異聞 艦隊これくしょん~艦これ~ 横鎮近衛艦隊奮戦録   作:フリードリヒ提督

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どうも、天の声です。2日ほどお休みを頂きました。

青葉「どうも恐縮です! 青葉です!」

いやー、興味深いボカロ劇場と出会いまして、そちらの方にも時間を割いておりましたが、プロットは完成しておりますので御安心下さい。

※ご興味がある方はようつべかニコ動で“茜とひかりの見る空は”で検索してください。

青葉「尺長すぎですよあれ。」

言うんじゃない。俺も理解するのと自分の中で納得するのに時間かかったんだから。

青葉「あっ、はい。」

まぁ、今回と次章までは一応予定調和という事になりまして、次章で第三部は終了です。その後閑話休題も挟みまして、第四部という形になりますが、第四部からは作風を変えます。

青葉「どうなるんです?」

大凡の艦娘は出し終えてしまったので、第四部以降は艦娘の編入が伴う部分とストーリーに必要な部分のみを切り取って構成します。なので話の連続性よりは、ストーリー自体の進行度を優先する、という形にシフトします。

青葉「成程、そう言う事ですか。」

と言うのは私自身ちょっとネタ切れ気味でして、あと尺も長くなるにつれ、追いかけて下さる読者さんの方を自然と取捨選択する形にもなってしまっているので、ここで方向性を変えようかなと思い立った次第です。

???「時には思い切りの良さも必要ですよね!」

青葉「えっ、どちら様ですか?!」

???「中々声がかからないので、あかり、待ちきれなくなっちゃいました。」

あー、今回ゲストとして呼んでた紲星あかりちゃんだね。たまにはこういうのもアリかなって。

あかり「青葉さんは初めましてですね。」

青葉「そ、そうですねぇ・・・どこから連れて来たんです?」

メタい事言うと中の人が好きなだけだよ。
※中の人が契約していると言う訳では無く、中の人の普段のVCも肉声メインです。

青葉「ホントにメタいです。」

あかり「あ、すみません。途中でお話をとぎってしまいましたね、続きをどうぞ、マスター?」

あ、うん。
 話の連続性を見ておられる方がいらっしゃった場合、第四部以降は御不興を被るかもしれないと思いまして、今回の前書きで解説代わりにご説明差し上げた次第です。
これまで自分自身、そう言った話の連続性を重視してはいたのですが、何分どこでどう絡み合わせようかとまでは自分でも考えておらず、その点しどろもどろになりながらどうにかここまでやって来た訳です。

 勿論日付が断続する事もありますし、後出しのような形が今後増えるかもしれない、と言う事だけでも頭に入れて頂ければそれで大丈夫です。
もう一つ付け加えれば、横鎮近衛艦隊の強さが、今作中に於けるパワーバランスを加味しても際立って高く、並大抵の艦隊では相手にもならない可能性の方が高いから、と言うのも理由の一つではあります。

 駆逐棲姫や南方棲姫と言った優秀な姫級が指揮するなら或いはと言うレベルですので、正直戦闘描写と言っても単調で面白味も無い場合がもしかしたらこれまでにもあったかもしれません。
その場その場の戦略的要件は変えながらやってはいるのですが・・・そうであったら申し訳ないと思います。

青葉「あなた自身は、パワーバランスを全体的に見ながらやっているのですよね?」

 そうだね。勿論パワーバランスだけじゃなくて、サイパンの地政学的戦略性の高さを生かす為に、艦隊の戦力として戦略性の強いモノを投入したりはしているし。例えば空挺部隊や戦略爆撃機なんかがそのいい例。
ただ、それらは使用用途が限定される、本当に戦略目的の部隊で、実際に強いかと言えば、強いけどすぐ切れるカードじゃないってのが本音の所。

 つまり艦隊に於けるパワーの方が重要なんだけど、前々章の時も提督無しで駆逐棲姫や南方棲姫の挟撃を2時間にも渡って凌いでいたように、艦隊自体決して弱くはなくて、そこに提督が加わっている事で一つにまとまっているようでも、実態的に言えば、他の艦隊とは比べ物にもならない位、全体としての練度も兵力としての質も高い。
姫級、それも頭の切れる個体でなくては、彼らに打ち勝つのは難しい。

それこそ不意に遭遇するような小規模梯団だとか、ほっぽちゃんの取り巻き程度で勝てないのは自然なこと。

 でもそれが今後何度も起こりうるとしたら、それは画一的になり過ぎ、読者様にとっても面白くないのではないか。何れ飽きる物を書く必要は、何もありはしないのだと言う結論に至りました。

 長々と理由の方を書き連ねましたが、理由としては以上となります。
要約すれば
・全体のストーリーとして不要な部分を削り効率化したい
・戦闘に幅を持たせたい
 ⇒その為に勝ち確ゲーをそぎ落とす
・尺が長くなるにつれ、読者の数が一定になっている為、その“一定層”のシェアを取る
の、3点です。

あかり「綺麗に纏める事が出来ましたね、マスター!」

青葉「距離感近いですね。」ムッ

まぁまぁ。綺麗に纏めた所で本編行っときますか。
以上ご報告とさせて頂きます。今からのご理解の程を宜しくお願い致します。

因みにこの章までは話は連続していますが、テストタイプとして次の章はこの章から話が飛ぶ予定です。
ではスタートコールはせっかくだしあかりちゃんにやって貰おう。(カンペの合図)

あかり「あっ!? えっと、分かりました!」

青葉(これは無茶振りィ♪)

あかり「えっと・・・はい、行きます!」

第3部13章、始まります!


第3部13章~闇を覗く者—発動、第十一号作戦!—~

~前回までのあらすじ~

 

 2054年に入り、アルウスの亡命やらヒューマントレーダーの検挙やら、ソロモン諸島での度重なる激闘に北方海域への遠征、端的に言っても、酷使に酷使を重ねられている感の強い横鎮近衛艦隊。

数度の激闘を経て戦力を増大し続けてきた彼らであったが、その一方で提督の葛藤やらなんやらですったもんだもあり、艦隊創設2周年の節目を迎えた。

直人も、他の艦娘達も、徐々に心の葛藤に整理を付け始め、深海棲艦隊との和睦の芽は、徐々に出始めていた。

 再び行われるベンガル湾および東インド洋正面への大攻勢、そこで横鎮近衛艦隊は特命を受けて出動する事が内示された。

 だがその一方で、金剛と鈴谷による、提督の|My(マイ) |Son(サン)に対する脅威は、深海棲艦と同等か、それ以上に、日に日にその脅威度を増しつつあるのであった。

 

 

4月17日午前10時02分 中央棟2F・提督執務室

 

提督「作戦内示が遂に公式化されたか。」

 

大淀「はい。作戦開始期日は、この文面のみでは明かされていませんが。」

 

提督「成程な。我々は味方の初動による混乱に乗じる必要がある。どの位混乱させられるかが勝負だが・・・。」

 

大淀「余り期待されない方が宜しかろうとは思いますが・・・。」

 

提督「いや、それは駄目だ。一般的な艦娘艦隊が我が艦隊より実力で劣るとはいっても、今回はそれを信用しなければ、我々も危ないのだからな。」

 

大淀「失礼しました!」

 

提督「分かればよい。」

 

その手に“第十一号作戦”の作戦内示書を手にしながら直人は言う。

 

 

大海令89号

発:艦娘艦隊大本営

宛:艦娘艦隊諸基地司令部

 

『第十一号作戦』の発動を正式決定す。

各基地司令部は命令書を開封した後、記載のX日を以て作戦を実行出来るよう、関係各所及び隷下艦娘艦隊に下令せよ。

なお、以降の通信は戦時回線のみを用い、暗号化は必須とす。

 

 

提督「で、これがその“諸基地司令部”に渡っている筈の、作戦内示書な訳だがね。俺はもう何日も前に貰って読んだ。期日は4月25日―――。さて、準備を始めるとしよう。後発組なだけその分余裕もある。仮泊設備等々もしっかり準備するとしよう。」

 

大淀「承りました。」

 

金剛「Oh・・・? 積み荷を回収するだけネー?」

 

提督「なーにを今更。その為に検討もさせたろうが。」

 

金剛「なんで“仮泊装備”なのデース?」

 

提督「一つは長丁場が確定な事、もう一つはディエゴガルシア島自体が泊地として適している事。もう一つ―――」

 

金剛「・・・?」

 

提督「仮拠点化した方がお前達も休みやすかろ?」

 

こう言う所で人道提督の本領発揮である。

 

提督「そう言う事だ、分かるな?」

 

金剛「そうデスネー。」

 

提督「準備は万全に、特に今回はな。それに―――」

 

金剛「・・・?」

 

提督「今後あるであろう、大遠征の為にもな・・・。」

 

金剛「何かあるネー?」

 

実はこの時、直人はある大規模な作戦について、密かに研究するように命じられていた。その規模は今回の、横鎮近衛艦隊の行動を含めた総規模より遥かに大きな、過去最大規模の大作戦であったが、今するべき話ではないだろう・・・。

 

提督「―――さぁな。」

 

金剛「ンー? 提督が私に隠し事って珍しいネー?」

 

提督「仕事するぞ。」

 

金剛「ムー。」

 

結局金剛にも、この事は話をしなかった。実際には彼の私室には金庫が一つあり、その中に膨大な書類があったのだった。

 

提督「大淀、次の書類を。」

 

大淀「はい。資源補充に関する決裁書です。」

 

提督「大迫さんか、出さんと怒られそう。」

 

大淀「その通りですね。」

 

提督「へーへー。」

 

 

ウ~~~~~~~~・・・

 

 

提督「警報だと、状況を確認しろ!」

 

金剛「OK!」

 

大淀「はいっ!」

 

金剛と大淀が状況確認に飛び出し、直人も窓の外を見た。

 

提督「空襲警報だと・・・?」

 

久しく鳴らなかった空襲警報。尤も、2回ほど機器のメンテ中に誤作動した事はあったが。

 

 

ピーッ、ピーッ、ピーッ

 

 

提督「ッ!」

 

卓上のホログラムツールが着信を告げる。見ると発信元はグァム島だった。

 

提督「―――こちら提督執務室。」

 

アイダホ「“提督か、良かった。深海棲艦の空襲だぞ! 誤報ではない。”」

 

提督「敵だって? 一体どこから?」

 

アイダホ「恐らくニューギニア方面だ、大型機の編隊がそちらへと向かっている、こちらも敵艦載機群の攻撃を―――」

 

そこで通信が途絶えた、恐らく通信設備を破壊されたのだろう。

 

提督「まずいな。」

 

すぐさま直人は全島通信に切り替えて呼びかけた。

 

提督「サイパン島在地全部隊に告ぐ。空襲警報は誤報にあらず。繰り返す、空襲警報は誤報にあらず! 航空隊は直ちに緊急発進(スクランブル)、防空砲台は各砲台陣地ごとに射撃管制の指示を待て! なお、グァム島に敵艦載機の来襲ありとの急報あり、周辺海域に対し索敵攻撃の実施も用意せよ!」

 

大淀「“提督!”」

 

続けてインカムで大淀から通信が入る。

 

提督「大淀は敵戦力の把握に努めろ、金剛は艦隊を率い即時出撃だ! 急げ!!」

 

金剛・大淀「「“了解!”」」

 

金剛にもついでに指示を出し、航空部隊及び第一水上打撃群が緊急出撃した。

 

柑橘類「“にわかに忙しくなってきたな、管制塔のレーダーも捉えてる。”」

 

提督「規模はなんぼのもんじゃい?」

 

柑橘類「“今回は厳しいな。数およそ950、全部高度1万以上だ。第二梯団が1000以上、やはり高度は1万を超えてる。要撃は今からだと難しいぞ。距離が既に300kmを切ってる。”」

 

提督「分かった。」

 

柑橘類「“提督!”」

 

提督「どした~。」

 

柑橘類「“お前んとこの艦載機も出して貰えないか。”」

 

提督「噴式震電か?」

 

柑橘類「“頼む。”」

 

提督「・・・分かった。出そう。」

 

柑橘類「“本当に助かる。”」

 

提督「何、埋め合わせは今度して貰うぞ~。」

 

柑橘類「“やれやれ、こりゃ頼むんじゃなかったかな?”」

 

提督「もう遅いからな。」

 

柑橘類「“わーってるよ、ホレ、早くしな。”」

 

提督「任せろ。」

 

軽口を叩きあいながらの会話を終え、直人は執務室を飛び出し、鈴谷の艦首格納庫へと向かった。

 

 

10分後、西沢広義中尉の率いる『紀伊』艦戦隊180機が全機展開し、蒼空を駆け上がっていく。

 

提督「久しぶりやなホンマ。」

 

金剛「“第一水上打撃群、出撃するネー!”」

 

提督「健闘を祈る。」

 

鳳翔「“基地航空隊、展開を開始しました!”」

 

提督「柑橘類中佐は?」

 

鳳翔「“改装疾風丙型で出撃しました!”」

 

提督「まぁそうなるだろうな・・・。」

 

柑橘類中佐は指揮官機として配備された四式戦闘機『疾風』一型丙に乗っているが、その武装はドイツから以前提供された機関砲によって互換されているのである。

 

即ちホ-155 30mm機関砲はMK 108に、ホ-5 20mm機関砲はMG151/20にそれぞれ換装されているのである。そんな強力な機体を余しておく事を柑橘類中佐が良しとする訳もなく、従って直人も柑橘類機が離陸する事は読めていた。

 

提督「勝てるとは思うが、被害は想定しないとな。」

 

鳳翔「“油断なく参りましょう。”」

 

提督「そうだな。」

 

 

戦いは苦戦を強いられた。

 

グァムで先に捉えたとはいっても自己の要撃に手一杯となった講和派深海棲艦隊の支援が望めず、しかも高高度を飛行する敵の迎撃は困難を極めた。タイプはよりにもよってB-29 スーパーフォートレス(ベア)であり、高高度性能に秀でる敵機に対し、対抗できるのは最早噴式震電改二しか無いというのが現実だった。

 

しかし紀伊戦闘機隊は奮戦を重ねた。この高度でも水平最高速790kmにも達する高速機は、ジェット機であるという事を十全に生かして敵の迎撃を効果的に行った。これにはさしもの敵機も混乱し編隊を乱し、後続の到着までの時間を稼ぐ事に成功した。

 

柑橘類中佐の疾風を初めとする要撃機は、散り散りになった敵編隊に中隊毎に襲い掛かり、瞬く間に戦場は火球がちらつき始めた。

 

この時点で戦場に到着したのは紫電改と疾風のみ、零戦五四型と屠龍丙型、合わせて160機が未だに上昇中であった。

 

 

10時42分 司令部前トンネル内・防空司令室

 

提督「“管制塔、敵編隊は防ぎきれそうか?”」

 

管制塔「“かなり厳しそうです。漸く屠龍と零戦が第二梯団と会敵した段階ですので・・・。”」

 

提督「“そうか・・・。”」

 

横鎮近衛艦隊の司令部から飛行場までは地下式のトンネルで直通されているが、このトンネルは何度か空襲を受けた経験から拡張され、防空壕として本格的に機能するように横穴が掘られていた。

 

大淀「提督、間もなく、高射砲台の射程距離です。」

 

提督「“・・・上空の各部隊長機に対して、注意するようにこちらから伝える。”」

 

大淀「分かりました。」

 

高射砲台に配備されている火砲は、艦艇用の四十口径八九式十二糎七高角砲が主体だが、これはあくまで中高度付近までの話、今回のように進入高度が高い場合、陸軍の高射砲の出番と来る訳である。

 

その主力は数少ないB-29に対抗できる高射砲であった三式十二糎高射砲を初めとし、九九式八糎高射砲、十四年式十糎高射砲、四式七糎半高射砲がその中核を担う他、防空能力強化を図って中央に掛け合った結果、紀伊用のものとして以前開発され、今回追加で送られてきた、五式十五糎高射砲が僅かながら配備されているのだ。

 

これだけでも、このサイパンが内南洋の試金石として直人の手で要塞化されている事が良く分かる。防空砲台もその数179か所、しかも狭い島内である為、地下式の弾薬庫とトンネルで結んで狭い範囲に数個のものを集約させた密集態勢である。これにより砲火をより集約する事が可能ともなるのである。

 

提督「“だが、陸軍高射砲の配備されている砲台は92か所しかない。それに179か所とはいっても、沿岸砲を兼ねた高角砲である場合もある。その数でさえ42か所、何とも言えんな。”」

 

大淀「射撃管制を行いましょう。」

 

提督「“そちらは頼む、俺も艤装の高射砲を活用する事としよう。折角動かしてるんだ、使わにゃ損だ。”」

 

大淀「そうですね。」

 

大淀はそれ程危機感を覚えていた訳ではない。勿論緊張はしているが、いつもの調子の、あの提督がいればと言う想いがあった。

 

大丈夫、きっと何とかなる―――大淀もそう信じて疑わなかったのである。

 

 

提督「要撃中の各機へ、もうそろそろ高射砲が撃って来るぞ、留意せよ!」

 

