異聞 艦隊これくしょん~艦これ~ 横鎮近衛艦隊奮戦録   作:フリードリヒ提督

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はいどうも! 新年早々第1部完となりまして、いよいよ激動と激闘の第2部が幕をあけます! という訳で章頭の方針は変更しません! 天の声です!

青葉「一体どういう訳なんですか一体! あ、どうも恐縮です! 青葉ですー!」

何のことは無い、いつもの事ではないか。

青葉「あーはい、そうですね・・・。」(諦観

まぁそれはさておき今日はゲスト、呼んでみた。

明石「その呼ばれてきたゲストです。どうも! 明石です。」

横鎮近衛の造兵廠より明石さんですはい。

青葉「こりゃまたなーんでまた突拍子も無く。」( ̄∇ ̄;)

気分です。

青葉(やっぱり気分か。)

明石(気分なんですね・・・。)

今日は設定放談です。題して、「艦娘はどのように轟沈するか」。

青葉「・・・重いですねぇテーマが。」

提督として、艦娘を無為に沈める、また例え沈めてしまったとしてもそれを容認する事は、私などのように人として、仁義にもとるとお思いの方はそこまで少なくないと思います。

ですが、システムに拘りなく轟沈のプロセスを考えてみたことも、少なくはないと思います。今回は私が考える轟沈のプロセスを、ここで紹介したいと思います。

艦娘達は通常、脚部艤装によってその浮力を得ています。4体の巨大艤装も例に漏れませんが、脚部艤装は艦娘達が進水する上で必要欠くべからざる装備です。

轟沈とは基本的に、脚部艤装の破壊ないし致命的ダメージか、背部艤装に内蔵されるコアの破壊及び致命的ダメージの二つのうちいずれか、または両方が生じた場合に発生します。

脚部艤装は分かりやすいと思います艤装のコアが破壊されると、その艤装の全機能が喪失する為、結果として艤装浮力も失われ沈没する、という訳です。

艦娘とはいえ人の身体である以上、水に沈むと言う性質は変えられません。が、一定時間なら浮いていられるのも事実です。その間であれば使用者を救出する事も可能です。

艤装はその浮力の全てを脚部艤装で補います。なので少しでも損傷すれば、速度の低下や転覆のリスクを背負っています。

現在の飛龍や雪風のような状態は、言わば轟沈と同義なのですが、艦娘と艤装は運命共同体というような関係に無い為、新しい艤装さえ手に入れば再び戦線に出る事も可能です。

SN作戦の折、ソロモン北方沖海戦の前に大損傷を負った艦娘達を強襲揚陸艦で後送していたのは、その事実が既に明らかになっていたからに他なりません。ですがこの場合、極度の戦力低下、現状以上の戦力ダウンを、日本艦隊の3提督が望まなかったから、とも解釈する事が出来るでしょう。

この辺りはご想像にお任せします。

明石「そう言えば紀伊提督も一度沈みかけましたね。」

あぁ、サンベルナルディノ沖海戦ね、あの時は相当ヤバかったようだが。

明石「修理が大変でしたよ・・・。」

でしょうねー。っと、今日はここまでです。

青葉(チッ、明石さんがそれらしい方向に繋ごうとしてたのに。)

明石(ぐぬぬ・・・看破されましたか・・・。)

今はまだ話す時期でもねぇだろうがいい加減にしろ。

二人「はい・・・。」

という事でいつも通り始めていきましょう、どうぞ。


第二部~進軍編~
第2部1章~海霧(ウミギリ)


2052年12月も下旬に入った頃、各基地で不思議な現象が報告され始めた。

 

目撃部隊の証言に曰く、『虹色に光る巨大な光球が現れた』というものだった。同時に電測装置は全て駄目になり、光が消えると、共にそれらも同時に元に戻ると言う。

 

最初はただのデマとして誰も歯牙に掛けなかったが、目撃例が10、20ではなく200、300という量に達し、詳細な報告書が短期間に複数大本営に寄せられるに至り、大本営も重大事と見て調査を始めていたものだった。

 

提督「・・・ふむ。」

 

大淀「なんなんでしょう、この現象は・・・。」

 

2052年12月21日(土)、横鎮近衛艦隊司令長官たる紀伊直人元帥は、大淀と共にそれらの怪現象に関する沢山の目撃情報を、土方元帥のつても借りて大量に集め、検討に入っていた。

 

提督「虹色の光球と電測装置の無力化、この二つが同時に起きた事ならば、過去にある。」

 

考えながら彼は言った。

 

大淀「そうなんですか!?」

 

明石「ええっ!?」

 

そう、実のところこの現象には前例がある。そう直人は語った。

 

大淀「一体、どんな状況だったんですか?」

 

提督「うん。今から1世紀以上前、1945年5月4日の事だ。この日ドイツ国防軍海軍の海軍大将、フリーデベルグ大将が、5月5日に停戦するとした降伏文書に調印した。だがこれに同調しない集団があった。キール軍港にいた、ドイツ海軍主力と潜水艦部隊だ。」

 

明石「ドイツ、ですか・・・。」

 

提督「降伏を拒絶した理由は一つ、『我々は十分戦える状態にある! であるから徹底抗戦を!』と言うものだった。」

 

その言葉に意外そうに言ったのは大淀だった。

 

大淀「ですがその頃になってくるとシャルンホルストもグナイゼナウも、ムスペルヘイムやペーター・シュトラッサーも沈んで、主力と言っても・・・」

 

しかしその言葉に直人は首を横に振った。

 

提督「いや、実はそれは違うんだ。」

 

そう断じる直人、立派に根拠あっての事である。

 

大淀「と、いいますと・・・?」

 

提督「キールには、彼らが生み出した超兵器最高の至宝があった。枢軸軍最強にして世界最後の超兵器。“摩天楼(ヴォルケンクラッツァー)”と“蜃気楼(ルフトシュピーゲルング)”という姉妹超兵器が。」

 

大淀「あ、あの、究極超兵器と呼び声高い、あの2隻ですか・・・!?」

 

枢軸軍究極超兵器「ヴォルケンクラッツァー」、艦首に格納式砲塔に収めた、ハーケンクロイツ印の新兵器「波動砲」を1門搭載、世界最強と言われた超兵器機関を搭載し、ドイツの威信そのものと言える戦艦。

 

これを討伐に出た連合国軍究極超兵器「リヴァイアサン」を、瞬時に葬ったという、掛け値無しの最強戦艦である。

 

その姉妹艦たるルフトシュピーゲルングは、ムスペルヘイム級2番艦を計画変更して作られた艦で、本来これに搭載すべく製造されていた重力砲を、生産の間に合わない波動砲の代わりに搭載した、言わば影武者の様な戦艦である。

 

故にヴォルケンクラッツァー(摩天楼)の蜃気楼(ルフトシュピーゲルング)というネーミングを為された。結局竣工こそしたが実戦には間に合わなかったが。

 

提督「公式記録ではこの2隻は連合国軍によって自沈させられた、という事になっている。だが、事実ではないらしい。」

 

大淀「それで、真実の程は?」

 

提督「うん。フリーデベルグ海軍大将の降伏文書調印に反発したキール軍港の主力艦隊では、摩天楼と蜃気楼の2隻が蜂起を起こした。」

 

騒動は一時激化し、港内は一戦も辞さぬと言う緊張状態になった。しかし後が続かなかった。

 

蜂起に参加したのは以下の艦艇である。

 

 

・駆逐艦

Z17型:Z20 カール・ガルスター

Z31型:Z38・Z39

・水雷艇

T13型:T19

T22型:T23・T35

 

その他掃海艇10隻

 

 

提督「港には他に重巡プリンツ・オイゲンや、ドック内で擱座した艦艇なんかもいた。でも蜂起軍の戦力は泣いても笑ってもこれだけ。翻意を促そうとして失敗した蜂起側はヤケを起こし、波動砲で残存艦艇を葬ろうとした。ところが、エネルギーをチャージしようとしたところ突如機関が暴走、周囲は虹色の光球に包まれ、同時に電測装置類が全て麻痺してしまった。」

 

大淀「それって・・・!」

 

提督「そう、今回報告されている多数の事象と同じなんだ。そしてその光球が消えた時、ヴォルケンクラッツァーを初めとする反乱部隊は忽然と消え失せていた。」

 

明石「消えた・・・!?」

 

提督「うん。影も形も、塵も残さずに。」

 

大淀「そんな・・・どうやって・・・?」

 

驚く大淀に直人は説明する。

 

