異聞 艦隊これくしょん~艦これ~ 横鎮近衛艦隊奮戦録   作:フリードリヒ提督

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えー・・・
2018年、新年、明けまして、おめでとうございました。

青葉「本年も、宜しくお願い申し上げます!」

遅い? まぁ事情があったと言う事でご了承下さい。と言う訳で、本日(前書き執筆時点)は1月29日となっております。あと半月ほどでイベントですが、それまで頑張って更新して参ります。

青葉「その新年一発目がこれはどうなんですか・・・」^^;

季節感ぶっ壊しなのはいつもの事だろ!

青葉「え、えぇ・・・まぁ。」

と言う事で、本来この章の更新はクリスマスの時期に被せて始める予定だったのですが、急遽予定を諸事情により変更した次第です。申し訳ありませんでした、そしてお待たせいたしました。

青葉「諸事情って言ってもゲームでしょう!?」

言うんじゃない。本当は一つだけに絞る事が出来る筈やったんや・・・。WoWSでミズーリ取ろうとしたらWTで恐らく再入手不可であろう兵器が配布されるイベントが始まり、終わったらWoWSで武蔵が登場間近と言う追い詰められた時期、クランの方から課金通貨付きの課金艦艇貰わなかったら詰む所だったのは言えない。

青葉「大ピンチですねぇ・・・そのクランの方に感謝ですね。」

まぁプレ垢まで付いてきちゃったので多少はやらないとね、無駄にしない様に、武蔵とローマに乗って行こうと思います。

話が脱線しましたが、本年度も拙作をお楽しみ頂ければ幸いです。


さて、今回はタイトルでお察し頂ける通り日常回です。解説は急には思いつかなかったので今回はナシです!

では、どうぞ!


第3部6章~聖夜に彼らはかく語りき~

~前回までのあらすじ~

 大本営の特命を受けペナンに展開した横鎮近衛艦隊は、リンガ泊地艦隊の間接援護下にアフリカ東方沖への遠征を行い、同海域にて遊弋していた敵の大規模機動部隊を航空戦で圧倒、この撃退に成功する。一方パラオ方面の西太平洋では、ニューギニア方面から戦力を集結させた深海棲艦隊の大侵攻が行われたものの、これを近衛艦隊の動員抜きに撃退する事に成功するという快挙を成し遂げていた。

 その陰でドイツからの物資を受領した横鎮近衛艦隊は、ペナン帰着後、1個水雷戦隊を護衛に付けて帰途に就く。その途上、直人には一つ思う所があり・・・

 

 

2053年12月14日10時17分 太平洋上 重巡鈴谷前檣楼・艦長室

 

提督「・・・そう言えば、戻ったら17日か。」

 

直人はカレンダーを眺めてふと思っていた。

 

提督「クリスマスかぁ・・・去年は何やかやでそれどころじゃなかったな。」

 

因みに去年のクリスマスについては、第一部一章と二章を参照してみると事情は把握して頂けるだろう。

 

提督「・・・ちょっと相談するか。」

 

そう思い立ち、直人はある意味に於ける、艦隊の主の所へ歩き出すのであった。

 

 

10時22分 重巡鈴谷後部中甲板・大淀の士官室(ガンルーム)

 

大淀「クリスマス、ですか・・・。」

 

提督「うん、サイパンに戻ったらそんな時期だと思ってね。」

 

大淀「去年は大変でしたからそれどころじゃなかったので、その事を大分前に失念していました。」

 

提督「そうだな・・・で、だ。帰投したら恐らく年明けまで出撃は無かろうから、派手にパーティーでもと思ってな。」

 

大淀「クリスマスパーティーですか・・・具体的には?」

 

提督「企画は艦娘達にさせる、有志でやって貰う事にして、メインパーティーは司令部の主催と言う事で。」

 

大淀「成程・・・。」

 

提督「艦娘達の士気の維持に関わる問題でもあるからな、これを無碍にするのは些かと思ったのだ。大淀の意見はどうだい?」

 

直人がそう問うと

 

大淀「―――医務室送りになる人達が沢山出て、任務に支障が出るかもしれませんね。」

 

と答えた。

 

提督「フフッ、確かにそうだな。」

 

大淀「冗談はさておくとしまして、今サイパンにそれだけの物資はありません。」

 

提督「そこは本土に要請を出そうと思っている。心配はいらん、軍の物資の一部を提供して貰うつもりだ。」

 

大淀「ですが、布告に当たっては如何致しますか?」

 

提督「布告、と言うのは少々相応しくないな。掲示板にポスターでも貼り出そうと思っている。そうだな・・・寮の一号棟連絡通路と食堂棟前、中央棟エントランス、甘味処『間宮』前、艤装倉庫の5カ所にポスターを貼り出せばいいだろう。」

 

大淀「それで私の所へ来た訳ですね・・・。」

 

提督「ザッツラーイト☆ と言う事で宜しく。」^^

 

大淀「はぁ・・・分かりました、引き受けましょう。」

 

提督「うむ、褒美に間宮のVIP券1枚を遣わすぞい。」

 

大淀「ありがとうございます。そう言えば、間宮さんでたった今思い出しました。大本営よりこんな辞令が。」

 

提督「忘れてたのか。」

 

大淀「今オフなので・・・。」

 

そう、実は大淀は今オフである。

 

提督「あぁ―――それはそうだな、少々酷な事を言った。どれどれ・・・」

 

 

発:軍令部第二部第四課長

宛:在サイパン特別根拠地隊司令官

〇本文

 給糧艦 伊良湖 を、軍令部付属から貴隊附属として転属せるものとす。

 

 

提督「・・・この辞令、と言うより通知だな。随分前ではないか?」

 

大淀「はい、辞令自体は18日に発令されていたそうなのですが、内地の行政処理能力の関係で、打電が20日になり、更に電波状況が悪く、硫黄島の転電所からサイパンに伝達したのが22日、更に転電しようとしたそうなのですが、強力なジャミングを受けてしまっていたサイパンでは無線が一時的に使用不能となり、昨日漸く本艦にパラオ経由で届いたのです。」

 

提督「行政処理能力の低下か・・・確かにな、我が国の臨時首都の名古屋も人口は激減しているし、各所の交通連絡も復旧が急がれているが、往時の流通量に戻るには未だに1年以上を要するそうだ。荒廃した諸都市の復興は、言うに及ぶまい。そこに軍への動員が重なるとな・・・。」

 

大淀「ジャミングについては、恐らく敵の攻勢の影響ではないでしょうか。」

 

提督「我が艦隊を完封しようとしたようだな。結果としてその企図は外れたばかりか不発だった訳だが。」

 

大淀「ですから恐らくは既に来着していると思います。」

 

提督「そうだな、そうだといいが・・・。」

 

一抹の不安を抱えつつ、重巡鈴谷はサイパン島へと帰着するのである。

 

 

12月17日8時00分 司令部中央棟2F・提督執務室

 

伊良湖「提督、初めまして。給糧艦、伊良湖です。どうぞ、よろしくお願いします。」

 

結果から言えば、その心配は杞憂だった訳だが。

 

提督「うん、宜しく。間宮の手伝いをしているそうだね。」

 

伊良湖「はい、まだ無任所なもので、厨房の方も少し・・・。」

 

提督「ふむふむ・・・ではそうだな、伊良湖は鳳翔に代わって厨房預かりと言う事で。あと出撃時には鈴谷に同乗して貰う事にしようかな。」

 

伊良湖「わ、私も、前線に行くのですか!?」

 

提督「鈴谷でも厨房預かりだから安心してくれ。キッチンが君の戦場と言う訳だと言う事は承知しているからね。」

 

伊良湖「成程・・・すみません、早とちりしてしまいまして。」

 

提督「いや、いいさ。今後、宜しく頼むよ。」

 

伊良湖「はい!」

 

 

ガチャッ

 

 

伊良湖「あら?」

 

提督「この部屋にノックなしは二人だけだ。」

 

大淀「戻りました、提督。」

 

金剛「ただいまデース!」

 

提督「はいおかえり~、ご苦労様。」

 

金剛「ノープログレムネー! それより、本当に自由なプランニングをしてもいいんデスカー?」

 

提督「おめーなぁ、司令部の艦娘はメインパーティーのプランニングだぞ。」

 

金剛「そんなー!?」ガーン

 

提督「いやいや、メインパーティーのプランニングをする奴が居なくなったら誰がやるんだよ。兎も角、ポスターの貼り出しありがとね。」

 

大淀「いえいえ、執務もありますから。」

 

提督「別に、俺が行っても構わなかったのだけどね。」

 

大淀「執務に専念なさってください。」

 

提督「あっ、はい。」

 

金剛「それじゃ、私もお仕事、スタートデース。」

 

艦隊業務をスタートした直人は、久々にゆっくり出来ると胸を撫で下ろしていた。少なくとも、戦地で異様な緊張感に包まれながらの生活よりは遥かにマシなのだ。

 

 

コンコンコン

 

 

金剛が戻ってきて書類仕事に取り組み始めて少しした頃、執務室のドアをノックする者がいた。

 

提督「どうぞ。」

 

明石「失礼します。提督、少し宜しいですか?」

 

提督「いや、言わんでも分かっている、ドロップ判定の件だろう?」

 

明石「はい、今回は早めに終わりました。」

 

提督「フッ。技術の進歩が、顕著だね。」

 

明石「それ程でもありません。」

 

提督「よし、では、早速顔を見させて貰おうかな。」

 

大淀「行ってらっしゃいませ。」

 

提督「うん。」

 

直人は筆を置き席を立った。

 

 

8時29分 建造棟1F・判定区画

 

提督「全く要領を弁えてる艦娘達で助かるねぇホントに。」

 

明石「おかげさまでドロップ判定の作業も多くなってますけどね。」

 

提督「それについてはいくらか物資の足しになるのだから悪い話でもあるまいて。」

 

明石「ですね。」

 

 判定にしろ建造にしろ、完成した艦娘の艤装には、燃料と弾薬が満載になっている。

既に就役した艦娘のものである場合、予備の艤装以外は分解し、その際入っていた弾薬と燃料は取り出して再利用する事が出来るのである。

 

提督「じゃ、そろそろ新人の紹介をして貰おうかな。」

 

明石「はい。では皆さん、こちらに。」

 

と言う事で、今回のドロップ判定で着任したのは・・・

 

 

清霜「どうも~! 夕雲型の最終艦、清霜です! 到着遅れました、よろしくお願いです!」

 

天津風「いい風来てる? 次世代型駆逐艦のプロトタイプ、あたし、天津風の出番ね。」

 

秋月「秋月型防空駆逐艦、一番艦、秋月。ここに推参致しました。機動部隊の防空は、秋月にお任せください!」

 

野分「陽炎型駆逐艦、野分。参上しました。」

 

明石「この4名になります。」

 

提督「うん。皆宜しく頼む。取り敢えず訓練には明日から参加して貰うとして・・・」

 

時津風「しれー何~? って、天津風だ~!」

 

天津風「時津風じゃない! あなたもこの艦隊にいたのね?」

 

時津風「雪風もいるよ~!」

 

天津風「そう、それは心強いわね。」

 

提督「まぁそう言う事だから、時津風、施設の案内お願いね?」

 

時津風「はいは~い。」

 

提督「あ、野分はちょっと残ってくれ。」

 

野分「あ、はい・・・。」

 

時津風「じゃ、いっきましょ~!」

 

 

明石「・・・提督?」

 

提督「―――。」ゴニョゴニョ

 

明石「・・・成程。」

 