言いつつ彼も高射砲の狙いを定める。紀伊と砲台に配備されている五式十五糎高射砲は、射高19,000mを誇る日本陸軍最強の高射砲であり、これをウルツブルグレーダーと連携させる事により高い射撃精度を叩き出すようになっている。

 

提督「投弾前に落とせるかな・・・。」

 

そう言う間に、サイパン島南端の高射砲台が射撃を開始、それに呼応するように紀伊も、射程に入った高射砲台も順に対空砲火を撃ち放つ。度重なる防空戦闘によって大幅に高度を落としている敵機も少なくなく、そう言った相手を、八九式高角砲が迎え撃つ。

 

提督「敵爆撃進路、基地司令部施設! 関係各所の人員は速やかに退避せよ、急げ!!」

 

レーダー標定しつつそれを見破った彼は、すぐさま避難指示を出す。

 

最早島の各所から猛り狂った様に砲弾が吐き出される。敵編隊は予想をはるかに上回る弾幕を前にして編隊が大きく乱れ、投弾コースを取り直そうとするものが続出、それをしなかったのは、撃墜された機体のみであったほどであるからそのし烈さが窺い知れるだろう。殊にレーダー標定された紀伊の高射砲によって立て続けざまに敵機が撃墜される様は、島中で快哉を叫んだ程である。

 

100年以上前のあの日とは大違いの物量。

 

それが、サイパンにはあったのである。

 

 

―――結局、防ぎ切る事は出来なかった。

 

圧倒的な機数で迫る敵爆撃編隊に対し、猛烈な対空砲火で応じたサイパン島だったが、損傷による投棄した爆弾や、当てずっぽうに放たれた爆弾が島内に多数弾着、被害こそ絨毯爆撃されるよりマシであったが、沿岸砲台の42か所、防空砲台の38か所を初めとし、多数の損害を生じた。重巡鈴谷も爆撃の標的となったが、ドックに係留されていた為に鈴谷自身に被害が及ぶことはなかった。

 

だが鋼材貯蔵庫に爆弾2発が直撃し、資材が失われたのは無視出来る事では無かったと言える。他にも造兵廠の施設にも損害が及び、ドック2機が使用不能、更に造兵廠建屋にも1発が直撃し、機材の一部を焼失してしまったのである。

 

一方で出撃した第一水上打撃群は敵機動部隊を発見する事が遂に出来なかった。緊急出撃しグァム東方に展開したまでは良かったものの、索敵機が敵発見の報告を齎す事は、遂に無かったのであった。

 

 

提督「―――そうか。出撃中の全部隊は帰投せよ。」

 

金剛「“了解ネ。”」

 

提督「はぁ・・・。」

 

大淀「大丈夫ですか?」

 

提督「俺は大丈夫。しかし出撃前だってのに大変な事になったな。」

 

大淀「戦いは相手があっての事ですから。」

 

提督「そうだな。」

 

大淀「被害と戦果の集計はもう暫く御待ち下さい。」

 

提督「うん、正確に頼む。」

 

大淀「お任せ下さい。」

 

飛龍「ありゃー、派手にやられちゃったね。」

 

提督「そうだな。」

 

今直人がいるのは鋼材貯蔵庫の前である。資材の貯蔵は普通にインゴット方式であり、燃料は当然液体なので、隣の燃料貯蔵庫に被弾しようものなら大変な損害が出る所だったのである。

 

提督「燃料タンクの隣に着弾させんなよなぁ・・・。」

 

直人がいる所は入り口前なのだが、その入り口から見て右側の3階部分が崩落していた。

 

飛龍「タンク凹んでるよ提督・・・。」

 

提督「そうなんだよね、もうちょっとで穴空くかも知れなかった。」

 

弾片防御仕様にしておいた燃料貯蔵タンクでも冷や汗ものの至近距離で爆発したのであった。

 

提督「損害復旧にどの位掛かるかな。」

 

明石「ま、長いと1ヵ月ですかね。」

 

提督「おっ、明石か。」

 

声を掛けられて見ると明石が妖精さん達を率いてやって来た。

 

提督「造兵廠の修理?」

 

明石「いえ、まだ補修レベルです。」

 

提督「と言うと?」

 

明石「建屋の損傷が酷くて、とりあえず補修しないといけないんです。本格的にやろうと思うと時間が・・・。」

 

提督「そうか・・・。」

 

明石「では失礼しますね。」

 

提督「ご苦労様。」

 

軍帽を被り直して鋼材貯蔵庫に入る明石達を見送る直人であった。

 

大淀「ところで、出撃は予定通り?」

 

提督「当然だ。この程度で出撃を先送りにしたとあっては、敵の思う壺かもしれん。」

 

大淀「我々の攻勢が、見破られているという事ですか?」

 

提督「可能性として否定しがたい話だ。我々がここから出撃している事は深海棲艦も知ってて然るべきだ。それも鈴谷という特徴的な兵器を有するのだから。そこで先手を打ってきたとしても不自然はない。予定に変更はない。鋼材に関しても問題は無いからな。」

 

大淀「分かりました。では失礼します。」

 

提督「うん、そちらは任せたぞ。」

 

飛龍「航空隊の損害については聞かないの?」

 

提督「中佐からもう聞いたよ。」

 

要撃に出た基地航空部隊は、その総数527機の内73機を喪失した。この内搭乗員の死者32名。まだ損害としては少ない方と言える。

 

飛龍「柑橘類中佐も仕事が早い~♪」

 

提督「と言うかまだ手伝ってたんだ?」

 

飛龍「鳳翔さんだけだと、何かと大変そうだしね。」

 

提督「確かにそうだな・・・。」

 

基地航空部隊をその指揮下に持つ鳳翔だったが、1000機を超える航空部隊ともなれば、やはりその管理にかかる労苦は並大抵ではない。

 

誰かが手伝わなければ今頃鳳翔も過労で何度となくぶっ倒れている所である。

 

 

が、ここで一つこの空襲の後日譚があった。と言うのはその2日後、実は柑橘類中佐機の残骸がサイパンに打ち上げられたのである。

 

4月19日15時22分 造兵廠近くの海岸

 

提督「どういう事なの・・・。」

 

柑橘類「・・・。」

 

飛龍「その、メンツが立たないから黙って置いてくれと・・・。」

 

提督「言うてる場合かと。補充の手配もせにゃならんと言うに。」

 

柑橘類「すまん・・・。」

 

提督「今後こう言うのは無しにしてくれ。ちゃんと撃墜されたら機材補充の申告をしてくれよ。」

 

柑橘類「分かった。」

 

柑橘類中佐機が撃墜されるというのも珍事だったが、それを面目が経たないという理由で隠匿しようとするのも前代未聞だった。

 

まぁ今回限りということで直人も不問に付しこそしたが、出撃の前日という事もあり多忙を極める中での出来事であった。

 

 

翌、4月15日8時15分、横鎮近衛艦隊は鈴谷に乗船しサイパン島を出撃した。目的地は勿論マレーシア・ペナン島である。ここを経由地として、いよいよ彼らの作戦が開始されるのである。

 

 

4月16日9時27分 重巡鈴谷前檣楼・羅針艦橋

 

提督「何、ソナーが動かない!?」

 

その知らせがもたらされたのは出航から丸24時間が経過した後であった。

 

ソナー室「“空襲の際どこかに影響があったのかもしれませんので、今点検中です。”」

 

提督「動かして見んと分からんもんか・・・急げよ。」

 

ソナー室「“ハッ!”」

 

提督「マジか・・・。」

 

明石「いきなり幸先が悪いですね。」

 

提督「対空電探が衝撃でぶっ壊れたってのは報告で聞いて修理も終わってた筈なんだがな・・・その時報告が上がらなかったというのはなぁ。」

 

明石「あの時は完全に入渠中でしたから、ソナーは動かしてませんでしたし―――。」

 

提督「それはそうだな。釜に火が入ってただけ幸いってものだ。」

 

出撃準備中だっただけに、空襲の際鈴谷のボイラーは駆動していた。発電させないといけないからである。

 

提督「点検修理を急がせることにしよう。それ以外どうしようもない。」

 

明石「それまで水偵を飛ばしますか?」

 

提督「そう言えば零式水偵一一型乙を航巡仕様で多めに積んだんだったな。ではそれで行こう。」

 

明石「はいっ!」

 

数分後、飛行甲板がにわかに忙しくなり、4機の水偵がカタパルトから発進する。ソナーが使えない代わりの対潜哨戒と言う訳である。今回鈴谷は飛行甲板を搭載して航空巡洋艦仕様になっており、前述の水偵8機と、瑞雲3機を搭載している。

 

武装はその分門数を重視し、15.5cm三連装砲を3基前甲板に装備している。

 

提督「やれやれ、やたら原始的になってもたな。」

 

明石「えぇ、そうですね。」

 

提督「ま、しゃぁない。割り切り大事。」

 

明石「はい。」

 

提督「さてと・・・作戦資料読むか。」

 

明石「あ・・・はい。」

 

明石は艦橋で直人を見送った。直人も忙しいのだ、と言う事を彼女も識っていた。

 

明石「・・・。」

 

しかし明石は、最近思う。

 

―――なんだかちょっと、寂しいですね。

 

 

10時02分 重巡鈴谷前檣楼・艦長室

 

提督「・・・。」

 

直人が向き合っている机の上には、乱雑に置かれた様々な資料があった。潮流図や島々の位置を示す地図、様々な海域の海図や、敵の予測されている展開状況、過去の情勢にそれに伴う今日までの影響、挙句は気象やその周期・傾向などを示す資料や時差等の資料など詳細に渡る各種資料が並んでいた。

 

提督「・・・やはり、情報が古い。どれも1年近く前のものだ。近況は殆ど無い。」

 

ふと、直人は言葉を漏らした。

 

提督「SN作戦から時も経った。最近の情報が無いと言うのでは話にならんからな。」

 

SN作戦、日本自衛軍最悪の作戦として記憶に新しいこの作戦からも既に1年近くが経過しようとしているのだ。時と言うのは存外経つのも早いものである。

 

提督「・・・イクが戻るのを、待つしかないか。」

 

直人は密かに第一潜水戦隊に密命を与え、とある海域に広範囲に渡って展開させていた。これを知るのは大淀と金剛だけである。

 

提督「それまでは、何とかこの手元にある資料だけで検討せねばならん訳だ。」

 

[軍機]の朱印が押された、作戦要綱書の表紙に名前はない。その軍機のベールに包まれた作戦とは・・・。

 

 

難題を抱える直人を乗せた重巡鈴谷が、ペナンに到着したのは4月27日、ペナン時間2時05分の事だった。サイパンからはマイナス4時間である。

 

その埠頭にこれといって人影はなかったが、鈴谷は無事入泊する事が出来た。

 

4月27日ペナン時間2時08分 重巡鈴谷艦上

 

提督「相変わらず夜も蒸し暑いな。」

 

大淀「一度ここで補給を済ませまして、リンガから派遣されてくる担当官から説明を受ける事になってます。」

 

提督「そうだな、作戦自体は既に2日前に始まっている。」

 

スマトラ時間4月25日0時丁度(日本時間2時丁度、サイパン時間3時丁度)、第十一号作戦は予定通り発令、横鎮近衛艦隊はこの時フィリピン諸島を抜けるべく航海の途中にあった訳だが、その発令から既に、48時間が経過していた訳である。

 

提督「大淀、リンガ司令官宛打電。“受取人は指定地に着いた”と。」

 

大淀「分かりました。」

 

大淀が急ぎ足で直人の元を後にした。その後直人もそそくさと艦内に入り、自室に戻ったのであった。

 

 

ペナン時間午前5時、担当官がヘリでペナンを訪れた。鈴谷側では水偵の一部を陸揚げして着艦スペースを確保、また一部を射出する事で哨戒を兼ねさせた。

 

5時07分 重巡鈴谷後檣楼基部・貴賓室

 

提督「遠路遥々、ようこそ。さ、お掛け下さい。」

 

副官「ハッ、失礼します。」

 

担当官としてやってきたのは、なんと北村海将補の副官である(まゆずみ) 敏郎(としろう)二等海佐であった。

 

彼とも面識はあり、曙計画の際にも変わらず北村海将補の幕僚として付いていた。

 

提督「では早速、御用件の方を。我々にも時間が余りないものですから。」

 

黛「では小官の方から、率直に状況を申し上げます。お世辞にも戦局は優位とは言い切れませんが、現在の所、戦局全般は有利に展開しています。敵もこの時期に我々の猛攻を受けるとは予期していなかった様で、全泊地から抽出された部隊による猛攻を受けて混乱をきたしているようです。」

 

提督「では現在もその混乱は収束していない、と言う事ですか?」

 

黛「その認識で問題ありません。敵の戦線は各所で寸断され、処理リソースを超える情報に混乱している、という状況ですが。」

 

提督「では、我々がその戦線の穴を抜けるのに些かも問題はない、と言う事ですか?」

 

黛「そうです。」

 

提督「分かりました。ではもう少し詳細な所までお伺いしましょう―――」

 

 

その後説明は20分に渡り、直人も大いに納得する事が出来た。

 

敵の戦線は随所で寸断されている状況なのは、敵の対潜哨戒網も同様であり、随所で突破された敵潜水艦部隊は壊滅的打撃を(こうむ)っており、最早残敵掃討の段階に過ぎない事が判明しており、この状況を総合すれば、鈴谷単独の突破は十分可能であるというのが、リンガ泊地の見解であった。

 

 

提督「―――成程、よく分かりました。」

 

黛「最後に北村海将補より言伝を預かっております。」

 

提督「伺いましょう。」

 

黛「―――“今作戦に限り、我々への気遣いは無用、貴官はその任を心得、その遂行に最善を尽くされたい。健闘を祈る。”との事でした。」

 

提督「・・・北村老らしい、私にちょっかいの余地も残さないというのは。」

 

黛「私としても同じ気持ちです、紀伊元帥。私としましても、貴方方の任務を遂行するに当たり、最大限の努力を払います。出血も覚悟の上です。ですから、元帥は元帥の成すべき事を、為さって下さい。」

 

提督「・・・承知した。海将補殿に、若人が宜しく伝えて置いてくれと言っていたと伝えてくれ。」

 

黛「承知しました。小官も、元帥の健闘を祈らせて頂きます。」

 

提督「案ずるな、成功する算段は既に整っている。後は実行してみて判断するのが私の仕事だからな。では、私はこれにて。出航の指揮を取らねば。」

 

黛「ハッ!」

 

黛二佐を返した直人は、即座に水偵を収容すると、ペナン時間の6時丁度、ペナン秘密補給港を出港し、進路を西に取った。その航路は以前、アラビア海へ突破して航空決戦を挑んだ時と同じルート。

 

今度ばかりはさしもの敵哨戒線も穴だらけであった事も手伝って、発見される事無くすり抜けることに成功した。敵の哨戒機はリンガ泊地艦隊による徹底した要撃にあって撃墜され、機能不全に陥っていたのである。

 

 

ペナン時間19時28分 スリランカ南方洋上・東インド洋

 

提督「結局本当に見つからなかったな。」

 

明石「そうですね・・・普段を思うと不思議な位です。」

 

提督「あぁ。味方も良くやっているじゃないか・・・。」

 

明石「艦娘艦隊が、その実力を上げた証拠ですね。」

 

鈴谷「これは、私達も負けてられないかな?」

 

提督「うん、俺もそう思うがね。まずは目の前の事から片付けんとな。」

 

鈴谷「真面目だねぇ。」

 

提督「軍人が真面目でなくてどうする。」

 

鈴谷「それもそっか。でも、肩肘張り過ぎないようにね?」

 

提督「ま、ありがたい忠言だこと、頂いとくわ。」

 

鈴谷「うんうん、それでいいよ。」

 

提督「やれやれ・・・。」

 

鈴谷にこんな事を言われる日が来るとは・・・直人は心底そんな事を思ったものだが、そう言われるのも些か納得させられる様な出来事が起ころうとは思っても見ていなかったのであった。

 

提督「だが油断は禁物だ、第一種戦闘態勢はこのまま維持だ。ソナーは大丈夫だろうな?」

 

明石「あ、はい。ちゃんと動いてますよ。」

 

提督「なら結構。ぐずらんでくれよ・・・。」

 

結局ソナーは応急修理程度しか出来ていなかったのだ。それだけが不安要素である。

 

明石「ぐずらせないようにしますので御安心を。」

 

提督「それは、心強いな―――」

 

鈴谷「帰ったらちゃんと修理だねー。」

 

提督「ん、そうだな?」

 

鈴谷「んじゃ、鈴谷はちょっち夕飯食べてくるね。」

 

提督「いってらっしゃい。」

 

鈴谷「行ってきます♪」ニヒヒ

 

そう言って鈴谷が艦橋を去る。

 

提督「・・・夕飯か、もうそんな時分だっけな。」

 

明石「そうですよ?」

 

提督「ふーむ。明石も先食べてくるといい。今日は俺が夜番だかんな。」

 

明石「あ、ではお言葉に甘えまして。」

 

そう言って明石も去り、艦橋には直人以外妖精さんしか残っていない。

 