提督「次元転移、とかそんな類じゃないかね。実際超兵器が活動していた時期には、その起動に巻き込まれて別の次元から来訪があるなんて珍しい話じゃなかったらしい。一概にそれらは“転移現象”なんて呼ばれてたしな。」

 

提督「だが、だ。」

 

大淀「まだ、なにか?」

 

大淀は直人が差し挟んだ言葉に疑問を投げた。

 

提督「“霧が発生する”、というのが引っかかる。キール軍港の一件では不可解な霧は目撃されていないんだ。」

 

“霧が発生する”というのは、報告書の一部にそう記載されている事柄である。それに依れば『虹色の光球と共に霧が発生、視界零状態になり、暫くして霧は晴れたが光も消え、辺りは何事も無かったかのようであった』としているものが散見されるのだ。

 

そしてそれについて明石が一つ見解を示した。

 

明石「・・・それが転移現象だとして、転移してきたものが、身を隠す為に霧を発した、とは考えられませんか?」

 

その言葉に直人は意外そうな顔をしつつも否定的見解を示した。

 

提督「君は意外と文学的想像力に富んでいるらしい。でもそんなものがどうやって転移してくるのか、というのが疑問だ。可能性が無い訳じゃないが、低いとみていい。」

 

明石「そうですか・・・。」

 

その説明は些か誇大妄想のそしりも受けかねないものであるが、実際に記録にも残っている事実である以上、なんとも言い難い。

 

明石「信じられません・・・。」

 

提督「俺だってそうさ、そんな事本当にあるのかねぇ・・・。」

 

説明してる本人も半信半疑である。

 

提督「だが実際写真付きで送られてきた報告も多いし何より・・・」

 

青葉「私も偶然撮影に成功しましたから!」フンスッ

 

そう、流石ブン屋青葉、リンガ泊地司令部への取材の為航行中に偶然遠距離から撮影したのだ。そしてその青葉は直人と大淀、明石の話し合いに最初から同席している。

 

青葉「この現象は確かにドイツ海軍降伏の際、数多の目撃情報があったにもかかわらず揉み消されています。」

 

大淀「揉み消されている・・・?」

 

青葉「はい。ドイツの2隻の究極超兵器は、連合軍が自沈処分にしたと。実際それを証明する為に撮影した偽の映像もあります。」

 

明石「終戦処理の陰にそんな裏が・・・。」

 

その様な事をする理由は明白だった。理由の付けようも無く突如消えてしまった自沈処分を予定した超兵器。そのようなものが存在しては戦勝国の威信を損なう恐れもあるからだ。

 

21世紀の初めごろ、ヴォルケンクラッツァー沈没地点とされた大西洋海嶺付近を調査した日米英露の4か国合同調査団が、それらしいものを発見できなかったとし、米国政府に上申を出した。

 

ところが米国政府は「地殻変動によって破壊され、残骸単位になって海底を移動しているので、その地点にはなかった」という見解を示した。事実その見解に基づき、海底の移動の向きや距離を算定し調査したところ、船の残骸らしいものはあった。

 

しかし年代が合致せず、また合致しても超兵器に用いられていたとされるような構造材ではなかった為、再度米国政府に対して上申をしたが、これは握りつぶされてしまった。

 

当然ネット上も騒然となったが、当時の民間用ネットワークは発展途上にあった為、所詮はネット上の空騒ぎとして処理されてしまっていたのだ。

 

提督「だがこのような事態が起こった以上、転移現象の可能性も視野に入れよう。」

 

青葉「そうですね。私もその方向で調べてみます。」

 

提督「何にせよ、現象の詳細な情報が、欲しい所だな・・・。」

 

大淀「ですね・・・。」

 

直人と3人の艦娘達は、目の前の机に積まれた情報の束を前に、ただただ唸り声を上げるばかりだった。

 

 

 

直人達司令部幕僚が頭を悩ませている頃、相当に呑気に過ごしている奴もいた。

 

 

甘味処『間宮』、司令部内唯一の売店であり、甘味処がメインだが僅かばかりの雑貨や駄菓子の売り場にもなっている場所だ。

 

12月22日の正午前、この日もそこを訪れている艦娘の姿があった。

 

 

 

白露「間宮さんの最中美味しい~。」

 

今最中(もなか)を「さいちゅう」って読みそうになった人、注意ね。

 

島風「でもソフトクリームも美味しいよ?」

 

白露「だね。前に食べたことあるけど美味しかった!」

 

島風「はぁ~、これでまた頑張れる。」

 

白露「今から哨戒任務だもんねー・・・。」

 

この時甘味処間宮にいたのは、哨戒14班の旗艦白露と島風である。出動前に一息入れていた様だ。

 

島風「・・・平和だねぇー。」

 

白露「平和が一番だよねー。」

 

島風「ねー。」

 

のんびりできるこのひと時に感謝する二人である。

 

村雨「あらあら。こんなところで平和祈願?」

 

そこへやって来たのは哨戒14班の僚艦、村雨である。基本哨戒班は1つの班に3隻で編成するのが原則である。無論この頃はまだ欠員のある哨戒班も多く、また各駆逐隊混成の変則編成の哨戒班もあったのだが。

 

島風「だって、平和じゃなきゃ色んな事で速さを競えないじゃん。」

 

村雨「フフッ、島風ちゃんらしいわね。でも、確かにそうだわ。平和じゃなきゃ、何かと楽しめないもの。」

 

白露「そうね、村雨の言う通りだわ。」

 

村雨「はいはい、アイス溶けるわよ? そして食べたらお仕事に行かないと!」

 

白露「あっ、いっけない――!」

 

島風「うえあっ!? ちょっと溶けてる!?」

 

いくら12月下旬と言っても、仮に本国だったとしても常温でアイス放置すりゃ溶ける、当然である。(※アイスは普通5℃前後で保管する)

 

ついでに言うと、サイパンでは季節の変わり目が明瞭ではなく、冬になっても温かいのである。と言っても団扇がいるかいらないかは大きいが、年間日平均気温が25度という高さであるから、アイス位余裕で溶けてしまうのだ。

 

村雨「やれやれ・・・。」

 

呆れた様微笑ましいと言う様な村雨の視線の先では、溶け始めのアイスを慌てて食べる白露と島風の姿があった。

 

こんな事をやってられるのも、また平和と言うものである。その上空で、双発戦闘機が1機、飛行機雲をたなびかせて飛んでいた。直人がこの様を見れば、平和な事だと憧憬の念に駆られるに違いなかった。

 

 

 

2052年12月22日(日)13時18分

 

この日直人は、横鎮長官へ報告書(レポートの類だが)の提出を要請されて横須賀鎮守府本庁舎にいた。

 

 

~横鎮司令長官室~

 

提督「いくらうちが情報網持ってると言いましてもレポート提出まで求めますか普通?」

 

土方「その交換条件で情報提供を受けたのは、貴官だぞ?」ニッ

 

提督「その言い方はずるいですよ・・・。」ガックリ

 

余りの言い様に肩を落とす直人。

 

土方「ハッハッハ、冗談だ。実際のところ、調査に猫の手も借りたいのでな。」

 

提督「あたしゃ、猫ですかい・・・ハハハ・・・。」

 

正直そこまで可愛げのあるようには思えないのだった。

 

直人が昨日情報の精査と検討をしていたのにはきちんとした理由がある。でなければ個人的考察に留めているところだ。

 

ところが前述の通り、横鎮から情報を取り寄せる際に『レポート書いて寄越せ(意訳)』という条件を付けられてしまい、しぶしぶ承諾したのだ。

 

土方「フッ。まぁ形式上はそう言う事になるしな。にしても、やはりこういう結論になってしまうか。」

 

提督「はい。なにぶん状況証言が不足していますし、情報も錯綜していますから。」

 

直人が提出したレポートの結論は、「結論を導くにはいまだ時期尚早なれど、現状の情報を統括するところ、転移現象の一種であるとみられる。なおこの件については今後綿密かつ慎重な調査を要するであろう。」と言うものだった。

 

結局のところ彼も結論は出せなかったが、最も可能性が高い物として転移現象を挙げたのだった。

 

土方「そうだな・・・。確認され始めたのもつい1週間半ほど前からだ、そんな短期の情報を集約して2日で結論を出せと言うのも無理だろうな。」

 

提督「はい・・・すみません。」

 

土方「なに、お前に出来なければ誰にも出来んさ。」

 

提督「買い被りですよそいつは。」

 

ちょくちょく買い被られる節のある直人であったが、その実本気で謙遜しているのだった。

 

提督「何にせよ、やる事はやりましたよ。ですのでこれにて。1ヵ所寄っていくところもありますし。」ビシッ

 