提督「―――あっ、訓練中すまんね、ちょっと抜け出して来てくれ。」

 

「“了解~!”」

 

 

~8時37分~

 

提督「そろそろかな。」

 

舞風「提督~ぅ! 来たよ~。」

 

提督「おう、こっちだ!」

 

舞風「あっ、いたいた―――!」

 

野分「―――!」

 

建造棟にやってきた舞風は、直人の声がしたその先に、野分の姿を認めた。

 

提督「あいつはな、ずっとお前に会うのを待ってたんだぞ、野分。」

 

野分「舞風が・・・?」

 

 

それは、2ヶ月ほど前に遡る

 

 

10月14日15時19分 艦娘寮二号棟前

 

提督「・・・。」コッコッコッ

 

直人はこの時、敷地内の見回りをしていた。

 

舞風「あっ、提督~、こんな所で何してるの?」

 

提督「司令部の見回りさ。時折悪さをする奴も何人かいるからな。卯月とか。」

 

舞風「あぁ~。あの子悪戯大好きだもんねぇ。」

 

提督「全く困ったもんだ。」

 

舞風「・・・ねぇねぇ提督。」

 

提督「ん?」

 

直人は、舞風が珍しく表情を曇らせたのが気になった。

 

舞風「のわっち、いつ来るんだろうね。」

 

提督「・・・!」

 

舞風「私、のわっちとはトラック以来会ってないからさ・・・。」

 

提督「トラック空襲か・・・。」

 

舞風「・・・なんて、らしくないか! ふふっ!」

 

提督「―――そうだな、らしくない。」

 

 

舞風「―――のわっち・・・。」

 

野分「舞風―――。」

 

お互いに立ち尽くす。

 

野分「・・・。」

 

野分が意を決し、舞風の元へ歩みを進める。そして舞風の前に立った。

 

野分「もう、絶対に離れないから。ずっと一緒だから、舞風。」

 

舞風「のわっちぃ・・・!」

 

 舞風の瞳から、涙が零れる。

気付けば野分が舞風を抱き寄せ、舞風は泣きじゃくっていた。その嗚咽が建造棟に響き渡っていた。

 

提督・明石「・・・。」

 

直人は明石の肩を叩いて促し、二人して裏口からこっそり建造棟を出た。

 

 

提督「―――トラック島空襲の時、舞風は野分程、幸運には恵まれなかった。」

 

明石「敵の標的になってしまった、ですね?」

 

提督「それについては野分もそうだ。舞風は野分と共に、香取を旗艦とする第4215船団を構成していたんだ。トラック空襲間近と言う事で、民間人を脱出させるべく特設巡洋艦赤城丸を護衛するのが任務だ。」

 

明石「確か、その時赤城丸は荷役が遅れたとか・・・。」

 

提督「そう、一日だけな。それが運命を分けた。1944年2月17日、トラックを出港した船団はその直後、米空母イントレビットの艦載機に攻撃され、その位置が把握されてしまう。その時は無事に終わったが、後続の敵機の攻撃により、香取と舞風は航行不能、赤城丸は空襲中に沈没、野分は健在で、舞風から四駆司令部の移乗を試みるが、断続的な攻撃と米艦隊の野分捕捉で断念したんだ。」

 

明石「それじゃぁ・・・」

 

提督「そう、野分は助けたくても出来なかったんだ。戦艦アイオワ他を基幹とする8隻の水上部隊に捕捉された野分は、自分の身を守るのが精一杯で、香取と舞風は必死になって応射したが、数の上で圧倒的な劣勢、野分が逃げる時間を稼ぐので精一杯だったと言う訳だ。」

 

明石「・・・。」

 

提督「結局香取と舞風は共に1時間以上の砲撃を受け沈没、沈みながらも最後まで主砲を撃ち続けたその姿に、米軍将兵は賞賛の声を送ったと言われているよ。その悲壮な姿に悲痛きわまりない思いを持って見守っていたともね。」

 

明石「トラック島の事は、よく覚えています。あの時私は、連合艦隊主力と共に夜逃げ同然で逃げ出しましたが・・・。」

 

提督「それが出来なかった艦は、殆ど全て沈んでしまった・・・だからあの二人は、感動の再会を果たしたと言う訳さ。今はそっとして置いた方がいい。」

 

明石「そうですね。」

 

提督「さて、俺は戻るよ。ご苦労様。」

 

明石「はい。」

 

直人は明石と食堂棟の前で別れ、執務室へと戻っていったのである。

 

 

12月20日、本土から五十鈴らを乗せた旅客機が、横鎮防備艦隊の空母艦載機に護衛されてサイパンに飛来した。前回の作戦の帰路、ペナンで別れ船団護衛任務を受け本土に向かった五十鈴と第二水雷戦隊を乗せて来たのだ。

 

 

10時16分 中央棟2F・提督執務室

 

提督「戻って来たか。では出頭させてくれ、報告を聞きたい。」

 

大淀「分かりました。」

 

 

~というわけで~

 

 

五十鈴「軽巡五十鈴、帰投したわ!」

 

提督「ご苦労様。」

 

その五十鈴の背後から二人の人影が直人の方にやってくる。

 

提督「・・・え?」

 

それを見た直人、思わず声を上げた。

 

オイゲン「えっ!? あの時の艦長さん!?」

 

レーベ「ホントだ!?」

 

そう、“いる筈の無い”プリンツ・オイゲンとレーベレヒト・マースがいたのである。

 

提督「な、なんでいるんだ五十鈴!?」

 

五十鈴「それも含めて報告するから落ち着きなさい。」

 

提督「了解した。」

 

どっちが提督なんだかこれもうわかんねぇな。

 

五十鈴「取り敢えず船団は全艦無事よ。潜水艦が何度か襲って来たけど、どうにか撃退出来たわ。流石、華の二水戦は練度が違うわ。」

 

※二水戦とは言うものの、四駆(舞風)と十六駆(雪風&時津風)を一水戦の六駆と十一駆(白雪・初雪・深雪・叢雲)と入れ替えた臨時編成部隊だった。まぁ舞風や時津風が母港にいた時点でお察しか。

 

提督「艦隊でも特に練度の高い部隊だからな。ま、役に立ったようで良かった。」

 ↑名実共に駆逐艦の中では最も濃いエッセンスを揃えた人

 

五十鈴「まぁ昨日到着したのだけれど、本土では歓待ムード一色だったわね。私も歓迎会の末席に与って列席したけれど、山本海幕長? だったかしら、軍令部総長自らの出迎えで恐れ入っちゃったわね。」

 

提督「成程ねぇ。まぁ、人類が手を取って戦えると言うのは、兎にも角にもいい事だからな。」

 

五十鈴「それで、この二人については当初横鎮防備艦隊に配備する予定だったんだけど、テストの後こちらに転籍と言う事になったのよ。ほら、これがその辞令。」

 

提督「お、おう・・・どれどれ。」

 

五十鈴が差し出した2枚の書類は、ドイツからやってきた2隻の、横鎮防備艦隊本隊からサイパン分遣隊への転属を命ずるものであった。少なくとも、表面上は。

 

提督「・・・土方海将も考えたな。こういう方法で戦力を増強させて来るとは。」

 

五十鈴「ホントよね。」

 

提督「兎も角、事情は承知した。」

 

オイゲン「ごめんなさい、私あの時、てっきりあの船の艦長さんなのかと・・・。」

 

提督「ハッハッハ、いいっていいって。立場上名乗る事も出来なかったしね。」

 

オイゲン「えっ・・・?」

 

提督「あの時は身分を偽って悪かった、改めて名乗らせて欲しい。横鎮近衛艦隊司令官、紀伊直人だ。横鎮防備艦隊サイパン分遣隊とは、つまるところ秘匿名称だ。」

 

オイゲン「秘匿名称・・・つまり、この艦隊は秘密艦隊なの?」

 

提督「その割には協力者も多い艦隊だけどね、まぁ秘匿艦隊だ。」

 

オイゲン「そうだったんだ・・・って、って事は、物凄く凄い人・・・?」(焦)

 

提督「凄い人ねぇ・・・凄いのか? 大淀よ。」(;´・ω・)

 

大淀「少なくとも、この様な秘匿対象の艦隊を指揮している時点で、並ではないかと。」

 

オイゲン「し、失礼しましたァ!!」ビシッ

 

提督「そんな恭しくしなくていいからな? そう言うのは嫌いだ。」

 

オイゲン「りょ、了解です。」

 

オイゲンはそう言って姿勢を正し申告する。

 

オイゲン「ドイツ海軍重巡洋艦プリンツ・オイゲン及び、駆逐艦Z1 レーベレヒト・マース! 本日より、貴艦隊に配属となりました!」

 

レーベ「至らぬ点も多々あるとは存じますが、宜しくご指導ください!」

 

提督「うむ、宜しく頼む。まぁそう構えず、気楽にやってくれ。」

 

オイゲン「はい! 宜しくお願いします。」

 

提督「うん、宜しく。」

 

オイゲンと直人が握手を交わす。こうして、海外からの来客は、晴れて彼ら横鎮近衛艦隊の一員となったのである。

 

五十鈴「一件落着、かしらね。」

 

提督「そう言えば五十鈴、お前が辞令を持ってたと言う事は、土方海将にあったと言う事だな?」

 

五十鈴「それに関連して、海将から伝言を預かってるわ。」

 

提督「やっぱりな。で、土方海将はなんと仰っておられたんだ?」

 

五十鈴「一言一句正確にお伝えして欲しいと言う事だったから、そうさせて貰うわね。“ドイツ連邦軍海軍の所属下に於いて、赫々たる戦歴を誇る艦娘なのだから、大切に、そして十全に役立てて貰いたい”との事だったわ。」

 

提督「それは了解した。それで、今後の見通しについては何か仰っておられたか?」

 

五十鈴「それも伝言を貰ってるわ。これは軍令部筋からの情報らしいけど、軍令部は近く、正式な形で南方に対する攻勢を開始するそうよ。各艦隊による自主的な攻勢の連続により、敵に相当な損害が出ている事を確認したのがその根拠みたいね。その時、私達に出番があるとも言ってたわ。」

 

提督「分かった。他には?」

 

五十鈴「宜しく伝えておいて欲しい、との事だったわ。」

 

提督「そうか・・・分かった、下がっていい。二人に施設の案内をしてやってくれ。」

 

五十鈴「任せなさいな。」

 

オイゲン「ありがとうございます、アドミラール! 失礼します!」

 

レーベ「失礼します!」

 

五十鈴は2人を伴って執務室を後にした。

 

提督「・・・驚いたなぁ。」

 

大淀「そうですね。」

 

提督「・・・ちょっと必要な物資の量に修正いるか?」

 

大淀「間に合いませんし、元々多過ぎる位です。」

 

提督「まぁそうだな。パーティーにはちょうど良かろうタイミングだし。」

 

直人はそんな事も考えていたのだった。

 

 

一方その頃・・・

 

 

~食堂棟1F・大食堂~

 

隼鷹「クリスマスねぇ~。」

 

那智「些か馴染みはないがな・・・。」

 

千歳「それで、どうします? 24日。」

 

足柄「シャンパンで乾杯でいいんじゃない?」

 

隼鷹「ハハハハッ、朝からかい?」

 

足柄「私達が出来る事ってその位じゃない?」

 

千歳「夜にはメインパーティーがあるのよ?」

 

足柄「そ、それもそうね・・・。」

 

隼鷹「ま、忘年会ついでにのん兵衛共を集めるか。」

 

那智「そんなところだろうな。騒ぐのもいいが、それは然るべき場に持ち越そうか。」

 