提督(副長ももう寝てるのか・・・。)

 

副長妖精はいつもの壁際ポジションで布団を広げて寝ていた。

 

提督(・・・妖精さんも寝るんだ。)

 

提督始めて2年、新発見である。

 

 

明石「え、やっと気づいたんですか?」( ̄∇ ̄;)

 

提督「まぁ、うん。」

 

戻ってきた明石にその話を振ったところ帰って来たのがこの反応である。

 

明石「でも、霊力の消耗を抑える為にちゃんと休息を設けてるみたいではありますけど。」

 

提督「その方法の一つって訳か。」

 

明石「そんな所なんでしょうね~。あ、伊良湖さんが、早く食堂に来て欲しいって言ってましたよ?」

 

提督「アイマム。行ってくるよ。」

 

明石「はい、行ってらっしゃい!」

 

観念した直人はそそくさと食堂へと足を運ぶのだった。

 

 

その後は直人への2人の(下半身に対する)強襲が1回あった以外は特に何もなく、重巡鈴谷は順調に航海を続けた。この頃になると艦娘艦隊の戦局は拮抗し始めており、混乱を収拾した深海側の反撃が始まっていたのだが。

 

 

5月4日英領インド洋地域時間5時17分 ディエゴガルシア島東方沖20km

(サイパンとの時差:-3時間)

 

提督「間もなくディエゴガルシア島だな。」

 

前檣楼見張員

「“水平線上に艦影!”」

 

提督「―――妙だな、早過ぎる。識別出来るか?」

 

前檣楼電探室

「“艦首方向に反応多数! 反応は小さめ、艦艇ではありません!”」

 

提督「なんだと―――!?」

 

前檣楼見張員

「“ディエゴガルシア島の環礁内でしょうか、敵艦と思われる艦影多数確認!”」

 

後檣楼電探室

「“前方20kmの上空に反応多数確認! 敵と思われます! IFFに反応なし!”」

 

提督「―――事態は明白だ、我々は今、明確に敵と遭遇しつつある。」

 

明石「まさか、味方は―――!」

 

提督「それは五分五分だな。まだ彼らは紅海の出口に居る筈だからな。」

 

明石「では・・・。」

 

提督「我々は目の前の敵に対処する。全艦隊出撃! 全艦第一種臨戦態勢!」

 

直人が号令すると殆ど同時に、鈴谷の機関が出力を上げ、艦娘発着口ハッチが解放される。

 

提督「全艦娘緊急出撃! 艦載機も展開急がせろ、空母から優先出撃だ!」

 

金剛「“OKデース!”」

 

この時鈴谷艦内ではディエゴガルシア島に先行展開する艦娘達の出撃準備中であった事も手伝い、一水打群の殆どの艦娘は出撃準備が整っていた。

 

瑞鶴「“瑞鶴、出ます!”」

 

翔鶴「“翔鶴、出撃します!”」

 

瑞鳳「“瑞鳳、行きます!”」

 

摩耶「“摩耶、出るぜ!”」

 

提督「行って来い! 頼むぞ~!」

 

明石「しかしなんでこんな所に敵が・・・?」

 

提督「分からん。だが、今それを考えるより、目の前に敵がいるという事実の方が大事だ。」

 

明石「そうですね、集中します。」

 

提督「そうしてくれ。主砲、発射用意!」

 

明石「主砲1番から3番、発射用意! 緒元入力!」

 

飛行長「“索敵機、出しますか?”」

 

提督「急いで頼む。」

 

飛行長「“了解、射出します!”」

 

飛行長がそう言ったすぐ直後、両舷のカタパルトから水偵が射出される。どうやら既にスタンバイしていたようだ。

 

提督「仕事が早くて助かるなぁ。」

 

明石「こういう時は先手を打った者の勝ちですから。」

 

提督「いや~有能な部下に囲まれて指揮官冥利に尽きるなぁ。」

 

ちょっとご機嫌の直人である。

 

明石「それを生かすのが提督のお仕事ですよ。」

 

提督「勿論分かっておるとも。艦娘の展開状況は?」

 

明石「一水打群は全艦展開完了済み、第三艦隊は15%強が出撃を完了、第一艦隊は先程出撃を開始したところです。」

 

提督「うむ。展開を急がせろ、敵との距離が近い!」

 

明石「敵艦発砲確認、気付かれました!」

 

提督「空母を後ろに下げろ! 砲撃戦では邪魔になる! 主砲1番から3番、連続撃ち方―――撃て!!」

 

明石「撃ち方始め!」

 

 

ドドドドドオオオォォォォーーー・・・ン

 

 

戦闘はこうして売り言葉に買い言葉のような状態で始まった。売られた喧嘩を買った形である。

 

瑞鶴「“艦載機、発艦は順調よ!”」

 

提督「隊列を組んでいる余裕はない、各中隊毎に戦闘に加入させろ急げ!!」

 

瑞鶴「“りょ、了解!”」

 

提督「各艦、各戦隊毎に戦闘に加入、各艦隊内で連携を取りつつ、戦隊旗艦の指示に従って行動せよ!」

 

一同「「“了解!!”」」

 

瑞鶴に発破をかけ、全部隊に即時行動を促す直人。この時全戦隊の中で真っ先に的確な働きを示し、敵に対して機先を制した部隊があった。

 

それは第十一駆逐隊であった。吹雪を喪い、旧十二駆を解散した叢雲を合流し4隻体制となった十一駆だったが、旗艦白雪の指揮の下に動き出したのである。

 

白雪「主砲で弾幕を張ります。3人とも、準備を。」

 

叢雲・深雪・初雪

「「了解!」」

 

白雪「―――撃ち方、始めて下さい!」

 

着任当初、荒事は苦手と語る白雪も、今では立派な戦士に成長した。この十一駆の動きに敵前衛部隊は10秒ほど遅れを取った。それが命取りであり、鼻っ面に12.7cm砲弾の雨を強かに撃ち込まれた敵駆逐隊が壊滅するなど、いきなり敵は出鼻を挫かれる格好になった。

 

 

この動きに遅れること19秒、第三戦隊が小隊毎に砲撃を開始、更に第一戦隊の戦闘加入など、横鎮近衛艦隊が戦隊毎に戦闘へと参入した。矢矧は第十七駆逐隊を、阿賀野は第八駆逐隊を、大淀は第二十七駆逐隊をそれぞれ率いてやはり戦隊毎の戦闘に移っていた。

 

 

阿賀野「よーし、今日もいっくよー!」

 

荒潮「ウフフフ、荒潮、初実戦よ~!」

 

遂に荒潮の実戦である。荒潮の艤装は前章で語った通り既に改である事から鑑みても、正規在籍で無い事を除けば練度はそれなりにある状態だったのだ。足りないのは、実戦経験だけである。

 

朝潮「行きましょう!」

 

大潮「はい!」

 

満潮「了解!」

 

 

大淀「第十戦隊本隊、出撃!」

 

白露「二十七駆了解! 行くよ!」

 

涼風「合点だ!」

 

時雨「二十七駆、時雨、行くよ!」

 

涼風の艤装は主砲を拳銃方式でマウントする特徴的なもので、五月雨の他に浜風や浦風なども用いているものである。

 

涼風の場合、五月雨と同じく主砲の二丁持ちであり、駆逐艦クラスとの戦闘ではその取り回しの良さを生かして縦横に駆け巡った実績を持つ。

 

 

矢矧「二水戦本隊、突撃!」

 

浜風「十七駆了解、続航します!」

 

浦風「了解じゃ!」

 

谷風「いいねぇ、やりますか!」

 

さて、その十七駆である。今の所磯風を欠いてこそいるが、浜風と浦風ペアの実力が光る駆逐隊で、浜風の雷撃と浦風の砲撃で対になって完結している部隊である。十七駆所属艦の特徴としては、主砲と機銃の二丁持ちと言う特徴がある。

 

因みに第十戦隊の二十七駆とは違い、この十七駆は二水戦の名実共に中軸を成す駆逐隊でもある。

 

 

明石「第十三戦隊、発進開始します、第六航空戦隊、航空隊展開を開始、第六駆逐隊、前進開始しました、第一航空戦隊艦載機、攻撃開始します!」

 

提督「よし、敵に対し先手を取れたな。」

 

明石「何とかなりましたね。」

 

提督「敵の戦力不明ではあるが、序盤の一打が重要だ。頼むぞ・・・。」

 

祈るような気持ちで直人が戦場を座視する。

 

瑞鶴「“偵察機より入電! 敵艦隊に姫級2を認む! その内1隻は―――”」

 

提督「・・・どうした!」

 

瑞鶴「“―――空母棲姫級です!”」

 

提督「うろたえるな、ただのクローンだ!」

 

瑞鶴「“りょ、了解!”」

 

提督「もう一隻はなんだ!」

 

瑞鶴「“超兵器級、戦艦です!”」

 

提督「超兵器だと・・・?」

 

 

5時22分 ディエゴガルシア島内

 

「・・・何事?」

 

空母棲姫「敵ノ襲撃デス、用意ヲ―――“戦艦水鬼”様。」

 

戦艦水鬼「―――仕方ないわね。今日はどんな相手かしら。」

 

戦艦水鬼が横たえていた体を起こす。偵察機が捉えたのはあくまで戦艦水鬼の兵装だった訳である。

 

戦艦水鬼「たまには―――歯応えのある相手だと良いのだけど。」

 

 

提督「敵超兵器に動きは?」

 

瑞鶴「“まだないみたい。”」

 

提督「今の内に押して行け! 少しでも削り取るんだ!」

 

赤城「“三航戦攻撃隊、攻撃を開始します!”」

 

提督「よし、頼むぞ!」

 

敵超兵器戦艦が動き出さない内に戦力の漸減を図る直人。その頃には殆どの艦娘が展開を終えており、猛烈な攻撃が敵に叩きつけられつつあった。

 

瑞鶴「“敵の戦力、約6500!”」

 

提督「少ないな。一気に押し切るぞ!」

 

 

ヒュルルルルル・・・

 

 

提督「ッ―――」

 

 

ドドドドドオオオォォォォーーーー・・・ン

 

 

提督「うおわああっ!?」

 

明石「きゃぁっ!?」

 

一度に5発の被弾を受けて大きく揺れる鈴谷。

 

提督「そ、損害をチェック!」

 

「“右舷カタパルト大破、格納庫に火災発生!”」

 

「“3番魚雷発射管大破! 装填されていた魚雷が爆発しました!”」

 

「“飛行甲板大破、4機大破、艦載機繋留不能! 瑞雲は全滅しました!!”」

 

「“後部中甲板火災発生!”」

 

「“左舷錨索室壊滅、火災発生!”」

 

「“左舷錨脱落!”」

 

「“4番高角砲及び3番・5番副砲砲郭大破!”」

 

「“前檣楼直下に破孔、火災発生! 左舷前檣楼機銃弾薬箱に火の手が及びます!”」

 

「“左舷1番探照灯稼働不能! 修理に30分!”」

 

「“機銃6門大破!”」

 

提督「各所ダメージコントロール! 艦載機は射出出来るか!」

 

「“右舷側への誘導レール破損、エレベーターも動きません!”」

 

提督「くっ―――!」

 

明石「艦載機を投棄しましょう!」

 

提督「・・・そうだな。残りの艦載機を全て投棄だ、急げ!」

 

そう言う間に、艦橋の下の方で豆が爆ぜるような音が聞こえだした。どうやら機銃弾薬が誘爆を起こしたようである。

 

明石「第二弾、直撃、来ます!!」

 

提督「回避間に合うか!?」

 

明石「ダメです!」

 

 

ドドドドオオオオォォォォーーー・・・ン

 

 

提督「うおっ―――!?」

 

明石「なっ―――!!」

 

エレベーターの方向から爆炎が漏れ、煙が艦橋内に充満し始める。

 

提督「くっ、艦橋上部のハッチを開けろ!」

 

明石「はい!」

 

羅針艦橋後部にあるエレベーターフロアには、3か所の排煙用ハッチが備えられており、これは以前アルケオプテリクスの襲撃により艦橋が炎上した時の戦訓として導入されたものである。電装式ではあるが、羅針艦橋内に置かれた防火措置済み非常用バッテリーと同措置済み電路により、機関部からの電力供給が断たれた場合にも稼働可能となっている。

 

提督「各所、第二射の被害を報告!」

 

「“前檣楼基部に命中弾、エレベーターパイプが破損しました!”」

 

「“第三砲塔大破、装填済みの弾薬が誘爆、火の手が揚弾筒に及びます!”」

 

提督「第三砲塔弾薬庫注水! 急げ!」

「“後部マスト折損! 13号電探使用不能!”」

 

「“前部マスト基部破損、信号旗繋留不能!”」

 

「“偽装煙突第一煙突部分破損!!”」

 

「“艦内工場の一部に火災発生!”」

 

「“艦首第二船倉に浸水発生!”」

 

提督「これはまずいな―――巨大艤装で出撃する。後は頼むぞ。」

 

明石「えっ、でもどうやって降りるんですか!?」

 

提督「考えはある。川内!」

 

川内「“何?”」

 

提督「前檣楼から艦首に飛び降りるから空中で受け止めて降ろしてくれ、エレベーターが使えん。」

 

川内「“任せて!”」

 

明石「提督!」

 

提督「行ってくる。」

 

明石「あっ―――!」

 

明石が止める間もなく、被弾の衝撃で割れた羅針艦橋の窓から飛び出す直人。

 

提督「うおおお、たけぇッ!!」

 

川内「提督っ!」

 

提督「おうっ!」

 

 

ドサッ、タァン

 

 

川内「セーフ!」

 

提督「ありがと。」

 

川内「このまま下まで降りるよ。」

 

提督「OK。」

 

川内のアシストを受けて、直人は甲板に到達する。川内の固有能力である「空中跳躍」のなせる芸当である。

 

その後、甲板ですぐさま分かれた直人は、燃える中甲板を駆け抜けて艦首格納庫に辿り着く。

 

 

5時34分 重巡鈴谷艦首中甲板・艦首格納庫

 

提督「格納庫は何とか無傷、エレベーターも行ける。武装へのダメージ―――なし!」

 

格納庫と艤装の各種システムを確認する直人。

 

提督「フロアアップ、艦首ハッチ、オープン! 電磁カタパルト、起動、展開!」

 

格納庫の床がせり上がり、天井が開く。錨鎖甲板の中央も蓋が開き、中からカタパルトが姿を現す。同時に艦首部のフェンスは水平に倒され、ポールマストは180度下方向に倒れている。

 

提督「カタパルト接続、電圧正常。超巨大機動要塞戦艦『紀伊』、出撃する!」

 

バーニアを全開にし、カタパルトにアシストされ直人が艦首から海面に撃ち出される。こんな事が出来るのは、この艤装に取り付けられたバーニアの賜物である。

 

 

ザザザァァァッ

 

 

提督「全艦へ、敵の混乱は収拾しつつある可能性がある。数個戦隊で共同し行動してくれ。それと母艦鈴谷は後退して応急修理を頼む。」

 

明石「“了解!”」

 

提督「―――!」

 

 

ヒュルルル・・・

 

 

提督「成程―――あの時と同じ!」

 

だが―――

 

 

ドドドドオオオォォォォーーーー・・・ン

 

 

提督「―――俺には、当たらんな。」

 

涼しい顔で全弾を回避する直人。

 

提督「全艦続け、一気に片を付けるぞ!」

 

一同「「“了解!”」」

 

紀伊が艦載機を射出しつつ突撃する。どの艦娘よりも快速で、どの艦娘よりも重武装で、どの艦娘より巨大な紀伊を先頭に、横鎮近衛艦隊が堂々と前進する。その圧倒的な火力を前にして、所詮1万にも満たない深海棲艦隊は叩きのめされる一方。

 

清霜「魚雷命中!」

 

島風「島風も~!」

 

提督「いいぞ、このまま押し切る!」

 

空母棲姫「ココカラハ通サン!!」

 

提督「邪魔だぁッ!!」

 

 

ドオオオオオオォォォォーーーー・・・ン

 

 

ドシュッ―――

 

 

空母棲姫「ナッ―――!!!」

 

直人が放った120cmゲルリッヒ砲弾が、クローンの空母棲姫の右半身を抉り取り爆発する。これにより、空母棲姫の生体部分は、独立した兵装ごと一撃で吹き飛ばされる結果となった。姫級をしとめる最も早い方法は、正に生体部分を殺す事であった。

 

「へぇ・・・ただの人間では、無いという事。」

 

提督「―――ッ!?」

 

その並々ならない雰囲気に直人は振り返った。

 

「あれだけ撃ち込んで、生きてるなんてね。」

 

提督「―――深海棲艦、それも姫級。」

 

「姫級―――一緒にしないで欲しいわね。私は戦艦水姫、インテゲルタイラント。」

 

提督「―――! 成程、グァムに居た奴は、お前のクローンだったな。」

 

戦艦水姫「えぇ、そんな子もいたわね。私には及びもつかないけれど。」

 

提督「クローニングは劣化するのが常だからな。深海も、そこだけは越えられなんだか。」

 

戦艦水姫「でも、そんな出来損ないとは違う。私は―――“人の闇を窺う者”。」

 

提督「―――。」

 

戦艦水姫「私は―――人の闇を見る事が出来る。」

 

提督「世迷言(よまいごと)を。」

 

戦艦水姫「なら証明しましょう―――貴方、幼馴染を私の同族に殺された様ね。貴方がその力を手に入れたのは―――復讐のため。」

 

提督「―――!!」ギリッ

 

戦艦水姫「途端に目つきが恐ろしくなったわよ? こんな世迷言、信じないんじゃなかったの?」

 

提督「貴様・・・!」

 

直人も殆ど語った事の無かった事実。それは、直人が心の内に抱え込んだ闇の一端であった。

 

戦艦水姫「私達を倒す為に、普通の生活を棒に振るだなんて、変わり者もいい所ね。勝てる訳ないのに。」

 

金剛「提督?」

 

戦艦水姫「それにあなた、時折暴力的になるのでなくって? 幼い頃いじめを受けていた様ねぇ。」

 

鈴谷「えっ―――!?」

 

提督「・・・古い話だ。」

 

戦艦水姫「でもその時あなたは暴力で全てを解決しようとした。」

 

提督「―――ッ!」

 

戦艦水姫「そのいじめが、あなた自身を狂わせた。順風満帆かも知れなかったその生を。」

 

提督「―――。」

 

戦艦水姫「その時支えてくれたのもその幼馴染。そのおかげで、手を汚す事は無かったのに、結局こんな所で手を汚すだなんて、皮肉ね。大切な人を失った事は、こうまで人を変えるものなのね♪」

 

提督「・・・。」

 

俺は・・・俺は・・・ッ!

