天国じゃねえじゃん。
「なんでお前もいるの?」
「あー!ひどいです!私は葉山先輩に許可もらったからいいんです!」
そう言って一色は頬を膨らませる。なにこれあざとい。
受験も無事に終わり、それぞれが進路を決めたこの3月に、われらが総武高校は毎年卒業旅行というものがある。しかしこれは学校主催ではなくあくまでも生徒主催のイベントである。よって俺はそんな物には参加せず家でゴロゴロだらだらすると心に決めていた。
…はずだった。
俺が部室で卒業旅行には行くつもりがないと言ったら雪ノ下と由比ヶ浜が捨てられた子犬のような目をし、その日家に帰ると
「ごみいちゃんがいかないなら、小町もう口きかないからね!」
と小町に告げられてしまったのだ。
よくよく話を聞くと雪ノ下と由比ヶ浜から小町に連絡があったとか。
そうして俺の包囲網(小町)が完成したのだ。
…やだ、俺の包囲網狭すぎ!?
そんなこんなで今は飛行機の中である。
この飛行機には総武高3年生+一色だけではなく、一般の人も乗っている。だからあまり大きな声で話すこともできないのだが…
「隼人くーん、俺まじ、沖縄とか初めてっしょ!めっちゃ楽しみだわー!」
「戸部、うっさいし!」
斜め前にいる葉山グループは相変わらずのハイテンションだ。てか戸部、お前俺が寝る前からずっと三浦に注意されてないか?
「沖縄…ヒキガエル君は紫外線対策は大丈夫かしら?」
「ちょっと、雪ノ下さん?俺が沖縄の太陽で干からびると言いたいんですか?」
「あら、干からびるだけじゃないわよ?殺菌されないようにもしなければね、比企谷菌。」
「今日は俺のトラウマのオンパレードですか…」
いつもより饒舌な雪ノ下は口角が上がりきっている。こいつもこいつで楽しみなんだな。
しばらく雪ノ下たちと話していると、俺の席の側の通路に黒いコートを着た体格のいい男が歩いてきた。その男はコックピットの前で立ち止まりこっちを振り向いた。
次の瞬間、
「動くんじゃねえ!これからこの飛行機は〇〇に墜落させる!」
男は銃を客席に向けながら怒鳴った。
おいおい…なんで銃なんて持ち込ませてんだよ…
落ち着け、まずは状況確認だ。
周りを見ると、戸塚も一色も、あの雪ノ下さえ体を小さくさせて震えている。無理もないな…俺だってかなり怖い。ふと、斜め前を見るとあるやつが此方を見ている。
ーー葉山だ
その目を見て葉山が何をやろうとしているのか分かった。ああ、やっぱりこいつは本物のイケメンだな…
side葉山
優実子も結衣も姫菜も今にも泣き出しそうだ。戸部はそんな姫菜の肩を抱き寄せ、大丈夫と繰り返し慰めている。
くそ、このままだとみんな墜落で死ぬ…
なにかみんなを助ける方法はないか!?
こんな時、比企谷はどうやって行動するのだろう?俺はあいつの席をこっそりと見る。しかしあいつの席をの近くで雪乃ちゃん怯えてる姿が眼に入ったその時、全身に一気に血がまわり覚醒していく。
ああ、今度こそ俺は間違えない。
ーー俺は葉山隼人のやり方で、雪乃ちゃんを助ける。