隼鷹「そうそう、酒は飲んでも、飲まれるなってね。」

 

お前が言うな、と思うと思われるが、実はここの隼鷹は割と節度ある酒飲みなのである。

 

 

皐月「クリスマスかぁ・・・どうする?」

 

睦月「むむむ・・・。」

 

卯月「やっぱりここは、思う存分食べるぴょん!」

 

三日月「それはメインパーティーに回しませんか?」

 

卯月「お昼ご飯の話だぴょん。」

 

三日月「お昼から余り飛ばし過ぎると、夜が・・・。」

 

卯月「う~ん・・・。」

 

如月「司令官にプレゼント、なんてどうかしら?」

 

 

ガタタッ

 

 

睦月型(望月欠)「「それだッ!!」」

 

弥生「でも・・・何をあげるの・・・?」

 

菊月「その通りだな・・・。」

 

長月「実際、司令官が喜びそうなものと言えば・・・。」

 

文月「・・・ちょっと、想像つかないかも。」

 

皐月「急に考えてもいいと言われると、色々と可能性が見えちゃって難しいなぁ・・・。」

 

三日月「そうねぇ・・・。」

 

睦月「日頃の感謝と言う事で花束とかどうかにゃ?」

 

如月「安直だけれど、いいかも知れないわねぇ。」

 

睦月型会議はどうやら決着がついたようだ。

 

 

日を跨ぎ12月21日、各水雷戦隊指揮官が呼び出された。

 

13時41分 中央棟2F・提督執務室

 

提督「率直に聞こう。駆逐艦の子達は欲しい物があるとか、そう言う話はしていたか?」

 

大淀「・・・急にどうされました?」

(第十戦隊旗艦)

 

提督「怪訝な顔をすな。クリスマスプレゼントの話だよ。」

 

矢矧「いや、それは分かっているけれど・・・。」

(二水戦旗艦)

 

名取「急にそう言う事を言い出すと、誰でも怪訝に思うと思います・・・。」

(七水戦旗艦)

 

提督「ん? おかしいか?」

 

阿賀野「取り立てておかしい、と言う訳でもないけど・・・。」

(一水戦旗艦)

 

提督「だろう? それに、子供には夢を見る時間が必要だ。そこで聞きたいんだよ、駆逐艦娘達の要望に沿ったものがあるかどうか、をね。」

 

大淀「そうですね・・・。」

 

と言う訳で、各水雷戦隊の指揮官が、執務室の応接用テーブルを囲んで直人を交え議論し始めた。

 

阿賀野「そう言えば、電がクマのぬいぐるみが欲しいって言ってたわね。」

 

提督「まぁお財布には余裕あるしいいけども・・・。」

 

大淀「じ、自腹を切るおつもりですか!?」

 

提督「そうだよ~?」

 

大淀「駆逐艦娘だけで、53隻いますが・・・。」

 

提督「ある程度貯金はあるから大丈夫さ。」

 

名取「・・・望月さんが、新しい枕が欲しいとか、なんとか・・・。」

 

提督「らしいと言えばらしいか・・・。」( ̄∇ ̄;)

 

阿賀野「あ、初春ちゃんが新しい扇子が欲しいとか言ってたような。」

 

提督「初春のお眼鏡に適う品と巡り合えるかが問題か。」

 

大淀「島風さんは新しい制服が欲しいと言っていましたね。露出が多過ぎて、任地次第では寒いんだそうです。」

 

提督「前に要望書も来てたような・・・この際だ、要望を被服に回して置いてくれ。」

 

大淀「はい。」

 

矢矧「寒いと言えば、陽炎と霞がマフラーを欲しがっていたわ。」

 

提督「まぁ、防寒着が無いと駄目な地域でのミッションもあるしな、それについても何とかしよう。」

 

矢矧「・・・そう言えば、何処に調達に行くつもりなの?」

 

提督「買い出しに本土に行くつもりだ。」

 

矢矧「成程ね・・・。」

 

大淀「自ら行かれるおつもりなのですか?」

 

提督「他に誰が行くんだ?」

 

大淀「お命じになられるなら私が―――」

 

提督「無線傍受班が司令部を離れたらいかんだろう?」

 

大淀「は、はい。失礼しました。」

 

提督「大変な買い物だが、ま、買い物は得意だ、任せて貰おう。」

 

 提督と水雷戦隊指揮官との密議は、その後数時間にも渡り行われたと言う。

これの内容が所謂“アレ”であるならば、格好のすっぱ抜きの対象なのだが、さしもの青葉も話の内容的にすっぱ抜く事をしなかった。そこには何一つ後ろめたいものなど存在しなかったのもその要因となった。

 

そしてその密議の結果は早くも翌日現れる事になった。

 

 

12月22日午前7時24分 中央棟2F・提督執務室

 

 

コンコンコン・・・

 

 

提督「入れ!」

 

川内「失礼します! 提督、呼んだ~?」

 

提督「あぁ、その声は川内だな、待っていたぞ。」

 

大淀(川内さんをお呼び出しになるなんて、珍しいですね・・・。)

 

大淀がそう思うのもまぁ無理もない事である。川内は現状1個戦隊の旗艦でしかない身であり、彼が普段から呼び出しをかける立場でない事も事実ではあるからだ。

 

彼の目前に立った川内に、直人は告げる。

 

提督「喜べ川内、夜戦の依頼だ。」

 

川内「・・・えっ!? 夜戦!?」キラキラ

 

提督「そうだ、夜戦だ。」

 

大淀「いや提督、何をお考えです?」

 

直人は大淀にそう問われると、執務机の引き出しを開け、中からあるものをひっつかんで川内に投げた。

 

川内「おっと・・・これって、サンタさんの帽子?」

 

提督「つまり、そう言う事だ。」

 

川内「・・・成程ね、プレゼント配りかぁ。人選いいねぇ、流石提督!」

 

提督「夜に強いと言えばお前しか思いつかなんだでな。と言う訳で、本土に買い出しに行くぞ。もう神通に話は通してある。」

 

川内「話早すぎない!?」

 

提督「驚いたかな? それとも人生初デートの相手が、俺じゃ不満かな?」

 

悪戯っぽい笑みを浮かべながら直人はそう言い放つと、川内はてきめんに顔を赤くした。

 

川内「でっ、デートッ!? いや・・・別に不満とか、そう言う訳じゃ・・・えっ、えぇぇ~?///」

 

金剛「・・・。」

 

川内の後で金剛は面白くなさそうな顔をしている。

 

提督「アッハッハッハ、まぁ一泊二日だがそう気にもまんでいいよ。あと金剛、そう面白くなさそうな顔をするなw」

 

金剛「りょ、了解デース。」

 

直人に様子を見て取られ、思わず目を逸らした金剛であった。

 

提督「と言う事で、大淀、金剛、留守は預けるぞ。」

 

大淀「はい、行ってらっしゃいませ。」

 

金剛「気を付けてネー?」

 

提督「うむ。そんじゃ行こうか。」

 

川内「うん!」

 

そんな訳で7時50分、サイパン飛行場をサーブ340改“バルバロッサ”が滑走路を蹴って飛び立った。荷物運搬ならバルバロッサにお任せ、である。周囲は航空隊指揮官自ら増槽を付けた、四式戦闘機16機が護衛していた。

 

 

7時59分 サイパン上空

 

提督「おいおい、随分物々しい限りだな?」

 

柑橘類「“海軍甲事件(山本長官機撃墜事件)みたいな事があったらどうする。”」

 

提督「以前あっただけにぐうの音も出ない。」

 

柑橘類「“航路上には事前に空母も展開するそうだ。だから安心して空の旅を楽しんでくれ。”」

 

提督「さいでっか~。」

 

その指揮官機たる四式戦一型丙は、要望していた武装換装が成り、20mm機関砲がドイツから艦隊の潜水艦部隊が持ち帰った20mm MG151/20機関砲に換装されている。30mm MK108機関砲もあるが、砲口初速の差から弾道が異なる為、日本製のホ115-Ⅱ(MG151と同じ砲口初速)のままである。

 

提督「MK108どうしよっか。」

 

柑橘類「“(´・ω・`)知らんがな。”」

 

提督「だよなぁ~。いっそ、70機ある屠龍に積むか?」

 

柑橘類「“どうやって・・・まさか!”」

 

提督「37mmとチェンジでええやろ。発射レート爆上がりやで。」

 

柑橘類「“確かにいいかもな・・・砲口初速が少し落ちるが、元々そこまで精度も無いしな。”」

 

提督「弾幕は正義ですぞw」

 

柑橘類「“おっそうだな!”」

 

とんでもない魔改造案が話し合われているバルバロッサの機内であった。

 

 

12時前、サーブ340改が厚木基地に着陸すると、直人と川内は早速横浜市外に繰り出し、思う存分ショッピングを楽しんだ。で、気付くと・・・

 

 

20時19分 横浜市街にて

 

提督「やべ・・・重い。」

 

川内「アハハ・・・流石に53人分のプレゼントを買い込みに来たんだからねぇ。」

 

提督「ま、まぁな。」

 

大きな紙袋8袋に抱えた箱が10個、大荷物である。

 

提督「辛うじて前は見えるけどね・・・。」

 

川内「私が3個持ってるからねぇ。」

 

提督「さっさと厚木に送って宿に帰ろうか。」

 

「おいおい、艦隊の指揮官ともあろう者が、酷い恰好だな。」

 

提督「おっ、おおっ??」

 

その声は前方からだった。直人が見ると、そこには大迫一佐が立っていた。

 

提督「大迫さんじゃないですか、どうしてここに?」

 

大迫「どうしても何も、厚木基地から連絡があって、お前の飛行機が昼前に着陸したって言うもんだから、仕事が終わってから急いで探しに来たんだよ。こっちも何も聞いちゃいなかったから、時期的に考えてショッピングモールだと思ったがね、やっぱりそうだった。」

 

提督「やれやれ、参りましたね、お見通しとは。」

 

大迫「それで、その様子じゃ、クリスマスプレゼントの買い出しと言ったところか。」

 

提督「ですね、今日の内に厚木に荷物を送って、明日の朝少し観光して帰ろうかと。」

 

大迫「そう言う事なら、荷物についてはこちらに任せてくれ。そんな事だろうと大きめの車で来た。折角なんだし、少しは羽を伸ばして行け。」

 

提督「いいんですか?」

 

大迫「今更遠慮をするな、らしくも無い。」

 

提督「そう言う事なら、甘えさせて頂きます。」

 

こう言う時、彼が手ぶらであれば頭を掻いただろうが、直人はこの時両手が塞がっていた為それは出来なかった。

 

提督「で、わざわざ来たと言う事は、何か用件があっての事ですよね?」

 

大迫「流石勘がいいな、歩きながら話そう。」

 

提督「分かりました。」

 

こうして直人は大迫一等海佐に捕まってしまったのであった。

 

 

歩きつつ、直人は大迫一佐と久方ぶりに話をした。

 

大迫「既に五十鈴から聞いていると思うが、大本営は近く、南方に対して攻勢に転ずるらしい。」

 

提督「はい、聞いています。その時私に出番があるだろうとも。」

 

大迫「うん、その事だがね。ラバウル方面には今、目立った敵軍は存在しない事が分かったんだ。」

 

提督「なんですって?」

 

大迫「合点のいく話ではある。もしラバウルが陥落していたら、トラック泊地は今よりずっと脅威度が高かった筈なんだ。」

 

提督「つまり、今よりもずっと危険な場所であり、攻撃もより強度も高く継続されただろう、と言う事ですね?」

 