 

戦艦水姫「でもその覚悟だけは褒めてあげましょう。その覚悟だけでは、何も出来ない事も教えてあげるわ。」

 

ザザザアアアアアァァァッ

 

提督「―――!!!」

 

―――貴様如きに、何が分かる!!

 

矢矧「提督っ!」

 

金剛「提督!」

 

鈴谷「ちょっと!!」

 

ドドドオオオオォォォォーーー・・・ン

 

提督「お、お前たち。」

 

金剛「何を突っ立ってるネ、早く構えて!」

 

提督「あ、あぁ・・・。」

 

鈴谷「どうしちゃったの提督、らしくないよ!」

 

提督「ッ! すまん、見苦しいところを見せた。仕切り直していくぞ!」

 

3人「「“了解っ!”」」

 

大和「“提督、海中から敵増援! 数およそ1万!”」

 

提督「各個対処せよ! 撃ちまくれ!」

 

大和「“了解っ!”」

 

提督「覚悟のみでは、か。ならば―――覚悟を示すッ!」

 

崩れかけた理性を決意で塗り固め、直人は再び前を見据えた。目の前には無数の敵、そしてその中に彼の旗艦を痛めつけたインテゲルタイラントがいる。

 

提督「―――“我汝に命ず、『我に力を供せよ』と。汝我に命ぜよ、『我が力を以て、全ての敵を祓え』と。我が身今一度物の怪とし、汝の力を以て今一度常世の王とならん。汝こそは艦の王、我こそは武の極致。我汝の力を以て―――『大いなる冬』をもたらさんとす。”」

 

大いなる冬の顕現詠唱を終えた頃には、既に彼の艤装は大いなる冬を顕現した仕様になっていた。かつては殻の様なものに包まれていたが、彼の成長に伴ってのものなのか、負の霊力に包まれるのみになっていた。

 

提督「自分達が通る道位、自分で切り開く!」

 

戦艦水姫「面白いわね、でもさせないわよ。」

 

戦艦水姫が228mmAGSを連射する。

 

ドガガガガガガガガガアアアアアアァァァァァァァァーーーー・・・ン

 

金剛「提督ッ―――!!」

 

紀伊に寸分違わず突き刺さる誘導砲弾。

 

鈴谷「提督・・・?」

 

矢矧「嘘でしょ・・・?」

 

ゴオオオオオォォォ・・・

 

戦艦水姫「これだけの砲撃を受けて、生き残った者はいないわ。」

 

提督「ほーん、なら俺が、生き残った初の敵と言う事だな。」

 

戦艦水姫「―――えっ?」

 

インテケルタイラントは自身の耳を疑った。最早聞こえる筈もないと思っていた声、それそのものだったからである。

 

提督「俺の中で磨き上げられた大いなる冬は、貴様の攻撃など意にも介さんよ。」

 

―――七天覆う魔刻の守護(ベルギアック・ヴェスィオス)

 

精神的な成長に伴い、“大いなる冬”が力の純度を高められた結果、魔刻の守護(ヴェスィオス)の力が変質し、高められたものである。その力は、下位に属する超兵器級の攻撃を、十数分間に渡り無力化するほどの力を持つ。他に、“大いなる冬”の発動中に限って、艤装に負った損害を修復“した事にする”能力もあるが、この時は元々無傷なので意味はない。

 

この魔刻の守護系スキルは自動発動であり、守護の名の通り装者を守る力である。

 

戦艦水姫「そんなっ―――その力は!」

 

提督「貴様如きで、俺は止められんよ!」

 

腕部に新たに展開された大いなる冬の兵装、レールガンを、1門ずつ順に正面の敵に撃ち込む。その運動エネルギーは凄まじく、貫通した砲弾がその背後の敵を撃ち抜き、更にその後ろへと波及し、瞬く間にルートが切り開かれた。

 

提督「行けぇッ!!」

 

直人が最後の1門のレールガンを撃つ。狙いは正面、インテゲルタイラント。

 

 

ダアアアアアァァァァァァァァーーー・・・ン

 

 

その超高速の大口径砲弾は、正確にインテゲルタイラントの独立兵装を射抜き、大爆発を起こさせた。

 

 

暁「今の爆発って!?」

 

雷「そんな事言ってる場合じゃないわよ!」

 

響「撃っても撃ってもキリがないッ!!」

 

電「そう簡単には、やられないのですッ!!」

 

 

ゴオオオオオ・・・

 

 

提督「フゥ~・・・。」

 

長く息をつく。大いなる冬を解きながら。

 

戦艦水姫「ば・・・かな・・・私が・・・この、私がぁっ・・・!!」

 

半身をもぎ取られながら尚も生きていたインテゲルタイラント。

 

ザッ・・・

 

提督「!」

 

戦艦水姫「ッ!?」

 

矢矧「なんにせよ、貴方はこれまで。逝きなさい。」

 

ヒュッ―――

 

戦艦水姫「―――!」

 

ザシュッ・・・

 

矢矧の一太刀をその身に受け、戦艦水姫は倒れた。

 

提督「矢矧・・・。」

 

矢矧「早く構えなさい、後ろ、居るわよ。」

 

提督「ッ―――!」

 

ドドオオオオォォォォォーーーー・・・ン

 

いると言われて撃った直人の砲撃は不意を突こうとした敵駆逐艦2隻を瞬時にして沈めた。

 

提督「なんと言う数だ。全部片づけんとな。」

 

帽子をかぶり直し、彼は終わりの見えない掃討戦に移行するのである。

 

 

~???~

 

「ふぅ~ん・・・これが、最強の艦隊を率いる、男の実力。」

 

何処とも知れぬ場所で、何者かが、その戦いを俯瞰していた。勿論第三者の偵察機などいない。それは、実に奇妙な力によってであった。

 

「―――今の力では足りない。もっと、高めなければ・・・」

 

 

インテゲルタイラントを撃破した直後、横鎮近衛艦隊はディエゴガルシア島を制圧することに成功し、損傷した鈴谷も浸水に対する応急修理を何とか済ませて環礁に潜り込む事が出来た。

 

横鎮近衛艦隊はその後、環礁内に籠りながら全周を包囲する敵艦隊に対し、熾烈な激闘を繰り広げていた。全体として優勢は揺るがなかったが、激しい攻撃を前にして油断できない状況が続く中で、仮拠点の設営が始まっていた。

 

12時54分 ディエゴガルシア島仮設基地

 

提督「・・・。」

 

一人無言で折り畳みいすに腰掛けてレーションを口にする直人。その視線は、どこか遠い所を見ているようでもあった。

 

金剛「―――どうしたネー?」

 

提督「・・・金剛か。」

 

金剛「あの敵艦に言われた事を、気にしてるんデスカー?」

 

提督「―――!」

 

図星であった。

 

金剛「提督の考えてる事くらい、私くらいにでも分かるネー。」

 

提督「そ、そうなのか?」

 

金剛「提督、憂鬱そうな時は眉間にしわが寄るネ。」

 

提督「ヘ?」

 

金剛「ホント、分かりやすい人デース♪」

 

提督「・・・そうなのかな。」

 

金剛「・・・。」

 

いつになく元気を失っている直人に、金剛も気付く。

 

金剛「―――こんな事を、艦娘が言うのも変かも知れまセンガ、聞いてくれますカー?」

 

提督「・・・何?」

 

金剛「私達艦娘は、“既に失われてしまったもの”を守る為にここにいる訳ではないのデス。」

 

提督「・・・。」

 

金剛「私達が護れるのは、“今”しかない。それは普通ですが、普通であるが為に、それが私達艦娘達の役割。」

 

提督「・・・。」

 

金剛「過去を水に流せ、と言うつもりはないデス。人には誰しも、忘れられない事が沢山ある。それでも、辛い事も、悲しい事も、嬉しい事も、思い出も全部覚えている人を―――“貴方”を守る事が、私達の役割ネ。」

 

提督「―――金剛・・・。」

 

金剛「その事を教えてくれたのは、貴方ですカラ。辛い事があったら、いつでも頼って欲しいネー。海の仲間は―――家族だから。」

 

「―――!」

 “海の仲間は家族”―――直人は長い事、その言葉を忘れていたような気がした。一般人であった彼にとって家族とは、彼の肉親達に他ならなかったからだ。勿論その言葉を彼は識っていた―――識っていた、筈だった。

 いつしか激務に告ぐ激闘の中で、彼はその言葉を忘れていた。艦娘達は、彼の“戦友”であり“仲間”であるという意識が強くあったからだ。

故に彼は忘れていた。海を征く者は、その仲間達と一心同体となって共に荒波を乗り越え進む、その家族の様な連帯感こそ船乗りの強さだという事を。

「家族・・・。」

 

金剛「そう、家族ネー。提督は私に、コレをくれたネー。」

そう言って見せたのは、左手薬指の指輪だった。

 

金剛「約束、守って貰うからネー? 私と提督は、もう家族。そして、同じ船で共に歩む私達全員とも、とっくに家族だったのデース。」

 

「―――っ!」

 彼は目が覚めるような思いだった。家族の温もりは、これ程までに近くにあった事を、彼自身今まで気づかなかったのである。中々どうして、彼らしからぬ事だったと言えるだろう。

 

金剛「提督が分かんなくなったら、私達が導くネ、だから私達が分かんなくなった時は、貴方が。」

 

提督「・・・ありがとう、金剛。お前は俺に、大事な事を思い出させてくれたよ。」

 

金剛「なら、良かったネー。」

 

提督「フフッ・・・そう考えたら、なんか吹っ切れちった。」

 

金剛「それにその幼馴染の人、ひょっとしたら生きてるかもしれないネー。」

 

提督「なんで?」

 

金剛「よくある事ネー。あるところで行方不明になった人が、実は別な所に! なって言う話はちょくちょくあるネ。」

 

提督「それ、結構創作あるからな?」

 

金剛「でももしそうなら、神様が導いてくれるネー。」

 

提督「―――“そう在れかしと叫んで斬れば、世界はするりと片付き申す”、か。そうかもしれん。」

 

彼はそう思う事にして、食べ終わったレーションのトレーを持って立ち上がるのだった。

 

提督「その幼馴染と最後に話をしたのは、新宮が大空襲を受ける正にその只中だったんだよ。」

 

金剛「えっ・・・!?」

 

提督「二人して逃げてたんだが、瓦礫で分断されてしまった。その時、“必ず迎えに行く、生きてまた会おう”と約束を交わしたのが、彼女との最後だった。」

 

金剛「・・・。」

 

提督「―――結局、それ以降一度も連絡は取れず、焼けただれた彼女のスマホしか、見つからなかったよ。」

 

金剛「行方不明になった経緯、デスネー。」

 

提督「結局、俺は一人の幼馴染さえ、救えなかったのさ。何もかも、あいつの言う通りだと思うと、悔しくてな。」

 

金剛「その悔しさをバネにすれば、なんでも乗り切れるネー! 前向きに行くネ。」

 

提督「フッ、そうするよ。」

 

金剛「その意気デース!」

 

そう言って金剛は立ち去って行った―――

 

 結局の所、彼も艦娘達も、お互い支え合って生きていた。それが横鎮近衛艦隊でもあり、提督と、それを取り巻く艦娘達の本質でもあった。

しかしそれは同時に、直人にかけられた2つの“呪い”でもあった。必ず迎えに行く―――必ず救い出すという約束を、彼は果たす事が出来なかった。それ以来彼に付きまとう、「救いを行わなければならない」と言う呪い。

大切な人を助けられなかった彼が受けた呪縛であり、彼が幼馴染を失った後、依り代としたものでもあった。

 そしてもう一つ―――生きてまた会おうと、彼は誓った。彼は大切な人と交わした約束を、果たす事が出来なかった。

 

―――その大切な人を失うという結果を以て―――

 

それは“もう一つの呪い”となった。

自分の家族にも等しい大切な人を失った。

彼は、彼女の分まで生きると決めた。

―――そして、もう誰も喪いたくないと思った。

だから艦娘達を喪う事に対して過敏な所がある。

 

―――皆で生き抜く―――

 

これが彼にかけられたもう一つの呪いの正体。

彼がかけられた―――呪いの本質。

それが・・・“自らかけたものである”と気づかぬまま。

 

 

提督(・・・インテゲルタイラントの言う通りだ。俺は結局―――何も救えていない。)

 

早霜「呪われた因果、ですわね。」

 

提督「早霜・・・。」

 

早霜「・・・人と言うものは、すぐに何かに縛られてしまう。それは、その人に起こった事が、劇的であればあるほど、そうなりやすいのです。」

 

提督「―――呪い、か。」

 

早霜「まぁ、自覚はないかもしれませんが。呪いと言うものは、そう言うものです。」

 

提督「そんなもんかねぇ。」

 

早霜「―――早く行きましょう。敵は、待ってくれませんし。」

 

提督「あぁ、そうだな。行こう。」

 

早霜に急かされて、直人は再び出撃する。彼に今出来る事は所詮、戦う事だけであった。

 

現地時間17時27分、横鎮近衛艦隊は何とか、敵の猛攻を全て退けることに成功した。海に静寂が戻り、硝煙の香りも、どこかへと流れ去ろうとしていた。

 

17時33分 ディエゴガルシア島仮設基地

 

提督「ここが棲地化されてなかったのは幸いだったな。」

 

明石「ですね!」

 

提督「明石、生き生きとしてるな?」

 

明石「メカニックのお仕事ですからね、任せて下さい!」

 

提督「お、おう。」

 

横鎮近衛艦隊のメカニック陣の一翼を担う明石さん、久々の大仕事に張り切っている御様子である。思えば仮設基地を作るのも久しぶりではあるのだが。

 

明石「あ、そう言えば鈴谷の方なんですが・・・。」

 

提督「どしたー?」

 

明石「被弾の衝撃で三式ソナーが本格的にお亡くなりになりまして。」

 

提督「あちゃー・・・。」

 

明石「他にも水偵は全滅ですし、三番砲塔も全損しまして、結局前部主砲弾薬庫全てに注する羽目になりまして、主砲弾も全て使えません。機銃弾も3200発ほど焼損しまして、魚雷も8本やられてしまいました。副砲に関しては結局3門が使用不能、副砲弾15発がお釈迦と言う感じです。」

 

提督「戦闘能力殆どないじゃんそれ・・・。」

 

明石「まぁ魚雷発射管に関しましては、この作戦後に五連装に換装の予定があったので打撃では無いとしまして、魚雷の誘爆で吹き飛んだ部分です。」

 

提督「・・・うん?」

 

明石「3番高角砲が跡形も無く吹き飛んでます。あと装載艇も4隻が吹き飛びました。水偵用のクレーンも後檣楼基部が爆発でゆがんだ結果使えません。」

 

提督「あら・・・。」

 

明石「戻ったら本格的に修理しないといけ無さそうな箇所が他にもいくつか・・・。」

 

提督「と言う事は、今後暫く俺の出動は無さそうですなぁ。」

 

明石「そうですねぇ・・・。」

 

提督「航行には問題ないのだろう?」

 

明石「ありませんが、至近弾の影響で30ノットが限界のようです。」

 

提督「水線下の外板が歪んだ、って訳か。」

 

明石「みたいです。それらも含めてオーバーホールをしないといけませんね。」

 

提督「分かった、帰ったら船渠に入れよう。」

 

明石「お願いします。ですが、とりあえずは任務ですね。」

 

提督「あぁ、そうなるな。金剛!」

 