綺麗な海軍式敬礼をして、立ち去ろうとする直人に土方が放った言葉は、彼の肝を冷やす一言だった。

 

土方「―――三笠に行くのかね。」

 

提督「え、えぇ、そうですが―――。」

 

土方「成程な・・・大方、三笠の“船幽霊”にでも会いに行くつもりなんだろう?」

 

提督「――――ッ!?」

 

直人には、土方海将の言う“船幽霊”に心当たりがあった。なぜならそれに、何度か“会っている”からだ。

 

提督「―――何のことか、小官には分かりかねますね。」

 

と、直人はしらを切ろうと試みる。

 

土方「フッ、その船幽霊とやらはな、“帝国海軍大将の軍服に似た服装で”、“元帥刀を提げた”、“妙齢の女性”だそうだ。」

 

提督「―――っ。」

 

土方の挙げた“船幽霊”の身体的特徴は、直人の知るその人物に全て通じるもの、図星と言ってもいい。

 

土方「・・・図星らしいな。」

 

提督「は、はい―――。」

 

この人に嘘は付けないな。と改めて感じる直人である。

 

土方「最近街中で噂になっているのだ。戦艦三笠を観覧に訪れた観光客が、その観覧中にその幽霊を見たと、何人も証言しておるのだ。」

 

提督「はぁ・・・。」(成程、幽霊騒ぎか、それなら納得だな。)

 

土方「どうだ。一つ、正体を明かしてはくれんか?」

 

提督「それは―――」

 

直人は言うべきか言うまいか一瞬迷った、しかしすぐ、こう言った。

 

提督「―――それは、出来ません。」

 

その言葉に、迷いはなかった。ただ、土方海将を相手にしているのだから、話した方が良いのではという心理が、一瞬働きかけただけの事である。

 

土方「・・・そうか、そうだろうな。」

 

提督「えっ―――?」

 

分かっていたような返事を、土方海将は直人に背を向けながら言った。

 

土方「その船幽霊と話したものはおらん。いるとすればそれは紀伊君、君だけだ。」

 

提督「・・・そうでしょうね。」

 

土方「手配はすぐ済ませるから、行ってくるといい。レディを待たせては、男の名折れだぞ?」

 

土方海将がそう言うと直人は、その背中に深々と一礼し、軍帽を被って長官室を後にしたのだった。

 

 

 

12月22日(日)15時02分 戦艦三笠・艦首甲板

 

 

提督「海は凪ぎ、街は平穏そのもの、か。」

 

一人呟く直人は三笠1番主砲の右舷側にもたれかかって立っていた。極力目撃されないよう位置取りも巧妙だった。

 

提督「サイパンと比べると、寒いな・・・。」

 

そりゃなんたってもうすぐクリスマスという時期である。無論横鎮近衛にそれを祝うだけの余力も無いのだったが。

 

三笠「船幽霊とは、随分な言われ様だと思わない?」

 

直人がもたれている砲塔から出てきた三笠である。

 

提督「―――フッ、それもそうだ。君が“艦娘”と知れてもまずいだろうしな。」

 

三笠「保護される気はないから、どうにもならないわねぇ・・・。」

 

実際の所を言えば、保護という名の保護観察処分なのだが。互いにそれを知ってるが為に、三笠の素性を隠しているのだ。

 

三笠「それにしても、こんな重大な時期に、基地を離れていいの?」

 

提督「・・・重大、とは?」

 

三笠「各地で起きている現象、あれは全部紛れも無い転移現象よ。太平洋各地に、“特定の次元”から来訪者が訪れているわ。」

 

現象の事については直人の提出したレポートの内容でもあっただけに彼も良く知るところだったが、しかしそれについてなぜ三笠が知っているのか、直人はその点が少し引っかかった。

 

提督「・・・特定の次元? 来訪者の正体は―――?」

 

三笠「気を付ける事ね。“彼女ら”は深海棲艦と組もうとしているわ。その力は深海よりも強い。」

 

三笠は間接的にしか、その疑問に答えなかった

 

提督「な、何故そうと分かる?」

 

そう問うた時、三笠の姿は無かった。

 

三笠「“忘れないで。私は『原初を知る者』、戦艦三笠なのだから。例え時代がどう移ろおうとも―――。”」

 

姿を消した三笠の声が、しかしはっきりと聞こえた。

 

提督「・・・原初を、知る者・・・。」

 

彼は、三笠の名乗る“原初”とは何か、考えざるを得なかった。

 

 

 

同日17時26分 厚木→サイパン 連山改(笹辺機)機内

 

 

提督「転移現象、か・・・。」

 

笹辺「そのなんたら言う現象が原因だと、はっきりとではないとはいえ分かったんでしょう? 紀伊元帥。」

 

帰りの機内は必然その話題になった。

 

提督「それは勿論そうだ。だが一つ気になる点がある。」

 

笹部「と、いいますと?」

 

提督「“何か”がこちら側に来ているとして、それが何なのか、だ。」

 

笹辺「成程・・・しかし、それらのお客人が必ずしも敵対するとは限らんのでしょう?」

 

提督「まぁ、それもそうなんだが・・・。」

 

そう言って軍帽を被りなおす直人。

 

笹辺「ま、もうすぐ今年も終わり、サイパンに戻って、年越しの用意をしないと。」

 

提督「そんな余裕ないの分かって言ってるのか貴官は。」

 

笹辺「言われてみればそうでした。」

 

提督&笹辺「はぁ~・・・。」

 

クリスマスパーティーも出来ない現状に、揃って肩を落とす二人であった。

 

と言っても、準備に半年貰うと言ったのは直人の方であり、その時期が年末年始と重なったのは言わば自業自得と言うものであった。

 

 

 

だが、厚木ーサイパン航路の航空機の往来を、何度も続ければ兵を伏せられるのは自明の理であり・・・

 

 

 

18時27分 サイパン北方1040km洋上

 

 

提督「で・・・」

 

 

フオオオオォォォォーーー・・・ン

 

 

ドダダダダダダダダダダ・・・

 

 

提督「どうしてこうなる!!」

 

笹辺「知りませんよそんな事!!」

 

連山改両翼4基の誉エンジンがフルストロークの唸りを上げ、各銃座に配された20mm機関砲や13mm機銃が、迫り来る深海戦闘機に対し弾丸を放つ。

 

既に10機ばかり落としているが追撃が止む気配はない。連山改も上下左右に機体を振り回し、決死の回避行動を試みる。

 

通信士「御巣鷹山へ、こちら旭光! 我敵戦闘機の追撃を受け南方へ逃走中、至急来援を乞う! 御巣鷹山へ、こちら・・・」

 

"御巣鷹山"は横鎮近衛司令部のコードネーム、"旭光"は連山改笹辺機の近衛での愛称である。

 

連山改の通信士は、敵の追撃を受け始めてからずっとこの通信を立て続けに送っている。

 

提督「援軍は・・・まだか―――!?」

 

 

 

横鎮近衛艦隊司令部側では、送信当初から電波は傍受している。無論手をこまねいている訳ではないし、ぐずついているつもりも微塵も無かった。

 

 

~サイパン飛行場~

 

飛龍「お願いよ、皆。提督を無事に、ここに辿り着かせて・・・!」

 

多聞「信じる他、無かろうな・・・。」

 

 

~司令部沖~

 

赤城「発艦はさせましたけど、着艦はどうしましょう?」

 

加賀「飛行場に降ろさせて、後で迎えに行きましょう。」

 

蒼龍「帰る事には真っ暗だもんねぇ~。」

 

祥鳳「後先考えてから出しましょうよ・・・。」

 

後先考えない一航戦旗艦殿である。

 

基地からは新旧零戦隊計95機、母艦航空隊も4隻の母艦から合計83機の戦闘機を、大淀の指示で選抜して送り出していた。

 

戦闘機隊が発進して既に22分が経過し、今だ笹辺機との接触情報は無かった。

 

 

 

18時37分 サイパン北方963km洋上

 

 

提督「そろそろもうヤバいんじゃないのか!?」

 

笹辺「機体もそろそろ穴だらけですよえぇ!! ラダーやエレベーター、エンジンは無事みたいですが!」

 

分かりやすく言えば操縦系統はあらかた無事、と言ったって高度は4000mを切っている。

 

彼らは徐々に緩降下をかける事で速度を確保していたが、そろそろ高度的に限界が来ていた。余り低く飛ぶと敵艦の対空砲に晒されかねないからだ。

 

つまりここからは降下による加速が出来ない。半ば戦闘機を振り切るのは絶望的となったと言っていい。いくらなんでも水平飛行での最高速448kmが出ればいい方の4発重爆に100km以上速度差のある戦闘機を振り切れと言う方が無理な話。