大迫「そうだ、疑念を持たれた小澤海将補が、麾下の航空部隊の偵察機を派遣した所、ニューブリテン島とその周辺一帯には敵の存在を確認出来るものは何も無かったそうなんだ。」

 

提督「・・・それで、私達に出番がある、と言うのは?」

 

大迫「それについてはまだ、確たる自信を持って言える事ではないんだ。何も無ければよし、あったらその時は・・・と言う事にもなるだろう。ブーゲンビル島方面では、敵がソロモン諸島を西進しようとする兆候も見られている。」

 

提督「もしも作戦発動前に何か動きがあるようであれば、我々が動くと言う事ですか。」

 

大迫「そうだ。その時は宜しく頼むぞ。」

 

提督「―――安んじて、お任せあれ。」

 

大迫「やれやれ。攻勢一つやるのにも、近衛艦隊無しでは出来んとは。」

 

提督「ですが防衛はやり遂げたじゃないですか。悲観する程の事は無いと思いますよ。」

 

大迫「いや、敵軍の追撃は、呉鎮近衛艦隊がやっているんだ。」

 

提督「氷空がですか?」

 

大迫「あぁ。」

 

提督「知りませんでした・・・。」

 

大迫「“受けてから返す”、それが呉鎮近衛艦隊の役割だからな。」

 

提督「我々は先制攻撃を旨としていますからね、その意味では正反対と言えますか。」

 

大迫「そうだな。佐世保は敵の後方攪乱や増援部隊をその合流前に倒す事が目的だし、舞鶴については敵情の強行偵察がメインだ。いずれも目立たないが、重要なのは確かだな。」

 

提督「それは兎も角としても、我々のような存在がいなければ、今の戦況はもっと厳しかったのでしょうか?」

 

大迫「そうだな、艦娘艦隊にも、実戦を経て大分見違えるように育った者達も出ているが、それは今の話だ。最初は素人の集団なんだからな。玄人がいて、彼らが育つまでの間を持たせなければ、今頃南方の泊地は陥落しているかもしれん。」

 

提督「そう考えれば、今までの戦いも少しは無駄じゃなかったと思えます。」

 

大迫「無駄どころか大金星じゃないか。そう謙遜するな。今の状況は、お前が居なければ生まれなかったんだ。もう少し胸を張れ。」

 

提督「はぁ・・・。」

 

川内「そうそう、棲地を4つ陥落させ、数多の深海棲艦や超兵器級を沈め、挙句深海棲艦と人類の修好の芽を作った。凄い事だと思うよ?」

 

提督「川内が褒めてくれるとはね、恐縮だな。」

 

大迫「ほ~う? 上手い具合に紛れ込んだもんだな。」

 

提督「えぇ。最初はジャンパーで誤魔化しておいて、いの一番に洋服屋に飛び込みましたからね。」

 

その川内の出で立ちは、紺の長袖Tシャツに黒のGパン、そこからグレーのジャンパーにオレンジのマフラー、更に深緑のコートと結構な厚着である。

 

提督「おかげで一番金がかかったのは、川内の私服でしたよ。」

 

大迫「まさか、自腹を切ったのか。と言うか、お前がコーディネートしたのか!?」

 

提督「ハハハ、それなら笑い種ですがね、川内が自分で選んだんですよ。」

 

大迫「そ、そうか。」

 

川内「ちょっと、どういう意味さ!?」

 

提督「いやいや、良く似合ってるよ。」

 

大迫「お前じゃ様にならなすぎるからな。」

 

提督「ま、そうですね。私は余り身なりを気にしませんし。」

 

そう言う直人は、黒の長袖Tシャツに黒のジーンズ、紺のジャンパーに黒の革ジャンと全身見事に真っ黒である。

 

大迫「闇にでも紛れるつもりか?」

 

提督「適当に見繕ったらこうなってしまいまして。」

 

大迫「やれやれ。」

 

提督「それは置くとしても、作戦実行時期はいつ頃になりそうですか?」

 

大迫「まだ何とも言えん。今、作戦の立案を一課の参謀連中がやっている所だからな。」

 

提督「そうですか・・・。」

 

大迫「まぁ、そう直ぐの事じゃない、それだけは覚えて置いてくれ。」

 

提督「はい。」

 

話し込んでいる内に、直人達は大迫一佐のワゴンがある立体駐車場に着いていた。彼はそのワゴンに荷物を積み込ませて貰い、後を大迫一佐に任せてホテルに戻ったのであった。

 

 

翌日23日、彼は川内と共に横浜市街を巡り、昼過ぎに厚木基地に戻り足早にサイパンへの帰路に就いたのだった。

 

で、帰った直後、彼はある意味で畑違いの相談を受ける羽目になった。

 

 

12月23日18時00分 食堂棟1F・大食堂

 

雲龍「この胸、どうにかならないかしら・・・。」

 

提督「・・・。」

 

雲龍「・・・。」

 

唐突過ぎる一言に沈黙する直人、その反応を待つ雲龍。

 

提督「・・・どうした急に。」

 

雲龍「例え胸があっても、私達艦娘の役に立つ訳ではないもの、ただ重りを下げているだけでしかないから。」

 

提督「アホ抜かせ雲龍。」

 

雲龍「え?」

 

提督「女性の胸ってのはなぁ、母性の象徴だぞ? 男じゃぁお前のような豊満な胸は持てんし、母性の象徴たればこそ、男は惹かれるんだ。俺などは、そう思うがね。」

 

などとのたまう直人、瑞鶴や龍驤がいれば張り倒され、金剛や鈴谷がいれば赤面した事だろう。だが幸い両者共にこの時は近くにはいなかった。

 

雲龍「とは言っても、私達は艦娘よ?」

 

提督「いいか雲龍。俺は提督で、お前達は艦娘だ。だがその向かう未来像がどうあれ、戦後と言う物は必ず訪れる。その時お前達は、明日の日本にとって必要な人材となる。軍と言う軛を離れ、一人の“人間”として生きていく事になる。その時になれば、役に立つと思うぞ。」

 

雲龍「私が・・・人間として?」

 

提督「そうとも、お前はただの兵器じゃない、武装を解除すればただの一市民として生活する事が出来るんだ。いつかお前達と言う存在が軍にとって不要になった時、それは、市民にとっては必要な存在となる。今、ただでさえ日本の人口は減っている。そこに光明を与えうるとしたら、それは艦娘達の存在そのものなんだ。」

 

雲龍「日本の状況は、そんなに酷いの?」

 

提督「残念なことに、いいとは言えない。一時期1億2千万人を数えた日本の人口は、少子高齢化の波を受けて2030年代には1億人を割っていたんだが、その後の10年単位の減少率は、過去の想定を遥かに上回るペースで進行した。言うまでも無く戦争の影響だ。」

 

雲龍「それじゃぁ、今の日本の人口は?」

 

提督「ざっと6000万人、と言われている。」

 

雲龍「“ざっと”って、どういうこと?」

 

提督「日本の行政機構は既に崩壊寸前だ。戸籍謄本の更新すら最早思うに任せんような状況だからな。詳細な人口さえ、我々日本国民は知る事が出来んのさ。天皇陛下の御身が無事なのが、唯一幸いと言えるだろうな。」

 

雲龍「そんなに・・・。」

 

提督「だから戦争が終わっても、お前達に嫁の貰い手はいくらでもいるだろうよ? 産めよ増やせよ、結構な事だと思うがねぇ?」

 

雲龍「そう言うものかしら・・・?」

 

提督「当然だと思うがねぇ、ただでさえ人口が少ないんだし、特に女性の数が男性よりも少なくなってしまったんだ。そんな所へ艦娘と言う人的資源を見逃す筈は、無いと思うよ。少なくとも日本政府の、お偉方はね。」

 

雲龍「・・・そうかもしれないわね。相談に乗ってくれて、ありがとう。こんな事はもう言わないわ。」

 

提督「分かってくれて良かったよ。」

 

金剛「提督ーゥ?」

 

提督「!」ビクッ

 

金剛「さっきから聞いてましたケド、ナンノ話デスカー?」

 

提督「聞いての通り、艦娘達の戦後の話さ。」

 

金剛「ならいいですけどネー?」

 

提督(ゲスの勘繰りだ~)汗

 

まぁ、確かにしていたのは戦後の話ではあるのだが。

 

提督「それより金剛も一緒に食うか?」

 

金剛「お付き合いしマース♪」

 

その後直人は雲龍と金剛の二人と夕食を共にした。一方川内はくたびれ果てて自室で爆睡していたのであった。

 

 

そして、12月24日が来る。

 

 

12月24日8時47分 食堂棟1F・大食堂

 

隼鷹「メリークリスマァーッス! ヒャッハアアアァァァァーーー!」

 

PON☆と言う小気味いい音と共にコルクが飛んだ。って結局飲むんじゃねぇか!

 

那智「やはり、我らが集まったなら、酒無くして始まらん。」

 

間宮「飲み過ぎないようにして下さいね?」

 

隼鷹「分かってるって。」

 

今日ばかりは食堂の手伝いに来ている間宮さん。大食堂には立派なクリスマスツリーが飾られていた。これは軽巡艦娘一同が僅かな時間で何とか仕入れた一品だと言う。

 

 

~同じ頃、提督執務室にて~

 

提督「クレーンがイルミネートされてやがる・・・。」

 

そう、この日の朝になってみると、司令部前のドックのクレーン2基が、豪奢なイルミネーションで飾られていたのである。

 

大淀「こんな事をするのは・・・。」

 

提督「一人しかいねぇな。」

 

 

ガチャッ

 

 

明石「おはようございます!」

 

提督「ノックはしろ。」

 

明石「失礼しました!」

 

提督「で? アレはお前の仕業だな?」

 

明石「お気に召しませんでしたでしょうか・・・?」

 

提督「いや、そんな事はない、やるなら事前に言ってくれ。」

 

明石「あ、はい。分かりました。」

 

 クリスマスと言う事もあり、司令部の各所にはイルミネーションが飾られていた。

事前の布告により、置いておけるのは23~25日の間のみと定めて置いた為、22日の時にはまだ飾りつけはされていなかったのだ。

 

提督「で? 皆の様子は?」

 

明石「クリスマスと言う事を口実に騒いでいる艦娘達が多いですねぇ。いつもの面々はシャンパン片手に今年を振り返ってます。」

 

提督「何!? いつも日本酒しか飲まん奴らがシャンパンだと!?」

 

明石「クリスマスだから、と言うのが理由らしいです。」

 

提督「えぇ・・・。」

 

驚いて言葉の出なかった直人だった。

 

明石「それは兎も角、メインパーティーの方は準備が出来ました、いつでも号令をかけて頂いて構いません。」

 

提督「いつでも、と言うのは少々気の早い発言だな。だがまぁ良かろう、ご苦労様。」

 

局長「ヤレヤレ、オ祭リ騒ギダナ。」

 

そこへなんと局長がやってきた。執務室まで来るのは中々珍しい事である。

 

提督「局長か、珍しいね。」

 

局長「タマニハナ。ソレヨリ話ガアル。チョット来テクレ。」

 

提督「あぁ、分かった。」

 

直人は局長に連れられて技術局に向かった。

 

 

8時53分 技術局

 

局長「ソレニシテモ、今日ノ艦娘ドモハオ祭リ気分ダナ。今敵襲ガアッタラドウスルツモリダ?」

 

提督「そんな日が年に1日くらいはあってもおかしくあるまい、そうでも無きゃ、戦場で正気なぞ保てんよ。それに・・・」

 