金剛「どうしたネー?」

 

提督「艦隊は予定通り展開してくれ。」

 

金剛「Oh、了解デース!」

 

直人は艦隊に対して随時展開の指示を出す。今回はディエゴガルシア島を確保し続ける事が重要なポイントである。艦隊の編成は特に変わった所はないが以下の通りになっている。

 

 

第一水上打撃群(水偵38機)

旗艦:金剛

第三戦隊第一小隊(金剛/榛名)

第八戦隊(鈴谷/利根/筑摩)

第十一戦隊(大井/北上/木曽)

第十四戦隊(摩耶/羽黒/神通)

独水上戦隊(プリンツ・オイゲン/Z1)

第一航空戦隊(翔鶴/瑞鶴/瑞鳳 180機)

第二水雷戦隊

 矢矧

 第四駆逐隊(舞風/野分)

 第十駆逐隊(夕雲/巻雲/長波/清霜)

 第十六駆逐隊(雪風/天津風/時津風/島風)

 第十七駆逐隊(浜風/浦風/谷風)

 第十八駆逐隊(霞/霰/陽炎/不知火/黒潮)

 

第一艦隊(水偵39機)

旗艦:大和

第一戦隊(大和/長門/陸奥)

第四戦隊(高雄/愛宕/鳥海)

第五戦隊(妙高/那智/足柄)

第七戦隊(最上/三隈/熊野)

第十二戦隊(長良/五十鈴/由良)

第四航空戦隊(扶桑/山城/伊勢/日向 96機)

第五航空戦隊(千歳/千代田/龍驤 115機)

 第一水雷戦隊

 阿賀野

 第六駆逐隊(暁/響/雷/電)

 第八駆逐隊(朝潮/大潮/満潮/荒潮)

 第十一駆逐隊(初雪/白雪/深雪/叢雲)

 第二十一駆逐隊(初春/子日/若葉/初霜)

 

第三艦隊(水偵18機)

旗艦:瑞鶴(霧島)

第三戦隊第二小隊(比叡/霧島)

第六戦隊(古鷹/加古/衣笠)

第十三戦隊(球磨/川内/那珂)

第二航空戦隊(蒼龍/飛龍 146機)

第三航空戦隊(赤城/加賀 180機)

第六航空戦隊(飛鷹/隼鷹/祥鳳 180機)

第七航空戦隊(雲龍/天城 102機)

 第十戦隊

 大淀

 第二駆逐隊(村雨/五月雨/夕立)

 第七駆逐隊(漣/潮/朧)

 第九駆逐隊(朝雲/山雲)

 第十九駆逐隊(磯波/綾波/敷波)

 第二十七駆逐隊(白露/時雨/涼風)

 第六十一駆逐隊(秋月)

 

 

今回は第三艦隊を環礁内に残して守備部隊とし、第一艦隊でその周囲を固め、一水打群を遊撃戦力として外洋に布陣させることになっていた。そもそもここで戦闘をする事は、本来想定の範囲外だった、と言う訳である。

 

その点的確な指示を出す事が出来た彼の手腕もさることながら、それに素早く全員が対応できたのは、艦娘達の潜り抜けてきた修羅場の数が違うからでもあっただろう。

 

しかしこの全力出撃にも拘らず、彼らの母艦たる鈴谷は中破していた。今回ばかりは相手が悪かったとはいえ―――

 

提督(しっかし、派手にやられたもんだなぁおい。)

 

鈴谷の前檣楼基部は無残に破壊され、ガワを支えていた構造材が剥き出しになっていた。しかし艦長室を含む区画である為、基部に関しては戦艦の司令塔に準じた装甲が配置されている。その厚さ200mmあり、これによって貫徹はされたがそこで押し留める事に成功したのだった。

 

提督(・・・二重に防御していたとはね。)

 

直人が見ているその破孔は、後ろ側のもう1枚の装甲版にへこみと焦げ跡を残しただけだった。前檣楼基部正面だけはと明石が施した二重防御の内側50mmの装甲版により、艦長室は無傷だったのである。

 

提督(・・・今度スペック読みなおそっかな。)

 

案外知らないこと多いんなぁ、と思い、そう決心する直人であった。

 

 

その夜、彼は夢を見た―――

 

 

辺り一面瓦礫の山。それまであった人の営みは影もなく、ただ立ち上る煙と、覆うような曇天、そして、その瓦礫の中を彷徨うように何かを探す人々の群れが、そこにはあった。

 

提督(ここは・・・新宮・・・?)

 

「そっちはどうだった?」

 

「ダメだ、形跡がない。」

 

「よし、では次はここだ、俺はここに行く。」

 

「よし!」

 

提督(あれは・・・!)

 

「直くん、どう?」

 

「ダメですね、まだ痕跡も見つかってなくって。」

 

「瑞希ちゃん、見つかるといいわね。頑張って!」

 

「おばさんも、どうか気を落とさないでね。」

 

「勿論よ。」

 

提督(・・・。)

 

そこにいたのは、若かりし日の自分だった。

 

直人「瑞希は俺が、絶対見つけるんだ―――」

 

 一人そう呟くように瓦礫の中を歩く自分の背を、彼は見ていた。

8年前のカタストロフィ、新宮大空襲は、中小都市の空襲としては未曽有の被害を齎した。

20万を超える犠牲者と、それに倍する重軽傷者・行方不明者。艦娘達がいれば防げたかもしれなかった可能性の一つであり、その被害は中小都市への大空襲では随一とされる。

その焼け跡で、彼は自分の幼馴染を探していた。

 

直人「どうだった!」

 

「ここもダメだ。」

 

直人「この拠点もか・・・!」

 

「後2か所しかないぞ。どうする?」

 

直人「・・・あと2か所は任せていいか、ちょっと避難ルートから考えてみる。」

 

「分かった、行ってくる!」

 

直人「―――!」

 

提督(・・・。)

 

 焼け落ちた自分の家。その前から、空襲の時2人で逃げたルートを辿ってみる。そこを通過した後に色んなものが崩れ落ちたようで、辿る事も簡単であったが、そこは住み慣れた街、大体どこに何があったかは頭の中にあった。

辿っていくと、住宅街の中の三差路に辿り着いた。燃え尽きた倒木やブロック塀、電柱などの瓦礫が、その右側の道を塞いでいた。空襲の時は燃え盛る倒木のせいで通る事は出来なかったが、今なら通れそうだ。

 

直人「ここで左右に分かれたんだった。」

 

空襲の時、彼は連れ添った幼馴染に突き飛ばされ、気付けば炎を挟んで離れ離れになった。

 

直人「よりにもよって右側に突き飛ばしやがって、危ないったらありゃしない。」

 

しかしその彼女の決死の行動が運命を分けた。それが、彼女との別れだったのだ。

 

直人「・・・左だ。」

 

16歳の時の自分は、彼女が逃げただろう左の道に歩みを進める。そのまま住宅地を進むが、瓦礫の山がいくつも出来ており、歩きづらい事この上なかった。が、ふと見た瓦礫の一山の傍に、何かを見つける。

 

直人「・・・これ、瑞希の―――!」

 

見つけて手にしたのは、瑞希のスマホだった。赤いフレームのスマホは、付いていたであろうキーホルダーはどこかに行き、スマホ本体も焼けただれ、二度と使えないだろう事は明らかだった。しかしそれは、彼女がそこにいた事を表す証拠だったのである。

 

直人「瑞希―――!」

 

 自分の予想に間違いは無い、そう確信し彼は歩みを早める。しかし辿り着いた被災者キャンプは、既にいないと知っていた場所であった。残ったキャンプも両方共いない事が明らかになると、状況は絶望的になった。

 

直人(なんで・・・何であいつに出来て、俺には―――!!)

 

提督(そうだ・・・瑞希は俺を間一髪で救ってくれた。なのに、俺は瑞希を救えなかった。何も出来ぬまま、その災禍から逃げる事しか、俺には―――。)

 

 直人が宿す唯一かつ最大の後悔。彼が、その魂に刻み付けた、“救い”を行わなければならないという「呪い」の根幹であった。

そして幼馴染を救えなかった事。彼が救えなかったその命こそ、彼がかつて、指の間をすり抜けた砂粒の如く、取りこぼしてしまった大切なものであった―――。

 その後、幼馴染の両親から瑞希の遺体が見つかったという知らせを聞く事は遂に出来ず、1年が経ち、彼は曙計画への呼集に応じる形で街を去った。そこから更に7年、彼はまだ、新宮に帰る事が出来ていなかったのだった。

 

提督(8年・・・あれからもう、8年か・・・。)

 

 悩んで、嘆いて、悔いて、また悩んで―――長い間、それを繰り返し、繰り返す内に、色んな事が起こり、いつか忘れていた悔恨の円環(ループ)

戦いの中で様々な事を思い起こす彼の脳裏には、常に彼が失ったモノの影があった。だからこそ、彼は喪う事を極度に嫌い、目の前の危機を救わずには居られないのだ。

 

 

5月5日現地時間6時10分 重巡鈴谷前檣楼・艦長室

 

提督「―――・・・。」

 

直人が目を覚ます。

 

提督「・・・埒も無い。」

 浮き出た汗を拭い、そう吐き出すように呟く彼だったが、その夢は幻想などではない。紛れもなく彼が見てきた光景なのだった。

(・・・あいつの分も生きるんだ。そう、決めたのでは無かったか。)

軍帽を被り、彼は艦長室を出る。提督になった時、元より直人は十字架を背負っていたのだ。彼が約し、救えなかった、幼馴染の十字架を―――。

 

(迷うな、紀伊 直人。迷えば、俺は自分を見失ってしまうぞ―――。)

 

 

提督「明石、状況は?」

 

艦橋に上がった直人を、明石と金剛が出迎えた。

 

提督「・・・なぜ、金剛がここに?」

 

金剛「だって・・・提督の昨日の様子を見て、心配になってしまいましたカラ・・・。」

 

提督「・・・やれやれ。心配し過ぎだよ。」

 

金剛「本当に―――そう思ってるネー?」

 

提督「―――!」

 

そう詰め寄る金剛に直人は驚いた。金剛は真剣な眼差しで彼の目を見据えていた。

 

提督「・・・。」

 

その目を見た時、直人は目を離す事が出来なかった。金剛の目を通して見た自分の顔は、明らかに憂いをたたえていたからだ。

 

提督「・・・ありがとう、金剛。でも俺は大丈夫だ。自分の足で、まだ立っていける。」

 

金剛「無理して立たなくて大丈夫ネー。立てなくなったラ、私が支えるデース!」

 

提督「その時は頼らせて貰うよ。では改めて、状況を聞こうか。」

 

明石「艦の修復は完了していますが、速力に関しては相変わらず。武装に関しても修復が出来ませんので、艦娘用に用意していた予備の武装の一部を転用して補ってあります。」

 

提督「已むを得ざるところだな。しかし天候が悪いな。」

 

明石「えぇ。季節外れの大荒れでして、外洋では波高15mにも及ぶ予報です。」

 

提督「そうか・・・艦娘艦隊は出撃出来そうか?」

 

明石「継続して出撃を続行してはいますが、大波に揉まれて苦労しているようです。」

 

提督「本艦も随分揺れてるようだが?」

 

明石「そうですね、船酔い患者続出ですよ。」

 

提督「だろうな・・・こんな日は空襲はないだろうが、この大荒れに乗じて接近してくる部隊もいる事が予想出来る、注意を怠るな。それと、今日は警戒範囲をディエゴガルシア島周辺部に絞って行え。」

 

明石「はい!」

 

金剛「了解デース!」

 

提督「では各自持ち場を守れ、以上だ。朝飯にしよう。」

 

金剛「お供するデース。」

 

提督「分かった、付き合って貰おう。」

 

 

その後、小規模の戦闘が頻発する一方で変わった事もなく、24時間が経過する。天候は20時間ほどで回復したおかげもあって、翌朝は晴天だった。

 

 

5月6日7時42分 ディエゴガルシア島環礁内・重巡鈴谷

 

提督「まだ友軍との通信は出来ないのか!」

 

大淀「“今朝方から電波を拾ってはいますが、電波妨害が激しく!”」

 

提督「くっ・・・所在が発覚している以上已むを得んか・・・!」

 

大淀「“引き続き通信の確立に努めます。”」

 

提督「分かった。会合時間から既に48時間も立つと言うのに・・・。」

 

明石「―――48時間ですか!?」

 

提督「うん、本来ならスムーズに受け渡しが出来る筈だったんだ。でも敵がいたと言う事は、あちらさんは即日の合流を避け退避した可能性がある。しかしそれにしては遅い。」

 

明石「まさか、中止されたなんて事は―――!」

 

提督「あり得る事だな。船団が危険に晒されていたなら尚の事だ。今の我々は孤立を余儀無くされている状況にある訳だし。」

 

明石「ECCMが使えたら・・・!」

 

提督「無理だな、意味を為さん。」

 

明石「対策されますか・・・。」

 

提督「速いからなぁ、向こうの対応が。」

 

明石「艦娘には出来ない芸当ですし、深海棲艦と艦娘が力を合わせられる今に感謝ですね。」

 

提督「そうだな。」

 

 

その吉報は、8時27分になってやっともたらされる。

 

 

大淀「“こちら通信室大淀、通信、確立しました! ドイツ第2機動隊群司令の名前で、通信を求めています!”」

 

提督「こちら側に出せ!」

 

直人がそう言うと、“SOUND ONLY”の表示が直人のサークルに出る。

 

「“こちら第2機動隊群司令、ニコラウス・シェルベ准将です。”」

 

提督「横鎮防備艦隊司令、石川 好弘少将であります。」

 

「“まずは通信の確立を祝いたい所ですが、我が艦隊は連日襲撃を受け続け、輸送船団こそ守り抜きここまで来ましたが、危機的な状況です。援護を要請したい。”」

 

提督「分かりました。こちらから艦隊を出しますので、現在座標のデータをこちらに送信して下さい。」

 

「“すぐに送りますので、暫くお待ちください。それでは!”」

 

提督「どうかご無事で。」

 

そう直人が言うとすぐ通信が切れた。

 

提督「直ちに索敵機発進! 周辺海域の制海権を維持しつつ、これより独伊艦隊の捜索を実施せよ! 捜索航空隊の編成は第三艦隊旗艦に一任する、急げ!」

 

瑞鶴「“了解!”」

 

提督「全艦休養一時中止! 艦内及び島内環礁内にいる全艦娘は直ちに補給完了と同時に出撃!」

 

レーベ「“仮設基地了解!”」

 

提督「一水打群、応答せよ!」

 

金剛「“こちら金剛、どうぞ!”」

 

提督「直ちに艦隊を率いて独伊艦隊救援に向かえるよう準備せよ!」

 

金剛「“Yes sir(イエッサー)! すぐに戻ってる子を呼び戻すネー!”」

 

提督「第三艦隊は攻撃隊の発進準備! 状況が判明次第場合によっては直ちに発艦させろ!」

 

瑞鶴「“分かったわ。”」

 

提督「第一艦隊は周辺海域の警戒を続行、敵影発見次第叩き伏せろ!」

 

大和「“了解しました!”」

 

提督「重巡鈴谷はこのまま待機だ、この損傷では戦えん。」

 

明石「分かりました。」

 

提督「ここで素早く行動出来た者の勝利だ、各員の努力に期待する!」

 

横鎮近衛艦隊がすぐさま動く。捜索と索敵の彩雲が発艦、受け取った座標を基に一目散にそこを目指す。

 

遅れて一水打群が、艦娘の全艦合流を待って出撃し、ディエゴガルシア島周辺部を離れる。鈴谷はこの日も空襲に備えて対空機銃に仰角をかけて空を睥睨(へいげい)する。

 

明石「提督、この座標、ここから70km程北西の座標です。」

 

提督「近いな、確かに。」

 

明石「しかしこんな所にいたと言うのは・・・。」

 

提督「うん、恐らく攻撃を避ける為に韜晦し続けた結果だろうな。なまじ合流を急がせねばならない。」

 

明石「はい!」

 

その10分ほど後、全速力で先行した彩雲から通信が入る。

 

提督「―――瑞鶴、攻撃隊を緊急発艦! 金剛達では間に合わない可能性がある。」

 

瑞鶴「“了解!”」

 

明石「どうしたんです?」

 

提督「現在も攻撃されているようだ。」

 

明石「成程・・・。」

 

提督「進路はこちらに向かってこそいるが、之の字運動を強いられて遅れている。距離は最初送られた座標から、7km程こちら側に来れてはいる、63kmとちょっとだな。」

 

明石「間に合うでしょうか・・・?」

 

提督「1時間見れば間に合うだろう。全速力で金剛らも向かった事だし、攻撃隊と併せれば何とかなる。」

 

明石「分かりました。」

 

 

翔鶴と瑞鶴は瑞鳳も伴って一航戦を編成し、今度もまた一水打群に随伴して向かっている。そこから艦載機を出す訳だから、自然到着が早かった。直人の指示を受けた後20分余りで航空隊が現場海域に到着、攻撃を行っていた敵の通商破壊部隊と交戦を開始した。

