異聞 艦隊これくしょん~艦これ~ 横鎮近衛艦隊奮戦録   作:フリードリヒ提督

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どうも、天の声です。

青葉「青葉です。」

秋雲「秋雲様だよ~!」

青葉「えぇ!?」

はい今回のゲスト、劇中でも近く着任する秋雲です。

秋雲「お招き感謝するよ~?」


こちらこそ。中編が戦闘パートだと思った人、正解は越年パートです。やりたかったことをやっただけなのです。期待してた方はすみません。

青葉「え、でも3つの戦闘行動って・・・。」

お楽しみに。

青葉「アッハイ。」


さぁ霧の艦隊との決戦が大詰めを迎えてきましたが、この章でイオナ達とはお別れとなります。このため今回は尺巻きません。いくらでも書いてやります。()

青葉「なぜかいっつも長くて3万文字強で纏めますもんね。」

秋雲「尺に制限ある訳じゃあるまいに、もっと書けばいいのに~。」

それは自分で思わんでもない、だから今回は尺巻かないようにする練習も兼ねてます。また依然巻いたところは気が向いてネタがあれば、折を見て新ネタをぶち込むかもしれません。

青葉・秋雲(ダメなパターンだこれ。)


あとこのところ様々なイベント海域や通常マップのプロット作りを始めてます。進捗は全然ですが、今後の展開に御期待頂ければと思います。


あ、忘れてましたが、この小説も書き始めてはや1周年(16/03/03)です。時間経つのって早いですね。

青葉「ですね・・・。」

1日1日、噛み締めて生きていきましょう。


ナンノコッチャとなってきたところで今回の放談コーナーです。

今回は、本編中でも随所で活躍する艦種、CV(空母)の歴史をかいつまんで紹介したいと思います。

秋雲「いいねぇ~空母。私も護衛やったんだよねぇ~。」

おっそうだな。


近代海軍史を語る上で空母は切っても切り離せない重要な役割を果たしました。空母という艦種そのものが時代を変えた、と言って過言ではありません。

私自身は大艦巨砲主義者です、その私に言わせれば『飛行機飛ばせるだけが取り柄の貧弱な大型水上艦』を認めたくないのは道理です。まぁ今では両方支持してますが。

しかし空母の存在は、海戦戦術を大きく変えることになりました。ですがその歴史は風変わりな船を多く生み出しました。


そもそも空母の歴史は、航空機の歴史と歩みを共にしています。その艦種の生まれるきっかけが、フロートを装備した水上飛行機(水上機)の登場でした。

飛行機が軍用に使用出来ることは、第一次大戦前の水上機の登場当時世界の軍関係者の間では浸透し始めた常識でした。何故なら空中から偵察や弾着観測が出来る為、正確な情報を基に砲兵の火力を有効に使えるからです。そこへ、飛行場を必要としない水上機が現れると、当然軍関係―――特に海軍―――の興味を引きました。

そして水上機を艦艇に搭載する試みが始まり、フランスで水上機母艦「フードル」(世界初の水上機母艦)として形となります。これにイギリスの水母「アーク・ロイヤル」、日本の運送船改装水母「若宮」などが続きます。


第1次大戦が始まると、水上機母艦搭載の水上機が、偵察や観測他に大いに役立つ事が証明されます。更にそれらの航空機が、敵を攻撃する用途にも非常に役に立つことが分かり、尚且つ敵も航空機を出してくるようになると、自然空中戦が発生するようになります。

やがて固定脚の戦闘機が登場すると、水上機では太刀打ち出来ない事も分かり、固定脚の航空機を艦艇で運用する試みがイギリス等で始まります。

この結果、イギリスで大型軽巡「フューリアス」が、艦橋構造物前後を改装して、実質的な空母としては初の艦として就役します。しかし艦橋や煙突などが艦の中心線上に残されていた為、運用には不便が目立ち、本格的とは言えませんでした。後年フューリアスとその姉妹艦カレイジャスとグローリアスは、特徴的な2段甲板を備えた全通甲板空母に近代化改装されました。


本格的空母として初の艦が登場するのは、客船改装の空母「アーガス」の登場を待つ必要があります。全通甲板を持ち、艦上で車輪式降着装置を付けた飛行機の運用が可能でした。言わば空母の草分け的存在です。この頃空母は「Airplain carrier」=AC、つまるところ航空機運用艦と言う類別でした。


戦間期に入り、“純空母”として最初に起工された空母はやはりイギリスの空母「ハーミス」でしょう。ですが同時期に純空母として設計建造された鳳翔が、純空母として最初に就役した艦となりました。これらはいずれも1万トン未満の小艦でしたが、海軍航空の発展に必要不可欠な様々なデータを残した点に於いて、その功績は並ぶものがありません。


ワシントン軍縮の結果列強各国は主力艦の総排水量を制限されてしまい、空母保有量も自然減る事になりました。そんな中生まれた空母が、八八艦隊計画で建造中だった戦艦/巡戦改装の空母赤城と加賀です。この2隻の特徴でもある三段式飛行甲板の事は赤城がゲーム内で言及しています。

三段式甲板の目的は、大(艦攻)中(艦爆)小(艦戦)3種の艦上機を長さの異なる三段の甲板から個別発艦させ、発艦時間を短縮する意図がありました。実際効果はあるのですが、発艦甲板を3つ必要とする為格納庫容積が小さくなり、搭載数はさほど多くありません。この点同時期就役であり、2段格納庫・全通1段甲板の空母レキシントン級2隻は、時代を先取りしていました。

また軍縮によって一つのカテゴリとして「CV」という艦種が設定されました。この定義として「排水量を問わず、航空機を搭載する目的で建造され、且つ艦上で航空機を発着しうる一切の水上艦艇」と言う文言が適用されました。この略称CVのCはキャリアーのC、Vは羽ばたく鳥の意匠と言う説が定説です。(※諸説有)


この条約下で空母が発展する訳ですが、その中で空母の航空艤装で先鞭をつけた空母がいます。フランスの戦艦改装空母「ペアルン」です。

それまで各国では縦張り式の着艦制動装置を採用しましたが、これでは減速しきれなかったり、引っ掛かりが悪く海上に落ちるなど事故が多発しました。ですがペアルンは甲板に備え付けたワイヤーに、着艦機が装備するフックを引っ掛ける横張式を採用し、その安全性と信頼性が立証されると、各国がこぞって取り入れました。


第2次大戦にはいると、空母は一つの完成形を見ます。日本式空母の完成形である翔鶴型航空母艦、アメリカの工業力の象徴たるエセックス級、装甲空母の先駆けであるイラストリアス級です。

これらはいずれも70~100機前後の搭載数を誇り速力も高く、速力も30ノットを優に超え、非常に申し分ない性能を持った空母でした。このエセックス級と翔鶴型が、太平洋で火花を散らし激突した事は、言うまでもないでしょう。


戦後に入るとすぐ、ジェット機が登場します。これは航空機に於ける革新ではありましたが、このエンジンを搭載した新型戦闘機は大重量であり、それまでの空母甲板の構造では運用困難、最悪運用出来ませんでした。

この問題は、舷側に張り出すフライングデッキと新型の甲板支持構造・大重量機対応の新型カタパルトで解決され、今日のスタンダードを形作りました。


青葉「空母と呼ばれているのは、まだ航空機運用艦と呼ばれている頃の名残な訳ですね。」

そーゆーこと。空母はその草創期は水上機母艦から始まってます。実際各国が多くの商船に水上機運用の為の改修を施したりしています。

秋雲「どんなものにも、歴史はあるんだねぇ~。」

戦艦も駆逐艦も、歴史あってのものですから。


いつもながら長くなってしまいました、この手の話題は長くなるのが常のようです、すみません。
纏めると「水上機発明された→軍用で船に積んでみた→陸上機に勝てない(´・ω・`)→じゃぁ陸上機運用できる船を!」で空母が出来た訳です。

ではこの辺で本編いきましょう。

秋雲「あ、スタートだよっ!」


第2部5章~制号作戦ー後編ー~

『策はあるんだな、これが。』

 

直人は確かにそう明言した。

 

では直人の考える策とは如何に・・・?

 

 

 

1月4日11時41分 提督執務室

 

 

群像「その策とは?」

 

提督「うん。まずこの島には、大小合せて300ヶ所以上の砲台がある。いずれも巧妙に隠匿され上空からでは位置も掴めない。しかも艦娘の装備をそのまま陸上転用したから、戦艦の艦砲に関してはある程度防御能力もある。」

 

戦艦の艦砲、例えば金剛型の14インチ砲塔は、天蓋152mm、側面は全周254mmと言う重装甲であり、14インチ連装砲が配備されている砲座は全て金剛型の砲塔が使われている。真上から降ってこない限りは威力が減衰する関係でそう簡単には壊れない。

 

群像「だがそれらはまだ通常弾頭の筈だが?」

 

提督「ご明察だ、だがそれが今回のキーの一つ目だ。」

 

イオナ「?」

 

イオナが小首を傾げた。

 

提督「この島の東岸には占めて147ヶ所・483門の砲台が存在する。これらから一斉に砲撃を行って敵の注意を若干逸らす。次いで間髪入れずその援護下に艦娘艦隊を突入させて敵に消耗を強いる。そして敵が超重力砲発射シークエンスに入ったなら、その重力子レンズに、デカいのを1つ撃ち込んでくれたまえ。」

 

一つ補足を言っておこう。いつから砲台1ヵ所が砲塔一つだと思っていた?