 

提督「機銃の弾薬はどうだ?」

 

笹辺「・・・全銃座の内、3割方は撃ち尽した、と、残弾は多くても後3割弱。」

 

提督「マジか。」

 

防御機銃の弾が尽きれば抵抗手段は失われる。いくら爆装していないフェリー飛行といっても、機体操作だけの回避には限界がある。

 

笹辺「大丈夫です、必ず送り届けますから。」

 

その時である。機体下部20mm連装機関砲座からの警報が飛ばされたのは。

 

下部銃座「“機長! 洋上に不審な艦影発見! 旧海軍の巡洋艦に酷似!”」

 

笹辺「なに!?」

 

提督「どこだ!」

 

下部銃座「“距離5500、10時方向!”」

 

それを聞いた直人の反応は素早かった。即刻操縦席左側の風防ガラスから小型の双眼鏡で洋上を見渡す。

 

提督「んー・・・本当だ、いるな。」

 

笹辺「どうします?」

 

提督「待て・・・三脚マストに3本煙突、主砲は・・・艦首2基、艦橋脇片舷1基、あとは後部甲板に中心軸線上3基、短船首楼型艦首にスプーンカッターバウ――日本の5500トン級か・・・?」

 

笹辺「5500トン級軽巡ですって!?」

 

提督「間違いはないが――今どき船幽霊でもあるまいし・・・。」

 

5500トン級軽巡とは、艦これにも実装されている球磨型/長良型/川内型の計14隻の軽巡の事である。水雷戦隊旗艦として作られ速力は36ノット、14cm砲を片舷6基指向、7門の14cm砲を装備する。雷装も片舷4門の533mm連装魚雷発射管を合計4基8門装備していた。

 

また強力な司令部施設を持っており、旗艦として用いるに十分な艦艇だった。太平洋戦争時は些か旧式化していたが。

 

笹辺「どうします元帥。」

 

提督「・・・見つかってると見ていいだろうが、出来るだけ遠くへ迂回する様に飛んで置け。この際不審がられてもやむを得ん。」

 

笹辺「はい。」

 

直人はこの時気にも留めなかったが、その軽巡の船体表面には、不思議な光るライン状の文様が刻まれていた。それが、その船が何者であるかを示しているとも知らぬまま、直人は進路変更を指示した。

 

提督「燃料持つだろうな?」

 

笹辺「大丈夫、とは言い難いですな。僅かずつですが燃料漏れが・・・。」

 

提督「―――ヤバイ。」

 

笹辺「ヤバイですね。」

 

提督「言ってる場合か!!」

 

笹辺「分かってます私だって焦ってます!!」

 

表面は落ち着いていても焦る時は焦るものである。

 

提督「増援は・・・」

 

笹辺「まだ、ですね・・・。」

 

提督「・・・そういえばさっきから敵機の数減ってないか?」

 

周囲を見渡した直人は、不自然に敵の数が減った事に気付いた。

 

笹辺「30分以上戦闘機動と機銃射撃の連続でしたし、燃料不足か弾薬切れを起こして引き上げた、と見るべきでしょうか。」

 

提督「そうか、有難いものだな。」

 

そう言っている間にも、深海戦闘機は次々と機首を翻していく。

 

笹辺「それにしても、あの軽巡、何者でしょう・・・?」

 

提督「そういえば、そうだな・・・ん?」

 

直人は再び双眼鏡で先程見つけた軽巡を見やり、気付いた。

 

提督「・・・おい、あの巡洋艦、こちらに砲を向けているぞ。」

 

笹辺「じょ、冗談止して下さいよ。」

 

提督「いや、マジ。」

 

笹辺「なんですって!?」

 

その重大性に気付く笹辺大佐。

 

提督「だが5500トン級の主砲である3年式14cm砲は、対空戦闘が出来なかったはずだが・・・。」

 

笹辺「そ、そう言われれば・・・。」

 

提督「んん? 良く見えないな・・・霧でもかかっているのか・・・?」

 

洋上には霧か何かが出ているようで、相手の位置は徐々に相手の発する光でしか捕捉できなくなっていた。

 

笹辺「では今の内に離脱をしておきましょう。」

 

提督「あぁ、―――ッ!!」

 

直人が唐突に言葉を切った。

 

笹辺「ん? どうかされましたか?」

 

提督「笹辺! 回避運動!!」

 

笹辺「へ!?」

 

提督「急ぐんだ!!」

 

切羽詰まった様子で言う直人。

 

笹辺「は、はい!」

 

提督「恐らくあいつは―――」

 

直人が次の句を述べようとした正にその時、右旋回を始めていた機体左翼を、2本の光線が掠めた。

 

笹辺「・・・な、なんですか今のは!?」

 

提督「連装砲!? 5500トン級――そうか、あれは最終時の五十鈴と同じ状態だ、連装高角砲だが・・・エネルギー弾?」

 

二人は驚くしかなかった。長良型軽巡五十鈴と思われたそれが放ったのは、3年式14cm砲でも、89式12.7cm連装高角砲でも放てる訳がない光線弾だったのだ。

 

提督「分からないが、まずい事は確かだ。被害状況を!」

 

笹辺「1番エンジン破損、最大馬力は出せません。左ラダー牽引ワイヤーもやられたようです。」

 

その報告を聞かされた直人は危機感を募らせた。

 

提督「まずいな。」

 

正確には光線を放ったのは単装レーザー高角砲3基の内の2基であり、連装砲としては若干弾着点も異なったのだが、その事を知る由もないし、知るのはもう少し先の事になる。どっち道長良型にはある筈のない武装だった。

 

提督「まだ飛べるな?」

 

笹辺「大丈夫です。機体制御はまだ可能です。」

 

提督「では全速力で離脱しよう。ここは一刻も離れた方がよさそうだ。」

 

笹辺「了解。」

 

直人と笹辺大佐の乗る連山改は、足早にその場を去っていった。その間謎の巡洋艦は、不気味な沈黙を保ってそれを見送っていた。

 

19時26分、傷付いた連山改はサイパン島北793kmの洋上で、全速飛行してきた零戦隊1個中隊と無事に会合、護衛を受け帰路についた。

 

 

 

翌日彼は戦闘詳報から、艦影は長良型だが、長良型ではないと言う結論に至った。だが、一つ直人には気にかかる部分があった。

 

 

12月23日午前10時28分 食堂棟2F・大会議室

 

 

提督「あれは恐らく長良型の艦ではない。その証拠に、太平洋戦争中に長良型、ひいてはそれに酷似する艦影を持つ球磨型や川内型は、遅くとも1944年までには全艦が沈没している。」

 

大淀「はい、それが何か?」

 

提督「今この星の海洋上に、“深海棲艦が闊歩する海面を”、“単独で”航行できるような、頑強で、強力な戦闘艦は、存在しない。戦艦でもなければな。」

 

明石「あっ・・・!」

 

金剛「そうか・・・!」

 

赤城「成程・・・。」

 

飛龍「そう言われてみれば・・・。」

 

青葉「そうですね・・・。」

 

初春「・・・ふむ。」

 

直人と大淀以外に呼ばれていた6人の会議出席者は直人の言に納得した。実際、イージス艦は深海棲艦を相手に多少頑健だったものの無力だったではないか。

 

まして、“かつて沈んだ”軍艦が、今更浮いている筈はないのだ。

 

初春「では、おぬしはそれをなんだと思うのじゃ?」

 

この初春の問いに対する直人の答えは、たった一言、

 

提督「――分からん。」

 

であった。

 

初春「ふむ?」

 

青葉「分からないって―――」

 

提督「あの艦は我々の常識を外れた、未知の兵器を持っている。それに見た所、艦上には一切、“人の気配が無かった”。」

 

7人「ッ!!」

 

直人は言った。その長良級軽巡艦上には、人の姿などなかった、気配も。しかし起動に人の手を要する兵器が、ひとりでに稼働していた。

 

しかもその艦艇は、人類が開発途上と言われる類の未知の兵器を艦載し、彼の搭乗した連山改を攻撃した。

 

これが、正体不明とする何よりの証拠だった。

 

大淀「・・・もしかして・・・。」

 

金剛「ナルホド・・・。」

 

赤城「そう言う事ですね。」

 

青葉「提督。その船と転移現象、関係があるかも知れません。」

 

洞察力が高い4人が気付いた。

 

提督「やはりその結論に至ったか。私も同感だ。だが、あの船は未だ、この周辺海域に潜んでいると思われる。」

 

明石「ではどうします?」

 