 

そこから金剛が相手を射程に収めるまでは10分しかかからず、その頃には増援を悟った敵部隊が散り散りになって遁走していた。

 

 

提督「―――分かった、そのまま護送してくれ。」

 

金剛「“OK!”」

 

提督「良かった・・・。輸送船は9隻とも全て無事だ。」

 

明石「やりましたね!」

 

提督「しかし通信の向こうからオイゲンの賑やかな声がしていたが、なんだったんだろうな・・・。」

 

腑に落ちない事が一つあった直人だったが、その時は何も分からなかった。

 

 

現地時間10時50分、独伊艦隊はディエゴガルシア島近海に無事その全容を現した。

 

提督「ふーん・・・フリゲート1にコルベット2・・・ドイツ艦隊は前回(※)とあんまり変わんない陣容だな。」

 

※第3部5章を参照

 

明石「ブラウンシュヴァイク級コルベットが1隻増えてますね。オルデンブルグ(F263)ともう1隻・・・F264ですね。」

 

提督「“ルートヴィヒスハーフェン・アム・ライン”だな。」

 

明石「長いですねー・・・でもゲパルト級の姿はありませんね。」

 

提督「あ、ホントだ。そして、前回見ていない船が何隻か、と。」

 

明石「国籍照合・・・マリーナ・ミリターレ・イタリアーナ(イタリア海軍)です。」

 

かつて“レージャ・マリーネ(王立海軍)”とも呼ばれたイタリア海軍は現在、世界で4番目の海軍を持つ国家にのし上がっている。地中海の防衛はひとえにイタリア海軍に負う所も多く、故にその軍備は堂々たるものであった。

 

提督「先頭を走るのは2代目“マエストラーレ”級フリゲートだな。」

 

明石「現在のイタリアでは最新鋭のフリゲート艦ですね。」

 

提督「あぁ、同型艦は8隻、今回いるのはえっと・・・F633から636の4隻だな。」

 

明石「マエストラーレ、グレカーレ、リベッチオ、シロッコの4隻です。」

 

提督「1番艦マエストラーレから4番艦シロッコまでの4隻揃い踏みとは、中々豪勢だな。」

 

明石「その後ろに大型艦が随行していますね。」

 

提督「・・・へぇ、イタリア初の本格航空母艦じゃないか。空母ジュゼッペ・ガリバルディだ。」

 

明石「その名を持つ空母としては2代目、艦としては5代目に当たる空母ですね。設計には隣国フランスのシャルル・ド・ゴールが参考にされたとか。」

 

提督「ガスタービン推進の通常動力型空母だがね、そこが差異だ。搭載機こそ60機ほどだが、まぁ十分だろう。」

 

明石「アンドレア・ドーリア級駆逐艦の姿もありますね、艦番号は―――」

 

提督「D554、カイオ・ドゥイリオだな。」

 

明石「あとは補給艦が2隻、エトナ(A5326)ヴェスヴィオ(A5329)ですね。」

 

提督「そしてそれらが輪形陣を組んで守るのが、輸送船9隻と言う訳か。」

 

明石「早速出迎えましょう。」

 

提督「あぁ、こちらの艦の補修の方はどうだ?」

 

明石「なんとかなるでしょう。」

 

提督「分かった。では行ってくる。」

 

明石「はい! 祝砲はどうしますか?」

 

提督「21発、距離4000だ。」

 

明石「承りました!」

 

提督「大淀!」

 

大淀「“はい!”」

 

提督「鈴谷の方に戻ってくれ。」

 

大淀「承知しました。」

 

提督「金剛!」

 

金剛「“どうしましター?”」

 

提督「通訳に使いたい、レーベをこちらに寄越してくれ。」

 

金剛「“OKデース!”」

 

提督「よし、手空き乗員左舷に整列! タラップ降ろせ!」

 

 

11時02分、独伊連合艦隊はディエゴガルシア島に到着、横鎮近衛艦隊の祝砲に迎えられた。

 

 

11時13分 重巡鈴谷前甲板・2番砲塔左舷側

 

※注:ここからレーベと金剛の通訳を挟みます。イタリア指揮官は英語で会話していると言う事で。

 

提督「シェルベ准将、お久しぶりです。」

 

シェルベ「“アドミラル・イシカワも、壮健そうで何よりです。”」

 

提督「今回もご苦労様です。」

 

シェルベ「“いえ、貴官らがここにいた敵を掃討しなければ、こうして会う事は叶わなかったでしょう。こうして顔を合わせられたことを、まずは喜びましょう。”」

 

提督「はい。」

 

シェルベ「“実は今回の遣日派遣艦隊の指揮官は私ではありません。”」

 

提督「―――成程。」

 

シェルベ「“私は副司令でして、こちらが司令官です。”」

 

「“イタリア海軍外洋部隊司令官、ルイージ・ジャンマリオ・ロディガーリ*1上級少将です。”」

 

提督「横鎮防備艦隊司令、石川好弘少将であります。」

 

ロディガーリ「“お噂はシェルベ准将から聞いております。こうして直にお目にかかる事が出来、光栄です。お若いのに優秀な司令官であると。”」

 

提督「いえ、小官は真面目にやっている次第です。」

 

ロディガーリ「“そうですか、謙虚な事です。しかしこれが噂の“鈴谷”ですか、立派な船です。”」

 

提督「相当な損傷を受けまして、補修こそ済ませましたが、一部はここでは補修も出来ません。」

 

ロディガーリ「“戦闘の傷跡ですな、大変なご苦労をおかけしました。”」

 

提督「任務ですので、この位はなんと言う事はありません。」

 

ロディガーリ「“タフな方だ。前回と同様、輸送船は9隻全て、貴国にお預けします。”」

 

提督「了解しております。我が日本海軍の全力を挙げ、必ず日本まで送り届ける事をお約束します。」

 

ロディガーリ「“感謝致します。”」

 

提督「一つ、お伺いして宜しいか?」

 

ロディガーリ「“なんでしょう?”」

 

提督「前回の遣日艦隊以降、欧州情勢はどうなっていますか?」

 

ロディガーリ「“地中海に関しては緩やかな緊張状態を維持しています。ただスエズ方面の警戒が厳重になり始めているのが気がかりでして、現在はそちらに力を入れております。”」

 

シェルベ「“大西洋方面に関しては情勢は5か月前と左程変わっておりません。NATO欧州連合軍司令部は徹底抗戦の態勢を維持していますが、戦力がじりじり削られる中で、どれほど持久出来るかは判りかねます。”」

 

提督「分かりました。」

 

ロディガーリ「“それについて、NATOナポリ統合軍司令官からの個人的要望として、一刻も早くの日本艦隊来援を乞うとの伝言を預かっております。”」

 

提督「それについては前回のシェルベ准将の伝言もお伝えしてはありますが、小官は1個艦隊の司令官の身に過ぎず、確実な事は申し上げかねます。ですが、ロディガーリ上級少将のお預かりしていた伝言は、必ず軍令部にお伝えします。我が日本艦娘艦隊は、ひいては全世界の救援に、尽力するでありましょうと、ナポリ統合軍司令部にお伝え願いたい。」

 

ロディガーリ「“お言葉を頂戴し、感謝に堪えません。その一日も早い実現を、我々も心待ちに致します。”」

 

提督「またこうしてお会いできる機会もあるでしょう。それまで、ご壮健で。」

 

ロディガーリ「“はい。ではこれにて。”」

 

直人と二人の提督は、敬礼を交わして分かれ、2人は短艇で自分の艦隊に戻っていった。仮設基地は既に撤収中であり、あと1時間も経ず出港出来るだろう。

 

 

11時37分 左舷側艦娘発着デッキ

 

提督「船団護衛は前回と同じ手順で行く。戦力は隻数の増加を踏まえて前回よりも多めの布陣で行こう。」

 

矢矧「分かった。で、どのくらい使うの?」

 

提督「二水戦と一水戦、補助で第十二戦隊と十四戦隊、第三戦隊も全力投入する。航空戦力は一航戦と三航戦、サポートで七航戦が当たれ。他の者は一時休息、指示があるまで待機だ。」

 

一同「「“はいっ!!”」」

 

提督「ま、指示を出さない事が一番なんだがね。」

 

オイゲン「提督!」

 

提督「ん、オイゲンか、どうした?」

 

オイゲン「面会者が来てます!」

 

提督「ん? あぁ、何処だ?」

 

オイゲン「ハッチの所に、急いで!」

 

提督「はいよ。」

 

オイゲンに言われるまま、彼はデッキからハッチに走る。

 

 

オイゲン「連れて来たよ!」

 

提督「おやおや、そう言う事か。」

 

「申告します! イタリア海軍所属、戦艦イタリア、本日から日本でお世話になる事になりました!」

 

「同じく戦艦ローマ、日本海軍に一時編入になりました。」

 

「ドイツ海軍所属、航空母艦グラーフ・ツェッペリンだ。これより、貴国に世話になる事になった。ひとまず、宜しくお願いする。」

 

提督「了解した、取り敢えずはリンガ泊地までお送りする事になる。短い間だが、まぁくつろいでくれ。」

 

イタリア「宜しくお願いします、艦長さん。」

 

提督(お前もか、なぁお前もなのか?)

 

オイゲン「い、イタリアさん、この人は艦長じゃ―――」

 

提督「いいよオイゲン、艦長で。」

 

オイゲン「えっ・・・あ、そっか。そうだね。」

 

イタリア「・・・?」

 

事情を知らない3人はキョトンとしていた。

 

提督「あっ、こっちの事情だ、気にしないで貰えると助かる。」

 

イタリア「は、はぁ・・・分かりました。」

 

 

提督「―――次は、気を付けてくれ。」

 

オイゲン「はい、ごめんなさい。」

 

提督「分かれば良し。」

久しぶりの同郷の士との再会に、少々舞い上がっていたオイゲンなのであった。

 

 11時52分、撤収を終えた横鎮近衛艦隊は、独伊艦隊と分かれて帰路に就いた。被害こそ大きかったものの、それに見合う成果を得て、意気揚々たる帰投となったのである。

 一方で、ベンガル湾の戦況は刻一刻と悪化しつつあった。初期の混乱を漸く収束させた深海棲艦隊東洋艦隊は、5月4日に最初の反撃を行うと、5月5日に大規模な防衛戦を展開して、艦娘艦隊を押し戻しにかかった。

これに対して艦娘艦隊も入れ代わり立ち代わりの猛攻を仕掛けて一進一退の攻防が続いていた。しかし初期の様な優勢は最早望む事は出来ず、血みどろの消耗戦の様相を呈していた。

だが艦娘の戦没数は目に見えて減っており、艦娘艦隊もただ無為に時を過ごして来たのではない事は容易に理解する事は出来た。であればこそ、敵の強大な反撃にも拮抗し、かつ攻勢を継続する事が出来たのだったが。

 ただここで東洋艦隊に誤算が生じたのは、後方待機させておいた予備戦力である高速打撃群が、横鎮近衛艦隊によって壊滅させられた事だった。コロンボもそこまで予期する事は出来ず、またそんな所まで敵が来る筈はないと考えていたのだった。何度でも前例があるにもかかわらず・・・。

 

 その艦娘艦隊の奮戦の陰で、その恩恵を受けて横鎮近衛艦隊がペナンに戻って来たのは、5月12日、ペナン時間8時13分の事であった。横鎮近衛艦隊は一切の妨害も受ける事無く、ペナン秘密補給港へと辿り着く事が出来たのである。

艦隊の出迎えには、リンガ泊地司令官がその執務の時間を割いてやって来ていた。

 

5月12日ペナン時間8時20分 ペナン秘密補給港埠頭

 

提督「北村海将補殿! わざわざのお出迎え、感謝致します。」

 

北村「いやいや、礼には及ばんよ。仕事で来ているのだからな。」

 

提督「はぁ・・・。」

 

流石に少々恐縮する直人である。

 

北村「今回もご苦労じゃったな。ひとまず、リンガまで予定通り回航するのだろう?」

 

提督「はい、その予定です。」

 

北村「うむ、では儂も便乗させて貰うぞ。」

 

提督「は、はぁ・・・畏まりました。」

 

北村「実際の所はな、重巡のブリッジとはどんなものか、以前から興味があったのでな。」

 

提督「―――成程、そう言う事でしたか。では、喜んでご招待させて頂きます。」

 

大淀「・・・。」

 

 

大淀「宜しいのですか?」

 

提督「なんでー?」

 

大淀「北村海将補とはいえ、我が艦隊の部外者ですが・・・。」

 

提督「北村海将補は曙計画の関係者の一人でもあった人だ。断る理由は特に無いし、我が艦隊の存在も知っている、何か問題があるのかい?」

 

大淀「・・・提督は分かっておいでの筈です。提督の事を快く思っていない者は、もう幹部会内部には留まらないのだと言う事を。そう言った者達によって何かしらのアクションが行われた場合、北村海将補は勿論提督にも危害が及びかねません。」

 

提督「忠告はありがたく受け取って置くがね大淀。それは少々心配し過ぎだろうな。あるならとっくに、何かしらのアクションはあった筈だ。」

 

大淀「それは・・・」

 

提督「杞憂だ、とまでは言わん。実際我が艦隊は講和派を受け入れた時、一部過激派の暴発に際してその迎撃の指揮を執ってもいる。それによって解任された提督は527人もいるんだ、俺を憎まん方が可笑しいと思うよ。」

 

大淀「でしたら―――」

 

提督「だが俺の動向はそう容易く掴めるものでは無い。厳重な警備のサイパンに隠密裏に潜り込む事も不可能なら、我々の足跡自体掴むのは容易ではない。特にこう言う所に居なければだがな。」

 

大淀「・・・。」

 

提督「そう簡単に俺が死ぬかよ、それは大淀も知ってる事だろうに。」

 

大淀「えぇ、私は最初から貴方に仕えさせて頂いています。ですから良くその事は存じているつもりです。ですが、そのお仕えさせて頂いている方の身を案じずして、副官の役務が務まるとは私は思っていません。」

 

提督「・・・要は、心配位させろと言う事だな。分かったよ、ありがたく受け取って置く。」

 

肩を竦めて微笑んで見せながら、彼は嘆息するのだった。

 

―――あぁ、俺は本当に、良い副官を持ったのだな。

 

 

10時15分 重巡鈴谷前檣楼・羅針艦橋

 

五十鈴「船団護衛かぁ。」

 

提督「そ。前回も任せたけど、今回も任せていいかい?」

 

五十鈴「フフッ、当たり前じゃない! この五十鈴にお任せ!」

 

提督「ありがと。戦力には二水戦と五十鈴のいる十二戦隊、あと、ドイツ戦隊も付けるから。」

 

五十鈴「へぇ、心強いわね。」

 

提督「でしょ?」

 

五十鈴「うん! これならいけるわ、ありがとう!」

 

提督「どういたしまして。さ、準備しておいで。」

 

五十鈴「了解! 提督、行ってきます。」

 

提督「うん。行ってらっしゃい。」

 

直人が羅針艦橋から下に降りる五十鈴を送り出す。これから五十鈴は再び、日本への長い船団護衛の旅に出るのだ。

 

提督「・・・。」

 

北村「あの五十鈴は確か、例の・・・」

 

提督「えぇ、レオネスクと言う提督に元に居て保護された艦娘の一人です。」

 

北村「やはり。じゃが、立ち直ったみたいじゃな。」

 

提督「えぇ、まぁ。」

 

北村「・・・艦娘も人じゃ、それを弁えん者が、余りにも多過ぎるのじゃよ。」

 

提督「海将補殿・・・。」

 

北村「“殿”付けは良い、いつも通り海将補でな。」

 

提督「は、はい。」

 

北村「その点、貴官らは艦娘艦隊の模範と呼んでいいじゃろうな。」

 

提督「そう言って頂けるのは、私としても光栄です。」

 

北村「今のこの艦隊の空気を、守り抜くのじゃぞ。」

 

提督「分かっております。」

 

北村海将補の言った事は、彼が常に心がけている事にも繋がっているのだ。それだけに彼もその言葉は身に染みた。

 

北村「ところで、紀伊君はいくつになったかね。」

 

提督「今年24になりました。」

 

北村「そうか、儂も72だがね。時の経つのは早いものじゃ。最初に儂らが会った時、紀伊君はただの小僧だったぞ。」

 

提督「17の時の話ですからね。」

 

北村「あれからもう7年か、早いものじゃなぁ。」

 

提督「全くです・・・。」

 

全く―――早いものだ。月日と言うのは・・・俺の心の穴も、満たされてはいないと言うのに。

 

月日は残酷だ。直人は心底そう思った。

 

彼の半身が、彼の元を離れて8年も経つのに、そこに開いた穴だけは、未だに埋まらぬまま・・・8年と言う月日は、彼の心に空虚な隙間を残したまま過ぎていたのだった。その間に新宮の災禍は早くも人々の記憶から薄れようとしていた。

 

人の記憶と言うものは所詮そんなものでしかなかったが、それが分かっていても、彼にとっては、16と言う若さで見せつけられたそのカタストロフィは、余りにも残酷に過ぎたと言えよう。