 

群像「成程・・・つまり、またもや貴官らは陽動、という訳か。」

 

群像はそれを聞いてある程度得心した。

 

提督「あぁ、今度は恐らく白兵戦も望めまい、対策されるだけだろう。であれば、俺達は俺達で、侵蝕弾頭をありったけ叩きこむ!」

 

直人は意気込んで見せるが、そこに群像が懸念を挟もうとする。

 

群像「しかしそれだと・・・」

 

提督「うちには79隻の艦娘がいる。」

 

それは、直人の策の核だった。

 

群像「!!」

 

直人の真意を見抜いた千早群像らは、その策に乗ったのだった。

 

 

 

タカオ「でも、相手にはマヤもいるわよ?」

 

提督「マヤの相手は、タカオに任せる。いいかな?」

 

タカオ「わ、分かったわ・・・。」

 

提督「別に沈めろとは言ってない、仮に前に出てきた場合に限り注意を引いてくれればいい。今回はあくまで、ハルナ・キリシマの両艦にターゲットを絞る。深海棲艦ごと吹き飛ばすさ。」

 

タカオ「・・・。」

 

そう言われて気が楽になるタカオだった。

 

提督「あぁ、俺はタカオを含む全艦の戦術指揮に専念するから、兵装運用は任せるよ。」

 

タカオ「なら私は戦況プロットでいい?」

 

提督「あぁ、頼んだ。」

 

初めて組むコンビながら、打ち合わせは入念で隙が無いものであった・・・。

 

 

 

午前12時37分 食堂棟2F・大会議室

 

 

提督「作戦会議を始める!」

 

直人の号令一下、ブリーフィングが始まる。

 

提督「既に下知した通り、本島は間も無く霧の艦隊/深海艦隊の攻撃圏内に入る。これに際し我が艦隊は防衛砲台と連携して出動し、これに決定的一撃を与える。」

 

大淀「本作戦は防衛戦に付き、司令部防備艦隊にも出撃して頂きます。」

 

鳳翔「承知しました。」

 

防備艦隊旗艦である鳳翔が頷く。

 

提督「今回新たに編入した6隻に関してだが、夕張は司令部防備艦隊に、磯波と敷波は1航艦19駆に、鈴谷は第1水上打撃群へ、熊野と陸奥は第1艦隊に配属とする。熊野は最上と共に第7戦隊を形成して貰おう。」

 

最上「はい!」

 

熊野「承りましてよ。」

 

夕張「はーい。」

 

扶桑「・・・旗艦交代では、無いのですか?」

 

提督「俺もそうしたい、だが陸奥には経験が不足している、暫くはこのままだ。」

 

扶桑「分かりました。」

 

陸奥「むぅ・・・。」

 

綾波「また宜しくお願いしますね!」

 

磯波「はい、宜しくお願いします。」

 

敷波「よろしく~。」

 

鈴谷「いきなり主力!?」

 

提督「モチのロンのオフコォ~ス。」^^

 

ニタニタと笑みを浮かべてそう言う直人、いい笑顔である。

 

鈴谷「ア、ハイ・・・頑張るぞ・・・。」

 

提督「アッハッハッハ、そう気張らなくても、皆で戦っていけばいいさ。侵蝕弾頭も積んだ事だし、大丈夫だよ。」

 

鈴谷「そ、そうだね・・・。」

 

ここで赤城が口を差し挟もうとする。

 

赤城「あの・・・」

 

提督「みなまで言うな、今回の標的だろう? 深海棲艦、主に敵空母と戦艦を狙ってくれ。今回は確認されてるからな。どうやら敵深海棲艦は、ヲ級とヌ級が中心の機動部隊らしい、更にナガラ級が4いるようだ。」

 

赤城「承知しました。お任せください提督。」

 

提督「余力があればナガラ級への攻撃は許可する。最も、敵機動部隊がいる状態で余裕があるかは怪しいがな。」

 

赤城「分かりました。」

 

赤城がその旨快諾してくれたのは、直人を安堵させた。

 

提督「今回、俺はタカオ座乗にて出撃する。私の陣頭指揮には従って貰うぞ。」

 

金剛「珍しいデスネー。」

 

提督「これが俺本来の形さ。命令の可動圏内での裁量は、現場指揮官に一任する事とする。」

 

一同「はい!」

 

提督「質問はあるか?」

 

群像「一ついいか?」

 

提督「・・・どうぞ。」

 

群像「艦娘の布陣はどうする? 効果的に布陣しなくてはならないと思うが。」

 

提督「よくぞ聞いてくれた。今回艦娘艦隊の布陣は、中央を防備艦隊、右翼第1艦隊、左翼を第1水上打撃群で固め、後背は第1機動艦隊に預ける。またタカオは中央に布陣し、陣形は鶴翼の陣を採る。」

 

群像「鶴翼・・・?」

 

鶴翼の陣形、古代中国や戦国時代の日本などで使われた布陣陣形の一つで、中央より左右両翼がせり出す形で布陣する陣形である。鶴が羽ばたいている様に見える事からこの名が付いた。

 

攻撃よりは防御に適した陣形であり、このチョイスは適切であった。

 

提督「そうだ、敵は輪形陣を組み進撃中だ。これを3方向から押し包んで殲滅するという訳だ。今回は防御砲台がある、戦力分散のリスクは考慮しなくていいだろう。」

 

つまり艦隊を分散しても射程の長い地上砲台がある為、戦力分散のリスクは帳消しに等しい状態であった。

 

群像「分かった。」

 

提督「他に質問は?」

 

問いかけたものの、返答はなかった。

 

提督「宜しい、では始めるとしよう。全艦総力戦用意! 完全装備で港外へ集結、かかれ!!」

 

一同「了解!!」

 

時に1月4日12時58分、ここに決戦の大命が下ったのである。

 

 

 

13時11分 サイパン東方沖18km

 

 

ハルナ「タカオの反応を掴んだ。サイパン島の南側にいるようだ。」

 

キリシマ「ここが敵艦隊の本拠だと? 何の抵抗も警備も無いではないか。」

 

 

ドドドドドドドド・・・

 

 

戦端は、唐突に開かれた。

 

 

 

砲台妖精「撃てぇッ!!」

 

 

ドオオォォォォーーーー・・・ン

 

 

サイパン東岸の数百門の火砲が、一斉に連射を開始する。

 

 

 

キリシマ「なんだ!?」

 

 

ドドドドドドドドドドドド・・・

 

 

ハルナ「飛翔体多数着弾! クラインフィールド稼働率、37%!」

 

キリシマ「なに!?」

 

唐突な攻撃で先手を取られるハルナとキリシマ。

 

ハルナ「通常弾頭か・・・。だが集中砲火で消耗を強いるつもりか・・・。」

 

 

~同刻・タカオ艦上~

 

提督「右翼、左翼突撃せよ! 航空隊は深海棲艦隊に対し攻撃開始! 水上部隊は全艦霧の敵1番艦を地上砲台と共に叩け!」

 

金剛「“了解!”」

 

扶桑「“分かりました。”」

 

赤城「“了解しました、全力攻撃します。”」

 

タカオ「私はどうする?」

 

提督「前進、防備艦隊に追いついたらそれとともに進撃開始だ。砲撃目標は敵深海棲艦部隊。」

 

タカオ「分かったわ。」

 

タカオの重力子エンジンが全開で入る。

 

鳳翔「“私達はどうすれば・・・?”」

 

提督「タカオの合流を待って前進開始だ。敵深海棲艦を頼む。」

 

鳳翔「“艦載機は如何しますか?”」

 

提督「発進許可、タイミング任せる。」

 

鳳翔「“了解しました。”」

 

次々と直人の指示が飛び、タカオも前進を開始する。

 

 

 

金剛「ファイアー!!」

 

鈴谷「いっくよー!!」

 

蒼龍「攻撃隊発艦!」

 

響「砲撃開始!」

 

雷「てーっ!!」

 

 

ズドドドドドドド・・・

 

 

両翼の部隊も空母を有するが、これらの艦載機が深海棲艦の牽制を受け持ち、艦隊は敵1番艦ハルナを狙い撃つ。さながら巨大な射撃訓練標的である。

 

左翼も直人の命令を受け、近接防御以外では深海棲艦を無視してハルナを狙った。さらに左右両翼は左右対称の斜陣に展開した為、その陣形は敵陣外周に取り付きこれを圧迫、必然的に敵の輪形陣を崩す。

 

羽黒「敵陣、崩れました!!」

 

提督「“羽黒と鈴谷の牽制砲雷撃で混乱状態に陥れてくれ、それ以外は継続して攻撃だ。”」

 

羽黒「はい!」

 

 

 

提督「攻撃隊がそろそろ到着だな。」

 

タカオ「艦載機なんて使えるの?」

 

提督「艦載機を捨てるなんてとんでもない。我々は最大限活用してるがねぇ。使い方と相手を選べばいいのさ、まぁ見ておけ。」

 

タカオ「えぇ・・・。」

 

 

 

赤松「行くぞ野郎ども! 全機突撃!!」

 

横鎮近衛艦隊母艦航空隊所属の制空隊は、敵艦隊直衛戦闘機に突撃を開始、同時に攻撃隊が効果を開始した。

 

第1艦隊と第1水上打撃群の艦載機隊は一足先に突入、深海棲艦の直衛機はそれに反応して降下を開始した直後であった為、虚を突かれた形になり体勢を崩した。

 

 

 

鳳翔「始まりましたね・・・。」

 

柑橘類「おかん・・・。」

 

鳳翔「もう少し、待って下さいね。タカオが合流してからにしましょう。」

 

柑橘類「あ、あぁ・・・。」

 

この時点で、鳳翔航空隊は発進していない。

 

夕張「はぁ~・・・目の前で味方が戦ってるのに・・・。」

 

鳳翔「大丈夫です、夕張さん。もう少しだけ、待って下さいね。」

 

望月「はぁ~・・・久々の実戦がこれとはねぇ・・・。」

 

菊月「だが、これが私達の任務だ。」

 

長月「そうとも、我々は与えられた命令を遂行するのみ!」

 

睦月「睦月型!」

 

皐月「ファイトー!」

 

睦月型.s「オー!!」

 

 

天龍「元気だなぁチビ共は。」

 

余りの元気さに感心する天龍。

 

名取「そ、そうですね。」

 

天龍「この笑顔が最後まで全員揃って拝めるかは、お前の手腕が問われるぞ、名取。」

 

この天龍の言葉に、名取は自信無さげに答えた。

 

名取「は、はい。分かっている、つもりです・・・。」

 

天龍「・・・今はそれでいい、いつかその重みが、経験で分かるようになるんだからな。」

 

名取「はい・・・。」

 

名取はその言葉に、ただ頷くしかなかった。

 

龍田はそのやり取りを、ただ見守っていた。

 

太平洋戦争に、艦種「CL(ライトクルーザー・軽巡)」として、日本軽巡最古参として参加し、第4艦隊、そして第8艦隊の指揮下で、老骨に鞭打って約1年戦い抜き戦没した天龍。

 

彼女もまた、何隻もの味方の沈没を見届けた一人であり文字通りの精鋭だった。その言葉の重みは、天龍であるからこそであっただろう。

 

鳳翔「・・・来ましたね。」

 

 

 

提督「さて、本艦も進撃するとしよう。」

 

タカオ「えぇ。」

 

鳳翔「“提督。”」

 

提督「うん、前進しようか。」

 

鳳翔「“はい。”」

 

13時35分、霧の重巡タカオは、直人を乗せ進撃を開始する。この動きに困惑したのは他でもない・・・

 

 

 

ハルナ「タカオが、敵艦隊にいるだと・・・?」

 

キリシマ「何を考えている・・・!」

 

 

ダァンダァン・・・

 

 

ハルナとキリシマもただ手をこまねいていた訳では無い。

 

ハルナはと言えば全く余裕が無かったが、キリシマは前部主砲でサイパン島東岸の砲台を狙って砲撃していた。

 

しかし巧緻を極める隠蔽に加え、実弾射撃に依った為に命中率は芳しくない。

 

ハルナ「クラインフィールド、稼働率98.9%、消失まで、あと2分・・・!」

 

キリシマ「なにっ!?」

 

ハルナに余裕は一切なく、その主砲は沈黙を保ったままである。

 