明石の問いかけに、直人は応えた。その答えは、万全を期すものだった。

 

提督「・・・警戒レベルを、現行のレベル2[平時警戒態勢]から、レベル4-フェーズ2[第2種戦時警戒態勢]へ引き上げてくれ。それと全艦に対し準臨戦態勢を発令、サイパン各所の監視塔にも同様の指示を。各沿岸砲は第1級臨戦態勢を発令だ、航空部隊はいつでも出られるように。」

 

金剛・飛龍「了解!」

 

そして直人は立て続けに指示を飛ばす。

 

提督「赤城!」

 

赤城「はい!」

 

提督「全空母の母艦航空隊を実働態勢に、予定より少し早いが頼む。」

 

赤城「分かりました。」

 

赤城は実働可能な空母の全ての航空隊を含んだ空母部隊の長である。赤城にもやる事はあるのだ。

 

提督「大淀!」

 

大淀「はい!」

 

提督「横鎮及び大本営に電報を。『我未知の敵対勢力と遭遇、警戒態勢に入る』と。」

 

大淀「分かりました。」

 

この通報の理由は後述する。

 

提督「青葉!」

 

青葉「謎の艦に関する情報収集ですね? 了解です!」

 

流石青葉である。

 

提督「話が早くて助かる。初春!」

 

初春「なんじゃ?」

 

提督「訓練中の全艦に、金剛に代わってこの事を伝達、神通に訓練の一時中止を伝達。」

 

初春「了解じゃ。」

 

最早訓練どころではない事は明白である以上、中止の命令は半ば当然と言えた。

 

提督「明石!」

 

明石「全艤装最終調整、メンテも万全、提督含め全艦いつでも。」

 

提督「宜しい。では以上の事を関係各所及び全艦に布告。かかれ!!」

 

7人「了解!!」

 

直人の号令一下、7人はそれぞれの持ち場へと散っていく。

 

金剛「それで、私は何をすればいいデスカー?」

 

提督「うん。金剛には俺と共に哨戒行動に来てもらう。」

 

金剛「哨戒、ですか。」

 

その返問に対して、直人は言った。

 

提督「そうだ、敵艦の位置を、調べておきたいのでな。」

 

金剛「分かりマシタ! 腕の立つ艦娘、いくらか連れてきますネ!」

 

提督「ははは、こりゃうっかりしていた。そうだな・・・その方が良かろう。1戦交える事が無いとは言えん。」

 

直人は自分の失念に失笑しつつ、適切な判断を下した。

 

提督「あぁ青葉!」

 

青葉「はい!」

 

部屋を出ようとして資料を纏めていた青葉に直人が声をかけた。

 

提督「おとといはありがとう、レポートに貴重な情報になった。」

 

青葉「本当なら現ナマでギャラ貰う所ですよ? 司令官にだけ、ですからね?」

 

提督「フフッ、あぁ。感謝しているとも。」

 

青葉は22日、つまりこの前日提出したレポートを作成中に偶々司令部に寄港、遠距離からではあるが各地で頻発する現象を詳細に捉え、その写真を持ち寄ったのだ。

 

青葉「ということで、いつもの!」

 

提督「はぁ~・・・言うと思った。ほれ。」

 

そう言って直人は懐から、甘味処『間宮』のVIP券を差し出した。言い換えればこれが直人に対する青葉のVIP対応と言えなくはない。

 

青葉「毎度あり~♪」

 

青葉はそれを自身の懐に収めると、纏めた資料を持って会議室を後にしたのであった。

 

提督「全く、どうしたもんか。」

 

大淀「ですがまぁ、青葉さんの情報はいつも正確ですから。」

 

提督「曰く『正確な情報を届ける事こそ、私のポリシーなんです!』だそうだ。」

 

と直人は青葉の口調をひとしきり真似て見せた後で肩を竦めた。

 

大淀「成程・・・。」

 

大淀はその様子を見て微笑みながら納得したのだった。

 

 

 

その30分後、金剛が選抜した3隻の艦娘を従えて、直人の艤装紀伊と金剛は、マリアナ北方方面の哨戒に出た。

 

 

11時21分 サイパン北岸沖180km

 

 

夕立「ふんふふんふ~ん♪」

 

何があったか妙にご機嫌な夕立である。

 

時雨「ご機嫌だね、夕立・・・。」

 

夕立「だって提督さんと“散歩”するのこれが初めてっぽいよ?」

 

夕立の言う散歩とは、サイパン周辺海域の哨戒行動の事である。

 

時雨「あー・・・ま、そうだけど。」

 

その言い様に何となく納得する時雨ではあったが。

 

大井「まぁ、薄気味悪いのがいてもゆっくり寝られないし、仕方ないから付き合ってあげるけどね。」

 

提督「仕方ないからってどういう事よ・・・。」

 

と呆れたように言う直人に大井はこう言った。

 

大井「命令無くして私達は動けないという事よ。」

 

提督「どう解釈すりゃそうなる。」

 

こじつけもいいところな大井であった。

 

金剛「アハハハ・・・。」

 

随分とまぁ賑やかだ事。腕が経つ艦娘、という条件で金剛の中で理に適う3人がよりによってこの3人であった。

 

提督「というか散歩ってなぁ夕立、哨戒行動は遊びじゃないぞ?」

 

夕立「それはそうっぽい。でも少し退屈っぽい!」

 

分かっててなお散歩言いやがるかこやつめ。と直人は心中で夕立の逞しさ(?)に舌を巻いた。

 

提督「退屈なのはしょうがないにしてももう少し緊張感をだな・・・。」

 

金剛「まぁ、サイパンも平和ですし、緊張感が無くなっちゃうのは一種仕方ないと思いマース。」

 

提督「やれやれ、準備期間が裏目に出た、か。」

 

準備期間と称して平穏に過ごしてきたツケを意外な形で払わされる羽目になりそうだ、と思い直人は肩を竦めた。

 

提督「まぁいいさ。さてと、時雨、先行して索敵を。」

 

時雨「あ、了解!」

 

時雨がまず直人の指示を受けて速力を上げて前進していく。

 

提督「俺が前を見る、夕立は後方に位置して後ろを見張ってくれ。大井は左を、金剛は右だ。」

 

3人「了解!」

 

直人の指示で艦娘達は陣形を組む。上から見ると4人が丁度T字を描く陣形を取っている、名付けるならば梯形陣と言ったところであろう。

 

単横陣をアレンジしたもので、横陣の後ろに1隻を後方警戒として付ける事で、前方と左右の索敵に集中しやすくする目的がある。ただデメリットとして、陣形形状の関係上、回頭する際に陣形を崩しやすい欠点を併せ持つ。

 

また火力の集中が難しい事も欠点の一つとして挙げられるだろう。最も高い火力を出せる左右舷には味方がいるのだから。かといって前方に艦隊の最大火力を発揮する事も、この陣形では難しい。

 

提督「どんな小さなことでも報告しろ。ついでに海鳥を確認できるといいかね、生態系が元に戻って来てるのかどうかという指針になる。」

 

金剛「海鳥、デスカー・・・了解!」

 

サイパン島にはこの時期ある程度植物が自生してきていたと、後年この艦隊に属したある艦娘は言う。しかしながら生物の気配は少ない、それ故の配慮であった。

 

時雨「“提督! 何か見つけたよ、軽巡みたいだ!”」

 

提督「でかした!! 急行するからそのまま接触を―――」

 

その瞬間、時雨から張り詰めた声で通信を送ってきた。

 

時雨「“提督! その軽巡が発砲!”」

 

その通信からは、戦闘音と思われるノイズが入ってきた。

 

提督「やはりそうなるのか、急ぎ後退! 合流せよ!!」

 

時雨「“り、了解!”」

 

時雨も相当慌てているらしく、動揺が声の節々から窺い知れた。

 

提督「陣形再編、単縦陣! 我に続け!」

 

3人「はい!!」

 

直人も麾下戦力をまとめて現場へと急行した。

 

 

 

11時41分 サイパン北方沖115km

 

 

全速で急行した直人は、サイパンの北115kmの地点で時雨と合流した。

 

提督「時雨!」

 

時雨「提督!」

 

提督「大丈夫か? ボロボロじゃないか。」

 

時雨の服は、あちこち鋭い刃物で切られたかのような状態になっていた。

 

時雨「何とか、大丈夫だよ。それより、あれは提督の言う通り、長良型とは全然違う。」

 

提督「そうか・・・。」

 

大井「敵艦視認! 11時半の方向距離2万9000!」

 

提督「っ―――!」

 

大井の通報で直人も“敵”の存在を認識した。

 

提督「では、敵の能力を、今一度精査しておこう。」

 