 

 

13時29分、重巡鈴谷はペナンを発ち、同時刻輸送船団もペナンを出港、五十鈴の護衛部隊はその護衛の為共に随行する形で鈴谷を離れた。

 

鈴谷はその後、一度リンガに立ち寄り北村海将補と3人の艦娘を降ろした後直ぐに出港し、一路サイパンへの帰還の途に就く。

 

そのリンガへの数時間ほどの船旅の途中の出来事である。

 

 

14時17分 重巡鈴谷中甲板中央廊下

 

提督「うちの艦隊はね、他の艦隊と比べて旗艦クラスの幹部育成に余念なく取り組むようにしているんだ。」

 

イタリア「そうなんですね。」

 

提督「その一端を特別にお見せしよう。ここだ。」

 

イタリア「・・・食堂、ですか?」

 

提督「まぁまぁ。」

 

そう言って直人が3人の客人を連れ食堂に入ると、そこには金剛を除く水上部隊旗艦級の艦娘が集まっていた。

 

提督「3人は適当に邪魔にならない所でかけてくれ。さぁ、今日も始めるぞ!」

 

一同「「お願いします!」」

 

提督「前回は、“側背から敵の強襲を受けた際の機動的転回に係る方策について”だったな。今回は、それを戦略レベルに展開して考えて見る事にする。そこで、今回の題材だ。」

 

そう言うと彼が食堂の壁に備え付けられているホワイトボードに題材の地図を貼る。ホワイトボードのある壁は食堂のカウンターから向かい側の壁である。食堂はこうした用途に使えるようにもなっているのである。

 

提督「今回の想定は、分散進撃中の我が方の艦隊Aが、後背から敵深海棲艦隊3個艦隊の攻撃を受けたものと仮定する。BとCはAの両翼に展開し、距離はおよそ75kmだ。この場合に於いてまず艦隊Aが行う艦隊行動について、何か意見や提案がある者は?」

 

大淀「いいでしょうか。」

 

提督「うむ、どうぞ。」

 

大淀「この場合、まずAは後背からの敵の急襲に対し、秩序を乱さない事を前提としますが、その点の想定についてはどうなっているのでしょうか。」

 

提督「今回の場合は混乱しているものとする。」

 

大淀「では、進行方向の変更を行わず、後背の敵に対して向き直っての砲撃を実施し、敵の進軍速度を遅らせます。」

 

提督「成程、満額回答だ。」

 

大淀「ありがとうございます。」

 

提督「今の大淀の回答の通り、Aがすべき事は本格的な戦闘ではなく、遅滞戦術に依る敵の進軍阻止だ。これによる援軍を待つ。この間にBとCは可及的速やかに転進し、Aの救援に向かわねばならないと言うのが本筋だ。ここでAが徹底抗戦した場合、敵に対し劣勢の時は救援が間に合わない可能性もある。ただ戦えばいいという訳ではない。」

 

川内「提督、質問いいですか?」

 

提督「あぁ、いいぞ。」

 

川内「敵に対し優勢だった場合、Aは速やかに反撃戦闘に移行してもいいんじゃないでしょうか?」

 

提督「急襲によって混乱をきたしていると、命令伝達が困難になる可能性が高い。優勢である場合に於いてもまずは遅滞戦術を行う事によって、味方の混乱を収拾する時間的余裕を作らなくてはならないと言う訳だ。」

 

川内「成程・・・。」

 

提督「敵がこの挙に出るとしたら、それは水面下からの奇襲によって我々の意表を突こうとした場合だ。本来あってはならないという潜在的な意識から、見落としやすい角度からの奇襲が、戦術上は一番有効だからね。」

 

大和「提督!」

 

提督「どうした?」

 

大和「敵の通信妨害による命令伝達の阻害が起こった場合はどうすればいいのでしょうか? この場合、救援を求める通信は送れないと思うのですが・・・。」

 

提督「艦載機に通信筒を持たせて飛ばすか、伝令の艦娘を送って救援を要請する事になるだろう。その間他の艦隊は、過度の通信障害によって戦闘が起こっている事を把握した上で、自分達の取るべき行動を取捨選択する必要がある。」

 

矢矧「その方法と言うのは?」

 

矢矧が食い入るように質問する。

 

提督「そう焦るな。この場合、高速艦隊ならば直ちに全速力でAの救援に向かうのが最も適切だ。しかし通常の速力の艦隊である場合、それでは間に合わない事も考慮に入れる必要がある。」

 

阿賀野「それじゃ場合によっては・・・!」

 

提督「・・・壊滅した、と言う前提で動く事も必要になるという事だ。無論この判断は、彼我の総戦力比などによって判断が分かれるが、集結してどうにか五分、と言う場合、1個艦隊のみの来援では対抗出来ない恐れも出てくる。そこで、BとCを結集した上で増援、ないし迎撃するという選択肢が浮上する訳だ―――」

 

 

イタリア「今日は、ありがとうございました。」

 

終わった後、イタリアは直人に礼を言った。

 

提督「いいよ、これ位は。うちの艦隊ではこれの事を“座学”と言うがね、まぁ実態はあの通り、戦術研究会なのさ。」

 

ローマ「良い艦隊ですね。私も配属されるなら、この様な艦隊だと嬉しいのですが。」

 

提督「中々難しいがね。」

 

グラーフ「・・・一ついいか。」

 

提督「何かね?」

 

グラーフ「・・・先程の研究会の中で聞かれた、“壊滅したという前提が必要になる”と言うのが、私にはどうも納得が出来ん。」

 

提督「・・・。」

 

グラーフ「我々は、仲間を信じる事から、戦いが始まる。しかし先程貴官が言ったのは、その信じた仲間を、仮にとはいえ見捨てろという事だ。」

 

提督「信じる心は当然大切だ。だが、戦場の現実は、それほど甘くはないんだ。欧州戦線で戦い抜いてきた君になら、分かる筈だ。」

 

グラーフ「・・・私には、実戦経験はないんだ。」

 

提督「なに―――!?」

 

グラーフ「我が国の海軍艦娘艦隊は大きく3つに大別される。“戦艦部隊”の第1艦隊、“高速部隊”の第2艦隊、そして、“空母部隊”の第3艦隊。私は―――“第1艦隊”の出身なんだ。」

 

提督「どういう事だ?」

 

グラーフ「“私と言う存在(グラーフ・ツェッペリン)”は既に、第3艦隊にいたという事だ。その余り物の私は、日本への増援と言う形で体よく本国を去らざるを得なかった、と言う事だ。」

 

提督「・・・すまない、言いにくい事を―――。」

 

グラーフ「いや、構わない。或いは、貴官だからこそ、話せたのかもしれない。本日の講座は参考になった。充分学び取らせて貰う。それでは。」

 

提督「あ、あぁ・・・。」

 

去っていくグラーフの後姿を、呆然としながら見送る直人。

 

イタリア「・・・グラーフさん、あんな事情があったんですね。」

 

提督「あぁ、俺も知らず知らずとはいえ、とんだ事を言ってしまったな。」

 

ローマ「いいえ、私には分かります。いえ、私だけでなく、きっとイタリアも。」

 

イタリア「はい。私もイタリア海軍として、今まで戦ってきましたから・・・。」

 

提督「―――そうか。地中海と太平洋は違う。波も、苛烈さも。その事は充分、分かっているとは思うが、肝に銘じて置いてくれ。」

 

イタリア・ローマ

「「はいっ!」」

 

直人はそう言って二人とも別れた。この後グラーフを含むこの3人は、リンガで鈴谷を降り、船団と共に日本を目指す事になる。

 

 

20時47分 重巡鈴谷前檣楼・羅針艦橋

 

提督「・・・イタリア海軍は、ドイツと並んで艦娘の教育には成功したと見える。」

 

明石「オイゲンさんとレーベさんも、もの凄く優秀な方ですからね。」

 

提督「せやな。」

 

明石「―――我々も、海外の方々には負けられませんね!」

 

提督「その意気や良し! 頑張ろう!」

 

明石「はいっ!」

 

こうして、提督の紀伊 直人とメカニックの明石は、一層の奮起を誓うのであった。

 

 

5月18日、鈴谷は外板の歪による燃費悪化や航行性能の低下に悩まされつつ、サイパン時間15時16分にサイパン島に辿り着いた。

 

そのまま鈴谷はドックへ直行となり、後日明石から、修理に1ヵ月半と言う申告を受けたのだが―――

 

 

5月20日16時37分 中央棟2F・提督執務室

 

提督「1ヵ月半か・・・。」

 

明石「損害の大きさを考えますと、この位はかかってしまいます。」

 

提督「・・・分かった。」

 

明石「この際なんですが提督、鈴谷の改修を具申します!」

 

提督「改修?」

 

明石「はい、燃費の改善や武装の改良、これまでの小改修による機構の複雑化が少し発生していますので、その辺りの改良などなどです。」

 

提督「成程、修理ついでにやってしまおうと。」

 

明石「それに、水中防御力の強化として、隔壁の細分化等も同時に実行します。装甲配置も再配分し、重心の調節等に努める形でも調整するつもりです。」

 

提督「・・・分かった。承認してもいいが、それに伴う工期の延長等はあるか?」

 

明石「ほぼ発生しない見通しです。」

 

提督「大変結構、始めてくれ。」

 

明石「了解!」

 

提督「どうせ暫く出せんのだ、ならばこの際徹底的にオーバーホールと改修をした方がいいだろう。宜しく頼む。」

 

明石「明石にお任せ下さい! 非の打ち所がないくらいに仕上げて見せます!」

 

自身の改修案に自信を覗かせる明石は、早速鈴谷の全面改修に乗り出した。その後暫く、改修中の造兵廠ドックには喧騒が満ちる事になる。

 

 

その、喧騒の只中にやってきた艦娘達がいた。

 

 

5月21日8時22分 中央棟2F・提督執務室

 

夕張「明石さんの代理、夕張です! ドロップ判定真っ最中! なのですぐ来てください!」

 

提督「あいよ!」

 

いつも作業する時のYシャツにオレンジのツナギを着た夕張の呼び出しを受けて、直人はすぐさま建造棟へと走り出すのである。

 

 

8時28分 建造棟1F・ドロップ判定区画

 

提督「とまぁ、やってきた訳だが。」

 

夕張「はい、こちらの3人です。」

 

「ふぅん、この人がここの提督・・・。」

 

黒髪ロングの艦娘が直人を見てそう言った。

 

夕張「えぇ、そうですよ。自己紹介、どうぞ!」

 

「水上機母艦、秋津洲よ! この大艇ちゃんと一緒に覚えてよね!」

 

「雲龍型航空母艦、三番艦、葛城よ!」

 

「綾波型駆逐艦、曙よ。」

 

提督「うん、夕張の紹介に与った、横鎮近衛艦隊司令官、紀伊直人だ。宜しく。」

 

葛城「えぇ、宜しくね。あなた、中々いい目をしてるじゃない。期待させて貰うわ!」

 

提督「そりゃどうも。うちは機材も豊富にあるから、期待に沿えると思う。」

 

葛城「いいわね、頑張らせて貰うわ。」

 

秋津洲「秋津洲も、大艇ちゃんと一緒に頑張るかも!」

 

提督「うん、活用させて貰うよ。二式大艇の性能は凄いからな。」

 

朧「提督、お呼びですか―――曙!」

 

曙「朧じゃない! もう居たのね!」

 

朧「他の2人ももう居るよ、これで七駆全員集合!」

 

曙「えぇ、そうね!」

 

天城「あの・・・提督。」

 

提督「やれやれ、2人呼んで正解だったゾ夕張。」

 

夕張「えぇ、本当に。」

 

提督「天城、新任の3人に、司令部を案内してやってくれ。夕張も付き添ってやれ。朧、お前もだぞー。」

 

朧「はい提督!」

 

天城「畏まりました。」

 

葛城「天城姉、久しぶりね。」

 

天城「えぇ、来てくれて嬉しいわ。七航戦も、これで完全編制ですね提督!」

 

提督「ん? あぁ、そうだな。しかしこうして並んでみると、二人は着物なんだね。」

 

天城「普段着・・・ではありますけれど。」

 

葛城「流石に戦闘の時には着ないでしょ。」

 

提督「そりゃそうだ。いや、雲龍は着てないのになぁって思って。」

 

天城「・・・成程。雲龍姉様は確かに、着物をお召しにはならないようです。」

 

提督「そうなんだ・・・ちょっと興味あったんだけどな。」

 

天城「まぁ。伝えて置きましょうか?」

 

提督「んー、気が向いたらでいいよって言っといて。」

 

天城「分かりました。是非と仰っていたと伝えて置きますね。」

 

提督「おいおい天城。」

 

葛城「天城姉!?」

 

天城「ふふっ、冗談です♪」

 

提督「はぁ~っ、ほら、皆行った行った!」

 

天城「了解しました! 皆さん、行きましょう!」

 

半ば追い払われるように建造棟を出る6人。それを見送ってから執務室に戻る直人は、苦笑交じりの表情をしていた。

 

 

後日、雲龍が山吹色の着物を着て3人で現れたのは、また別の話・・・。

 

 

そしてそれは、5月末日になって唐突に舞い込んできた。

 

 

5月31日10時07分 司令部前埠頭

 

提督「―――多くないか、今日の船便。」

 

大淀「臨時便だそうですが・・・。」

 

提督「マジで?」

 

無線連絡を受けて直人自ら出迎えに来た直人は、双眼鏡に映るその隻数に驚いていた。しかし20隻を数えるであろうそれらの殆どは沖合を通過していた。どうやら高速輸送船団らしかった。が、殆どと言うのは、3隻だけサイパンに向けて接岸しようとしている船があったからだ。

 

大淀「その内の3隻が我々に充当、と言うのは妙な話ですね。」

 

提督「いつもは普段の物動でも2隻だ。しかもその便は明日定刻通りと言う通知があった後だ。」

 

大淀「なんなのでしょうか・・・?」

 

不審に思う直人らをよそに、3隻はキレイに1番から3番埠頭まで順に接岸する。

 

提督「―――ご苦労様です、艦隊司令、石川少将です。」

 

船団長といつも通りの挨拶をする直人。

 

「―――よォ直人。」

 

提督「―――!」

 

突然響いたその声は馴染みがあり過ぎる声だった。

 

船団長「実は今回は、横鎮と大本営のたってのものなのですよ。」

 

提督「成程。道理で“大迫さんがいる”訳か。」

声の正体は横須賀鎮守府後方主任参謀である大迫一佐であった。とんだサプライズであったが、それを成功させた大迫一佐は得意満面に言ったものである。

大迫「そう言う事。こないだBf110を融通出来なくて残念がってたからな。俺が頑張ったという訳さ。」

 

「―――まさか、これ全部・・・?」

直人が3隻の高速輸送船から降ろされてくる積み荷を見ながらそう言うと、大迫一佐は答える。

大迫「まぁ、そんな所だな。流石に全部という訳にも行かなかったが。」

 

「只今!」

 

提督「おぉ五十鈴!」

鈴谷がオーバーホール中で空の司令部前ドックの方から聞こえたのは五十鈴の声である。後ろには護衛任務に出していた駆逐艦娘達が岸壁へと上がってくるところであった。

 

五十鈴「船団護衛任務、完了したわ!」

 

提督「お疲れ様、ゆっくり休んでいいぞ。」

 

五十鈴「えぇ、そうするわ。」

 

大迫「護衛にお前が彼女達を寄越したという話を聞いてな。御言葉に甘えて借りさせて貰った。」

それを聞くと直人は心当たりがあり溜息をつきながら言う。

「やれやれ、予定が変わったとはそう言う事か。」

その声は呆れたと言うよりも、単純に納得したような響きがあった。

「あと、紹介したい客人がいる。」

大迫一佐がそう言うと、彼の背後に船からこちらに歩いてきたのだろう3人の“客人”の姿があった。

提督「―――え・・・?」

それこそ真に驚くべき者達だった。その3人とは、先日日本に招かれた者達だったからである。

「・・・あら?」

「貴官は!」

「えっ・・・!?」

 

大迫「驚いたか、直人。」

ニヤリと笑みを浮かべてそう言う大迫一佐に直人は率直に言った。

「―――えぇ、本当に。」

 

大迫「俺の預かりになったもんでな、ここぞとばかりに抑えさせて貰った訳だ。多分山本海幕長は、その意図で俺に預けたんだと思う。」

 

提督「期待されてますね、私も。」

肩を竦めてそう言う彼に、大迫一佐は掛け値なしにこう言う。

「当たり前だ、横鎮近衛艦隊は我が海軍のエース艦隊だからな!」

そこへ追い付いてきた3人の客人の1人、戦艦イタリアが思わず大迫一佐に尋ねていた。

イタリア「大迫一佐、これは・・・?」

 

大迫「あぁ。彼が、この秘密の艦隊の司令官さ。」

 

提督「事情も説明済みか、話が早くて助かりますな。」

 

イタリア「そうだったんですね。すみません、知らなかったとはいえ艦長さんだなんて・・・。」

 