局長「・・・ソレニ、ナンダ?」

 

提督「元々伊達と酔狂で戦ってんだ、当然だろうな。」

 

局長「“伊達ト酔狂”カ、ナルホド。マァソレヨリモダ。」

 

提督「そうだな、ここにわざわざ呼び出した理由は何だ?」

 

局長「実ハナ、オ前ガ使ッテイル“紀伊”ダガナ、改修ノ提案ヲシタカッタンダ。」

 

提督「というと?」

 

局長「コレマデノデータヲ参考ニ、私ガ知リ得ル超兵器級ノスペックト突キ合ワセテミタ。ハッキリ言エバ、性能不足ト言ウ結論ニ至ラザルヲ得ナイトイウ所ダ。」

 

提督「・・・そうだろうな。」

 

局長「―――薄々ハ、気付イテイタンダロウ?」

 

提督「・・・そうだな。そうでなければ、俺が超兵器とまともにやりあった時に、ボロボロになってきた説明がつかないしな。」

 

 そう・・・あの紀伊ですら、そのスペックは超兵器級に及ばない。それはこれまでの戦闘、特にアルウスとの死闘ぶりを見れば分かる通りだ。

“大いなる冬”を別とすれば、紀伊のスペックは人類の技術の範囲を出ないのだから、それは止むを得ない事であった。

何故ならその答えは、『超兵器の超兵器たる所以は?』と言う質問の答えが全てである。即ち『人類の技術水準を超える超技術で作られた兵器であるから』である。

これが、艦娘によって超兵器を倒す事の難しい所以である。

 実績はある。経験もある。だが問題は、如何にしてそれを生かすかなのである。結局のところそれは、敵の過失に依るしか他に手が無いのである。

 

局長「具体的ニ言エバ、アノ艤装ハウェイトバランスガトップヘビーナ傾向ガアル。ソレ自体ハ高速航行時ニハ気ニナラナイト思ウガ、結果的ニ機動性ニ対シテマイナスニナルノハ確カダ。動キヅライト思ッタ事クライハアルハズダ。」

 

提督「た、確かに。」

 

局長「ダカラ120cm砲ノマウント位置ヲ下ゲ、更ニ軽量化ヲ行ッタ方ガイイダロウ。」

 

提督「・・・ふむ。」

 

局長「マ、細カイトコロハ明石ト相談スルンダナ。」

 

提督「そうだな、そうするよ。」

 

局長「モウスグ2年ダ、頑張ッテクレヨ。」

 

提督「―――あぁ、ありがとう。」

 

そう言って、直人は技術局を後にするのであった。

 

 

提督(・・・そうか、もうすぐ、あの日から2年になろうとしているのか。)

 

技術局を出た後、彼は一人そんな事を考えていた。

 

提督(早いものだ、忙し過ぎてそんな事、考える暇さえなかったが・・・。)

 

それはどの口が言えたセリフか。

 

提督(この2年で、状況は大きく変わった。敗勢から均衡に、守勢から攻勢に、確かに流れは、大きく変わりつつある。或いは、時代の流れが、加速し始めているのかもしれんな。その先に何があるのかは、また別として・・・。)

 

 時代は、いつも人が紡ぎ出すが故にこそ、予測不可能な代物だ。明日がどうなっているかなど、自分達には分からないが、確かに未来と言うのは、己のすぐ隣に座り、“こっちにおいで”と手を振っている。

直人はその時代の変化に、確かに貢献したひとりであっただろう。彼はその手腕と力で、人類にとっての未来をも切り拓いて見せたのだから。

だからこそ彼は伝説の人物であり、人類にとって後世に語り継がれる英雄たり得るのだ。

 

提督(・・・2年か。随分、賑やかになったもんだな。ここも、世界も―――)

 

 少しぐずついた空を振り仰ぎ、彼は一人、そう感じていた。気付けば横鎮近衛艦隊にも顔触れが沢山増えた。そして世界は確かに、暗雲が払われつつある。

彼らは一体、どの様な未来へと進もうとしているのか。しかし彼は、目の前の馬鹿騒ぎに身を投じる。

彼らにとって、毎日が祭りであった。それは静かだが、彼らにとって戦争と言う物に対する価値観の表れでもあった。確かに、乗り越えなければならない局面に遭遇する事はあるだろうが、結局は“伊達と酔狂”なのだ、最初から狂っているのである。

 そう言う意味では、彼ら、或いは彼女らは、狂人の集まりであったのだろう。本当に狂ってはいないのだが、確かにどこかが狂っているのだった。

 

 

15時17分 司令部前ロータリー

 

提督「・・・。」

 

直人は、ロータリーの中央に鎮座する桜の木を見上げていた。春になれば満開の桜が咲くこの木も、今は葉を落としている。

 

川内「提督!」

 

提督「よう川内。手筈は?」

 

川内「バッチリ!」

 

提督「大変結構だ。あと3時間でメインパーティーだ。それまではゆっくりしててくれ。」

 

川内「私の出番は、」

 

提督・川内「「皆が寝静まった後に。」」

 

川内「フフッ。」

 

提督「頼むぜ?」

 

川内「勿論♪ じゃぁね。」

 

皐月「司令官!」

 

提督「おう皐月、どうした。」

 

皐月「メインパーティーって、どんな風なの?」

 

提督「始まってのお楽しみだ。」

 

皐月「えー? 教えてよ~。」

 

提督「フフッ、教えたら面白くなくなっちゃうだろ?」

 

皐月「うーん・・・そうだね。」

 

提督「偉く素直だな今日は、可愛い奴め。」ナデナデ

 

皐月「ヘヘヘッ。」

 

隼鷹「よっ!」

 

提督「おや隼鷹、意外と酔ってないね?」

 

隼鷹「まだ酔うには早いって~。」ニタニタ

 

提督「そういや珍しくシャンパンだったらしいじゃねぇか。」

 

隼鷹「たまにはね。あとさ、日本酒ばっかりな訳じゃないよ? 達磨だって飲むんだから。」

 

提督「そりゃ失礼。」

 

隼鷹「んじゃ、またあとでね~。」

 

大和「あっ、提督。」

 

提督「おう、大和か。」

 

大和「ここは、いい艦隊ですね。」

 

提督「どうした藪から棒に。」

 

大和「いえ、私が着任して結構経ちましたけど、本当に賑やかで、笑顔に満ちていて、あの頃のトラックを思い出すようで、居心地がいいんです。」

 

提督「喧騒と狂乱には事欠かんしな。」

 

大和「えぇ、本当に。」

 

提督「トラック諸島か。かつての栄華は、いまやどこ吹く風だからな。」

 

大和「―――必ず、この戦争に勝ちたいものですね。」

 

提督「そうだな。だが今は、目の前の祭りを楽しもうや。」

 

大和「はい!」

 

赤城「大和さん!」

 

大和「赤城さん、どうされました?」

 

赤城「宜しければ、今から一席、どうですか?」

 

大和「お付き合いします。では提督、また後で。」

 

提督「あぁ。赤城、食うのも結構だが食い過ぎるなよ、太るぞ。」

 

赤城「こっ、考慮します。」(震え声)

 

赤城も贅肉が付く事は恐れるようだ。やっぱりそこの所は一人の女である。

 

提督「・・・やれやれ、みんな元気だねぇ。」

 

那智「それもそうだろう。折角の機会だしな。」

 

提督「那智か。」

 

那智「戦場と言う物には、時折こうした機会が必要なのかもしれん。緊張を保つのもいいが、時にはそれを忘れなければな。」

 

提督「お前の口から、そんな言葉を聞けるとはね。」

 

那智「・・・司令官、私はあなたに全幅の信任を置く身だ。納得できない事はある、だがそれだけは、覚えておいて欲しい。」

 

提督「分かっているよ。言いたい事は多々あるだろうが、これからも頼むぞ。」

 

那智「あぁ。」

 

赤松「おうおう人気者だねぇ?」

 

提督「松っちゃん! 飲んでるな?」

 

赤松「こう言う時くらいパーッと呑まなきゃ!」

 

提督「お前は毎日飲んでるだろうが!」

 

赤松「ハッハッハ、いいじゃねぇか細かい事は!」

 

加賀「酒が過ぎるわよ、飛行隊長。」

 

赤松「げげっ。」

 

提督「よう加賀。」

 

加賀「こんにちは。」

 

提督「楽しんでるか?」

 

加賀「まぁ、悪くないわね。メインパーティーも期待させて頂きます。」

 

提督「おう、期待しといてくれ。」

 

加賀「それでは。飛行隊長がお見苦しい所をお見せしました。」

 

提督「あぁ、気にしてないぞ。」

 

赤松「じゃぁな~。」

 

提督「・・・フッ。」

 

ペンギン【なんで笑ってるんだ?】トテトテ

 

久々登場ペンギンさん。

 

提督「いやなに、楽しくて、ついね。」

 

綿雲【今日は警備行動も全て取り消しと聞きましたが?】フヨフヨ~

 

提督「艦隊はね。」

 

ペンギン【まぁ折角だし、便乗して騒がせて貰うのだ。】トテトテトテ

 

提督「さよか~。」

 

綿雲【では失礼します。】

 

提督「うん。」

 

クリスマスと言う言葉は、一種喧騒を呼び起こす魔法の言葉かもしれない、直人はふとそんな事を思うのだった。

 

 

18時59分 食堂棟1F・大食堂

 

提督「あと10秒―――」

 

 腕時計に目を落とす直人。いよいよメインパーティーと言う事で、全ての艦娘が大食堂に集まっていた。

食堂の中央には、巨大なケーキやターキー、チキングリルを始めとする、可能な限り贅の限りを尽くした料理の数々が並んでいた。

 

時計の針が、19時を指す――――

 

提督「静粛に、そのままで構わない。メインパーティーに集まってくれた事に、まずは感謝を。2年目にしてようやくだが、我が艦隊もクリスマスを祝う事が出来た。残念ながらそこまで豪勢にディナーを用意出来た訳ではないが、その分、鳳翔を始め厨房の皆が、これを祝うに相応しい料理を用意してくれた。またとない機会だから、この際存分に楽しんでくれる事を祈る。」

 

彼がそう結ぶと、食堂中から拍手喝采が起こった。それが、パーティーの開幕を告げる合図となった。

 

 

瑞鶴「―――。」

 

翔鶴「あら瑞鶴、ターキー、食べないの?」

 

瑞鶴が持っていたのはターキーではなくチキンだった。

 

瑞鶴「七面鳥を見ると、どうしても記憶と結びついちゃって・・・。」

 

翔鶴「あら・・・無理はしない方がいいわね。」

 

瑞鶴「うん、ありがと。」

 

マリアナの七面鳥撃ち(ターキーショット)は、瑞鶴のトラウマの一つであるらしかった。

 

 

提督「あむっ。」

 

それを横目にターキーを食する直人。

 

間宮「お味はどうですか?」

 

提督「間宮さんか、おいしいよ。間宮さんが作るものと言えばいつも甘味しか食べた事がないから、ちょっと新鮮な気がするけどね。」

 

間宮「フフッ、そうですね。ご満足頂けた様で、安心しました。」

 

提督「これを食べ終わったら、ケーキも頂く事にするよ。」

 

間宮「はい、存分にご賞味ください。」

 

今回の料理は、間宮や伊良湖、鳳翔に加え、瑞鳳や榛名と言った料理の出来る艦娘達も手伝っての合作と言う事であった。

 

提督「よう金剛、楽しんでるか?」

 