時雨「待って! あの船の主砲は―――――」

 

提督「安心しろ、奥の手はちゃんとあるのさ。」

 

時雨「っ・・・?」

 

時雨は“奥の手”という言葉に首を傾げたが、直人は兎にも角にも時雨の制止を振り切り、戦闘へと入った。

 

提督「金剛! 弾着観測射撃!」

 

金剛「了解デース! 観測機、レッツゴー!!」

 

金剛にはこの時、3式弾と高射装置による対空射撃装備を外させ、代わって22号電探と零式水観による遠距離砲撃戦装備を装備させていた。

 

金剛「レディー・・・ファイアァーー!!」

 

 

ズドドドォォォォォーーーーーー・・・ン

 

 

提督「大井! 40射線の一斉雷撃を食わせてやれ!!」

 

大井「両舷分!?」

 

直人の思わぬ命令に思わず聞き返す大井。

 

提督「そうだ、やってくれ。」

 

大井「・・・了解!」

 

紀伊直人に二言無し、それを悟った大井は素直に従った。

 

提督「・・・さぁ、どうだ?」

 

単一の艦艇にこれだけの攻撃を見舞えば、普通はひとたまりもない。そう直人は考えていた。

 

時雨「駄目だ! そんな事をしてもあの船には・・・!!」

 

提督「なに・・・!?」

 

夕立「提督さん! あれなに!?」

 

夕立が驚いて指をさす。

 

提督「ん?」

 

指をさした方を見た直人は驚いた。軽巡洋艦から数十の噴射推進弾――――この場合ミサイルという表現が正しい――――が次々と放たれていたのだ。

 

提督「な、ミサイルだと!?」

 

金剛「えぇっ!?」

 

夕立「敵艦、船体表面に何か展開してるっぽい!」

 

提督「ぬっ!?」

 

直人が目を凝らすと、確かに赤い光の帯が艦首から後方へと流れるように走っていた。

 

大井「敵噴進弾着水! これは・・・水中を走ってる!?」

 

提督「何のつもりだ・・・?」

 

金剛「着弾まで、3、2・・・!?」

 

 

ドオオオォォォォォォォーー・・・ン

 

 

金剛の砲弾は的確に敵を捉えた“様に見えた”。だが―――

 

提督「なにっ!?」

 

その有様に直人は目を剥いた。

 

大井「提督!」

 

 

ドドドドドド・・・

 

 

提督「な、魚雷が・・・!!」

 

大井の放った魚雷が次々と敵を捉える事無く爆発する。同じ頃艦娘達も長良の放った魚雷を躱す。

 

金剛「そんナ―――戦艦級艦娘の艦砲が・・・ワタシの46cm砲が・・・!?」

 

金剛の動揺も大きかった。その砲撃もまた敵艦に直撃せず空中で爆発したように見えたのだから。

 

提督「なんだあいつは・・・!」

 

時雨「僕も砲雷撃を加えたけどダメだったんだ。あれと同じように防がれて、更に光線砲で射掛けられたんだ。」

 

提督「・・・すまん、報告を聞いていればよかった。」

 

時雨「いいんだ、もうしょうがない。」

 

後悔先に立たずとは、正にこのことだった。

 

提督「さて、どうやって退却するかだな。」

 

 

――――F武装、バイパス接続――――

 

 

金剛「でもどうするんデース!?」

 

提督「殿は俺がやろう。全艦急速後退、30ノット全速でな。」

 

 

――――サブバレット1・2、発動――――

 

 

金剛「相っ変わらず殿なんデスネ・・・。」

 

大井「私達じゃできないもの。」

 

提督「そう言う事だ、上手く凌ぐから急げよ。」

 

 

――――F武装、限定展開!――――

 

 

時雨「攻撃、来るよ!」

 

提督「させん。」ヒュッ

 

時雨の攻撃予測と前後して敵が発砲、それを見切った直人が即座に射線上に飛んだ。

 

金剛「!!」

 

大井「!!」

 

夕立「えっ!?」

 

 

ドオオォォォォーーーーーー・・・ン

 

 

直人に敵弾が着弾した――――――。

 

夕立「提督さん!?」

 

金剛「私達を庇って・・・!?」

 

 

ゴオオォォォ・・・

 

 

提督「―――庇った、という言葉には語弊がある。」

 

4人「!!」

 

晴れてきた黒煙の中から直人は言う。

 

提督「お前らを、“護った”のさ。」

 

直人は、無傷だった。その正面、直人が掌をかざす先には、青白い閃光を放つ紺色の光の幕が張られていた。

 

そしてその左目は、紫の光を、オーラの様に放っていた。

 

金剛「提督、ソレ・・・」

 

提督「気にするな、いいから逃げろ。」

 

大井「金剛!」

 

直人が事もなげに言い、大井が返事を促す。

 

金剛「―――了解。」

 

金剛も決断し、一目散に来たルートを戻り始めた。

 

提督「―――フン、稼働率11%だったが、さほどでもないな。」

 

金剛達が逃げおおせてから、直人はひとりごちた。

 

そしてその言葉に反応したように、目の前の巡洋艦は猛攻を加えてきた。

 

 

ズドドドドドドドドドドド・・・

 

 

提督「全く、無駄だと言うのに。」

 

直人はそう涼しく言いながらもデータを集めていた。明石からの要請ではあったが、直人もそのデータは欲しかったのだ。

 

しかし、その攻撃終焉の刹那、直人を驚嘆させる一幕があった。

 

ズドォォォォーーーー・・・ン

 

それは、1発のミサイルがバリアに着弾した時だった。

 

 

ヒュッ・・・ザバアァァ・・・ン

 

 

提督「・・・穴をあけた、だと?」

 

見るとその着弾点には30cmほどの穴が開いていた。直人は着弾した傍から補修と修復を重ねた為、本来破られる筈がないものだったが、爆発し機能停止した弾頭後部だけとはいえ突入を許したのだ。

 

提督「補修が間に合っていない訳がない・・・だがこのバリアを蝕まれる様なこの感じ、なんだ・・・?」

 

しかしともあれ戦闘はそこで集結した。長良級と推定される敵軽巡洋艦が、これ以上は無駄だと判断したのか撤退した為であった。

 

午前12時05分、長良が退くのに合わせ、直人も自陣へと退いたのだった。

 

 

 

12月23日13時19分 造兵廠

 

 

提督「明石、戻った。」

 

明石「あ、お帰りなさい!」

 

13時19分、帰投した直人はその足で明石の元を訪ねた。

 

明石「データ、バッチリ取って来てくれましたよね?」

 

提督「当然。」

 

胸を張ってそう言う直人、これは掛け値無しの事実だった。

 

明石「ではあとで拝見しますねー。」

 

提督「うん、解析頼むよ。」

 

明石「頼まれます、ですから今日はお休みになって下さいね?」

 

提督「・・・!」

 

しかし明石は、直人が負の霊力を使った事も洞察していた。

 

明石「負の霊力を人間が使えば、その心身に多大な負担を掛けます。大方、頭痛がされているでしょう?」

 

提督「・・・全く、お見通しか。」

 

明石「当然です。」

 

流石に明石に看破されたとあっては、直人も折れた。

 

提督「・・・フッ。分かった分かった、休むよ。」

 

明石「はい、お休み下さい。」ニコリ

 

直人は明石の一言を合図に身を翻し、造兵廠を後にしたのだった。

 

 

 

ザッザッザッザッ・・・

 

 

提督(・・・防壁が蝕まれる・・・あの現象は、一体・・・?)