提督「いいさ。母艦の艦長と艦娘艦隊の指揮官が同一だなんて、我が艦娘艦隊でも我々位なものだし。」

 

大迫「確かに。」

この掛け合いで相互に事情を飲み込んだ大迫一佐を除く4人は、改めて自己紹介をした。

イタリア「改めまして、イタリア海軍、戦艦、イタリア。」

 

ローマ「同じく、戦艦ローマ。」

 

グラーフ「ドイツ海軍所属、グラーフ・ツェッペリン。」

 

イタリア「母国を代表して、本日より貴艦隊でお世話になります!」

 

提督「―――心強い限りだ、宜しくお願いする。横鎮近衛艦隊司令官、紀伊直人元帥だ。」

 

3人「「宜しくお願いします(する)!!」」

 

こうして、唐突ながらに3隻の新たな仲間が、様々な装備等と共に、艦隊の戦列に加わる事になったのである。

 

 

提督「・・・で、積荷のリストはー?」

気の抜けるような声で言う直人に、共に岸壁を歩く副官大淀が書類を差し出した。積み荷のチェック作業、という訳である。

「はい、こちらになります。」

直人が大淀から渡されたリストには、とんでもない数の兵器が載っていた。

 

・Ansaldo and OTO 1934年式50口径38.1cm砲(cannone da 381/50 Modello 1934) 三連装砲 3基

・OTO 1936年式55口径15.2cm砲(cannone da 152/55 Modello 1936) 三連装砲 3基

・Ansaldo and OTO 1939年式50口径9cm高角砲(cannoni da 90/50 modello 1939) 単装砲 3基

バイエルン航空機製造(Die Bayerische Flugzeugwerke) Bf109T 艦上戦闘機 2ユニット

フォッケウルフ航空機製造(Focke-Wulf-Flugzeugbau) Fw190T(F-8改修型) 艦上戦闘爆撃機 2ユニット

ユンカース航空機・発動機製作(Junkers Flugzeug- und Motorenwerke) Ju87C-1 艦上爆撃機 2ユニット

・ユンカース航空機・発動機製作 Ju87D-4 艦上雷撃機 2ユニット

1933年型65口径10.5cm艦載型対空砲(10.5cm SK C/33 L/65 FlaK) 連装砲 3基

・プリエーゼ式水中防御モジュール 3セット

・FuMO 25 早期警戒・射撃管制レーダー 1セット

1942年式(ロケット弾)発射機(Wurfgerät 42) 2基

・試製51cm連装砲 1基

・試製46cm連装砲 1基

・試製35.6cm三連装砲 1基

・二式大艇 2機

・スーパーマリン シーファイアMkⅩⅦ 1ユニット

・ホーカー シーフューリーFB.11 1ユニット

などなど・・・

 

提督「・・・シーファイアにシーフューリーだと? イギリスの装備だが―――」

 

グラーフ「欧州連合軍が総力を挙げて、日本を支援しようという動きがある。それに伴い、イギリスからも装備の提供を受け、私が輸送して来たのだ。」

 

提督「成程、ありがたい限りだな・・・。」

 

大迫「その積荷ごと押さえてやったんだ。Bf110の代わりとまでは言わないが、受け取ってくれ。」

 

提督「―――ありがとうございます、使わせて貰います!」

 

大迫「それと、六〇一空所属機の輸送もしておいた。機種は零戦五二型甲・天山一二型・彗星一二型だ。」

 

提督「助かります、葛城艦載機について検討する所でしたので。」

 

大迫「喜んでもらえて何よりだ、頑張った甲斐があったよ。」

 

提督「本当に、大迫さんには感謝しています。」

 

大迫「今後も必要なものがあったら言ってくれ。袖の下抜きで相談に乗ろう。」

 

提督「ありがとうございます。では、積荷の搬入がありますので、早速これにて。」

 

大迫「頑張れよ!」

 

提督「はいっ!」

 

張り切った様子でその場を後にする直人。

 

大迫(全く、元気な奴だ。)

 

その背を、頼もしそうに見送る大迫一佐の姿があった。兵站の名人である彼の存在があってこそ、直人は後ろを気にせず戦えるのだった。

 

提督「早速この新しい艦載機どうしよう。」

 

瑞鶴「六〇一空は葛城に乗せてあげるとして・・・」

 

提督「今搭載機無しの艦娘がいないしなぁ。」

 

瑞鶴「・・・いや、一人いる。」

 

提督「へ?」

 

瑞鶴「ほら、あきつ丸さんだよ。」

 

提督「あぁ・・・あの子か。」

 

瑞鶴「それに大鯨さんも、確か明石さんがもうじき改装だって。」

 

提督「でもあの子は固有の航空隊を持参で来る筈。だからダメかな。」

 

瑞鶴「うーん・・・余るね。」

 

提督「どうあがいてもね。」

 

瑞鶴「・・・あ、そうだ。」

 

提督「ん?」

 

瑞鶴「グラーフさんにちょっと質問してくる。」

 

提督「お、おう・・・。」

 

そう言って瑞鶴は駆けだした。

 

 

瑞鶴「初めまして、グラーフ・ツェッペリンさん。」

 

グラーフ「君は・・・」

 

瑞鶴「横鎮近衛艦隊第三艦隊、旗艦の瑞鶴よ。まぁこんな肩書だけど、各空母部隊を全面的に指揮する空母部隊の指揮官ってとこね。多分、貴方も私の所に配属になる筈、宜しくね。」

 

グラーフ「ズイカク・・・瑞鶴か。宜しく頼む。私の事は、グラーフでいい。」

 

瑞鶴「じゃぁグラーフさん、今のあなたは艦載機を乗せてるの?」

 

グラーフ「輸送の為と、建造されて間もない頃だったのもあって、艦載機は今は・・・。」

 

瑞鶴「成程ね・・・ありがと、参考にさせてもらうわ。」

 

グラーフ「用件は、それだけなのか?」

 

瑞鶴「自己紹介はして置かないとって思ったのが第一よ。」

 

グラーフ「・・・そうか。」

 

瑞鶴「それじゃ。」

 

 

提督「まぁ・・・そうだな。」

 

瑞鶴は聞いてきた内容を直人に話した。直人は納得したようにそう唸ったのみだった。

 

提督「ではワンセット、グラーフに預ける事も出来るな。」

 

瑞鶴「でもスペック見たけど、ちょっと癖があり過ぎる感じが・・・。」

 

提督「うーん・・・最低限改で渡してくれたのが幸いだったな、艤装だけ代えたらしい。」

 

瑞鶴「うん・・・。」

 

提督「第1スロットと第4スロットの搭載数を変更するよう小改修を明石に頼もうか。」

 

瑞鶴「え、出来るの?」

 

提督「一応。じゃなきゃ俺の紀伊の搭載数もあべこべな事になるし。」

 

瑞鶴「あっ・・・確かに。」

 

提督「そこでだ。第1スロの搭載数を25に下げ、5機分を第4スロットに回して8機にする。ここにフォッケウルフを入れて、13と10にスツーカの雷撃型と爆撃型をそれぞれ、25はメッサーシュミットでいいだろう。」

 

瑞鶴「成程・・・。」

 

提督「よし、早速頼んで来る事にしよう。あ、金剛!」

 

金剛「Oh! 提督・・・。」ジーッ

 

提督「・・・?」

 

唐突にまじまじと見られて――睨みつけられて――怪訝そうな顔をする直人。

 

金剛「・・・仲良さそうですネー?」ジトー

 

提督「いや当たり前でしょ、ねぇ瑞鶴?」

 

瑞鶴「そうそう! 提督と艦娘の仲の良さが、この艦隊の強さの秘訣なんだから。」

 

そう事もなげに言い放つ瑞鶴を見て金剛は溜め息一つついて言った。

 

金剛「ムー・・・まぁいいデス。で、なんデスカー?」

 

提督「外国からの艦娘が3隻、我が艦隊に配属だ。艦隊を代表して司令部を案内してやれ。この有様で訓練も中止だしな。」

 

金剛「あの方達デスネー?」

 

提督「そうだ。あと、新任の艦娘も含め、艦隊編成もちゃんとな。」

 

金剛「アイアイサー!」

 

元気よく敬礼すると、金剛は早速イタリア達の所に飛んでいくのだった。

 

提督「・・・もしかして、妬かれた?」

 

瑞鶴「―――し、知らないわよ!///」ツーン

 

提督「えぇ・・・?」

 

あらぬ方向からもヤキモチを妬かれた直人なのであった。

 

提督(―――なんでさ。)

 

そう思わずにはいられないのである。女性ばかりの職場と言うのも部外者にはロマンだが、やってみると意外とこんなもんである。夢は夢だからこそ――と言う奴であろう。ハーレムモノでは王道のパターンでこそあるのだが、そんな状況とは程遠い、戦地の現状であった。

 

 

その後、忙しい中グラーフの艤装改修を快諾してくれた明石だったが、忙しい事に変わりはなく、いつになるかは分からないという注釈を頂いたのであった。

 

しかしそれであるにも拘らず、一つ難問が持ち上がっているのだという。それを担当しているのが、造兵廠や建造棟での業務を代行する夕張なのである。夕張も明石との長い付き合いの中で艦娘技術の知識と経験では明石と同等になっており、十分片腕として足る実力派のテクノクラートであった。

 

6月1日13時22分 造兵廠

 

提督「何? 金剛が、そんな事を?」

 

夕張「はい。最近、どうチューニングしても“思い通りに動けない”そうなんです。」

 

提督「それって・・・。」

 

夕張「艦娘の身体能力は、その経験に応じて成長します。それに艤装が付いていけなくなったのかもしれません。」

 

提督「そんな事もあるのか・・・。」

 

夕張「それを解消する為のピップルシステムだった訳ですが、金剛さんの場合、それも追い付いていません。第一世代の艦娘である以上、未知数の部分は多い訳ですが・・・。」

 

提督「成程、全ての“金剛”にとっての原初の一(アルテミット・ワン)である我が金剛も第一世代だったな。その能力は一般的な艦娘と言う範疇を越えている。と、夕張は言いたい訳だな。」

 

夕張「私はそう思いますが、明石さんは違う見解をお持ちです。」

 

提督「と言うと?」

 

夕張「これは提督にもお伝えする様に言われたのでお教えしますが、明石さんが言うには、“金剛さんの力量こそ、艦娘の持つ本来の力”なのだそうです。」

 

提督「つまり、俺達は“まがい物”を量産しているに過ぎないと、そう言う事か?」

 

夕張「はい。」

 

提督「成程な・・・そう言われると納得がいく。」

 

夕張「そこでです。私としては、この際金剛さんの艤装を全面的に近代化改修する事を進言します!」

 

提督「え、でも改装段階はもうない筈では?」

 

夕張「膨大なデータを必要とするが為に捨てられた技術が、実は一つだけあるんです。」

 

提督「と、いうのは?」

 

夕張「艤装の“現代化”です。」

 

提督「現代化?」

 

夕張「もっと言うと、その艤装に何か繋がりのある別のものの要素を組み込んで強化するんです。」

 

提督「・・・例えば?」

 

夕張「金剛さんと言えば、イージス艦としてその名前が受け継がれていたでしょう?」

 

提督「―――!」

 

イージス艦こんごう、20世紀の終わり頃に就役した古い船の名である。

 

夕張「大和さんには“超大和”がありますし、翔鶴さん達はアングルドデッキに改修するとか。」

 

そう、この世界は超兵器の出現によって技術が大きく進んでいるのだ。日本海軍では敵国アメリカの超兵器アルウスの写真を発想の元として、翔鶴型を大幅に改装する案が持ち上がっており、そこには新鋭噴式機の搭載が真剣に考えられていたのだが、国力の疲弊から実現は叶わなかったのである。

 

ここで語られる超大和も、現実のものとは異なるが、これは割愛する。

 

提督「―――で、イージス艦と組み合わせてどうなるんだ?」

 

夕張「やってみない事には分かりませんが、抜本的な解決には、これしかないと思います。」

 

提督「・・・フフッ。」

 

夕張「―――どうかされましたか?」

 

提督「いや。君は確かに、平賀造船中将の生み出した艦娘なのだなと思ってね。発想の突拍子の無さがそっくりだ。」

 

夕張「そ、そうですか?」

 

提督「それだけに面白い。今後同じ問題に直面した時参考にもなるかもしれないしな。金剛の同意も得てからの事になるが、早速始めよう。」

 

夕張「ありがとうございます!」

 

こうして、提督の裁可を受けて金剛の大改修案は動き始める事になる。

 

 

一つの流れが、今南方戦線に動きつつある。

 

 その中で、一つの可能性が、サイパンで芽生えた。その可能性が、流れ出した潮流の中でどのように働くのか。それを知る者は誰もいないが、兎も角その可能性を、直人が鷲掴みにした事は確かである。

様々な思惑と理念と怨嗟が絡み合うこの世界が今、一つの調和の形へと、収束しようとするその出発点の一つとなった時代。それがこの果ての無い大戦争の渦中であった事は否定出来ない。

しかしそれは横鎮近衛艦隊にとって、想像を絶する戦いの幕開けに過ぎない事を予見できる者がいたとしたら、それは神に類する者であったに違いないのだ。彼らにとって未来とは遥か遠くに在って願うものであり、遠く明日を想うものでは無かったのである。

 明日さえ分からぬこの時代に生きた彼ら横鎮近衛艦隊の在り方は、一つのモデルケースに過ぎない事は最早言を待たないが、この時の彼らはまだ、この戦争を終焉に導く、一つに切り札に近づいたに過ぎないのであった・・・。

 

 

~次回予告~

 

紀伊直人が検討し、大本営が精査し、

様々な情報を基に立案された緻密で大規模な作戦案。

それはかつて彼らが怠慢によって失敗させてしまった作戦を、

その規模を縮小の上でより緻密に実行に移さんとするものであった。

そこに横鎮近衛艦隊は―――

 

次回、横鎮近衛艦隊奮戦録第3部最終(14)

『遥かなる征旅(せいりょ)、横鎮近衛艦隊抜錨!』

艦娘達の歴史が、また一ページ―――

*1
Luigi Gianmario Rodigari




艦娘ファイルNo.136

秋津洲型水上機母艦 秋津洲

装備1:12.7cm連装高角砲
装備2:25mm連装機銃
装備EX:二式大艇(大艇ちゃん)

秋津洲型の1番艦として就役した飛行艇母艦の別名を取る水上機母艦。
基地航空隊に配備される二式大艇の支援が主務ではあるが、自分の片腕として大艇ちゃんと称する二式大艇を保有しているのが特異点。艦載機と言う扱いで艤装の一部である為名実共に秋津洲のものである。


艦娘ファイルNo.137

雲龍型航空母艦 葛城

装備1:零式艦戦五二型甲(六〇一空)
装備2:彗星一二型(六〇一空)
装備3:天山一二型(六〇一空)

提督を値踏みした黒髪ロングの艦娘。
葛城の意向に沿えたかはさて置くとして、搭載機を持たぬ身から積み荷であった六〇一空を装備し、正式に第七航空戦隊の一員に加わった。
提督の第一印象は割と好意的だったようである。


艦娘ファイルNo.138

綾波型駆逐艦 曙

装備:12.7cm連装砲

第七駆逐隊最後の1隻。
長く欠員となっていたが、めでたく最後の1隻として着任した。
曙としては第一印象は悪くなかったのだが、ぶっきらぼうな自己紹介のせいで提督からの受けは微妙だったのは裏話である。


艦娘ファイルNo.139

ヴィットリオ・ヴェネト級戦艦 イタリア

装備1:381mm/50 三連装砲
装備2:381mm/50 三連装砲
装備3:Ro.43 水上偵察機
装備4:プリエーゼ式水中防御隔壁

イタリア海軍にその籍を置く戦艦の一人で、イタリア最後の戦艦級。
地中海戦線を支えてきた立役者の一人であり、腕も実績も確かな艦娘であるのは間違いない。


艦娘ファイルNo.140

ヴィットリオ・ヴェネト級戦艦 ローマ改

装備1:381mm/50 三連装砲
装備2:381mm/50 三連装砲
装備3:Ro.43 水上偵察機
装備4:90mm単装高角砲

イタリアと共に地中海戦線を支えてきた精鋭艦娘。
装備4が異なるのはイタリアとローマで役割が差別化されていた為である。
提督から二人揃って篤い信任を得た二人は、果たして太平洋でも活躍できるのか?


艦娘ファイルNo.141

グラーフ・ツェッペリン級航空母艦 グラーフ・ツェッペリン改

装備1(25):Bf109T 艦上戦闘機
装備2:Ju87D-4 艦上雷撃機
装備3:Ju87C-1 艦上爆撃機
装備4(8):Fw190T(F-8型) 艦上戦闘爆撃機

2隻目だったという曰く付きで回航されて来た為装備持参の無かったドイツの航空母艦。
実戦経験はなく、1隻目のグラーフ・ツェッペリンのデータを参照して艤装のみが改となっていた。
ただその日本側に対する配慮を快く受け取り、デフォルトの搭載数を小改編した状態で、舶来のドイツ製艦載機を運用する様にした仕様である。

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