キリシマ「はっ―――! ハルナ! 前方に雷跡、タナトニウム反応あり! 避けろハルナ!」

 

ハルナ「だめだっ! 演算が、間に合わないッ!!」

 

 

バシュウウウウバシュウウウウ・・・

 

 

~同刻・右翼部隊直下水深500m~

 

イオナ「ハルナのクラインフィールド、消失を確認。」

 

群像「驚いたな・・・本当に力技で押し破るとは。」

 

杏平「おまけに艦娘から侵蝕弾頭の雨だろ? ありゃいくら大戦艦級でも無理だって。」

 

直人の策。

 

それは、「如何なる防壁にも限界はある」と言うものだった。これはタカオ戦での戦訓でもある。

 

大戦艦級の強制波動装甲と、クラインフィールドの堅牢さは、重巡級と比較の段ではない。だが、それにだって限界はあると直人は踏んだ。

 

 

“限界があるならそれを越えればいい。”

 

 

これが直人の策の核心だった。即ち、艦娘の可動全艦と陸上の砲台を含めた圧倒的な砲門数で霧を圧倒し、演算能力を超える膨大な数の攻撃を以ってクラインフィールドを臨界にさせる事こそ彼の狙いであった。

 

群像「では我々も動こう。杏平!」

 

杏平「あいよ!」

 

群像がここで動いた。

 

群像「1番2番、誘導魚雷装填、誘導パターン任せる!」

 

杏平「了解!」

 

群像「続いて3番4番に、侵蝕魚雷装填!」

 

静「艦長! 1時半の方向ナガラ級! 距離5600!」

 

群像「まだ気づかれていないな?」

 

織部「はい、敵は水上の味方に気を取られっぱなしのようです。」

 

群像「よし! 3番4番、侵蝕魚雷発射!」

 

杏平「OK!」

 

群像「次いで1番2番、誘導魚雷、目標:ハルナ! テーッ!」

 

 

 

その頃、深海棲艦も動いていた。

 

提督「む・・・?」

 

戦況プロットを見ていた直人は、深海棲艦が防備艦隊に向かって突出するのを掴んでいた。

 

榛名「“提督! 防備艦隊に向かって深海棲艦が、戦線の間隙(かんげき)を抜けて突っ込んでいきます!”」

 

提督「把握している、少し待ってくれ。」

 

左翼、第1水上打撃群から通報を受けた直人が対応する。

 

提督「タカオ、荷電粒子砲で、突出してきた敵の先頭集団を薙ぎ払えるか?」

 

タカオ「それは直射と言う意味かしら?」

 

提督「いや、左右に薙ぎ払う方だ。」

 

この言葉にタカオは呆れつつ承諾する。

 

タカオ「器用な芸当ねぇ・・・やってみるわ。」

 

提督「頼む。十八戦隊! 七水戦! 突撃準備だ、飛び出して来た敵の一団に逆撃を加える!」

 

この時防備艦隊はタカオの左右に展開している。その上鳳翔航空隊が上空でゴーサインを待っている。

 

名取「は、はい!」

 

天龍「了解だ!」

 

タカオ「準備出来たわ。」

 

提督「よし―――」

 

直人がタイミングを計る。敵が突出し、戦線の連絡が切れ孤立した―――

 

提督「主砲発射!」

 

 

ドシュウウウウゥゥゥゥゥゥーーーッ

 

 

機構が展開されたタカオの主砲から、荷電粒子ビームが敵艦隊先端に放たれる。

 

ヲ級elite「――――ッ!!」

 

 

ドドドドドドドドドドド・・・

 

この一撃に呑まれた深海棲艦は例外なく沈み、勢いを失い混乱する深海棲艦。

 

 

提督「突撃! 航空隊もゴーサインだ!!」

 

柑橘類「“待ってました!”」

 

天龍「“いってくるぜ!”」

 

名取「“7水戦、突入します!!”」

 

 

 

天龍「天龍様のお通りだぁ! 俺に続けぇ!!」

 

名取「皆さん、続いて下さい!」

 

夕張「データ取らなきゃ~♪」

 

睦月「突撃ィ~~!!」

 

皐月「いっくよぉ~!」

 

望月「ちょっと本気だぁーーっす!!」

 

文月「私達だって頑張れば、結構強いんだからっ!」

 

長月「その通りだ! 睦月型の意地を見せてやれ!!」

 

 

 

ル級Flag「クッ・・・後退ダ!」

 

しかし、混乱している状態で指示の伝達は滞り、逆に混乱に拍車をかけてしまっていた。

 

 

 

提督「・・・よし、敵の突出した一団に大打撃を与えたか。」

 

タカオ「・・・あなた、相当なやり手だったのね・・・。」

 

提督「じゃなきゃここまで悪運強く生き残ってませんから。因みに観音崎沖の作戦も立案は俺だしな。」

 

タカオ「なっ・・・!」

 

タカオは改めて、敵に回してはいけない相手と戦っていた事を痛感させられたのだった。

 

そんなやり取りが交わされる少し前・・・

 

 

 

キリシマ「ちっ! 今度はこちらに砲撃が・・・!!」

 

ハルナ「クラインフィールド消失により各所に損傷、現在修復中!」

 

キリシマ「これは、演算能力を超えている―――我々大戦艦級を上回るだと・・・!?」

 

その事実を思い知らされたキリシマはそのプライドを痛く傷つけられた。

 

ハルナ「っ・・・左舷に雷跡! これは・・・」

 

 

ドォォンドオオオォォォーーーー・・・ン

 

 

ハルナの無防備な船体に、誘導魚雷がまともに突き刺さった。

 

キリシマ「ハルナ! 大丈夫か!」

 

 

バシュウウウウバシュウウウウ・・・

 

 

直後、タカオとキリシマの左舷側に展開していたナガラ級2隻の左舷に、侵蝕魚雷がまともに突き刺さる。

 

 

ズドドオオオオオォォォォォォーーーー・・・ン

 

 

ハルナ「なっ・・・!」

 

キリシマ「馬鹿な・・・!?」

 

水柱が消えた時、ナガラ級2隻はそこに無かった。

 

ハルナが急ぎ、命中箇所から推定される方位をソナーでチェックする。

 

ハルナ「こっ、これは・・・!」

 

キリシマ「なんだ! どうした!」

 

立て続けに展開する事態に狼狽するキリシマ。

 

ハルナ「401だ、8時半の方向距離5500!」

 

キリシマ「なんだと!?」

 

これには驚かされるキリシマだったが、その時間さえ状況は与えなかった。

 

ハルナ「前方のタカオ、深海棲艦に発砲! 突出した奴らがやられた・・・。」

 

キリシマはそれを聞き愕然とした。

 

キリシマ「なんて事だ・・・私達は始めから、罠に嵌められていたのか・・・!?」

 

その事実を知ったキリシマの身体が小刻みに震える。

 

ハルナ「・・・。」

 

キリシマ「私達を手玉に取るだと・・・? つくづく食えん奴らだ。これが人間どもの弄した策か。」

 

キリシマが怒りを煮え滾らせる。

 

キリシマ「そんなもの、力づくで押し破ってやる!!」

 

ハルナ(キリシマの感情エミュレーターの数値が、急激に変動している。これは・・・)

 

ハルナは、キリシマの初めて見る一面に少々驚くが、それを取り敢えず置いておき言葉を紡ぐ。

 

ハルナ「だがどうする、キリシマも集中砲火の真っただ中、処理が追いついていないのだろう・・・?」

 

懸念を口に出すハルナに、キリシマは唯一残された策を述べる。

 

キリシマ「―――超重力砲だ・・・それしかない!」

 

ハルナ「キリシマ!?」

 

キリシマ「策にまんまと嵌ったのだ、勝って帰れる筈はない、ならばせめて一矢! あの裏切者のタカオに見舞ってやる!!」

 

キリシマは相手の指揮官の力量を認めた上で、せめて引き上げる間際に一撃を見舞おうと考えたのだ。

 

ハルナ「・・・分かった、援護する。キヌ、センダイ、続け!」

 

ハルナが砲撃を受け続けながらも援護の為に前進を開始し、ナガラ級がこれに続いた。

 

そしてこの時ハルナは、微損害を修復する事を諦めた。

 

 

 

14時50分 重巡タカオ艦上

 

 

金剛「“提督! フィールドを消した戦艦が前に出るネー!”」

 

提督「なにっ!?」

 

この知らせを受けた直人は一瞬敵の意図を図りかねた。

 

タカオ「キリシマから、巨大なエネルギー反応検知! これはっ・・・!!」

 

提督「どうした?」

 

タカオ「超重力砲。照準は、どうやら私みたいね・・・。」

 

直人は敵の意図を汲み取るまでも無く指示を出す。

 

提督「なに!? 防備艦隊タカオ周辺から退避! 本艦も回避できるか?」

 

鳳翔「“了解!”」

 

タカオ「やってみるわ!」

 

タカオが右舷回頭をし、その左右にいた艦娘が南北に逃げ散る。

 

その時―――――海が、割れた。

 

 

ゴゴーーーーーーーーー・・・ン

 

 

タカオ「くっ!」

 

提督「おわわっ!?」グラッ

 

大きく揺れバランスを崩した直人は、咄嗟に壁にしがみつきバランスを取った。

 

タカオ「拘束ビーム!? 捕まった――!!」

 

提督「脱出だ! 急げ!」

 

タカオ「分かってるわよ! でもなんなのこれ、攻撃を受けてるとは思えない程、と言うか受けてない時よりも強固よ!?」

 

 

 

キリシマ「そうだ、もっと抗え! 足掻けぇ!!」

 

ハルナ「キリシマ、持ちそうか?」

 

キリシマ「あぁ、あと4分は大丈夫だ。」

 

超重力砲は、その発射に全ての演算リソースを使用する。この為クラインフィールドに割ける余力は僅かであり、自然とその持久力に制約が生じるのだった。

 

この段階で霧の艦艇を取り巻いていた深海棲艦は既に4割弱を残すのみとなっている。基地航空隊をも動員した直人による総攻撃により、瞬く間にその数をすり減らしてしまったのだ。

 

キリシマ「臨界まであと40秒。さぁ、どうするタカオ!!」

 

 

 

タカオ「くっ!!」

 

最大出力で脱出を図るタカオだったが、強固なロックビームを前にして、所詮単なる足掻きに過ぎなかった。

 

提督「敵機だタカオ!」

 

目ざとく深海棲艦から飛び立った艦載機を見つける直人。

 

タカオ「あぁもうこんな忙しい時に!!」

 

深海棲艦の残存していた空母の艦載機群が、動けぬタカオに攻撃せんと迫る。

 

タカオ「対空レーザー、オンライン! 墜ちなさい!!」

 

そして、光の火箭が吹き上がる。全く以て正確極まる対空射撃は、瞬く間に“身の程知らずの挑戦者”を叩き落とす。

 

しかし全て落とし切るより、キリシマの方が早かった・・・。

 

 

 

キリシマ「重力子縮退、臨界!」

 

ハルナ「いけ、キリシマ!」

 

 

 

金剛「まずいデース―――ッ!!!」

 

 

ドオオォォォォーーー・・・ン

 

 

榛名「お姉さん!! ああああっ!!」

 

 

ドゴオオォォォォォーーー・・・ン

 

 

夕立「だめっぽい!? うっ! 至近弾!」

 

五月雨「夕立!?」

 

夕立「私は大丈夫っぽい、それより!」

 

 

 

キリシマ「終わりだァ! タカオ!!」

 

キリシマが、発射方向のクラインフィールドを解放する。

 

膨大なエネルギーが放たれんとした、刹那――――――――――

 

 

ゴオオオオオオオーーーー・・・

 

 

1発の弾頭が、上下に割れ超重力砲を展開しているキリシマへ正面から向かい・・・

 

生じた間隙を――――――――――――すり抜けた

 

キリシマ「――――――ッ!!」(タナトニウム―――!?)