 

直人は造兵廠から司令部に戻る途中、ずっとその事を考え続けていた・・・。

 

 

 

12月23日15時26分 艦娘寮・摩耶の部屋

 

 

摩耶「~♪」

 

日付を見ればお察しの通り、この日の次の日は本来クリスマスイブである。

 

しかしこの日の直人帰還後、直人は大淀に向け、「パーティーはやれない、やらないのではなくやれない」と明言したことが、1時間待たず既に全艦娘に知れていた。

 

諦観と憤慨と不満の入り混じる艦娘達、その中でもその様な面に囚われない数少ない例外がいた。

 

その一人がこともあろうに摩耶であった。

 

摩耶(提督はパーティーやらねぇって言ったらしいけど、その実こっそりプレゼントを持って来てくれるに違いねぇ。きっとそうだ・・・♪)

 

 

 

で、実のところはというと・・・

 

 

~同刻・提督執務室~

 

提督「プレゼントはくれてやりたい、その思いはある。」

 

大淀「あるんですか、やはり。」

 

そう、そうしたいのは山々だった。

 

提督「でも今は経費がカッツカツでな・・・。」

 

大淀「給金から捻出すれば宜しいのでは?」

 

提督「提督の給金安いよ~? マジで。」

 

金剛「そうなんですか?」

 

思わずすらすらと聞いたのは他ならぬ金剛である。帝国海軍の提督は結構それなりな額の収入があった為意外に思ったからであった。

 

提督「俺らに給付される給料は、施設維持費と軍備の維持増強に必要と思われる分だけ、あとはホント爪に火を点すレベルしか余らない。」

 

金剛「oh・・・。」

 

思わず顔を覆う金剛である。

 

大淀「それじゃぁお給料って・・・」

 

提督「そう、ただの司令部の維持管理費支給さ。階級が上がればそこそこ良くなるけど、元帥でもお財布が寒いのは変わらないね、商売にしちゃ効率が悪いのさ。」

 

大淀「・・・でも提督、元帥ですよね?」

 

提督「うちの場合島の要塞化に必要な戦力補填の費用、一部が俺の財布から出てるんだぜ? 他の費用が艦隊運用をしない分余った経費で出されてるから着服する間もないしな。」

 

大淀「そ、そうでした・・・。」

 

そう、他ならぬ元帥が言うんだから説得力は段違いだった。

 

 

 

提督(摩耶、ごらん。君へのクリスマスプレゼント、持って来たよ。)

 

摩耶(て、提督!? まさか、アタシの為に・・・!?)

 

提督(あぁ、勿論。さぁ受け取ってくれ。)

 

・・・

 

・・

 

 

摩耶「ヘヘ、ウヘヘヘ・・・」

 

そんな直人の苦労も知らず気楽なものである。

 

 

ガチャッ

 

 

愛宕「パンパカパ~ン!」

 

摩耶「ふえっ!?///」

 

そんな妄想の最中に摩耶の部屋へとやって来たのは愛宕さん。

 

愛宕「ん? どうかしたの?」

 

摩耶「いやいや、ノックぐらいしてくれよ!」

 

愛宕「あらごめん、つい♪」

 

故意に、の間違いである(確信)

 

摩耶「ったく・・・で、何の用だよ?」

 

愛宕「間宮さんの所に行かないかな~、って思って誘いに来たのよ、どうする?」

 

摩耶「勿論行くぜ!」

 

愛宕「そう来なくっちゃ♪」

 

間宮さん、この時期でも大人気である。常夏のサイパンだけあってこの時期でもアイスは出しているのである。

 

摩耶は愛宕と一緒に、甘味処へと向かったのであった。

 

 

 

余談ではあるが、直人がパーティーをやらない、という事で、23日から24日にかけて甘味処間宮には喧騒が絶えなかったと言う。

 

これは艦娘達がそれぞれに仲間を集めて宴会になった為であり、鳳翔も食堂のカウンターで居酒屋の様なものを開いた為、司令部中が宴会騒ぎとなったことが要因となっていた。

 

このことを察知した直人も、流石に自分の所業故であった為に静止する訳に行かず、後日平時2割増しの出費に頭痛を再発したと言う。

 

 

 

12月24日早暁、それは、前触れも無く訪れた。

 

 

~提督私室~

 

提督「く~・・・」zzz

 

その時直人は、自室で睡眠をとっていた。

 

提督「・・・ん・・・。」

 

しかし直人は急激に、その深い眠りから呼び戻されようとしていた。

 

提督「ん・・・ううう・・・朝か・・・?」

 

直人は目を開き、ベッド脇にある目覚まし時計を見た。

 

提督「・・・あれ、まだ起床時間に1時間早いじゃないか・・・?」

 

時計は午前4時27分を指していた。目覚ましは午前5時半にセットしてある。

 

提督「じゃぁ、なんでこんなに明るいんだ・・・?」

 

サイパンではこの時間は普通、日の出前のぼんやりとした明かりの中にある筈だが、この日は曇り後雨という気象予報が伝えられており、その明るささえない筈であった。

 

提督「・・・!」

 

直人は司令部沖を望む自室の窓に振り向き、気付いた。

 

窓の外から、強力な光が差し込んでいたのだ。

 

提督「七色の光・・・ただ事では、無い!」バッ

 

言うが早いか直人の行動は素早かった。

 

純白の肘丈袖Tシャツと、同じく純白で膝丈の半ズボンという寝間着の上に、とにかく目についた第2種軍服を慌てて着込み、軍帽を被り、極光・希光の二振りの霊力刀を帯刀し、部屋を飛び出したのだった。

 

 

 

12月24日4時32分 司令部裏ドック

 

 

提督「ハァ! ハァ! ハァ!・・・」

 

大淀「あ、提督!」

 

息を切らして司令部裏の停泊用ドックに来ると、大淀と鳳翔、局長ら技術局の面々と、明石や金剛と言った艦隊の幹部級というべき艦娘達が既に駆けつけていた。

 

提督「あ、あぁ大淀。金剛達も来てたのか、おはよう。」

 

大淀「あ、おはようございます。」

 

金剛「グッドモーニーング!!」

 

提督「それでこの霧はなんだ? サイパンじゃ普通発生しない筈だが?」

 

サイパンは昼と夜でさして体感気温が変動する気候ではない。夜でも暑くなく寒くも無い程度の気温がある。

 

更に言えば11月から3月にかけては、サイパンを含む北マリアナ諸島は乾季である為降雨量が目に見えて減る事から、湿度が極度に上がる可能性は割合低いと見ていい。霧は言うなれば地表に雲が出来る現象の為、サイパンでは靄(もや)はあっても霧がある事は珍しいと言えるのだ。

 

大淀「何か普通でない事が起こっているのです、提督。」

 

局長「ソウダナ、イイ着眼点ダガ、私ニモ分カランノダヨ。」

 

荒潮「珍しい事もあったものねぇ。」

 

提督「・・・本当にそうだな。」

 

赤城「提督・・・この現象はもしや、報告のあった転移現象では?」

 

提督「なに!?」

 

その推測に直人は驚いた。

 

提督「しかし・・・あの現象はアリューシャン列島線と千島列島、南西方面の諸海域でしか観測されてない筈で、台湾沖で観測された事もあるがそれは例外ケースとされてた筈だぞ。」

 

多聞「だが元帥。だとすれば説明がつくのでは、無いかね?」

 

飛龍「多聞丸・・・?」

 

提督「・・・山口中将の、仰る通りではありますが・・・。」

 

<ところで何で帯刀しているの?(雷)

 

<何があるか分からんだろうが。

 

<ふふふ、司令官ったら、心配性ねぇ~。(如月)

 

<万が一という事もあろう。

 

<サモアロウナ。

 

<そうね。(ワール)

 

そんなやり取りが交わされている最中にも、“ソレ”は確実に、彼らの立つ埠頭に近づいていた。

 

 

 

???「・・・霧が濃いな・・・イオナ、ここがどこだか分かるか?」

 

イオナ、と呼ばれた少女はその問いかけに答えた。

 

イオナ「海底地形のデータから、マリアナ諸島・サイパン島東方10km地点と推定。でもデータと少し、海底の地形が違うみたい・・・。」

 

???「サイパン沖だって―――!? 俺達は熊本沖にいたはずなのに・・・。」

 

イオナの答えに、黒いスーツを着た青年は驚いた。

 

イオナ「でも、艦正面10km付近に、島と思われる小さな陸地の存在も確認している。少なくとも、どこかの島の近くにいる事は確か。」

 

???「そうか・・・他に変わった事はあるか?」

 

黒スーツの青年はイオナに聞いた。

 

イオナ「・・・なんでだろう、日付が、さっきまでと違う・・・。」

 

???「日付が違う? どういう事だ、イオナ?」

 

イオナ「さっきまでは、2056年だった。なのに今の日付は、2052年12月24日。」

 

???「“4年前!? そんな馬鹿な!?”」

 

艦橋の中から通信を入れてきたのはこの艦の火器管制担当。

 

イオナ「でも、今入ってくる通信波のデータを解析しても、日付が合致する。」

 

???「ふむ・・・他に、何か分かるか?」

 

イオナ「ん・・・前方の陸地に、人工物あり、ヒトと思われる生体反応も検知した。それと前方の陸地は、何かの火器で要塞化されているみたい。」

 

???「僧、どうする?」

 

黒スーツの青年が通信で声をかけたのはこの艦の副長、織部(おりべ) (そう)である。

 

織部「“人がいると言うのであれば、取り敢えず、今の状況を分析する為にも、接触を試みるのが妥当かと思われます。”」

 