金剛「勿論ネー提督。ケーキもターキーも、BerryGoodデース!」

 

提督「そうかそうか。素敵な聖夜に。」

 

金剛「乾杯。」

 

チンと軽い音を立てて、シャンパングラスが音を立てる。彼は彼なりにこのパーティーの演出を手掛けていたが、自分も楽しんでいた。

 

 

摩耶「しかし、出し物の出来る奴が中々いないからなぁ、今一つ賑わいに欠けると言うかなんと言うか・・・。」

 

高雄「あら、こんなご馳走を満足するまで食べられるのだから、いいと思うわよ?」

 

摩耶「いや、そりゃそうだけどさ・・・。」

 

三日月「あの・・・。」

 

摩耶「あ? 三日月か、どうした?」

 

三日月「私、バイオリンなら弾けますけど・・・」

 

摩耶「へぇ、どんな曲を弾けんだ?」

 

三日月「ポピュラーなクリスマスソングなら、一応練習してました。」

 

摩耶「よし、じゃぁいっちょ、場を盛り上げてくれ。」

 

三日月「分かりました! では、バイオリンを寮から取ってきますね、すぐに戻ります。」

 

 

5分後・・・

 

 

~~~♫(ALL I WANT FOR CHRISTMAS IS YOU)

 

提督「ん? このバイオリンは誰が・・・」

 

高雄「三日月さんが弾いているみたいですよ。」

 

直人の背後から高雄が耳打ちした。その時彼の足は、自然と食堂の外へ駆け出していた。

 

 

更に2分半後・・・

 

 

提督(よし間に合った!)

 

直人がトランペットを片手に戻って来た。

 

摩耶「おっ!? 提督じゃねぇか。そんなに慌てて―――!」

 

三日月「―――!」

 

提督「―――。」パチッ

 

直人はトランペットを掲げて三日月にウィンクをしてみせる。

 

三日月「―――。」コクッ

 

三日月はそれに対して微笑んで頷いて見せた。

 それから、三日月と直人の二人による、小さな演奏会が始まった。それは、ベタなクリスマスソングを洋楽と邦楽取り交ぜての選曲だったが、居並ぶ観衆を魅了するにはまずまずと言えた。

そして、それらが終わった後には、その日二度目の拍手喝采が起こったのであった。

 

摩耶「ハハッ、全く驚いたぜこりゃぁ。一体何でまたこんな芸を隠してたんだ?」

 

提督「一時トランぺッターを目指しててね。音楽学校で習ってたんだ。オーケストラへの加入を間近に控えたタイミングで自衛隊に引っこ抜かれちまって、その界隈からはそれっきりなんだが。」

 

摩耶「へぇ~。意外と学歴自体はいいんだな。」

 

提督「失礼だねー?」

 

摩耶「悪い悪い。碌に学歴の無い奴も提督にはいるって聞いてるもんでよ。」

 

提督「確かに高卒提督もいると言う話は聞くね。十分とは思うが。」

 

摩耶「今の日本は学習の環境もなぁ・・・。」

 

提督「それよりも“一致報国”と言う考えだからね、止むを得ない国情ゆえ致し方ないけども。」

 

摩耶「兎も角、凄く良かったぜ。」

 

提督「ありがとう。」

 

摩耶「三日月も、凄く綺麗な音色だったぜ。」

 

「ありがとうございます!」

照れ臭そうな三日月である。直人も惜しみない賛辞を込めて

「大成功だな、三日月。」

と言ってあげるのである。

三日月「はい、飛び入り参戦、ありがとうございました。」

 

提督「いいって事よ。素晴らしい音色だった、全然知らなかったよ。」

 

三日月「普段は、電子バイオリンで練習していたんです。」

 

「道理でか。」

 苦笑しつつそう言う直人。電子バイオリンなら音を出さずに練習できる訳なので、誰も知らなかったのは無理も無い事だろう。

 

提督「まぁ、立派なパーティーに華も添えられたし、来年は参加者募ってやるのもありかも知れんね。」

 

三日月「素敵ですね! ぜひそうしましょう?」

 

提督「うん。しっかし少ない給料で良く買えたな。」

 

三日月「2年近くになりますから、少なくても、相応の額になりますよ。どちらもヤマハ製の物を買いました。」

 

提督「塵も積もればだな。それではな、お疲れさん。」

 

三日月「はい! お疲れ様です。」

 

直人はそう言って、人込みに消えて行ったのであった。

 

 

暫くして・・・

 

川内「―――さっきから、提督を見かけないなぁ・・・。」

 

 

21時10分 艤装倉庫脇

 

パーティーもたけなわの頃、直人はそこを抜け出して、一人星空を見上げていた。綺麗に晴れ渡った空は、満天の星がきらめいていた。

 

川内「こんな所に居たんだ。」

 

提督「川内・・・!」

 

川内「どうしたのさ? パーティーの主役がこんな所に一人でさ?」

 

提督「・・・俺も色々と、思う所があってね。」

 

川内「・・・そっか。」

 

そこから少しの沈黙を挟んで、直人が口を開く。

 

提督「これから言う事は、俺の独り言だ。」

 

川内「―――?」

 

提督「思えば、クリスマスパーティーなんざ、久しくやってなかったから、やる事自体、実は半分忘れかけていた。俺が和歌山の新宮で生まれてからの数年間は、毎年のようにささやかなパーティーを、家でやってたもんだ――――」

 

 紀伊直人は2030年3月14日、新宮市立医療センターにその第一声を上げた。彼の家族には父と母の他に、父方の祖父母と、弟と妹が一人ずつおり、更に同じ新宮市内に、親戚が三家程居住していた。

 

提督「物心ついた頃は、まだ幸せだった。親父もおふくろも優しくてな、頑固なじっちゃんと、優しいばあちゃんもいて、兄弟もいて、笑顔一杯の日々で・・・あの頃は、そんな生活が長く続いて行くんだと、疑う事すらなかった。

クリスマスには必ずケーキをホールで買って、チキングリルを食べて、朝起きたら枕元にプレゼントが置いてあるんだ・・・。」

 

川内「・・・。」

 

提督「でも気付いたら、そんな日常はどこかに行っていた。時代はどんどん、戦争の暗い闇に引き込まれていった――――」

 

 2040年5月12日、正史上そう記録されているその日、アメリカ合衆国政府は、国防総省からの提案を可決して、深海棲艦の武力制圧を決定する。

これが、深海棲艦と人類の、骨肉の争いの引き金を引く事になった。

 

提督「その時俺は10歳だった。その頃はまだ何にも知らない、純粋無垢なガキンチョだった。深海棲艦については、メディアも面白半分にこぞって報道してたもんだ。

それが本当に危険なものだとも知らんままにな。気付けば、深海棲艦と人類の生存競争に関する特別番組が随所で組まれ始めた。そしてある日突然、ある一定強度以上の電波が、ジャミングで使えなくなった。

ラジオや携帯なんかは生きてたが、テレビは命脈を断たれかけていた。GPSなどの衛星電波は完全に駄目になってしまった。」

 これは言うまでも無く深海棲艦によるジャミングである。テレビ局は電波を増幅し、中継リレー方式を採用する事で急場をしのいだが、GPSは衛星に依存していた為対応のしようもなかったのである。

 

提督「その頃から、自衛軍の拡張が叫ばれ始めた。日本の領域にも深海棲艦が現れ始めたからだ。続々と志願者が軍に集い、予算は拡充され、あらゆる新兵器が生産ラインに乗り始めた。そして2045年3月10日を迎えた。東京が焼け野原になった、20世紀のやり直しが始まったんだ。

 あの時の奴らの思考は人間のそれじゃない。感傷と言う物に支配されないあいつらは、皇居にまで無遠慮に爆弾を落とした。当然だ、彼らには我々は国家と見做されず、人間と見られ、殲滅しようとされるのだからな。」

 

 この時の被害は東京23区に留まらず、東京都内では多摩市近郊まで被害を及ぼし、更に隣接する神奈川・埼玉・千葉等にもその被害と影響が飛び火する形となった為、大変な被害となった。

特に宮中に落ちた爆弾は少なくとも7発以上とされており、宮内庁の職員や皇族の一部にも死者や怪我人が出た。

幸い皇族には死者が出なかったものの、この出来事は日本国民を憤慨させずには置かなかった。ただこれが、皇居を一時京都に移す事になるきっかけとなった。

「日本国民は皇居にまで及んだ空襲被害を見て激怒した。仮にも天皇陛下がおわす御座所に爆撃を加えたんだ、余程の気抜けか国への愛着がないか、そのどちらかでない限り怒るだろうな。世論は即時開戦を叫び、政府は自衛の為の戦争を決意した。

そしてその頃密かに計画されていたのが、巨大艤装紀伊を筆頭とした曙計画。この試作艤装4基が、反撃に向けて最初の口火を切る事になったんだ。」

 巨大艤装の技術自体は艦娘技術に依らないものである、とは既に述べた通りであり、いくつかの火砲を力任せに運搬し、強力なワンマン・アーミーを生み出そうと言う計画。

この頃はまだ直人は関与しておらず、適合者の選定どころか艤装の製造が始まったばかりであった。

「もうその頃になると、物価の値上がりからクリスマスにあれだけやってたパーティーも、流石にやらなくなっていたよ。

暗い時代だとは皆思っていたが、それでも手に入れられる細やかな幸せを嚙み締めていたよ。だがその時、一つの悲劇が起こった。“新宮空襲”さ。」

 

川内「・・・!」

 

 当時深海棲艦隊中部太平洋方面艦隊直轄の航空戦力であった戦略航空部隊「戦略爆撃軍団」は、その目標を東アジアに位置する人口密集地に絞っていた。

しかし徹底的な空爆にも拘らず激烈な抵抗を繰り返す人類に、最早工場などの重要拠点を潰そうが意味がないと言う結論に達したものか、それは定かではないのだが、その空襲の一環として選ばれたのが新宮市だった。

 その頃東京は勿論、大阪や京都、福井、敦賀など各地への空襲により多くの難民が発生しており、その流入により、新宮には多くの人がいた。それが、深海棲艦隊による標的になった。

 

提督「あれは忘れもしない、2046年3月19日の事だ。突然市内全域に空襲警報が鳴り響いた。だが既に手遅れで、上空には無数の敵機の姿があった。そこからは地獄だった。倒れるビル、そこかしこで火の手が上がり、悲鳴が四周から響いてくる。

俺の一家は何とか郊外まで逃れる事が出来た、そうして助かる事の出来た者も多かったが、一番悲劇だったのは、地理不案内の難民たちだ。倒れるビルの下敷きになる者、或いはその中にいた者、火にまかれ逃げ道を失う者もいれば、運悪く直撃され即死する者までいたらしい。

新宮市民でさえその有様だ、難民達のそれは凄惨を極め、総数20万人以上がその空襲被害だけで亡くなった。」

 

川内「酷い―――」

 

「俺の親戚も、一家は全滅、もう二家も誰かしらは死んでいた。俺の幼馴染も、近所の隣人達も、その当人が亡くなるか、その家族が死んでいるか、或いは一家全滅かどれかだった。

喪に服していない家の方が珍しい位で、しかも病院までもが全焼していたから、尚の事始末に追えなかった。幼馴染と言えば、俺が幼い事から親しくしていた女の子がいた。こげ茶の艶やかな髪をしててな、綺麗で、スタイルも良くてな。尤も、その空襲で行方不明になってしまったがね・・・。」

 彼は寂しそうな顔で付け加える様にそう言った。その空襲の後、町ですれ違う顔触れは一挙に少なくなり、かつ変わってしまい、見知った顔も、県外に追い立てられるように出て行ってしまったと言う。

 

提督「その4年前に死んでしまったばあちゃんはまだ幸せだったのかもしれん。何より、自分の町が焼け野原になる様を、見ずに済んだんだからな・・・それを目の当たりにしたじっちゃんは、それから僅か半年余りの内に心労が祟って死んじまった。」

 

川内「・・・。」

 

提督「思えば最後にクリスマスパーティーをやったのは、俺が10歳の時、2040年のクリスマスが最後だ。それ以降は碌に出来る様な状態でもなかったしな・・・今の姿を、死んだばあちゃんが見たら、なんて言うかな・・・。」

 

「―――絶対悪いようには言わないって提督! 優しいおばあさんだったんでしょ? だったらきっと・・・!」

 川内はそう言って励まそうとするのだが、それに対して直人は寂しそうにこう言ったのだと言う。

「そうだな―――そうかもしれんが・・・それでも今の身分じゃ、余りにも情けなさ過ぎるじゃぁないか。今の俺は仮にも、鬼籍に入っている筈の身なんだからな・・・。」

 

「―――!」

 それこそ川内は言葉を失ってしまった。それは確かに、直人の偽らざる心持の一つではあった。提督達の大半は確かに徴募に依ってか、志願しての何れかで、それでも望んで提督になった者より、望まずしてそうなった者の方が比率では多い。

そして直人はこの身分を望んで手にした訳ではない。気づけば彼も大局の一部に組み込まれていただけの事であり、逃げ道など存在しない様に思えたから仕方なく引き受けただけの話で、しかも提督になる為に鬼籍へと入らねばならなかったのである。

―――こんな貧乏くじなど、彼ならずとも引きたがる筈がない。