 

ハルナ「しまっ・・・!?」

 

 

提督「あれはっ!?」

 

タカオ「侵食魚雷!?」

 

 

群像「切り札は、最後まで取っておくものだ!」

 

 

 

バシュウウ―――ドオオオオオオ・・・ン

 

 

 

ハルナ「正面から侵蝕弾頭!? ―――こ、これは!!」

 

ハルナが咄嗟の捜索で見つけたのは、サイパン東岸、海底が海溝に向かって傾斜している面にある攻撃痕、そこに設置された自律型の魚雷発射機構、キャニスターポッドだった。

 

キリシマ「発射シークエンス緊急停止、フィールド展開! エネルギーが、制御出来ないッ!!」

 

ハルナ「キリシマ!!」

 

 

ドガアアアアアアアアアアアア・・・ン

 

 

ハルナ「っぁぁ・・・っ!!」

 

キリシマが大爆発を起こし、すぐそばにいたハルナが巻き込まれてしまう。

 

キリシマ「演算が、間に合わない・・・!!」

 

 

 

タカオ「拘束ビーム消失! キリシマのクラインフィールド消失!」

 

提督「今だ、一旦後退!!」

 

タカオ「え、えぇ!」

 

提督「敵機に対処しつつ後退しよう、本当に危なかった、下がって様子を見るべきだな。」

 

指揮官たる者、引き際は大事である。

 

提督「全艦隊後退せよ! 3ライン下げたら被害報告!」

 

 

 

キリシマ(そんな・・・私が負ける・・・!? 全てのスペックで、奴らなど軽く圧倒していた・・・なのに・・・!!)

 

サイパンの砲台からは未だに砲撃が続き、崩壊の始まったキリシマの船体を痛めつける。

 

ハルナ「くっ・・・!!」

 

爆発に巻き込まれ小爆発が続くハルナと、崩壊しつつあるキリシマ。ナガラ級2隻が、慌てて援護に回る。

 

キリシマ「ハルナッ・・・!!」

 

ハルナ「はっ・・・!!」

 

砲台からの一撃が、暴走する圧縮重力子エネルギーの中に着弾する。それが決め手となった。

 

 

ゴオオオオオオオ・・・

 

 

溢れ出すエネルギーの中で、キリシマは心で叫ぶ。

 

キリシマ(ハルナ・・・嫌だ・・・! 私はまだ・・・!!)

 

ハルナ「っ・・・!」

 

ハルナが咄嗟にそのエネルギーの奔流の内へと飛ぶ。

 

キリシマ(“死にたくない!!”)

 

ハルナ(助けるぞ、キリシマ!!)

 

崩壊するキリシマのメンタルモデル、その内から、キリシマのコアが、姿を現す。

 

それをハルナが間一髪の所で捕まえた・・・。

 

 

 

カッ・・・ドオオオオオオオオオオオオオオオオオ・・・ン

 

 

 

15時01分

 

 

タカオ「キリシマの反応は、ロストのまま。」

 

提督「そして、大破・航行不能になったハルナ、か。」

 

タカオと直人は艦首楼に立っていた。

 

結果として、キリシマは撃沈、ナガラ級も401が2隻を沈め、残った2隻がハルナの周囲を警戒している。

 

そのハルナはと言えば、キリシマの爆発に巻き込まれた結果、左舷側中央艦尾寄りにざっくり抉られたかのように巨大な破孔が開き、上部構造物は見るも無残な姿を晒している。

 

が、傾斜もしていなければ沈降する気配さえない。むしろ健在であった2基の前部砲塔は今にも射撃を再開する気配さえもある。

 

ハルナ「・・・。」

 

メンタルモデルのハルナも無事であった。勿論キリシマのユニオンコアも。

 

提督「不沈艦か、霧は・・・!」

 

タカオ「いえ、多分重力子フロートね。」

 

提督「―――成程、バランスを取っているという訳か。」

 

重力子フロートは、潜水艦で言えばバラストタンクと同じ役割を持つ、注排水する事で浮力を調整すると言えば分かりやすいか、その重力子版である。

 

タカオ「大戦艦級とて不沈じゃない、恐らくクラインフィールドを使って、水を遮断しているんだわ。」

 

提督「成程な。」

 

金剛「提督・・・っ。」

 

提督「金剛!」

 

タカオの艦首真下に来たのは金剛と榛名。共にハルナの攻撃を受けて大破してしまった。

 

艦娘艦隊も被害は甚大で、金剛榛名の他、朝潮・大潮・扶桑・陸奥・日向・霧島・羽黒・川内・北上・木曽などが大破。

 

中破艦は約20隻、あれだけの短時間かつ激戦でありながら無傷だった時雨を唯一の例外として、傷つかなかった艦はない。直人とて今一歩で現世を離れる所だったのだ。また航空隊も母艦航空隊に49機、基地航空隊に59機の損失を出した。

 

大激戦であったという事は、推して知るべし、であろう。

 

 

 

ハルナ「・・・退くぞ。戦いは終わった。キヌ、センダイ、曳航してくれ。」

 

大きな損害と引き換えに、深海棲艦はキリシマ爆発の影響をモロに受けて殆どの艦が微塵と化していた。残っている者も逃げ去っていた為、実質的な壊走と言っていい。

 

ハルナは僚艦に曳航して貰い、反転した。

 

 

 

提督「大丈夫か金剛?」

 

屈んでそう言う直人である。

 

金剛「あの戦艦に、砲撃されたデース・・・。」

 

提督「ハルナにか・・・いや、無事で何よりだ。すぐに後退してくれ。榛名も、いいな?」

 

榛名「は、はい・・・。」

 

 

 

ハルナ(私達の負け、か・・・。)

 

キリシマ(そう、だな・・・。)

 

 

 

タカオ「提督、ハルナが・・・。」

 

タカオが状況の変化を告げる。

 

提督「・・・曳航されている・・・反転離脱か。」

 

直人はその意図を悟る。

 

夕立「“提督さん、追わないっぽい?”」

 

提督「・・・そうだな、追尾しよう、敵本隊がいるかもしれん。」

 

夕立「“じゃぁ私も――――”」

 

言いかけた夕立の言葉を直人は遮る。

 

提督「いや、俺と霧の船だけで行く。お前達は下がって修理を始めていてくれ。」

 

夕立「“そんな、無茶っぽい!”」

 

提督「命令だぞ、夕立。」

 

“自分達だけで行く”、そこだけは、譲る気はなかった。

 

夕立「“分かったっぽい・・・。”」

 

夕立もそれを理解すると渋々引き下がった。

 

横鎮近衛艦隊はこの一戦だけで戦闘続行不能の一撃を受けた。これ以上戦わせれば沈む艦娘さえ出かねないと、直人自身も恐れたからであった。

 

提督「鳳翔さん。」

 

鳳翔「なんでしょう?」

 

タカオの傍にいた鳳翔に声をかける直人。

 

提督「あの有様では金剛が指揮を執る事は難しい、代行して艦隊を統率、母港に戻っていて下さい。」

 

鳳翔「分かりました。――――提督。」

 

戦場でしか見せない凛々しい顔つきで、鳳翔は直人を呼び止めた。

 

提督「なんだ?」

 

鳳翔「御無理はなさらないで、御無事にお戻りください、提督。」

 

提督「・・・。」

 

この一言は直人も察しはついていた。『お気を付けて』か、『無事に帰ってきてくれ』の何れかだと、そして恐らくは後者だろうことも。

 

提督「あぁ、必ず帰る。約束だ。」

 

鳳翔「はい、約束です。」ニコッ

 

提督「・・・うむ。」コクリ

 

これは、迂闊に死ねなくなったな。そう思いながら頷く直人だった。

 

提督「・・・さてと、いこうか。」スクッ

 

立ち上がって直人が言った。

 

 

 

19時54分 サイパン東方沖245km付近

 

 

提督「うーん・・・見失ったままか。」

 

直人は艤装を装着し、タカオ・401と共に撤退するハルナを追って追跡をかけたが、1時間半前に見失っていた。どうやら追う内に修理をし、自立航行が可能になった様子であった。

 

イオナ「“霧の艦が、レーダージャミングを出している。今の状況で霧の艦艇を捉える事は、目視とセンサー以外不可能。”」

 

提督「ですよねー・・・。」

 

直人もレーダーが使えず困っているのに、霧の艦だけがレーダーで捉えられる道理はない。

 

タカオ「どうするのよ?」

 

提督「俺もどうにかしたい。でもハルナも見失い敵本隊も見つからん、引き返すべきかな・・・。」

 

そう考え始めた時、群像から待ったがかかる。

 

群像「“いや、少し待ってくれ。”」

 

提督「千早艦長?」

 

疑問に思った直人である。

 

群像「いおりが何かの推進音を捉えたらしい。」

 

提督「・・・分かった、今暫くは前進を続けよう。」

 

直人は群像の意見を容れて、前進を続けた。

 

 

 

事態が展開したのは、それから僅かに1分24秒後だった。

 

イオナ「“提督、マヤとコンゴウの推進音を捉えた、正面に陣取っている。”」

 

提督「なに!?」

 

群像「“前方、距離3万7000!!”」

 

直人が慌てて水平線に目を凝らす。すると、よく目立つ霧独特の発光するライン状の模様が見えた。発光色は―――紫。

 

提督「・・・ふむ、あれか。だが砲戦距離外―――でもないか。」

 

群像「“なに?”」

 

群像がその言葉の意味を図りかねた。

 

 

――――F武装、スロット3番展開――――

 

 

提督「挨拶代わりだ。」

 

その一瞬後、直人の右腕に、“大いなる冬”の艤装が顕現した。

 

タカオ「!?」

 

それを見たタカオは、その力の禍々しさに驚く。

 

提督「レールガン・・・照準、良し。発射!」

 

 

バアアアァァァァ・・・ン

 

 

その右腕に部分展開された艤装から、レールガンが小気味良い音で放たれる。

 