???「・・・分かった、コンタクトを取ろう。イオナ、艦をサイパン島へ向けてくれ。」

 

一方の直人達は、大淀が居座る城であり戦場でもある無線室――――最もこの頃になるとサイパン要塞戦闘指令室に変貌していたが――――に入り、対水上レーダーを監視していた。

 

大淀「サイパン東方沖10km付近、こちらに向かう未確認反応を探知!」

 

提督「敵か?」

 

大淀「いえ、戦闘行動なら既に戦端が開かれているかと。」

 

提督「・・・それもそうだが、忍び寄るつもりであることも考えられる。」

 

直人は攻撃を行うに関しては慎重論を唱えたが、大淀がそこに一つ懸念を差し挟んだ。

 

大淀「しかし、火器管制レーダーではなく捜索用レーダーですので、火器管制は別操作になりますが・・・?」

 

つまり火器管制レーダーを別個に操作して攻撃態勢を整えるまでに多少時間を要する、という事である。

 

提督「それもそうだがとにかく様子を見る。斥候部隊を1戦隊送ろう。」

 

金剛「それがいいと思いマース!」

 

提督「うん。第2戦隊に、第6及び第21駆逐隊を付けて斥候に送ってくれ。」

 

金剛「アラ・・・? てっきりワタシ達第3戦隊かと思ってたんデスガ・・・」^^;

 

意外そうに言う金剛だが直人にはちゃんと理由があった。

 

提督「第3戦隊は司令部防衛の要でもある。もし仮に戦う事になったとして、全滅したら目も当てられんからな。今回は、後詰めで控えて貰おう。」

 

金剛「了解デース・・・。」

 

その会話の横で、「第2戦隊だったらいいのか」と喉元までせり上がってきた飛龍と大淀であった。実際に直人が考えていたのは、『第3戦隊を後詰めにすれば、何かあっても急行できる』という点だったが。

 

 

 

12月24日4時48分 司令部前水域

 

 

扶桑「第2戦隊、出撃!」

 

響「第6駆逐隊、出るよ。」

 

初春「第21駆逐隊、出撃じゃ!」

 

提督「気を付けてなー。」

 

埠頭で直人が見送る中、第2戦隊の戦艦2・航戦2と第6・第21駆逐隊メンバー3隻ずつ、計10隻の小集団が、沖合に出動した。

 

初春「霧がまだ濃いのう。」

 

響「だね、キスカ島の時を思い出すな。衝突に気を付けてよ、電。」

 

電「わ、分かってるのです///」

 

深雪との衝突前科有りの電ちゃん。心配されるのも当然と言えば当然だろうか。

 

伊勢「一体なんだろうね?」

 

山城「さぁ、なんなんでしょう?」

 

若葉「なにかいる、とだけ言われたが・・・ふあぁ~・・・。」

 

因みに大半が寝ているところを叩き起こされた面子である。

 

雷「何かがいるのは間違いないみたいね。レーダーにも映ってたって言うし。」

 

子日「なんだろうねぇ~! 楽しみだなぁ~♪」

 

9人「・・・。」

 

・・・一人だけ雰囲気にそぐわない艦娘がいるのは気にしちゃいけない。

 

 

 

12月24日4時55分 サイパン島東方5km付近

 

 

横鎮近衛艦隊の斥候部隊をイオナが捉えたのは、午前4時55分の事だった。

 

イオナ「前方から、生体反応接近。距離、1800。」

 

???「生体反応だと? 映像、出してくれ。」

 

黒スーツの青年がそう言うと、ブリッジのメインスクリーンに、艦前方の映像が出た。しかし霧で何も見えなかった。

 

???「霧が深いな。イオナ、赤外線映像を重ねてくれ。」

 

イオナ「分かった。」

 

スクリーンは赤外線映像に切り替わる。すると10人前後の人の様なものを捉えた。

 

織部「・・・水面を人が歩いている、ようには見えますが・・・。」

 

「となると、霧のメンタルモデルか?」

 

???「杏平の言いたい事も分かるが、こんなところにメンタルモデルが10人もいると思うか?」

 

そう言われると、火器管制担当の橿原(かしはら) 杏平(きょうへい)は納得した。

 

杏平「ま、流石にねぇな。」

 

イオナ「でも、この生体反応は、サイパン島から来ている。さっき同じような反応を、サイパン島から感知した。」

 

???「・・・何者だろうか。」

 

イオナ「それにさっきから、捜索用レーダーの電波をキャッチしている、前方の生体反応も武装してるみたい。」

 

???「出迎えにしては、少々きついな。探知したから、警戒部隊を送って来た、という所か。」

 

イオナ「多分・・・。」

 

???「・・・なら、接触すれば、その部隊の長に会えるかもしれない。」

 

杏平「・・・艦長、マジで言ってる?」

 

???「あぁ、勿論。」

 

そう言うと黒スーツの青年は、甲板へと出たのである。

 

 

 

1分後、斥候部隊側も洋上を微速で進む艦影を、距離1500で視認した。

 

霧の中故に黒い影だけだったが、扶桑たちの斥候部隊は、確かにその大きな艦影を捉えていた。

 

子日「すっご~い・・・。」

 

扶桑「これは・・・。」

 

伊勢「この艦影、見覚えが・・・。」

 

日向「私もだ。」

 

響「私はないな・・・。」

 

山城「私も無いです・・・でも・・・潜水艦?」

 

雷「あの青いラインは何なのかしら・・・?」

 

初春「用心に越した事は無いかの。」

 

若葉「そうだな。」

 

艦娘達の心境は、好奇心が2割、疑念が2割、警戒が5割、その他1割であった。

 

扶桑「各艦、慎重に接近して。」

 

9人「了解。」

 

旗艦である扶桑が指示を出し、若干の間隔を開け、互いを認識できるようにしつつ接近した。

 

 

 

12月24日5時01分

 

 

伊勢「お、大きい・・・。」

 

伊勢は、所属不明の潜水艦から40mの位置にまで接近していた。そして、その威容に感嘆とし、自分の推測に間違いが無かったのを確認した。

 

伊勢「伊四〇〇型潜水艦と瓜二つだね・・・。」

 

日向「“あぁ、構成素材が青い点が、伊四〇〇型との相似点だろう。”」

 

???「良い観察眼をしているな。」

 

伊勢「!」バッ

 

伊勢が声のした方を見上げると、艦首の甲板上に立つ黒スーツの青年がいた。

 

日向「“どうした?”」

 

伊勢「人がいる。」

 

日向「“何? すぐそっちに行く。”」

 

伊勢「うん―――。貴方の・・・いえ、貴官の氏名と所属を、答えて貰えるかしら?」

 

伊勢は警戒しながらそう聞いた。

 

群像「俺の名前は千早(ちはや) 群像(ぐんぞう)、蒼き鋼のリーダーで、霧の潜水艦イ-401の艦長をしている。」

 

伊勢「蒼き鋼? 霧の潜水艦・・・?」

 

伊勢にとって初めて聞く言葉だった。

 

伊勢「―――ひとまず、ここにいる理由を、聞かせて欲しい。」

 

群像「我々も、なぜ我々がここにいるのか・・・正確にはなぜここへ“飛ばされてしまった”のか、分からないんだ。」

 

伊勢「飛ばされた?」(成程、この船は、例の転移現象、という奴の被害に遭った船、か。)

 

群像「君達は、何者だ?」

 

伊勢「―――それをお話しするには、基地まで同行してもらいかつ、外部に漏らさぬ事を確約してもらう必要がある。私達の所属は極秘事項なので、御承知願いたい。」

 

それを聞いた群像は、少し間を置いて言った。

 

群像「―――分かった。我々も自分達の置かれている状況が分からないままでは、動く事もままならない、君達についていこう。出来れば君達の部隊の司令官にお会いしたいのだが。」

 

伊勢「提督に・・・? 少し待ってくれ。」

 

 

 

提督「何? 所属不明の潜水艦の入港許可と、艦長の面会要請だって?」

 

何を言っているんだと言わんばかり・・・という訳でもなかったがそれでも常軌を逸した話に直人は思わず上ずった声で聞き返していた。

 

伊勢「“あぁ、艦長は“千早群像”と名乗っている。心当たりはないか?”」

 

提督「いや、ない―――とにかく会おう。入港許可を出してやれ。」

 

伊勢「“了解!”」

 

直人は通信が切れるのを確認すると大淀に振り向く。

 

提督「どう思う?」

 

大淀「現段階では、なんとも・・・。」

 

天龍「提督!」

 

その時、後ろから天龍と龍田が、オレンジのシャツに白衣という出で立ちの女を連れて―――連行して―――やってきたのだった。


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