「・・・詮無い話をしたな、出来たら忘れてくれ。」

想いを振り切るようにして、直人は言った。

 

川内(―――忘れようとして、出来る話な訳ないじゃない、こんなの・・・。)

 

提督「さて、戻るか。」

 

川内「提督、一つだけ聞いても、いい?」

 

提督「―――なんだい?」

その言葉を受けてから、川内は一つの質問を投げかけてみた。

「提督は、その・・・寂しかったの?」

その質問に直人は

「・・・さぁ、どうだかな。だが、今は少なくとも寂しくはない。お前達がいつでも、傍にいてくれるからな。」

と、濁す様に言ったのだった。

「―――そっか。」

その言葉に川内は何も言わず、ただそう返しただけであったのだと言う。

 直人に限った話ではないが、この時代に生きた人々は多くの者を喪ってきた。失われた者は、もう二度と帰って来る事はない。

そんな世の不条理の渦中に突然放り込まれたと言う意味では、彼は不幸であったと言える。しかしその先に、彼は少なからぬ栄光と幸福を手にした。それだけは確かな事実であったようだ。その脳裏に、強烈な戦争経験を持ち続けながら・・・。

 

金剛「提督ゥー! 主役がこんな所で何をしてるんデース?」

 

提督「いやいや、ちょっとね。」

 

金剛「サァ、戻りまショー?」

 

提督「あぁ、そうだな。」

 

川内「そうそう、主役が居なきゃ、盛り上がらないしね!」

 

青葉「ま、間に合いましたか!?」

 

提督「お、青葉やっと来たか! あれ、秋雲は?」

 

青葉「原稿で忙しいとかなんとか・・・。」

 

提督「あぁ、例の冬のコミケか。」

 

青葉「みたいですね。」

 

提督「分かった、じゃぁ、中に入ろうか。」

 

青葉「はい!」

 

 そう、彼は今この時は、寂しくなかった。確かに彼は、多くのものを失った。

物も、人も、日常も、隣人達も、親友も、クラスメイトも、幼馴染も・・・

―――しかし彼が唯一戦争で失わなかったもの、それは“家族”だった。

 思えば彼の周りにはいつも仲間がいて、家族がいて、友人がいてくれた。そして今もまた―――。だからこそ、彼は狂気に身をやつす事なく、憎悪に駆られる事も無く、“常人”でいられたのだった。

尤も、()()()()()で戦争をやっているのだから、十分狂っているのだったが。

 

 

長波「いやぁ~、ここに来てこんなご馳走にありつけるとは思わなかったねぇ~。」

 

夕雲「えぇ。あの時から考えると、別世界みたい。」

 

長波「これもひいては、生きていてこそだな、夕雲姉。」

 

夕雲「そうね。」

 

長波「これで、吹雪が生きて居りゃぁなぁ・・・。」

 

夕雲「そうね・・・きっと、大はしゃぎだったでしょうね・・・。」

 

長波「―――湿っぽい話は!」

 

夕雲「今はナシね。」

 

長波「ヘヘッ。」

 

夕雲「ウフフッ。」

 

 実は、駆逐艦吹雪が生きているかもしれないと言う事については、直人を始め極僅かな艦娘達しか関知していないのだ。

これは、直人が艦娘達に与える影響を考慮して箝口令を敷いた事による。

 

叢雲「駆逐艦吹雪が、生きていれば、か。」

提督「駆逐艦吹雪が、生きていれば、ね・・・。」

 

提督「ん?」

 

叢雲「えっ?」

 

偶然隣り合わせで同じ事を口走った二人。

 

叢雲「・・・あの子は―――」

 

提督「・・・?」

 

叢雲「あの子は、喜んだでしょうね。楽しい事が大好きで、自然と周りを盛り上げちゃう子だったから。」

 

提督「―――そうだな・・・。」

 

叢雲「・・・あんたのせいなんだから。」

 

提督「そうだな、俺のせいだ。俺の不甲斐無さで、吹雪を沈めてしまった。」

 

叢雲「でも、なんでまた、一から着任してこないのかしらね・・・。」

 

提督「きっとあっちでは、願い下げなんだろうさ。嫌われたに決まってる。」

 

叢雲「フフッ。ホントに勝手な解釈だけれど、そう考えるのも無理はない事ね。」

 

提督「でも、俺は今でも責任を感じているんだ。これは本当だ。」

 

叢雲「勘違いしないで頂戴? 私は何も、貴方に責任があるだなんて思っちゃいないんだから。あんな霧の中で単独分散行動を取る方がどうかしてたのよ。」

 

提督「叢雲・・・。」

 

叢雲「いいこと? 後悔するのが悪い事とは一概には言い切れないけれど、それが過ぎて、明日の失敗を招かないとも限らないわ。しっかりして頂戴よね、全く。」

 

提督「・・・気を付けるよ。」

 

叢雲「ほんっと、情けないんだから。」

 

提督「それが、君らの提督さ。」

 

叢雲「フフッ、全くね。だから私達が支えてあげないと。知らぬ間に倒れちゃっても困るしね。」

 

提督「その時は頼むよ。」

 

叢雲「頼まれてあげるわ。」

 

 この横鎮近衛艦隊と言う部隊は、ある種理想的な相互依存関係にあったと言える。艦娘が居なければ直人は碌に戦う事さえ出来ないが、艦娘達も直人なしには戦いにならないからだ。

また、直人は意外とメンタルが弱く引きずりやすいのだが、それを支える役割を艦娘達が自ら請け負ってくれる為、直人もそれに素直に甘えている。

そして直人も時折、艦娘達のメンタルケアをしている。それはお節介焼きと言う形を取ってはいるものの、実際艦娘達にとっては心のバランスを取る支えになっているのだ。

 互いが互いに依存し支え合う関係は正に、こうした組織では理想的と言えた。互いの脆い部分を補完し合い、全体をプラスに持っていける組織こそが、真に良い組織と言えるのだ。

そう言った面に於いてこの域に入った艦隊はそう多くはない。故にこそ、彼らは貴重であり、軍令部からも重用されるのだ。

 

提督「これからの艦隊に。」

 

叢雲「私達の司令官に。」

 

提督・叢雲「「乾杯。」」チン

 グラスを合わせる二人。所謂日本艦娘艦隊の光の一人である直人と、艦娘艦隊の闇を見てきた艦娘とが、ここでこうしていると言うのは、清濁併せ呑む直人の人格がそれを為したのかもしれなかった。

たとえそれがどんな者であったとて、彼は必ず受け入れた。そして彼女達はそれに応えてきた。そうして彼はこの1年8か月を無事に過ごして来たのだった。平穏であったとは、誰も言えないが・・・。

 

 

その後会場をうろついていた直人は、その一隅に秋月の姿を見つけ出す。

 

提督「やぁ秋月。」

 

秋月「あっ、提督。」

 

提督「どう? 艦隊の雰囲気には慣れた?」

 

秋月「はい、それは勿論! 皆さんとっても良くしてくれますし、明るくて。環境も居心地も良くて、ここが前線基地だとは、とても信じられない位です。」

 

そう、前線は押し上げられているが、実はまだウェーク島が攻略されていない為、このサイパン島はまだ前線基地としての立ち位置が強いのである。

 

提督「そこまで絶賛されると俺としても恐縮してしまうな。あぁそうだ。一応プランニングは俺がやったパーティーなんだが、どうだ、楽しんでるかい?」

 

秋月「はい、こんなに素敵で、豪華な料理は、私がいた頃には牛缶ばかりで、馴染みがないので驚きましたが、とっても美味しいです、感激してしまいました。」

 

 秋月は戦争が始まってから竣工した駆逐艦である為、その当時は既に豪華な食事など考えもつかない様な状態になりつつあった。

特に駆逐艦に於いては、主力艦に食材を取られてしまう為その傾向が強かった。

 

提督「満足して貰えてよかった。」

 

秋月「はい。本当にありがとうございます、提督。」

 

その様子に、秋月はどうやら感激し尽くしてしまっているようだと、直人は思わざるを得なかったのだった。

 

 

22時58分、宴も終盤に差し掛かった頃、直人が再びマイクを取った。

 

提督「はーい、どんちゃん騒ぎしてるパーティー会場の諸君、そのまま聞いてくれ。惜しい限りだが、もうそろそろお開きの時間が迫りつつある。そこで、フィナーレついでに一つ出し物を私の方で用意した。」

 

 

オオオオオオッ!?

 

 

食堂中からどよめきが走る。

 

提督「全員食堂の外に注目していてくれ。」

 

そう言うと直人はマイクを置いて、自ら食堂の出口に向かう。

 

神通「あの、何が始まるんです?」

 

提督「ま、見てのお楽しみって奴よ。」

 

悪戯っぽく笑い、直人は歩いて行く。

 

食堂棟の前に出ると、直人は懐から1本のロケット花火を取り出した。少しサイズ的に大きめの物で、先端が尖っているのではなく膨らんでいる。

 

提督「さて。手っ取り早く始めて貰おうか。」

 

そう言うと直人はライターで花火に着火する。ロケット花火は瞬く間に虚空に飛び上がり、破裂音が鳴り響いた。

 

 

~建造棟~

 

パァン・・・

 

明石「今です!」

 

 

~食堂棟~

 

ドドド・・・ン

 

妙高「!?」

 

提督「―――。」

 

ヒュルルルルルル・・・

 

特徴的な飛来音が辺りに響き渡る。直後―――

 

ドォンドドオオォォーー・・・ン

 

南の空に、大輪の花が咲いた。

 

神通「これは・・・。」

 

金剛「オーッ!」

 

鈴谷「綺麗・・・。」

 

秋月「凄い・・・。」

 

大淀「い、いつの間にこんなものを・・・?」

 

提督「明石に頼んだんだ、3日ほど前にね。特注の花火弾さ。」

 

大淀「と言う事は、撃ち上げているのは・・・」

 

提督「そう、サイパンの防空砲台にある八九式高角砲さ。あれなら好きな所に打ち上げが出来る。造兵廠の妖精と、防空砲台の妖精さん達の結束した成果さ。」

 

狙った位置に高角砲で花火を上げようと思うと、弾道計算と到達時間の算出が絶対条件だ。実はこれは対空射撃と同じ要領なので、実は高角砲員は全員花火師にもなれるのである。

 

雪風「綺麗です!」

 

時津風「綺麗だねー!」

 

天津風「えぇ、本当にね・・・。」

 

 

球磨「凄いクマ!」

 

多摩「にゃ!」

 

北上「たまにはいいねぇ~こういうのも。」

 

大井「そうですねぇ~。」

 

木曽「全くだ、ここが戦地だって事を忘れそうになる。」

 

常に忘れてる様な奴等に言えたセリフではないのだが。

 

舞風「のわっち~、綺麗だね~!」

 

野分「えぇ、司令が用意されたのかしら。」

 

舞風「多分ね~、これをやれるとしたら提督しかいないと思うよ。」

 

 

清霜「すっごぉ~い!」キラキラ

 

巻雲「はい! それにとっても綺麗です!」

 

長波「花火かぁ、いいねぇ~。」

 

夕雲「そうね、秋雲が見られなかったのは残念よねぇ。」

 

長波「あいつには、あいつのやりたい事もあると思うけどなぁ。」

 

夕雲「えぇ、そうね。」

 

青葉「それならご心配なく、今ちゃんと撮影と録音やってますから!」

 

清霜「青葉さん!」

 

長波「気が利くねぇ、流石青葉さん!」

 

青葉「恐縮です!」

 

提督(あとで間宮のVIP券差し入れるか。あの二人に)

 

青葉と秋雲に直人はせめてもの労いをする気になったようだ。

 

 

その後花火は用意していた200発を30分程かけて撃ち尽くし、それを以ってパーティーはお開きと言う事になった。

 

 

提督「・・・。」チラッ

 

川内「・・・。」コクッ

 

直人が目配せをし、川内は一人喧騒の外へと姿を消した・・・。

 

 

24時10分 中央棟2F・提督私室

 

提督「うへ~、疲れたぁ・・・。」

 

直人はあの後片付けを手伝ってようやく自分の部屋のベッドに腰を落ち着ける事が出来た。

 

提督「・・・大人しく寝るk―――」

 

ちょっと待ったァ!!

 

提督「ちょっと待ったコールだァァ!?」

 

バアァン

 

勢いよくドアを開け放ったのは勿論金剛と鈴谷。と言うかまたかよ。これちょっと前にやったよ。

 

提督「まぁ声で分かってたけども鈴谷までおるんかいッ!」

 

鈴谷「ちぃーっす☆」

 

金剛「サァ提督? 今が何時だか、分かりますよネー?」

 

提督「何時ったって今は25日の0時10分・・・」

 

言葉を発しながら自分でも青ざめていくのが分かった直人。徐々に声も消えるように小さくなっていった。

 

金剛「フッフッフッ。」

 

鈴谷「もう分かってるよね?」

 

提督「取り敢えず落ち着こうか、話せば分かる! お願いだから待ってえええ!!」

 

金剛「問答ッ!」

 

鈴谷「不要!」

 

提督(体と体以外の語らいは無用と言う事ですね、泣きたい・・・。)

 

あの時、金剛にさえバレていなければこうはならなかったのだが、バレてしまったが為に、直人は二人から事あるごとに度々所謂“愛の証明”を迫られるようになってしまったのであった。

 

 