その砲口初速、実にマッハ9―――――。

 

提督「着弾まで約12秒強、初速マッハ9のレールガンなら、クラインフィールドを抜けるかな、なんて思ったんだが。」

 

タカオ「えええ・・・。」

 

そう、変わらずの力技である。

 

 

 

仰天したのはむしろコンゴウ達の方だっただろう。距離37000という遠大な距離から正確極まる音速を越えた砲撃が飛んできたのだから。

 

マヤ「ええええええ!?」

 

コンゴウ「なに・・・!?」

 

 

ドオオオオオオオオオオ・・・ン

 

 

弾体が、コンゴウのクラインフィールドに真正面からぶつかる。

 

コンゴウ「これは、なんだ・・・!」

 

コンゴウは力を逸らそうとするが、圧倒的な運動エネルギーを前に困難を極め、そして・・・。

 

 

バキイイイィィィィ・・・ン

 

 

コンゴウ「っ!!」

 

マヤ「えっ!?」

 

 

ズドオオオォォォォォォォォーーー・・・ン

 

 

 

提督「・・・ストライク。」

 

タカオ「嘘・・・。」

 

 

 

杏平「ヒュゥ~ッ、こいつぁすげぇや、本当に撃ち抜きやがった!」

 

口笛を吹きならして杏平が驚いたと言う様子で言う。

 

群像「凄まじいな・・・。」

 

イオナ「着弾時弾速マッハ7.6、口径254mm、重量211㎏の鋼鉄製弾体の運動エネルギーは膨大。コンゴウは、それを受け止めきれなかった。」

 

織部「確かに、あれだけの兵器は我々も初めて接する次元のものです。演算リソースがあっても1発目はまず防げないでしょう。」

 

群像「相手にデータが無い事を逆手に取り、切り札を撃ち込む戦術的着眼点、見事だ・・・。」

 

群像は脱帽させられる思いだった。

 

ただ実際の所、直人にして見れば相手にデータがあろうがなかろうがその点を憂慮するつもりはなく、ダメで元々であったのだが。

 

だが結果として、弾頭がプラズマ化してそのエネルギーがクラインフィールドを食い千切って無理矢理抉じ開けた、という表現が正しく、本当に力技だけで船体にまでダメージを与えてしまったのだった。

 

提督「・・・なんか煙はいて-ら。」

 

クラインフィールドを貫通した砲弾は、艦首左舷側の薄い強制波動装甲を貫通していた。逆に言うと、着弾点を僅かに10数センチ逸らすのがやっとだったのだ。

 

タカオ&401クルー(グンゾウいがいみんな)(もうこいつだけでいいんじゃないかな?)

 

※(そんな事は決して)無いです。

 

提督「いやー、3万越えの狙撃とか世界記録なんてレベルじゃないんじゃねこれ。」

 

タカオ「言ってる場合じゃないでしょう?」

 

提督「だってまだ3万――――撃ったね、コンゴウ。」

 

それに気づいたのは発射の閃光を認めたからだった。

 

タカオ「いわんこっちゃない・・・。」

 

提督「よし、俺が肉薄してくる。イオナ、タカオ、全力射撃、頼む!」

 

群像「“了解!”」

 

杏平「“マジかよ!?”」

 

タカオ「無茶よ!」

 

提督「なに、戦艦の砲撃ってのは一筋縄では当たらんものさ。」

 

そう、戦艦の砲弾は命中率が悪いのだ。砲弾が大型化する反面空気や風の抵抗を受けて弾道がブレてしまいがちなのである。

 

タカオ「そ、そうね・・・。」

 

まして、『一人の人間を狙撃する事』など戦艦の艦砲では不可能である。

 

提督「頼めるか? タカオ。」

 

タカオ「・・・もう、どうなっても知らないわよ!!」

 

提督「そうこなくっちゃ。合図と共に一斉攻撃を頼む。」

 

群像「“あぁ。”」

 

タカオ「わかった!」

 

提督「高速推進態勢。」

 

そう呟いた瞬間、直人の装備する全バーニアが出力を上げる。自然とその速力も上がっていく。

 

提督「用意・・・。」

 

距離、27000を―――――切った。

 

提督「今っ!!」

 

 

 

群像「フルファイア!!」

 

 

 

タカオから256発の侵蝕弾頭が、401から8発の侵蝕魚雷と40発のミサイルが3連射される。

 

提督「最大加速!」バシャァッ

 

直人もそれに乗じて一挙に加速、水面を滑空してコンゴウに迫る。

 

提督「オープンファイア!!」

 

 

ドォンドォンドドォォンドォォ・・・ン

 

 

主砲を連射し肉薄を図る直人、しかしコンゴウも黙っている訳ではない。

 

コンゴウ「愚かな。マヤ、タカオと401の相手は任せるぞ。」

 

マヤ「はーい♪ よいしょ・・・。」

 

マヤが戦闘態勢に入る。

 

コンゴウ「人間風情が―――消えろ。」

 

コンゴウは侵蝕弾頭兵器を大量展開、主砲も直人を狙い連射を開始した。

 

マヤ「カーニバルだよーっ!」

 

同時にマヤがミサイルの迎撃を行う。

 

 

 

提督「ヒューッ、えげつねぇ事しやがる。」

 

意図を察知した直人も、砲弾を回避しつつ30cm速射砲を構える。使う弾種は・・・

 

提督「3式弾改、持ってけ。」

 

 

ダダンダダンダダンダダンダダンダダンダダン・・・

 

 

次々と連射される徹甲焼夷弾を多数充填した砲弾は、調定した信管によって一定高度で炸裂する。そしてそれらの徹甲焼夷弾が、次々と的確にミサイルを叩き落とす。

 

提督「生憎まだ死ねんのでな・・・。」

 

そう呟く頃には全てのミサイルが撃ち落とされ砲撃を再開していた。

 

 

 

コンゴウ「全て撃ち落とす、か。ならばこれでどうだ?」

 

コンゴウは主砲の機構を展開する。

 

 

ドシュウウウウウゥゥゥゥゥゥッ

 

 

 

提督「おっと。」

 

荷電粒子砲さえも、バーニアで高い機動力を得た直人には通用しなかった。

 

提督「狙いが正確過ぎるってのも、考えものだなぁおい。」

 

 

ズバァッズバァッ

 

 

提督「言ってる傍からだよ、学習しねぇな。そろそろ展開するか。」

 

そうこうするうちに距離は15000まで縮まっていた。

 

提督「艦載機隊、潜航艇隊、緊急発進。」

 

直人は更に特殊潜航艇と艦載機を放った。

 

焦りを募らせるのは当然ながらコンゴウである。

 

 

 

コンゴウ「なんなんだ、あの人間は・・・!」

 

荷電粒子砲による攻撃まで不発に終わった事にコンゴウは驚嘆こそしたが同時に焦りを募らせていた。

 

コンゴウ「ん・・・敵機か、面倒臭い・・・。」

 

そう言い募りつつもコンゴウは迎撃を行う。

 

コンゴウ「マヤ。」

 

マヤ「はーい!」

 

 

 

タカオ「マヤ、超重力砲展開!!」

 

提督「“タカオ、ゴーだ!!”」

 

タカオ「了解!!」

 

タカオも超重力砲を展開する。縮退は既に臨界状態である。

 

マヤ「超重力砲~、発射~!」

 

 

キュィィィンズバアアアアアアアアアーーー・・・ン

 

 

タカオ「発射!」

 

 

キュィィィンズバアアアアアアアアアーーー・・・ン

 

 

発射タイミングはほぼ同時、互いに互いを狙う一撃は必然激突する。

 

マヤ「えぇ~!?」

 

コンゴウ「・・・。」

 

タカオ「悪いけど、元の世界に帰る為、勝たせてもらうわ!」

 

マヤ「タカオのバカ~! 沈んじゃえ~~!」

 

タカオ「同型艦には、負けられないのよ!!」

 

タカオとマヤの超重力砲での対決は、結果引き分けだった。互いに衝突し持て余されたエネルギーは天空へとその行き場を見つけ、一条の閃光となり消えた。

 

 

 

提督「ナイスだタカオ! 俺も征くぜ、3次元立体包囲殲滅戦だ!!」

 

航空隊と潜航艇、どちらも配置についている。

 

提督「全部隊突撃だ!! フルファイアァ!!」

 

 

ドドドドドドドド・・・

 

 

距離は既に8000を割っている、コンゴウでは対空用のレーザーターレットまでもが射撃を始めている有様である。

 

提督「そんなもん、当たらんよ!」ザザザァッ

 

左右に軽やかな回避を行う直人、今回は修理装備と対空砲、揚陸装備をパージして来ている為、軽快そのものだった。

 

その頃・・・

 

 

――――概念伝達空間――――

 

 

タカオ「何よ!? 今忙しいんだけど!?」

 

タカオの方はというと、イオナと共同してマヤを叩いていたが、ミサイルが互いに相殺されて千日手の様相を呈していた。

 

コンゴウ「敵艦隊に鹵獲された挙句敵に手を貸すとは、一体どういう理由だ? タカオ。」

 

タカオ「別に。貴方に話して理解出来る道理ではないわ。」

 

コンゴウ「401もそうだが、お前までも“霧”であることを忘れたか?」

 

タカオ「人間の言葉にいい言葉があるわ。」

 

タカオは椅子に座って言い放った。

 

タカオ「“それはそれ、これはこれ。”」

 

 

 

提督「撃て撃て! クラインフィールドが臨界になるまで撃ちまくれ!!」

 

「“1号艇魚雷発射!”」

「“6号艇雷撃!”」

「“雷撃5中隊攻撃開始!”」

「“爆撃11中隊突入!”」

「“11号艇魚雷発射しました!”」

「“雷撃8中隊突撃!”」

 

次々と攻撃開始の報告が直人のインカムに入る。

 

提督「さぁどうするよ。霧の大戦艦様よぉ!」

 

 

 

コンゴウ「フン・・・。」

 

 

ガコン・・・

 

 

コンゴウが超重力砲を展開した。

 

 

 

提督「ほう?」

 

タカオ「“ちょっと! 臨界まで時間があるわ、退避して!”」

 

提督「そう心配したものでもないさ。」

 

タカオ「な、何を言って!?」

 

提督「“我汝に命ず、『我に力を供せよ』と。汝我に命ぜよ、『我が力を以て、全ての敵を祓え』と。我が身今一度物の怪とし、汝の力を以て今一度常世の王とならん。」

 

直人が詠唱を始める。紫の霊力――負の霊力――が直人を包み始める。

 

タカオ「!!」

 

その光景にタカオは目を疑う。

 

提督「汝こそは艦の王、我こそは武の極致。我汝の力を以て、『大いなる冬』をもたらさんとす。”」

 

直人が、詠唱を終え、霊力の奔流が直人を包む。

 

タカオ「あ、あれは・・・!?」

 

コンゴウ「なんだ・・・?」

 

直人の持つ真の力、大いなる冬の、顕現である。

 

提督「かかってこいよ、超重力砲だか何だか知らんが。」

 

コンゴウ「ほざけ・・・。」

 

 

キュィィィン・・・

 

 

コンゴウの超重力砲が――――

 

 

ズバアアアアアアアアアーーー・・・ン

 

 

直人に向け放たれる――――。

 

 

群像「!!」

 

 

直人は――――――

 

 

タカオ「!!?」

 

提督「フン――――」

 

 

一歩も引かない、むしろ肉薄する。余裕の笑みを浮かべて、堂々の航進を続けていた。

 

 

ドシュウウウウウウウウウウウ・・・

 

 

直人の身を、超重力砲が飲み込む。相互の距離、僅かに4800。

 

コンゴウ「・・・大口を叩いて置いてこの程度か。」

 

 

 

タカオ「提督!? 返事をしてよ!?」

 

 

 

群像「あれでは・・・。」

 

杏平「流石に、ありゃ避けられねぇよなぁ。」

 

イオナ「いや、提督は避けようとしてなかった。」

 

杏平「いっ!?」

 

 

 

ゴオオオオ・・・

 

 

コンゴウ「フン・・・。」

 

タカオ「ああ・・・。」

 

コンゴウが蛮勇とでも言わんばかりに鼻で笑い、避けようとしなかった事を聞いたタカオがおろおろしながら見守る。

 

 

 

提督「“この程度か”? コンゴウ。」

 

コンゴウ「―――!?」

 

タカオ「えっ!?」

 

群像「っ!?」

 

イオナ「!!」

 

マヤ「えぇ!?」

 

 

ドドドドドドドドドドドド・・・ン

 

 

その瞬間コンゴウ周囲に多数の水柱と火柱が沸き上がる。更に多数の爆弾がコンゴウの船体に命中し、魚雷が容赦なく叩き付けられる。その余波はマヤにまで及んでいた。

 

コンゴウ「なっ・・・!?」

 

提督「残念だったな。超重力砲さえ撃てば片が付くと思ったようだが―――」

 

立ち込めていた煙が晴れてくる。

 

 

提督「残念、そう一筋縄ではいかねぇんだな、これが。」

 

そこには、傷一つない直人が、大いなる冬を完全顕現した姿で立っていた。最もその直人も大いなる冬顕現の負荷で冷や汗をかいている。

 

 

コンゴウ「なぜだ・・・!?」

 

提督「この艤装には、展開直後すぐに発動する時限性の防御力場が備わっているのさ♪」

 

防御力場、というのは大いなる冬のパッシブスキル、「魔刻の守護(ヴェスィオス)」のことである。

 

展開後の数分間一定の威力を下回る攻撃を無力化、それ以上の威力を持っていてもある程度までなら任意方向に逸らす事の出来る、言うなれば時間制限付きの半無敵化である。

 

提督「と言っても流石にきつかったから防御重力場と電磁防壁も総動員したけどね。」

 

ナガラのレーザー砲と侵蝕弾頭をほぼ無力化した実績のある、二つの補助兵装を併せて自らを最強の防塁と成し、漸く超重力砲を逸らした、という次第だった。

 

コンゴウ「くっ・・・!」

 

まさかの展開にコンゴウがたじろぐ。

 

 

 

タカオ「ひやひやさせるわねぇ・・・。」

 

提督「でもちゃんと生きてるぞ、タカオ。」

 

そう言いつつ大いなる冬の権限を解く直人、展開しっぱなしでは身が持たない。

 

タカオ「“はいはい分かった、分かったから。”」

 

タカオは流石に投げやり気味に応じた。

 

その時、海域に異変が起こった。

 

提督「・・・?」

 

直人達のいる海域の北側に、突然光が溢れたのだ。

 

時刻は21時37分、月明かりにしては膨大な光である。

 

タカオ「な、何・・・?」

 

401も状況の変化に浮上してきた。

 

 

 

コンゴウ「我々がこちら側に来た時と同じように、戻る為の門が開いた、という事か?」

 

 

 

提督「七色の発光・・・転移現象のゲートか・・・。」

 

直人はその現象の正体を理解した。

 

群像「そうらしいな・・・。」

 

司令塔の上に立つ群像が同意する。

 

提督「・・・千早艦長、どうやら、私の目論見は達せられたようです。」

 

それは同時に、別れの時でもあった。

 

群像「“そうだな―――短い間だが、世話になった。”」

 

タカオ「そうね、割と悪くなかった、かもね・・・。」

 

提督「こちらこそ、色々と御教授頂きありがとうございました。千早艦長、それにイオナも。」

 

イオナ「私達は、出来る事をしただけ、礼には及ばない。」

 

提督「はは・・・そうだな。またいつか会えたなら、今度はお茶でもご一緒したいですな、艦長。」

 

群像「全くだ。最も、こことは全く違う世界です、もう二度と、会うことは無いかも知れません。」

 

イオナ「提督、これを、持って行ってほしい。」

 

群像「イオナ、それは・・・。」

 

イオナが手にしていたのは、伊401の精密模型だった。

 

提督「この模型、ナノマテリアルで出来てる・・・いいのか?」

 

手にして驚いた直人は思わず聞き返してしまった。

 

イオナ「うん。私達がこの世界に来た証を、あなたに持っていて欲しい。」

 

提督「・・・分かった。」

 

直人は力強く頷いた。そしてイオナ―――イ-401がゲートに向け艦首を指向する。

 

タカオ「ほんの少しだったけど、あなたと共に戦えてよかったわ、紀伊提督。」

 

相変わらずの口調でそう言い放つタカオ、彼女は彼女で別れの時が来た事を悟ったようだった。

 

提督「あぁ、俺も船の上から指揮したことは無かったから、新鮮だったよ。ありがとう。」

 

タカオ「私達が元の世界に戻るきっかけを、あなたが作ったなんてね。見た感じは普通の人間なのに、凄いのね。」

 

初めて聞いた――――そしてもう二度と聞かぬであろう――――タカオの賛辞を、直人はありがたく受け取る事にした。

 

提督「お褒めに預かり光栄の至り。それより、早く行かないと門が閉じるぞ?」

 

最敬礼で直人は言う。この時コンゴウとマヤは既に門をくぐった後であった。

 

群像「そうだな・・・紀伊提督。これからの武運を祈る。」バッ

 

群像が敬礼して言う。

 

提督「この先の、蒼き鋼の航海の無事を祈ります、千早群像艦長。」バッ

 

直人も答礼して返す。

 

群像「行こうか、イオナ。」

 

イオナ「うん。」

 

401が門へと進む。

 

タカオ「・・・さて、私も行くわ。」

 

そう言うタカオに直人が別れを惜しむように声をかけた。

 

提督「これからどうするんだ?」

 

我ながら随分世話を焼いたなと思っている次第だったが直人は聞いてみた。

 

タカオ「さぁね・・・まぁ、好きにやるわ。」

 

提督「そうか―――元気でな、タカオ。」

 

タカオ「そっちこそ。簡単に死なないでよ?」

 

悪戯っぽい笑みを残し、そしてタカオも、門へと進み始めた。

 

提督「―――霧の艦隊と、蒼き鋼、か・・・。」

 

直人はタカオと401が門に姿を消し、光が消えるまでそこに佇んでいた。

 

 

 

~同刻・サイパン島東北東沖248km~

 

ハルナ「あの光は・・・。」

 

キリシマ「“どうやら戻れるらしいな。”」

 

同じ頃、敗残の身の大戦艦ハルナも、転移現象に遭遇していた。

 

ハルナ「行こう、キヌ、センダイ。元の世界へ・・・。」

 

直人の目を撒いて後、ハルナはコンゴウの元へと戻っていなかったのだったが、結局転移現象によって送り返される事になったのである。

 

 

 

~同刻・ベーリング海~

 

ヴォルケン「霧も存外役に立たなかったか。」

 

リヴァ「そうね・・・でも、他者の手を借りようとした罰でもあるかも、知れないわね。」

 

ヴォルケン「我々はやはり我々の手で、決着を付けるべき、という事か。」

 

転移現象を引き起こした張本人は、“究極超兵器”ヴォルケンクラッツァーであったのだ。

 

リヴァ「今回の件で、負った傷は大きいわよ?」

 

ヴォルケン「だが、それでも前へと進まなくてはな。我々の念願の為にも。」

 

リヴァ「・・・そうね。」

 

深海棲艦を率い暗躍する二人のリーダー。

 

彼女らが直人の眼前に現れるのは、果たしていつになろうか。それを知る者はまだ誰もいない。

 

 

 

提督「・・・さて。」

 

直人はイオナ達を見送った後、西へと航行を開始した。

 

提督「土産を持って帰るとするかね。俺達の“家”に・・・。」

 

直人の左手には、つい先程まで“彼ら”がいた証が、しかと握られていた。

 

あんまり遅いから皆心配してるかな? などと考えながら、直人は艦載機と特殊潜航艇を収容しつつ、急ぎ足でその海域を後にするのだった。

 

 

 

1月4日23時02分 サイパン司令部前水域

 

 

金剛「提督・・・。」

 

鳳翔「戻って、来ませんね・・・。」

 

綾波「大丈夫・・・だといいのですが・・・。」

 

響「大丈夫さ、きっと。あの司令官の事だからね。」

 

雷「遅いわねぇ・・・。」

 

敷波「だねぇ・・・。」

 

磯波「心配ですね・・・ん?」

 

電「う・・・んん・・・。」ウツラウツラ

 

川内「・・・。」

 

この時間になると流石に艦隊側でも心配になり、急遽高速修復剤で修理を終えた金剛(艤装はスペア)とほぼ無傷だった鳳翔、それに損傷軽微で修理を終えた川内と第6駆逐隊、機動部隊直衛で無傷だった第19駆逐隊で出迎え艦隊を編成。

 

臨戦態勢のまま司令部前の水域で待機していたのである。

 

“傷付いていない艦は1隻もいない”と書いたが、それはあくまで前線部隊の話で、特に空母部隊(1航艦)では航空隊を除くと、流れ弾で損害が出た(霧島小破)以外無傷であった。

 

鳳翔「提督・・・。」

 

鳳翔は、必死に直人の無事を祈っていた。

 

 

 

その頃・・・

 

 

 

提督「爆雷投射!」

 

 

ポン、ポン、ポン

 

 

ドドドォォォォーーーーー・・・ン

 

 

カ級Flag「ガ・・・ハ・・・」ブクブク

 

 

プロロロロロロロロ・・・

 

 

提督「ぬあー・・・まぁ、こうなるな。1時半の方向感3、敵だな、ヤベェ。」

 

夜間の艦載機発着は端的に言って目立つ為、この様に潜水艦を引き寄せるリスクを背負っている。それを直人は承知していた訳だが、案の定わらわらと寄って来ていた。

 

と言ってもたった今着艦した機で最後だったのだが。特殊潜航艇などは最初に収容している。

 

提督「さて、着艦管制灯消して、爆雷ばら撒きつつ逃げるか。」

 

直人としても、潜水艦の狩場と化した海域にいつまでも居座るつもりはなかった。その為、高速推進で一気にその場を離れるのだった。

 

 

 

1月5日3時26分 サイパン東岸沖

 

 

提督「あー・・・酷い目に遭った・・・。」

 

くたびれた様子で漸く御帰還の元帥 紀伊直人。

 

実の所本当はもっと早く帰投出来ている筈であった。少なくとも30分は。

 

しかし彼にものっぴきならぬ事情があったのだ。

 

 

 

午前2時18分 サイパン東方沖57km

 

 

提督「だぁぁぁぁもう!!」

 

 

ドォンドオオオオォォォォーーー・・・ン

 

 

リ級elite「ガハッ・・・。」バッシャアアァァァン

 

リ級Flag「撃テ! ココデ奴ヲ殺セ!!」

 

駆逐艦.s「「「ギョワアアアアアアア!!」」」

 

提督「もう1時間も戦ってるぞ、しかも全然数減らねーし!!」

 

直人は1時間も前から深海棲艦の追撃部隊と接戦を繰り広げていた。

 

提督(何とか逃げる隙を見つけなければ・・・!!)