~~~!!

 

 

川内「あ~あ、やっぱそうなっちゃうかぁ。」

 

と苦笑しつつ寝静まろうとしている敷地内を歩く川内(Ver.サンタ)。

 

川内「“性の六時間”ねぇ・・・ま、ご愁傷様とお幸せに、両方かな?」

 

と言いつつ彼女は、駆逐艦の寮である艦娘寮三号棟に向かうのだった。

 

 

そして翌日・・・

 

 

12月25日6時37分 食堂棟1F・大食堂

 

綺麗に元通りになった食堂で、直人は一人朝食をとっていた。

 

提督「いやー、昨夜の匂いがまだ残ってるな・・・。」

 

雪風「しれぇ! おはようございます!」

 

提督「おう、おはよう。」

 

雪風「見て下さい! 真っ白なマフラーです!」

 

提督「おっ? どこでそれを?」

 

雪風「サンタさんからのプレゼントです!」

 

嬉しそうに雪風は言う。

 

提督「そうか! 良かったな。」

 

雪風「はい!」

 

提督(川内は上手くやってくれたらしい。)

 

雪風「似合ってますか? しれぇ。」

 

提督「あぁ、とってもよく似合っているとも。」

 

雪風「ありがとうございます!」

 

時津風「雪風~見て見て~、サンタさんが手袋をくれたんだ~!」

 

雪風「わぁ~、いいですねぇ~。」

 

時津風「雪風はマフラーだったんだね~。」

 

雪風「はい! 暖かいです!」

 

直人はそれを横目に朝食を食べていたのだが、駆逐艦娘達が結構喜んでくれている事に安心していた。

 

 

朝食の後、直人は明石を執務室に呼び出して用件を切り出す。

 

7時18分 中央棟2F・提督執務室

 

提督「巨大艤装紀伊についてなんだが、大規模改修をお願いしたい。」

 

明石「大規模改修ですか、具体的にはどのように?」

 

提督「大きく二つだ、重心の調整と艤装の軽量化、この二つだ。現状トップヘビーのきらいが強いから、そこらあたりを改善して貰いたい。方法に関しては、明石に任せる。」

 

明石「お任せ頂いて宜しいのですか?」

 

提督「何故だい? 俺なりに明石を信頼して任せると言っているつもりだが。」

 

明石「いえ、ご信頼頂けるのは大変ありがたいですけど、カスタマイズとなると本人の納得のいくものになるとは、一概には言えませんから・・・。」

 

提督「それは普通の艦娘達のそれも同様だと思うがね。」

 

明石「・・・分かりました、お引き受けしましょう。」

 

提督「ありがとう、助かるよ。」

 

明石「いえいえ、さて、これから少し忙しくなりますね。」

 

提督「だろうな。手間をかける。」

 

明石「いいんです、好きでやっている事ですから。ご用件はそれだけでしょうか?」

 

提督「あぁ、下がっていい。」

 

明石「では。」

 

明石が去った後、大淀がこんな事を聞いた。

 

大淀「どうして、改修なさる気になったのですか?」

 

提督「今後、戦いは激しさを一層増して来る筈だ。今のままでは、いつか限界が来る。紀伊だって、万能ではないからな・・・。」

 

大淀「ですが、案外何とかなるのではないですか?」

 

提督「なれば幸い、だが、ならなかった時を考えなければね。」

 

大淀「・・・そうですね。」

 

金剛「新しい提督の艤装、楽しみデスネ?」

 

提督「全くだ、上手く馴染めばいいけどな。馴染まんかったら執務どころではない。」

 

大淀「そ、それはそうですね・・・。」

 

提督「戦争を、俺の手で終わらせる事が出来るのなら、この世界はなんて簡素なんだろうと言う事になるのだろうが・・・。」

 

それで終わらぬからこそ、彼は努力し、思案し、鍛え上げて行かなくてはならないのだった。

 

 

 クリスマスのバカ騒ぎも終焉を告げ、艦隊には再びいつもの日々が帰ってきた。2053年も終わりが迫る中、横鎮近衛艦隊――紀伊直人は、早くも新たな年の新たな構想を抱き始めていたのだった。

いつまでもクリスマス気分に浸ってはいられない彼らは、再び苛烈な世界へと身を投じていく。その先には何が待っているのか、しかし彼女達は、彼は、敢然と立ち向かうのだろう。2054年の足音は、既に聞こえ始めていた―――

 

 

 

 

 

~次回予告~

 

 ともすれば長く感じられた2053年が終わりを告げ、新たな1年が幕を開ける。

新年早々、横鎮近衛艦隊に対して下された命令に基づき、

紀伊直人とその幕僚達は、新たな戦場に向け抜錨する。

それは新たな苛烈なる戦いのほんの序幕にしか過ぎず、しかし彼らはそれを知る由は無かった!

 

次回、横鎮近衛艦隊奮戦録第3部7章、

『悔恨の海、ソロモンよ再び!』

艦娘達の歴史が、また一ページ――――




艦娘ファイルNo.118

夕雲型駆逐艦 清霜

装備1:12.7cm連装砲
装備2:25mm連装機銃

 特に何かしらある訳でもない凡庸な艦隊型駆逐艦最後の1隻。
夕雲型ではこの艦隊に於いて4隻目である事以外特筆すべき点は現時点ではない。


艦娘ファイルNo.119

陽炎型駆逐艦 天津風

装備1:12.7cm連装砲
装備2:61cm四連装魚雷
装備3:強化型艦本式缶

 陽炎型駆逐艦の中で第十六駆逐隊を構成する1隻。
標準の天津風の艤装と比較して装甲部が多く、更に左腕に厚めのシールドが装備されているのが外見上の特徴となっている。


艦娘ファイルNo.120

秋月型防空駆逐艦 秋月

装備1:10cm高角砲+高射装置
装備2:61cm四連装(酸素)魚雷
装備3:25mm連装機銃

艦隊防空を主任務とする防空駆逐艦。
特に取り立てて特異点も無いのだが、厳しい食糧事情の時期を生きて来た為か、豪華な食事とはどうやら縁遠いらしい。


艦娘ファイルNo.121

陽炎型駆逐艦 野分

装備1:12.7cm連装砲
装備2:61cm四連装(酸素)魚雷

魚雷が上位互換されているだけの陽炎型駆逐艦。
能力自体に個性はないが、舞風と共に第四駆逐隊を編成する。


艦娘ファイルNo.122

アドミラル・ヒッパー級重巡洋艦 プリンツ・オイゲン改

装備1:SK C/34 20.3cm連装砲
装備2:SK C/34 20.3cm連装砲
装備3:Ar196 水上偵察機
装備4:FuMO 25 早期警戒/射撃管制レーダー
補強増設:FlaK 38 2cm四連装機銃

 ドイツから来日し横鎮近衛艦隊に配備された、アドミラル・ヒッパー級重巡の3番艦で、名前の由来はオーストリア・ハンガリー帝国軍人であるサヴォイア公家の男系子孫、オイゲン・フォン・ザヴォイエンに依る。
 訪日前はドイツ連邦軍海軍に属する、艦隊戦を主任務とする艦娘艦隊である第1艦隊に属しており、ドイツ沿岸域から北海方面に進出し、同方面の制海権維持を英国艦娘艦隊と共同で行っていた歴戦の艦娘。その閲歴に違わぬ練度を持つ。


艦娘ファイルNo.123

1934型駆逐艦 Z 1 レーベレヒト・マース Zwai

装備1:SK C/34 12.7cm単装砲
装備2:SK C/34 12.7cm単装砲
装備3:FlaK 38 2cm四連装機銃

 プリンツ・オイゲンと同じドイツ連邦軍海軍第一艦娘艦隊に所属していたドイツ艦娘。
名前の由来は第一次世界大戦に於けるヘルゴラント沖海戦で戦死したドイツ帝国海軍の提督、レーベレヒト・マース少将に由来する。
ドイツ本国ではプリンツ・オイゲンと共に北海を駆け巡った艦娘であり、練達した艦娘の一人と賞されている。

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