 

しかし追手の側も逃げれば追撃をかけられる態勢を取っていた。しかも巧妙にサイパン島への進路を遮断しており、直接撤退する事は困難だった。

 

提督(勝利か死か、か・・・。)

 

そこには勝つか負けるかという選択肢の負けると言う選択肢はない。霧と交戦した後であるだけに直人が殊更戦う意志を持たない以上、それは自衛的戦闘であって海戦ではない。しかもそれは受動的立場を強いられ消極的にならざるを得ず、結果敗北そのものが、死と同義語と化していた事実もある。

 

何にせよ直人は、ここで敵を全滅させなければ生きて帰る事さえままならないと言う状態に、心ならずも陥ってしまっていたのである。

 

 

 

グウ~・・・

 

 

提督「・・・。そう言えば、ここまで殆ど何にも食ってねぇな。」

 

行って帰ってくるまでに食べたのは、追撃中口にした戦闘糧食(レーション)位なものである。栄養価はそれなり以上にあるものの、味気なかったり味の悪いものばかりでしかも量も大したことは無い。

 

提督「まぁいい・・・今は一杯のスープよりベッドが欲しい、女付きで・・・っ、無くていいな、普通に。」

 

どこぞの漁色家戦闘艇エースO・Pではない。

 

金剛「テイトクゥ~~~ッ!!」ザザァァァ

 

提督「ん・・・やぁ金剛、出迎えに来てくれたのかい?」

 

その声にも心なしかいつもの元気は無いようだ。

 

金剛「勿論デース。それより随分と遅かったデスネー。Oh? 霧の皆さんはどうされたのデスカー?」

 

周囲に姿が見えないので思わず訊く金剛。

 

提督「あぁ、彼らなら・・・。」

 

直人が来た方向を振り返り遠い目になる。

 

提督「元の世界に、帰っていったよ・・・。」

 

金剛「・・・そうデスカ・・・。」

 

寂しげな声で言った直人の様子で、金剛も彼の心情が知れたと言うものだった。

 

鳳翔「提督、お疲れ様でした。御無事で何よりです。」

 

提督「あぁ鳳翔さん、出迎えありがとう。」

 

提督「あら? 提督、何をお持ちなのですか・・・?」

 

提督「ん・・・あぁ、これか。」

 

そう言って差し出した左手には、イオナから貰ったイ401の模型があった。

 

金剛「ワァオ・・・。」

 

あれだけの戦闘の中でも、これだけはと守り通したのがこの模型であった。その為直人自慢の巨大艤装もあちこちダメージが目立つ。

 

直人達と霧の艦隊とを唯一結ぶ絆、と呼べるのであれば、それは唯一無二の大切な贈り物だったのだから、守るのは当然であっただろう。そしてその模型は傷一つ付く事無く、こうしてサイパン島へと届けられたのである。

 

提督「イオナからの贈り物だ。この世界に来た証を、持っていて欲しいとさ。」

 

鳳翔「そうでしたか・・・それなら、飾りましょう!」

 

提督「飾るのか・・・成程。してどのような案があるかな?」

 

その問いかけに鳳翔は考える。

 

鳳翔「そうですね・・・桐箪笥の上、でしょうか・・・?」

 

提督「桐箪笥・・・アッハッハッハッハ! 成程ね、面白い!」

 

鳳翔「そ、そうでしょうか・・・?」

 

苦笑いを浮かべながらそう言う鳳翔。

 

金剛「・・・?? どういうコトネー?」

 

理解出来なかった金剛、その辺りの発想はまだまだのようだ。

 

提督「要するに、“霧”の船の模型だから、“桐”箪笥の上に飾ろう、ってことさ。」

 

金剛「ナルホドッ! うまいデース!」

 

説明させてくれるな、と本来なら言う所だが敢えて言わない直人であった。

 

提督「大喜利なら座布団1枚だな。」

 

金剛「YES!」

 

川内「はいはい立ち話はその辺にして、戻らない?」

 

そこへやってきた川内。

 

提督「なんだ来てたのか。」

 

川内「私だけじゃなく駆逐艦が6隻ほどね。でも皆寝ちゃったわ、流石に。」

 

提督「そう言うお前は元気だなおい?」

 

川内「私、夜は結構強い方なので。」ニヤッ

 

白い歯を覗かせて笑みを浮かべる川内である。

 

提督「成程な、だがしかし川内の言葉にも一理ある、戻るとしよう。俺も疲れた、早く寝たい。」

 

金剛「デ、デスヨネー・・・。」

 

鳳翔「では、戻りましょうか。」

 

川内「はーい。」

 

提督「そうしよう。」

 

金剛「哨戒4班へ、“4770 火口にてフェニックスはその灯を消した”デース。」

 

朝潮「“哨戒4班了解。警備任務を続行します。”」

 

分からない方の為に説明させて頂くが、金剛の言ったのは一種の暗号で、単語を別の単語に置換する(置き換える)事によって、部外者にその真の意味を分からなくする、という手のものである。

 

この場合、

 

4770=0336時

フェニックス=提督(司令官)

火口=司令部

灯(ともしび)=帰還

消した=無事

 

となり、これを並べ替えて一つの文章に繋ぎ合わせると「03時36分、提督は司令部に無事帰還せり」となる訳である。ちょっと捻ると思いつくような稚拙なレベルのものだが、それでも素人や暗号帳の無い者には難問である。

 

提督「お勤めご苦労様~。なんだか安心したら眠くなってきた・・・。」

 

金剛「では、早い目に戻りマショー!」

 

提督「その通りだな。ふぁ~あ・・・。」

 

 

 

こうして、大島沖の迎撃戦に始まる制号作戦は、司令部の防衛戦、そして敗走する敵に対する追撃に端を発する敵本隊との戦闘という3つの戦闘を経て、この瞬間“実質的”には終わった。

 

しかし、書類上はこの翌朝に行われた、制号作戦終結宣言という無意味な儀式まで、まだ数時間という僅かな間続くのである。

 

 

 

1月5日11時26分 中央棟2F・提督執務室

 

 

制号作戦終結宣言という下らないセレモニーを終えた直人は、執務に追われる羽目に陥っていた。

 

何故か。それはイ401にタカオに加え、全艦娘に対霧装備を配布し運用した事により、本来2か月半は作戦行動が可能だった筈の資源を、ひと時に食いつぶしてしまったからである。

 

提督「全く、霧の戦役の後はこれか、いつも通りとはこのことだな。」

 

大淀「そうですね・・・。」

 

朝潮「哨戒4班、近海警備任務より帰投しました。」

 

提督「ご苦労。引き続いて哨戒5班を出動させてくれ、金剛。」

 

金剛「了解デース。“哨戒5班、近海警備任務に出動して下サーイ!”」

 

夕立「“りょうかーい!”」

 

結局の所、それは自然資源獲得の為、艦娘達が遠征へと駆り出される一因ともなっていた。更に言えば、それは艦娘の経験蓄積の機会にもなった。

 

実はこの司令部の立地は、完全に資源の自給自足が出来ると言う恵まれた環境にあった。というのは、テニアン・グァムなどに代表される北マリアナ諸島は元々棲地であっただけに、その周囲に資源となる因子が膨大な量存在し尚且つ自然発生している。

 

プレート活動との因果関係も囁かれるが詳細は不明である。

 

そしてそれらが“資源”と呼ばれる形に顕在するのが、旧棲地であり浄化の進行が遅いテニアンやグァムと言ったサイパン以外の島々なのだ。

 

近海警備部隊の任務は、警備任務の傍らでこうした資源をノルマ分だけかき集める事である。これは今まで行っていた司令部周辺警戒態勢を脱した、とも言えるかもしれない。

 

提督(将来的にはテニアンに飛行場を作るのもいいかもしれんな、重爆は勿論だが定期哨戒の基地としても有効だろう、後水上機基地が欲しい所だが・・・どうしたものか。)

 

※波が穏やかな場所じゃないと着水した水上機はそのまま転覆もワンチャンあります。

 

提督(いっそ2式大型飛行艇とか来ねぇかな。)

 

大淀「提督、どうされましたか?」

 

提督「ん? あぁいや、我が司令部の未来像をね。」

 

そう言う直人ではあったが、その未来像は、想像よりも大規模なものとなる事を、彼は知る由もない。

 

提督「それにしても、艦上からの指揮も中々新鮮でしたな。」

 

大淀「なさったこと無かったんですか?」

 

提督「あると思う? 普通。」

 

大淀「は・・・そうでした。」

 

失言に気付く大淀である。

 

提督「さて、この書類を片付けて局長の所に行かなきゃ。」

 

大淀「また何か発注されに行くのですか?」

 

提督「いやぁーまぁ、うん、そうね・・・。」

 

大淀「今度は、何をお考えですか?」キラーン

 

大淀のメガネが光る。

 

提督「いや別に、ナニモカンガエテナイヨー。」

 

絶対に嘘である。

 

大淀「そーですか。」ジージロジロ

 

提督「それにしても今回も損害が酷いな。サンベルナルディノ以来だな。」

 

大淀「そうですね、未だ修理は終わっていません、1週間は動けないかと。」

 

提督「沿岸砲の方はどうなっている?」

 

大淀「はい、D7砲台の5インチ(12.7cm)連装砲1基が大破、それ以外については損害軽微なものが多く、旋回不能になった砲座もあるそうですが、修理にそう時間はかからないとのことです。」

 

提督「そりゃぁそうだろう、撃ち込まれたのが実弾ならな。しかも山なりの砲撃で砲炎の隠蔽まで考慮されているとなれば、位置の算定は極めて難しい。熱放射の隠蔽まで考慮したあたり、妖精達も相当な切れ者揃いらしい。」

 

砲台は洋上からでは捕捉が難しいが、1発撃てば普通配置がばれてしまい反撃を喰らうのが常なのだ。この損害で済んだ事さえも奇跡に価した訳だが、それは巧みに隠匿した妖精達の功績でもあったのだ。

 

砲台が活躍した事例としてウェーク島がある。開戦劈頭ウェーク攻略を任された第4艦隊は、麾下艦隊を以って攻略を試みたが事前砲撃で躓き、大時化で大発への陸戦隊移乗も出来ず、沿岸砲と航空部隊の猛烈な抵抗で夕張座乗の第四艦隊司令部が大混乱に陥り、結果改造爆戦になったF4F艦戦に如月が、沿岸砲の砲撃によって疾風(はやて/神風型駆逐艦・艦これ未実装)が撃沈されると言う醜態を晒している。

 

逆に失敗した事例では硫黄島の戦いがある。硫黄島北部の要衝擂鉢山に布陣した海軍陸戦隊は、防御の要たる砲台の守備を任されていたが、防御総指揮を執っていた栗林中将から反撃を禁じられていたにも拘らず沖合の敵艦に向けて砲撃してしまい、結果火砲の大半を失うと言う結果を出している。

 

砲台とは一長一短ではあるものの、防衛戦では有効に使えば強力な兵器たり得るのだ。事実艦砲より砲台の方が命中率が高い事もある。

 

提督「砲台の奮戦なかりせば、追撃などおぼつかなかったに違いない。砲台と艦娘の共同攻撃によって相手の演算能力を上回ることが出来たのは、備えあればこそだな。」

 

大淀「“備えあれば患いなし”というのは、至言ですね。」

 

提督「全くだ。」

 

大淀「修復は急がせますか?」

 

提督「可能なペースで構わない、確実に修繕してくれ。」

 

大淀「分かりました。」

 

提督「さて、書類終わらせないとな。」

 

大淀「その通りです。」

 

金剛「大淀サン! 書類チェックお願いシマース!」

 

大淀「あ、はい!」

 

直人は金剛の仕事ぶりを見つつ、書類の山と格闘するのであった。

 

 

 

直人が漸く書類の山を片付け、技術局へと姿を現したのは16時43分の事だった。

 

資源関係の書類が溜まっていた事もあって量が多く、且つ昼食も挟んだ為この様な事になっていた。この為にこの日の午後に予定していたドロップ判定も、翌日に延期していた程だった。

 

提督「局長~、いる~?」

 

局長「ン? アァ直人カ。コンナ時間ニ珍シイナ。」

 

ラボで佇む局長はそう言った。

 

提督「まぁな。それより、また局長に作って貰いたいものがあるんだ。差支えなければ聞いて貰えるかい?」

 

局長「勿論ダ、伺ウトシヨウ。」

 

興味を持った局長が少しばかり食いつく。

 

提督「単刀直入に言う。改最上型の重巡を1隻、建造して貰いたい。艦娘ではなく軍艦を。」

 

局長「・・・ホウ。造ル分ニハ構ワナイガ、使用目的ヲ聞キタイナ。」

 

ものがものだけに、その質問は正当性があった。

 

提督「俺が乗り込んで、旗艦にするのさ。」

 

局長「成程ナ、コノ艦隊ノ旗艦ヲ作ル、トイウ訳ダナ。」

 

提督「そう言う事だ、頼めるか?」

 

局長「分カッタ、造兵廠ト明石ヲ借リ受ウケタイガイイカ?」

 

提督「あぁ勿論だ、彼女にも今から言いに行くところだったんだ。」

 

なお実際に行った模様。

 

局長「ソレト一ツ、直人ニモヤッテ貰ウコトガアルゾ。」

 

提督「んあ? なにかな?」

 

急に切り返された直人が応じる。

 

局長「改最上型――――鈴谷――――ノ二面図ガ欲シイ。」

 

提督「ぐぬっ・・・承知した、何とかしてみよう・・・。」

 

 

~翌日~

 

提督「え、すぐにでもコピーを回せるんですか!?」

 

横鎮に連絡を取った直人は、土方海将のその答えを聞いて驚いていた。

 

土方「“あぁ、すぐに必要の無い類の公文書は横須賀基地に移してあってな、重巡鈴谷の精密図面もあった筈だ。何に使うんだ?”」

 

提督「図面を使うとなれば、ひとつでしょう。」

 

直人はそう言った。実際公文書にも様々だが、機密文書や政治関係の物を除く全ての公文書は、焼失を恐れて横須賀基地に収蔵されていた為、第二次東京大空襲の際も無傷で残っていたのだ。

 

土方「・・・成程な、それもそうだ。分かった、すぐコピーしてそちらに送る。だが、なぜ今更?」

 

提督「なに、私も“旗艦”が欲しくなっただけです。」

 

理由としてはそれで十分だった。

 

 

 

1月6日11時37分 建造棟

 

 

提督「来たぞー明石。」

 

明石「あぁ、提督! お待ちしてました! ドロップ判定の準備は既に整えてあります。」

 

直人は執務の合間にドロップ判定の監督に来ていた。

 

提督「そうか、それは結構、早速始めてくれ。」

 

明石「わっかりました!」

 

明石が喜々として作業に取り掛かった――――。

 

 

 

そんでもって

 

 

 

隼鷹「商船改装空母、隼鷹でーっす! ヒャッハー!」

 

提督(噂通りの呑兵衛の酒豪ですか・・・。)

 

龍驤「軽空母龍驤や! よろしゅうな。」

 

那珂「艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよー! よっろしくぅ!」

 

提督(面倒なのキター。)

 

イムヤ「伊168よ、イムヤでいいわ。宜しくね。」

 

提督(わーい潜水艦だー)白目

 

提督「よく来てくれたね。我が艦隊は君達を歓迎するよ、宜しく頼む。」

 

龍驤「こっちこそ、これから頑張るさかい、宜しゅう頼んまっせ?」

 

提督「あぁ勿論だとも。」

 

飛鷹「隼鷹、相変わらず飲んでるわねぇ・・・。」

 

自己紹介の場に割り込んできたのは、隼鷹の姉飛鷹である。

 

隼鷹「げっ・・・。」

 

提督「あぁ飛鷹か。悪い、呼び出しちまって。」

 

飛鷹「新しい子達の案内役でしょう? 察しは付くわ。」

 

提督「御察しの通りです、頼むよ。」

 

飛鷹「頼まれますとも、飲んだくれの妹が来たとあればね。」

 

隼鷹もいい姉君を持って幸せ者だと皮肉半分で思う直人である。というかこの手のタイプは身内になると面倒臭いと半ば本気で思っているのだった。

 

要はうるさ型の相手はあまり得意でないのだ。

 

提督「じゃぁお願いしておくよ。」

 

飛鷹「分かりました。では行きましょうか、隼鷹も!」

 

隼鷹「へ~い。」

 

古鷹「はい! ではこれで・・・。」

 

提督「うむ。」

 

 

 

隼鷹達が去っていったあと・・・

 

 

 

提督「明石、昨日の件だが、どれ位掛かりそうだ?」

 

昨日の件、というのは無論改最上型建造の件だ。

 

明石「そうですねぇ・・・4週間ほど待って頂く事になろうかと思います。今夕張と必要な資材の量を算出している所です。」

 

提督「夕張と? またなんで。」

 

疑問に思った直人が問い返す。

 

明石「いやぁ、夕張さんとはすっかり、馬が合っちゃいまして。それから夕張さんにはこっちのお手伝いもして貰ってるんです。」

 

提督「あー・・・そう言う訳か。」

 

合点がいった直人であった。

 

 

 

12時27分 食堂棟1F・食堂

 

 

提督「メシメシ~。」

 

執務を片付けた直人は昼食を摂りに食堂へと足を運んでいた。

 

提督「ん・・・?」

 

 

 

夕張「それで、カタパルトや水上機用クレーンはどうするんですか?」

 

明石「全て搭載する予定よ。でもそうするとどれ位資源が必要になるかなぁって。」

 

夕張「そうですねぇ・・・おおよそこれ位かと。」

 

夕張がタブレットPCで計算して見せる。

 

明石「うーん・・・やっぱこれ位にはなっちゃうのかぁ。」

 

夕張「でも、請け負った仕事に妥協は禁物ですよ。」

 

明石「そうね・・・!」

 

 

 

提督(本当に仲がいいんだな・・・結構結構。)

 

鈴谷「おっ、提督じゃん。ランチどうよ?」

 

提督「では、御一緒させて頂きましょうか。」

 

鈴谷「オッケー♪」

 

少しばかり眺めていた直人は、後からやってきた鈴谷と共にカウンターへと向かうのだった。

 

 

 

艦娘と霧との抗争は、直人の尽力により全面的なものへと発展せぬままに終わった。だがもしも制号作戦が失敗していたらと考えるとゾッとしないのは、何も筆者だけではないだろう。

 

結局の所霧の艦隊を巻き込んだ深海棲艦側は失うものが多く、逆に直人達横鎮近衛艦隊は戦力を増強すると言う結果に終わり、霧の艦隊を用いて戦局を変えようという試みは失敗に終わった。

 

しかし霧の艦隊が齎したモノは、深海と艦娘艦隊双方にとって、小さくなかったのであった。

 

その事を思い知らされるのは、まだ先のお話である。




艦娘ファイルNo.80

龍驤型航空母艦 龍驤

装備1:96式艦戦(熟練)(対空+3 回避+1)
装備2:99式艦爆(和田隊)(対空+1 爆装+6 命中+1 回避+1)
装備3:97式艦攻(熟練)

軍縮の空白を埋める為に建造された小型空母。
日本艦爆隊の育ての親、和田鉄次郎の艦爆隊を有する。
うさん臭くない割とガチ目な関西弁を話すと言う特異点を持つ。また96式艦戦・97式艦攻の熟練部隊を持参してくる。
艦爆隊がその主力であり基地攻撃に非常に適している一方直衛がその機数の関係上苦手。


艦娘ファイルNo.81

飛鷹型航空母艦 隼鷹

装備1:96式艦戦
装備2:99式艦爆
装備3:97式艦攻

酔っ払い軽空母(ぶった斬り)。
素行は兎も角として実力は確か。
但しこれと言って特異点を持たない呑んだくれ。
しかしこの時点では何が得意なのかが釈然としないので一応普通の空母扱い。


艦娘ファイルNo.82

川内型軽巡洋艦 那珂

装備1:14cm単装砲

艦隊のアイドル(笑)。
こちらもこれと言って秀でた点はないが、実は・・・?


艦娘ファイルNo.83

古鷹型重巡洋艦 古鷹

装備1:20.3cm連装砲
装備2:7.7mm機銃

日本初の重巡、かの平賀譲造船中将が手掛けた名艦の1隻。
特に特異点はないが夜間襲撃に秀でた才を持つ。

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